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十円のもやしで晩餐春を待つ 木枯らしに駅名告げる声かすむ 夜長には都の駅ももみじ色 行く秋と行かぬ駅の赤 凩や人吸い人吐くターミナル 銀杏のひかり肴に一口目 ますかけの手にある我の木の葉髪プレバト俳句。お題は「秋の東京駅」。今回も「異議あり!」ってほどのことじゃないけど、個人的な感想です。◇武尊。十円のもやしで晩餐 春を待つ晩餐は十円もやし 春を待つ(添削後)助詞の問題。「で」は手段を説明する助詞なので、添削では、まずこれを排除しています。そのかわり、上五に「の」でなく、あえて「は」を使っている。朝と昼はもっと質素だ、という意味にも取れるけど、この場合の助詞「は」は、比較というより、たんなる強調と解すべきでしょうか。◇野口健。木枯らしに 駅名告げる声かすむ木枯らしに千切れ 駅名告げる声(添削後)この添削は、正直あまり好きじゃありません。原句にならって動詞を2つ使ってるのがイマイチ。原句のほうは、「告げる」が声の修飾語で、「かすむ」が声の述語です。一方、添削句のほうは、「駅名を告げる声が 木枯らしに千切れ」という散文を倒置した形になってるのだけど、その結果、「千切れ」という動詞の連用形が中途半端に浮いて、「声」に掛かる修飾語なのか、それとも述語なのか、かえって分かりにくくなってしまってる。やはり動詞は1つに絞って、木枯らしに千切れる駅のアナウンスのようにしたほうが明快だと思います。◇LiLiCo。夜長には都の駅ももみじ色夜長なる都の駅舎 もみじ色(添削後)またしても添削に「なる」が出てきました。千原ジュニアのときの「あきの夜半なる妻ZZZ」と同じで、「時間+なる」の形ですね。意味としては「~にある」「~にいる」ってことだと思う。かりに、「夜半にいる」「夜長にある」と言ったら、たんなる時間の説明になってしまって散文的なのだけど、これを「なる」と言い換えただけで、なぜか韻文として容認されるという俳句界のルールのようです。◇マヂカルラブリー村上。行く秋と行かぬ駅の赤行く秋や 赤々とある東京駅(添削後)これは妥当な添削だと思いますけれど、あくまでも「行く/行かぬ」の対比を維持するのであれば、行く秋に なお赤々と東京駅のような方法もあるかな、とは思います。◇キスマイ千賀。凩こがらしや 人吸い人吐くターミナル人吸うて吐く凩のターミナル(添削後)てっきり「擬人化の是非」かと思いましたが、意外にも、添削では、語順を変えて中八を解消しただけで、擬人化そのものを排除していません。実際、駅に人が出入りするのは当たり前だから、「人の出入りしない駅があったら持って来いっ!」ってこと。擬人化を取ったら何も残らないのですよね(笑)。ってことで、これは擬人化をそのまま活かすしかないのだろうし、どう直しても、凡句にしかならないのかも。いちおう、わたしなりに、句またがりですが、寒き群衆を吸い吐く巨大駅としてみました。◇フルポン村上。銀杏のひかり肴に 一口目ぎんなんのひかり一粒 まず一献(添削後)読んだ瞬間、良い句だな~!と思ったんだけど、中七の「肴に」が説明的だと言われれば、まあ、たしかにそうですよね…。(^^;ちょっと降格は厳しい気もするけど、添削のほうはさすがでした。◇梅沢富美男。ますかけの手にある我の木の葉髪ますかけの手相ぞ 我に木の葉髪(添削後)原句の「ある我の」は不要だと指摘したフルポン村上が、まず正しい。添削句のほうは、客観写生・映像描写というよりも、まるで歌舞伎役者のセリフみたいな一風変わった言い回し。もし、あくまで映像描写に徹するのならば、ますかけの手相を埋める木の葉髪のような形になるかな、と思います。
2021.11.30
第7話。橘しおりが死んでしまいました。遺体のそばには、取材音声を録ったボイスレコーダー。もし後藤が殺したのならば、このボイスレコーダーを回収するはずですよね。(それとも音声だけ消去したとか?)そもそもペーパーカンパニーの不正に関する情報は、すでに東央出版の編集長に握られていますから、今さら橘しおりを殺したところで意味がありません。むしろ、まっさきに後藤が疑われるだけです。…ってことは、自殺でしょうか?◇最後に梨央と話したときの、目に涙を浮かべながら微笑んだ橘しおりの表情は、いったい何を意味していたのでしょうか?橘しおりが梨央に語った、「罪を犯した人間は報いを受けるべき」という言葉は、はたして渡辺康介に向けられたものでしょうか?それとも渡辺昭に向けられたものでしょうか?あるいは自分自身に向けられたものでしょうか?橘しおりは、いつ渡辺康介を告訴したのでしょうか?ほんとうに女子高生だった梨央を憎んでいたのでしょうか?それとも、逆に梨央を守ろうとしていたのでしょうか?ほんとうに渡辺昭を殺したのでしょうか?泣き笑いといえば「Wの悲劇」の薬師丸ひろ子。橘しおりにとって、渡辺康介による暴行被害と、真田グループの不正の追及は、いったいどう繋がっていたのでしょうか?渡辺康介と真田グループを繋ぐのは「薬」かもしれませんが、当時の真田グループは、まだ創薬事業を始めていなかったはずです。◇さて、その一方、弁護士の加瀬は、電話口のむこうにいる後藤にむかって、「こんなことして、どうするつもりですか?!」と怒っています。その近くには、梨央の秘書も座っている。いったい後藤は、何をやらかしたのでしょうか?やはり梨央に対する妨害行為でしょうか?優が情報屋を装ってまで阻止しようとした敵対行為に、いよいよ着手したってことでしょうか?それとも、ペーパーカンパニーの不正がバレてしまった今、自分ひとりがすべての罪を背負って、会社を去るための手続きでも取ったのでしょうか?手前にいるのが社長秘書。奥にいるのが加瀬。◇予告では、捜査一課の山尾(津田健次郎)が、「芝池と池尻は繋がっている…」と述べています。つまり、渡辺昭の死と、橘しおりの死は関連している、ということ。これって、たんなるミスリード?点と点が、なかなか結び付きません…。うーん、わからない… 脳が限界…◇ちなみに公式サイトには「連続殺人」とありますが、今後もまだ死者が出るのでしょうか?一般的に、サスペンスドラマの場合、秘密を隠している人間ほど、自殺したり殺されたりする可能性が高い。その意味では、後藤や藤井や青木菜奈が危ないと思うのですが、わたしは、優が死ぬ可能性も排除できないだろうと思っています…。
2021.11.28
NHK「カムカムエヴリバディ」の第4週。火曜日に、母と祖母がいきなり死んでしまいました。木曜日には、父も死んでしまって、金曜日には、ついに稔も死んでしまいました。結果的に、ほとんど誰もいなくなった。朝ドラがこれほどの喪失を描いたことはなかったと思う。◇NHKの朝ドラは、事前にあらすじが雑誌に掲載されたりするので、もしかしたら内容を知っていた人もいたかもしれないけど、わたしは、そういうものを見ないし、実際にドラマを見ていても、いわゆる「死亡フラグ」らしきものを察知できなかったので、あまりの容赦ない展開に茫然としています。ただでさえ、16話までは、これといって予想外の出来事が起こることもなく、まるで戦前・戦中のダイジェストストーリーみたいに、とんとんと話が進んでいただけに、とつぜん予期しない喪失へと落とされたショックは大きい。◇いわゆる「死亡フラグ」らしきものがありませんでした。火曜日は、空襲の直前に、体の弱ってきた祖母が、「ひ孫の顔を見て、いっとき元気になった」という話があったので、これはきっと彼女の老死が近いんだな~と思って、すっかり油断していたのもある。従来の朝ドラのパターンから考えて、防空壕で死ぬなんて展開はちょっと予想できなかったし。わりと気楽に見ていたドラマが、そこから怒涛のリアルへ突き落とされました。従来のドラマなら、物語の感情を盛り立てていくために、なんらかの「フラグ」を立てるのが常套手段だと思うけど、今回の朝ドラのように、いっさいの「フラグ」を立てず、悲劇のリアリズムを徹底的に再現するやりかたが、今後は主流になっていくのかもしれません…。東北の津波もそうだったろうけど、それまでの風景が、なんの予告もなく、たった一日で一変してしまうのですよね。昨日まであったはずのものが、翌日にはすべて失くなってしまう。そして、残された者は、ほとんど鬱状態に陥ってしまう。そういうリアルを見せられた。戦前・戦中のダイジェストストーリーみたいな内容も、じつは死亡フラグを立てないための前フリだったのかもしれません。◇木曜日は、雉真の父が「算太の無事」を祈ったので、これはきっと兄の死亡フラグだな~と思ったし、実際、そのあと幻覚らしき兄が姿を現したので、最後のナレーションを聞いてもまだ、算太と金太を混同したまま、てっきり死んだのは兄だとばかり思っていた。そもそも父が死ぬ理由は想定できなかったし、役名を覚えてない視聴者は、そのように誤解したと思う。だいぶ時間が経ってから、あのナレーションは父の死を告げていたと気づいて絶望的な気持ちに…。あえて父と兄を混同させたことは、翌日の確認視聴にも繋がったと思う。◇もともと橘家には、住み込みの職人さんをふくめて9人の団らんがあったわけですが、あっというまに2人しかいなくなる。兄さえ生きているのかどうか分からない。