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以前、成毛 眞さんが書いた『amazon』を読みましたが、 それをさらに上回る衝撃の一冊でした。 著者の横田さん自らが、amazonの小田原の物流センターに潜入したり、 集配車両に同乗したり、英仏独で取材したりして描き出した現場の実態は、 想像をはるかに超えた過酷なものでした。また、創業者であるジェフ・ベゾスの人となりや租税回避に対する姿勢、マーケットプレイス出品者たちの悲哀、横行するフェイクレビュー、AWS導入による新聞見出し作成や写真サービス、AIアナウンサーのラジオニュース、日本最大の書店となったamazonによる直接注文が取次や出版社にもたらしたもの等々、その影響力の強さや範囲の広さ、規模の大きさに終始圧倒されっぱなしでした。 *** 「普通にアマゾンで商売をやっていたら、 レビューがつく可能性は100件で3件前後、多い商品で5件ぐらいです。 1カ月で500点売れるヒット商品で、レビューは15件前後。 2か月で、30件前後となる計算です。 だから、発売から1カ月で30件以上レビューがある商品は怪しいですね。 そんな商品の出品者プロフィールを見ると、ほとんどが中国の出品者です。 なかには1カ月で100件を超すレビューがついているのを見たことがありますが、 これはほぼフェイクレビューだと考えて間違いないでしょう。」(p.305)これは、アマゾン出品者向けの販売促進ツールを販売しながら、自らもマーケットプレイスに出品する人物の言葉。とても参考になります。 「やっぱりアマゾンはこんなやり方をするんだ、と驚く気持ちより、 納得する気持ちの方が強かったですね。 書籍や雑誌を提供した出版社に、何の相談も、通告もなく、 勝手に変更するのが彼らのやり方なんだと思いました。 いつもは、三方良しなど、耳当たりのいいことを言いながら、 結局、読者のことも、著者のことも、出版社のことも考えず、 自分たちの都合だけを優先させる。それに対する十分な説明もしない。 一連の騒動を見ていて、私からすると、馬脚を現したな、と思いました。 アマゾンの掲げる顧客第一主義は、 自社の利益に反しない限りという条件がつくんだな、と」(p.418)これは、キンドル・アンリミテッドについて事の行方を見守ってきた業界関係者の言葉。「自社の利益に反しない限り」というところが、言いえて妙だと感じました。これが色んな場面での、企業としての基本姿勢ということなんでしょうね。
2023.02.26
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「プロローグ」では、斎王だった自分が「中秋の名月の夜」の晴雨を問うた際、 驪龍(リリョウ)が「一晩中晴れ渡る」と返答した時を、小春が振り返ります。 第1章「まわる縁と神の器。」では、OGMが東京と京都でさらに調査を進め、 朔也と愛衣が、谷口の部下・井上の情報を得ようと、西の本部長を訪問。 第2章「串付きわらび餅と招き猫。」では、風林堂の風林甚八と幼馴染・千賀子、 そして、甚八の妻子との間で生じた悲劇と、その和解が描かれます。 第3章「死神と恩人と。」では、和人が由里子と共に彼女の大伯父の家を訪ね、 そこで自身のルーツを辿って安倍家を訪れていた藤原千賀子に出会うことに。 一方、小春と澪人は猫に導かれ浅草神社に着くと、そこでコウメの意識を辿ります。第4章「嵐の前の静かな夜。」では、小春がコウメの意識をさらに辿っていきます。そこには、神泉苑で驪龍と言葉を交わす安倍晴明の分身の姿がありました。第5章「水の女神と凶星の影。」では、澪人が浅草神社で谷口から事の真相を知らされることに。そして、一人で東の本部に出向いた小春は、川瀬らに捕らわれてしまったのでした。「エピローグ」では、谷口から事の真相を知らされた澪人が、真犯人に気付きます。そして、捕らわれの身となった小春の側には、驪龍がいました。さらに、白い少年の正体も判明。その名は、藤原千歳。選ばれた人間で、『神の器』。どんどん繋がっていきますね。
2023.02.26
