音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

2010年09月19日
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テーマ: Jazz(1967)
カテゴリ: ジャズ




 相応に有名なミュージシャンにはふつう“代表盤”なるものがある。ディスクガイド本などの類にはそういった盤が掲載されるのが一般的である。そうした代表盤はたいていが名盤とイコールで結ばれるが、その逆は必ずしもそうではない。つまり、優れた作品でありつつも、そのミュージシャンのキャリアを代表するとは言えない作品も存在するわけだ。 ブルース・スプリングスティーン をこれから聴く人(通常はアメリカン・ロックを期待している)に、いきなりアコースティックの弾き語り盤を勧めるのは気が引ける。 レッド・ツェッペリン の代表盤はと訊かれてトラッド・アコースティック色の強い『レッド・ツェッペリンIII』を勧める人ももあまりいないだろう。パット・メセニーを聴こうかという時に、いきなりジミー・レイニーと2人だけの演奏盤を聴かされたらどうなるか。同じような理由で、セロニアス・モンクは独演ソロ盤(例えば こちら )を最初に聴くべきではないと思うし、クリフォード・ブラウンのストリングス盤もまた同様と思う(後者の代表作云々については、 『クリフォード・ブラウン・ウィズ・ストリングス』 の項の“ラーメンとうどん”の話もぜひご参照いただきたい)。ロックやらジャズやらごた混ぜの例になってしまったが、今回はそういう系統の盤なのでお許しいただき、本題に入りたい。

 ジャズ・ピアニストの大西順子が1998年に発売したアルバムが本作『フラジャイル(Fragile)』である。上の見出しに挙げたように、初めて大西順子を聴くという人や、大西順子ってどんな音楽をやってる人なの?と思っているような人には絶対に勧めようとは思わない。ミュージシャンを一つの枠に押し込めるつもりはないが、今まで彼女がやってきたことの全体像を考えると、これが代表作とは間違っても言えないからだ。

 しかし、典型的な盤でないのと、聴き手が興味深い作品であったり、好盤であったりすると思うかどうかは全く別問題である。大西自身が聴いて育ってきた“ポップ”を音楽ジャンルの垣根なく取り入れ、本人曰く“いつもだと、自分で聴くのは1~2週間で飽きたりするけど、今回は流しっぱなしにしても気にならない”出来栄えに仕上がったとのこと。演奏曲目には、ライチャス・ブラザーズが歌っていた3.「ユーヴ・ロスト・ザット・ラヴィン・フィーリン(ふられた気持ち)」、ジミ・ヘンドリクスで有名な5.「ヘイ・ジョー」、 クリーム の7.「サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ」といった曲が含まれている。さらに、グルーヴィーな4.「コンペアード・トゥ・ホワット」は、PEACE(ピース)なるクレジットの人物のヴォーカル入りである。自作曲も含むが、すべての収録曲を結ぶのは、ジャンルやリズムというよりは、ジャズらしい“さあやってみよう”的自由さと集中力である。

 演りたい放題に演る。6.「ユーロジア・ヴァリエーション」(アルバム『クルージン』所収曲の再演)が収められているのもこうした流れの中でのことだろう。自由奔放な雰囲気は、7.のようなジャム的演奏に端的に表わされている。ベースが以前から一緒に演奏をしてきたレジナルド・ヴィールで、彼がエレクトリック・ベースを溌剌と弾いているのも面白い。さらに、大西の思いつきでドラマーの応援を呼んできてツイン・ブラシをやってみたなどという実験も自由に楽しみながらやったことの表れだろう

 このアルバムに先立ってブルーノートでのライブ演奏が2週間ほど行われているが、多くの収録曲はそこで演奏され熟成されたもので、その時のエネルギーがそのままアルバム化された。興味深いのはこの年、大西自身が前厄だったとのエピソード。当初は動かずおとなしくしてようとしたが、どうせ風向きがよくないのなら思い切って何かやってしまえと発想を変えたそうだ。自由奔放を地で行く彼女らしい発想転換ではないだろうか。

 とはいえ、本盤の後、大西順子は表舞台に出なくなり、次のリーダー作が発表されたのは2008年( 『楽興の時』 )だった。本盤が既に何らかの心境の変化を反映していたのだろうと思われるが、日本ジャズ界での役割が重たかっただけに、自由にさせてもらえなかったのだろうかなどと、余計な想像をしたりする。彼女の1ファンとしては、自由にやる姿に魅力を感じるのだけれど。



[収録曲]

1. Phaethon
2. Complexions
3. You’ve Lost That Lovin’ Feelin’
4. Compared To What
5. Hey Joe
6. Eulogia Variation
7. Sunshine of Your Love


[パーソネル]

大西順子 (p, key)
Reginald Veal (b, elb)
Karriem Riggins (ds)
日野元彦 (ds: 2, 4)
本田珠也 (ds: 5, 7)
PEACE (v: 4)

録音: 1998年7月



関連過去記事:

大西順子 『ヴィレッジ・ヴァンガードの大西順子』
大西順子 『楽興の時(Musical Moments)』












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Last updated  2013年07月11日 06時20分27秒
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