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息子はコンピュータに夢中で、娘はバスケットボールで忙しいけれども、どちらの子供も大きな問題は何もない。息子は将来もそれなりにやっていけそうだし、娘だって、体が小さい割には、その活発さは見事なものだ。そのうえ、彼らはとても素直でそろそろごはんよと母親が言うとプログラムをいれかえられたロボットのように、子供たちはテーブルを片付け始める。もう一度、そろそろよと母親が言うと魔法をかけられた人形のように、子供たちは部屋に引きこもり、そのまま寝てしまう。父親の帰ってくる頃である。#122
Dec 27, 2009
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あそこは海中なのだな。となりのビルをひょいと覗いたとき、建物と建物をつなぐ渡り廊下、それは3階の高さで二つの建物をつないでいるのだが、その中が水で満たされている。その渡り廊下は両サイドがガラス窓になっているから、中が良く見える。ガラス窓に少し隙間があるだろうか、わずかながら水が外に滴り落ちている。水で満たされた渡り廊下。しばらくその渡り廊下を見続けていると、魚が泳いでいく。小さな魚が泳いでいく、大きな魚が泳いでいく。あれは、鮫であろう、あれはエイであろう。水圧で窓ガラスが割れることはないのだろうか。そんな心配が心をよぎる頃、人がその渡り廊下を泳いでいく。作業服を着たまま、男の人が口から泡を出しながら、ゆっくりと泳いでいく。次の日もその渡り廊下をみた。子供が石を投げたのだろうか、窓ガラスが1枚割れている。水はすべて外に流れ出してしまったようだ。もう、あの渡り廊下は水で満たされることはないのだろう。そんな予感がして、ぼくは、がっかりした。こうしてみると、水で満たされた部屋はもうぼくの部屋だけなのかもしれない。#120
Dec 20, 2009
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人々が夢や希望を持つと、次に生まれるのは不幸や失望だ。 大都市に夢や希望を持ってやってきた人々の多くが、少し都市生活に慣れてくるとそんなものすっかり捨ててしまう。現実的に生きるということは、夢や希望を持たないということだ。夢を追うことは自分に傷を作ることであり、夢から醒めない限り傷口を広げるばかりだ。 人々が簡単に夢や希望を捨てるからいけないのかもしれない。人々の捨てた夢や希望、時には大志が空中を漂っているのである。明るい未来、輝ける明日、そういった幻想をほんの短い間信じて喜んだくせに、人々はあっという間にそれらを放棄してしまう。 沢山の人々が無責任に放り出した夢や希望が空中で凝集しはじめることがある。中心部では密度が高く、その層が厚いのであるが、外側に行くにつれてその密度が低下し、その層の厚さも薄くなる。つまり、捨てられた夢や希望の集積体が、凸レンズのような形をしている。空気中の酸素や窒素などの構成分子にすらその影響を及ぼしはじめる。空気の密度が局部的に変化する。空気の密度分布が、光学的に凸レンズの機能を果たす。この凸レンズがときに100メートル以上に及ぶときがある。大空にレンズが漂っているわけである。 時に上空から射してくる太陽光がそのレンズの力で収束され、地上を焼く。枯れ草、紙やプラスチックのごみ、木製の住宅が燃え上がる。火の気のまったくない場所で、昼間に、時々原因不明の火災が発生することがある。その場合、この現象が関与していることが多い。 この夢や希望の集積体であるレンズは不安定である。このレンズが空中で形成されても、すぐに消滅することもあれば、何十分にも渡ってそのレンズ機能が維持されている場合がある。 ある地域の火災からそのレンズの存在した時間が測定された。真夏に市から委託を受けた業者が川辺の除草作業を行った。数日間、刈られた草は枯れ草となって堆積されていたが、そこからいきなり火が噴き出し、火災が発生した。その後、その川に流れる水の表面が急激に加熱されて、沸騰し、蒸気が立ち上ったのである。さらに、その対岸でも可燃物に火がついたのである。夢や希望の集積体であるレンズが川の上空を横切ったのである。その間、ゆうに20分は越えていたと記録されている。 いつ、どこで大空にこのレンズが形成されるのか、現在の科学技術をもってしてもまったく予想がつかない。 空気中の分子が、夢や希望にとりつかれていた。だから、ある新興宗教の教祖が「ああ、これこそわたしの求めていたものだ。」と叫んだのはあながち誤りではない。 音速を超えるジェット戦闘機が状況を把握するために、夢や希望のレンズがあると思われるあたりを何機も飛行したが、その飛行士はどこがその地点なのか、レーダーなどの計測機器や肉眼では何も見つけられなかった。ただ、その任務を終えて何人の飛行士が、「操縦していて突然とても幸福な気持ちになった場所があった。」「気分が高揚して、力がわいてきた時があった。」と語った。しかし、さらに「そのゾーンを抜けると今度はとても悲観的な気持ちに襲われて、ひどく動揺した。」と付け加えた。 そのような意見を聞いて対策をとれば良かったのだろうが、飛行士のそのような思いは単なる気の迷いと見なされて、偵察の任務は継続された。そして、ついに1機が帰還しなかった。最後の通信で飛行士は「わたしは夢も希望も失くした。」と囁くように基地の管制官に伝え、いきなり機体を急速に加速、上昇させた後、反転し、それからわずか10秒後に大地に激突したのである。 なお、大空に漂う夢や希望の集積体であるレンズに関する記録は極秘事項として公開されていない。根本的な対策が立てられるまで、情報は秘匿される可能性が高い。人々が夢や希望を捨てなくなる時は来るのだろうか。
Dec 13, 2009
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昔、アメリカシロヒトリという蛾が大量に発生し、市役所の職員が木々の葉に住みついたその幼虫を火であぶって退治していた。火で焼かれて地面に落ちて、体をくねらせて苦しんでいる幼虫を足で踏み潰すのが少女は好きだった。そんな頃、祖母が「あなたはとても可愛らしい。」と何度も彼女にささやいた。この可愛らしい少女が女性に成長した今、子供の頃のように平然と他の生命を潰してかまわないような場所はないかと、優しい顔をして密かに探している。誰にも言わないが、残酷さが女を魅力的にすると彼女は固く信じている。#119
Dec 6, 2009
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