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『シカゴ』(2002年)でアカデミー賞監督賞を受賞したロブ・マーシャルの最新作『NINE』(2009年)が3/19より劇場公開開始!今回は、映画『NINE』製作の基となった映画『8 1/2』(1963年)、『オール・ザット・ジャズ』(1979年)、『ザ・プレイヤー』(1992年)などをご紹介します。 アカデミー賞助演女優賞にノミネートされたペネロペ・クルス他、ハリウッド女優総出演の豪華ミュージカル映画『NINE』。『NINE』の基になっているのは、1982年のブロードウェイの舞台でトニー賞受賞作。この舞台は、イタリアを代表する巨匠フェデリコ・フェリーニの傑作『8 1/2』を基にしています。今回、映画化にあたって、舞台版とは別に脚本が書かれ、オリジナル『8 1/2』で描かれているシーンが数多く追加されています。そのため、ダニエル・デイ=ルイス演じる主人公、映画監督グイド・コンティーニが悶々と悩むドラマ部分が多くなり、前作『シカゴ』のような煌びやかなダンス・シーンは、かなり少なくなっています。 映画『NINE』の脚本を担当したのは、マイケル・トルキン。ロバート・アルトマン監督作『ザ・プレイヤー』の原作・脚本を担当した人です。『ザ・プレイヤー』は、ハリウッドの内幕をシニカルに描く暴露もので、カンヌ国際映画祭監督賞、男優賞を受賞し、作品賞にノミネートされました。マイケル・トルキンは、オリジナル『8 1/2』を下敷きにしながら、オリジナルのように悩める映画作家の心象を超現実的に描くアートフィルムにはせず、映画業界の内幕暴露ものというスタイルで、様々な女と関わりながら、誰ひとり愛することが出来ない、才能が枯渇した映画監督のメロドラマとして再構築しています。登場人物は整理され、難解なところは皆無です。 ただ、その脚本を『イングリッシュ・ペイシェント』(1996年)のアンソニー・ミンゲラ監督がさらに、リライトしているそうなので、最終的にどの程度の割合でマイケル・トルキンの脚本が残ったのかはわかりませんが。 ここで触れておきますが、映画『NINE』は、作品の完成をまたずして2008年に他界し、本作が遺稿となったアンソニー・ミンゲラ監督に捧げられています。 本作の特徴は、豪華出演女優の多さ。『シカゴ』はキャサリン=ゼタ・ジョーンズとレニー・ゼルウィガーの2人だけでしたが、本作には7人の女優が華を競います。 オリジナル『8 1/2』では、サンドラ・ミーロが演じた愛人カルラをペネロペ・クルス、『男と女』(1966年)のアヌーク・エーメが演じた妻ルイザをマリオン・コティヤール、クラウディア・カルデナーレが演じたグイドの幻想の女神クラウディアをニコール・キッドマン、ロセッラ・ファルク演じた妻ルイザの友人は、衣裳デザイナーのリリーとしてジュディ・デンチが、それぞれ演じ、6週間かけて特訓したという歌と踊りを披露しています。ニコール演じるクラウディアはオリジナルでは幻想であるため、フランス女優マドレーヌの役を足した役柄になっていると思われます。 さらに、映画『NINE』で最も耳に残る歌を担当するのが、VOGUEの記者ステファニーを演じるケイト・ハドソンと、娼婦サラギーナを演じるファギーことステイシー・ファーガソン。 そして、7人目の女性は、グイドの女性感の源である母親を演じるソフィア・ローレン。登場シーンは少ないながら、今なお衰えない美貌とプロポーション、圧倒的な存在感で、唯一、イタリアを舞台にした映画であることを思い出させる重要な要素となっています。 オリジナル『8 1/2』で、言葉ではなく映像や作品全体で表現していた主人公の想いを、彼女たちは歌で判り易く私たちに提示してくれます。本作の後にオリジナルを観ると、難解と言われたオリジナルの意味が理解出来るようになるかもしれません。 本作のハイライトはケイト・ハドソンが歌う映画のためのオリジナル・ソング“Cinema Italiano”。この歌詞には、映画『NINE』の主題が集約されていると言えます。ハドソンはイタリア映画のお洒落具合を褒めたたえます。つまり本作の本質は、グイドの監督作(つまりはフェリーニ作品)や60年代のイタリア映画全般をファッションとして捉え、煌びやかな舞台美術や衣装に包まれてハリウッドの大物女優達が演じる、豪華絢爛なミュージカル・ショーだということです。オリジナルとは別物として鑑賞してください。但し、主演のダニエルがシリアスな演技を通して、ほとんど歌ったり踊ったりしませんので、『シカゴ』のような、スタンダードなアメリカン・ミュージカル映画を期待してしまうと、ちょっと裏切られた気になるのでご注意を。 