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2/20より全国20館で劇場公開中の邦画『パレード』がベルリン国際映画祭パノラマ部門・国際批評家連盟賞を受賞。今回は、『パレード』とその関連作をご紹介します。 『パレード』の原作は、芥川賞作家、吉田修一の同名小説。本作「パレード」で第15回山本周五郎賞を受賞。その他、『7月24日通りのクリスマス』(2006年)など、映像化された作品も多い作家です。監督・脚本は、『GO』(2001年)で日本アカデミー賞監督賞を受賞し、『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年)などの大ヒット作も手掛ける行定勲。原作者の吉田修一と同い年で同郷(九州)という行定監督が、映画化を熱望し、自ら脚本も手掛けた作品。 行定監督は、本作について「現代の若者の内面に宿る“モラトリアム”がテーマ」と語っており、エンターテイメント性の高い大作を手掛けている時とは全く違う立ち位置で、物語性を排し、一見、健康的な現代の若者たちの心に潜む闇の部分を、彼らの日常の何気ない会話の中に表現しようとしています。 そのため、作品のトーンに明るさは無く、若者の日常に合わせたけだるい感覚で時間が流れていきます。状況説明がないままに、各登場人物のエピソードを羅列し、ラストの問題提起へと繋げています。 本作のように独立したシーンの羅列で物語が進み、最後にすべてが繋がってオチを迎えるという手法は『パルプ・フィクション』(1994年)などのクエンティン・タランティーノが得意とするものです。この物語をパズルのように組み立てる作劇は、映画作家なら一度はやってみたくなるのかもしれませんね。最近では『ゴールデン・スランバー』で話題の伊坂幸太郎・原作&中村義洋・監督コンビによる『フィッシュ・ストーリー』(2009年)も、同じような物語の組み立てになっていました。 本家であるタランティーノは最新作『イングロリアス・バスターズ』(2009年)でも相変わらずこの作劇手法を使っています。ご覧になった方なら、わかりますよね。各シーンにオチはつけているものの、話は投げっぱなしでラストへ。「あの最初のシーンで、ユダヤ人を匿っていた家の美女三姉妹は、結局、どうなったの?」なんて、タランティーノは全く、気にしていないでしょう、きっと…。 話を戻して、『パレード』出演者について。同じアパートに共同で住む5人を演じているのが、藤原竜也、香里奈、貫地谷しほり、林遣都、小出恵介という人気若手俳優たち。 『パレード』は、小出恵介が以前に出演した『キサラギ』(2007年)のように、俳優たちのアンサンブル演技を楽しむことが出来る作品です。しかも出演者全員、今までにない役柄を演じ、役者としての新境地を開拓している所が見どころです。 健康オタクでしっかり者。5人の中ではリーダー的存在の伊原直輝を演じるのが藤原竜也。蜷川幸雄演出の舞台「身毒丸」オーディションで主役を勝ち取りデビュー。蜷川演出の舞台上がりの彼は、一般の役者と違ったオーラを持ち、映画でも『バトル・ロワイアル』(2000年)、『DEATH NOTE デスノート』(2006年)といった現実離れした役が中心。今作では演劇調ではない自然体の演技を見せる彼が、他の4人と自然にからめているかに注目。 酒癖の悪いイラストレーター兼雑貨屋店員の相馬未来を演じる香里奈。ペプシネックスのCMやTVドラマ『ラブシャッフル』『リアル・クローズ』など、モデル出身のスタイルを活かしたファッショナブルな作品が多いですが、映画では『しゃべれどもしゃべれども』(2007年)の無愛想で口下手な女性など訳ありな役もこなしています。今回は、「絶対、普段から吸ってるでしょ!」というヘビースモーカーぶりに注目。 人気若手俳優の彼女役、相馬未来を演じる貫地谷しほり。NHK朝ドラ「ちりとてちん」の主役をこなしただけあり、どんな役にも成りきる演技派女優。映画『スウィングガールズ』(2004年)ではトランペット奏者を演じていました。本作で、画面に映っている時間が一番、長いのは彼女かも。各メンバーと会話する時の、彼女の受けの芝居に注目。 謎の少年、小窪サトルを演じるのは林遣都。『バッテリー』(2006年)、『ダイブ!!』(2008年)と運動系の映画で若いながらに主役を張る、往年の映画スターの雰囲気を持った若手俳優。小出恵介とは、箱根駅伝を描いた『風が強く吹いている』(2009年)でも共演。本作では、これまでの爽やか運動系とは全くかけ離れた、初の汚れ役といってもいい役どころ。彼の存在感に注目。 いたって普通の大学生、杉本良介を演じるのは小出恵介。TVドラマでは『のだめカンタービレ』『ごくせん』『ROOKIES』と、必ず脇役の一人に配されて邪魔しない、使い勝手の良い俳優。映画でも、『パッチギ!』(2004年)、『ウォーターボーイズ 2005夏』(2005年/TVM)から、新垣結衣・主演の『恋空』(2007年)、成海璃子・主演の『きみにしか聞こえない』(2007年)、綾瀬はるか・主演の『僕の彼女はサイボーグ』(2008年)など、女優の相手役も器用にこなす。そんな爽やかイメージを覆すファンビックリの役柄に注目。 今、若手の俳優さんたちは層が厚いですが、このような文学系のアート作品に出演することはまれです。『パレード』では日頃のTVや映画のエンターテイメント作品とは違った彼らの演技を観ることが出来ます。 ちょっと疲れる問題作ですが、ぜひ、挑戦してみてください。 次回は、3/3DVD発売予定のジブリに対抗する名作アニメ『サマーウォーズ』(2009年)をご紹介します。