そうやって、訳の分からない混乱のなかで次々に人が亡くなると、もはや最後の稔の死も、やむをえない必然のように思えました。神頼みは役に立たない。…今回の朝ドラを、当初は「純情きらり」や「エール」との比較で見ていましたが、どちらかというと、名作アニメ「この世界の片隅に」に近いような気がしてきます。「この世界の片隅に」は広島の物語。「カムカムエヴリバディ」は岡山の物語。どちらも、原爆被害はまぬかれたけれど、空襲で多くを失った人の話です。黒い雨が降ったり、台風16号(枕崎台風)が来るところも似ている。つまり、これは、すずさんと、すずさんの娘と、すずさんの孫の物語になるのかもしれない。◇ちなみに「純情きらり」の達彦は、桜子を未亡人にしてしまうのを怖れて、はじめは結婚することをためらっていました。しかし、稔と安子のあいだには、そのような躊躇がありませんでした。その結果、安子はあっけなく未亡人になった。とはいえ、安子が戦前に雉真家に嫁いですぐに出産したことは、むしろ救いだったのかもしれません。そうでなければ、ほとんど身寄りがなくなっていたのだし、幼い娘がいなければ、生きる気力さえ失っていたかもしれない。…ところで、「この世界の片隅に」の最後のほうでは、すずさんが、戦争孤児の小さな養女を迎えることになります。「エール」でも、闇市のラーメン屋をしていた姉の夫が、戦争孤児の養子を迎えています。今回のおはぎ泥棒の少年には身寄りがあるでしょうか?でも、さすがに素性の知れない子供を、勝手に雉真の家へ連れ帰るわけにはいきませんよね…。
2021.11.27
シーズン2の最終回です。前回の騒動を受けての解決編でした。ステイシー先生の進歩的な演説と、子供たちのジャガイモ発電によって、村人たちの古い考え方を変えさせようという作戦だったのですが…どちらかというと、リンド夫人の采配ですべて決まっちゃった感じでした。ほかの村人たちは、ほとんど付和雷同?偏見や誤解が解けたという感じでもないし、ビリーの悪事がただされたわけでもないし、ややご都合主義というか、いまいち説得性の乏しい、なし崩し的な展開で、なにやら予定調和的に解決しちゃった印象です。マリラとリンド夫人が、あんなに激しくバトルするとは思わなかったけど、そもそも女性教師「排斥派」から「容認派」へ180度急転するという、リンド夫人の極端な役どころに、ちょっと無理があった気がします。◇丸暗記教育ではなく、「考える力」を育てる教育こそが大事というのは、現代の日本にも通用する主張です。それこそが人間社会に進歩や変化をもたらす。子供たちの夢が世界を変える力になる。ただ、人間社会の進歩にはプラスとマイナスの両面があるのだから、それを「世界に増大する善」とまで呼んでよいものか、そこはやや違和感をおぼえます。大仰でこじつけっぽいタイトルだと思いました。…まあ、とりあえずキツネが助かったのは良かったですけど。◇コールは、学校に戻るどころか、家も村も捨てて、シャーロットタウンへ去ってしまいました。ここでもステイシー先生はちょっと無力でした。彼がアヴォンリーへ戻れる日は来るのでしょうか?◇ギルバートは何を悩んでいたのかよく分かりませんでした。農場の柵を取り付けられないのがそんなに辛かった?考えを改めたギルバートは、バッシュに「農場の計画は変えない」と宣言したのですが、じゃあ、医者の勉強のほうはどうするの?そして、バッシュは夫婦でアヴォンリーに来るのでしょうか?密売をやってるとかいうヤバそうな息子は大丈夫? ◇…てなわけで、来週からはシーズン3がはじまります。
2021.11.24
冬麗の太秦二時のかけうどん ステイホームなないろ散らし釜揚げうどん 七味かけ白菜漬けが歌衣装 唇が熱いと離るる手の冷たく 味爆破夜鷹蕎麦へと沈む蓋 手袋のまま割る箸の乾いた音 七味蕎麦に振り込む義士祭プレバト俳句。お題は「七味唐辛子」。今回も「異議あり!」ってほどのことじゃないけど、個人的な感想です。◇かたせ梨乃。冬麗とうれいの太秦うずまさ 二時のかけうどんこれが今週の1位。たしかに良い句だったと思いますが、本人は「冬の太秦って寒いんですよ~!」と強調してたので、その意図に沿うのならば、穏やかな日を意味する「冬麗/冬うらら」ではなく、寒々とした「冬ざれの」「底冷えの」などを使うべきかと思いました。◇千原ジュニア。手袋のまま割る箸の乾いた音おと今週は、これがいちばん良かった。番組では言及がなかったけれど、「ね」ではなく、字余りで「おと」と読ませた効果も気になるところ。個人的には余韻があって悪くないのかなと思う。※NHK俳句(櫂未知子)によれば、「ね」と読むのは音楽の場合だそうです。なお、先生は、「箸の音」とせずに、そこに「乾いた」を差し入れたことを評価してました。ただ、わたし的には、手袋のまま割る箸の音かたしのような語順でもべつに悪くはないかと思います。◇歌広場淳。唇が熱いと離るる手の冷たく冷たき手と七味に熱き唇と(添削後)諸般の事情により本人コメントがばっさりカットされてましたが、俳句の内容も微妙に時事ネタを反映してる感じで、どうやら、「辛い物を食べた後にキスしようとしたら冷たく突き放された」とかいう話のようです。読んだだけでは意味が分かりにくいのですが、「唇が熱いと言って離れた人の手は冷たかった」と解釈すればよいのかもしれません。作者の意図に寄せるのはかなり困難だけど、添削のほうも、ちょっと読んだだけでは分からないと思います。「冷たき手」が誰の手なのか分からないし、「七味に熱き唇」の意味もいまいち不明寮だし。ためしに、下五の句またがりですが、辛き蕎麦 キスを拒む手の冷たしとしてみました。「キスを拒んだ冷たい手」なら定型にもなります。◇藤井隆。七味かけ 白菜漬けが歌衣装白菜漬けにかけて 七味の華やかに(添削後)原句にせよ、添削にせよ、まず「かけない七味があったら持って来いっ!」と言うべきなのでは?ためしに、上7の字余りですが、白菜漬けに七味 紅白歌合戦としてみました。◇キスマイ北山。七味爆破 夜鷹蕎麦へと沈む蓋七味振れば 夜鷹蕎麦へと沈む蓋(添削後)てっきり「丼の蓋」かと思ったけど、外れ落ちた「七味の瓶の蓋」なのですね。それが、読んだだけではちょっと分かりにくい。その分かりにくさは添削しても消えていません。屋台の蕎麦屋が、最後に七味をふって、蓋を閉じて、売りに出る場面のようにも見えます。…というか、ここでもやはり、「振らない七味があったら持って来いっ!!」を発動したい。なので、夜鷹蕎麦 七味の蓋が落ち沈むとしました。これなら誤解の余地はないと思う。◇みちょぱ。ステイホーム なないろ散らし釜揚げうどん釜揚げになないろ散らしステイホーム(添削後)他の出演者は、七味を「ふる」「かける」などと書いてるのですが、みちょぱだけが「散らす」という動詞を使いましたね。いちおう、「散らさない七色唐辛子があったら持って来いっ!!」とも言えるけど、「なないろ」だけじゃ意味が通らない可能性もあるので、この場合は許容範囲だと考えます。なので、これは添削に異論なしです。◇梅沢富美男。黒七味 蕎麦に振り込む義士祭ぎしまつり個人的には「振り込む」という複合動詞の是非!銀行かっ!ATMかっ!年末の支払いかっ!!たとえば「散らして」「落として」「からめて」…などにも置き換え可能ですよね。そもそも、あえて「振る」を「振り込む」などと書くのは何故?討ち入りにちなんで気合でも込めてる感じ?わたしは、ここでもやはり、「振らない七味があったら持って来いっ!!」を発動したい。なので、黒七味 蕎麦かきこみて義士祭としてみました。
2021.11.23
第6話。面白かったー。今回の主役は加瀬さん!(←急に「さん」づけ )弁護士と警察・検察との闘いでしたね。いままでは地味な立ち位置だった加瀬ですけど、今回はカッコよくて素敵でした!その一方、梨央が、釈放された優に抱きつく場面も、大輝に抱きしめられる場面も、ロマンティックで感動的!…いやー、それにしても、次々と、そして、あっさりと、いろんな事実が明かされる。その結果、またしても物語の行方が分からなくなります…(笑)◇新旧2つの事件で、優の無罪がどうやら確定するっぽい。渡辺昭は、自分で這い上がってきて反対側の池に落ちた?桑田は「頭部の挫創は池に落ちたときに出来た」と推測。要するに事故死なのかなと思ったけど、予告を見ると、まだ殺害の可能性もあるみたい。優の自白は、記憶障害のため信憑性なし。傷害についても正当防衛が確定。15年前の渡辺康介の事件も、未成年者による正当防衛ってことで、優はたぶんお咎めなしですね。今後、富山県警が動画の解析をやるかもしれませんが、いずれにしても優が罪を問われることはないでしょう。大輝は、優を不起訴にするために、警察として「やったらいかんこと」をやったようです。それって、つまり、加害者側に有利な情報を供述調書へ記載したってこと?実際、そこには大輝の捺印がありました。ちなみに、芝池公園の動画にはちゃんと音声があったようです。加瀬がイヤホンで聞いていましたから。梨央と大輝に、あえて音声なしの動画を送った理由はよく分からない。…芝池公園に梨央を呼び寄せたのは誰だったのか、それもいまだに分からないのですけど、たぶん優はその人物を知ってるはずですよね。だからこそ、あの場にいたのだろうし。