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ジョン・ウイルソン=ロンドン・シンフォニエッタの新譜を聴く。今回はラヴェルの「クープランの墓」、バークリー(1903-1989)の「ディヴェルティメント」、パウンズの「交響曲第3番」というプログラム。筆者にとってラヴェル以外は初お目見えだ。ラヴェルとバークリーは友人で、パウンズ(1954-)はバークリーに個人的に師事したという関係らしい。ラヴェルの「クープランの墓」は通常の4曲の組曲。全体に速めのテンポできびきびと進む。弛緩しないのはいいのだが、少し性急すぎるような気がする最初の「前奏曲」から速めのテンポでぐいぐいと進む。この曲とても難しいような気がするが、それが猛烈な速さでやられるもんだからオーボエの大変さが感じられる。「フォルラーヌ」も同じだが木管のフレーズの処理が短めで少し違和感がある。「メヌエット」も速めのテンポで、もう少し歌わせてほしいところも、あっさりと過ぎる。サウンドは透明で、墨絵を見るようなグラデーションが美しい。各楽器の動きがよく分かる明晰な解釈で、ラヴェルの作曲の妙が分かりやすい。霞のかかったような弦のサウンドが曲にふさわしい。「リゴドン」ではトランペットの輝かしいサウンドが印象的だ。バークリーの「ディヴェルティメント」は4楽章からなる20分弱の音楽で、師であるナディア・ブーランジェに捧げられている。イギリスの風情やウイットが感じられる、小粋で、なかなかいい曲だった。パウンズはバークリーに個人的に師事した作曲家だそうだ。世界初録音の交響曲第3番は2021年に完成したばかりの30分ほどの作品。作風は保守的で、あまり強い表現は感じられないが、それほど悪くない。第1楽章は作曲者が「決意の駆動力」と呼んだ楽章。ショスタコーヴィチの影響が感じられる、躍動的で決然たる意志が感じられる楽章。暗めの色調だが、躍動的なところも感じられる。第2楽章もショスタコーヴィチやプロコフィエフの影響が感じられる、シニカルなワルツが物々しく響く。第3楽章「エレジー」の副題が「ブルックナーへのオマージュ」となっているところが目を惹く。低弦のピチカートに乗ってヴァイオリンの悲し気な旋律が流れていくところが、ブルックナーの交響曲特に第5番の第1楽章のイントロに多少似ているかもしれない。ブックレットによると『パンデミックの結果として命を落としたすべての人々に捧げられた悲痛で強烈なエレジーでは、パウンズ自身が、ブルックナーの影響を楽譜に明示的に示している。』とのこと。第4楽章は今までの楽章のモチーフを使った循環的な形式の楽曲。エンディングはあまり盛り上がらず、あっさりと終ってしまう。とうことで、作品としては中規模な曲が多く、軽めの選曲ながら、バークリーやパウンズなど普段耳にすることのない曲が第一級の演奏で楽しめるのは、作品にとっても喜ばしいことだろう。ジョン・ウィルソン:ラヴェル、バークリー、パウンズ:管弦楽作品集(Chandos CHSA 5324)24bit 96kHzFlac 1.Le Tombeau de Couperin, M 68a Prélude Forlane Menuet RigaudonLennox Berkeley:5.Divertimento in B flat, Op 18 (1943) Prelude Nocturne Scherzo FinaleAdam Pounds:9.Symphony No 3 (2021; first recording) Largo - Poco più mosso - Allegro - Largo - Allegro - Largo - Poco più mosso - Tempo I Tempo di Waltz Elegy (hommage to Anton Bruckner) Allegro moderato - Largo - A tempo IRecorded 22 – 24 November 2022,Church of St Augustine, Kilburn, London
2024年02月28日
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spotifyを聞いていて、お勧めで出てきたアルバム。1970年録音のコンテンポラリー盤をCraft Recordingがケヴィン・グレイのリマスターによりハイレゾ化した2003年の音源。ジャケ写(スーダンでの写真)が印象的で、音楽も面白いのでダウンロードしてしまった。ショーのデビュー・アルバムにしてポスト・モダン音楽の歴史の中で極めて重要な位置を占める作品と言われているらしい。実際アルバムとしての完成度はかなり高い。ショーのトランペットが他を圧している。彼のプレイを聴いていると、何故か日野皓正のプレイを思い出してしまう。オリジナルの雰囲気やフレージング、激しいプレイが似ているのかもしれない。このアルバムは、巷間マイルスの「ビッチェズ・ブリュー」に触発されてできた、と言われているらしい。実際ロン・カーター、ベニー・モウピン、レニー・ホワイトの3名が「ビッチェズ・ブリュー」に参加している。ただ「ビッチェズ・ブリュー」が静的な佇まいなのに対し、随分と熱い演奏なので、筆者には特にその影響はあまり感じられない。しいて言えばベニー・モウピンのバア・クラリネットにアフリカ的なテイストを感じるくらいだ。ショーのオリジナルが4曲、ジョージ・ケイブルズのオリジナルが2曲という構成で、作品としてはショーのオリジナルが優れている。メンバーとしてはベニー・モウピンが重複している。エレクトリック・ピアノを使っていたり、アフリカの音楽の影響が「ビッチェズ・ブリュー」から触発されたという理由かもしれない。それでも、ビッチェズ・ブリューが静的なのに対し、荒々しい演奏だ。タイトルチューンは動物の鳴き声を模したようなフレーズが聞こえ、どちらかというとミンガスの影響が強いように思う。ジョージ・ケイブルズの「Think On Me」は典型的なハードバップチューン。同じケイブルズの「New World」はややハード・バップ色が薄れている。エレクトリック・ピアノが活躍していることが理由かもしれない。このエレクトリック・ピアノが歪みっぽいサウンドで、現代の耳には、ちょっと辛いことも確か。ホーンのリフはブラス・ロックを思い浮かべるような扱い。18分と長い演奏だが、エレクトリック・ピアノのソロが長く、7分過ぎからトランペットソロが入るが全体に単調だ。「Boo-Ann's Grand」は典型的なハードバップのナンバーだが、アップテンポの部分とブレイク的なスロー・テンポの部分が交互に出るという特異な構成で14分と長い曲だ。スローテンポの部分では語りでも入りそうなメッセージ性の強い作品。最後の「A Deed For Dolphy」エリック・ドルフィーに捧げられた曲。モーダルでアフリカを思い浮かべるようなサウンドがいい。ホーンが賑やか。ケイブルズのマッコイ・タイナー風のパーカッシブなピアノ・ソロが聴ける。サイドメンではレニー・ホワイトのドラミングが光る。ジョージ・ケイブルズはエレクトリック・ピアノがいまいちだがアコースティック・ピアノは悪くない。ベースのロン・カーターは安定したプレイだが、アンプを通した音は70年代という時代を感じさせるものだ。