2010年02月26日
最近の米TVドラマとしては『24-TWENTY FOUR』に次いで日本でもヒットシリーズとなった『LOST』のクリエイター、J.J.エイブラムスが放つ『FRINGE/フリンジ』が2/24DVD発売&レンタル開始! 今回は、『FRINGE/フリンジ』ファースト・シーズンの魅力や見どころをいち早く紹介します。 おススメのポイントとなるキーワードは「J.J.エイブラムス」「現代科学で解明不可能な事件を毎話解決」「レギュラーメンバーのキャラクターいじり」の3つ。さらに「Vol.1」のあらすじとDVD発売情報もお伝えします。 まずは、「J.J.エイブラムス」。 J.J.エイブラムスと言えば、製作、監督、脚本もこなす、ハリウッドで大成功を収めている若手大物クリエーターです。TVドラマでは『LOST』の他、ジェニファー・ガーナー主演のスパイ・サスペンス『エイリアス』や、青春ドラマ『フェリシティの青春』も彼の企画です。映画では、あの『アルマゲドン』(1998年)の脚本を手掛け、『エイリアス』を観たトム・クルーズに抜擢された『M:i:III』(2006年)では監督・脚本を、インターネットの動画を使った巧妙な宣伝方法で世界的ヒットとなった『クローバーフィールド/HAKAISHA』(2008年)ではプロデュースを、さらに新生『スター・トレック』(2009年)では製作・監督と、切れ者ぶりを発揮。 『スター・トレック』のDVDに収録されている特典映像を見れば、彼がいかにクリエイティブなアイデアマンで、そのアイディアを次々と作品に活かしていく行動力の持ち主であるのかがわかります。また、現代の映像作品に必要なCGIやVFXなどの特撮技術や、照明やカメラなどの撮影技術にも長けていることに驚きます。こういうマルチな才人は、往々にしてインディーズ志向になりがちですが、エイブラムスはとってもメジャー志向。だから、次々とヒット作を生み出すことが出来るのですね。 そんな彼の名を日本に知らしめたのは、ご存じ、『LOST』です。謎が謎を呼ぶ物語と、出演者の多さを活かしたキャラクターの掘り下げにより、誰かしら好きなキャラが出来るように仕組まれていて、ハマった方もたくさんいるでしょう。その反面、SF落ちでも、夢落ちでも、ホラー落ちでも、何でもありの展開と、一向に進まない謎の解明に嫌気がさして、観るのを止めてしまった方もいるんじゃないでしょうか? でも、『FRINGE』は違います。『LOST』同様、本作の根幹には大きな謎がありますが、連続ものとして引っ張り続けません。『FRINGE』は一話完結が基本。どのエピソードも一応の解決を見る形で終わるので、『LOST』のような宙ぶらりんな感じにはなりません。 注目は、各話にサブリミナル的に登場するカエルやリンゴなどの絵。これらの絵に隠された科学的なメッセージが作品の重要なポイントとなっているのです。アメリカではそれらの意味がネットで活発に議論されているようです。もうひとつ、各エピソードには、必ず次回の手掛かりが隠されていて、それが何かを見つける楽しみもあります。こうしたJ.J.エイブラムスらしい様々な仕掛けで視聴者を魅了するのが『FRINGE』なのです。 2つ目は「現代科学で解明不可能な事件を毎話解決」。 『FRINGE』は、毎話、国家を脅かす重大事件が発生し、FBI捜査官が事件を解決するSFサスペンス・アクションです。事件は、サイコキネシス、テレポーテーション、マインド・コントロール、幽体離脱、予知、ナノ・テクノロジー、人工知能、透明人間、死者の蘇生といった、非主流科学、疑似科学の分野に関するもの。まるで『X-ファイル』かアメコミです。そんな現代科学では解明不可能な事件をどうやって解決していくのかが、本作の見どころ。『X-ファイル』では、犯人やエイリアンを突き止めるだけで解決には至らないことも多くありました。また、『X-ファイル』と同じ男女二人で事件を解決する『BONES ボーンズ』は、現代に起こり得る事件が対象でした。『FRINGE』の場合は、不可解な事件を見事に解決してしまうのです。それも『X-ファイル』のような暗さはなく、あくまでポジティブに明るく。これが『FRINGE』最大の魅力です。 3つ目は「レギュラーメンバーのキャラクターいじり」。 