やはり後藤が仕組んだと考えて間違いないのでしょうか?…後藤は、「あの情報屋は消えた」と言ってましたが、自分が雇っていた情報屋と、逮捕された梨央の弟が同一人物だと認識してるのでしょうか?それとも、最初から梨央の弟だと知っていて雇ったのでしょうか?◇後藤は、橘しおりに、口封じのための現金を封筒に入れて渡しました。きっと誰にでも札束を渡すんですね(笑)。金が有り余ってるんだろうなあ。ペーパーカンパニーで稼いでるから。風で散らばったお札も拾ってなかったし。ただ、散らばったお札をよく見ると、旧札の諭吉ではなく、新札の諭吉のように見えます…。左が旧札 / 右が新札◇…ともかく、拉致された橘しおりは、あっさり解放されました。たんに「手下のやりすぎ」だったようです。橘しおりは、暴行被害者リスト19名の女性のうちの一人でした。両親が離婚する前の旧姓は「松村」なのですね。にもかかわらず、彼女は、加害者の渡辺康介を追及するのではなく、なぜか「真田グループの隠し事」を追ってきたわけです。基本的に、橘しおりの言ってることはすべて正しいのだと思います。「手下のやりすぎを止めに来たボスって感じでしたよ」「渡辺昭に500万渡せって指示したのも専務さんでしょ」(←旧札問題だけが引っかかる)「殺されなきゃ世間に注目されないなんてショボいですよね」「梨央社長みたいに生きてるだけで注目を浴びる人もいる」「なんでこんなに不公平なんですかね」「隠し事の陰で甘い汁吸って楽して生きてる人たちは許せない」おそらく、これらの発言ぜんぶがストーリーの真実に関係していると思います。ただし、後藤の背後に真田梓が隠れている可能性はありますが。◇前回の合同合宿の写真には、橘しおりが映っていませんでしたが、今回、陸上部のマネージャーだった青木菜奈が送ってきた写真には、橘しおりが映っていました。どちらも2006年の合同合宿の写真ですが、おそらく前回の写真は選手たちを撮影したもの、今回の写真はマネージャーどうしで撮影したものなのでしょう。橘しおりは、2005年と2006年の合同合宿で白山大に来たようです。しかし、暴行被害がいつの出来事だったのかはまだ分かりません。そもそも、被害者のなかには、自分が暴行されたことを隠してしまう女性もいるだろうけど、逆に、被害者ではないのに被害に遭ったと申告する女性もいるかもしれない。加害者が死んでいるのだから、確かめようがありません。橘しおりや青木菜奈は、ほんとうに被害に遭ったのでしょうか?青木菜奈は、「自分は被害者ではない」「昔のことは思い出したくない」と言ってましたが、なにか重要なことを隠しているかもしれません。◇法都大の陸上部は、いまは強豪ですが、昔はそれほど強くありませんでした。むしろ白山大のほうが強かった。そして、白山大のエースは大輝でした。女子マネージャーたちは大輝に憧れていたかもしれません。しかし、大輝が好きなのは高校生の寮夫の娘だった。おそらく梨央はアイドル的な存在であり、人前で平然と告白するほど、2人の仲は公然の事実だった。長嶋のような落ちこぼれ部員が大輝らに嫉妬したように、女子マネージャーたちは梨央に嫉妬したのかもしれません。彼女たちの悪意が、梨央への暴行をけしかけた可能性もあります。◇最後のシーンで、橘しおりが、梨央と優の前に現れました。そして、「やっと会えましたね。この日を待っていました」と言った。しかし、今までにも会おうと思えば会えたはずです。すでに真田梓や後藤には接触していたのだから。なぜ、今このタイミングで会いに来たのでしょうか?彼女は、2005年と2006年の合宿のときにも、梨央に会っていたのかもしれないし、きっと大輝のことも昔から知っていたはずです。しかし、第3話で両者が接触したときの様子を見ると、すくなくとも大輝のほうは、彼女を覚えていなかったようです。法都大のマネージャーなんか眼中になかったのでしょうか。梨央LOVEすぎて。陸上一筋すぎて。ここらへんが、現時点で最大の謎です。
2021.11.21
すごかったー。これまでの内容が吹っ飛ぶぐらいの衝撃回。いろんな事件が起こりすぎて、ちょっと気持ちが追いつかない。見終わったあとの動悸がおさまりません。シーズン2では、いちばん面白い回でした。◇たまに登場する森のキツネって、いったい何の意味があるのかと思ってたけど、こういう伏線だったのかー。長い伏線だったなー(笑)。それから、黒人のバッシュは、アヴォンリーで何やってるの?と思ってたけど、ギルバートと一緒に農場をやるつもりだったのですね。しかし、黒人スラムで出会った女性と別の道を模索するようです。◇さて、新しく赴任した女性教師のステイシー。ジャガイモ判子をやったり、ジャガイモ発電をやったり、芸術にも学問にも理解がありそうな人です。まるで「大人になったアン」ってな感じで、見た目もちょっと似てるし、きっとアンとは仲良くなれるんだろうと期待が高まる。事実、アンも、ほとんど一目惚れのように先生のことが好きになります。ところが…アンの言動は空回りして、かえって警戒されることに(笑)。先生にいろんなことを教えようとするあまり、プリシーの破談の話までベラベラ喋るからですね。おかげで、「噂の危うさと他人への思いやり」について熟考せよと、アンは先生から厳しい宿題を出されてしまいます。まあ、もとはといえば、村の大人たちこそが、色んな噂を立てる悪い見本なのですよね。そのいちばんの代表は、お隣のリンド夫人。さっそく「進歩的な母親の会」から悪い噂を聞きつけて、ステイシー先生にむかって、「女性教師は容認できない」とか、「自転車もズボンもやめてコルセットをつけろ」とか、「マリラのようなオールドミスになるのは良くない」とか、余計なことをベラベラと喋っています。リンド夫人は、クリスマス会のときにも村を仕切っていましたが、どうやらアヴォンリーではかなりの発言力をもってるらしい。彼女が「進歩的な母親の会」と親密なのも意外ですが、それでいてマリラと仲良しなのは、絶妙なバランスというべきですね。◇一方、不登校のコールのことを知らされたステイシー先生は、アンに対して詳しい説明をするよう求めます。アンは、彼の同性愛の件もふくめて、コールについての詳細を話すべきか躊躇しましたが、ステイシー先生いわく、これは「噂話」ではなく「必要な話」なのだからと。そして、話を聞いたステイシー先生は、さっそくコールの家を訪ねますが、これが大きな災いを招きます。親に隠していた不登校がバレてしまい、ビリーによって森の隠れ家も破壊されたコールは、自暴自棄になってビリーにとつぜん襲い掛かり、倒れたビリーはストーブで火傷を負う羽目に。はたしてステイシー先生が、アンから無理やりコールの話を聞き出したのは正しかったのでしょうか?◇まあ、もともと、親に嘘を吐いて不登校を続けていること自体が、正常な状態とはいえませんし、隠していても、いずれバレるに決まってるわけだし。今までそれがバレなかったのは、前任の教師がコールの不登校を放置していたからです。むしろ、そっちのほうがおかしいのですね。そう考えれば、ステイシー先生が、コールの話を聞きだしたのは正しかったと思います。とはいえ、今後の彼女は前途多難です。リンド夫人に代表される村人たちの偏見と闘い、自称「進歩的な母親の会」の保守性とも闘い、「勉学は不必要」と思っているコールの親にも対峙せねばならない。つまり、彼女は、たんに学校の生徒だけではなく、村の大人たちをも啓蒙していかなければならない。それは途方もないほど困難なことだけど、きっとアンはその姿を見て多くを学ぶのでしょうね。ステイシー先生なら、前任のエロ教師とは違って、ビリーの悪事をも見過ごさないはずだし、コールの芸術性を開花させるために、彼を森の秘密基地から外の社会へ引き出してくれるはずです。◇…なーんて、口でいうのは簡単ですが、実際、世の中の慣習と戦うのは容易なことじゃありません。ただでさえ、ステイシー先生は村の「よそ者」なのだし。かりに現代の日本であっても、世間的な既成概念を変えていくのは大変ですよね。たいていは既存の考え方に同調してしまうのがオチ。そうでなければ、周囲から「空気の読めない人間」と排除されてしまうから。このドラマには、「進歩的な母親の会」という保守的な組織が出てきますが、現代の日本にだって、ガチガチの思考を脱しない婦人会みたいな組織はあります。いつの時代も同じです。はたしてステイシー先生は、どうやって村の大人たちに立ち向かっていくのでしょうか?◇◇ところで、話は変わりますが、今回、あらためて気づいたことがありました。原作では、マシューのほうが兄でマリラが妹ですが、このドラマでは、それが逆なのですよねえ…。それについては、ドラマを見始めた当初にいちど確認していたのですが、いつのまにかその設定を忘れてしまって、またついマシューのほうが兄だと思い込んでいました。しかし、これには日本語の翻訳の問題もあると思います。NHKの翻訳では、マシューがマリラに呼びかけるときの「You」を、たぶん「おまえ」と訳しているはずです。弟が姉のことを「おまえ」と呼ぶのは一般的ではありません。本来なら「姉さん」とでも訳すべきだろうと思います。しかも、弟は姉に対してタメ口、姉は弟に対して敬語です。もしかしたら、翻訳者も姉弟ではなく兄妹と勘違いしているのでは?