ベニー・モウピンは出番が少ないが、「Boo-Ann's Grand」で力のこもったソロを聞かせてくれた。録音はテープ・ヒスは感じられず、1970年代の録音とは感じられないヴィヴィッドなもので、快適に楽しむことが出来る。Woody Shaw:Blackstone Legacy(Craft Recording CR06712)24bit 192kHz Flac1.Woody Shaw:Blackstone Legacy2.George Cables:Think On Me3.Woody Shaw:Lost And Found4.George Cables:New World5.Woody Shaw:Boo-Ann's Grand6.Woody Shaw:A Deed For DolphyWoody Shaw(tp)Bennie Maupin(bcl,ts,fl,tambourine,bells)),Gary Bartz(as)George Cables(key,p)Ron Carter(b)Clint Houston(b,e-b)Lenny White(ds)Recorded December 8 and 9, 1970 at A&R Studios in New York City
2024年02月26日
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エラス・カサド待望のファリャの第二弾前回のアルバムが大変良かったので、期待していたが、期待通りの出来だった。注目は「ペドロ親方の人形芝居」1幕の人形劇だが、筆者がまとも聴いたのは初めて。この曲の録音は少なく、BDが出た時に入手しようと思っていたが、いつの間にか忘れてしまっていた。印象としては前回の「三角帽子」と「恋は魔術師」を収録したアルバムと同様、パリッとしたサウンドのメリハリの効いた演奏でとても楽しめる。冒頭の決然としたティンパニに続く2本のオーボエの野卑で鄙びたサウンドで、一気にスペインの世界が広がる。間の取り方も絶妙で、スペインの暑苦しい空気を感じさせる。テクスチャーの繊細な描き方が素晴らしく、それが透明感に繋がっている。二人の歌手はどちらもスペイン出身。美声で洗練されていて、ローカル色は感じられない。ドン・キホーテ役のホセ・アントニオ・ロペスが渋いのどを聞かせてくれる。語りは普通はソプラノが担当するようだが、今回はボーイ・ソプラノで、マドリードの音楽学校JORCAMのメンバー。健闘しているが、やや一本調子。ただボーイ・ソプラノのためか全体的にコミカルなタッチになっていて、人形劇にふさわしいことも確かだ。管弦楽は鮮やかな色彩とメリハリのある表現で、この人形芝居を生気に富んだものにしている。また、本来ファリャが意図したものと同じかどうかは分からないが、重量感がありシンフォニックな側面が強調されているのも好印象。「ハープシコード協奏曲」は、今まで面白いと思ったことがなかった。おそらくはその暗いムードが気に入らなかったのだと思う。ところが、今回の演奏は「ペドロ親方の人形芝居」と同様に活気のある表現で、カラーでいえばモノクロが一気にカラーになったような感じがする。木管のびっくりするような粗野な吹奏など刺激的な表現にも事欠かない。ハープシコードのバンジャマン・アラールはバッハの鍵盤全集やクープランの音楽が多数リリースされているフランスのハープシコード奏者だそうだ。バックがあまりにも活きがいいためか、ちょっと地味な感じだ。もう少し大胆な表現があっても良かったような気がする。ストラヴィンスキーの「プルチネルラ」組曲はかなり流麗な表現で押し出しが強く、古典的な気分はあまり感じられない。ここでも生き生きとした表現が目立つ。テンポは中庸だろうか。オーケストラのメンバー、特に第6曲アレグレットでの木管の上手さが光る。速い「タランテラ」での沸き立つような気分を感じさせる、勢いのある表現も素晴らしい。終曲は凄絶なサウンドで通常より30秒ほどテンポが速く、切れの良いスリル満点の演奏。おそらく既存のどの演奏よりも、この曲の凄さを感じさせる演奏だろう。録音は申し分ないもの。特に示されていないが、どうやらライブのようだ。ところで、国内盤のこのCDが4千円もすることを知り、目を疑った。知らず知らずのうちにCDも高くなっているのだろうか。Stravinsky: Pulcinella Suite - Falla: El Retablo de Maese Pedro & Harpsichord Concerto(Harmonia Mundi HMM902653)24bit 96kHz Flac1. ファリャ:歌劇『ペドロ親方の人形芝居』全曲11. ファリャ:チェンバロ協奏曲14. ストラヴィンスキー:『プルチネッラ』組曲Airam Hernández(tn Pedro)José Antonio López(Br Donuihote)Héctor López de Ayala(boy sp Narrator)Benjamin Alard(Harpsichord track 1-13)Mahler Chamber OrchestraPablo Heras-CasadoRecorded February 2023, Sala Montsalvatge, Auditori de Girona (Spain)
2024年02月24日
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SFjazz Collective菜緒で活躍しているプエルトリコ出身のベテラン・アルト・サックス奏者のミゲル・ゼノンがこちらもベテランのベネズエラ出身のピアニスト、ルイス・ペルドモとコラボした『El Arte Del Bolero(ボレロの芸術)Vol. 2』を聴く。本年度のグラミー賞最優秀ラテン・ジャズ・アルバム部門を受賞したアルバム。ゼノンはグラミー賞は何回かノミネートされているが、今回が初めての受賞だ。ここでいうボレロはスペイン起源ではなく、キューバ起源の4拍子のダンス音楽。心が震えるようなラテンの哀愁漂う名曲が並んでいる。bandcampのスレッドではゼノンが曲について詳しく解説していて、理解を深めることが出来る。また、自身が体験したアルバムについても言及していて、原曲を知るうえで、とても参考になる。vol.1のときは曲が決まったのはセッション直前で、今回は時間があり、じっくりと選曲できたそうだ。一番気に入ったのは2曲目の「Paula C」作曲はラテン音楽の象徴と言われるルベン・ブラデス(1948-)。パナマ市出身のサルサ歌手、作詞作曲家、俳優そして政治家だそうだ。オリジナルはより速く、ダンス志向なのだが、今回の演奏ではテンポを落とし、フォームを拡張することにより(ゼノン)、実に哀愁に満ちたしみじみとした情感を感じさせる名品に仕上がった。オリジナルとはまったく別な曲のようだ。1曲目の「En La Oscuridad」(暗闇の中で)はドミニカ出身のピアニストでソング・ライターのラファエル・ソラーノ(1931-)の作品。ゼノンが若い頃に知ったティト・ロドリゲスのトリビュートアルバム「A Dos Tiempos de Un Tiempo」のストリングス入りの豪華な演奏を聴くと、南国の青い海を連想させるような素晴らしいバラードであることが分かる。