『FRINGE』のレギュラーメンバーはメインの3人+5人。主役のオリビア・ダナム(アナ・トーヴ)はFBIボストン支局の捜査官。金髪で離れ目の彼女は、美人というより愛嬌のある隣のお姉さんといった感じ。オリビアに協力するウォルター・ヴィショップ(ジョン・ノーブル)博士は、“アインシュタシンの後継者”と言われる天才科学者。1970年代に国防総省の研究者として従事しますが、人体実験の失敗で助手を死なせ、過失致死罪で起訴。精神鑑定で罪を逃れ17年間精神病院に入院。その息子、ピーター(ジョシュア・ジャクソン)は、IQ190の天才ですが、高校を中退し、職を転々とする社会不適応者。彼ら3人が事件の捜査にあたります。特にキャラが個性的なのはウォルター。長いこと精神病院に入っていたせいで記憶力に乏しく、その言動も予測不可能。彼の計り知れない頭脳によって事件を解決する妙案が浮かびます。息子ピーターはそんな父のお守役であり、FBIの知らない闇社会にも精通し、思わぬ人脈を駆使します。そんな天才二人に対し、唯一、マッチョなのがオリビア。考えるより行動し、事件解決のためには死をもいとわない熱血ぶり。上司に「感情的になるな」といつも怒られっぱなし。彼らの凸凹トリオぶりが、毎話、楽しくコミカルに描かれます。 さらに、3人の上司となる国土安全保障省のフィリップ・ブロイルズ捜査官(ランス・レディック)はクールでシャープな黒人男性で、オリビアの助手アストリッド・ファーンズワース(ジャシカ・ニコール)はスタイル抜群の黒人女性。その他、ベテラン女優のブレア・ブラウンが大企業マッシブ・ダイナミック社の重役を演じ、なんと『スター・トレック』のスポックことレナード・ニモイが重要な役で登場。 出演者の人数を抑えることによって、彼ら一人ひとりのキャラクターを掘り下げ、それぞれの魅力を惹き出しています。 次は、ドラマの1話目にあたるパイロット版のあらすじを。 このパイロット版の製作費は前代未聞の10億円!エミー賞経験を持つアレックス・グレイブスが脚本を担当。J.J.エイブラムスの『FRINGE』シリーズにかける意気込みを感じる入魂の第1話となっています。 国際線旅客機がボストンに着陸するが生命反応がない。乗客乗員は全滅したのだ。一体、機内で何があったのか?FBI捜査官のオリビア・ダナムらが捜査に乗り出す。オリビアの相棒、ジョン・スコット(マーク・バレー)が瀕死の重傷を負う中、捜査線上にマッシブ・ダイナミック社の重役ニーナ・シャープが浮かぶ。事件解決のためには、精神病院に入院中の天才科学者ウォルター・ヴィショップが必要であるとわかり、その息子ピーターと共に協力をあおることになる。一連の事件の陰には、米政府が最高顧客である巨大企業、マッシブ・ダイナミック社の関与が考えられるほか、これらが“パターン”と呼ばれる現象の一部であることがわかる。かくして、オリビア、ウォルター、ピーターの3人は、国土安全保障省のフィリップ・ブロイルズ捜査官の指揮下に入り、これらの難事件に挑むことになる…。 最後にDVDの発売情報について。 2/24に発売されるのは、このパイロット版(第1話)を収録したDVD「VOL.1」(82分)のみ。初回版にはボーナスディスクが入っています。 3/10には、2話~11話(500分)を収録したDVD5枚組の「BOX1」が発売。このBOXは、「VOL.1」を収納できるスペースがあるボックス仕様となっています。 続く4/7には12話~20話(450分)を収録したDVD5枚組の「BOX2」が発売。こちらは、初回のみ特典DISCが封入されたDVD6枚組仕様となります。 また、Blu-Ray版も通常DVDと同じリリース日に同時発売されます。 ※ご予約の方は初回版の可能性が高いですが、各店在庫にもよりますので、各店舗へ直接、お問い合わせください。 さて、トレッカー(『スター・トレック』マニア)でSF好きの私もはまった最新TVドラマ『FRINGE』に乞う、ご期待! 次回は、2/20から劇場公開中の邦画『パレード』関連作をご紹介します。
2010年02月23日
2/19に行われたバンクーバーオリンピックのフィギュアスケート男子、高橋大輔選手が銅メダルを受賞!いよいよ2/24から始まるフィギュア女子も楽しみですね。 フィギュアスケートに欠かせない音楽には、クラシックやオペラ、ミュージカル音楽、映画音楽などがあります。2/10に発売されたCD『マイ・フィギュアスケート・アルバム2010』には、浅田真央選手が使用するハチャトゥリアン「仮面舞踏会」など人気選手の2010年フィギュア使用曲が多数、収録されています。その他、CD『スケーテイング・ミュージック 2010』などが発売されています。 今回は、その中から高橋大輔選手が使用した『道』や、織田信成選手のチャップリン、キム・ヨナ選手の『007』など、特に映画音楽とその作品をご紹介します。 まずは、高橋大輔選手が使用した映画音楽『道』について。 