2021.11.20
第5話。葛藤を抱えながらも、容赦なく梨央と優を追い詰めていく大輝!そして、ついに警察に連行される優!追いすがる梨央と、彼女を押さえつける大輝!宇多田ヒカルの歌が流れる…。ここでスローモーションとかやめてぇ~っ!!泣く…。あまりに悲しくて、もう考察とか無理なんですけど…なんとか頑張って、今回も考察していきます。◇結論から先にいうと、わたしは、現時点で、究極の犯人は「真田家」だと思っています。確たる根拠はありませんが、「真田家」という巨悪をめぐる物語だという気がしてならないからです。さながらゴッドファーザーのようなマフィアの話に思える。最後は「おじい様殺し」ならぬ「母殺し」に辿り着きそうな気もする…! 夏樹静子&澤井信一郎的な。以下、事実の確認と、それについての - 個人的な考察 - です。なお、画像が多いので重めかもしれません!◇2006年に、渡辺康介の失踪事件がありました。2007年ごろから、優は、東京に転居して真田家と暮らしました。2012年に、15才の優は姿を消しましたが、実際には山梨の高校の寮に入っており、加瀬(井浦新)と梓(薬師丸ひろ子)が世話をしていました。 月にいちど梨央へ葉書を書かせたのも加瀬です。このとき優は、自分が「やっちゃいけないことをやった」と加瀬に告白しています。加瀬も、梓も、優が渡辺康介事件に関与したことを知った可能性が高いです。このころから「生田誠」という偽名を使わせたのだと思います。2018年に、優は、高校を卒業しました。独り立ちできるほどの情報処理能力も習得しましたが、姉が真田ウェルネスの社長に就任したのを知って、彼女を守るために自分の意志で後藤(及川光博)に接触したとのこと。(真田家にいたころは後藤に会ってなかったのでしょうか?)しかし、この話はかなり不可解です。なぜ優が外部からそんなことをする必要があるのでしょう?これはやはり梓からの指示だったと考えるほうが自然です。2021年に、渡辺昭が殺害されます。首を絞めて池に落とす映像が残っているものの、やはり優自身の記憶には残っていないようです。◇今回の優の逮捕容疑は、あくまでも「渡辺昭殺し」です。証拠になったのは、優が自分で大輝に送った動画。15年前の「渡辺康介殺し」については、とりあえず達雄(光石研)の単独犯として処理されるはずです。かりに、優が15年前の事件についてあらためて自白し、ガラケーの復元動画も押収されれば、そのときはじめて2つの事件が同一犯ということになり、捜査一課と富山県警の合同捜査になるのかもしれません。そのときには、15年前の映像も解析されるでしょう。◇桑田(佐久間由衣)がいうように、「死体をひとりで運ぶのは困難」と考えるならば、陸上部員の誰かが死体遺棄を手伝ったのは間違いありません。長嶋は、事件のあった夜に、達雄(光石研)の叫び声を聞いたそうです。そこにいた他の部員たちは寝ていて、その中には、様子を見に行った人間はいなかったようです。長嶋の可能性は薄れた気がします。やはり富山県警に勤めている藤井(岡山天音)がいちばん怪しい。その一方、かつて渡辺昭が寮に訪ねてきたときに、彼を追い返した「高城」という部員も気になります。◇達雄の証言によれば、渡辺康介の遺体は、凶器や衣服とは別に埋めたそうです。15年前の事件にかんして、富山県警の捜査は、かなりお粗末です。事件当夜、渡辺康介が寮にいたのは明らかなのに、そのときの長嶋の話もろくに聞いていないし、陸上部の寮にあったパソコンも調べていなかった。被害者の父の渡辺昭は、ずっと白山大の陸上部関係者を追い回してたのに、富山県警のほうは、陸上部にターゲットを絞れてなかったように見える。もし陸上部にターゲットをを絞れていれば、死体を遺棄した犯人を消去法で特定できるはずです。事件の夜中に寮を出ていって、朝まで帰らなかった人物を特定すればいいのだから。遺体だけを発掘して、凶器を発見できなかったことが原因でしょうか?それとも、藤井が捜査を撹乱させているのでしょうか?ちなみに、衣服が別に埋められたのに、お守りだけが遺体とともに出てきたとすれば不可解です。あのお守りは、渡辺康介が盗んで、ポケットに入れたものだと思っていましたが、そうではなかったのでしょうか?◇渡辺昭は殺される前に、長嶋と、マネージャーの青木菜奈に会っていました。長嶋に会ったのは7月29日。事件の5日前です。システム手帳に、その記録があります。このシステム手帳は、渡辺昭の遺留品だと思います。いまはなぜか桑田が持っている(素手で扱ってます…)。よく見ると、大輝や藤井の名前もリストアップされています。◇もともと大輝は、梨央や優の知り合いです。なぜ警察は、そんな利害関係者を捜査の前線で働かせていたのか。どうやら大輝が、そのことを上司に隠していたようです。しかし、そんなことは、すぐにバレるはずですよね。梨央と優が陸上部の寮夫の子供だとか、大輝と藤井がその寮に入っていたとか、ちょっと調べれば、すぐに分かることです。渡辺昭の手帳にさえ、大輝と藤井の名前が載っているのですから。わたしが思うに、警察の上層部は、すでにそれを把握していて、のみならず、大輝と藤井が繋がってることも知っていて、あえて彼らを泳がせている気がしてならない。◇2006年の「合同合宿」の写真は、渡辺昭が後藤にあずけたものでした。いまは加瀬の手に渡っています。達雄(光石研)がもっていたのとまったく同じ写真です。朝宮一家も映っていますので、岐阜で撮られたものだと思います。どことどこの「合同合宿」だったのかは分かりません。法都大との関連についても不明です。◇渡辺昭の殺害シーンの映像には音声がありませんでした。しかし、科捜研の口話分析によると、優にむかって「また金持ってござったんですか?」と言ったらしい。なぜ金を渡しに来る人間に対して、怒りをぶつけるのでしょうか?なんらかの期待をもたされて、裏切られた心境だったのでしょうか。◇大輝が、達雄のことについて、上司(津田健次郎)に何かを確認するシーンがありました。何を確認したかは分かりませんが、その直後に、優が、達雄の遺影の横のもうひとつの遺影を手にとって、姉に「これ持ってっていい?」と尋ねるシーンへ繋がります。あれは達夫の後妻(優の実母)の遺影ではないでしょうか?大輝が上司に確認したのも、達雄の後妻にかんすることかもしれません。達雄が再婚した相手は、どんな女性だったのでしょうか。◇梨央は、弟の病気を治すための新薬を開発してきたのに、真田梓は、姉と弟を9年ものあいだ引き離し、優に治験を受けさせようとしませんでした。真田梓は、たんに優を利用してきただけなのかもしれません。梓にとって、梨央は血のつながった娘ですが、優は、いわば「他人(達雄の後妻)の子供」ですから。◇後藤(及川光博)と加瀬(井浦新)の会話を聞くかぎり、加瀬はペーパーカンパニーの存在を知らないようです。あくまで後藤が秘密裏にやっていたことで、梓(薬師丸ひろ子)さえ知らないのかもしれません。◇後藤は、ペーパーカンパニーを作り、そこでゴロツキみたいな人間を雇い、スパイみたいな情報屋をも雇い、あげく都合が悪くなると、橘しおりを拉致しています。本質的にヤバい人間です。無法なことも平気でやらかす奴。後藤は、ペーパーカンパニーの存在を隠しとおすために、橘しおりを消そうとしているのでしょう。しかし、その背後に、真田梓(薬師丸ひろ子)や真田政信(奥野瑛太)がいる可能性も、まだ捨てきれません。なぜなら、彼らもまた、不都合なゲラ記事を書いた橘しおりの存在を消したいはずだから。ただ、社長の実弟が逮捕された以上、いまさら橘しおりを拉致しても、会社のダメージは免れませんね。それどころか、失踪期間中の優の行動が解明されれば、真田ホールディングスにまで捜査の手が及び、 かえって後藤が逮捕される可能性も高まるだろうと思います。◇ちなみに、後藤(及川光博)と加瀬(井浦新)は、一見すると正反対の人間に見えますが、境遇はよく似ています。どちらも恵まれない家庭に育ちながら、真田ホールディングスの一員として家族のように迎えられ、身を捧げるようにして真田のために働いてきた。つまり、もともとは身寄りのない人間です。そのように、身寄りのない人間を抱え込む会社というのは、ある意味では「良心的」ともいえるけど、ある意味では「ヤクザっぽい」ともいえます。事実、真田グループは、血縁と義理人情で強く結束しているファミリー企業体です。じつは後藤だけがヤバい人間なのではなく、そういう人間を抱えこんできた先代以来の真田家が、もともとヤクザっぽい一族なのかもしれません。そんな真田家にとって、身寄りを失くしてしまった優も、後藤や加瀬と同様に「利用価値」があったのではないでしょうか?◇最後のシーンで、加瀬が、芝池公園の真ん中に立って、左右の池を見比べていました。次回予告によれば、池のほとりで優と昭が争った動画を科捜研に解析させて、その結果に「ある疑問」を抱く、とのことです。◇余談ですが、湊かなえがNHKの「あさイチ」に出てました。彼女が「最愛」を見てるかどうかも気になります(笑)。
2021.11.16