また、所々に、フェリーニではなく、『ニューシネマ・パラダイス』(1989年)のジュゼッペ・トルナトーレ調の部分も見受けられます。どうやら本作はハリウッドからのイタリア映画全体へのオマージュ作品と言えます。 ここで、オリジナル『8 1/2』について少々。 20世紀を代表する巨匠フェデリコ・フェリーニが描く傑作『8 1/2』は、どの1カット、1シーンをとってもありきたりの映像表現はされておらず、絵画のような芸術性の高さを感じさせますし、本質には、フェリーニ自身の分身であるグイドを通して、フェリーニの宗教観、人生観、精神状態を描きだし、さらには、あらゆる登場人物のほんの一瞬を描きながら、彼らの本質を描き出すことにも成功しています。すでに、映画界の頂点に立っていたフェリーニが、新たに創り上げた傑作『8 1/2』。ありがたいことにリマスタリングされたDVDが発売されていますので、この機会にぜひ、ご覧ください。 さて、最後になりますが、『NINE』以上に『8 1/2』のミュージカル映画版と言える作品があります。それが、ボブ・フォッシー自ら監督・脚本・振付した『オール・ザット・ジャズ』です。 ロブ・マーシャルは、前作『シカゴ』でもボブ・フォッシーの原作ミュージカルを映画化しており、相当なフォッシー信者です。そもそも、フェリーニ作品のミュージカル映画化は、ボブ・フォッシーが最初で、アカデミー賞外国語映画賞を受賞したフェリーニ監督作『カビリアの夜』(1957年)のミュージカル映画化がシャーリー・マクレーン主演の『スイート・チャリティー』(1968年)です。その後、フォッシーがフェリーニの『8 1/2』を、自身の私小説映画に昇華させたミュージカル映画の傑作『オール・ザット・ジャズ』は、カンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞。ここではダンスの精鋭たちを集め、『8 1/2』同様、自分自身を主人公に、自らの人生そのものを映画という芸術で表現した、ミュージカル映画の名作の1つになっています。イタリア気質ともいえるイタリア男グイドとは違い、ナルシシズム全快のロイ・シャイダー演じる主人公ジョー・ギデオンの人間像は圧巻です。 映画『NINE』の各ダンスシーンは、『シカゴ』同様、フォッシーの振り付けたフォッシー・スタイルが満載。ファギーが唄い踊る“Be Italian”はフォッシーがアカデミー賞監督賞を受賞した『キャバレー』(1972年)で主演のライザ・ミネリがイスを使って踊るシーンが基になっています。ぜひ、ロブ・マーシャルの創作の根源であるボブ・フォッシーのミュージカル映画をご覧ください。 長くなりましたので、フォッシー作品の詳しいご紹介はまた、次の機会に。 次回は、3/20より劇場公開中の『マイレージ・マイライフ』がとても面白かったので、主演のジョージ・クルーニーについてや監督作などをご紹介します。
2010年03月21日
2012年12月21日。太陽系の惑星が直列し、地球が滅亡する-。マヤ文明の予言を基に、地球を襲う天変地異の数々を驚異のスペクタクル映像で魅せる大型SFパニックが3/19にDVD発売。今回は、『インデペンデンス・デイ』(1996年)、『デイ・アフター・トゥモロー』(2004年)のローランド・エメリッヒ監督最新作『2012』(2009年)をご紹介します。 売れない作家ジャクソン(ジョン・キューザック)は、イエローストーン国立公園で謎の男チャーリー(ウディ・ハレルソン)に出会う。彼は目前に迫った“地球の滅亡”を各国政府が国民に知らせず、そればかりか秘かに巨大船を製造して、限られた人間だけを脱出させる準備をしていると言うのだ。その言葉通り、ロサンゼルスで巨大地震が発生し、全米各地を大地震、大津波、大噴火が襲う。ジャクソンは、別れた妻ケイト(アマンダ・ピート)と二人の子供を救うため、チャーリーの言う巨大船を目指すのだった…。その頃、ウィルソン大統領(ダニー・グローヴァー)は、娘ローラ(タンディ・ニュートン)に未来を託し、自身はアメリカ国民と最後の運命を共にすることを決め、国民に演説を行った…。 『アバター』の誕生によって3D映画に注目が集まった2009年、2D映画で出来る最高のスペクタクル映像を駆使したSF大作として大健闘を見せたのが、『2012』です。 大地が裂け、地中深くにのみ込まれていくロサンゼルスの街、ビルの高さほどもある大津波に巻き込まれるマンハッタン、雲仙普賢岳の火砕流を連想させる火山の大噴火、祈りを捧げる人々の上に崩れ落ちるバチカンのサン・ピエトロ寺院やリオのコルコバードの巨大キリスト像などなど、これまでに観たことが無いような大迫力で描かれる天変地異の映像の数々には度肝を抜かれます。