全46件 (46件中 1-46件目)
1
「FLESH&BLOOD」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。「海斗、大丈夫?」「うん・・」 横浜港で家族に別れを告げ、長い船旅を経て辿り着いたキング・クロス駅で、森崎和哉は蒼褪めている親友・東郷海斗を近くの椅子に座らせた。「まだ、船酔いが・・」「違う。月のものが来ただけ。」「そう。」 海斗は、男女両方の性を持って生まれて来た。 その事を知っているのは、海斗の両親と、森崎家、そして東郷家の使用人達だけだった。「大丈夫、立てる?」「何とか・・」 海斗は下腹の鈍痛に顔を顰めながらも、和哉と共にこれから自分達が通う寄宿学校(パブリック・スクール)行きの汽車へと乗り込んだ。「和哉君、海斗の事を頼むわね。」「はい、小母様。」 英国へと発つ前、和哉は海斗の母・友恵からそう言われ、海斗を託された。 和哉と海斗は、親同士が決めた許婚同士だった。 二人が初めて会った時、日本は、“御一新”の後の混乱に満ちた時期だった。 東郷家と森崎家は元幕臣だったが、共に明治政府の高官となり、洋介と公志はそれぞれ自分の息子達を官費留学生として英国へと送った。「海斗、目的地に着くまで、眠っていいよ。」「わかった、そうする・・」 海斗は座席の上に腰を下ろすと、そのまま目を閉じた。“逃げなさい。”「でも、あなたは・・」“大丈夫、わたしは後から合流します。だから、早く行きなさい。” そう言った白装束姿の女性は、海斗に優しく微笑んで、屋敷の中へと消えていった。「海斗、起きて!」「ん・・」 海斗が目を開けると、汽車は目的地に停まっていた。「もう、生理痛は治まったの?」「うん、寝ていたら良くなった。」「そう。」 和哉と海斗が汽車から降りようとした時、海斗は一人の少年とぶつかった。「ごめんなさい・・」「こっちこそ、済まない。怪我は無いか?」「はい・・」 海斗の目に最初に飛び込んで来たのは、美しく鮮やかな長い金髪だった。 そして次に飛び込んで来たのは、漆黒の燕尾服の上からでもわかる均整の取れた筋肉で、最後に飛び込んで来たのは、宝石のような美しい蒼い瞳だった。「どうした?そんなに俺に惚れたのか?」 そう言った少年は海斗の顎をおもむろに掴んで上を向かせ、その唇を塞いだ。「何するんだ、この変態!」 海斗はファースト・キスを目の前に立っている少年に奪われ、激昂する余り、彼の頬を平手打ちした。 小気味の良い乾いた音が客車内に鳴り響き、その場に居た者達は何事かと海斗と少年を見ていた。「おやおや、威勢の良い挨拶だな。」 少年はそう言うと、口端を上げて笑った。「和哉、行こう!」「海斗、待って!」 汽車から降りた海斗の背中を、少年は見送った。「ジェフリー!」「ナイジェル。」「新学期早々、騒ぎを起こしたのか?監督生の俺がどんな思いであんたの尻拭いをしていると思っている!」「そうカッカッしなさんな、ナイジェル。俺はただ、赤毛の可愛い坊やにキスしただけだ。」 金髪碧眼の少年―ジェフリー=ロックフォードは、そう言って親友のナイジェル=グラハムを見て笑った。「うわぁ・・」 一方、汽車から降りて、駅から馬車に乗り寄宿学校に到着した和哉と海斗は、広大で壮大な校舎を前にして感嘆の声を上げた。「あなた達が日本から来た留学生ね?こちらへどうぞ。」 チューダー=スクール教頭・エリザベスは、二人を校内へと案内した。「カズヤ=モリサキ、あなたはヴィクトリア寮に、カイト=トーゴ―、あなたはデヴォン寮へ・・」「あの、同室ではないのですか?」「何か問題でも?」「いいえ・・」 丸眼鏡越しにエリザベスにから睨まれ、二人は何も言えなかった。「海斗、本当に独りで大丈夫?」「うん・・」 今まで和哉と一緒だったので、初めて海斗は彼と離れ離れになり、初めて独りになる不安を抱えながらデヴォン寮の部屋へと向かった。「ジェフリー、新しいルームメイトですよ、仲良くするように。」「あんた、あの時の・・」「よぅ、赤毛のじゃじゃ馬さん。これからよろしくな。」(最悪・・) よりにもよって、自分のファースト・キスを奪った相手と同室になるなんて、海斗の運は尽きたようだった。「お前、その髪は地毛なのか?」「うん。」「細いな、ちゃんと食べているのか?」「ちょっと、どこ触って・・」 ジェフリーは海斗の細い腰を触りながら、彼が胸に包帯のようなものを巻いている事に気づいた。「包帯なんて巻いて、怪我でもしているのか?」 ジェフリーがそれに触れようとすると、海斗はまるで火傷をしたかのように彼から勢いよく飛びのいた。にほんブログ村
2022年08月31日
コメント(0)
サリーの父親が酷すぎてひきました。ポールの悲しい過去、そしてサリーとの再会と再燃する愛。面白くてページを捲る手が止まりませんでした。
2022年08月30日
コメント(0)
ヒーローのトーマスがへたれすぎて、大丈夫なのこの人?と思いましたが、すれ違っていたアリシアと結ばれて良かったです。義姉の悪辣さが強烈でしたね。
2022年08月30日
コメント(0)
「FLESH&BLOOD」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。 黒雲が月を覆い隠そうとしている頃、ひとつの命が産まれた。「奥方様、産まれました!」「男?女?」「それは・・」「わたくしを、産屋まで案内なさい。」レティシアはそう言って椅子から立ち上がると、女が居る産屋へと向かった。屋敷の外れに、その産屋はあった。レティシアが中に入ると、干し草の中では臍の緒をつけたままの赤子が産声を上げていたが、その赤子をこの世に産み落とした母親はこと切れていた。「奥方様‥この子は・・」「この子を、屋敷の中へ。今夜は冷えるから、温かい湯に浸からせないと、死んでしまうわ。」「は、はい!」清潔な布に包まれた赤子は、男女の証が両方ついていた。レティシアが赤子を抱いて産屋から出ると、空にはいつしか美しいビッグ・ディッパー(北斗七星)が浮かんでいた。「カイト、あなたは、今日からカイトよ。」レティシアの言葉が解ったのかどうかは知らないが、赤子は嬉しそうな声を出して笑った。「カイト様、どちらにいらっしゃいますか~!」「カイト様~!」赤毛を揺らしながら、7歳となった海斗は木の上で自分を捜している侍女達を見下ろしていた。「何処へ行かれたのかしら?」「また奥様に叱られてしまうわ。」海斗が侍女達の会話を木の上で聞いていた時、突風が彼女を襲った。「カイト様!」「誰か~!」海斗はバランスを崩し、地面へと真っ逆様に落ちていった。だが彼女の身体が地面に激突する前に、黒絹のマントに彼女は包まれた。「こんな所で、赤毛の天使と会うなんて、わたしは何て幸運な人間なのだろう。」そう言って笑った少年は、翠の瞳をしていた。「あなたは、誰?」「カイト、怪我は無い?」「お母様・・」「あれ程木登りはしてはいけないと言ったでしょう!」「ごめんなさい・・」「メンドーサ様、わたくしの娘が失礼を・・」「いいえ。」「ビセンテ、ここに居たのか、捜したぞ!」「伯父上・・」ビセンテ=デ=メンドーサは、伯父が不機嫌そうな顔をしている事に気づいた。にほんブログ村
2022年08月29日
コメント(0)
twitterのフォロワーさんからおすすめされた作品。作者の方は演劇に携わっていて、戯曲を書いたことがあるからなのか、場面展開や人物描写などが見事で、まるで読んでいる間場面ごとに情景が浮かんできて、楽しかったです。実は、16世紀末ヨーロッパの平行世界のタイムスリップ物のBL小説が大好きなので、こちらの作品に興味が湧いて読みました。何度でも読み返したい作品です。
2022年08月27日
コメント(0)
おぞましい連続焼死事件。真相が明らかになるまで、ページを捲る手が止まりませんでした。
2022年08月26日
コメント(0)
ロンドン・アイで失踪したいとこのカリムを捜すため、姉カットと謎解きをするテッド。カリムの両親の離婚問題や、自閉症スペクトラムを抱えていきづらさを感じているテッド。学校での人種差別問題やいじめなどを掘り下げながらも、驚愕の真相と感動のラストまで夢中になって読みました。「怪物はささやく」の作者だったことを、読み終わってはじめて知りました。続編も近々発売されるそうなので、楽しみに待っています。
2022年08月26日
コメント(0)
勝手に攘夷女郎と祭り上げられた亀遊。花魁として懸命に生きた彼女でしたが、時代の荒波に翻弄されてしまったのですね。
2022年08月26日
コメント(0)
原爆の悲惨さを描いた作品。高校生のとき現代文の授業でこの作品を知りましたが、改めて読むと戦争の愚かさと悲惨さを感じました。戦争の記憶が風化しつつある中で、この作品は多くの人に読まれるべきだと思います。
2022年08月25日
コメント(0)
ドラマの原作小説です。原作の方がドラマの方より痛快で展開が早くて面白いです。続編が出るそうなので、今から楽しみです。
2022年08月23日
コメント(0)
2009年7月に北海道・トムラウシ山で起きた遭難事故。ツアー登山というハードスケジュールの中で、悪天候の下強行された登山。引き返すこと、登山を延期や中止をしたりした方が良かったのではないかと思ってしまいます。低体温症の恐ろしさを感じた本でした。コロナ禍で登山人口が増えた今だからこそ、多くのひとに読んで欲しいです。
2022年08月23日
コメント(0)
家庭と仕事に充実した男が、画家になるという夢に賭けて全てを捨てた。なんというか、ストリックランドの姿を通して「やりたいことに年齢は関係ない」というメッセージが伝わってきました。ストリックランドは最期まで身勝手な人間でしたが。