アクセルを回し飛び込む秋の色 照葉麗し画角には富士遺産 鏡富士悪戯するよ紅葉舟 テントから白い息出し長月や マニキュアの深き雨冷の霊園 秋暁の富士へ遊覧飛行船 冷ややかや湖畔に肺の晒されてプレバト俳句。お題は「富士と紅葉」。今回も「異議あり!」ってほどのことじゃないけど、個人的な感想です。◇瀧川鯉斗。アクセルを回し飛び込む秋の色アクセルを回し秋色へと飛び込む(添削後)またしても集団で走ってるのか??と、ついつい疑念が湧いて出てくるのもあるし、上五の「アクセル回し」ってのも、もしや「バイク転がす」的なそっち系の専門用語か??と、あらぬ疑いをもってしまうのですが、そんなことよりも気になったのは、中七の「回し/飛び/込む」という動詞3連発です。一般に、動詞の多用を避けるべき1つめの理由は、「何が主語なのか分からなくなる」ってことですね。そして2つめの理由は、「その動詞が述語なのか修飾語なのかが分からなくなる」ってこと。この句の場合は、まさにその後者です。かりに、アクセルを回し飛び込む / 秋の色と読むならば、「回し飛び込む」がまるごと述語になりますから、エンジンを吹かして飛び込んだことになるけれど、アクセルを回し / 飛び込む秋の色と読むならば、「飛び込む」が下五を修飾するわけなので、「秋の色」のほうが視界へ飛び込んでくることになる。まあ、「どっちでもいい」といえば身も蓋もないのだけど、読んだ瞬間に混乱を生じさせるのは事実です。…そもそも「飛び込む」の4文字って必要ですか?アクセルを回し秋色へとさえ書けば、状況は伝わってしまうわけだから、残りの4文字分で別のことが言えると思う。たとえば、アクセルを回し 清さやかな秋色へ …とか。かりに「飛び込む」のニュアンスを尊重するとしても、動詞を3つも並べるのではなく、「すぐさま」「たちまち」「いっきに」…のような副詞に置き換えることもできる。てなわけで、アクセルを回し 一気に秋色へとしてみました。◇菊池桃子。照葉てりは麗し 画角には富士遺産照葉麗し 画角に世界遺産富士(添削後)添削では、原句の「麗し」を尊重してますが、上7を字余りにするほど不可欠な主観表現とも思えないので、そこは定型に収めたいってのが個人的な希望です。◇ダイアン津田。鏡富士 悪戯するよ 紅葉舟もみじぶね鏡富士ゆるがせ 紅葉舟よぎる(添削後)助詞のない三段切れのため、どっちが主語でどっちが目的語なのか分からず、てっきり「鏡富士が紅葉舟に悪戯する」のかと思ったら、本人の説明は逆でした。添削では、擬人化表現を尊重して「ゆるがす」としてますが、かりにクサい擬人化も排除してしまうならば、紅葉舟 碧く波打つ鏡富士みたいな取り合わせの句になるでしょうか。◇キスマイ二階堂。テントから白い息出し長月や富士は夜よや テントに秋の息白し(添削後)季重なりの問題もさることながら、そもそも息は「出す」ものじゃなく「吐く」ものだし、「長月」は細長い月じゃなくて「九月」のことだし、いつもながら、俳句うんぬんより、まず日本語として踏み外しちゃってる感が強い。(^^;「や」を最後に置くのも無自覚にやってるし。先生の添削が面白いのは、あえて季重なりをそのまま残したことですね。ずばり「秋の!!」と断言してしまえば、「テント」や「息白し」は季語ではなくなる、ということなのでしょう。この剛腕な手法は、なかなか便利だなと思いました。ただ、厳密にいうと、原句は「テントから顔を出して」冷たい息を吐いてるのに、添削句では「テントの中で」白い息を吐いてるように見えます。◇ミッツ・マングローブ。マニキュアの深き雨冷あまびえの霊園マニキュアの深し 雨冷の霊園(添削後a)マニキュアや 雨冷深き霊園に(添削後b)句材そのものはミッツらしさ抜群です。気味悪くて冷たくて湿ってて深紅で、微妙にエロい。でも、中七の「深き」の形式的なミスは初歩段階ですから、そこはクリアしないといけません。◇岩永徹也。秋暁の富士へ 遊覧飛行船今回は、これが安定感もあって、いちばん良かったです。和洋折衷っぽくもあり、また自然とテクノロジーの調和っぽくもあり、なかなかユニバーサルなスケール感をもった風景でした。◇梅沢富美男。冷ややかや 湖畔に肺の晒されてはい。掲載決定だそうです!ふつうなら、冷ややかな湖畔へ肺を晒しけりとしそうなところを、倒置法のような独特の語順にしていて、わたしには、それがちょっとぎこちなく感じる。さらに、「冷ややか」は形容動詞の語幹なのですが、そこに「や」をつけることへの違和感もあります。調べてみると、「のどかや」「爽やかや」という句も出てくるので、とくに文法的な間違いではないようですが…。三峡の湾処のどかや 漁り舟(松崎鉄之介)爽やかや 風のことばを波が継ぎ(鷹羽狩行)爽やかや 白一色の搾乳婦(水原春郎)もともと日本語は、形容動詞の語幹と名詞との区別がしにくく、「閑しずかさや」でも「閑しずかや」でもどっちでもOK!みたいな融通無碍なところがあるのですね。しかし、そうはいっても、「急や」「綺麗や」「温暖や」「抽象的や」…などの可能性を考えると、どうも《形容動詞の語幹+や》には違和感を拭えない。なので、秋冷の湖畔へ肺を晒しけりあけぼのの湖畔に肺を冷やしけりなどとしてみました。
2021.11.15
あらすじネタバレ感想です教師のフィリップスは、授業中にもプリシーへ色目を使ってたから、てっきりロリコンのエロ教師だと思ってたのですが…まさかゲイだったとは。つまり、プリシーの側の一方的な片想いだったってわけ。フィリップスは女生徒の恋心を利用していたのですね。プリシーが、結婚式を放棄して飛び出したのは、学業への夢を諦めきれなかったからであって、相手がゲイであることに気づいたからではないと思う。まあ、おたがいに自分の本心を偽るような結婚なら、破談にするのが、結果オーライですよね。しかし、そうはいっても、プリシーは、もっと早く偽りに気づけなかったのか。ゲイの男性が、知的でエレガントで、ちょっと素敵に見えるというのは、わりとありうることなのかな。恋は盲目ってやつ?結婚の直前になって急に視界が開けた?プリシーは、彼がゲイであると知ったら、それを受け入れられるのでしょうか?アンは、性を超えた人間的な結びつきのことを、「ライフメイト」という言葉で表現していたけれど。フィリップスは、今後どうするでしょうか。アヴォンリーに残るのか。村を出て行くのか。偏狭な村のなかで本性をカミングアウトするよりも、都市部に出て行ったほうがまだよさそうな気はするけど。それでもなお「事実を認めまいとしてもがく」のかしら?◇シャーロットタウンには、黒人だらけのスラム街。はたして当時のプリンスエドワード島に、あのような地区があったかどうか分からないけど、カナダの都市部にならあったかもしれません。一方のギルバートは、助産は出来るのに、注射器が苦手って何?(笑)いずれにせよ、ギルバートとセバスチャンには明るい未来が見えてきた。ところで、ギルバートとセバスチャンって、ふだんの生活費はどうしてるんだっけ?船員として働いた蓄えがたっぷり残ってる?セバスチャンは家で何してるの?
2021.11.14
NHK「日本人のおなまえっ!」は、カムカムエヴリバディとのコラボ企画で岡山特集。赤木アナも岡山出身。甲本雅裕も、西田尚美も、岡山出身なんですね。宮崎美子は「ボス恋」のときの萌音の母親。番組の内容は、ほぼ一昨年の「ブラタモリ」の復習でした。わたし的には、やっぱり鬼滅がらみの話になります。◇古代の吉備国は、ヤマト王権の四道将軍だった吉備津彦きびつひこに侵略されたのですが、なぜか現在の岡山県民は、吉備津彦=桃太郎のことを地元のヒーローだと思ってる、って話(笑)。まあ、敗戦後の日本が、米英文化を崇拝したのと同じことですね。ちなみに岡山県は、1950年に県の花を「桃」に指定、1994年に県の鳥を「キジ」に指定、2016年には吉備線を「桃太郎線」に改称しています。◇岡山県は、「ブラタモリ」のときにも言ってたけど、倉敷市の平地部分が、もともと海だった。干拓によって陸地化したのです。いまは陸続きになってるけど、早島は、鎌倉時代までは本当の島だったし、児島も、室町時代までは本当の島だったらしい。児島地区が江戸以降に「繊維の町」になったのは、塩分の多い土地で綿花やイ草を栽培したからだそうです。綿花やイ草は、塩分に強い作物なのですね。土地の除塩効果があるそうです。干拓される前の児島は、いわば天然の防波堤&要塞になっていて、内海をはさんで、古代の沿岸には、港にあたる上東遺跡があり、さらに楯築古墳や王墓山古墳や御釜殿(吉備津神社)がならび、その背後に鬼城山(鬼ノ城)がそびえていたことになります。吉備は、まさに天然の要塞と良港をそなえた王国だったのです。記紀神話によると、イザナギとイザナミは最初に淡路島をつくって、そのあと四国、隠岐島、九州、壱岐島、対馬、佐渡島、本州をつくり、これら8島をもって「大八洲おおやしま」と名づけたあと、9番目に「吉備の児島(吉備子洲)」をつくったとされています。これって、要するにヤマト王権が侵略した順番じゃないでしょうか?つまり、吉備の侵略に最後まで手こずったのだと思います。楯築たてつき古墳ってのは、文字どおり「ヤマトに盾突いた人たち」のお墓じゃないの?◇一方、吉備の人たちは、港湾都市ならではの気風から、外来文化への適応力が高かったともいえる。もともとも渡来人が多くて、鬼の温羅なんかは製鉄をやってたらしいし、吉備津彦に征服されて以降は、桃太郎を崇敬しながらヤマト政権に順応したのだろうし、太平洋戦争のあとは、稔さんみたいに英語の勉強をして、いちはやく国産ジーンズの製造に乗り出したのですね。◇古代吉備と古代大和の関係は面白いテーマなのだけど、とくに岡山の「楯築たてつき」と奈良の「纏向まきむく」のことは気になる。ちなみに、楯築古墳からは、特殊な「帯状曲線入組文様」のある旋帯文石が見つかっていますが、この模様は、奈良の纏向遺跡の弧文円板に共通しています。さらに、古代の港にあたる上東遺跡からは、弥生時代の桃の種が9606個も見つかっていますが、これも、奈良の纏向遺跡で出土した2765個の桃の種を想起させます。奈良の纏向遺跡ってのは、吉備津彦の姉である百襲姫ももそひめの王宮じゃないかといわれています。この百襲姫こそ卑弥呼じゃないか?とする説もあります。古代中国の神仙思想のなかで、桃は魔除けの呪力をもっていたので、鬼道を用いた卑弥呼が、弟の武力と桃の呪力で吉備の鬼を退治したのかもしれません。岡山の楯築古墳は、前方後円墳のプロトタイプだといわれていますが、奈良の纏向にある箸墓古墳は、百襲姫の墓であり、なおかつ、日本で最古の前方後円墳でもあります。◇最近は「吉備邪馬台国東遷説」ってのもあるそうです。もともと邪馬台国は吉備のほうにあって、それが大和に移った。あるいは、九州や吉備の勢力によって擁立された政権が、奈良の纒向で統治をおこなったというのですね。>>卑弥呼論争に一石 統治は纒向、擁立は九州・吉備中心