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2019年8月31日に初版発行。 著者は、産業医・精神科医の井上智介さん。 帯には「『たたかう産業医!』著者による待望の初書籍!」の文字が躍ります。 その後は、何冊もの書籍を執筆されるなど大活躍中です。 *** ステップ1:不安や悩みを紙に書き出す ステップ2:自分でどうしようもないことは無視する ステップ3:今できることにチャレンジする(p.42)これは「気分を持ち上げる3ステップ」として示されたもの。特に、ステップ2の「自分でどうしようもないことは無視する」がイイですね。上司の機嫌や親の干渉、会社の経営状態等、自分の力では如何ともしがたいことは、考えても悩んでも心配しても無駄だからスルーするしかない、というのは大いに納得。 人生は、長く続いていくものであり、なるようにしかならないものでもあります。 そもそも、仕事に意義を見出せている人のほうが少数派です。 それよりも、きれいごとはなしにして、 「生活するため」「お金を稼ぐため」と言えるほうが精神的にはとても健康的だし、 立派だと思います。(p.48)これは「仕事の意義がわからない」への回答。人生は「なるようにしかならないもの」という言葉が、心に染み入りますね。ただし、「仕事に意義を見出せている人のほうが少数派」と述べるエビデンスは?まぁ、私も感覚的には、そう思わないこともないです。 世の中には、「すぐに逃げるな」と忠告する人が一定数います。 しかし、そうした人が、 あなたが苦しい時に救いの手を差し出してくれるわけではありません。 私は、逃げられるうちに逃げることが、とても大切だと考えます。 この世の中で、あなたが所属する会社や組織は、たった1つではありません。 あなたがあなたらしくいられる居場所は、必ずたくさんあります。 自分の心と体を犠牲にしてまで続けるべき仕事は1つもないことを、 決して忘れないでください。(この文章掲載ページは、ページ番号が振られていません)これは、「おわりに ラフに働いていきましょう!」の一節。私が苦しい状況に追い込まれたとき、「仕事なんか、自分の身を削ってまでしなくてよい」と言ってくれた上司がいました。そんなことを言ってくれたのはその方だけでしたが、どれだけ心の支えになったことか。
2023.02.26
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『逆襲される文明 日本人へⅣ』に続く第5弾。 文藝春秋2017年10月号から18年1月号、18年3月号から21年10月号、 22年1月号に掲載された塩野さんの、その時々に書かれた文章をまとめたもの。 4年余に渡るイタリアや日本、世界の出来事を振り返ることができます。 *** これを眺めていて、ツイッターで勝つにはどう振る舞うべきかが、 アナログそのものの私にもわかったのだった。 第1に、短文でなければ、やるだけ無駄であること。 第2は、写真よりも動画のほうがインパクトが強いこと。 第3に、口調は常に攻撃的でケンカ腰であること。 第4は、舌戦の場からは絶対に退場しないこと。 それどころか、相手の攻撃には時をおかずに反撃し、 しかも言説に誤りがあっても訂正などはせず、くり返し波状攻撃をつづけること。(p.45)これは、イタリアの五つ星トップと北部同盟トップのツイッター合戦に対し述べられたもの。ツイッターの特性を、しっかり見抜いておられると感心。しかしながら、これがグローバルスタンダードなんだと再認識させられ、何だか残念で、寂しくも思いました。 ところが諸行は無常だから、個々人の努力とは関係なく時代は変わる。 それへの対応を怠ると、社会全体がギクシャクしてくる。 個人規模だと自信を失い始め、その結果経済力も劣化し始め、 不安になるから他者に対して不寛容になり、 自分とちがう考えには過度に神経質な反応を返すようになる。 つまり、常にイライラしているので、それによる怒りを誰彼となくぶつけるようになり、 怒る権利は自分のほうにあると思うようになるから、他者への責任転嫁、 そして次にくるのは政治不信。(p.73)近年、ネット上で飛び交う言説には、眉を潜めたくなるようなものが多くなってきましたが、その背景にあるものが、見事に指摘されていると感じました。皆さん自信が持てず、不安で、神経質で、不寛容で、方々に怒りをぶつけまくってる…… 帰国して以後テレビで予算委員会での質疑を見ながら痛感したのは、 政治不信とは、政治家自身が作っているのだということである。 痛烈な質問もよい。 それに対して逃げを打つのもわからないではない。 だが、こんなことをくり返しているだけでは、 日本が直面している数多くの難題はいつになったら解決できるのか。 何らかの手段でこのくり返し状態を脱け出る方策を示してこそ、 国民が国政を託す人として選んだ政治家であることを示す、 絶好の機会になるのではないかと思う。(p.150)まさに、現在の国会はプロレス状態。お約束の役割を互いに演じ続けているだけで、それが行きつく先は、いつもお決まりの時間切れ。「このくり返し状態を脱け出る方策」を示すことが出来る人は、いつ現れるのか…… ***本著で、最も衝撃を受けたのは「ローマでの”大患”」。コロナ禍の中、こんな大変な事態に陥っていたんですね。しかし、ローマの病院事情がリアルに伝わって来る、大変興味深い内容でした。以後、すっかり回復されたのでしょうか?
