FLESH&BLOOD 二次創作小説:Rewrite The Stars 6
火宵の月 BLOOD+パラレル二次創作小説:炎の月の子守唄 1
火宵の月 芸能界転生パラレル二次創作小説:愛の華、咲く頃 2
火宵の月 ハーレクインパラレル二次創作小説:運命の花嫁 0
火宵の月 帝国オメガバースパラレル二次創作小説:炎の后 0
薄桜鬼 昼ドラオメガバースパラレル二次創作小説:羅刹の檻 10
黒執事 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧の騎士 2
黒執事 転生パラレル二次創作小説:あなたに出会わなければ 5
薄桜鬼ハリポタパラレル二次創作小説:その愛は、魔法にも似て 5
薄桜鬼 現代ハーレクインパラレル二次創作小説:甘い恋の魔法 7
薄桜鬼異民族ファンタジー風パラレル二次創作小説:贄の花嫁 12
火宵の月 現代転生パラレル二次創作小説:幸せの魔法をあなたに 3
火宵の月 転生オメガバースパラレル 二次創作小説:その花の名は 10
黒執事 異民族ファンタジーパラレル二次創作小説:海の花嫁 1
PEACEMAKER鐵 韓流時代劇風パラレル二次創作小説:蒼い華 14
YOI火宵の月パロ二次創作小説:蒼き月は真紅の太陽の愛を乞う 2
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の巫女 0
火宵の月 韓流時代劇ファンタジーパラレル 二次創作小説:華夜 18
火宵の月 昼ドラ大奥風パラレル二次創作小説:茨の海に咲く華 2
火宵の月 転生航空風パラレル二次創作小説:青い龍の背に乗って 2
火宵の月×呪術廻戦 クロスオーバーパラレル二次創作小説:踊 1
火宵の月×薔薇王の葬列 クロスオーバー二次創作小説:薔薇と月 0
金カム×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:優しい炎 0
火宵の月×魔道祖師 クロスオーバー二次創作小説:椿と白木蓮 1
薔薇王韓流時代劇パラレル 二次創作小説:白い華、紅い月 10
火宵の月 現代転生パラレル二次創作小説:それを愛と呼ぶなら 1
鬼滅の刃×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:麗しき華 1
薄桜鬼腐向け西洋風ファンタジーパラレル二次創作小説:瓦礫の聖母 13
薄桜鬼 ハーレクイン風昼ドラパラレル 二次小説:紫の瞳の人魚姫 20
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:黄金の楽園 0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:鳳凰の系譜 1
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:鳥籠の花嫁 0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:蒼き竜の花嫁 0
コナン×薄桜鬼クロスオーバー二次創作小説:土方さんと安室さん 6
薄桜鬼×火宵の月 平安パラレルクロスオーバー二次創作小説:火喰鳥 7
ツイステ×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:闇の鏡と陰陽師 4
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧き竜と炎の姫君 1
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:月の国、炎の国 1
陰陽師×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:君は僕に似ている 3
黒執事×ツイステ 現代パラレルクロスオーバー二次創作小説:戀セヨ人魚 2
黒執事×薔薇王中世パラレルクロスオーバー二次創作小説:薔薇と駒鳥 27
火宵の月 転生昼ドラパラレル二次創作小説:それは、ワルツのように 1
薄桜鬼×刀剣乱舞 腐向けクロスオーバー二次創作小説:輪廻の砂時計 9
F&B×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:海賊と陰陽師 1
火宵の月×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想いを繋ぐ紅玉 54