2022年08月22日
コメント(0)
「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。土方さんが両性具有です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「さっき、巫女姫に会いましたわ。」「ほぉ、それで?」「このわたくしを見てひれ伏す事もなく、わたくしを睨みつけて来ましたわ。」皇太子・カディーは、そう言うと愛妾を見た。「どんな女だった?」「殿下、わたくしという女がありながら浮気なんて許しませんわ!」「勘違いするな。俺は巫女姫がどんな女なのか知りたいだけだ。」「何でも、神羅国の部族長の娘だそうですわ。この国へ来たのは、敵対する部族長の元へ娘を嫁がせる為ですって。でも、娘は盗賊に殺されたそうだと・・」「ほぉ?」「そのような事をわたくしに尋ねてどうなさるのです?」「少し、考えている事がある・・」「まぁ、それは何ですの?」「秘密だ。」カディーは、そう言うと柘榴の実を握り潰した。「カラシャ様、どうかなさいましたか?」「カラシャ様、あちらへ。」アリーシャが去った後、カラシャは突然“気分が悪い”と言って自室へと戻っていった。「一体どうしちまったんだ?」「アリーシャ様は、カラシャ様を虐待していたのです!」カラシャの乳母・クララは、そう言うと歳三にアリーシャの本性を話し出した。「あの女は、キルシャ様のお気に入りだったカラシャ様に手出しが出来なかったから、今まで大人しくしていました。しかし、キルシャ様が軍務で忙しくなると、アリーシャ様と皇太子殿下は、事あるごとにサラ様を自分達が住まう離宮に呼び出し、無理難題を押し付けたのです。」「嫌がらせを受けていたと言っていたが、どんな嫌がらせを?」「わたくし達には、申し上げにくい事ばかりでしたわ。サラ様は、やがて心を病まれて・・」「アリーシャ様は、サラ様の代わりに幼いカラシャ様を虐待するようになりました。言葉による暴力は、身体的暴力よりも残酷なものなのです。」「じゃぁ、さっきあいつがあんなに怯えていたのは・・」「母を死に追いやり、己の心を壊した相手を目の前にしたら、怯えるのは当然ですわ。」「そうか。」「巫女姫様、どうかカラシャ様を守ってやって下さいませ!」翌朝、歳三はカディーの離宮に呼ばれた。「お目にかかれて光栄です、皇太子殿下。」「堅苦しい挨拶などはいい。実は数日後、弓術大会を開こうと思っているのだ。」「弓術大会、ですか?」「そうだ。そなたも出場するように。」「かしこまりました。」カディーの目が一瞬光ったのを、歳三は見逃さなかった。「弓術大会、とは?」「何でも皇太子様が発案されたそうで、俺にそれに出ろとさ。」「罠かもしれぬな。」「罠?」「今、王宮は国王を失い、混乱している。あの者は、次の王は己だと誇示したいのだろうよ。」「へぇ・・」「まぁ、あの者には用心した方が良い。」「わかった。」「殿下、あの者はここへ来るまで騎馬部隊長の娘として育った者ですのよ。」「勝負は、余の勝ちだ。」「まぁ・・」「アリーシャ、耳を貸せ。」「殿下、それは良い考えですわね。」弓術大会当日は、朝から晴れていた。「見て、巫女姫様よ・・」「素敵ね・・」歳三が現れると、その場に居た者達は彼女の凛とした姿に思わず溜息を吐いた。「キルシャ様もお美しいわ。」「お二人が並ぶと、まるで一幅の絵画のようですわ。」弓術大会は、カディーの領地である狩猟地で、より多くの獲物を獲った者が勝ち、というルールだった。「巫女姫よ、気を抜くなよ。」「あぁ。」歳三はキルシャと共に、狩場へと向かった。広大な森は、静寂に満ちていた。(こんな所で、狩りが出来るのか?)そう思いながら歳三が馬で狩場を駆けていると、何処からか一本の矢が飛んできて、木の幹に当たった。(何だ?)歳三が辺りを見渡すと、向こうの方に黒衣の男達の姿があった。(こいつら、まさか・・)歳三が身構えていると、男達の一人が、何処かに合図を送っていた。その直後、数本の矢が歳三に向かって飛んで来た。「殿下、巫女姫は森の中から逃げ回っていますわね。」「そうだ。巫女姫はこの森から生きて出られない!」カディーがそう叫んでワインを飲んでいると、彼の顔から数センチ近くに矢が天幕の柱にめり込んだ。女官達は悲鳴を上げ、逃げ惑った。「獲物ですわ、殿下。」歳三はそう言うと、カディー達に“獲物”を差し出した。それは、カディーが雇った男達の首だった。「ひぃ~!」「あの程度の者達で、このわたしを倒せるとでも?」「や、やめろ!」「今度は外しませんわ。」歳三は恐怖に震えるカディーとアリーシャに背を向け、弓術大会の会場を後にした。「あの者、只者ではないな。」「ミダス様・・」「神羅国の巫女姫は、弓一本だけで敵部隊を殲滅させたとか・・」(あれが・・)ミダスは、颯爽と馬に乗っている歳三の姿を望遠鏡で見た。「見事だったぞ、巫女姫。」「いつからあんたは、あいつらの企みに気づいた?」「あの者が酒ばかり飲んでいる姿を見てピンと来た。妾の部下があの者の動きを探ってみたらクロだった。」「そうか。」「まぁ、そなたの反撃に遭ったのだから、そなたやカラシャには手を出さぬだろう。」「カラシャと俺が、何か関係あるのか?」「王宮では、そなたがカラシャの保護者代わりである事は皆知っておる。」キルシャはそう言うと、歳三の手を握った。「カラシャを守ってやってくれ。」「わかった。」弓術大会から数日後、キルシャが歳三の離宮にやって来た。「どうした?」「あの女・・アリーシャが、カラシャを寄越せと言って来た。」「それは、一体どういう事だ?」「カラシャを人質にして、そなたを従わせたいのだろう。」「そんな事に俺が従うとでも思っているのか?」「・・そなたなら、そう言うと思った。どうだ、あの女を少し痛い目に遭わせてやらないか?」「あぁ。」歳三はそう言うと、拳を鳴らした。にほんブログ村
2022年08月22日
コメント(0)
「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。土方さんが両性具有です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「来てくれたのね、ありがとう!」「これをあなたに。」 歳三は、そう言うとカラシャに彼女が好きな花を刺繍したハンカチを贈った。「ありがとう、大切にするね!」「喜んで頂けたようで嬉しいです。」「ねぇ、今日は巫女姫様の故郷の話を聞かせて!」「わかりました・・」 ここ数日間、カラシャと歳三はまるで実の母娘のように親しくなっていった。「まぁ、あのお二人、まるで実の親子のように仲睦まじいですわね。」「ええ、本当に。」「それよりも、エリシャの民の事を聞きました?」「何でも、一部の過激派が王宮を襲撃する計画を立てているとか。」「まぁ、恐ろしいわね・・」「この頃、王宮付近で夜盗が出没しているようだから、気を付けないと。」「そうですわね。」 女官達がそんな事を話していると、そこへキルシャがやって来た。「どうした、何かあったのか?」「いいえ、最近夜盗が王宮付近で出没しているので、戸締りに気をつけようと、皆で話していたところです。」「そうか。それよりもカラシャは、随分巫女姫に懐いているな。」「ええ。」「あの子の母親は、どうしている?」「実は、サラ様は余りご容態が芳しくないようでして・・薬師によると、あと数日の命だとか・・」「そうか。」 キルシャが女官とそんな事を話していると、彼女達の元にサラ付きの女官が駆け寄って来た。「キルシャ様?」「どうした?」「サラ様が、血を吐きました!」「妾をサラの元まで案内せよ!」「はい!」 キルシャ達がサラの部屋へと向かうと、彼女は苦しそうに血を吐いていた。「すぐに薬師を呼べ!」「キルシャ様、どうか・・娘に会わせてください。」「わかった。」 キルシャが歳三とカラシャをサラの部屋へと向かわせると、彼女は蒼褪めた顔を娘に向けた。「母様・・」「何という・・」「まだ幼いのに・・」 葬儀の後、カラシャは埋葬されるまで母の棺から離れようとしなかった。「みこひめさま、わたしはどうすればいいの?」「カラシャ様、わたしがあなたのお母様の代わりにおりますよ。」「ありがとう。」 娘を亡くした母と、母を亡くした娘は、長い間共に寄り添っていた。「巫女姫様、キルシャ様がお呼びです。」「わかった。」 歳三がキルシャの部屋へと向かうと、そこには何かを読んでいる彼女の姿があった。「こんな夜中に俺を呼び出して一体何の用だ?」「実はな、そなたの娘を殺した奴らの正体が判ったのだ。」「あいつらは、盗賊じゃないのか?」「いや、あいつらはエリシャの民・・我が国を滅ぼそうとしている異教徒だ。」「どうして、そんな奴らが俺を狙ったんだ?」「そなたの手首には、美しい蓮の刺青が入れられているであろう?」「あぁ、それがどうした?」「そなたが狙われた理由は・・」「キルシャ様、失礼致します!」「どうした!?」「カラシャ様が居られる離宮に、エリシャの民が火をつけました。」「何だと!?」 二人が、カラシャが居る離宮へと向かうと、そこは紅蓮の炎に包まれていた。「カラシャ様、どちらにおられますか~!」「返事をして下さい~!」 歳三達がカラシャを探していると、歳三はサラの部屋に入り彼女の寝台に顔を埋めて泣いているカラシャの姿があった。「カラシャ様、こちらにいらっしゃったのですね。さぁ、わたしと一緒に参りましょう。」「うん・・でも、お母様の首飾りを探しているの。」「どんな首飾りですか?」「蒼い石がついた首飾り・・周りに真珠がついているの。」