さすがに、SF大作を手掛けてきたエメリッヒ監督だけのことはあります。 ローランド・エメリッヒと言えば、ハリウッド進出に成功した数少ない外国人(ドイツ人)監督の一人。ハリウッドならではの、往年のパニック映画やSF大作の流れを汲んだ老若男女をターゲットにした映画を手掛けているのが特徴です。そのため、どの映画のストーリーもオリジナリティに欠けていて、いつかどこかで見たようなお決まりのパターンが多いのも確か。しかも、毎作、ツッコミどころも満載で、例えば『インデペンデンス・デイ』では、ウィル・スミスがエイリアンにパンチをお見舞いしたり、大統領が任務そっちのけで戦闘に加わったり、『デイ・アフター・トゥモロー』では、たった数日で氷河期が終わるので、人類は逃げようとしないで地下で我慢していた方が助かったんじゃないか?と思わせたり、『GODZILLA ゴジラ』(1998年)は、魚を食べる恐竜みたいな生物で、港でターンをして爆弾を回避したり…。特に『ゴジラ』はファンから非難轟々でしたよね。 でも、私はエメリッヒ監督の作品は大好きなんです。それは、エメリッヒ監督の作品には、過去の映画へのオマージュが溢れていて、映画が大好きな映画少年が、そのままハリウッドで夢を実現しているように思えるからなんです。 判り易く言えば、元レンタル屋店員のタランティーノ監督が、「映画秘宝」を読んで、ヤクザ映画やホラー映画を観て育った映画オタクなら、エメリッヒ監督は、「スクリーン」や「ロードショー」を読んで、『宇宙戦争』(1953年)や『ポセイドン・アドベンチャー』(1972年)や『ジョーズ』(1975年)を観て育った王道の映画ファンと言えるのではないでしょうか。 私の世代が小学生の頃は、『タワーリング・インフェルノ』(1974年)などのパニック映画やスピルバーグ映画など、家族で劇場に観に行けるハリウッド大作がたくさんありましたし、『ローマの休日』(1953年)、『サウンド・オブ・ミュージック』(1964年)などの洋画の名作を年中、TVで放映していたので、未だに洋画を観る習慣のある人がたくさんいます。でも、若い世代は洋画を観る習慣が減っていると実感します。知り合いで洋画を観る習慣が無い人に聞くと、字幕がおっくうだったり、俳優さんを知らないという理由で邦画やアニメしか観ないという人が多いのです。小さい頃から洋画を観ていなければ、洋画ファンが育つはずもありません。 そんな中で、王道のハリウッド大作を製作し続けるエメリッヒ監督は貴重な存在です。家族で、「このシーン、あの映画でもやってたね」とか突っ込みながら映画を楽しむというのも、会話が弾んで楽しいではないですか。そこから将来の洋画ファンが育つはずなのです。 本作も、ツッコミどころが満載です。特に後半の展開には、「私の涙を返して!」と怒った人も多いのでは。観ていない方のために詳しくは書きませんが、そもそも、有識者や金持ちなどの選ばれた一部の人間だけが助かるという話で、一般人は全員、海の藻屑となるのです。そんな話、観客は共感しずらいですよね。さらに、主人公の一家は、勿論、その巨大船に乗る資格が無いのですが、自分たちだけ助かろうとするんですよね。冷静に考えると、それだけでも「コラコラ」と言いたくなりますが、エメリッヒ監督本人は、全く疑問を持っていないようで、クライマックスでは、さも、観客を号泣させたいとでもいうような感動ドラマ?を展開させます。まだ、観ていないという方は、ぜひ、このクライマックスの仰天の展開を、ご自身の眼で確かめてみてください。そして、友達や家族と突っ込みまくりましょう。 最後に出演者についても触れておきましょう。主人公ジャクソンを演じるジョン・キューザックは、日本ではあまり知られていませんが、父親が映像作家で、姉のジョーン・キューザック他、兄弟も俳優というアメリカでは知られた芸能一家。音楽オタクの青年を演じた『ハイ・フィデリティ』(2000年)の他、最近では『1408号室』(2007年)などインディーズ作品やジャンル作品に出演することが多く、本作のような大作の主演を務めるとは予想外でした。チャーリーを演じるウディ・ハレルソンは『ナチュラル・ボーン・キラーズ』(1994年)や『ラリー・フリント』(1996年)など90年代に活躍した性格俳優。大統領を演じるダニー・グローバーは、『リーサル・ウェポン』シリーズのメル・ギブソンの相棒として日本でも知られた名優です。娘役のタンディ・ニュートンは、『シャンドライの恋』(1998年)や『M:I-2』(2000年)でトム・クルーズの相手役を務め、最近では『ブッシュ』(2008年)でライス大統領補佐官を演じていました。