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2007.05.08
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カテゴリ: カテゴリ未分類
(8)置き去りにされた幼子たち 3

祖母の不在を知り、近くのスーパーでサルや九官鳥たちと
暇つぶしをした後、ようやく会えた祖母は、憐れみの
表情を浮かべながら私に言った。
「旅館で働いてるわ。行くか?」
「行く。どこ?」
「八百屋の角を駅と反対側、市場の方に行くやろ、
市場を通り過ぎてしばらく歩くと、大きい道に出る前の
右側にあるわ。〈桃の木〉いうい旅館や」
「わかった。行ってくるわ」
「気いつけていきや」
「うん。ありがとう」

2階の窓から顔を出して見送ってくれる祖母に手を振り、
私は『桃の木』を目指して歩き出した。

いま考えると、どうして祖母は一緒に行って
くれなかったのかと不思議に思うが、そのころ祖母は
まだ働いていたので、仕事があったのかもしれないし、
ほかの用事があったのかもしれない。もしくは、自分が
行かない方が、母が素直に家に戻ると思ったのかも
しれない。

いずれにしても私は一人で〈桃の木〉に向かった。

果たして、祖母の家から1km弱歩いたところに
〈桃の木〉はあった。

〈桃の木〉は、紫色地に桃色の文字(多分。“淫靡だ”
という記憶がある)という、子どもが見てもドキンと
するような、本能をかき乱すような看板がかかっていて、
門の代わりなのか、タイルレンガの壁がジグザグに
なっていて、玄関が見えない。
さすがに、その淫靡な隙間に入っていく勇気がなく、
私は裏に回ってみた。すると、お勝手口が開いていて、
中がすっかり見えている。中には、紫の着物を着た
おばさんたちが、忙しそうに動き回っている。

母が家を出てから10日ほどたったときによこした手紙の
文面を思い出した。“旅館で働いている。部屋を与えて
もらい、制服の着物を着て頑張っている”と書いてあった。
これのことか、と得心した。

ふと気づくと、お勝手口の最も近くにいた女性が
こちらを見ている。目が合った。
「どうしたん、あんた。だれかに用?」
色白の、ふくよかな美人顔の若い女性が声をかけて
くれた。
「◯◯(姓)◯◯(名)の娘です。母はいますか」
私は緊張して言った。
「いや、◯◯(姓)さんの娘さん? ちょっと、
◯◯さんを呼んできてあげて」
その女性は近くにいたおばさんに指示してくれた。
「わかった」
そう言って一人のおばさんが母を呼びに行ったよう
だった。

親切なお姉さんは、私に何かをくれた。
「食べ。おいしいよ」
「ありがとうございます」
私は少々ためらいながら、手渡してもらった四角い物体を
口に含んだ。
辛いのか甘いのか、固いのか柔らかいのか。
はたまた、海のものか山のものか。
あにはからんや、歯ごたえのある甘い壁を噛み切ると、
そこからシュワーッと舌に心地よい刺激を伴って
何かが広がった。ソーダだった。もっと噛むと、
弾力のある甘い物体が口の中を満たしてくれる。
はっとした。お菓子屋さんで見かけたことはあるが、
値段が高くて買えなかったガムだ。我が家のレベルでは
せいぜい5枚30円(いまだと120円)の板ガムだった。
ドーナツ型になっていて笛のような音が鳴るガムは
5つで10円しただろうか。そんな時代に、そのガムは
5個包みで50円したと思う。私は“大人のお菓子だ”と
買うのを諦めたものだ。

ガムのおいしさを味わっていると、勝手口から見える
奥の入り口に、思わず“懐かしい”と思えるような、
見覚えのある人が姿をあらわした。

その人は、私の顔を見るなり、床に突っ伏した。
私はそれを見ながら、なおもガムのおいしさを
味わっていた。次の展開を予想し、対応について
思い巡らせながら……。

                      つづく








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Last updated  2007.05.08 23:04:37
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Re:哀しき清貧一家の哄笑な日々 その9(05/08)  
bar24  さん
感動の再開ですね。個人的にはソーダよりもコーラかなぁ?ネコメでした。 (2007.05.08 23:09:45)

Re:哀しき清貧一家の哄笑な日々 その9(05/08)  
primera3919  さん
その旅館うっすらながら、見覚えがあるように思われます。そばにジーパン屋さんがあったように思います。ガムも懐かしいですね。御祖母様はその旅館の本来の使用目的を御存知だったのでしょう、それゆえ一緒に行かれなかったのではないでしょうか。世間体を考えて。その人は諦めの心境なのか怒りの心境なのか。しかし、追い詰められた子供の冷めた表情ほど怖いものはありません。その恐ろしさもあったかもしれませんね。 (2007.05.08 23:44:41)

Re[1]:哀しき清貧一家の哄笑な日々 その9(05/08)  
ske888  さん
primera3919さん
その答えは次回に登場します。お楽しみに。ジーパン屋さんがあったかどうかは覚えてないのですが(あったような気もしますが、ジーパンの何たるかを知らなかったので)、方角で言うと、都島南通と都島本通の間、本通に極めて近い場所だったと思います。ご指摘のとおり、そういう場所でした。あ、でも、冷めていたのではないのです。余りにもガムがおいしかったので、目の前に展開される状況を忘れていただけで。ゆえに「哄笑」なのです。悲しくて、かわいそうで、でも抜けていて、そのおかげで愉快な生活をしていたのです。笑いの本質を知っている清貧一家です。 (2007.05.09 00:03:20)

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