「わたくしが探して参りますから、カラシャ様は先にお逃げ下さい。」「わかったわ。」 歳三は先にカラシャを宮殿の外へと逃がし、彼女の母親の形見である首飾りを探した。 首飾りは、カラシャの寝台の近くにあった。「巫女姫様、ご無事でしたか?」「あぁ。」「カラシャ様、暫く巫女姫様のお部屋を使いましょうね。」「カラシャ様、参りましょう。」「ええ・・」 カラシャの離宮は全焼し、暫く彼女は歳三が住まう離宮で暮らす事にした。「カラシャ様、これを。」「お母様の首飾りを見つけて下さってありがとう。」「カラシャ様、これからよろしくお願い致しますね。」「ええ!」 離宮の火事から数日経った頃、カラシャと歳三が茶を飲んでいると、そこへ見知らぬ女が数人の侍女達を連れてやって来た。「お前が、あの巫女姫なの?」「あなたは?」「フン、このわたくしが誰なのか知らないの?とんだ世間知らずな女なのね!」 女はそう叫ぶと、不快そうに鼻を鳴らした。(誰なんだ、この女?)「アリーシャ様、こちらにおられましたか。皇太子殿下がお呼びですよ。」「今行くわ!」 女は来た時と同じように、嵐のように去っていった。「あの女、誰だ?」「アリーシャ様ですわ。最近、皇太子殿下のご寵愛を受けて、随分威張っているようですわ。」「へぇ・・」「まぁ、あの方は金に物を言わせてこちらに入られたようなものですわ。」「王宮内でも、色々とあるんだな。」「ここは、伏魔殿ですからね。」 歳三が横目でカラシャの方を見ると、彼女は何処か怯えたような表情を浮かべていた。にほんブログ村
2022年08月22日
コメント(0)
「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。土方さんが両性具有です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「てめぇ、何者だ!?」「それは後で話す。」 男は歳三の腕を掴んだまま、歳三をある場所へと連れて行った。 そこは、タハルークから少し離れた寂れた神殿だった。「ここに俺を連れて来て、どうするつもりだ?」「お前には、“ある儀式”をして貰いたいのだ。」「“ある儀式”だと?」「あぁ、そうだ。」 男がそう言うと、指笛を吹いた。 すると、神殿の奥から数人の男女が出て来た。 皆、肩に龍の刺青を入れていた。「我らはエリシャの民・・あの魔女が異教徒と呼んだエルシャハ神を奉る“選ばれし民”だ。」「それが、俺と何の関係がある?」「そなたは、神羅国の出身だそうだな?」「あぁ。」「そなたの娘が、何故死んだのか知りたくはないか?」「ララは、盗賊に殺された筈・・」「それが、仕組まれたものだとしたら?」「何だと・・」「キルシャは、そなたを前から狙っていた。そなたに秘められた力がある事を知った彼女は、そなたの娘を手に掛けたのだ。」「そんな・・」「娘に会いたくないか?」「それは・・」 会いたくないと言ったら嘘になる。 腹を痛めて産み、慈しんで育てた娘の死の真相が知りたかった。 だが、真実は残酷なものだ。 知りたくない事は知らなくていい―そう思った歳三は、男の問いに首を横に振った。「そうか。ならば、仕方がない。」「エルク様・・」「“反魂の儀式”は中止だ。」「しかし・・」「死者の眠りを妨げてはならぬ。」 男―エルクは、そう言うと歳三に向かって頭を下げた。「巫女姫様、王宮までお送りしよう。」「あぁ、頼む・・」 王宮へと向かった歳三は、そのまま自室に入って朝まで眠った。 「巫女姫様、起きて下さいませ。」 「ん・・」 「今日は、朝から予定が詰まっておりますよ。」 「わかった・・」 歳三は朝から忙殺され、少し疲れていた。 「あ~、疲れた。」 「巫女姫様、巫女姫様にお会いしたいという方が・・」 「後にしてくれ。」 「わかりました。」 「申し訳ありませんが、巫女姫様は只今お休み中です。」「そうか、では出直そう。」 歳三に会いに来た男は、そう言うと王宮を後にした。 「噂の“巫女姫”様とやらには会えたのかい?」 「会えなかったよ。」 「まぁ、あたしらのような身分の者は簡単にお会いできないって事だね。」 「そうだな。」 「それにしても、これからこの国はどうなるんでしょう?」 「さぁな。」 「さ、仕事、仕事!」 歓楽街の中にある飯屋“パライソ”は、その夜も賑わっていた。 「三番テーブル、空いたよ~!」 「はいよ~!」 店にその客が来たのは、そろそろ店じまいをしようという時だった。 「いらっしゃいませ~」 その客は目深にフードを被っており、食事の最中もそれを外そうとしなかった。 彼は、誰かを待っているようで、時折入口の方を見てはワインを飲んでいた。 「あの客、変だねぇ。」 「あぁ・・」 「それよりも、もうハーブが少ししか残っていないわね。」 「俺が買って来るよ。」 “パライソ”の店主、ユージーンは店から出て、いつも行くハーブ専門店へと向かった。 「はいよ。」 「良かった、まだ店が開いていて。」 「この時間帯だと、店が混んで来る時間帯だからねぇ。気を付けて帰りなよ。」 「あぁ。」 ハーブ専門店を出て、“パライソ”へと戻ったユージーンは、あの客が居ない事に気づいた。 「あの変な客、何処に行った?」 「さっき帰ったよ。」 「そうか。」 「一体、何だったんだろうね?まぁ、金払いは良かったけど。」 「さてと、もう店じまいするか。」 「そうだね。」 ユージーン達は、そう言うとあの客の事を忘れた。 「ねぇ、あの人、来ないわねぇ。」 「ああ、あの金髪の・・」 「良い男だったわ。金払いも良かったし。」 歓楽街の向こうにある色街では、女達が千景の事を話していた。 「でも、あの人以前何処かで見たような気がするわね。」 「え、本当?」 「う~ん、何処だったかしら・・」 「ちょっと、あんな良い男と何処で会ったのか、早く思い出しなさいよ!」 「あ、思い出した!昔、王宮で働いていた時に、あの方を見たわ!」 「王宮?」 「そう。じゃぁ、あの人はまさか・・」 「へくしょん!」 「風邪ですか?」 「いや・・」 「また、誰かがあなたの悪い噂を流しているのでしょうね。」 「天霧、お前は俺に嫌味を言いに来たのか?」 「いいえ。エリシャの民が、密かに動き出したようです。」 「キルシャの命を狙っているのか?」 「彼らには、別の目的があるようです。」 「そうか・・」 「暫く、部下に様子を探らせてみます。」 「頼んだぞ。」 (何やら、嫌な予感がする。) 千景はそう思いながら、空に浮かぶ赤い月を眺めた。にほんブログ村
2022年08月22日
コメント(0)
「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。土方さんが両性具有です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 キルシャの奇襲を受けた異教徒達の集落は、跡形もなく焼かれ、家を失った彼らは、安息の地を求め流浪の旅に出た。「巫女姫様、いかがでございますか?」「気持ちが良いな。」「それはようございました。」 歳三がジャスミンの精油入りの風呂に入っていると、遠くから何か光っている事に気づいた。「何か光ってねぇか?」「そうですか?わたしには何も・・」 男がそう言った時、彼の首は鮮血を噴き上げながら胴体から離れた。「巫女姫様、こちらへ!」 歳三は女官達に連れられ、自室へと避難した。「お怪我はありませんか?」「あぁ。」「それにしても、あの光は一体何だったのでしょう?」「さぁな。」 歳三は疲労の所為で、そのまま寝台に横たわり、朝まで熟睡した。「歳三、歳三は居るか!?」「何だ、うるせぇな。どうしたんだ、千景?」「あの女が、お前に会いたいそうだ。」「あの女?」「キルシャの側近だ。」「何でその女が、俺に会いに来るんだ?」「さぁな。」 歳三が寝室から出ると、応接間のソファには、一人の女が寛いだ様子で座っていた。「そなたが、あの巫女姫か?」「誰だてめぇ?」「妾はキルシャの側近・アーリアと申す。」「へぇ・・キルシャ様と一緒に異教徒狩りへ行かなくていいのか?」「妾はキルシャ様の側近だが、考え方はあの方とは違う。一緒にしないでくれ。」「済まねぇ・・」「最近のキルシャ様の行動は、目に余る。いくら異教徒に奴隷として売り飛ばされたからってあのような・・」「それ、本当か?」「キルシャ様は七つの時に、家族を殺され一人だけ生き残ったのだ。」「そんな過去が・・」「キルシャ様は、苛烈な御方だ。あの方の内に秘めた怒りの炎は、誰にも鎮める事は出来ぬ。」「そんな事を俺に話しに来たのか?」「いいや。そなたが左肩に龍の刺青があるラーラという娘、先程近くの川で彼女の遺体が見つかった。」「それは本当なのか!?」「妾の部下と、妾が確認したから間違いない。」「一体、何故・・」「ラーラの死の真相は、妾が究明してみせる故、そなたにも協力して貰いたいのだ、巫女姫よ。」「わかった。」「エミヤ様も陛下もお亡くなりになられた今、この国に大きな嵐が来そうだ。」「嵐、ねぇ・・」 アーリアが言った、その“嵐”は、すぐにやって来た。「カラシャ様、いけません!」「カラシャ様!」(なんだ?) 歳三が昼寝をしていると、外が急に騒がしくなった。「申し訳ありません、巫女姫様!カラシャ様が・・」「カラシャ様、帰りますよ。」「いや~」 そう言いながら歳三にしがみついて離れようとしないのは、五歳位の女児だった。 彼女の名はカラシャ、千景にとっては遠縁の従妹にあたる。「こいつの母親は何処だ?」「カラシャ様の母君は、今療養中でして・・」「療養中・・」「ここは、“色々と”ありますから。」