地味ながらアメリカでは名の知れた演技派の俳優さんが数多く出演しています。 ストーリーは突っ込みどころ満載ながらも、CG映像は圧倒的な見せ場が豊富で、期待を裏切らない家族で楽しめるSF超大作です。 DVDは1枚組のスタンダード版と、特典DISC付2枚組のエクストラ版、そして、スタンダード版+Blu-ray版の2枚組セットの3種。それぞれ、特典映像の内容に違いがありますので詳細をチェックしてみてください。 次回は、3/19より劇場公開予定のミュージカル映画『NINE』(2009年)にあわせて、『シカゴ』(2002年)、『オール・ザット・ジャズ』(1979年)などのミュージカル映画をご紹介します。
2010年03月12日
『ゴースト/ニューヨークの幻』(1990年)の脚本家が手掛けたSFラブロマンスが3/10にDVD発売。今回は、エリック・バナ&レイチェル・マクアダムス主演の『きみがぼくを見つけた日』(2009年)をご紹介します。 クレア(レイチェル・マクアダムス)は6歳の時、初めてヘンリー(エリック・バナ)に出会う。彼は「未来から来た」と言う。それ以来、クレアはヘンリーを待ち続け、いつか結ばれると信じていた。しかし、ヘンリーは自分の意思に関係なく、現在、過去、未来を移動する“タイムトラベラー(時の旅人)”なのだ。そして、20歳になったクレアは、遂に、クレアの存在をまだ知らない若きヘンリーと運命の出会いをする…。 原作は、オードリー・ニッフェネガーによるベストセラー小説。大まかなストーリーをTVスポットなどで見て、女性向きのロマンティックなラブ・ストーリーだと思っている方も多いのではないでしょうか?ところが本作は、“タイムトラベル”を病として捉える科学的な要素と人の生と死について考える哲学的な要素を併せ持った、かなり奇妙なSF作品としても観ることが出来るのです。 原作では、ヘンリーの時空移動の原因が、遺伝子に異変をきたしているためだと判ると、物語は一風変わった恋愛ものから難病ものとなります。“タイムトラベル”が白血病や癌のように描かれていくのです。しかも“病”はヘンリーだけに留まらず、結婚した二人の間の子供にも遺伝してしまいます。そのため子宮の中の胎児が時空を移動してしまい何度も流産するという悲劇まで起きてきます。 脚本家のブルース・ジョエル・ルービンは、映画の限られた上映時間の中でラブ・ストーリーを中心としながらも原作の要素を盛り込んだ巧みな脚色を行いました。ヘンリーが意思に反して時空移動してしまうことの苦悩を描きつつ、自身の死期を悟った時、人は残された家族に何が出来るのか、という命題にテーマを絞っていきます。 ブルース・ジョエル・ルービンは、これまでにも、現実と悪夢の狭間で翻弄されるベトナム戦争帰りの男を描いた秀作ホラー『ジェイコブス・ラダー』(1990年)や、癌を宣告された男が遺言作りをするヒューマン・ドラマ『マイ・ライフ』(1993年)、そして恋人を守るため幽霊となって現れる男を主人公にした『ゴースト/ニューヨークの幻』など、“死”を覚悟した男のドラマを好んで描いています。本作も男性側のヘンリーの人物像を丁寧に描いているので、ロマンティックな映画が好きな女性だけでなく、男性の胸にもジーンと来る作品になっています。 これまで“タイムトラベル映画”は数多く作られ、大概のアイディアは出尽くしています。そんな中でも、本作は先人のアイデアに捻りを加えてオリジナリティを出しています。先に記した“タイムトラベル”を病と捉える視点も抜群ですが、他にもあります。 エリック・バナ演じるヘンリーは時間旅行を行うと、『ターミネーター』(1984年)のシュワルツェネッガー同様、素っ裸で移動してしまうのです。遺伝の病気なら洋服が移動する訳ありませんよね。ヘンリーは、いつの時代の、どこの場所に行くのか本人にもわからないのですが、『ターミネーター』と違ってただの人間なので、彼の日常生活は相当、大変です。真冬に素っ裸で街角に現れたりする訳ですから、まずは服や食べ物を捜して盗むことになります。警官に追いかけられるのは勿論、時には変態に間違えられたりします。その苦労は可哀そうやら、可笑しいやら。 そんな時間旅行者の苦労を観て思い出すのは、同じような超常能力者、透明人間をリアルに描いた2編。ジョン・カーペンター監督のSFコメディ『透明人間』(1992年)の主人公は、食べたものは透明にならないため、細かく噛み砕かれて食道で消化されていく様子を見るはめに。なんだか一気に食欲が無くなりそうです。