映画『道』(原題:LA STRADA/1954年/イタリア)は、20世紀を代表する巨匠フェデリコ・フェリーニが監督し、世界の傑作映画100選などに必ず入る名作です。ヴェネチア国際映画祭サン・マルコ銀獅子賞、アカデミー賞外国語映画賞を受賞しています。 旅芸人のザンパノは、芸の手伝い役としてジェルソミーナをタダ同然で買い取り、女房代わりにしていた。ザンパノは粗野で暴力を振るうが、頭が弱くて心の素直なジェルソミーナは、それでも彼についていった。ある日、綱渡り芸人にからかわれて怒ったザンパノはナイフを持ち出し逮捕されてしまう…。 純粋で美しい心の持ち主であるジェルソミーナと、彼女の献身ぶりに気づかず辛く当たるザンパノ。やがて二人に起こる悲劇が胸を打つヒューマンドラマの傑作です。 音楽を担当したのは、フェリーニ作品に欠かせない作曲家ニーノ・ロータ。 その甘く抒情性豊かな音楽にのせた、高橋選手の力強くて感情表現豊かな演技は、多くの人々に感動を与えました。 ニーノ・ロータはクラシック音楽も手掛け、フェリーニ作品の他、コッポラ監督の『ゴッドファーザー』(1972年)や、アラン・ドロン主演の『太陽がいっぱい』(1960年)、オリビア・ハッセー主演の『ロミオとジュリエット』(1968年)など誰もがどこかで聞いたことのあるメロディを数多く、輩出しています。 下記にリンクしているCD『Nino Rota Film Music: ニ-ノ ロ-タ映画音楽集 輸入盤』には彼の代表作12曲が収録されています。 次は、織田信成選手が使用したチャップリンについて。 “喜劇王”チャーリー(チャールズ)・チャップリンと言えば、トレードマークのちょび髭に、だぶだぶズボン、ドタ靴、山高帽、ステッキといういでたちで、サイレント時代からトーキー作品まで、自ら製作・監督・脚本・主演し、時には作曲もこなした名コメディアンです。笑いの原点は、幼少時代の極貧生活の経験によるもので、弱者の立場から権力を笑い飛ばす作風でした。織田信成選手は、そんなサイレント時代のチャップリンの仕草をコミカルに表現しています。 サイレント時代は『チャップリンの黄金狂時代』(1925年)などパントマイムを基本にしたドタバタ・コメディが主でしたが、やがて子供や女性など弱者への優しさや愛情を表現した『キッド』(1921年)、『街の灯』(1931年)、『ライムライト』(1952年)といった人情味溢れる作品を発表するようになり、遂には機械文明を皮肉った『モダン・タイムス』(1936年)、反戦思想を痛烈に謳いあげたブラック・コメディ『チャップリンの独裁者』(1940年)、『チャップリンの殺人狂時代』(1947年)などの社会的なテーマを描くに至りました。サイレント期の喜劇作品のイメージが強い方は、これらの作品をご覧になってみてください。現代にも通じるテーマが数多く描かれていることに驚くはずです。 下記にリンクしているCD『チャップリンの映画音楽』には、彼のオリジナル譜面を復元した組曲「キッド」「黄金狂時代」などが収録されています。 最後に、キム・ヨナ選手が使用している『007』について。 イギリスの作家イアン・フレミングのスパイ小説を映画化した1962年から続くスパイ・アクション・シリーズ。イギリスの諜報機関“MI-6”に所属する“殺しの許可証”を持つ男ジェームズ・ボンド(通称:007)が世界中を股にかけ活躍します。 この映画『007』シリーズに欠かせないのが、ボンドカー、秘密兵器、スタントマンによるリアル・アクションと同時にボンドガールの存在。キム・ヨナ選手は、強くてセクシーでクールなボンドガールのイメージを氷上で見事に表現。実際に映画に出演して欲しいと思うような圧倒的な存在感で魅せてくれます。 音楽はジョン・バリーと主題歌のモンティ・ノーマン。ジョン・バリーは、『野生のエルザ』(1966年)、『愛と哀しみの果て』(1985年)、『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(1990年)などでアカデミー賞作曲賞を受賞。イギリスを代表する映画音楽家の一人です。 CD『Best Of Bond: James Bond 輸入盤』には、ジェームズ・ボンドのテーマ曲、ジョン・バリーの劇中曲から2006年の『007/カジノ・ロワイヤル』の主題歌「ユー・ノー・マイ・ネーム」まで歴代主題歌を収録。マドンナ、デュラン・デュラン、a-ha、ポール・マッカートニー&ウイングスなど、聴けば知っている名曲ばかりの名盤です。 過去には、エンニオ・モリコーネ作曲による『ニューシネマ・パラダイス』(1989年)なども使用されています。フィギュアスケートに映画音楽の名曲が使用されることによって、観客にもイメージが判り易く伝わり、その作品のイメージがプラスされることによって、さらにフィギュアスケートの表現力に繋がる気がします。 映画を観ていなくても選手たちの表現によって充分に伝わりますが、映画を観れば、さらに感動が増すと思います。ぜひ、この機会に映画を観たり、映画音楽に触れてみてください。 次回は、大ヒット米TVドラマシリーズ『LOST』のJ.J.エイブラムスが次に放つ最新TVドラマ『FRINGE/フリンジ』ファースト・シーズンをご紹介します。