2023.02.19
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ストーカーに狙われていた婚約者・坂庭真実が、突然姿を消してしまった。 西澤架(かける)は、その行方を追い、彼女に関わった人々を次々に訪ね歩く。 ミステリータッチな展開の中、人間の奥底に潜む業が抉り出されていく様は圧巻。 架と真実が、それぞれに成長していく様も、しっかりと伝わって来ます。 「値段、という言い方が悪ければ、点数と言い換えてもいいかもしれません。 その人が無意識に自分はいくら、何点とつけた点数に見合う相手が来なければ、 人は、”ピンとこない”と言います。 - 私の価値はこんなに低くない。 もっと高い相手でなければ、私の値段とは釣り合わない」(中略) 「ささやかな幸せを望むだけ、と言いながら、 皆さん、ご自分につけていらっしゃる値段は相当お高いですよ。 ピンとくる、こないの感覚は、相手を鏡のようにして見る、 皆さんご自身の自己評価額なんです」(p.137)これは、真実が利用していた結婚相談所の代表・小野里が、架に言った言葉。こういうぐうの音も出ないような言葉や描写が、作品のあちこちに出てきます。そして、それらについて、自分自身を振り返ってみると……その時々の行動の背景にあった本音に気付かされるのです。 ***久しぶりに食い入るように読み耽りました。でも、読後感はスッキリしたものにはなりませんでした。西澤架も坂庭真実も、どちらも好きにはなり切れませんでした。最近、のほほんとした作品ばかりを好んで読んでいるせいでしょうか。もちろん、作品としては濃密で、色々と考えさせられることも大変多く、辻村さんの筆力の凄さを、改めて強く感じることが出来るものでした。浅井リョウさんによる巻末の「解説」も良かったです。こういう作品が、読後長い時間を経ても、記憶に残り続けるんでしょうね。
2023.02.12
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課長のパワハラに苦しみながら、退職を申し出ることも出来ないでいる会社員。 「自分には夢がない」と言う彼を偉人に育てるべく、 ガネーシャは、”本物の夢”を見つけられるよう課題を与え、導いていきます。 新しいキャラクターとして、バクやガネーシャの父・シヴァ神も登場し、 ガネーシャの驚くべき生い立ちが明らかに。 ***本著は、『夢をかなえるゾウ4』に続くシリーズ5冊目ですが、何故、”5”ではなく”0”なのか?何故、”夢ゾウシリーズの原典”と位置付けられているのか?お話として描かれている時期は、間違いなく現在に最も近いもののはずなのに……ネット検索しても、まだその答えにはたどり着けていません。そして、これまで、このシリーズを読んだ際は、どのお話でも、結構付箋だらけになっていたような記憶があるのですが、今回付箋を貼ったのは、次のたった1箇所だけ。名作だけに、こちらの期待値が高くなり、ハードルが上がり過ぎてしまったかも。 「人間ちゅうのはな、経験してへんことにはどこまでも不安を広げてまうもんやねん。 そんで、不安が大きゅうなればなるほど、ますます行動できへんようになる。 その結果、世の中のほとんどの人が、『不安で作られた鉄格子』に囲まれたまま 一生を過ごしていくことになるんやで。」(p.20)これは、よく分かります。「経験してへんことにはどこまでも不安を広げてまい、行動できへんようになる」。最初の一歩を踏み出すことの難しさは、半端ないですよね。ましてや、自分が経験していないだけでなく、誰も経験したことがないようなことなら尚更。
2023.02.12
