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村田沙耶香さんのエッセイ集。 私はこれまで、 「エッセイと言えばノンフィクションの世界」と思い込んでいたのですが、 本著を読み進めていく中で、 「エッセイにもフィクションの世界があり得るのか?」と、 大いに困惑してしまうことになりました。 *** ある道を歩いていても、一人はそこが新宿方面に繋がっていると言って疑わず、 もう一人はこの先は公園になって行き止まりになっていると主張する。 たとえ現実には その道は二年前かに工事されて渋谷方面に繋がるようになっていたとしても、 二人は違う現実の中を歩いている。 そんな風に考えると、今、同じ場所を歩いている隣の人も、その隣の人も、 自分の作り上げた異世界で暮らしているんだと思えてくる。 同じ場所を歩いていても、脳が違う限り、私たちは違う光景の中にいるのだ。(p.75)本著のタイトルに繋がっている部分でしょうが、「なるほどな」と頷けるものではあります。しかしながら、本著の中で明かされていく村田さんの脳世界は、凡人である私などからすると、そのぶっ飛び具合はなかなかのもので、同じ世界を生きているとは、とても思えないように感じるところも少なくありませんでした。そんな感覚から、「これはノンフィクションの世界ではなく、フィクションの世界を描いたものなのか?」と、思ってしまった次第です。しかしながら、この感性こそが、独特の世界観を小説の中に紡ぎ出していける理由なのでしょうね。
2023.06.28
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ノンフィクションライター・中村敦彦さんが、 AV女優や風俗、介護などの現場でフィールドワークを行う際、 そこで駆使されているスキル「悪魔の傾聴」について紹介した一冊。 「相手の本音をどんどん引き出す方法」に圧倒されます。 *** ピックアップ・クエスチョンとは、すでに相手が発言した単語や趣旨を拾い、 即時に短い質問を投げかけるテクニックです。 自分が聞きたい・知りたい質問ではなく、 相手の語りをもっと進めるための質問を投げるのです。(p.28) 誰でも、話したいことを聞いてくれた相手、 希望を叶えてくれた相手には好印象をもちます。(p.32)まずは、話し手が気持ちよく語ることの出来る状況を作り上げるということでしょうか。しかし、この状況を作り出さないことには、次のステップに進んでいけないのです。 相手の自己開示に対して自分の意見は決して口にしてはいけません。(p.101) 聞き手であるあなたが、相手の語りに共感できるか、肯定できるかという主観は、 悪魔の傾聴中はどうでもいい感情として消去します。(p.105) 事実を語っているだけの相手は、聞き手に意見やアドバイスは求めていません。 いったいどうして?という好奇心をもって、リズムをあわせて相づちを打ち、 相手が語りやすい環境整備に徹するべきなのです。 (p.190)これらも、話し手が気持ちよく語り続ける状況を維持していくうえで、とても大切なところ。カウンセリングのテクニックとして、よく指摘されることですね。 「部下に尊敬されたい」という思いから、 自己肯定感が強く、自信家である性格が推測できます。 このようなタイプは部下に良かれと思って自分の経験談や上から目線の教えを語りがちで、 組織の上下関係や年功序列を人間関係に無意識に持ち込んでしまいます。 その思いを断捨離しない限り、悪魔の傾聴の成功はありません。(p.150)これが、私にとって本著の中で最も考えさせられ、反省を促された一文。確かに、そうなんですよね。
2023.06.28
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副題は「大韓帝国の成立から崩壊まで」。 「あとがき」には、本著の特徴として次の3点が挙げられています。 1.大韓帝国を主語にした韓国併合の歴史 2.史料を最重視した歴史学による手法 3.ここ30年近い間に発表された新たな研究成果を組み込んだこと *** さらには、明亡き後、儒教文化を堅持するのは朝鮮だけで、 朝鮮こそが明朝中華を正統に継承すると自負する。 いわゆる「小中華思想」「朝鮮中華思想」と呼ばれる意識が強くなった。 朝鮮は儀礼上は清朝皇帝に朝貢し冊封を受けるが、 内心は明朝中華を慕い、中華の正統な後継者は朝鮮自らだと考えたのだ。(p.7)朝鮮においては、「儀礼上」と「内心」の二つを使い分けることが、ごく自然なことであったことに気付かされ、目から鱗が落ちる思いでした。そして、次の一文からは、「朝貢体制」の持つ意味合いが、この時期に大きく変化したことに気付かされました。 清は、西洋がもたらした条約という手段を用いて、 中華秩序を欧米列強や日本に示そうとし、朝鮮との宗属関係を自ら変えた。 かつて「属国」の内政外交には原則として関与しなかった朝貢体制はここに変わっていく。 欧米諸国や日本との対話のためには、 宗属関係を条約体制の論理に読み替える必要があったからだ。(P.17)その後、日朝修好条規締結、朝米修好条規締結、壬午軍乱、甲申政変、さらには、日清戦争、甲午改革、下関条約締結、閔妃殺害事件、露館播遷等々を経て大韓帝国が成立し、義和団事件、日露戦争へと繋がり、日韓議定書、第1次 ~第3次日韓協約、韓国併合条約が結ばれていくことになります。 *** つまり、朝鮮王国・大韓帝国と日本では、 政治の在り方も、それに伴う史実の記録や整理の在り方も大きく異なる。 そうした両国では、現在にまで残され、確認できる史料を突き合わせて、 日本ではこう記されている、大韓帝国ではこう記されていると議論しても、 平行線を辿る部分が少なくない。 条約体制の外交を実践した国とそうでない国の記録を、 対等に突き合わせて議論することは難しい。 他方で、日本側の史料だけに依拠するのは、日本の主観が含まれ、 日本から見た朝鮮史になることは言うまでもない。(P.244)「平行線を辿る部分が少なくない」。まさに、そこで停滞したままの状況が続いています。二つの線が交わる日は、何時訪れるのでしょうか。