バチ官腐向け時代物パラレル二次創作小説:運命の花嫁~Famme Fatale~ 6
FLESH&BLOOD×黒執事 転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:碧の器 1
火宵の月 昼ドラハーレクイン風ファンタジーパラレル二次創作小説:夢の華 0
火宵の月 現代ファンタジーパラレル二次創作小説:朧月の祈り~progress~ 1
火宵の月 現代転生パラレル二次創作小説:ガラスの靴なんて、いらない 2
黒執事×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:悪魔と陰陽師 1
火宵の月 吸血鬼オメガバースパラレル二次創作小説:炎の中に咲く華 1
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:黎明を告げる巫女 0
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火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:闇の巫女炎の神子 0
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PEACEMAKER鐵 ファンタジーパラレル二次創作小説:勿忘草が咲く丘で 9
FLESH&BLOOD ハーレクイン風パラレル二次創作小説:翠の瞳に恋して 20
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火宵の月 異世界ファンタジーハーレクイン風昼ドラパラレル二次創作小説:砂塵の彼方 0
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1863年2月、京都。浦賀にペリーが黒船で来航し、長年鎖国していた日本は、渋々アメリカと通商和平条約を結び、開国した。 それから日本国内は徳川幕府を守ろうという佐幕派と、幕府を倒し天皇中心の新しい時代を作ろうという尊王攘夷派、そして外国人を打ち払おうという過激派が京に集結し、日々血みどろの戦いを繰り広げていた。そんな中、江戸から浪士達の集団がやってきた。彼らは壬生浪士組―のちにその名を全国に轟かす、新撰組の前身であった。その中に、美津と四郎、そしてエーリッヒの姿があった。「ここが京なのね。」美津はそう言って、遥か彼方に見える京の街を見ながら言った。「ええ、姫様。まさか京に来るなんて、思いもしませんでした。」「そうね・・」あの日―遥か数百年前、故郷を遠く離れた島原を出て、美津達は流浪の旅を繰り返してきた。長い間、自分達は人間の強欲さと強いものに虐げられる弱者を見てきた。それは日本でも異国でも変わらない。この数百年間、人間は愚かな歴史を繰り返してばかりいる。権勢欲や金銭欲から起きる醜い争いが今この瞬間にもどこかで起きている。状況は美津が故郷を出た時から、さほど変わっていないようにも思えた。「姫様、いかがなさいましたか?」肩を叩かれ我に返ると、そこには四郎が立っていた。「いえ、別に・・ちょっと考え事してただけ。」「そうですか。今まで長い旅をしてきましたね、姫様。唐土や西洋の国々など、色々なところを旅しましたが、京に来るのは初めてです。」四郎はそう言って美津の隣に立ち、京の街を眺めた。「そうね・・今まで京には行ったことがなかったわ。もしかしたら、ここには来たくはなかったのかもしれないわ・・だってここには・・」「そろそろ時間ですよ、2人とも。行きましょう。」エーリッヒは2人に声をかけた。「そうね。行きましょうか、四郎。」「ええ。」美津と四郎はゆっくりとその場から去り、エーリッヒの所へと向かった。「さっきは何をおっしゃろうとしていたのですか、姫様?」「それは、秘密よ。」美津達はやがて京の街へと入った。初めて見る京の街は、見るものすべてが鮮やかで美しく見えた。「わたし、ここでうまくやっていけるかしら?」美津は不安そうに街を見ながら歩いた。「きっとうまくやっていけますよ、姫様。」美津の不安を和らげるために、四郎はそう言って彼女の手を優しく握った。「唐土でも西洋の国々でもうまくやっていけたのですから、ここでもうまくやっていけますよ。わたしとエーリッヒがいるから、大丈夫ですよ。」「そうね・・そうよね。」美津はそう言って四郎とエーリッヒに笑みを浮かべた。3人はある茶店の前を通りかかった。そこには編み笠を目深に被った銀髪の男と、武家風の若い娘がいた。3人は彼らに気づかず、茶店の前を通り過ぎた。「もう彼らは我らのことを忘れてしまったようだな。」編み笠の男はそう言って美津の背中を見つめた。「そのようね。でも、私達はずっとあの人達・・特に鬼姫様を忘れなかったわ。この数百年間、ずっとねv」若い娘は次第に遠くなっていく美津の背中を見つめながら、瞳を黄金色に光らせた。「会うのが楽しみだわ、鬼姫様・・」