2010年02月22日
誰もが経験した10代の頃の、カッコ悪くて恥ずかしい体験の数々。でも、今から思うとあの時代が懐かしい。今回は、そんな輝かしい少年時代の1ページを、明るく爽やかに描いた音楽青春映画『色即ぜねれいしょん』(2008年)をご紹介します。 1974年の京都。文科系の高校1年生、乾純(いぬいじゅん)は、ボブ・ディランを崇拝し、シンガーソングライターを夢見ているが、ロックとはほど遠い平凡な毎日を送っていた。そんなある日、友達に「フリーセックスの島へ行こう」と誘われギター片手に隠岐島のユースホステルへ向かう。そこでヘルパーのヒゲゴジラや大学生の美女オリーブと出会い、純は少しづつ変わっていく…。 みうらじゅんの自伝的小説を、『アイデン&ティティ』(2003年)でも組んだ田口トモロヲ監督が映画化。みうらじゅん原作で、音楽ものというと、渋谷系の若者向け映画かと思ってしまいがちですが、大人も充分に楽しめる2009年の邦画ベスト10に入れたい良作に仕上がっています。 その勝因は、主人公の乾純を演じた渡辺大知の初々しくて、伸び伸びとした演技によるものが大きいですが、童貞少年のひと夏の経験を、カッコつけずに、意外と真面目に、それでいてコミカルにまとめた田口トモロヲの演出と、起承転結がしっかりしていてメリハリのある向井康介の脚本も良いと思います。 主人公の渡辺大知は、バンド“黒猫チェルシー”で活躍する神戸出身のミュージシャン。2000人の中からオーディションで選ばれたそうですが、人の良さそうな愛嬌ある顔立ちは、まさに適役。満面の笑顔と、コロコロ変わる豊かな表情で、10代の若者そのものの魅力を見せつけてくれます。ユースホステルのヘルパー、ヒゲゴジラを演じるのは、『アイデン&ティティ』で主人公を演じたバンド“銀杏ボーイズ”の峯田和伸。現在、公開中の『ボーイズ・オン・ザ・ラン』でも主演を務める彼は、本作でも役者としての貫録充分。『アイデン&ティティ』の面影なく、長髪と髭というむさ苦しい70年代ルックでヒゲゴジラに成りきっています。劇中で峯田が弾き語る「旅に出てみよう」には思わず感涙。また、くるりの岸田繁がヒッピーの家庭教師を演じています。彼ら3人は、本作の主題歌として伝説のバンド“村八分”の「どうしようかな」をカバーしています。なお劇中で渡辺大知が歌うのは、みうらじゅんが高校時代に実際に作った曲だそうです。 女優陣では、オリーブを演じる臼田あさ美が、ノーブラにタンクトップ、白いビキニといったセクシーな70年代ファッションを見せつつ、演技面でも失恋した少女の悩みや純への優しさを繊細に表現。新人賞、助演女優賞をあげてもいいんじゃないの?と思うくらいの熱演をみせています。純の母親を演じる堀ちえみは実生活で高校生の息子がいるからか“大阪のおかん”役が見事にハマってますし、純の初恋の恭子を演じる石橋杏奈も、純の恋心に無頓着な少女を好演しています。 音楽だけでなく70年代の風俗描写や高校生活にありがちなシチュエーションが、たくさん盛り込まれているのも本作の魅力です。ラジオ番組への投稿や、携帯のない時代に女の子に電話をかける苦労、始めてのお酒、始めてのデート。そして家庭教師やヒゲゴジラといった年上の男性から教わる大人の世界…。 さらに、本作のもうひとつの魅力は仲間との旅行。キャンプファイヤーを囲んで仲間と語り唄ったり、花火をしたり。特に、船での別れは、経験のある人なら思い出して泣けて来ること間違いなし。 旅行から帰った純は、文化祭ではじめて人前でオリジナル曲を披露します。彼の成長ぶりがわかるクライマックスと、その後の余韻たっぷりのラスト。日本人なら誰もが共感できる文科系男子の青春映画の決定版です。ぜひ、ご覧ください。 1/27に発売されたDVDは2種類あり、通常版(DVD1枚)と、特典CD&特典DVD&特製ブックレット&特製アウターケースがついた初回限定版(DVD2枚+CD1枚)があります。 次回は、バンクーバーオリンピックのフィギュアスケート男子で銅メダルを獲った高橋大輔が使用した映画音楽『道』や、織田信成が使用したチャップリンの曲など、フィギュアで使用されている映画音楽とその作品の魅力をご紹介します。
2010年02月19日