今回の演奏はシンプルで上記のような豪華さはないものの、しみじみとした味わいが心に沁みわたる。イタロ・ピッツォランテ:の「Motivos」は ペルドモが提案したもので、彼が生まれ育ったベネズエラで聴いた美しいメロディだそうだ。ピアノのイントロから惹きつけられる。シモン・ディアス「カバージョ・ビエホ」はベネズエラのフォークソングの金字塔と言われる有名曲だそうだ。ディアスの演奏を聴くとテンポが速く、ローカルなサウンドのためか、それほどいい曲とは思えない。ところが、今回の演奏は極めて洗練されていて、曲の良さが存分に引き立っている。エバ・エレナ・バルデラマ(1925-2012)はボレロやロマンチックな曲作ったメキシコの作曲家だそうだ。「Mucho Corazón」は10代で作曲された。明るい曲調で、清々しさが感じられる演奏。最後はプエルトリコの作曲家ラファエル・エルナンデス(1892-1965)の「Silencio」(沈黙)原曲は濃厚な南国のロマンティシズムを感じさせる、ゆったりとした音楽。ところが今回のアルバムでは意表を突いた速いテンポで饒舌な演奏。イントロから南米の暑苦しい熱狂が感じられるフレーズで始まる。アルバム中もっとも熱気があり、ジャズ的なインタープレイが感じられるトラック。ゼノン自身、最も入念なアレンジだと言っている。ピアノ・ソロの後でアルトがテーマをゆったりと吹く場面が聴き手の心を熱くさせる。それまで控えめだったピアノも本領を発揮している。アルバムを通してアルト、ピアノともにそれほど大げさな表情はつけていないが、つつましさから浮かび上がる、曲の美しさが何とも言えず素晴らしい。道端に咲く名もない花の美しさを知った時の感情とでも言うべきか。ということで、実に味わい深いデュオ・アルバムだった。Miguel Zenon & Luis Perdomo:El Arte Del Bolero Vol. 2(Miel Music)16bit 44/1kHz Flac1.Rafael Solano Sánchez:En La Oscuridad2.Rubén Blades:Paula C3.Puchi Balseiro:En La Soledad4.Italo Pizzolante:Motivos5.Simón Díaz:Caballo Viejo6.Eva Elena Valdelamar:Mucho Corazon7.Rafael Hernández Marín:SilencioMiguel Zenón - alto saxophoneLuis Perdomo - pianoRecorded at Big Orange Sheep (Brooklyn, NY) May 16th, 2023
2024年02月22日
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高くて手が出なかったアルファのヴィラ=ロボスとグラスの管弦楽作品集だったが、eclassicalのセールに登場し、速攻で購入した。ヴィラ=ロボスの組曲「アマゾンの森」は映画のための音楽。ブックレットによるとこの音楽はメル・フェラー監督、オードリー・ヘプバーンとアンソニー・パーキンス主演の冒険映画『緑の館』(1959)のサウンド・トラックとしてメトロ・ゴールドウィン・メイヤーから依頼されたそうだ。sound track【粗筋】ベネズエラで政変が勃発し、父を失ったアベル(パーキンス)は金塊を求めてアマゾンへ向かう。村で試練を受け、禁じられた森でリーマ(ヘップバーン)と出会い、愛し合う。リーマは出自の謎を解き、故郷リオラマへ向かう決意をする。アベルとリーマは困難な旅を共にし、村での混乱を阻止するが、クアコに追い詰められ、リーマは火事に巻き込まれる。アベルはクアコとの死闘を制し、森でリーマを求めるが、彼女は幻影として姿を現す。音楽は南国の気分が横溢していて悪くないが、全体に古臭いモノクロ映画を観ているような感覚に陥る。難しいところはなく、映画音楽なので当たり前かもしれないが劇的な音楽。個人的には雑然とした感じの音楽で、編曲したほうが聴き映えがするような気がするというのは勝手な感想。この映画で名高いとされる「カンサォン・デ・アモール」と「メロディア・センチメンタル」が聴きどころだ。イタリア系ブラジル人のカミラ・プロヴェンツァーレの太く情熱的なヴォーカルが実に素晴らしい。特に「メロディア・センチメンタル」の激しい感情の表出に、しびれる。エピローグでも彼女の劇的なヴォーカリーズが聞かれるが、現代の耳からすると些か大時代的に聞こえるのは仕方がない。グラスの「メタモルフォシスⅠ」は9曲からなる連作?管弦楽作品『アマゾンの流れÁ」の中の1曲。この曲はカフカの小説『変身』にインスパイアされた作品らしい。この曲はヴィラ=ロボスに比べるともっと原初的な力が感じられ、とてもアメリカ人が書いた曲とは思えない。単純な旋律が延々と続くが、そこに凶暴性が感じられ、如何にも南米の音楽だなと思わせる。それほど面白い音楽ではないが、気の弱い筆者には、その持続力が恐ろしく感じられてしまう。録音は歪みっぽいが、曲の荒々しさにふさわしい。Simone Menezes:Amazônia. Villa-Lobos - Glass(Alpha Classics ALPHA990)24bit 96kHz Flacエイトル・ヴィラ=ロボス(1887-1959):組曲「アマゾンの森」 1. A floresta 森 2. Em plena floresta 森の中で 3. Pássaro da floresta - Canto I 森の鳥 - 歌 I 4. Dança da natureza 自然の踊り 5. Conspiração e dança guerreira 陰謀と戦士の踊り 6. Veleiros 帆舟 7. Em caminhos para a caçada 狩りのための道で 8. Canção do amor 愛の歌 9. Melodia sentimental センチメンタルなメロディ 10. O fogo na floresta 森の火災 11. Epilogo 終章フィリップ・グラス(1937-):12. メタモルフォシス I ~「アマゾンの流れ」【演奏】カミラ・プロヴェンツァーレ(s track 3,6,8,9,11)フィルハーモニア・チューリッヒシモーネ・メネセス(指揮)【録音】2022年10月 チューリッヒ歌劇場
2024年02月20日
