小玉智子のお買い物ブログ

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2010年02月08日
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 2/5より劇場公開中の『インビクタス/負けざる者たち』(2009年)が、先ごろ発表されたアカデミー賞主演男優賞、助演男優賞にノミネート。私も早速、劇場で観ましたが、ここ数年、哀しく辛い作品が続いたクリント・イーストウッド監督作としては、久々に鑑賞後に晴々とする会心作に仕上がっていました。

 今回は、今年80歳という高齢でありながら次々と野心作を発表し続けるクリント・イーストウッド監督作の中から、2009年の洋画ベスト1であろう『グラン・トリノ』(2008年)と、同じくベスト10に入る『チェンジリング』(2008年)をご紹介します。

 まずは『グラン・トリノ』から。
 主人公、ウォルト・コワルスキーは朝鮮戦争の帰還兵。自動車工場を定年退職した後は、息子二人の家族や近隣の人々とほとんど付き合いをせず、ビールを飲みながら愛車“グラン・トリノ”を眺めるのが唯一の趣味。教会にも行かず、アジア人に「米食い虫め」「イエロー」などと悪態をつく始末。そんな偏屈老人が、隣家のアジア系モン族の少年タオと知り合い、その家族と交流を持つことで次第に心を開いていきます…。
 『グラン・トリノ』は、『ミリオンダラー・ベイビー』(2004年)以来、久しぶりにクリント・イーストウッドが自ら監督・主演した作品で、クリント作品過去最高の興業収益を叩き出しました。なぜそんなにヒットしたのか?それは、“大スター”クリント・イーストウッドが再びスクリーンに蘇ったからなのです。
 この作品の中でクリント・イーストウッドが演じるウォルトは、『ダーティハリー』シリーズや『アウトロー』(1976年)などの西部劇、その他数々のアクション映画で演じてきた役柄を彷彿させる演技で往年のファンを魅了します。銃を撃つまね、イーッと歯を食いしばる激怒顔、噛み煙草を吐き出すしぐさ、床屋や現場監督との荒っぽい男の会話。そんなクリント様の演技のひとつひとつが、昔からの彼のファンにとっては嬉しいのです。
 クリント様が演じるウォルトは人種差別主義者で、男の面子を重んじる旧世代の頑固オヤジで、周囲の人々とうまく付き合えません。しかし実は妻を亡くし、子や孫とも疎遠で、しかも戦争で多くの人間を殺したことを悔いている孤独な老人なのです。そんなウォルトとタオ少年を初めとする様々な登場人物との葛藤を、監督であるクリント・イーストウッドはユーモアと厳しさあふれる語り口で描いていきます。前半80分、事件らしい事件が起きないにも関わらず、観客を全く飽きさせることはありません。そこに、イーストウッドの演出の巧さを感じさせます。昔のクリント出演作品を観ていない人でも、この前半でイーストウッド=ウォルトに親しみを感じるはずです。
 しかし、後半、ウォルトのある行動をきっかけに、物語は急展開をみせます。彼はタオ少年の家族を不良グループから守ろうとして、良かれと思って鉄拳を振るいます。それによって暴力の連鎖がおこり、取り返しのつかない事件を招いてしまうのです。そしてウォルトは、自らの過ちと向き合い、決着をつけようとします…。
 本作は『硫黄島からの手紙』(2006年)に続き、イーストウッドがアジアを題材とした作品です。朝鮮戦争でアジア人を殺した過去を持つ人間が、老境を迎えた今、アジア系のモン族の家族を守り、せめてもの罪滅ぼしをしようとします。でも、力と暴力でしか守る方法を知らないために、過ちを繰り返してしまうのです。
 2000年代のクリント・イーストウッド監督作は、子や孫の世代へ自らの想いを継承していこうという意図の作品が多いのが特徴です。今回も、過去の過ちを繰り返さず、人種差別や暴力のない世界を築いて欲しいという、次世代への強烈なメッセージを感じます。
 とはいえ、本作はスター映画としての要素が強く、インテリ層向けの高尚な作品とは言えません。では、何故、昨年のベスト1かと言えば、クリント・イーストウッド自らが、自分の作品を好んで観て来たファン、その中でも特にアメリカの労働者階級の白人に対して、これまでの生き方・考え方を再考しようと説教している作品だと思えるからです。この作品で、“強いアメリカ”の象徴であるクリント・イーストウッド演じるウォルトは、偏見を無くし、暴力を否定します。そして、ウォルトは自らの分身であり、アメリカン・スピリットの象徴である“グラン・トリノ”をアジア人のタオに継承させるのです。新しいアメリカを作り上げるために。
 ところでタオの姉スーを黒人の不良グループから守れないひ弱な白人少年の役を、イーストウッドは実の息子スコットに演じさせています。これは「アメリカ白人たち、しっかりしろよ」というクリント様からの叱咤激励に他ならないのではないでしょうか。