2012年02月28日
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「あの子は、大丈夫でしょうか?」エーリッヒはそう言って、ますの背中を見た。「あの子は大丈夫。きっとりつさんや藤吾さんたちが見守ってくれるわ・・」「この村もさびしくなってしまいましたね・・」四郎はそう言って廃墟と化した村を眺めた。「彼らはもう戻ってこないけど・・わたしたちにはどうすることもできなかった・・」美津はうつむいた。「誰かが彼らを止めなければならなかったのに・・わたしは何もできなかった・・」涙を流しながら、美津は胸の前で十字を組んだ。「姫様・・」「わたしにできることは、彼らの魂が安らかになれるように祈ることだけ・・」四郎とエーリッヒも、村人達の鎮魂を祈った。「行きましょう・・」「はい。」3人は静かに歩き出した。やがて雨が降ってきた。それは島原の乱で亡くなった村人達に対しての、鎮魂の雨のように思えた。―第2部・完―
2012年02月28日
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1638年2月28日、島原。3万7千人の領民達と、天草四郎という尊い命を犠牲にした「島原の乱」は、こうして終結を迎えた。ますは突然の姉の死に涙しながら、生まれ故郷である村へと戻っていった。村にはいつもと同じ穏やかな空気が流れていた。(姉さん・・)ますは目を閉じて、最期に神への感謝を捧げてなくなったりつのことを思い出した。最期まで狂ってしまった姉だったが、いつも自分に優しくしてくれた。その姉も、もういない。これから自分は一人で生きていかなければならないのだ。「ますちゃん・・?」背後から声がして振り向くと、そこには旅装をしている美津と四郎、エーリッヒの姿があった。「天女様・・」「どうしたの?」美津はそう言ってますを見た。「姉が・・なくなりました。敵の鉄砲に撃たれて・・他のみんなも・・生き残ったのは、私だけです・・」ますの言葉に美津は顔を曇らせた。「私はこれから、がんばって一人で生きていこうと思います。そして、姉たちのことを忘れないように、語り継いでいきます。この村で何があったのかを・・」「そう・・」美津は、涙を拭いて胸を張って歩くますの背中が見えなくなるまで、いつまでも見ていた。
2012年02月28日
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突然の砲撃によって、城の中にいた人々は皆逃げ惑ったが、そのほとんどが砲撃の犠牲となった。りつが目の前に広がる光景が信じられなかった。(主よ・・どうして味方してくれないのです?あなたの信徒である私たちをどうして助けてくれないのです?)りつは呆然として、砲撃の中をふらふらと彷徨い歩いた。神は私たちを裏切った。私たちを裏切り、神は悪魔と手を結んだ。こんなことがあっていいのだろうか・・絶望の淵にいたりつの胸に、幕府軍が放った鉄砲が打ち込まれた。りつはゆっくりと地面に倒れていった。「姉さん、しっかりして、姉さん!」妹の悲痛な叫び声が聞こえる。だが妹の顔が見えない。胸から血が流れている。ああ、私はもうじき死ぬのだ。神よ、感謝します。私を天国(パライソ)へと連れて行ってくださることを。感謝します、神よーりつはゆっくりと目を閉じ、その魂を神の手に委ねた。
2012年02月27日
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1637年、島原。天草四郎は長年弾圧を続けていた島原藩と唐津藩に対して反乱を起こした。彼に協力していままで迫害を受けてきたキリシタン達が一斉蜂起し、富岡城や本渡城などの天草支配の拠点を支配し、一揆軍は勝利を得た。さらに天草と島原の領民達3万7千人が島原において合流し、原城に篭城した。りつとますも、その領民の中に含まれていた。「姉さん、本当に私達は勝つの?」ますは不安そうな表情を浮かべながら言った。「大丈夫よ、私達には神がついていおられるのよ。どんなことがあっても私達が勝つに決まっているわ。」りつはそう言って妹を励ました。だが戦況は一揆軍にとって次第に劣勢に傾いていった。老若男女を含む領民達は日々恐怖に怯えながら城で幾夜を過ごした。(神様、私たちを勝たせてください・・私たちを迫害した者に鉄槌を下してください・・)りつは毎晩、そう祈り続けた。だが彼女の祈りは神には通じなかった。1638年2月28日。「オランダ船が見えるぞ~」誰かの声でりつは目を覚ました。ふと外を見ると、オランダ船が見えた。神は私たちに味方してくれたのだ!りつはそう思い、思わず顔をほころばせた。だがオランダ船は原城に向けて砲撃を開始した。