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ケニー・バロンが参加しているため注目していたアルバム。例によってSpotifyで何回か聴いた後にダウンロード。何ということのないネオ・ハードバップのアルバム。地味だが、これが何ともいい味を出している。リーダーはパリ生まれのジェローム・サバー(1973-)というサックス奏者。1993年にアメリカ合衆国に移り、ボストンのバークリー音楽院での2年間を経て、1995年からニューヨークを拠点に活躍している。このアルバムは5年ぶりのリーダー・アルバムだそうだ。線が細くレスター・ヤング派の香りがするが、サウンドは暗め。凄いスピードでバリバリ吹くというのとは正反対の、音数が少なく小粋なフレーズで聴き手を頷かせるような芸風だろう。全7曲のうちオリジナルが4曲とだいぶ力が入っている。タイトル・チューンの「Vintage」はアップ・テンポでぐいぐいと進んでいく。アルバム中、最も力がこもった演奏だろう。「Elson's Energy」は最近連絡を取ったブラジルの幼なじみからインスピレーションを受けたもので、ブラジル音楽のテイストを感じさせるナンバー。ノリノリなのはわかるが、ドラムスが煩いのが惜しい。「Slay The Giant」は「巨人を倒す」というタイトルとは裏腹の、のんびりした曲。ダメロンの「On A Misty Night」は小粋でスインギーなテイストで、なかなかいい。ビリー・ストレイホーンの「A Flower Is A Lovesome Thing」がリリカルで実に味わい深い。モンクのオリジナルが2曲入っているのが目を惹く。ジョナサンブレイクの提案でテナーとピアノのデュオで演奏されている。これが曲にぴったりのフォーマットだ。モンクのぎくしゃくした側面よりはメロディックな側面が発揮された、なかなか含蓄に富んだ演奏だ。諧謔性を感じる「We See」はテンポを少し速めにしたことで、両者の掛け合いがよりスリリングになった。バラード「Ask Me Now」もしみじみとした情感が感じられる名演。バロンのまったりとしたピアノ・ソロは、まさに名人芸の域に達しており、なんとも味わい深い。サイドマンでは、やはりなんといってもケニー・バロンの好サポートが光る。ぶっきら棒と言ったら語弊があるが、表情付けの少ないサバーのテナーを補って余りあるふくらみを与えていた。彼の起用が、このアルバムの成功のカギだったと言っても大げさではないだろう。ジョー・マーティン(1970-)のベースとジョナサン・ブレイク(1976-)のドラムスも悪くない。特にジョー・マーティンの少し硬めのごつごつとしたサウンドが気に入った。録音は普通だが、ピアノの輪郭がぼやけているのが気になった。昔の街角の風景を切り取ったモノクロのジャケットも、趣味がいい。ということで、昔の名盤を聴いているような気分になる、なかなか得難いアルバム。ハード・バップがお好きな方には是非聞いて頂きたい。Jerome Sabbagh:Vintage(Sunnyside Records SSC 1698)24bit96kHz Flac1.Jerome Sabbagh:Vintage2.Tadd Dameron:On A Misty Night3.Billy Strayhorn:A Flower Is A Lovesome Thing4.Jerome Sabbagh:Elson's Energy5.Jerome Sabbagh:Slay The Giant6.Thelonious Monk:We See7.Thelonious Monk:Ask Me NowJerome Sabbagh(ts)Kenny Barron(p)Joe Martin(b)Johnathan Blake(ds)Recorded at Oktaven Audio, Mount Vernon, November 5, 2020
2024年02月18日
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いままで短発で出ていた藤田真央のバッハのトランスクリプションがまとまってリリースされた。20分に満たないEP版で、以前モーツァルトでも同種のEPがリリースされていた。(ブログにはアップしていない)この時はモーツァルトのソナタと組み合わせてCDとしてもリリースされていた。今回はアレクサンダー・シロティとラフマニノフの編曲が3曲ずつという構成。参考までに平均律の原曲をシフの演奏で聴いた。平均律は全体的に遅めで、昨今のピリオド楽器による演奏(HIP)とは違うロマンティックなもの。タッチも柔らかくHIP的な演奏で聴いているときの、神経を刺激する表現はなく、心安らかに聴けるのがいい。無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータの組曲は、音のエッジがたっていて歯切れがよく軽快な音楽。ガヴォットのアゴーギクがユーモアを感じさせるユニークなもので、思わずニヤリとさせる。一般にバッハと言えば機械的に弾かれることが多いと思うが、藤田の音楽は暖かく無味乾燥なところがない。それに何故か古臭くない。筆者は最近バッハを聴くときはハープシコードよりはピアノが好みなので、その影響もあるかもしれない。それにしても、まさか藤田のバッハが聴き手の心を温かくしてくれるとは思わなかった。以前Naxosのショパン:スケルツォ/即興曲を聴いたときに思わず「うめーな」とつぶやいてしまったことがある。天才は何を弾いても天才なのだろうか。ところで、20分に満たない演奏がハイレゾとはいえ2400円台でqobuz usでも$12.69で2000円弱という価格設定には首をかしげてしまう。相変わらず消費者の気持ちが分からない業界のようだ。Mao Fujita Bach Transcriptions(SONY)24bit96kHz Flac1.Prelude in B Minor, BWV 855a (Transcribed by Alexander Siloti)2.Andante from the Sonata for Solo Violin, BWV 1003 (Transcribed by Alexander Siloti)3.Paraphrase on the Prelude in C-Sharp Major, BWV 872 (Transcribed by Alexander Siloti)4.Suite from the Partita for Violin in E Major, BWV 1006 (Transcribed by Sergei Rachmaninoff): I. Preludio5.Suite from the Partita for Violin in E Major, BWV 1006 (Transcribed by Sergei Rachmaninoff): II. Gavotte6.Suite from the Partita for Violin in E Major, BWV 1006 (Transcribed by Sergei Rachmaninoff): III. GigueMao Fujita(p)
2024年02月16日
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Windowsでウイルス・セキュリティの画面を見ていたら「閉じられない、偽セキュリティ警告画面の閉じ方」なるサイトの案内が出ていた。以前、危うく引っ掛かりそうになった詐欺の手口から抜ける方法だ。簡単にいうと、この詐欺はブラウザを全画面表示にして「閉じる」ボタンを見えなくするという手口なのだそうだ。閉じ方はESCキーを長押しして「閉じる」ボタンを表示させるという簡単な物。Windowsでは全画面表示している時に「ESCボタンを押すと全画面表示が解除される」機能の長押し版だ。このサイトはその練習をさせてくれるので、いざの時パニックにならないために練習してのも悪くないと思う。お薦め。
2024年02月14日