北欧家具や北欧雑貨といった北欧スタイルは、今や日本でも定番となりましたが、みなさんは北欧映画を観たことがありますか? 最も有名なのは、スウェーデン出身のラッセ・ハルストレム監督でしょうか。『アバ/ザ・ムービー』(1977年)を世界的に大ヒットさせた後、『マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』(1985年)が米アカデミー賞監督賞&脚本賞にノミネートされ、ハリウッドに進出。『ショコラ』(2000年)、『HACHI 約束の犬』(2008年)などを監督しています。そして、ビョーク主演の『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000年)を撮ったデンマーク出身のラース・フォン・トリアー監督、『浮き雲』(1996年)がカンヌで注目されたフィンランド出身のアキ・カウリスマキ監督とミカ・カウリスマキの兄弟など。 そこに、ぜひ加えていただきたいのが、ノルウェー出身のベント・ハーメル監督です。今回は、昨年2月に単館上映され、7月にDVDが発売された『ホルテンさんのはじめての冒険』(2007年/ノルウェー)他、ベント・ハーメル監督作をご紹介します。 『ホルテンさんのはじめての冒険』の主人公オッド・ホルテンは、ノルウェイ鉄道の運転手で定年退職を間近に控えています。真面目なホルテンさんは、勤続40年もの間、つつましくも規則正しい生活を送っていたのですが、ひょんなことから最後の出勤日に遅刻し運転するはずの電車に乗り遅れてしまいます…。 定年退職したホルテンさんが出会う奇妙な人々や予期せぬ騒動を、のんびりとした時の流れの中でユーモアたっぷりに描いたハートフル・コメディです。 ノルウェイ鉄道や、スキージャンプといった北欧ならではのモチーフをちりばめながら、北欧の厳しい寒さの中で生きる人々の生活ぶりや、彼らの心のぬくもりを感じる事が出来る温かな作品です。 ホルテンさんを演じるボード・オーヴェを始め、役者陣には馴染みが無いですが、ハーメル監督は、どの作品でも、表情に味わいのある個性的な役者さんを揃えているので、どの登場人物も魅力的で好感が持てます。 何より本作は、定年を迎えたホルテンさんを通して、「何事にも遅すぎるということはない」ということを教えてくれます。鑑賞後は、誰もがホルテンさんの新たな人生の始まりに拍手を贈りたくなります。 雪降る寒い季節に観ると心が温かくなるおススメ作です。 次はハーメル監督の代表作『キッチン・ストーリー』(2003年/ノルウェー=スウェーデン)について。1950年代にスウェーデンで実際に行われた台所調査を基に描く名作コメディです。 ノルウェイに住む老人イザックは、馬を貰えると聞いて独身男性の台所調査に応募。早速、スウェーデンから観察団が派遣され、調査員のフォルケがやって来る。調査員は、観察者と口を聞いてはいけない規則。だが、二人の間には次第に友情が芽生え始める…。 ハーメル作品のベストと言ってもいい完成度の高い作品です。冒頭からジャズ・スコアをバックに「家庭研究所」の研究が紹介され、奇妙なデザインのトレーラー・ハウスに乗った調査団がノルウェイに到着。そこから偏屈で頑固な老人イザックと、ちょっと抜けたところのある中年調査員フォルケとのおかしな生活が始まります。見ず知らずの他人が、段々と打ち解けて友情で結ばれていく過程が、オフビートな笑いをちりばめながら微笑ましく描かれていきます。 DVDの特典映像によると、ノルウェー人とスウェーデン人の違いも豊富に描かれていて、本国ではお互いに観客が笑い合って盛り上がったそうです。『ホルテンさん~』よりも、コメディ色が強く、ドラマ性に富んでいますが、こちらの作品も、ノルウェーの外気の冷たさや、庶民の生活の大変さを感じさせる一方、北欧家具やトレーラー、赤い木馬などのお洒落なデザインを楽しむことが出来ます。 本作には、もう一人、イザックの友人グラントが登場します。グラントは、フォルケにイザックを盗られたと感じ、とんでもない行動に出ます…。この後半の先が読めない展開と意外なラストには、思わず涙がこぼれます。 ハーメル監督は、どこにでもいるような庶民の生活をユーモアを交えて描く人情派の監督ですが、カウリスマキ作品ほどの暗さが無く、懸命に生きる庶民を応援する明るい作風が魅力です。彼の描く人々は善良で、どこか滑稽。「どんな人にも歴史がある」「人生は捨てたもんじゃないな」と思わせてくれる、監督の人間に対する温かな視線を感じます。特に、孤独な老人を元気づける作品が続いているのは、北欧の生活事情も関係しているのでしょうか。 最後は、マット・ディロン主演でチャールズ・ブコウスキーの自伝的小説「勝手に生きろ!」を映画化した『酔いどれ詩人になるまえに』(2005年/アメリカ=ノルウェイ)について。 自称“詩人”のヘンリー・チナスキーは、昼間から酒を飲み、詩や小説を書いては出版社に送っていた。酒場で出会ったジャンとのセックスに溺れ、仕事中に酒を飲んではクビになり、また、職を探すその日暮らし。そんなろくでもない人生の中で、書くことだけが彼の救いだった…。 酒、煙草、女、ギャンブルを愛する破滅型人生を生きたアメリカの詩人で作家、チャールズ・ブコウスキーの“作家修業時代”を基にした自伝的小説を、ハーメル監督が映画化。 ヨーロッパ出身の監督がアメリカ資本で映画を製作すると、自分らしさが損なわれがちですが、ハーメル監督は違います。