「キルシャ様が戻られる前に、早くカラシャ様をお部屋へお連れ致しませんと・・」「俺でよければ、この子を見てやろうか?」「まぁ、いいのですか?」「俺には、この子と同じ年頃の娘が居たんだ。」「それなら、カラシャ様の事をよろしくお願い致します。」「あなたが、みこひめさま?」「そうだが・・」「みこひめさま、かあさまのびょうきを治して下さい。」「お前の母様は、どんな病気なんだ?」「かあさま、いじわるな人にいじめられて、こころがこわれたの。」「・・済まねぇが、俺は人の病気を治す力はねぇんだ。」「そうなの・・」「お前ぇの母様が元気になるまで、俺がお前ぇの傍に居てやる。」「本当!?」「あぁ。」 お互いに初対面だというのに、歳三とカラシャはすぐに打ち解けた。「ねぇ、みこひめさまには、かあさまはいるの?」「う~ん、そうだな・・」 ―歳三、あなたを置いて逝くのは、とても辛いけれど、わたしはあなたの事を見守っているからね。 自分は、母親の顔を知らない。「俺は、母親を知らない。」「そうなの?」「あぁ。」「ねぇ、こんど、わたしの部屋に遊びに来て。」「わかった。」「約束よ。」「あぁ。」 カラシャと自室の前で別れた歳三は、彼女の遠ざかる小さな背中に、亡くなった娘の姿を重ねていた。(ララ、会いたい・・)「そなたが、巫女姫か?」「誰だてめぇ?」 歳三は突然目の前に現れた黒衣の男を睨みつけた。「そなたに話がある、ついて来い。」 男は、有無を言わさず歳三の腕を掴むと、闇の中へと駆けだしていった。にほんブログ村
2022年08月22日
コメント(0)
「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。土方さんが両性具有です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「てめぇ、何で儀式の事を俺に黙ってた!」「儀式・・あぁ、あの事か。お前に隠そうとしていたつもりはなかった。誤解を招いたのなら、済まなかった。」「いいよ。俺も突然殴って悪かった。それで、今まで何処に行っていたんだ?」「あぁ、それが・・」 千景は、歓楽街でエミヤの侍女から耳飾りを渡され、その持ち主を探していた事を話した。「そうか。」「そのエミヤ様の侍女をもう一度探そうとしたのだが、彼女は何処にも居なかった。」「どういう事だ?」「俺にもわからん。」「まぁ巫女姫様、こちらにいらっしゃったのですね!」「どうした、俺に何の用だ?」「そろそろ舞の稽古の時間です。」「あっ、いけねぇ!じゃぁな千景!」「まったく、騒がしい奴だ。」 歳三は、舞の稽古が行われている舞楽殿へと向かった。 その背中を、千景は苦笑いしながら見送った。「あ~、疲れた!」 舞の稽古が終わり、歳三は後宮の自室に戻った途端、そう叫んで寝台に横たわった。 儀式まであと一日しかないので、舞の稽古は分刻みの過酷なものだった。 舞は複雑な動きが多く、稽古が終わった後歳三は全身筋肉痛に襲われた。「ん・・」 歳三が寝台の中で寝返りを打った時に窓の外を見ると、太陽が東の空に高く昇っていた。「うわぁ!」「まぁ巫女姫様、どうなさったのです?そのように慌てられて・・」「今何刻だ!?」「まぁ、何をおっしゃいます。儀式はもう終わりましたよ。」「何だと!?」 歳三がそう叫んだ後、悪夢から目を覚ました。「おはようございます、巫女姫様。」「あぁ、おはよう・・」 少しぼうっとした頭を揺らしながら、歳三は儀式の為に女官達から化粧を施され、衣装を着付けて貰ったのだが―「おい、こんな衣装で本当に踊るのか?」「えぇ。」「何だか、露出度が高くないか?」「こちらでは普通ですよ?」「はぁ・・」 女官が歳三に差し出した衣装は、胸元を大きく露出したデザインだった。 最後に衣装を着付けられ、歳三は鏡の前に立った。(露出が高ぇな・・) 胸元がかなり露出しているのだが、装身具が無い所為で寂しい。「どうかなさいましたか?」「いや、胸元が寂しいと思ってな・・」「まぁ、早く言って下されば用意致しますのに!」 女官達は歳三の言葉を聞いた途端、急に慌しく動き出した。「この首飾りなんて如何でしょう?」「あ、あぁ・・」「さぁ、行ってらっしゃいませ!」「わかった・・」 舞台へと向かう歳三の胸元には、エメラルドの首飾りが美しく輝いていた。 儀式は、滞りなく終わった。「巫女姫様、お疲れ様でした!」「ありがとう。」 歳三は後宮の自室に戻り、安堵の溜息を吐いた。(急にあの難しい舞をやれと女官達と聞かされた時にはどうなるかと思ったが、やり遂げられて良かったぜ・・) 歳三は疲労の余り、そのまま寝台で眠ってしまった。―まぁ、ちゃんと摘んで来たのね、えらいわ!―全然怖くなかったよ!―流石、わたしの子ね。 歳三は、“誰か”に美しい青い花を手渡した。―歳三、あなたはずっと、わたしの可愛い娘で居てね。“誰か”は、手首に美しい蓮の刺青を入れていた。―おかあさん、この刺青なぁに?―これはね、あなたがいつか大人になったらこの刺青を入れるのよ。―どうして?―それはね・・「巫女姫様、起きて下さいませ!」「何だ、うるせぇな・・」「陛下が、お亡くなりになられました!」「それは、本当か!?」「はい・・」 エミヤの死後、床に臥せっていたガリウスは、エミヤの死から丁度一月が経ったこの日に、静かに息を引き取った。「あぁ、何という事でしょう・・」「これから、この国はどうなってしまうのかしら?」「エミヤ様が亡くなられたばかりだというのに、陛下まで・・」 ガリウスの葬儀は、盛大に行われた。「キルシャは・・あの女は、何処に居る?」「それが・・」「キルシャ様は、異教徒狩りへ行かれました。」「異教徒狩りだと?」「はい・・」「あの女め、一体何を考えているのだ!?」 千景がそう言って怒り狂っている頃、キルシャは次々と異教徒達の集落を襲っては、悪逆非道の限りを尽くしていた。「さぁ皆の者、今宵は無礼講ぞ!思う存分騒ぐが良い!」 炎に照らされたキルシャの顔は、まるで悪鬼のようだった。にほんブログ村
2022年08月22日
コメント(0)
「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。土方さんが両性具有です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 カタン、カタンと、規則的な機織りの音が聞こえて来た。 歳三が王宮の後宮に入ってから、数日が過ぎた。 エミヤの死と、国王が病に臥した事により、この季節に行われる筈だった祭りは中止となった。「あ~あ、嫌になっちゃうわ。祭りに向けて一年間もこうして準備してきた物が全て無駄になるなんて!」「一体キルシャ様は何を企んで・・」「しっ、聞こえているわよ!」 歳三は女官達の話を聞きながら、キルシャが周囲から恐れられている事に気づいた。「なぁ、あの女は、どうして恐れられているんだ?」「キルシャの事か?あの女は、自分以外の者は敵だと思っているようだ。無理もない、家族を殺され、寄る辺ない身の上だったから・・」「その話、詳しく聞かせてくれ。」 その日の夜、千景から聞いたキルシャの半生は壮絶なものだった。 キルシャは、カシュクールの豪商の家に生まれた。 彼女が七歳の時、彼女の家に盗賊が入り、彼女の家族は皆殺しにされた。 キルシャは奴隷商人に売り飛ばされ、アズール各地の売春宿へと売り飛ばされた。「あの女は、己以外頼る者が居なかったのだろう。その所為で、あのような苛烈な性格になってしまったのだろう。」「へぇ・・」「今夜はもう遅いから、休め。」「あぁ、わかった・・」 歳三が眠ったのを確認した千景は、そっと彼の部屋から出た。「千景様・・」「お前は、確かエミヤ様の侍女だな?俺に、何の用だ?」「巫女姫様に、これを必ずお渡し下さいませ。」 エミヤの侍女は、そう言うと千景に“ある物”を手渡した。「わかった、必ず渡そう。」「ありがとうございます!」 彼女が息を弾ませながら廊下を曲がると、その先にはキルシャの姿があった。「先程あの孺子に何を渡したのだ?」「わ、わたくしは何も・・」「痛い目に遭いたくなければ答えよ。」「わたくしは何も渡しておりません!」「そうか。妾の気が変わらぬうちに消えるがよい。」「ひ、ひぃぃっ!」 エミヤの侍女から渡された物は、小さな袋だった。 千景が中身を確めようと袋を逆さにした時、中から小さな耳飾りが出て来た。 それには、誰かの血がついていた。「ん・・」 歳三が目を開けると、そこは故郷の村だった。(何で、ここに・・)「おや、帰って来たんだねぇ。」 背後から声がしたので振り向くと、そこには頭を半分斧で割られた姑が立っていた。「さっきから頭が痛くて堪らないんだよ、何とかしておくれぇ。」「ひぃっ!」「お前が殺した癖に。」「人殺し。」 歳三が悪夢から目を覚ますと、虫の声が風に乗って聞こえて来た。(あの夢は、一体・・)「歳三、居るか?」「どうした、こんな時間に?」「この耳飾りに見覚えはあるか?」「いや。わざわざこれを見せに、夜中に俺に会いに来たのか?」「それもあるが、夜這いに来た。」「ハァッ!?」「抱かせろ。」「うるせぇ~!」 翌朝、顔に赤い手形がついた千景の姿は、王宮内でちょっとした噂になった。「これは、何を織っているんだ?」「これは、豹の織物ですわ。この国では、豹を守護神として崇めているんですよ。」「へぇ・・」 王宮内にある機織り工房を見学していた歳三は、そう言うと美しい豹柄の織物を見た。「巫女姫様、いよいよ儀式の日ですわね。」「は、儀式?」「まぁ、ご存知なかったのですか?」「巫女姫様、実は・・」 エミヤの魂の冥福を祈る為、数日後歳三が死者へ捧げる舞を舞う事になっているのだと、歳三は女官達から初めて聞いた。