2021.11.13
カムカムエヴリバディ。安子と稔の複雑な恋物語。戦争と、勇との三角関係と、家の跡継ぎ問題と、岡山~大阪の遠距離問題などが絡んでいます。月曜日は、恋の往復書簡。水曜日は、恋の往復鉄道。…って、ほぼ太田裕美なのでは?「文通」 & 「鉄道」ちなみに萌音の歌う「木綿のハンカチーフ」はこちらの5曲目。さて、萌音の14才設定は、さすがに無理があったけど(笑)、16才なら、だいぶしっくり来ます。しかし、戦前に、16才の少女が、岡山からひとりで大阪へ行くって、けっこうな冒険でしたね。わたしは、鉄道のことも、関西の地理のことも、よく分からないのですが、岡山から、稔の通う大阪商科大学までは、(もとは五代友厚が設立した学校が前身だそうです)大阪市内で2回ほど乗り換えも必要らしいし。◇当時、山陽本線の岡山~大阪間は、「富士」「櫻」などの特急を使って、およそ3時間。普通列車なら4~5時間はかかったようです。そして往復の運賃は、現在の価値にすると1万円以上はしたはず。かなりの大金でしょっ!火曜日に、すでに実家の菓子屋は、ダメ兄の借金の肩代わりもしていたのですが…ダメな兄の系譜おそらく安子も、おはぎ50個分くらいの売り上げを店からもち出さないと、高額な往復運賃を確保できなかったと思います。意外に、似たもの兄妹?!戦時中なのに、出費がかさむ菓子屋!…まあ、お正月に豆腐屋のきぬちゃんと初詣をしたときの、あのきれいな着物姿などを見ると、(雉真家ほどではないにしろ)橘家も、けっこう裕福な家庭なのだとは思う。◇ところで、大阪では、日中戦争のさなかだというのに、二人は 恋の支那そば を食べていましたね。3年前の「まんぷく」のとき、台湾出身の萬平さんは、「ラーメン」と言って「支那そば」とは言いませんでしたが、今回も、セリフでは言わなかったものの、(↑コンプライアンス的に)壁のメニューには、わりとはっきり「支那そば」と書いてありました。◇そんなふうにして、たがいの恋心をはぐくんだ安子と稔。もしも、このまま二人が結婚したら、弟・勇くんの兄嫁LOVEは…⇒TBSの「ハンオシ」みたいな状況を生むわけですね!ただでさえ甲子園にも行けなかったのに!(T_T)…それとも、勇くんは豆腐屋のきぬちゃんと結婚するとか?そして、息子がプロ野球選手になるとか?◇それはそうとはやくも「yattokosa」ツアーが映像化。さらに、渋沢栄一が日比谷につくった帝国劇場では、いよいよ「千と千尋の神隠し」の舞台が始まるとのこと!>>なぜ渋沢栄一は日比谷に「帝国劇場」を作ったのかもうスケジュール的には来年なのですね。
2021.11.12
先週のNHKクラシック音楽館。前に見た藤田真央くんのシューマンが面白かったので、今回のラフマニノフ3番も聴いてみようと思いました。普通なら聴くだけでも体力を要する曲だけど、真央くんなら、まったく違うラフマニノフになりそうだし。しかし、その前に、17才の奥井紫麻おくいしおが弾くモーツァルトの23番!まず、これに心惹かれてしまった。聴いた瞬間、「うわー、この人はモーツァルト弾きだぁ」と思う。天使の戯れのように清らかで軽やかな音。わたしとしては理想的なモーツァルトでした。かたや、2楽章になると一転して、しっとり色気を感じるような、慈しみのある演奏だったり。同時に、モーツァルトの音楽が、驚くほどモダンだということにも気づく。わたしは今まで、もっぱらピアノソナタとかしか聴かなくて(笑)、(たいていピリスの演奏)あまりモーツァルトのコンチェルトに関心が向かなかったけど、今回の演奏を聴いて、はじめて魅力に目覚めたかも。おかげで23番が好きになった。あとで奥井紫麻のことを調べてみましたが、べつにモーツァルトにばかり傾倒しているわけでもないようです。というか、Wikipediaのページもまだなくて、もしかしたら、今回が初めてぐらいの本格メディア出演だったのかもしれません。◇そして、真央くんのラフマニノフ。やはり面白かった。わたしは知らなかったけど、彼はチャイコのコンクールでもこれを弾いたらしい。ラフマニノフの協奏曲といえば、甘いメロディーの2番に対して、ずっしりした重さの3番だし、わたしはどうしてもアルゲリッチの印象に直結してしまう。けれど、真央くんの演奏は、そういう重さや暗さとは無縁で、ひたすら絢爛豪華な世界を楽しむって感覚のほうが強い。しかも、抒情的で甘い。忘我の状態で華やかさの中へ耽溺するような演奏。ロマン派はロマン派でも、貴族文化に憧れる大正ロマン幻想って感じ?(笑)意匠を凝らした瀟洒な調度品を見せられてるみたいです。良くも悪くもクールな演奏で、ほとんど感情表現というものを伴わないから、感情にまかせてドバっと曲想が押し寄せたりしないし、そのぶん、細部の造りがクリアに耳に入ってきて、隅々までその美しさを堪能できます。本人も、汗だくだけど、ニコニコして楽しそうに弾いてる。一般的には「難曲」といわれる3番だけど、けっして肉体的に振りしぼって力まかせに弾くのでもなく、技術的には余裕をもって弾いてるようでした。シューマンを聴いたときも、「まるでチャイコのくるみ割り人形みたい」と思ったけど、今回も、そういう華やかさと楽しさを感じました。奥井紫麻/井上道義&アンサンブル金沢:モーツァルトのピアノ協奏曲第23番藤田真央/高関健&仙台フィルハーモニー管弦楽団:ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番
2021.11.11
第4話が放送されたあと、フリージャーナリストの橘しおり(田中みな実)に注目が集まっています。ここで、いくつかの仮説を立ててみます。まず、橘しおりのことを考えるために、以下の6つの事実は重要です。1.2006年に陸上部の「合同合宿」があった(次回予告より)。2.2006年に渡辺康介が失踪した(15年後に遺体で発見)。3.2006~07年のあいだ、橘しおりが法都大を休学した。4.2006~07年のあいだに、橘しおりの両親が離婚した。実家は青森の旅館。5.2007年に白山大の陸上部寮内で大麻使用が発覚した。主犯は渡辺康介。 警察は、19人以上の女性が渡辺康介に暴行されたと把握。6.その後、白山大と法都大の陸上部監督が交代した。これらを前提にして、以下の4つの仮説を考えてみます。仮説1.法都大学にも逮捕者が出た可能性警察は19人の女性被害者を把握しているので、白山大のほかにも余罪が発覚したことは確実です。法都大にも逮捕者が出た可能性があります。その場合、白山大と同様に、法都大でも陸上部の活動が無期限停止になったはずです。仮説2.青森の旅館で「合同合宿」の可能性かりに白山大と法都大の「合同合宿」で大麻が使用されたとして、それが橘しおりの実家の旅館だったとすれば、旅館経営までもがマスコミなどの風評被害にさらされ、それが両親の離婚にまで繋がったかもしれません。ちなみに、橘しおりは「書かれたことが事実になる」と発言しています。仮説3.橘しおりの父が失職した可能性かりに橘しおりの母が老舗旅館の女将だったとすれば、父は別の仕事をしていた可能性もあります。もしかすると法都大学陸上部の監督だったかもしれません。陸上部の活動停止によって白山大の矢野監督が失職したように、法都大の陸上部監督も失職した可能性があります。橘しおりの両親は、旅館経営を守るためにあえて離婚したのかもしれません。仮説4.橘しおりが康介殺しの犯人を恨んだ可能性白山大のマネージャーだった青木菜奈は「自分は被害者ではない」と言いましたが、橘しおりも、渡辺康介を恨むのではなく、むしろ渡辺康介を殺した犯人のほうを恨んでいたかもしれません。そして真田梨央(吉高由里子)や失踪した弟に疑念を抱き、後藤(及川光博)を介して、アゲ記事を書く名目で真田梓(薬師丸ひろ子)に接触していたかもしれません。…以上が、橘しおりについての仮説です。さらに5つの仮説も加えてみたいと思います。仮説5.藤井(岡山天音)が死体遺棄の場所を知っていた可能性白山大陸上部の寮があったのは岐阜県です。しかし、渡辺康介の死体が発見されたのは富山県です。県境を越えて死体が遺棄されたことは、犯人以外に知るはずがありません。藤井が岐阜県警でなく富山県警へ入ったのは、彼がはじめから遺体の場所を知っていたためかもしれません。仮説6.後藤(及川光博)が裏金を蓄えていた可能性後藤は長年にわたってペーパーカンパニーを使って裏金をたくわえ、梨央についてのネガティブな情報を収集するために、優や橘しおりに情報料を支払ったのかもしれません。また、渡辺昭を支援して梨央を陥れるために、優を介して500万円を渡したのかもしれません。仮説7.後藤が梨央と渡辺昭を引き合わせた可能性梨央についてのネガティブな情報を収集していた後藤は、優を介して渡辺昭に「芝池公園に行けば梨央に会える」と伝え、両者が会話している様子を優に盗撮させて、その映像を、社内で梨央を追及するために利用するつもりだったかもしれません。しかし、優の盗撮に気づいた渡辺昭が逆上。これに驚いた優は、突発的に渡辺昭を殺し、その記憶を失ったのかもしれません。仮説8.真田梓(薬師丸ひろ子)が優に情報屋をさせていた可能性真田梓は、もともと後藤の企みに気づいており、あえて優に情報屋をさせたのかもしれません。かりに後藤が、梨央についてのネガティブな情報を獲得したとしても、彼はそれを社内闘争に利用するだけなので、社外に漏らすことはないと考えていたはずです。しかも、優が後藤へ提供する情報について、真田梓が事前にチェックすることもできたでしょう。仮説9.真田梓が橘しおりを拉致する可能性真田梓にとっての最大の誤算は、後藤が、優だけでなく、裏金を使って橘しおりまで雇ったことかもしれません。実際、橘しおりは、ネガティブな情報を社外にまで漏らしてしまいました。橘しおりを拉致する可能性がもっとも高いのは、おそらく真田梓だろうと思います。ただし、後藤も、政信(奥野瑛太)も、加瀬(井浦新)も、優も、けっして会社の損失までは望んでいないので、彼らが拉致を実行する可能性もあります。あくまで仮説です