ポール・ヴァーホーヴェン監督のSFホラー『インビジブル』(2000年)の主人公は、透明な瞼のために常に目が開いた状態になって眠れなくなる(アイマスク付ければ解決じゃないの?)という苦労が描かれます。 こうして見ると、タイムトラベラーも透明人間も、想像するより苦労が多そうですね。 “タイムトラベル映画”で常に気になるのは、タイムパラドックスです。本作の場合、ヘンリーとクレアはどちらが先に出会ったのでしょうか? ヘンリーが6歳のクレアに会えたのは、20代のヘンリーが20歳のクレアと恋愛し、クレアの少女時代に行きたいと願ったから出会うことが出来た。そしてクレアは、6歳の時、30代のヘンリーに出会い、次第に運命の人と思うようになり、20歳の時、本当にリアルタイムのヘンリーと出会うことが出来た。卵が先か、鶏が先か、まさに哲学的な命題です。 このように、本作が、ただのラブ・ストーリーではないという事は、おわかりいただけたましたよね。でも、そんな科学や哲学的要素をものともせず、王道のラブ・ストーリーを熱演しているのが、演技派の二人です。 レイチェル・マクアダムスは『きみに読む物語』(2004年)で日本でも知られるようになり、最近では3/12から公開の『シャーロック・ホームズ』(2009年)など大作にも出演する注目の若手女優。対するエリック・バナは『トロイ』(2004年)、『ミュンヘン』(2005年)、『ブーリン家の姉妹』(2008年)などでシリアスな役を演じる演技派俳優。二人の演技力で、この一風変わったSFストーリーを見事にカバー。その説得力は、さすがだと思います。 監督のロベルト・シュレンケは、ジョディ・フォスター主演のサスペンス・アクション『フライトプラン』(2005年)を演出した人で、本作を観る限り、およそ恋愛映画が得意な方のようには見えません。そのためもあってか、せっかくのブルース・ジョエル・ルービンの脚本が活かされず、涙のラブ・ストーリーという感じではなくなっているところがあります。ですが、この作品、私はなぜか、憎めないんですよね。映画は総合芸術と言われる通り、原作、脚本、俳優、そして演出などとの組み合わせによって、思いもよらない作品が出来上がったりします。その偶然性が映画の面白さのひとつであると思うのです。本作は、その偶然の産物が作りだした、数少ない珍品のひとつだと思えるのです。ぜひ、ご覧になってみてください。 3/10に発売されたDVDには特典映像として、メイキング:時を越えた愛の物語(21分)が収録されています。 最後に、“SFラブ・ロマンス”という言葉にぴったりの名作があるのでご紹介しておきます。それは、“スーパーマン”俳優として知られた故クリストファー・リーヴと、米TV『ドクター・クイーン/大西部の女医物語』や映画『007』のボンドガールとしても知られるジェーン・シーモア主演の『ある日どこかで』(1980年)。美男美女の時空を越えた恋愛を描く美しいラブ・ストーリーです。機会がありましたら、ぜひ、ご覧ください。 次回は、3/19にDVDが発売されるローランド・エメリッヒ監督の大型SFパニック『2012』(2009年)をご紹介します。
2010年03月11日
アカデミー賞授賞式が3/7(日本時間3/8)に開催され、世界興行記録更新中の『アバター』(2009年)を抑えて、『ハート・ロッカー』(2008年)が主要6部門(作品賞、監督賞、脚本賞、編集賞、音響調整賞、音響編集賞)を受賞しました。 今回は、『アバター』のジェームズ・キャメロンの元妻であるキャスリン・ビグローが監督した、3/6より劇場公開中の戦争アクション『ハート・ロッカー』とその関連作をご紹介します。 2004年夏、イラク・バグダッド郊外。アメリカ軍の爆発物処理班は、死と隣り合わせの前線で日々爆弾の処理を行うスペシャリストたち。ブラボー中隊に赴任してきたウィリアム・ジェームズ二等軍曹(ジェレミー・レナー)は、基本の安全対策を無視した行動が目立ち、補佐に付くJ.T.サンボーン軍曹(アンソニー・マッキー)とオーウェン・エルドリッジ技術兵(ブライアン・ジェラティ)は日々、不安を募らせていた。彼のような命知らずのリーダーに付いていたら、死期が早まるだけだからだ。彼は、ただ虚勢を張っているだけなのか、それとも勇敢なのか-。ブラボー中隊の任務明けまで、あと38日…。 イラクの兵隊用語で「ハート・ロッカー」には、「“行きたくない場所/棺桶”にお前を送りこむ」という意味があるそうです。イラクにおける米軍兵士の戦死理由の半数以上が爆弾によるもので、爆弾処理に携わる技術兵の死亡率は、他の兵士に比べ5倍も高いといいます。その現状を、ジャーナリストのマーク・ボールが実際に取材した体験を基に描いたオリジナル脚本を映画化。