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かなり売れている一冊と知り、早速購入して読んでみました。 それから、TVドラマ化され現在放映中と知りましたが、 まだ、全く見ていません。 もう、少し早く気付いていれば…… ***24歳の御厨美帆は、勤務先で教育係としてお世話になった小田街絵がリストラされモヤモヤ。その気持ちを恋人・長谷川大樹に分かってもらえず、さらにモヤモヤ。そんな時、保護された犬猫を育てるボランティアブースで一匹のチワワに遭遇すると、ペットを飼うため家を購入しようと思い立ち、5つ年上の姉・真帆に相談します。まずは1千万円を貯めるため支出を見直し、1日百円の貯金を始めるよう助言された美帆は、『8×12は魔法の数字』の執筆者・黒船スーコのセミナーに3千円で参加。スーコは、月8万円貯めれば1年で百万円、30代のあなたなら60歳の定年までに三千万、20代なら四千万が貯まり、それを3%複利で運用すると約4900万と約7740万と語るのでした。 ***以上が、第1話「三千円の使いかた」のお話の概要。第2話「七十三歳のハローワーク」では、資産運用に励んできた美帆の祖母・琴子が、夫の死後年金が半減し、貯蓄が目減りしてきたことで、今後の生活に不安を感じ始めます。そんな時、嫁・智子の依頼で引き受けた「おせち料理教室」でちょっとした収入を得た琴子は、それを機に就活に励み、有名な和菓子店・湊屋の看板娘としてデビューすることに。第3話「目指せ! 貯金一千万円!」では、友人たちとランチを共にした井戸真帆が、23歳で同い年の夫と結婚したことをどう思われていたかを知り、考え込んでしまいますが、妹・美帆や祖母・琴子と話をする中で、少しずつ気持ちを立て直していきます。そして、ある夜突然、ランチで羨むような姿を見せていた友人から電話がかかってきて……。第4話「費用対効果」では、琴子の歳の離れた男友達で、今年40歳になる小森安生が、彼女・きなりに結婚を求められますが、明確な返事をしないままサンマ漁の季節労働へ。しかし、そこで良からぬ関係になった女子大生が、安生の家にやって来て大騒動に。そして、琴子に背中を押された安生は、きなりに正面から向き合うことを決意したのでした。第5話「熟年離婚の経済学」では、御厨智子が開腹手術後の10日間入院を経て帰宅した際、夫・和彦と夕食や家事についてやりとりする中で、気持ちを沈ませていきます。親友から熟年離婚の現実を聞かされ、自分の家計を改めて見直す智子。そして、病理検査の結果を聞いた智子は、黒船スーコに相談し、夫にある提案をしたのでした。第6話「節約家の人々」では、御厨美帆が、スーコの節約講座で知り合った沼田翔平と結婚へ。しかし、彼に550万円もの奨学金返済義務があることが判明したり、彼の両親の考え方や生活の在り様に疑問を感じたりするようになって、前途多難。美帆は両親と一緒に翔平が作ったポスターを見に行った後、改めて彼と話をしたのでした。 ***垣谷美雨さんによる巻末の解説『「他人は他人、自分は自分」と、あなたか心の底から割り切れていますか?』が、とにかく秀逸。これを読むために、本著を購入する価値があると言っても良いほど。私自身は、第2話「七十三歳のハローワーク」が、最も心に残るお話でした。先日読んだ『ほんとうの定年後』に通じる内容であり、「地域に根差した小さな仕事で働き続けること」や「自身の老後の豊かな生活の実現と社会への貢献を無理なく両立させる社会」が、見事に表現されていました。
2023.02.05
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