作家性を維持しながら、原作の雰囲気を重視し、一見、ろくでなしのチナスキーを、愛おしい人物として描くことに成功しています。家具の色合いや間接照明による陰影など、ヨーロッパ調の撮影も作品に合っています。また、チナスキーを演じるマット・ディロン、ジャンを演じるリリ・テイラー、ローラを演じるマリサ・トメイなど出演陣も、飾ることなく顔のしわやくぼみまでリアルに描写され、生活感が漂っています。これも、メイクで汚れさせたり女優を美しく撮る通常のハリウッド作品とは異なる手法。『レスラー』では美しく撮られていたマリサ・トメイも、本作では、リアルに場末の年増女に見えてしまいます。ですが、女性の眼から見てもかえってリアルで、ハーメル監督は女性もしっかりと描く事が出来る監督なんだな、と改めて感心しました。脇役にも、ハーメル監督らしく人間味のある顔立ちの役者さんを揃えていて印象的です。全編にオフビートな笑いをまぶし、94分の上映時間をだれることなく、無駄なくすっきりと終わらせているのもさすがです。 ブコウスキーの人生は破天荒で、普通なら野たれ死にでしょうが、自分がしたいことだけをする自由な生き方に憧れるを感じるのも、また、事実。書くことに純粋なブコウスキーは、生まれながらのアーティストだな、と思います。 アメリカや仏、伊映画でないと、なかなか観る機会が無いと思いますが、人情味に溢れ温かなハーメル監督作品は、ぜひ、多くの方に触れてほしいと思います。 次回は、久々に邦画を。1/27にDVDが発売されたばかりの田口トモロヲ監督×みうらじゅん原作『色即ぜねれいしょん』(2008年)をご紹介します。
2010年02月17日
2/5より劇場公開中の『インビクタス/負けざる者たち』(2009年)が、先ごろ発表されたアカデミー賞主演男優賞、助演男優賞にノミネート。私も早速、劇場で観ましたが、ここ数年、哀しく辛い作品が続いたクリント・イーストウッド監督作としては、久々に鑑賞後に晴々とする会心作に仕上がっていました。 今回は、今年80歳という高齢でありながら次々と野心作を発表し続けるクリント・イーストウッド監督作の中から、2009年の洋画ベスト1であろう『グラン・トリノ』(2008年)と、同じくベスト10に入る『チェンジリング』(2008年)をご紹介します。 まずは『グラン・トリノ』から。 主人公、ウォルト・コワルスキーは朝鮮戦争の帰還兵。自動車工場を定年退職した後は、息子二人の家族や近隣の人々とほとんど付き合いをせず、ビールを飲みながら愛車“グラン・トリノ”を眺めるのが唯一の趣味。教会にも行かず、アジア人に「米食い虫め」「イエロー」などと悪態をつく始末。そんな偏屈老人が、隣家のアジア系モン族の少年タオと知り合い、その家族と交流を持つことで次第に心を開いていきます…。 『グラン・トリノ』は、『ミリオンダラー・ベイビー』(2004年)以来、久しぶりにクリント・イーストウッドが自ら監督・主演した作品で、クリント作品過去最高の興業収益を叩き出しました。なぜそんなにヒットしたのか?それは、“大スター”クリント・イーストウッドが再びスクリーンに蘇ったからなのです。 この作品の中でクリント・イーストウッドが演じるウォルトは、『ダーティハリー』シリーズや『アウトロー』(1976年)などの西部劇、その他数々のアクション映画で演じてきた役柄を彷彿させる演技で往年のファンを魅了します。銃を撃つまね、イーッと歯を食いしばる激怒顔、噛み煙草を吐き出すしぐさ、床屋や現場監督との荒っぽい男の会話。そんなクリント様の演技のひとつひとつが、昔からの彼のファンにとっては嬉しいのです。 クリント様が演じるウォルトは人種差別主義者で、男の面子を重んじる旧世代の頑固オヤジで、周囲の人々とうまく付き合えません。しかし実は妻を亡くし、子や孫とも疎遠で、しかも戦争で多くの人間を殺したことを悔いている孤独な老人なのです。そんなウォルトとタオ少年を初めとする様々な登場人物との葛藤を、監督であるクリント・イーストウッドはユーモアと厳しさあふれる語り口で描いていきます。前半80分、事件らしい事件が起きないにも関わらず、観客を全く飽きさせることはありません。そこに、イーストウッドの演出の巧さを感じさせます。昔のクリント出演作品を観ていない人でも、この前半でイーストウッド=ウォルトに親しみを感じるはずです。 しかし、後半、ウォルトのある行動をきっかけに、物語は急展開をみせます。彼はタオ少年の家族を不良グループから守ろうとして、良かれと思って鉄拳を振るいます。それによって暴力の連鎖がおこり、取り返しのつかない事件を招いてしまうのです。そしてウォルトは、自らの過ちと向き合い、決着をつけようとします…。 本作は『硫黄島からの手紙』(2006年)に続き、イーストウッドがアジアを題材とした作品です。朝鮮戦争でアジア人を殺した過去を持つ人間が、老境を迎えた今、アジア系のモン族の家族を守り、せめてもの罪滅ぼしをしようとします。