「はぁ、聞いてねぇぞそんなの!」「そうでしょうね。」「わたくし達も、つい先程聞きましたの。」「あいつは・・千景は何処に行った?」「千景様なら、先程お出掛けになられました。」「何処に?」「それが、“巫女姫様には教えるな”と・・」「はぁぁぁ~!」 歳三の怒声が王宮内を震わせている頃、千景は変装して歓楽街に居た。「あらぁお兄さん、良い男ねぇ。」「わたし達と一緒に遊ばなぁい?」 周りを警戒しながら見渡している千景に、華やかな衣装を纏った女達が寄って来た。 彼女達は皆、この街の”夜の華“だ。「この耳飾りの事を、誰か知っている者は居るか?」「あぁ、それはラーラの物よ!」「ラーラ、だと?」「向こうの路地にね、“百合”っていう店があるの。」「ラーラは、どんな娘だ?」「そうねぇ、あの子左肩に龍の刺青があったわ。」「ありがとう。」「また来てね~!」 娼婦達に金貨が入った袋を渡した千景は、耳飾りの主に会いに行った。「あら、まだお店は開いていないわよ。」「ラーラは居るか?左肩に龍の刺青がある娘だ。」「その子なら、辞めちまったよ。」「その娘の消息は?」「知る筈ないだろ。商売の邪魔をするのなら、出て行っておくれ。」「邪魔したな。」(解せぬな・・) エミヤの侍女は一体自分に何を伝えようとしていたのか―そんな事を考えながら王宮に戻った千景を待っていたのは、歳三の拳だった。「何のつもりだ、貴様・・」「それはこっちの台詞だ、歯ぁ食い縛れ!」にほんブログ村
2022年08月22日
コメント(0)
「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。土方さんが両性具有です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。王都へ向かう途中、キルシャ一行は、ある集落に立ち寄った。そこは、エウリーケ大虐殺から逃れて来たエルシャ教徒の集落だった。「この集落に居る全ての女を集めよ。」「お許しください、わたくし達は・・」「黙れ。」「さぁ、殺されたくなければ早う妾の言う通りにせよ。」「は、はい!」 集落の老人は、キルシャの言う通りにした。「わたくし達を、どうするのですか?」「伝説の巫女姫様の女官となる者を、この集落の女達の中から選ばせてやろう、光栄に思うがよい。」「キルシャ様・・」「さぁ、選ぶが良い。」 集落の女達は、泣く泣く家族と別れながらキルシャ一行に加わった。「キルシャ様、王都が見えて参りました!」「そうか。」 歳三は、馬車の天蓋を少しめくって外を見ると、そこには黄金色の王宮が陽の光を受けて美しく輝いていた。(あれが、王宮・・) タハルークの街は、カシュクールよりも数段華やかな所だった。「その耳飾りはあの孺子から貰ったのか?」「あぁ。あんた、これから俺をどうするつもりだ?」「悪いようにはせぬ。」「あの女達はどうなる?」「それはそなたが気にする事ではない。」「そうか・・」 キルシャ達を乗せた馬車は、王宮の中へと入っていった。「キルシャ様だ!」「キルシャ様がお戻りになられた!」 王宮の中へと馬車が入ると、王宮の警備をしていた兵士達が一斉にどよめいた。(何だ?)「すぐに陛下にお伝えしろ、キルシャ様がお戻りになられたと!」「は、はい!」「キルシャが戻って来ただと?それはまことか?」「はい。それが、キルシャ様は伝説の巫女姫様を・・」「すぐにキルシャを、ここに連れて参れ!」 アズール国王・ガウシスはそう部下に命じると、痛む頭に氷嚢を押し当てた。「陛下、どうかなさったのですか?」 衣擦れの音と共に、ガウシスの第一王妃・エミヤが慌てて彼の寝室に入って来た。「騒ぐな。いつもの発作だ。」「そうですか・・」「キルシャめ、一体何を考えているのだ・・」「また、あの娘が何か・・」「伝説の巫女姫を捕えたそうだ。」「まぁ・・」 エミヤがガウシスの言葉を聞いて驚いていると、扉の外からキルシャの声が聞こえた。「陛下、只今戻りました。」「キルシャ、長旅ご苦労であった。伝説の巫女姫とやらは今何処に?」「妾が用意した部屋で休んでおります。」「そうか。」「キルシャ、そなたとは後で話したい事がある、後でわたくしの部屋に来なさい。」「はい・・」 キルシャ達が王都へ帰還した日の夜、王宮で彼女の帰還と、巫女姫をもてなす宴が開かれた。「さぁ巫女姫様、沢山召し上がって下さいませ。」「あ、あぁ・・」 自分の前に山のように盛られている果物を見て、歳三はただ戸惑うだけだった。「さぁ、どうぞ召し上がれ。」「はい・・」 歳三は言われるがままに、女官から注がれたワインを飲もうとした。 だがその時、王宮の中から悲鳴が聞こえた。「何だ、今のは!?」「悲鳴が聞こえたのは、エミヤ様の部屋からだ!」 兵士達がエミヤの部屋へと向かうと、そこには中から鍵が掛かっていた。「クソ、開かない!」「そこを退け!」 そう叫んだ歳三は兵士達を押し退けると、部屋の扉を蹴破った。「おい、大丈夫か?」「エミヤ様が・・」 女官がそう言って蒼褪めた顔をしながら寝台の方を指すと、そこには口端から血を流して絶命しているエミヤの姿があった。「一体何が・・」 歳三がそう言って部屋の中を観察していると、寝台の近くにはワイングラスが置かれていた。「この部屋に最後に入った奴は?」「キルシャ様です。」「何だと!?」 ガウシスは女官の言葉を聞いて驚愕の表情を浮かべた後、床に崩れ落ちた。「陛下、しっかりなさいませ!」「陛下!」 エミヤの死と、国王が突然倒れた事によって王宮内が騒然となった。―これからどうなってしまうのだろう。―キルシャ様は一体どちらに・・―まさか、あの方がエミヤ様を・・「妾を探しておるのか?」「キルシャ様・・」「妾はエミヤ様を実の姉のように慕っておった。その妾がエミヤ様を何故殺さねばならぬのだ?」「も、申し訳ございません!」(ふん、噂はあっという間に広がるものだ。悪いものであればすぐに・・)「キルシャ様、“あの女”が見つかりました。」「そうか。」「では・・」「見つけ次第、殺せ。」「かしこまりました。」(周りに何と言われようとも、妾は妾の道をゆくまでよ。)にほんブログ村
2022年08月22日
コメント(0)
「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。土方さんが両性具有です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。(何だ、今の・・) 突然脳裏に浮かんで来た“記憶”に歳三が戸惑っていると、蒼い瞳の狼が、彼の元に近づいて来た。“姫様・・”「お前、話せるのか?」“お久しゅうございます、姫様。” 狼はそう言うと、歳三に己の鼻を擦りつけた。「歳三、そいつから離れろ!」「千景、誤解だ!こいつは味方だ!」「そうか・・」 千景は暫く歳三と狼を交互に見つめたが、彼は何も言わずにその場から立ち去った。「まぁ、巫女姫様、その狼は?」「こいつは俺の味方だ。」「そうですか。」 アユラの侍女はそう言って不安そうに狼を見ると、ゲルの中へと入っていった。“俺は、嫌われているのか?” 狼は、悲しそうな顔をした後、クゥンと鳴いた。「シュガ族にとって家畜は財産そのものだから、お前達は天敵なんだ、理解してくれ。」“わかった・・” 狼はそう言うと、項垂れた。 その後、歳三は狼をゲルの中に決して入れないというシュガ族の掟を守った上で、狼と旅をする事を許して貰った。「そろそろ、アズールだ。」「そうか。」「これを被っていろ、貴様の髪は俺の母国では目立つ。」「わかった。」 神羅国とアズールの国境の町・カシュクールは、貿易で栄え、近くの市場では様々な国の品々が売られていた。「うわぁ、凄ぇな・・」「ひとつ位、何か貰ってやろうか?」「いいって!」「遠慮するな。お前は俺の妃となるのだから、金の装身具のひとつ位買ってやる。」「だがな・・」「さぁ、好きな物を選べ。」「やっぱり、いい。」 今まで山村に住んでいて、華やかな世界とは無縁だった。 だから、目の前に広がっている華やかな装身具を見て、少し戸惑っていた。「仕方無いな、俺が選んでやろう。」 千景はそう言って溜息を吐いた後、エメラルドの耳飾りを購入した。「本当に、いいって・・」「お前の黒髪によく映えるな。」「そうか?」「これからは、もっと俺に甘えろ。」「わかった・・」 市場を出た二人は、繁華街の中にある宿へと向かった。「ここならば、人目があって、“あいつら”は迂闊にお前を攫えまい。」「“あいつら”って?」「キルシャ・・アズールの第三王妃にして、俺の宿敵だ。」 そう呟いた千景の紅い瞳が、怒りで滾るのを歳三は見た。「あいつは・・俺の母を殺したのだ。」 千景の母は、身分は低かったが、元は貴族の娘であった。 彼女がアズール国王と懇意になり、後宮入りしたのは、彼女の父親、即ち千景の祖父が国王の友人だったからであり、後宮入りした時点で既に彼女はその腹に千景を宿していた。 千景は王子であったが、六番目の王子であったが為に、王位継承権から遠い場所に居た。 だが千景は己の才覚だけで国王の側近となった。 しかし、千景の存在を恐れたキルシャは、彼の母を毒殺した。「母は、あの女に殺され、その死体は何処かに捨てられた。」「そんな事が・・」「大切な者を失うのはもう沢山だ。それはお前も同じだろう?」「・・あぁ。」 そう言った歳三の脳裏に、ララと勇の笑顔が浮かんだ。 カシュクールを出た一行は、王都へと続く南の街道へと向かった。「あちぃ・・」 一年の大半を雪と氷で覆われ、夏でも涼しい気候であった故郷と比べ、女神大陸の南西に位置するアズールは、亜熱帯気候であり、夏は高温多湿である事が知られている。