2023.06.11
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「別冊文藝春秋」に掲載された8つの短篇をまとめた一冊。 そのいずれもに、淀川が舞台装置として登場する。 暴力が連鎖する家庭での辛かった幼少期を妹と共に振り返る38歳の姉。 父の再婚で弟となった少年が野球をするのを眺める中学生の少女。 婚活バーベキューに挑む30歳代の女性。 妻が流産し、淀川の河口から源流の琵琶湖へと歩く夫。二人の女子と共に映画の自主製作に励む男子高校生。愛犬を失ったことから夫と離婚することになった女性。父親に対する母親の姿を見て生涯独身を誓った個人投資家の男。級友と一緒にいじめた男児に素直に謝れず、護身術を教えようとする男児。将来に明るい兆しが見えるお話もあれば、そうでないものもある。まさに、人生悲喜交々である。
2023.06.11
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小学校に併設されたコミュニティハウスの図書室。 カウンターで出迎えてくれるのは、司書になるべく勉強中の小柄な森永のぞみ。 そして、奥にあるレファレンスコーナーにいるのが、 白くて大きなベテラン司書・小町さゆり。 訪れた人に「何をお探し?」と声をかけ、そのリクエストを確認すると、 ものすごい速さでパソコンのキーボードに入力し、お薦めリストをプリントアウト。 そこには、リクエストに応える何冊かの書籍と共に、「?」の一冊が。 さらに、付録として彼女が手作りした羊毛フェルトが手渡されます。総合スーパーの婦人服売場で働いているものの、転職を考えている21歳の朋香には、パソコンの使い方が載っている本と共に『ぐりとぐら』、そして付録のフライパン。家具メーカー経理部で働きながら、アンティーク雑貨屋の開業を夢見る35歳の諒には、起業について書かれた本と『英国王立園芸協会と楽しむ 植物のふしぎ』に付録のキジトラ猫。かつては出版社の雑誌編集をしていたものの、現在は資料部で働く40歳の夏美には、絵本と石井ゆかりの著作『月のとびら』、そして付録の地球。30歳にもなって就職もせず家でぷらぷらしている浩弥には、『ビジュアル 進化の記録 ダーウィンたちの見た世界』だけが記され、付録は飛行機。半年前に定年退職し、妻の勧めでコミュニティハウスの囲碁教室にやって来た65歳の正雄には、囲碁の本と草野新平の著作『げんげと蛙』、そして付録のカニ。そして、この「?」の一冊と付録との出会いが、5人が、それぞれに新たな道を歩んでいく契機となっていくのです。期待を裏切らない青山さんらしい一冊。気分ほっこりです。
2023.06.11
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『わたしの美しい庭』に続く、私にとって2冊目となるの凪良ゆうさんの作品。 2020年に第17回本屋大賞を受賞した作品で、弥が上にも期待が高まります。 が、1ページに42文字×18行=756文字は、私の眼にはかなり厳しい…… 創芸文芸文庫は、皆同じ規格なのかな? ***9歳の小学4年生・家内更紗は、父が1年前に病死すると、母は新しい恋人と家を出た行った。その後、伯母の家に引き取られるも、夜になると中2の一人息子・孝弘が部屋にやって来る。「帰らないの?」 「帰りたくないの」「うちにくる?」 「いく」19歳の大学生・佐伯文が住むマンションで過ごした2か月は、更紗に心の安寧をもたらすが、更紗の望みで動物園にパンダを見に行くと、文はそこで誘拐犯として逮捕されてしまう。15年後、ファミレスでバイトをする更紗は、2年間同棲をしている中瀬亮から求婚されていた。職場の同僚と立ち寄ったカフェ『calico』で文に再会するも、彼の隣には女性の姿が。その後、亮の実家を訪れた際、従兄妹から彼の両親の離婚理由や彼のDV癖について聞かされる。さらに、犯罪まとめサイトで『家内更紗ちゃん誘拐事件』が更新されていることに気付く。そこには、職場の同僚・安西から先日預かった8歳の娘・梨花が『calico』にいる写真があった。そして、亮のからの暴力……更紗は文の住むマンションの隣室に引っ越すも、また暴力。さらに、あの事件の週刊誌騒ぎから、亮が階段から落下する事故が発生し、警察沙汰に発展。更紗と同様、文も警察に事情聴取され、梨花までもが保護されることに。誤解が解けた後、『全国被害者支援ネットワーク』のパンフレットを差し出す警察官に。更紗は、「文は、あの家から、わたしを救い出してくれたたったひとりの人でした」。しかし、自宅マンションから退去を促され、『calico』も閉店せざるを得なくなってしまう。あれから5年、長崎でカフェを営む文と更紗は、13歳になった梨花に会っていた。 ***文が逮捕された後の更紗の行動を、他の読者の方々は、どのように受け止めているのでしょう?「仕方がないなぁ……」、それとも「何でかなぁ……」。とにかく、文が不憫……。
2023.06.02
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