2012年02月27日
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「ただいま。」ますが家に帰ると、りつがものすごい形相をして彼女を睨んだ。「あんた、いままでどこ行ってたの?」「私は、天女様のところに行って、野菜を少し分けてもらっただけよ・・」「あの女のところには行くなって言ったでしょう!」りつはそう言ってますの頬を叩いた。「あの女はね、化け物なのよ!化け物と仲良くしていたら、神様が私たちを捨てるわ!そんなこともお前はわからないの!」りつの目は狂気に血走っていた。「姉さん、おかしいわ・・前の姉さん、そんなんじゃなかったのに・・」「私はちっともおかしくなんてないわ!私は神の力を得たのよ!」りつは狂気じみた笑みを浮かべながら言った。「私は神になるの、何者にも負けない神に!」「姉さん・・」姉さんは確実に狂ってる。ますは目の前で狂った笑みを浮かべている姉を見て、恐怖を感じた。(主よ、姉をお救いください・・姉の魂を、悪魔からお救いください・・)
2012年02月27日
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天草四郎の言葉を受け感銘を受けた人々は、次々と一揆を起こし、自分達に弾圧を加えてきた役人達を殺した。その結果、この村から迫害された他の村のキリシタン達が転がり込んできた。天草四郎は「神の子」として慕われ、皆は彼の言葉を信じて自分達を弾圧する者達と戦った。美津はそんな彼らを見ながら、複雑な想いを抱えていた。彼らは自分達のことを「神の信徒」と呼ぶが、神は争いなど望んではいない。天草四郎のことを「神の子」と呼んでいるが、人は神ではない。(彼らはどうしてわからないのかしら?神は争いなど望んではいないのに・・)美津が物思いに耽りながら畑仕事をしていると、そこにますがやってきた。「美津さん、お話があるんです。」「話?」「ええ・・」ますは何か思いつめたような顔をしていた。「姉さんが、最近変なんです。」「りつちゃんが?」「ええ・・数週間前、姉さんはおかしなことを口走るようになって・・私は最強の力を手に入れたとか、神が力を授けてくださったとか・・なんというか、そう熱っぽく語る姉さんの目はおかしいんです・・なんだか私、姉さんが怖くて・・」ますの話を、美津は黙って聞いていた。りつがおかしくなったのは、自分のせいだろうか?あの夜、りつを傷つけたから。村に広がる不穏な空気と、りつの異常を感じて、美津は思わずため息をついた。
2012年02月27日
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天草四郎は、ますます過酷になる現実を嘆いていた。異国の神を信じる罪なき人々が、日々虐殺される。誰かが行動を起こさなければ、この現実は変わらない。そう決意した天草四郎は、村の広場で村人達を集めた。「いわれなき迫害を受け、虐殺される神の信徒達よ!わたしは決意した!ここに何者にも迫害されぬ、神の国を作ると!」天草四郎の言葉に、村人達は感動した。「神は私を守ってくださる。信仰を捨ててはならぬ!」村人達は四郎の言葉に涙し、やがて四郎を「神の子」と呼ぶようになった。
2012年02月27日
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「姉さん、どこ行ってたの?遅かったじゃない。」りつが夜遅くに帰ってきて、ますはそう言って姉を見た。「ちょっと散歩していただけ・・心配はいらないわ。」そういったりつの目は、なんだかおかしかった。「姉さん、どうしたの?」「なんでもないわ。それよりね、私強くなったような気がするの。」りつはそう言ってますに微笑んだ。「強くなった?」「ええ・・私あの方から力を授かったのよ・・この力さえあればあの人を倒せるわ・・」「何を言ってるの?今日の姉さんなんだかおかしいわ。」ますはそう言って姉の元から少しあとずさった。「私はどこもおかしくなんてないわ・・」りつはやがて布団の中へと入っていった。(姉さん変だわ・・いつもの姉さんじゃない・・)すっかり変わってしまった姉を見て、ますの心は乱れた。