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エリーナ・ドゥニ(1981-)というスイス系アルバニア人の女性ヴォーカリストのアルバム。アルバニアの位置が分からなかったの調べてみたら、いわゆるバルカン半島南西部に位置する国で、西の対岸がイタリアのようだ。presto musicでECMのセールがあったので、以前から注目していた前作の「Lost Ship」と共に購入した。メンバーは前作と同じで、ムードも似通っている。一応ジャンルはジャズなのだが、編成がジャズなだけで、フォーク・ミュージックの部類だと思う。最近はいろいろな国の出身者がジャズをやるようになって、ジャズと思えないようなアルバムもジャズに分類されていて、聴き手も混乱してしまう。このような民族音楽系のみならず、クラシックと思われる音楽もジャズと分類されていることがある。このアルバムでも編成はジャズっぽいが、やっている音楽は民族音楽のように聞こえる。ところが、ここに古いスタンダードやジャズメンのオリジナルが入っていて、さながら無国籍音楽になっている。それらが脈絡なく続いているが、すべてがドゥニ色に染まっている。ドゥニの歌唱はジャズ・ヴォーカルではなく、あくまでもフォーク的な歌い方。清潔感はあるが、ジャズ・ヴォーカル的な醍醐味は感じられない。ジャズを感じさせるのはバックのギターやピアノ。特にギターのロブ・ラフト(1993-)の暖かいギターが全体のサウンドを支配している。特徴的なのは時折音を長く伸ばすこと。どういうテクニック(機器)を使っているのかは不明だが、とても印象的だ。チャーリー・ヘイデンの名曲「First Song」のイントロがこの奏法で演奏されていて、浮遊感を感じさせる不思議なサウンドだ。全体に、落ち着いたムードの抒情を感じさえる演奏。ドゥニのヴォーカルは、落ち着いた年齢にふさわしい落ち着きと、女性らしさが感じられるもの。ただ、ひたすら暗いので、落ち込んでいるときに聞くと、ますます落ち込んでしまいそうな危ない音楽だ。プログラムはドゥニのオリジナルが5曲、伝承曲(アルバニアとコソボ)が3曲、他はスタンダードとジャズメンのオリジナル。ドゥニのオリジナルはすべてギターのロブ・ルフトとの共作。ドゥニの世界なのだろうが、リリカルではあるが、メロディーが暗くあまり魅力的でない。ラシド・クラスニキという知らない作曲家の名前がある。コソボに多くある名前のようなのでコソボの作曲家かもしれないが、詳しいことは分からなかった。ChatGtPによると、『"Mallëngjimi"(マルンジミ)はアルバニア語で、「慰め」という意味で、、悲しみや苦しみを和らげたり、励ましたりすることを指す』とのこと。なるほどシンプルで悲し気なメロディーだ。スカスカのフリューゲルが妙にマッチしている。バックはマチュー・ミシェルのフリューゲルが入ったナンバーのほうがジャズの雰囲気がする。最後のスタンダード「I'll Be Seeing You」はギターとのデュオで、はかない抒情を感じさせる印象的なトラックだった。ヴァースから歌っているのを初めて聴いたが、これが美しい。ということで、音楽としては悪くないのだろうが、いまのところ、なかなか理解できない音楽だ。もう少し聴けということなのかもしれない。Elina Duni: A Time To Remember(ECM 5519904)24bit 88.2kHz Flac1.Elina Duni, Rob Luft:Évasion2.Traditional:Hape Derën3.Elina Duni, Rob Luft:A Time to Remember4.Elina Duni, Rob Luft:Whispers of Water5.Traditional:E Vogël6.Elina Duni, Rob Luft:Dawn7.Charlie Haden:First Song8.Traditional:Mora Testinë9.Stephen Sondheim:Send in the Clowns10.Rashid Krasniqi:Mallëngjimi11.Elina Duni, Rob Luft:Sunderland12.Sammy Fain:I'll Be Seeing YouElina Duni(vo)Rob Luft(g)Fred Thomas(p,ds)Matthieu Michel(Flh)Recorded July 2022,Studios La Buissonne, Pernes—Ies—Fontaines
2024年02月12日
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いつものpresto musicで見つけた一枚。フィルハーモニック・ブラスという団体名だったので、てっきりフィルハーモニア管のブラスセクションかと思ったら違っていた。ホームページを見ると16人の金管奏者と4人の打楽器奏者からなる団体で、ベルリン・フィルとウイーン・フィル、その他友人たちが集まっている団体だった。まあこのクラスのメンバーが集まったら悪いはずがない。珍しいのはバリトンが入っていることだろうか。首席クラスもちらほら名前がある。20名という大所帯なので、さすがに指揮者が必要だったのか、その時スケジュールの空いていたトゥガン・ソフィエフが指揮している。タイトル通り序曲が6曲集められている。中では「イーゴリ公」の序曲が入っているのが目を惹く。多分この曲をブラス・アンサンブルで聴いたのはこれが初めて。アレンジはトランペット奏者で作曲家のピーター・J・ローレンスとジャーマン・ブラスのマティアス・ヘフスが担当している。アレンジに手抜きがなく、原曲に忠実なアレンジで、それを金管でやっているのが凄い。例えば「運命の力」序曲のエンディングの弦の細かいフレーズも手抜きなしで吹ききっていて唖然とする。それもトロンボーンが加わってのことだ。なので技術的な制約を感じることがなく、音楽を楽しめる。サウンドはどこまでも透明で輝かしく、軽やか。ときおりオーケストラのような重厚な響きが出るのも楽しい。ノイズの聞こえない、パリッとしたサウンドの録音もいい。ということで、胸のすくような快演続きで、ブラス関係者は必聴のアルバムだろう。youtubePhilharmonic Brass:Overture!(Decca 4854171)24bit96kHz Flac1.1 Festive Overture, Op. 96 (Arr. Peter Lawrence for Brass Ensemble)1.2 Cuban Overture (Arr. Peter Lawrence for Brass Ensemble)1.3 La Forza Del Destino Overture (Arr. Matious Höfs for Brass Ensemble)1.4 Egmont Overture, Op. 34 (Arr. Matious Höfs for Brass Ensemble)1.5 Prince Igor Overture (Arr. Peter Lawrence for Brass Ensemble)1.6 Carnival Overture, Op. 92 (Arr. Peter Lawrence for Brass Ensemble)The Philharmonic BrassTugan SokhievRecorded 2022-06-30,Recording Venue: Teldex Studio, Berlin