 次は、『チェンジリング』について。
 1920年代に、腐敗したロス市警と戦った一人の母親の実話を映画化。主演のアンジェリーナ・ジョリーは、本作で初のアカデミー賞主演女優賞にノミネートされました。
 シングルマザーのクリスティンが仕事を終えて帰ると、一人息子のウォルターが失踪していた。捜索願から5ヶ月。ロス市警が連れて来た息子は全くの別人だった。わが子ではないというクリスティンの主張を当時のロス市警は無視。再捜査を受け入れないばかりか、失態の暴露を恐れてクリスティンを精神病院へ強制入院させてしまう。同じ頃、不法滞在のカナダ人少年が、失踪した少年たちの大量虐殺を告白。その中にウォルターの名も挙がる…。
 本作は、俳優出身のクリント・イーストウッドが監督しているだけあって、主演のアンジーの他、出演者たち一人一人に見せ場を用意し、俳優たちの個性的な演技合戦が楽しめる一級のサスペンス・ドラマに仕上がっています。
 衣装や美術、当時のロスの街並みなどの再現が素晴らしく、ローラースケートを履いた女性の電話交換手といった風俗描写も丁寧に描かれています。
 物語は3部構成になっていて、前半45分は、アンジーがひたすら大芝居で諦めない強い母親を熱演。中盤、アンジーが精神病棟に移ると、別の事件の捜査をきっかけに、ウォルターの失踪事件の真相が明らかになって来ます。そして後半は、少年の大量虐殺犯の裁判と、ウォルター事件の聴聞会とが同時進行し、クライマックスへ。
 『グラン・トリノ』よりも、『チェンジリング』の方が濃厚なドラマで評価出来るという方も多いと思います。作品の評価は人それぞれですが、私の場合は、主演をアンジーにした事で、全体のバランスを崩していると感じました。
 確かにアンジーの演技はすごいのですが、強調された真っ赤な唇と、大芝居が、妙に作品から浮いていて、前半、物語に集中出来ませんでした。3部構成の中では、アンジーがいなくなる中盤が一番、面白く感じます。後半は、またアンジーの大芝居が復活。アンジーは獄中の犯人に掴みかかったりと、とても1920年代の女性とは思えない行動に出ます。アンジェリーナ・ジョリーも『17歳のカルテ』(1999年)でアカデミー賞助演女優賞を受賞した頃は演技派女優でしたが、その後、スター俳優として、また自立したセレブ女優としてのイメージが強くなってしまい、そのイメージから本人も脱却出来なくなってしまっているのかもしれません。
 正直言って、本作では助演の俳優たちの好演が光ります。悪徳警部のジョーンズを演じたジェフリー・ドノヴァン、少年の大量虐殺犯ゴードン・ノースコットを演じたジェイソン・バトラー・ハーナー、売春婦を演じたエイミー・ライアン、良心的なレスター・ヤバラ刑事を演じたマイケル・ケリー、そして殺しを告白するサンフォード少年を演じたエディ・アルダーソン。彼らの演技は印象深く、作品に厚みを加えています。

 もうすぐ御年80歳を迎えるクリント・イーストウッド監督ですが、すでに次回作も決まっており、映画製作への情熱はとどまるところを知りません。しかも、毎作、一定レベル以上の作品を世に送り続けること自体、すごいことです。まさに“生きた伝説”。ぜひ、30歳代以下の若い方たちに、クリント作品を体験していただきたいと思います。

 次回は、昨年公開された洋画の中から、どうしても紹介しておきたいお気に入り作品を。ノルウェーのベント・ハーメル監督作『ホルテンさんのはじめての冒険』(2007年)他をご紹介します。





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最終更新日  2010年02月09日 01時52分37秒


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