2012年02月27日
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「ああ~ら、いいの、あんなことしちゃって?」そう言って凛が木陰から顔を出した。「わしの力を少し与えただけじゃ、あの娘には害はない・・まぁ、あの娘の命は少しばかり縮まるがな・・」りつの背中を見ながら、鬼神はフッと笑った。「あの子を使って何かしようというのね?それなら私も協力しちゃおうっとv」凛は鬼神に微笑みながら言った。「それに・・ここも戦のにおいがするしねぇ・・」
2012年02月27日
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「四郎様なんて、大嫌いっ!」四郎に告白したが振られたりつは、森の近くにある祠の前で泣いていた。「あの人は化け物なのに・・どうして四郎様はあの人のことをお慕いするの?どうして・・」「何を泣いておる、娘?」背後から声がして振り向くと、そこにはいつの日か森で会った女がいた。「あなたは・・あの夜森で会った・・」「涙なぞ流して、どうしたのじゃ。わしに言うてみよ。」鬼神はそう言ってりつの髪を撫でた。「四郎様はどうしてあんな人がいいのかしら・・あの人は化け物なのに・・」「四郎は美津一筋じゃ。そなたの想いは四郎には伝わらぬ。どうしても四郎を振り向かせたいか?」「ええ。」鬼神の目がキラリと光った。「わしと契約せよ。さすれば四郎はお前のことを愛するに違いない。」「ええ、契約するわ。」りつはそう言って鬼神を見た。鬼神は懐剣を出して掌を傷つけ、その血をりつに与えた。「これでお前は、最強の力を得た。」「ありがとうございます。」りつは鬼神に頭を下げ、祠を去った。
2012年02月27日
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1634年、夏。キリシタン狩りは平和な村を襲い、村人の大半は磔にされるか、雲仙で命を落とすかのどちらかだった。子どもたちの遊び場としていつもにぎやかであった村の広場は、処刑場へと姿を変え、誰も近寄らなくなった。そんなある日のこと、四郎はりつに呼び出され、村のはずれにある池へと向かった。「私にお話したいこととは、何でしょうか?」四郎がそう言ってりつを見ると、りつは頬を赤く染めて言った。「あの・・わたし、いままで四郎様のことをお慕いしておりました。」16になったりつはあれから美しく成長していた。「私を?」「ええ・・ですから、私とお付き合いを・・」「それは、できません。」「何故ですか?理由を教えてくださいませ。」「私には、姫様が・・」「あなたは昔から、変わっていませんね・・いつもあの人のことばかり・・」りつはそう言って涙を浮かべて、池を後にした。(どうして四郎様はいつもあの人ばかり!あの人は化け物なのに!)りつの中で、美津に対する憎しみが徐々に膨れ上がってきた。
2012年02月27日
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「キリシタン狩りは、まだ続いているようね?」凛はそう言って、鬼神を見た。「ああ、愚かな人間どもは、己と違うものを徹底的にいたぶることで快感を得るらしい・・」鬼神は鼻を鳴らしながら言った。「あいつらはもともと下等動物よ。人を利用するか、利用されるか・・人をいたぶるか、いたぶらるか・・どちら側の立場に立っても、殺し合いが好きだしねえ。」凛は酷薄な笑みを浮かべながら言った。「でも人っていうのは、そこが面白いところなのよねぇ?」「まあな・・」
2012年02月27日
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藤吾の死から一週間が経ち、この村で大規模なキリシタン狩りが行われた。連日村人達が役人に連行され、二度とその顔を見ることはなかった。連行された村人達の大半は、雲仙の噴火口へと消えた。この間まで平和だった村は、キリシタン狩りの犠牲となり、次第に村人達の顔から笑顔が消えていった。美津は何とかしてキリシタン狩りから村人達を守りたいと思った。だがそうしようとするたびに、鬼神の言葉が頭をよぎった。“お前が人々を救おうとしても、尊敬されるどころか化け物呼ばわりされるだけじゃ”
2012年02月27日