「千景様、少し休みましょう。このままでは我々も馬も持ちません。」「そうだな・・」 街道の途中にある森の中で千景達は休憩する事にした。「歳三様、どちらへ?」「水浴びだ。こんなに暑いと汗で肌が張りついて気持ち悪い。」「そうですか・・」 歳三は蒼い瞳の狼を連れ、森の中にある湖へ水浴びをしに行った。 湖の奥には小さな滝があり、熱気に包まれている街道より、森の中は若干涼しかった。「ふぅ~、生き返ったぜ。」 歳三がそんな事を呟きながら水浴びを楽しんでいると、そこへ一人の女がやって来た。 髪は輝くようなブロンドで、右手首には蛇を象ったルビーの腕輪をはめていた。 彼女の身体は華奢ではあったが、自分と同じように腹は六つに割れていた。(何だ、この女・・)「そなたが、巫女姫か?」「誰だ、てめぇ?」「妾はキルシャ、そなたを捜しておったのだ。」「キルシャ、だと・・」 その名は、つい先程千景の口から聞かされて来た名ではなかったか。「俺に何か用か?」「妾と共に来て貰うぞ。」「嫌だと言ったら?」「そなたに拒否権はない、諦めるのだな。」「・・あぁ、わかったよ。」 歳三がキルシャと共に湖から上がると、湖畔には武装した兵士達に取り囲まれた千景達の姿があった。「暴れるでないぞ。」 キルシャはそう言った後、千景の方へと向き直った。「久しいのう・・孺子(こぞう)。」「目尻に皺が目立つようになったな、キルシャ。」「この者達を縛り上げよ!」「はっ!」 歳三達は兵士達に拘束されながら、キルシャと共に王都へと向かった。にほんブログ村
2022年08月22日
コメント(0)
「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。土方さんが両性具有です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「キルシャ様、例の件ですが・・」「妾が許す。異教徒共を存分に蹴散らすが良い。」「全てキルシャ様のおおせのままに・・」「そなた達の働き、期待しておるぞ。」キルシャはそう言うと、司祭達の健闘を祈った。「異教徒達は見つけ次第、躊躇わずに殺せ!女子供も関係なくだ!」「きゃぁぁ~!」「逃がすな、追え!」「まだ息がある奴は生け捕りにしろ!奴隷としてキルシャ様に献上するのだ!」タハルークの郊外にあるエルシャハ教の信徒の町・エウリーケは、キルシャの軍の侵攻により、一夜にしてその美しい街並みは灰燼に帰した。信徒達は女子供含めて容赦なく殺され、かろうじて生き残った者達は奴隷としてキルシャに献上された。「神よ、どうかお助けを・・」そう言いながら祈る女の胸を、敵兵の槍が貫いた。「おいおい、殺すなよ。生け捕りにした後、楽しもうと思っていたのによ。」「ははっ、そうだったな。」兵士の一人が、そう言いながら女の身体を爪先で蹴った。するとかすかに、女が呻き声を上げた。「・・れろ。」「え?」「呪われろ、悪魔め!」女はそう叫んで兵士に唾を吐きかけると、絶命した。「行くぞ、死人には用はない。」「へいへい、わかりました。」殺戮の嵐が吹き荒れたエウリーケから三キロ先にある遊牧民の集落で、千景達一行は彼らから歓待を受けていた。『こんな辺境の地にまで来て下さり、ありがとうございます。』『いいえ、こちらこそ。わたくし達にこんなご馳走を用意して下さり、ありがとうございます。』『いいえ。伝説の“巫女姫”とお会い出来て嬉しい限りです!』『え・・』歳三が驚愕の表情を浮かべながらシュガ族の長老の顔を見ると、彼はニコニコと歳三に微笑んだ。「おい、ちょっとツラ貸せ。」「貴様、漸く俺との結婚に乗り気になってくれたのか、嬉しいぞ・・」「いいから!」「ふふ、いいだろう。」千景は上機嫌で歳三の後を追うと、ゲル(家屋)から出た途端、彼から平手で頬を打たれた。「てめぇ、長老達に何吹き込んだ?」「貴様が伝説の“巫女姫”だと・・」「おい、俺じゃねぇって言ってんだろうが!勝手に決めるな!」「別にいいだろう。所詮“伝説”―嘘か真実かわからぬ。」「だから、嘘を吐いてもいいと?」「はは、そういう事になるな。」「てめぇ、歯ぁ食い縛れ!」『まぁ、顔をどうされたのです?』『・・少しな。』『巫女姫様なら、女達のゲルに居ますよ。』『そうか。』千景が女性達の居るゲルへと向かうと、その中から笑い声が聞こえて来た。『まぁ、見事な刺繍!』『こんなものがさせるなんて、うらやましいわ!』千景がそっとゲルの中を覗き込むと、中では刺繍をしている歳三の周りを女性達が囲んで何やら話し込んでいた。「どうした?」「いや、俺の村に伝わる文様を刺繍していたら、みんな驚いて・・」『鳳凰なんて、この国の刺繍にはないもの!』『へぇ、そうなのか。』「それは?」『さぁ・・昔から知っている模様なんだ。何故だかわからないけれど・・』そう言って歳三は、左三つ巴の紋を刺繍した。「まだ、やっているのか?」その日の夜、歳三が刺繍をしていると、寝室に千景が入って来た。「あと少しで完成するから・・」「何をやっている?」「あぁ、これはシュガ族の婚礼衣裳だ。紺藍色の花嫁衣裳なんて、珍しいな。」「そうだな。」「さてと、もう寝るか。」歳三はそう言うと、針を針箱の中にしまい、そのまま寝床に入って眠った。『まぁ、綺麗!』『美しいわ!』シュガ族の長老の孫娘の婚礼に、歳三は招かれた。彼が縫った婚礼衣裳を纏った長老の孫娘・アユラは婚礼の後こう言って歳三に抱き着いた。『ありがとう、トシ!』『それにしても見事だわ。一度見ただけですぐに縫えるなんて。』『いや、いつもやっている事ですから・・』『普通こんな事が出来る人はそうそういないわ!』婚礼の後、三日三晩宴が開かれた。幸せそうな新郎新婦の宴を見ながら、歳三は新婦の姿に亡くなった娘の姿を重ね合わせていた。娘も、生きていればあんな風に・・「おい、どうした?」「少し、外の風に当たってくる。」歳三はそう言うと、ゲルから外へと出た。冷たい冬の風を感じながら、娘を亡くした悲しみで胸が押し潰されそうだった。「ララ・・」暫く外で物思いに耽った後、歳三がゲルの中へと戻ろうとすると、背後から狼のような遠吠えが聞こえた。(狼・・)この時期になると、羊を狙って狼が棲家である山から降りてくると、シュガ族の女達から聞いた。―おかあさん、狼はこわくない?―こわくないわよ。狼は、人間の言葉がわかるの。だから、もし狼に会ったら、その時は・・キラリと闇の中で蒼い瞳が光ったかと思うと、一匹の狼が歳三の前に現れた。―こわがらずに、ちゃんと挨拶するのよ、いい?―おかあさん、わかった!にほんブログ村
2022年08月22日
コメント(0)
「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。土方さんが両性具有です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。――母様どこかで、娘が呼んでいる。――母様、助けて娘が闇の中で、自分に向かって助けを求めている。「ララ!」歳三が目を覚ますと、そこは見知らぬ異国の部屋だった。(ここは、一体・・)「気が付かれましたか?」頭上から声がして歳三が周りを見渡すと、自分の隣には背の高い赤髪碧眼の男が立っていた。「漸く目覚めましたか。ここはカラル山脈を越えたアズールと貴方の母国・神羅国(しんらこく)との国境付近です。あなたは盗賊達に襲われ・・」「ララは、娘は何処に!?」「生き残ったのは、あなた一人だけでした。」そう言って男は、ある物を歳三に手渡した。それは、ララが生前愛用していた髪飾りだった。――母様、可愛いねあれ!――ララの髪に似合うから、買ってあげるね。――うわぁ、ありがとう!母様、大好き!蝶の形をした髪飾りは、血で汚れていた。「ララ・・」「ご安心下さい、あなたの娘さんの遺体は、手厚く葬りました。」「そう・・ですか。」「まだアズールの王都に辿り着くまでには、時間がかかります。我々はこの町に暫く滞在しますので、あなたはここで暫く休んで下さい。」「はい。」「では、失礼致します。」「あの・・助けて頂き、ありがとうございます。あなたのお名前は?」「天霧九寿と申します。では土方歳三様、わたしはこれで。」天霧が歳三に一礼して部屋を出ると、入れ違いに天霧の主である風間千景が部屋に入って来た。「貴様が神羅の巫女姫(みこひめ)か?」「何だ、てめぇは?それに俺は、男で・・」「神羅国により古より伝わる“巫女姫”は、男と女、両方の身体を持っていると・・」千景は、そう言うと寝着の下に隠されている歳三の神秘めいた身体を舐めるように見た。「巫女姫よ、我妻となれ。」「お断りだ、俺には・・」「貴様の村に、貴様の旦那と姑、その愛人が殺されていた。殺したのは、貴様であろう?」「何を根拠に・・」「貴様は、今まであの三人に煮え湯を飲まされて来たのであろう?亡くなった娘は連れ子で女児―それ故、姑からお前は子が産めぬ嫁と、虐げられて来たのであろう?」「仮に、俺があの三人を殺したとして、俺に何の得がある?」「娘の婚礼にかこつけて、退路を断ち、全てを捨てて来たのであろう?」「俺は、最初から一人だ。俺には、親もきょうだいも居ねぇ・・」「面白い、ますます貴様を気に入ったぞ。」「千景様、入ってもよろしいでしょうか?」「丁度いい、入れ。」「失礼致します。」歳三と千景の前に、包みを持った風間家の女中が現れた。「その包みは?」「開けてみよ。」「あぁ、わかった・・」歳三は怪訝そうな顔をして包みを開いた。そこには、純白の花嫁衣裳が入っていた。「おい・・」「俺は本気だ。さぁ巫女姫よ、俺の手を取れ。」「てめぇ、一体何を考えていやがる?」「言った筈だ、二度と言わぬから覚えておけ。