ブラボー中隊の3人のキャラクターはフィクションですが、そこに描かれる爆弾処理班の実情には、事実が多く盛り込まれています。 マーク・ボールは、“21世紀の戦争におけるヒロイズムの代償と勇敢さの限界”をテーマとしながらも、連日、反乱軍が仕掛けた爆弾が爆発する恐ろしく危険な町バグダッドで、地道に爆弾処理をし、多くの人々の命を救っている彼らの存在を知らせたかったと語っています。 監督のキャスリン・ビグローは、リアリティを追求し、イラクの隣国ヨルダンで、50度を超す炎天下の元、砂、風、太陽、熱さと格闘しながらの過酷な撮影を行いました。キャストには無名の役者を起用し、エキストラには実際に戦争を逃れてきたイラク人が参加。また、4台のカメラを同時に回すスタイルで臨場感溢れる映像を実現。 本作は、ジャーナリストの視点から見たイラクの実情を描いている所に意義があります。戦争の是非を問うのではなく、あくまでも彼ら爆弾処理班たちの日常をリアルに描いています。そのため、ドラマやサスペンスを盛り上げるということはしておらず、冒頭からいきなり、観客は戦場に放り込まれ、彼らが日々感じている極度の緊張とストレスに、観客も共にさらされているような感覚になります。 “爆弾処理”という行為自体が危険ですが、ストレスはそれだけではありません。爆弾はバグダッドの街のありとあらゆる所に仕掛けられています。子供たちが遊び、一般市民が行き交う市街地や、車の中、自爆テロ、人間の身体の中に直接仕掛けられたおぞましい人間爆弾…。市街地であっても、誰が一般市民で、誰がテロリストか全くわからない現状。命を救おうとしている市民にも歓迎されず、近づく市民に銃を突きつけ追い払う米兵たち。任務明けまであと何日、という表示は出るものの、爆弾処理の繰り返しの毎日に、次第にストレスを募らせる彼らの心情がそのまま乗り移り、観ているこちらも、かなりのストレスを体験することになります。また、ドキュメンタリー風の手持ちカメラによる撮影が全編続くので、画面の揺れが相当激しく、三半規管の弱い方は、それだけでも体力を消耗します。 ただ、本作はドキュメンタリー・ドラマではないので、途中で爆弾処理班が砂漠で攻撃を受け、派手な銃撃戦を繰り広げるアクション・シーンがあったり、ウィリアム・ジェームズ二等軍曹がヒロイックに描かれたりと、エンタテインメント作品としての要素も持ち合わせています。一方で、イラク戦争についての基礎知識や彼ら主要キャラクター3人のバックグラウンドが描かれていないので、アメリカ人以外には理解しずらい部分もあります。 彼らが消防士やレスキュー隊員なら、誰にでも判り易く、身近な存在として感情移入が出来ますが、この作品の米軍兵士が何を考えて爆弾処理を行っているのかについては、外国人の我々には、いまいちピンときません。その辺りは、もう少し丁寧に描いて欲しかったと思います。 脚本のマーク・ボールも、監督のキャスリン・ビグローもアメリカ人であり、アカデミー賞もアメリカの映画賞だという事実は考慮すべきでしょう。 製作・脚本のマーク・ボールは、長編ノンフィクション作家としてキャリアをスタートし、現在は『プレイボーイ誌』に記事を寄稿。やはり、イラク戦争を題材にした実話を執筆した「Death and Dishonor」が映画『告発のとき』(2007年)の原案となりました。 本作で女性初のアカデミー賞監督となった製作・監督のキャスリン・ビグローは、ウィレム・デフォー主演『ラブレス』(1983年)で監督デビュー。ジェームズ・キャメロン製作総指揮でキアヌ・リーブス&パトリック・スウェイジという2大青春スターが主演の潜入捜査サスペンス『ハートブルー』(1991年)、ハリソン・フォード&リーアム・ニーソン主演の潜水艦映画『K-19』(2002年)など大型アクション映画を手掛け、『ハート・ロッカー』は7年ぶりの劇場映画監督作となります。 主演男優賞にノミネートされたジェレミー・レナーは、『ジェシー・ジェームズの暗殺』(2007年)の強盗団メンバーや『28週後...』(2007年)の正義感の強い兵士などで、脇役ながら印象的な役柄を演じてきました。 その他、脚本に共感したレイフ・ファインズ、ガイ・ピアース、デヴィッド・モースなどがゲスト出演しています。 ほとんど知らされていない現代の戦争の姿と、イラクの前線で戦う米兵たちの実情を描いた戦争アクション。イラクでの現実を、これほどリアルに描いた作品はなかったのではないでしょうか。 次回は、3/10にDVD発売予定のSFラブ・ロマンス『きみがぼくを見つけた日』(2009年)をご紹介します。
2010年03月08日