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「鬼神が昨夜ここに?」翌朝、四郎はそう言って美津を見た。「そうなの・・彼こう言ったわ。お前がどんなに人々を救おうと、お前は尊敬されるどころか化け物扱いされるって・・」美津はそう言ってうつむいた。「これからこの村には何かが起こりそうな予感がするの・・恐ろしい、何かが・・」「買い物に、行ってきます。」四郎は畑を出て、買い物に出かけた。広場では人だかりができていた。何だとおもってみていると、役人が1人の男を指して怒鳴っていた。「この男は異教の神を信じ、お上に弓引く者!よってこの者を死罪とする!」四郎は男の顔を見てハッとした。男は自分達に何かと親切にしてくれる藤吾だった。「待たれよ、その男は何も・・」だが役人は四郎の言葉に耳も貸さず、藤吾の首をはねた。四郎の脳裏に、藤吾の笑顔が浮かんだ。「藤吾さんが、殺された・・」「はい、この目でしっかりと見ました・・藤吾殿が殺されるのを・・」「なんてこと・・」美津はそう言ってその場に蹲った。
2012年02月27日
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その夜、美津はなかなか眠れなかった。この平和な村で、雲仙のような残虐なキリシタン狩りが行われるのだろうか?村の人々を助けるために、自分は何ができるのだろうか?美津がそう考え込んでいると、誰かが美津の髪を梳いた。「四郎?」美津がそう言って四郎を見ると、彼は隣で寝息を立てている。「また来たぞ。」鬼神は美津に笑いかけながら言った。「・・何のよう?」美津はそう言って鬼神を睨んだ。「すっかり嫌われておるな、わしは。」鬼神はため息をついた。「そなたにひとつ、言うておきたいことがある。」「言っておきたいこと?」「そうじゃ。お前がどんなに人々を救おうと、お前は尊敬されるどころか化け物呼ばわりされる。」鬼神はそう言って闇の中へと消えた。美津は一晩中、鬼神の言葉が頭から離れないでいた。
2012年02月27日
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この頃、島原ではキリシタン狩りが頻繁に行われるようになった。キリシタン達は奉行所に連れて行かれ、壮絶な拷問を受けた末に生きたまま蓑を着せられ火をつけられるか、磔にされるかのどちらかだった。また、雲仙において、キリシタンに熱湯を浴びせたり、煮えだった硫黄を飲ませるなど、キリシタンの迫害や虐殺が村で噂になった。「聞いたかい?今日も雲仙のほうで・・」「ああ、大勢のキリシタンが殺されてるらしいよ・・」「お役人様は毎日雲仙の噴火口にキリシタンを落としているんだってさ・・」「ああ、恐ろしい・・」美津はそんな噂を村で聞くたびに、母が遺してくれたロザリオをギュッと握り締めた。(これから何か嫌なことが起きる・・)いままでキリシタンに寛容であった世の中が、徐々に変わっていく。この村でも、キリシタン狩りは起こるかもしれない。嫌な予感がする。「キリシタン狩り?」四郎はそう言って美津を見た。「そうなの。最近雲仙の方で・・なんだか嫌な予感がするのよ・・」「・・何かが、ここで起こりそうな気がしますね。」平和な村に、徐々に暗雲が立ち込めようとしていた。
2012年02月27日
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「姉ちゃん、天女様はあたしを家まで送ってくれたんだよ!それなのに化け物なんてひどいよ!」ますはそう言ってりつを睨んだ。「あんたは知らないからそういうことが言えるのよ!」りつは美津に付けられた胸の傷を妹に見せた。「これは天女様に付けられた傷よ!あんたが慕っている天女様にね!」「でも昔のことじゃない!姉ちゃんだって天女様のこと、本当は好きなんでしょう?」「嫌いよ、あんな人大嫌い!」りつはそう言って家を飛び出した。「ますのバカ、なんでわからないのよ・・天女様は化け物なのに・・」村のはずれにある池でりつはそうつぶやき、美しい水面を見た。本当は美津のことは好きだ。だがあの日、美津の怒りにゆがんだ顔を見て、自分の胸に傷をつけた美津のことを一生許さないと決めた。なのに、昔のことは水に流して美津とまたいい関係に戻りたいと思う自分がいる。彼女は、化け物なのに。(どうすればいいの・・)りつはため息をついた。
2012年02月27日