今日から貴様は、俺の妻だ。」千景は、そう言うと歳三の唇を塞いだ。「ねぇ、あの噂は本当なのかしら?」「ほら、千景様は独身でいらっしゃるから・・」「何の話をしておる?」一方、アズールの王都・タハルークにある王宮で侍女達がそんな噂話をしながら針仕事をしていると、そこへ国王の第三王妃・キルシャがやって来た。「キルシャ様・・」「わたくし達は、何も・・」「そうか。」キルシャはそう言うと、侍女達を睨みつけた。「わ、わたくし達はこれで・・」「え、えぇ・・」キルシャの様子を見た侍女達は、そそくさと自分達の針箱を持ってそのまま彼女の部屋から去っていった。「全く、気が遣えぬ奴らめ・・」「どうかなさったのですか、キルシャ様?」「誰かと思うたら貴様か。」キルシャが怒りを顔に貼り付けたまま背後を振り向くと、そこには国王の異父弟・タルートの姿があった。「妾(わらわ)に何か用か?」「何とつれない態度をお取りになって・・虫の居所でも悪いのですか?」「あぁそうじゃ。妾の虫の居所が悪いのは、あの金髪の孺子(こぞう)の所為じゃ!」「また、あの者とひと悶着あったのですか?」「あやつめ、この国に献上された奴隷を解放せよと妾に口答えしたのだ!」「それは・・」「陛下のご寵愛を受けている妾をことあるごとに侮り、蔑ろにしおって・・あの孺子め!」「かの者ですが、あの伝説の“巫女姫”とやらを見つけたとか・・」「なに、それはまことか!?」「はい。」「古の書物により伝えられし“巫女姫”が存在したとは・・タルートよ、あの孺子より先に“巫女姫”を捕え、その首を妾の元へ持って参れ。」「はっ!」(妾はそなたよりも賢いのだ・・決してそなたの思い通りにはさせぬぞ、千景!)「キルシャ様、司祭様がいらっしゃいました。」「そうか。」鏡の前で少ししなを作った後、キルシャは自室を出てある人物と中庭にある四阿(あずまや)で会っていた。「これはこれは、キルシャ様・・我々の為に時間を割いて下さり・・」「堅苦しい挨拶はなしじゃ。妾に献上したい物とはなんじゃ?」「これを・・」そう言って司祭が恭しくキルシャに差し出したのは、白銀の蛇にルビーがその両目に嵌め込まれた腕輪だった。「異教徒共の墓所から掘り出して来た物です。」「妾の好みに合うのぉ。」にほんブログ村
2022年08月22日
コメント(0)
「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。土方さんが両性具有です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「母様・・」「どうしたの、ララ?」 その日の夜遅く、歳三が自室で身体を休ませていると、そこへララがやって来た。「母様は、父様と愛し合っているから、“あんな事”をしたの?」「そうよ。」「わたしにも、わかる日が来るのかしら?」「えぇ、きっと来るわ。」「一緒に、寝てもいい?」「おいで。」 娘を抱きながら、歳三はゆっくりと目を閉じて眠った。 久しぶりに、昔の夢を見た。『これを、お前に。』『綺麗だな。』『お前の黒髪に、映えると思ってな。』 そう言って勇が照れ臭そうに笑いながら自分の髪に挿したのは、銀細工の血珊瑚の簪だった。『高かっただろう?』『あぁ。でも、お前が喜ぶ顔を見たくて・・』 勇の笑顔を、今となっても思い出す。「母様?」「何でもない・・よく眠れ。」 歳三はそう言うと、愛娘の頭を撫でた。 明朝、ララは婚礼の日を迎えた。「綺麗だねぇ。」「本当に。」「きっと幸せになれるよ。」「ありがとうございます・・」「あんたが礼を言う事じゃないだろう。」「すいません、つい・・」 歳三はそう言うと、自分が縫った花嫁衣装を纏った娘の姿を見た。「父様は?」「さぁ・・」 娘の大切な婚礼の日に、何故か夫のタルクの姿がない。「一体何処に行っちまったんだい、あの子は?」「わたしが探して来ます。」「あぁ、頼んだよ。」 歳三がタルクの姿を探すと、彼は愛人と“よろしく”やっていた。「ねぇ、いつ奥さんと別れるの?」「娘の婚礼が済んだら、あんな年増、さっさと捨ててやる。」「それはこっちの台詞だ。」 歳三が台所にあった包丁を手に、二人の前に現れると、そこには全裸で蒼褪めている彼らの姿があった。「これは、その・・」「黙れ。」 歳三はそう言うと、包丁を二人に向けた。「おや、タルクは見つかったのかい?」「え、えぇ・・」「案内しな。」「はい。」 物言わぬ骸となった息子とその愛人の姿を見たタリヤは悲鳴を上げ、歳三を詰った。「この人殺し、息子を・・」 タリヤは石斧で額を割られ、嫁を最期まで詰れなかった。「さようなら、お義母様。」 歳三はそう言うと、愛人宅に火を放った。「あんた、遅かったわね。」「えぇ、ちょっと・・」「まぁ、あんたも色々と苦労したからねぇ・・」「何の話ですか?」 涼しい顔をしながら、歳三はそう言うと笑った。「では、行って参ります。」「気を付けてね。」「はい。」 村を出た歳三達一行は、敵国・アズールへと向かった。「母様、わたし、怖い・・」「大丈夫、母様がついているから・・」 花嫁の一行がカラル山脈の麓の宿で休んでいると、外から悲鳴が聞こえた。「何かしら?」 そう言って窓から外の様子を覗いていた娘は、何処からともなく飛んで来た矢に胸を射たれて死んだ。「盗賊だ~」「早く逃げろ~!」「ララ、ララ!」「母様~!」 盗賊の襲撃に遭い、その混乱で歳三はララと離れ離れになってしまった。「ララ、ララ!」「おい、女が居たぞ!」「女だ!」 歳三が血眼になって娘を探していると、運悪く盗賊達が歳三を見つけた。「やめろ、離せ!」「大人しくしていたら、殺さねぇよ!」「へへ、いい女だぁ。」 四人の男に羽交い締めにされ、歳三は必死に抵抗したが、多勢に無勢だった。「畜生、やめろ!」「おい、さっさとしろよ。」「わかってるって!」 歳三は髪に挿していた血珊瑚の簪を抜くと、その先を自分に覆い被さっていた男の目に突き刺した。「このアマ!」「なめやがって!」 右目を刺された男を見た彼の仲間達がそういきり立っていると、“何か”が彼らに向かって飛んで来た。「うわぁっ!」「ぎゃぁ~!」 男達の首が、一瞬にして吹き飛ばされ、その血飛沫を歳三は全身に浴びた。「チッ、遅かったか。」「やはり、盗賊を早く始末すべきでしたね。」 歳三が呆然としていると、そこへ赤髪碧眼の男と、金髪紅眼の男がやって来た。「生存者は、この女だけか・・」 金髪紅眼の男がそう言いながら歳三を見ると、歳三は彼の腕を掴んだ。「娘・・娘を・・」「わかった、だからもうしゃべるな。」(ララ・・) 歳三は、男の腕の中で気絶した。「惨い事をする・・女子供見境なく殺すとは・・」「全くです。年端もゆかぬ子供を敵国へ差し出すなど、正気の沙汰ではありません。」 赤髪碧眼の男―天霧九寿は、そう言うと犠牲になった幼い花嫁の冥福を祈った。「行くぞ、天霧。」「はい・・」 冷たい北風が、二人の男達の頬を撫でた。にほんブログ村
2022年08月22日
コメント(0)
「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。土方さんが両性具有です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 シャラシャラと美しい飾り布につけられた宝石が軽快な音を立てた。「まぁ、綺麗ね。」「本当に。刺繍も見事だわ。」 歳三がいつものように仕事をしていると、そこへ村の娘達がやって来た。 紅白の布には、子孫繁栄を象る鳳凰と南天の模様が刺繍されていた。 この布は、明日敵国へ嫁ぐ“娘”のものだ。『そんな、こんなのは・・』『もう決まった事なのだ。』『何故、あの子なのです?あの子は、まだ・・』『ここを守る為には、あの子に犠牲になって貰うしかないのだ。』 族長達は、部族間の争いを止める為、敵国へと“娘”を差し出す事にしたのだ。 まだ、十にもならない子を。 本当は、嫁かせたくない。 だが、もう決まった事なのだ。 せめて、自分で婚礼衣装を縫い、彼女を美しく着飾らせて送り出してやりたいのだ。「あら、もう出来たの?」「えぇ。」「そんなに浮かない顔をしないで。あの子はきっと幸せになるよ。」「そう、ですね・・」 歳三は、そっと完成した“娘”―ララの婚礼衣装を撫でた。 彼女が幸せになれるよう、願いを込めながら。「トシ、居るのかい?」「はい、お義母様。」 歳三が慌てて手の甲で涙を拭い仕事部屋から出ると、中庭には不機嫌そうな顔をして自分を睨んでいる姑・タリヤの姿があった。「洗濯物、まだ取り込んでいないじゃないか。」「すいません・・」「全く、娘の婚礼が近いからって、家事を疎かにしちゃ困るよ。さ、それが終わったら夕飯の支度を頼むよ。」「はい・・」 母屋に裏口から入った歳三が夕飯の支度を台所でしていると、そこへ狩りから帰って来た夫・タルクがやって来た。「ただいま。」「お帰りなさい。」「今日は髪、下ろしているんだな・・」 タルクはそう言うと、歳三のうなじを軽く噛んだ。「なぁ、いいだろう?」「駄目、こんな・・」「お願いだ・・」 歳三の秘所を指で愛撫しながら、タルクは彼女の腰に己の猛ったモノを押し付けた。 夫とは、歳三が二十八、タルクが十八の時に結婚した。 その時既に、歳三には七歳になる娘・ララが居た。 両性具有の身体を持って生まれた歳三は、幼馴染である勇と密かに愛を育み、二十歳の時にララを妊った。 しかし、程なくして勇は戦に赴き、死んだ。 失意の中歳三はララを産み、育てた。 そんな中、タルクとの縁談が来たのは、歳三が二十七の時だった。「ララには父親が必要よ。あんたもまだ若いんだから、独り身は辛いだろう。」 タルクはこの土地にしては珍しい、褐色の肌と金色の瞳をした、精悍な顔立ちをした青年だった。 彼と初めて顔を合わせたのは、婚礼の夜だった。 タルクは若い情熱をそのまま歳三にぶつけるように抱いた。 そしてそれは、今でも続いている。「あぁ、駄目!」「うぅ・・」 一度達した後だというのに、タルクのものは再び歳三の中で硬くなった。「トシ、トシ!」「タルク・・」「母様~!母様、何処~!」 人気のない納屋の中で歳三が夫に激しく抱かれていると、遠くから自分を探している娘の声が聞こえて来た。「うぅ、あぁ・・」「トシ、もう限界だ!」 タルクはそう叫んで歳三の中に熱い精を吐き出した。 歳三が呼吸を整えていると、カサリと干し藁を踏む音が聞こえ、歳三が徐に俯いていた顔を上げると、納屋の入り口に驚愕の表情を浮かべたまま立っているララの姿があった。「どうしたんだい、ララ?何も食べてないじゃないか?」「食欲がなくて・・ねぇおばあちゃん、赤ちゃんはどこから来るの?」「さぁね。」 その日の夜、歳三はタリヤに呼ばれ、彼女の部屋へと向かった。「お義母様、お呼びでしょうか?」「あんたには困ったものだね。まぁ、タルクは一番勢力が有り余っている年頃だから仕方無いが、あの子にとっては刺激が強過ぎたのだろうねぇ。」「すいません・・」「婚礼前に、あの子を不安にさせるんじゃないよ。」「はい、わかりました。」にほんブログ村