2021.11.07
第4話。めっちゃ面白い!梨央(吉高由里子)と大輝(松下洸平)は、居酒屋で、ふと昔のような関係に戻りました。懐かしい会話に気持ちが緩みます…。そんなシーンにドキドキしたと思ったら、優の逃走?!殺害現場の映像?!そして屋上での姉弟の再会?!怒涛の展開に翻弄されっぱなし。もう何を考察していいのかも分からない。だって、優は「2つの事件の犯人は自分」と言ってるのだし、どちらでも映像が撮られてるのだし、これ以上いったい何を考察しろというのでしょう???…しかし、分からないことは色々あります。というか、むしろ分からないことだらけです。とりあえず、5つの疑問点にまとめてみました。1.なぜ梨央や大輝や弁護士は、優を見ても気づかなかった?10年のあいだに歩き方や顔つきまで変わってしまったのでしょうか。あるいは、整形手術でもしたのでしょうか。2.なぜ母は、優の居所を把握していながら、それを隠していた?もしかして優が事件に関与しているのを把握したうえで、会社に損害が及ぶのを怖れて匿ったのでしょうか。だとしたら、海外にでも遠ざければいいと思うのですが…。会社の周囲をウロウロさせて監視させる必要はありません。一方で優のことを匿い、もう一方で梨央に創薬事業を任せるというのは、あまりに危険な経営判断であり、とても会社の利益を優先しているようには見えません。彼女の狙いは何なのでしょうか。3.なぜ捜査一課の上司は、容疑者と親しい大輝に担当させている?常識的に考えて、容疑者の利害に絡む刑事は、証拠隠滅や事実歪曲の恐れがあるので、捜査の担当から外すはずです。同じことは富山県警の藤井(岡山天音)にも言えます。もしかしたら、あえて担当させておいて、じつは裏で大樹の動きを監視しているのでしょうか。4.梨央と渡辺昭は、そもそも芝池公園へ何しに行った?渡辺昭は、8月2日より前にも真田ウェルネスをしつこく訪ねています。優は、そんな渡辺昭に500万円を渡して和解を試みたのでしょうか? しかし、その夜にもまた渡辺昭は真田ウェルネスへ行って、ついに梨央を探し当てています。けれど、そのときはまともに話が出来なかった。翌日の夜に、あらためて渡辺昭と梨央を芝池公園で再会させたのは優だろうと思います。しかし、梨央はいったい誰から連絡を受けたのでしょうか。そして、双方は何しに行ったのでしょうか。映像を見ると、渡辺昭は目的を果たせなかったように見えます。そして、優に食ってかかりますが、その場で優に首を絞められて殺される。あの映像には音声がないのでしょうか。渡辺昭は梨央に何を言っていたのでしょうか。そして、死に際に、優に何を言ったのでしょうか。5.ペーパーカンパニーは何のためのもの?母や兄はペーパーカンパニーの存在を把握しているのでしょうか。それとも、鼻血を流したミッチーの独断で、ひそかに資金洗浄でもやっているのでしょうか。…そして、今後の焦点は、「大輝は優を追いつめるのか、それとも優を守るのか」ってことになる。◇前回の第3話で、ちょっと気になった大輝のセリフがあります。部下の桑田(佐久間由衣)が、渡辺康介の事件について、「暴行を受けた被害者本人とか、家族とか、 交際相手が殺して埋めたってことはないですかね」と尋ねたとき、大輝は、「そのへんは県警も考えてるだろ」と言ったのです。このセリフは結構重要だと思います。大輝は警視庁捜査一課の刑事であり、藤井(岡山天音)は富山県警の刑事です。今回の「渡辺昭殺し」は東京都の事件ですが、15年前の「渡辺康介殺し」は富山県の事件です。2つの事件は関係があるはずですが、いまのところ合同捜査にはなっていませんし、警視庁と富山県警の情報はかならずしも共有されていない。しかし、大輝と藤井は密に情報を共有しているのです。◇一方、優は「2つの事件の犯人は自分」だと言ってます。しかし、これは本人の思い込みの可能性があります。すくなくとも、渡辺康介殺しでは、映像を見るかぎり、致命傷を負わせていない可能性がある。大ざっぱにいうと、3通りのシナリオがあると思います。シナリオ1優が渡辺康介を刺した。致命傷ではなかったが、それを見つけた父は、息子を守るために康介を生き埋めにした。シナリオ2優が渡辺康介を刺した。致命傷ではなかったが、大麻使用が明るみになるのを怖れた部員の誰か(単独or複数)が渡辺康介を殺した。死体を埋めようとしたところへ梨央の父が現れたので、大麻のことは言わず「梨央を守るために自分たちが刺した(もしくは優が刺した)」と嘘の説明をした。梨央の父はその話を信じて、死体の隠蔽を手伝った。シナリオ3優が渡辺康介を刺した。致命傷ではなかったが、大麻使用が明るみになるのを怖れた部員の誰か(単独or複数)が渡辺康介を殺した。その後、梨央の父が死体を発見し、携帯の動画を見て優が殺したと思い込み、息子を守るために死体を埋めた。
2021.11.06
全国の萌音ファンが、朝っぱらからキャーキャーいって学校に遅刻しそうな勢いですけど、大丈夫でしょうか?◇ちなみに「カムカムエヴリバディ」は、いまのところ昭和14年(1939)という設定です。ラジオからは、英語講座や、ラジオ体操や、藤山一郎の「丘を越えて」や、エンタツアチャコの「早慶戦」などが聴こえてきます。映画館では、チャップリンの「黄金狂時代」や、桃山剣之介の「棗黍之丞シリーズ」などがかかっているようです。…ただし、これらは、かならずしも当時の最新の流行だったわけではありません。たとえば、チャップリンの「黄金狂時代」は大正14年(1925)の映画だから、当時にあって、すでに14年も前の映画なのです!(笑)そのほか、藤山一郎の「丘を越えて」も昭和6年の曲だから、当時にあって8年も前の曲だし、エンタツアチャコの「早慶戦」も昭和11年の映画で広まったから、当時にあって3年以上前の漫才ネタってことになる。この時代はまだ情報が少ないので、ひとつの流行が今よりもずっと長続きしたのだろうし、しかも、岡山は地方の都市ですから、東京や海外の流行が、すこし遅れて入ってきたのかもしれません。去年の朝ドラ「エール」では、昭和11年の新人歌手オーディションのときに、久志(山崎育三郎)が「丘を越えて」を歌っていました。◇一方、時代劇役者の"桃山剣之介"ってのは、今回のドラマオリジナルの架空の人物です。モデルはたぶん長谷川一夫じゃないかと思います。長谷川一夫は、当時の「時代劇六大スタア」の中でもいちばん若くて、しかも女形出身のヤサオトコでした。昭和10年に「雪之丞変化/第一篇」がヒットすると、同年にその「第二篇」が公開され、翌11年の「解決篇」までシリーズ化されています。さらに昭和14年になると、あらたに「雪之丞変化/闇太郎懺悔」が公開されるので、これが当時の最新流行だったといえるのですが、ただし、この映画にかんしては、主演が長谷川一夫から坂東好太郎に代わっています。◇日中戦争は、すでに昭和12年に始まっています。ラジオでは、5月11日のノモンハン事件を伝えていましたが、岡山市内には、まだそれほど戦争の影が目立っていません。けれども、「純情きらり」や「エール」のことを思い出してみると、愛知や東京のような都市部では、だいぶ事情が違っていた気がします。東京では、すでに昭和12年の「露営の歌」以降、古山裕一/古関裕而(窪田正孝)は戦時歌謡ばかり書くようになっていたし、昭和13年になると、西園寺先生(長谷川初範)も軍歌を作曲させられてたし、池袋のマロニエ荘でも、若い画家たちが「戦争画を描く、描かない」と揉めはじめて、八州治(相島一之)は従軍画家として大陸へ渡っています。同じく昭和13年ごろには、愛知の岡崎で特高警察が活発になっていて、笛子(寺島しのぶ)が学校で「源氏物語」を教えたり、冬吾(西島秀俊)が「資本論」を読んだだけで目をつけられていた。そして昭和14年には、杏子(井川遥)が特高に逮捕され、藤堂先生(森山直太朗)は戦地へ出征してしまいます。◇今回の「カムカムエヴリバディ」にも、「純情きらり」や「エール」と同様に、喫茶店が登場します。すなわち、岡山には喫茶「ディッパーマウス・ブルース」があって、愛知の岡崎には喫茶「マルセイユ」があって、東京には喫茶「バンブー」があるわけですね。いずれも横文字の名前の店で、ジャスのレコードや、クラシックのレコードを流してます。しかし、昭和15年ごろになると、英語も外来語も「敵性語」と見なされるようになるので、たぶんラジオの英語講座も放送されなくなるのだろうし、ジャズやクラシックのレコードも聴けなくなるだろうし、喫茶店の名前も漢字平仮名に変えざるをえなくなる。