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翌朝、美津はますを家まで送った。「もうお姉さんやお父さんに黙って家を抜け出しちゃだめよ。心配するでしょ?」「わかった。」ますはそう言ってうつむいた。「今度来るときは、ちゃんとお姉さんやお父さんに行き先を言ってから来てね。」ますの家に着くと、藤吾とりつがますと美津に駆け寄ってきた。「ます、どこに行ってたの、心配したのよ!」「ごめんなさい・・」ますはそう言ってうつむいた。「美津さん、ありがとうございます。ますが迷惑かけました。」藤吾はそう言って美津に頭を下げた。「いいんですよ、お互い様ですし。」そう言って美津は藤吾に微笑んだ。「ますを食おうとしたんでしょ?」りつは美津を睨みながら言った。「え・・?」「妹を取って食おうとしたんでしょ、この化け物!」りつはますの手を引っ張って、家の中へと入っていった。
2012年02月27日
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ますは森を抜け、天女様が住む家の前に立った。「天女様。」戸の向こうから呼びかけても、何も反応がない。「天女様。」もう一度呼びかけてみたが、やはり誰もいないようで、返事はない。ますがあきらめて帰ろうとしたとき、戸が開き、天女様が顔を出した。「あら、どうしたの、こんな遅くに?」そう言って天女様はますを見た。白い肌は月光に照らされ、少し青白く見える。「天女様、具合が悪いの?」ますはそう言って天女様を見た。「ええ、少し気分が悪くて寝ていただけよ。さあ、上がりなさい。」そう言って天女様はますを家にあげた。「ねえ、どうしてこんな時間に来たの?」「天女様に会いたかったから。」ますはそう言って天女様に屈託のない笑みを浮かべた。
2012年02月27日
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「姉ちゃん、今度天女様のところに行ってもいい?」畑仕事を終えて家に帰ると、妹のますはそう言って自分を見た。「だめよ。」「どうして?」ますはそう言って姉を見た。「だめといったらだめよ。」りつは気まずくなって妹から目をそらした。「変な姉ちゃん・・」ますはそう言って布団の中に入った。その夜、姉と父が寝ていることを確認してから、ますはこっそりと家を抜け出した。天女様に会うために。ますは天女様が住んでいるという森の向こうにある家を目指した。姉ちゃんは天女様のこと嫌っているようだけれど、ますは天女様のことが好きだ。優しいし、それに挨拶をすれば微笑んでくれる。あんなに優しくて綺麗な人を、どうして姉ちゃんは嫌うのだろうか?わからない。
2012年02月27日
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1628年、夏。美津は今日も買い物に出ていた。広場へ行くと、そこにはりつとその妹のます達が遊んでいた。りつは美津と目が合うと、妹の手を引いてそそくさと広場を後にした。(わたしは“化け物”・・どこへ行ってもそれは変わらない・・)美津がそう思ってため息をついていると、1人の子どもが美津にぶつかった。「大丈夫ですか?」「ええ、大丈夫よ。」そう言って美津は子どもを見た。少年だが、顔立ちはまるで少女と見まごうばかりの美しさだ。「あなた、お名前は?」「四郎。天草四郎と申します。」子どもはそう言って頭を下げた。「わたしは美津というの。これからよろしくね。」美津は四郎に微笑んで家へと向かった。これが、美津と天草四郎との出会いだった。
2012年02月27日
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美津はりつに冷たく拒絶されたことにショックを受け、奥の部屋で休んでいた。「ねえ四郎、やっぱりわたしって化け物なの?」「姫様・・」「わたし、昨夜自分が何をしたか、覚えていないの・・わたしは一体なにをしたのか・・全然覚えていないの・・」四郎は昨夜のことを全て話した。「そう・・りつちゃんはわたしの本性を知ってしまったのね・・だからあんなこと・・」美津はそう言ってうつむいた。「ここも磯村のときといっしょなのね・・わたしはどこへ行っても“化け物”なんだわ・・」美津は涙を流してうつむいた。
2012年02月27日