2022年08月22日
コメント(0)
悪人ばかりがあつまる「善人長屋」。長屋の住人が悪をくじく短編集ですが、どれも読み応えがありました。誰の中にもある悪意をうまく描いた作品ですね。
2022年08月21日
コメント(0)
第二次世界大戦後、シベリアで抑留されながらもいきることを諦めなかった人達の姿に、胸が熱くなりました。
2022年08月21日
コメント(0)
百舌シリーズ5巻目とあってか、黒幕の女が最期まで恐ろしかったです。ラストシーンには笑ってしまいましたが。
2022年08月20日
コメント(0)
ヨンソンさんの作品はいつも皮肉がきいていてとても面白いですね。勧善懲悪な結末にスカッとします。
2022年08月18日
コメント(0)
今回も手に汗握る展開が続きましたが、ダンブルドアとグリンデルバルドの関係が気になりましたね。あと、クイニーとジェイコブの結婚式のシーンが良かったです。
2022年08月18日
コメント(0)
セブンイレブンのチキンビリヤニを買ってお昼に食べました。ピリッとした辛さと、お米との相性が抜群で美味しかったです。
2022年08月18日
コメント(0)
8年前に読んだ記憶があるのですが、すっかり忘れてしまいました。偶然近所のブックオフで見つけて購入しました。いやあ、FLESH&BLOODの原点とあってか、古代エジプトの世界に自分もタイムスリップしたかのような気分になりました。アレンは囚人達に襲われそうになったり、拷問されたりとひどい目に遭いますが、王弟ネフェルと惹かれあうようになります。ハッピーエンドですが、海斗はアレンに比べると恵まれた環境でしたね。言葉の壁もクリアできていましたし。
2022年08月16日
コメント(0)
母が昨日購入したものです。食べてみると、ほどよい辛さで美味しかったです。
2022年08月16日
コメント(0)
「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 歳三が振り向くと、そこには左目に眼帯をした一人の少女が立っていた。 黒を基調とした、白いレースがふんだんに使われたドレスを着た少女は、敵意に満ちた視線を歳三に向けた。「すいません、お手洗いが何処なのかわからなくなって・・」「トイレならあっちだ。」「ありがとうございます。」 歳三は少女に礼を言うと、そのままその場を後にした。(危なかったぜ、あの娘、人間じゃないな。)「静、ここに居たのか。」「兄様。」 少女―静は、そう言うと男を見た。「こんな所に居たのか。随分探したぞ。」「申し訳ありません。変な女がこの船を探っていたので・・」「変な女?」「はい。長い黒髪の女です。」「そうか。」 静の兄―游也は妹を連れてパーティー会場へと戻った。「静、あの女で間違いないか?」「はい。」「あの女は九尾の狐だ。」 歳三はグラスワインの銘柄を見る振りをして、先程の少女が自分に近づいて来ている事に気づいた。「八郎。」「どうしたの、トシさん?」「あの黒いドレスの娘、間違いねぇ、あいつは鬼だ。」「えぇ!」「声がデケェ。甲板へ移動するぞ。」「う、うん・・」 ジリジリと自分達の方へと迫る鬼の兄妹を、歳三は甲板へと誘き寄せた。「狐が、この船に何の用だ?」「この船で開かれる“秘密”のパーティーとやらを知りたくて、ここに来たんだよ。」「お前達は招待していない。さっさとここから去れ。」「そうかい、わかったよ!」 歳三はそう叫ぶと、炎を二人にぶつけた。「ギャァァ~!」「静!」「八郎、今の内にずらかるぞ!」「え、海に飛び込むの!?」「あぁ、お前泳げるだろ、だったら飛び込め!」「わかったよ!」 八郎はそう叫ぶと、スーツ姿のまま海に飛び込んだ。 春先とはいえ、海は荒れていて氷の様に冷たい。「ひぃぃ~、死ぬかと思った。」「生きているから大丈夫だろ。」 歳三はそう言いながら、海水で濡れたドレスの裾を絞った。「ねぇ、これからどうする?車、港に置いて来ちゃったし・・」「さぁな。」歳三と八郎がそんな事を話していると、そこへ一台のリムジンが通りかかった。「歳三、乗れ。」「助かるぜ、兄貴。」「礼は風間さんに言うんだな。」「また会えたな、薄桜鬼よ。」 そう言って歳三と三郎に向かって笑ったのは、風間千景だった。「港に置いていた貴様らの車に、GPSを仕掛けておいた。その車が港から動かないので匡人に電話したのだ。」「へぇ・・」「それで、貴様ら腹は減っているか?」「確かに、パーティーでは何も食べなかったからな。」「中華街、中華街!」 千景達が向かったのは、コロナ禍では珍しい二十四時間営業のラーメン店だった。「へいお待ち!」「ここの味噌ラーメンは美味いぞ。」「そうか・・って、端から汁を飛び散らしてんじゃねぇ!」「細かい事は気にするな。」「気にするよ!あ~、また汁飛ばして!これ絶対シミになるだろうが!」「・・歳三は、風間さん相手にはいつもあんな感じなのか、八郎君?」 匡人がそう言って八郎を見ると、彼は泣きながらラーメンを啜っていた。「礼など要らぬ。」 歳三は店の前で千景達と別れ、店の中に入ろうとした時、中から奇妙な音が聞こえて来た。(何だ?) 恐る恐る歳三が厨房の奥を覗くと、そこには柳葉包丁を研いでいる千鶴の姿があった。 歳三は忍び足で自室に向かったが、ベッドの上に千鶴が正座して待っていた。「お帰りなさい、あなた。」「千鶴、ただいま・・」「浮気、しましたよね?」「あ、あれは・・」「今回は許します。でも、次はありませんよ。」「はい・・」 桜の季節が終わり、GWに突入した。 SNSの影響もあってか、“華カフェ”は連日賑わっていた。「コロナ禍でこんなに入るなんて、珍しいですね。」「あぁ。」 そんな中、ある事件が起きた。「おい、この店は酒出さないってどういう事だ!」「お客様、それ以上騒がれますと警察呼びますよ?」「ひぃっ!」にほんブログ村
2022年08月15日
コメント(0)
何不自由ない家庭で育ったサリー。孤児院の運営は彼女にとって苦難の連続でしたが、サリーの生き方に好感を持てました。
2022年08月15日
コメント(0)
ジュディのユーモア溢れる手紙から、彼女の明るい性格がわかります。あしながおじさんの正体には驚きましたが、手紙の最後の一文に少し笑いました。
2022年08月15日
コメント(0)
無人島で少年達が力を合わせて結束する姿に感動しました。国籍人種関係なく友情を築いていく彼らの姿に、私達は学ぶものがありますね。
2022年08月15日
コメント(0)
ギャッツビーの人生は、一体なんだったのだろうと、読み終わった後思いました。
2022年08月15日
コメント(0)
サイレントヒルとひぐらしのなく頃にをミックスしたかのような、摩訶不思議なBLでした。夏に読むのにふさわしいホラーでした。
2022年08月14日
コメント(0)
アニメは途中までだったので話が全くわからなかったので、原作を読んでみて、こういうことなのかと納得できました。気になるところで終わっているので、二巻の発売が待ち遠しいです。
2022年08月14日
コメント(0)
藩政に翻弄されながらもひたむきに生きる黛家の三兄弟の凛とした生き様に胸が打たれました。
2022年08月11日
コメント(0)
三浦綾子さんの作品は、中学生の時に「塩苅峠」を読んでから好きになりました。「氷点」は、今でも好きな作品です。何というか、人間のエゴイズムを描き出した作品だと思いました。
2022年08月11日
コメント(0)
第二次世界大戦で従軍した女性達の証言集。戦争というものは、人の命や尊厳を失わせる残酷なものであるということを改めて感じました。
2022年08月07日
コメント(0)
東京下町を舞台にしたミステリー。面白くて一気読みしてしまいました。
2022年08月07日
コメント(0)
どれも読みごたえがある作品ばかりでした。ガリレオシリーズは、どの作品も読みごたえがあって好きです。
2022年08月07日
コメント(0)
まだまだ波乱の展開が続きますね。表紙の美しさに見とれました。
2022年08月06日
コメント(0)
生まれ変わりをテーマにした作品でしたが、ちょっと複雑なお話でした。
2022年08月01日
コメント(0)
全46件 (46件中 1-46件目)
1