普通、音楽というのは緩急があって、緊張感を楽しむところと解放感に浸るところの連続であることがおおいのだけれど、この曲は最初から最後まで緊張感しかない。パーカッションをやっていた人間として、スネア・ドラムの苦悩が直に伝わってくる曲でもある。
録音数も相当あって、自分がちゃんと聴いたのは、カラヤン/ベルリンフィル盤やムーティ/ウィーンフィル盤、マゼール/N響盤、そしてタイトルのゲルギエフ/ロンドン響盤くらいのものだけれど、このゲルギエフ/ロンドン響盤は、ほかを大きく引き離して圧倒する名演だと思う。この作品の理想形と言っても過言ではない。誉め言葉を並べるよりも、まずは一度見てほしい。
最初から最後までずっと統制がとれていて、誰も自分勝手に乱すことがない。ppppからffffまでバランス良くセンス良く仕上がっている。ゲルギエフのすごさはもちろんだけれど、こういう紳士な演奏はイギリスの交響楽団ならではなのかもしれない(蛇足だけれど、ヘンデルの「王宮の花火の音楽」のマッケラス/イギリス室内管弦楽団盤も同じような理由で好きだ)。
クラシック好きには収集家が少なくないと思う。自分もそのうちの一人だ(と自負している)。ベートーヴェンの交響曲第九番『合唱付き』ばかりを300パターンくらい集めた人もいるらしいが、比べることで、とっておきの一枚がわかるようになる。同じ演奏なんだけれど、演奏家によってこんなにも印象が変わるのかというのを思い知らされるのは本当に楽しい。
だから、ラヴェルの「ボレロ」を聴く人(曲を知っている人は多いと思うので)は、上に挙げたものでもいいし、そうでなくてもいいので、ぜひ数種類聴いてほしい。有名な指揮者であれば必ずと言っていいほど録音が残っていると思う。なお、ゲルギエフ盤はApple Musicでも映像で見られます(2017年5月現在)。
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