安子(上白石萌音)の家の近所の洋食屋さんには、いまは「オムレツ」とか「カツレツ」とか横文字のメニューが並んでますが、それさえも書けなくなって、しまいには喫茶店でコーヒーも飲めなくなるでしょう。頭のわるい軍人ばかりが我がもの顔で歩くようになり、本当にいやな世の中になるんですよね。戦争とは、そういうものです。◇愛知の岡崎では、喫茶マルセイユのヒロさん(ブラザートム)が、バッハの「ゴルトベルク変奏曲」などのレコードを流してました。今回の岡山では、喫茶ディッパーマウス・ブルースの柳沢(世良公則)が、ルイ・アームストロングの「明るい表通りで」のレコードをかけています。原題は「On The Sunny Side Of The Street」ですね!サッチモの昭和10年(1935)ごろの録音だと思います。彼は1901年生まれなので、たぶん34才ぐらいの歌声。そういえば、桜子(宮﨑あおい)は、学生時代から「セントルイスブルース/St. Louis Blues」を弾いてましたが、じつは、昭和14年に、八州治を大陸へ送る壮行会のとき、みんなで「On The Sunny Side Of The Street」を演奏しています。そして戦後になって、桜子が小学校の代用教員になったときも、教え子のために「On The Sunny Side Of The Street」を弾いています。◇最後に、話は変わりますけれど、安子の家は和菓子屋の「たちばな」を営んでいて、稔(松村北斗)の家は繊維会社の「雉真キジマ繊維」を経営しています。岡山県は、江戸時代から繊維業が盛んで、実際に戦前から学生服を作っていましたし、今でも「カンコー」「富士ヨット」「トンボ」など、大手学生服メーカーが岡山県に拠点を置いていて、それらが全国シェアの8割を占めているそうです。まあ、それは岡山市ではなく、倉敷市なのですが…。今回の「雉真繊維」のモデルは、戦後に初の国産ジーンズを製造した「マルオ被服」だとの噂ですが、これも、やはり倉敷市の会社です。去年のTBSの「じょんのび」では、川沿いに江戸時代の蔵屋敷が並ぶ倉敷市のモダンな町並みを、由貴ちゃんが巡ってました。すでに萌音の朝ドラ出演が決まってたので、後輩のドラマの舞台を一足先に視察したって感じ?一方、岡山といえば桃太郎の吉備だんごですが、なぜか和菓子屋「たちばな」には吉備だんごが売ってないようです…。猿と犬とキジしか食べないからでしょうか?かりに、棗黍之丞なつめきびのじょうこと桃山剣之介ももやまけんのすけが買いに来ても、「たちばなじゃ売ってねーよ!」ってことになりそうです。そのかわり、特製おはぎ、あんころもち、わらび餅、草餅などが並んでいます。雉真家の人たちも、雉キジと名のつくわりには、おはぎばかり注文しています。ちなみに安子の店では、「おはぎ」のことを「ぼたもち」とは呼ばないそうです。「ぼたもち」の呼び方は《春の牡丹ぼたん》に由来していて、「おはぎ」の呼び方は《秋の萩はぎ》に由来しているそうです。
2021.11.06
TBSの深夜ドラマ。藤田みおの漫画のドラマ化です。一見するとイロモノっぽい作品だけど、おそらく倉光泰子の脚本は、野木亜紀子の「逃げ恥」を意識しているはずです。火曜日設定もふくめて。2016年の「逃げ恥」以降、TBSは、去年の「ナギサさん」や、現在放送中の「ハンオシ」にいたるまで、"同居契約"や"結婚契約"などのテーマをくりかえし変奏してます。そして、今回は倉光泰子が、いわば "セフレ協定" "恋愛協定"の話を書いている。つまり、性愛についての契約です。これって、たんなるイロモノ作品とは見過ごせない面があって、じつは倉光泰子も、けっこう真面目に書いてると思います。◇5年前に「逃げ恥」が放送された当初、あれは、あくまで物語上の《設定》であって、たんなる思考実験のフィクションだと思われていた。けれど、新垣結衣と星野源は、フィクションを超えて実際に結婚してしまったし、現在のように、若者が恋愛も結婚もしない時代において、そういった協定や契約が、なにげに現実味を帯びているようにも思う。つまり、恋愛をするのにも、結婚をするのにも、なんらかの《設定》が必要とされてる感はあるのです。高田夏帆のカラダはまるでお人形さんみたい。そんな、恋愛も結婚もしない時代にあって、従来的な結婚制度のほうも、だいぶ限界に来ていますよね。もともと、異性との恋愛関係を基礎にしながら、同時に、生活や経済も成り立たせて、なおかつ出産と子育ても成功させるなんてのは、ほぼ奇跡に近いようなことなんだけど、いまや、そんなことは、途方もない無理難題だと感じてる人々が圧倒的多数。◇他方では、夫婦別姓で生活したい人もいるし、同性どうしで結婚したい人たちもいる。2016年には、テレ朝で「おっさんずラブ」が放送され、2019年には「きのう何食べた」や「腐女ゲイ」が放送され、現在も、テレ朝深夜で「消えた初恋」が放送されてますが、ここ数年で、とくにBLに対するイメージは大きく変わって、もはや日常の風景のなかに溶け込んできた感がある。しかし、そういう社会の要請や変化に対して、従来の結婚制度はまったく対応しきれておらず、すっかり機能不全に陥っているわけですね。はっきりいえば、制度的な耐用年数を過ぎているのです。◇その一方、わたしは、NHK大河「青天を衝け」で描かれている、渋沢栄一の"妻妾同居"のことが気になっています。脚本家の大森美香が、あれをどう捉えているのか分からないけれど、戦後の日本の結婚制度を相対化していくために、あれって、けっこう面白い議論の材料になると思います。それについては、後日あらためて書きます。
2021.11.04
紅白帽脱いで焼きたて林檎パイ 来ぬ君を金木犀の香に赦す 待ち合わせカフェが満席初冬かな ハチ公を挟み会えずの冬隣 夕月夜名の無き猫と君を待つ 背にホルンケース秋寂ぶのハチ公前 伝言板くせ字も愛し秋うららプレバト俳句。お題は「待ち合わせ」。今回も「異議あり!」ってほどのことじゃないけど、個人的な感想です。◇小倉優子。紅白帽脱いで 焼きたて林檎パイこれが今週の1位。子供が帽子を脱ぐとすぐに、焼き立てのパイが登場するのが微笑ましくて可愛い。小倉優子は、「チョークののび太」のときもフジモンっぽかったけど、今回もやっぱりフジモンっぽい作風だと感じます。◇そのフジモン。背にホルンケース 秋寂ぶのハチ公前今回はこれが一番よかった。破調といえば破調だけど、安定したリズムだし、秋寂ぶだけど、芸術の秋らしい上質感もある。句材もいいし、季語の使い方も手練れてます。小倉優子が "フジモン風" なのに対して、フジモン自身は、ちょっと作風が変わってきていて、かなり渋味を感じさせるようになりました。金秋戦の句もよかったし、村上より早く永世名人になりそうな予感もある。◇神谷明采。来ぬ君を 金木犀の香に赦す兼題から、とりあえず竹久夢二を引っぱってきて、金木犀の甘い香りをかぶせて大正歌謡風に仕立てた感じ?発想の手順は、いかにも東大生っぽいけど、最後の「香に赦す」のところに独創性が出てて面白いのですね。◇薬丸裕英。待ち合わせ カフェが満席 初冬かな待ち合わせのカフェは満席 冬はじめ(添削後)これはあきらかに添削のほうが上ですね。上五を「約束の」とかにすれば、字余りにしなくても済むとは思いますが、まあ、口語的な上六のほうが味わいがあるかもしれません。かりに原句の「かな」を活かすならば、切れを入れずに、満席のカフェに待ち侘ぶ初冬かなってな感じでしょうか。◇梅沢富美男。伝言板 くせ字も愛し 秋うらら秋麗や くせ字愛しき伝言板(添削後)これもあきらかに添削のほうが上。三段切れにしろ、助詞「も」の使い方にしろ、季語の効果的な使い方にしろ、永世名人にしては迂闊なミスというべきですが、まあ、他人のミスにはすぐに気がついても、自分のミスにはなかなか気がつきにくいのでしょうね。◇キスマイ宮田。ハチ公を挟み 会えずの冬隣ハチ公を挟み 冬隣の苦笑(添削後a)ハチ公を挟み 冬隣の不覚(添削後b)本人の説明によれば、待ち合わせた相手がハチ公像の反対側にいたのに、不覚にも気づかなかった、ってことらしい。しかし、説明を聞かずに読むと、反対側にいた赤の他人も、自分と同じように約束をすっぽかされている、…という状況に見えなくはない。とくに(添削後a)などは、そういうふうに読めます。かたや(添削後b)は、読んだだけでは状況を掴むのが困難で、「冬隣の不覚」という字面を見た瞬間は、二人ともうっかり薄着で来てしまった!…みたいに思える。ためしに、君何処いずこ ハチ公前の冬隣人混みのハチ公像や 冬隣としてみました。◇千原ジュニア。夕月夜 名の無き猫と君を待つ名前なき猫と君待つ夕月夜(添削後a)まだ名前なき猫と待つ夕月夜(添削後b)本人の説明によれば、屋外の待ち合わせで野良猫と一緒にいる状況らしい。しかし(添削後b)を読むと、野良猫というよりも、まだ名前をつけてない飼い猫と一緒に、家の中で誰かの帰りを待ってるように読めるし、じつは、原句であれ(添削後a)であれ、そういう誤読が可能です。おそらく助詞の「も」を避けて、あえて「名もなき」とせず「名のなき」としたのでしょうが、それだと「名前をつけてない飼い猫」と誤読されてしまう。やはり野良猫だと明示するためには、「名もなき猫」とすべきなのだろうし、(「名前もないし家もない」という意味です)さもなくば、はっきり「野良猫」と書くべきだと思います。ためしに、待ちぼうけ 名もなき猫と夕月夜野良猫や 君を待つ間の夕月夜としてみました。
2021.11.01
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