でも、力と暴力でしか守る方法を知らないために、過ちを繰り返してしまうのです。 2000年代のクリント・イーストウッド監督作は、子や孫の世代へ自らの想いを継承していこうという意図の作品が多いのが特徴です。今回も、過去の過ちを繰り返さず、人種差別や暴力のない世界を築いて欲しいという、次世代への強烈なメッセージを感じます。 とはいえ、本作はスター映画としての要素が強く、インテリ層向けの高尚な作品とは言えません。では、何故、昨年のベスト1かと言えば、クリント・イーストウッド自らが、自分の作品を好んで観て来たファン、その中でも特にアメリカの労働者階級の白人に対して、これまでの生き方・考え方を再考しようと説教している作品だと思えるからです。この作品で、“強いアメリカ”の象徴であるクリント・イーストウッド演じるウォルトは、偏見を無くし、暴力を否定します。そして、ウォルトは自らの分身であり、アメリカン・スピリットの象徴である“グラン・トリノ”をアジア人のタオに継承させるのです。新しいアメリカを作り上げるために。 ところでタオの姉スーを黒人の不良グループから守れないひ弱な白人少年の役を、イーストウッドは実の息子スコットに演じさせています。これは「アメリカ白人たち、しっかりしろよ」というクリント様からの叱咤激励に他ならないのではないでしょうか。 次は、『チェンジリング』について。 1920年代に、腐敗したロス市警と戦った一人の母親の実話を映画化。主演のアンジェリーナ・ジョリーは、本作で初のアカデミー賞主演女優賞にノミネートされました。 シングルマザーのクリスティンが仕事を終えて帰ると、一人息子のウォルターが失踪していた。捜索願から5ヶ月。ロス市警が連れて来た息子は全くの別人だった。わが子ではないというクリスティンの主張を当時のロス市警は無視。再捜査を受け入れないばかりか、失態の暴露を恐れてクリスティンを精神病院へ強制入院させてしまう。同じ頃、不法滞在のカナダ人少年が、失踪した少年たちの大量虐殺を告白。その中にウォルターの名も挙がる…。 本作は、俳優出身のクリント・イーストウッドが監督しているだけあって、主演のアンジーの他、出演者たち一人一人に見せ場を用意し、俳優たちの個性的な演技合戦が楽しめる一級のサスペンス・ドラマに仕上がっています。 衣装や美術、当時のロスの街並みなどの再現が素晴らしく、ローラースケートを履いた女性の電話交換手といった風俗描写も丁寧に描かれています。 物語は3部構成になっていて、前半45分は、アンジーがひたすら大芝居で諦めない強い母親を熱演。中盤、アンジーが精神病棟に移ると、別の事件の捜査をきっかけに、ウォルターの失踪事件の真相が明らかになって来ます。そして後半は、少年の大量虐殺犯の裁判と、ウォルター事件の聴聞会とが同時進行し、クライマックスへ。 『グラン・トリノ』よりも、『チェンジリング』の方が濃厚なドラマで評価出来るという方も多いと思います。作品の評価は人それぞれですが、私の場合は、主演をアンジーにした事で、全体のバランスを崩していると感じました。 確かにアンジーの演技はすごいのですが、強調された真っ赤な唇と、大芝居が、妙に作品から浮いていて、前半、物語に集中出来ませんでした。3部構成の中では、アンジーがいなくなる中盤が一番、面白く感じます。後半は、またアンジーの大芝居が復活。アンジーは獄中の犯人に掴みかかったりと、とても1920年代の女性とは思えない行動に出ます。アンジェリーナ・ジョリーも『17歳のカルテ』(1999年)でアカデミー賞助演女優賞を受賞した頃は演技派女優でしたが、その後、スター俳優として、また自立したセレブ女優としてのイメージが強くなってしまい、そのイメージから本人も脱却出来なくなってしまっているのかもしれません。 正直言って、本作では助演の俳優たちの好演が光ります。悪徳警部のジョーンズを演じたジェフリー・ドノヴァン、少年の大量虐殺犯ゴードン・ノースコットを演じたジェイソン・バトラー・ハーナー、売春婦を演じたエイミー・ライアン、良心的なレスター・ヤバラ刑事を演じたマイケル・ケリー、そして殺しを告白するサンフォード少年を演じたエディ・アルダーソン。彼らの演技は印象深く、作品に厚みを加えています。 もうすぐ御年80歳を迎えるクリント・イーストウッド監督ですが、すでに次回作も決まっており、映画製作への情熱はとどまるところを知りません。しかも、毎作、一定レベル以上の作品を世に送り続けること自体、すごいことです。まさに“生きた伝説”。ぜひ、30歳代以下の若い方たちに、クリント作品を体験していただきたいと思います。 次回は、昨年公開された洋画の中から、どうしても紹介しておきたいお気に入り作品を。ノルウェーのベント・ハーメル監督作『ホルテンさんのはじめての冒険』(2007年)他をご紹介します。
2010年02月08日
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