2024年02月10日
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デンマーク出身のベースのトーマス・フォネスベック(1977-)とアメリカの盲目のピアニストのジャスティン・カウフリン(1986-)とのデュオ最新作。この組み合わせでのレコーディングは多分3作目。フォネスベックの美しく艶のあるベースと、リリカルで涼やかなカウフリンのピアノの相性が良く、いつも爽やかな気分にさせてくれる。プログラムは彼らのオリジナルが2曲ずつで、他のジャズメンの曲が4曲残り3曲がスタンダードという構成。フォネスベックのタイトル・チューン「Danish Rain」は軽快なテンポで、フォーク調のメロディーが流れる。ベースの16分音符3個のシンコペーションのリズムが執拗に繰り返される部分が印象的だ。カウフリンの「Country Fried」は肉や野菜を衣をつけて揚げたり焼いたりした、アメリカ南部の伝統的な料理のことだそうだ。タイトル通りカントリー調でありながらもスピーディーな進行で、爽快な印象を受ける。エンディングのピアノのカデンツァも見事。他のジャズメンのオリジナルも彼らの芸風に合わせたリリカルな曲が集められている。チック・コリアの「Windows」は原曲の良さが最大限に発揮された、スインギーかつビューティフルな演奏だ。スティーブ・スワローの「Falling Grace」はいきなり重厚なベースソロから始まる。歌うようなピアノ・ソロも時折速いパッセージが入りセンスがいい。後半の両者の熱のこもったデュエット・インプロビゼーションは息をのむ瞬間だ。オスカー・ピーターソンの「Cake Walk」は軽快で歯切れのいいリズムが心地よい。ピアノ・ソロは多少ながらピーターソンを意識しているかのような、饒舌な表情を見せる。ベース・ソロも実に歯切れがいい。コール・ポーターの「Everything I Love」は冒頭のピアノのカデンツァが実に上品な仕上がり。アップテンポの本編もスインギーでいい感じだ。ルグランの「You Must Believe In Spring」はゆったりとしたテンポで嫋々たる抒情が感じられる演奏。ジョン・レノンの「Imagine」は軽快なテンポで、ローカル色の感じられる独特なアレンジ。次第に熱っぽくなっていくところもユニーク。アルバムの最後はハービー・ハンコックの「Driftin」明るくスインギーなテイストで、ご機嫌な仕上がり。強烈なドライブ感こそないが、控えめなスイング感が彼らの持ち味に相応しい。アルバムの最後を飾るのにふさわしい、華やいだ演奏だ。録音は、演奏同様透明度の高いもの。低音の厚みも適切だ。ピアノは抜けがよく、素晴らしくいい音だ。Thomas Fonnesbæk & Justin Kauflin:Danish Rain(Storyville Records 1018532)24bit96kHz Flac1.Thomas Fonnesbæk:Danish Rain2.Cole Porter:Everything I Love3.Chick Corea:Windows4.Steive Swallow:Falling Grace5.Michael Legrand:You Must Believe In Spring6.Oscar Peterson:Cake Walk7.John Lennon:Imagine8.Justin Kauflin:Country Fried9.Harbie Hancock:DriftinThomas Fonnesbæk(b)Justin Kauflin(p)Recorded in Village Recording Studio March 28,29-2022
2024年02月08日
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エスクアロ5とい団体のピアソラ集。ピアソラの名曲「鮫」をグループ名にした団体。ミュンヘン在住のクラシック出身者たちで結成されたグループで、このアルバムは2枚目だそうだ。タンゴというとサウンド的には貧しいという印象しかないが、この団体は名手揃いで、その豊麗なサウンドを聴いていると、ピアソラの曲が2倍にも3倍にもよく聞こえる。まあ、もともとの曲の良さが表現しきれていなかったというべきか。昔ピアソラ・ブームでクレーメルをはじめとしてクラシックの演奏家もこぞってピアソラを演奏した時代があった。そのころの演奏でも、このエスクアロ5のような豊かなサウンドを聞かせてくれる団体はなかった。編成はギター、ピアノ、ヴァイオリン、アコーディオン、コントラバスという五重奏団。著名な方ばかりだそうだが、筆者が知っているミュージシャンはいない。ただ音楽の質が非常に高く、彼らが只者ではないことは理解できる。ピアソラの音楽がこれほど豊麗なサウンドで響いたことは、あまりないのではないだろうか。クラシックのミュージシャンとは思えない、かなり濃厚な表現で、説得力が半端でない。ただ、表現意欲が強すぎるのか、一本調子気味で、続けて聞くと食傷気味になることも確か。プログラムは、ピアソラの有名な曲を集めたもの。「タンゴの歴史」は原曲がフルートかヴァイオリンとギターなのだが、五重奏団の演奏で、アコーディオンが主役。筆者としてはヴァイオリンとギターでの演奏にしてほしかった。ヴァイオリンとベースはちょろっとしか出てこない。ピアノは多分お休み。アコーディオンの意欲的な演奏と原曲ではサポートに回っているギターも、負けじとぐいぐい迫ってくる。最初の「ボルデッロ、1900」から速いテンポでぐいぐいと迫ってくる。第2曲「カフェ、1930」も濃厚な表現で、ギターもかなり前に出てくる。メロディー・フェイクなのだろうか、原曲と少し異なるフレーズが聞こえるが、しっくりこない。第3曲「ナイトクラブ、1960」も勢いはそのまま。この組曲では後半の2曲が少し影が薄いのだが、今回の演奏では前半の2曲に劣らず充実した音楽として楽しめる。特にラストの「現代のコンサート」は従来の演奏にはない激しい表現で聴き手はたじたじとなるしかない。「フラカナーパ」は聞いたことのない曲。全員が一丸となって火の玉のように燃える。アサド兄弟のために書かれた2台のギターのための「タンゴ組曲」は、ギターとピアノのためのアレンジ。ギターもさることながらピアノが雄弁で、この組曲のスケールが二倍にも三倍にも大きくなったような感じがする。ギターがピアノに負けていないところが立派。第3曲Allegroのスピードに乗った激しい演奏は凄まじい。「バンドネオン、ギターとベース」は「モダン・タンゴの20年」(1964)に収録されていた曲。このアルバム、昔は何回か聴いていたが、すっかり記憶から遠ざかっていた。明るく柔和な表情がいい。大曲「アディオス・ノニーノ」はスケールの大きな演奏だが、イントロのピアノのカデンツァからしてやりすぎ。ネットリとして強靭なヴァイオリン・ソロも悪くないが、表現過多。激しい演奏が多く、「孤独」のような静かな曲でも結構暴れまくっていて、心が休まる暇がないのが欠点と言えるかもしれない。最後の「コントラバッシモ」のコントラバスの3分ほどの長いカデンツァも、表現意欲は買うが、やりすぎとしか思えない。