量産されるB級アクションの中から、リーアム・ニーソンが初めてアクション映画の主演に挑んだ女性にもおススメ出来る作品が登場。今回は、3/5にDVDが発売されたリュック・ベッソン製作・脚本のフランス産サスペンス・アクション『96時間』(2008年)をご紹介します。 ブライアン(リーアム・ニーソン)は政府の元工作員。家庭を顧みずに妻レノーア(ファムケ・ヤンセン)と離婚し、娘キム(マギー・グレイス)とも疎遠の生活を送っていた。そんな折、友達とパリ旅行に出かけた娘キムが、旅行者を狙った犯罪組織に拉致されてしまう。偶然にも、その時、キムと携帯電話で話していた父ブライアンは、犯人に向かって叫ぶ。「お前が何者かは知らない。娘を返すなら見逃してやる。だが、返さないなら、お前を捜し、お前を殺す」。ブライアンは単身、パリへ向う…。 愛娘を救うため、父親がたった一人で巨悪犯罪組織に立ち向かう!『レオン』(1994年)のリュック・ベッソンらしい、“愛のために戦う男”を描いたロマンティックなサスペンス・アクションです。ストーリーは単純明快で新鮮味はゼロですが、本作は、ただ1点、「演技派俳優のリーアム・ニーソンが主演している」ということだけで観る価値があります。 リーアム・ニーソンは1952年、北アイルランド生まれ。彼の代表作は、何といってもアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた『シンドラーのリスト』(1993年)。この作品でユダヤ人を救済した実在のドイツ人実業家オスカー・シンドラーを演じ脚光を浴びました。 イギリスの舞台俳優時代にジョン・ブアマン監督に見出され『エクスカリバー』(1981年)で映画デビュー。1990年には『スーパーマン』シリーズのサム・ライミ監督・原作・脚本によるダーク・ヒーロー『ダークマン』の主役を務めたり、『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(1999年)でクワイ=ガン・ジンを演じるなど、意外とヒーロー役を多く演じています。そんな彼が、ヴェネチア国際映画祭で主演男優賞を受賞したのが、『マイケル・コリンズ』(1996年)。アイルランド独立を指揮した実在の政治家を、やはりアイルランド出身の二ール・ジョーダンが監督し映画化した骨太の社会派ドラマです。 リーアムは、本作を、この『マイケル・コリンズ』のような男度の高い熱血ドラマと同じテンションで演じている訳ですから、アクション俳優たちが演じるナルシストなスター演技とは違った、アクター系の芝居で魅せてくれます。 娘を救いたい一心の父親の姿を熱演する彼には、感情移入すること必至。元工作員なので、ほぼ無敵状態。非情な手段で犯人を追い詰めていきます。その姿は、A・J・クイネルの名作小説『燃える男』のクリーシーばりのカッコよさ。リーアム、説得力あり過ぎです! 監督は『トランスポーター』(2002年)などのベッソン製作映画の撮影で経験を積み、『アルティメット』(2004年)で初監督を務めたピエール・モレル。94分というタイトな上映時間も良く、一気に観ることが出来ます。終盤は、タイムリミット・サスペンスでは無くなってきますが、原題は『TAKEN』で、タイム・サスペンスがメインの作品ではありませんので、邦題は気にせず、観てください。 拉致される娘キムを演じるのは、米TV『LOST』にシャノン役で出演していたマギー・グレイス。ブライアンの元妻レノーアを演じるのは、『007/ゴールデンアイ』(1995年)の悪役ボンドガールで強烈な印象を残し、アメコミの映画化『X-メン』シリーズでジーン・グレイを演じたファムケ・ヤンセン。 その他、アイドル歌手・シーラを演じている金髪美形のホリー・ヴァランスにも注目。彼女が気に入った方は、迷わず人気ゲームを映画化したバトル・アクション『DOA/デッド・オア・アライブ』(2006年)を観てください。この作品、ケイン・コスギやデヴォン青木といった日系俳優が出演し、武道系、プロレス系などあらゆる格闘戦をみせてくれます。その中でも、全裸のホリー・ヴァランスが空中ブラ投げ装着を行うセクシーなシーンが最高。あくまでもコカ・コーラのCM的な健康美を描いているので女性も楽しめる作品です。ただし、セクシー・アクション、オンリーの作品ですので、過度の期待は禁物です…。 たまにはビール片手に、理屈抜きで楽しめるB級アクションでストレス解消してみてはいかがでしょうか? 次回は、アカデミー賞で元夫ジェームズ・キャメロン監督作『アバター』と一騎打ちを繰り広げるキャスリン・ビグロー監督の戦争アクション『ハート・ロッカー』(2008年)と、その関連作をご紹介します。