録音は凄まじくいい。ピアソラの録音では断トツだろう。とうことで、全く知らない団体だったのだが、豊かなサウンドと素晴らしいアンサンブルで、ピアソラの世界が一挙に広がったといっても大げさではない。ピアソラ・フリークの方には是非お聴きいただきたいが、続けて聞くのは大変なので、気が向いたときに少しづつ聴くのが飽きない秘訣あろう。Escualo5:Piazzolla-Escualos(BIS BIS2605)24bit 96kHz FlacPiazzólla: 1.No. 3, Primavera ~PorteñaCuatro Estaciones Porteñas2.Soledad3.Tango Suite(arr.Débora Halász )6.Bandoneón, Guitarra y Bajo7.Adiós Nonino8.Fracanapa9.Histoire du Tango13.ContrabajissimoEscualo5Iason Keramidis(vn)Alexander Kuralionok(accordion) Franz Halász(g)Débora Halász(p)Philipp Stubenrauch(b)Recorded 25th—28th February 2021 at the Albert-Lempp-Saal, Gemeindezentrum der evangelischen Kreuzkirchengemeinde München-Schwabing, Germany
2024年02月06日
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いつものbandcampからのメールで知った一枚。最近ビッグ・バンドのサウンドにはまっていて、このアルバムもその一つ。ピアニストのゲイリー・ダイアル(1954-)とアレンジャーでドラマーのリッチ・デローザ(1955-)が主導するコラボレーションプロジェクトで、ジャズの教育者であるチャーリー・バナコス(1946-2009)へのオマージュとのこと。wikiによると、彼はピアニスト、作曲家、著者、そして教育者であり、ボストンのバークリー音楽大学やニューイングランド音楽院から、ニューヨークのニュースクールやマンハッタン音楽学校などの多くの機関で教鞭をとっていた。バナコスが即興演奏家のために特に考案した耳のトレーニング方法は世界中で使われているとのこと。教え子の中には、バイオリニストのレジーナ・カーター、ピアニストのマリリン・クリスペル、ギタリストのマイク・スターンなどの有名ミュージシャンを輩出している。このアルバムでは、ゲイリー・ダイアルとリッチ・デローザにより選ばれた10曲が演奏されている。パーソネルの全貌は分からないが、マイク・スターン、ジェフ・バーリン、ジェリー・バーゴンジ、ウェイン・クランツなどの教え子たちが参加している豪華なアルバム。いろいろなスタイルの音楽が並んでいて、聴き手を飽きさせない。基本はビッグ・バンドのスタイルで、ホーンの鳴りっぷりが素晴らしくいい。1曲目の「Keep Swingin’」から強烈なスイング感の感じられる曲。特にトランペットのテレル・スタッフォードのプランジャー・ミュートによるニュー・オーリンズ風なプレイが強烈。2曲目の「Great Awakening」はジョー・ハバードのベースがフィーチャーされていて、ジャコ・パストリアスの音楽を思い出させる。続くウェイン・クランツのギター・ソロもいい。「The Bat Cave」はジェラルド・ダンジェロのパーカッシブなピアノ・ソロが目立つ。後半倍テンポになってからの疾走感がたまらない。ここで出てくるゲイリー・スマリアンのプレイがバリトン・サックスとは思えないような急速調のフレーズを軽々とこなして、フットワークの軽さを見せてくれる。「Pine Needles」はボサノヴァ調の哀愁を帯びたメロディーで惹きつける。特にフルート・アンサンブルのサウンドがいい。マイク・スターンのギターがフィーチャーされている。「Mummy’s Curse」はミディアム・テンポでぐいぐいと進む、ビッグバンドの王道を行くようなサウンド。ジェリー・バーガンジィの骨太のテナー・ソロ、続くトランペット・ソロもいい。「Bernie Burnola」は多数のパーカッションを使ったサンバのリズムにのって、ノリノリの音楽が展開される。アン・ドラモンドのワイルドなフルート・ソロとパウロ・レヴィの端正なソプラノ・サックスのコントラストがいい。上原ひろみのSonic Bloomのメンバーであるマウリシオ・ソッタレッリのラテンパーカッションも華やかに曲を盛り上げている。「A-440」はジェフ・バーリンのベース・ギターがフィーチャーされているが、アレンジが平凡。「Nero」はカントリータッチの素朴な曲を、洗練されたジャズ・ワルツにアレンジしている。ジェイ・アンダーソンの強靭なウッドベースがいいが、変拍子の「Pluto Language」はビクトール・プロボストのスティール・パン(ドラム缶で作られた打楽器)のサウンドがユニークだが、そのトロピカルなサウンドはアルバムの中ではちょっと違和感がある。アン・ドラモンドのフルートはパワフル。最後は「Pelaghia」2台のピアノのための作品で、純然たるクラシック音楽。テュッティでガンガン鳴らす曲が多かったので、最後にほっと一息つける選曲だ。無調的なイントロから印象派風の音楽が続く。ダークなムードながら親しみやすい音楽だ。マーガレットとバーバラというバナコスの娘たちが演奏している。youtubeもあるが、同一音源かどうかは不明。左がマーガレットで右がバーバラだ。コ・リーダーであるリッチ・デローザのアレンジが大変優れていて、ドラムスもソロこそないものの、シャープなドラミングが光っていた。ということで、全く知らない方のトリビュート・アルバムだったが、作品、演奏とも素晴らしい出来で大満足だった。去年リリースされていたなら、グラミー賞ノミネート確実だったような気がする。なお、CDには100ページ余りの書籍が添付されているそうだ。Dail &DeRosa:Keep Swingin’(Outside in Music OUIA24052)16bit44.1kHz Flac1.Keep Swingin’ (feat. Garry Dial, Terell Stafford and Dick Oatts)2.Great Awakening (feat. Wayne Krantz and Joe Hubbard)3.The Bat Cave (feat. Gerard D’Angelo, Garry Dial, Gary Smulyan and John Riley)4.Pine Needles (feat. Mike Stern and Garry Dial)5.Mummy’s Curse (feat. Jerry Bergonzi)5.Bernie Burnola (feat. Helio Alves, Anne Drummond, Paulo Levi, Mauricio Zottarelli)7.A-440 (feat. Jeff Berlin)8.Nero (feat. Garry Dial and Jay Anderson)9.Pluto Language (feat. Dick Oatts, Victor Provost, Anne Drummond, Mauricio Zottarelli)10.Pelaghia (feat. Margaret and Barbara Banacos)1.Keep Swingin2.The Great Awakening3.The Bat Cave4.Pine Needles6.Bernie Burnola7.A-4408.Nero9.Pluto Language10.PelaghiaGarry Dial(p)Richard_DeRosa(arr.,ds)
2024年02月04日
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フランク・ブラレイとエリック・ル・サージュというフランスのピアニストたちのデュオ・アルバム。取り上げられているのは自国の作曲家レイナルド・アーン(1874 - 1947)とエマニュエル・シャブリエ(1841 - 1894)。彼らの小品ばかりを集めた、フランス人らしいエスプリの効いたアルバム。因みに今年はアーンの生誕150周年で、シャブリエも没後130年という記念の年だ。spotifyで聞いたときからすっかり気に入っていたのだが、高くてなかなか手が出なかった。フランスのソニーが原盤のためか、いつものpresto musicではリリースされず、楽天のポイントが少したまったので、e-onkyoからやっと入手。まあ、spotifyで何回も聴いていたので、ハイレゾになったといって印象が変わるわけではない。アルバムの中では何と言ってもアーンの「12のワルツ集『ほどけたリボン』」がダントツにいい。今にも壊れそうな美しさが感じられる曲が多く、演奏もしゃれていて、アーンの素晴らしさがダイレクトに伝わってくる。特にいいのは第1曲、第2曲。優美に頬を撫でるような、柔らかな第1曲、はじけるリズムが心地よい第2曲。第3曲のゆったりとしたテンポのワルツ「「思い出…未来… - スローワルツの動き」も実に詩的で、船に乗って川を渡るみたいな気分になる。テンポの速い第6曲「失われたリング」の快活で気まぐれな気分もいいい。第8曲「開かれた檻」の様なダイナミックな曲で変化もつけられていて、退屈しない。第12曲の優雅な「唯一の愛」で締めくくられる。アゴーギクがツボにはまった時の素晴らしさは、月並みな言い方だが、さすがに本場ものという感じがする。そういえば先月末にリリースされたマーティン・ジェームズ・バートレットのアルバム「ラ・ダンス」(warner)にはアレクサンドル・タローと共演したこの曲の1,2曲が収録されている。本国でも流行ってきたのだろうか。この曲 マーティン・ジョーンズ 、 エイドリアン・ファーマー の演奏(Nimbus)以外見当たらないが、もう少し演奏されてもいい気がする。13曲目の「私はこの唇を当てたから~ヴィクトル・ユーゴーの詩によるメロディ」ではサンドリン・ピオーの美しい歌が入っているのが嬉しい。シャブリエの「3つのロマンチックなワルツ」は楽しいが、アーンの曲に比べると平凡。中では第2曲の「Mouvement modere de valse」の優美な旋律がいい。最後のアーンの「傷病兵の眠りのために」は3曲からなるが5分足らずの短い曲で、アルバムの中では最も地味な存在。録音はノイズのないきれいな音だが、もう少しパワーが欲しいと思う。2台のピアノのセパレーションはそれほどはっきりしていない。Frank Braley/Eric Le Sage:Le Ruban Dénoué - Valses(Sony) 24bit 88.2kHz FlacR. Hahn - Le ruban denoue - 12 valses a deux pianos et une melodie1.Decrets indolents du hasard - Moderato ([Indolent decrees of chance])2.Les soirs d'Albi - Vif et leste ([Evenings in Albi])3.Souvenir ... Avenir ... - Mouvement de valse lente ([What is past,what is to come])4.Danse de l'amour et du chagrin - Meme mouvement que la precedente ([Dance of love and grief])5.Le demi-sommeil embaume - Plus lent (Tres capricieux, mais sans jamais presser) ([The embalmed doze])6.L'anneau perdu - Molto vivo ([The lost ring])7.Danse du doute et de l'esperance - Moderato ([Dance of doubt and hope])8.La cage ouverte - Molto animato ([The open cage])9.Soir d'orage - Misterioso, non troppo lento ([Stormy evening])10.Les baisers - Appassionato, non troppo presto ([Kisses])11.Il sorriso - Stesso tempo, mais tres calme ([Le sourire, The smile])12.Le seul amour - Presque lent, tres senti ([The only love])13.R. Hahn - Le ruban denoue - 12 valses a deux pianos et une melodie: R. Hahn - Puisque j'ai mis ma levre - Melodie sur une poesie de Victor Hugo - Lent14.E. Chabrier - Trois valses romantiques pour deux pianos: 1.Tres vite et impetueusement 2.Mouvement modere de valse 3.Anime17.R. Hahn - Caprice Melancolique pour deux pianos - Andantino poetique (presque allegretto) - Reveusement, sans beaucoup de nuances18.R. Hahn - Pour bercer un convalescent pour deux pianos: 1.Andantino sans lenteur 2.Andantino non lento 3.Andantino espressivoRecorded December, 2022,Namur Concert Hall (Grand Manège)
2024年02月02日
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