2010年03月05日
3/3にDVDが発売されるアニメ『サマーウォーズ』(2009年)を知っていますか? 第13回文化庁アニメ芸術祭大賞、毎日映画コンクールのアニメーション映画賞、東京アニメアワードのアニメーションオブザイヤーを受賞するなど、2009年の劇場アニメNo.1に輝いた作品です。そのアイデアの面白さと斬新なファンタジー世界は、「普段、アニメはジブリしか観ないよ」というような方におススメしたい力作です! 17歳の理系少年、小磯健二は、数学オリンピックの日本大会に出る程の数学の天才。夏休みに物理部の部室で仮想世界“OZ”の保守点検のバイトをしていた。ところが憧れの夏季先輩に頼まれ、長野県上田市に住む彼女の大おばあちゃんの90歳の誕生会の手伝いに行くはめに。その家は室町から続く武家の一族で、日本中から親戚が集まっていた。そんな時、仮想世界“OZ”のセキュリティーが破られ、世界中が大混乱を起こす…。 仮想世界“OZ”というのは、インターネット上のコミュニティサイトのこと。そこでは、すべての言語が同時通訳されるため、自分のアバターを登録することによって、世界中の人と会話することが出来るし、ショッピングやビジネスや納税も出来る。そんな夢のようなバーチャル世界が本作の舞台のひとつ。 そして本作のもうひとつの舞台が現実世界。おとなしい都会の少年・健二が、夏休みに好きな先輩・夏季と一緒に田舎に行き、大おばあちゃんを中心とした大勢の家族との賑やかな生活を体験します。彼らの団結力や強い絆に触れたり、夏季の素顔を垣間見たり…。 本作は、そんな健二が現実世界と仮想世界とを行き来しながら、夏季の一族と共に、“OZ”を乗っ取った巨大な悪と戦うという奇想天外なSFファンタジーなのです。 センス・オブ・ワンダー溢れるスケールの大きなSFと、少年の恋と成長という青春ものが融合した斬新で先の読めないストーリーは抜群。 監督の細田守は、前回手掛けた劇場アニメ『時をかける少女』(2006年)でも数々の映画賞を独占。キャラクターデザインには『新世紀エヴァンゲリオン』や『ふしぎの海のナディア』の貞本義行、脚本には『お引越し』(1993年)『学校の怪談』(1995年)など実写映画の奥寺佐渡子などが、前回に続いて参加。また、美術監督・武重洋二は、『もののけ姫』(1997年)、『千と千尋の神隠し』(2001年)などのジブリ作品を数多く手掛けた実力派。 声の出演は、主人公の小磯健二に神木隆之介、夏季に桜庭ななみ、大おばあちゃんに富司純子、その他、“OZ”内の格闘場-バトルロードで活躍するキングカズマこと佳主馬に谷村美月など。 本作が評価されたのは、現代にマッチした素材を多く取り込んでいることでしょう。バーチャル世界では、キュートなデザインのアバターたちが活躍するという“アニメ”ならではの仕掛けを施しながら、現実世界では、孤独な都会の少年を通して、勇気を持つことや恋することの素晴らしさ、家族の絆の大切さなどを訴えかけます。まさに本作は、草食系男子への応援歌になっているんですね。 また、長野の自然やギャンブル“花札”といった日本独自の文化を物語の背景や重要なアイテムに使っているということも評価出来ます。 ジブリ作品は物語性よりテーマ性重視の作品が多いですが、アイデアや素材の面白さで魅せるという、ジブリとは違った作品作りも高く評価出来ます。ジブリ同様、海外に出しても恥ずかしくない作品だと思います。 とはいえ、脚本には、気になる所がちらほら。後半の重要なシーンで中学生の佳主馬、次に夏季と、物語の中心がシーンによって交代してしまうので、主人公であるはずの健二が途中で影が薄くなってしまいます。そのため、クライマックスの盛り上がりにちょっぴり水が刺さります。また、健二と夏季の関係を、もう少し丁寧に描いた方がクライマックスの感動が大きかったと思います。そもそも話が封建的すぎる、女性キャラが弱すぎる、というのもあります。ただ、男子向きの話で、主題はしっかりしているので、それは仕方がないかもしれませんが。 と文句を書いてしまいましたが、観ている間はとっても面白くて、ドキドキハラハラ、その上、2箇所のシーンでウルウルきちゃったんですよね。つまるところ、本作はとても面白いんです。こんなアニメには、なかなか出会えないので観ないと損です!細田監督の次回作も期待してます! 次回は、3/5にDVD発売予定のリーアム・ニーソン主演サスペンス・アクション『96時間』(2008年)をご紹介します。
2010年03月01日
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