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美津はゆっくりと顔をあげ、怒りに歪んだ顔でりつを見た。「殺せ。」鬼神はそう言って、りつを指した。美津は獣のように跳躍し、りつの胸を長刀で切り裂いた。意識を失い落下するりつを四郎が抱き留めた。「姫様、どうされたのです?おやめください!」エーリッヒがそう言ってなおもりつを攻撃しようとする美津を止めようとした。だが、美津は彼の腹を蹴った。四郎は家の中に入り、りつの傷の手当てをした。幸い、傷は深くなかった。奥の部屋にりつを寝かせると、四郎は家を出た。「姫様!」美津は四郎に突進した。「姫様、私がわかりませんか!」四郎の言葉を美津は聞いていないようで、唸りながら長刀を振り回した。「貴様、姫様になにをしたぁ!」四郎はそう言って鬼神に槍を突き出した。「美津に命令を下したまでのことよ。あの子どもを殺せとな。」やがて美津は長刀を地面に突き刺し、頭を抱えながら倒れた。「また会おうぞ、美津や。」鬼神はそう言って笑った。「姫様!」四郎は慌てて美津のところへ駆け寄った。数日後。りつはいつものように、村の広場で遊んでいた。そこへ美津が現れた。「りつちゃん、こんにちは。」美津はそう言ってりつに微笑んだが、りつは顔をこわばらせ、後ずさりした。「りつちゃん?」美津がりつの肩を触ろうとすると、りつはその手を払った。「近寄らないで、化け物!」りつはそう叫んで去っていった。「りつちゃん・・」
2012年02月27日
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「あなたのところなんか来るものですか!わかったらさっさとりつちゃんをこっちに渡しなさい!」美津はそう言ってキッと鬼神を睨んだ。「そうか・・それなら仕方あるまい。この子は死んでもらおう。」鬼神は近くの木にりつを放り投げた。りつの着物の袖が、木の枝にひかかった。「きゃぁぁ~!」目を覚ましたりつが恐怖の叫び声を上げた。「りつちゃん!」美津はそう言ってりつの元へ駆け寄ろうとしたが、鬼神がその行く手を阻んだ。「そなたの相手はこのわしじゃ。」そう言って鬼神は大鎌を取り出して、美津に構えた。美津は気合を入れて、鬼神に突進した。激しい剣戟の音が夜の闇にこだまする。「もうおしまいかえ?」鬼神はそう言ってニヤリと笑い、美津の肩を大鎌で斬った。美津の肩から鮮血が噴き出し、美津は地面にうずくまった。「素直にわしのものになれ・・」鬼神は自分の掌を鎌で傷つけ、己の血を美津に飲ませた。「天女・・様?」りつが恐る恐る美津に声をかけると、美津はゆっくりと顔を上げた。その顔を見た瞬間、りつの顔がたちまち恐怖にゆがんだ。
2012年02月27日
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「遅いわねりつちゃん・・絶対来るって言ったのに・・」美津はそう言って心配そうに戸口を何度も覗いた。「道に迷ったのでは?」「それはないわ。りつちゃんは毎日のように家へ来てるし・・」美津はそう言うなり、顔をこわばらせた。「どうしました?」四郎が槍を持ち、戸口の方へと目を走らせた。「・・あいつが、来る・・」美津は戸口に掛けてある長刀を持って家を出た。「また会ったのぉ、美津や。」そう言って鬼神はニヤリと笑った。その腕にはー「りつちゃん!」「ほらね、やっぱりこの子と美津様は知り合いだったでしょ?」凛はそう言って笑った。「りつちゃんにはてを出さないで!」美津は長刀を鬼神に向けた。「わしを傷つけば、この子どもは死ぬぞ。」「一体なにが望みなの!?」「お前が欲しい。わしの元へくれば、この子どもは助けてやろう。」鬼神はそう言って美津を見た。
2012年02月27日
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「あら、その子は?」凛はそう言って鬼神に抱かれているりつを見た。「森で会った子じゃ。名はりつ。どうやら美津の家に向かおうとしていたところらしいの。」「そう・・この子なら知ってるわ。確か美津様を『天女様』と呼んでいた子よね?」凛はりつの前髪を撫でながら言った。「私、いいこと考えたわ。」「ほう、どんな?」凛は鬼神の耳元で、何かを囁いた。「・・それはいい考えじゃ。」
2012年02月27日
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りつは今日も、美津の所へ遊びに行こうとしていた。昨日広場であって、明日金平糖をあげると美津に言われて、りつは早く明日にならないかと指折り数えて待っていた。(天女様に早く会いたいなぁ。)今日は妹の世話や父を手伝っていて、美津との約束の時間をとっくに過ぎてしまった。(天女様、怒ってないかなぁ?)昨日家に行ったとき、美津は少し迷惑そうな顔をしていた。毎日家に遊びに来ているからだろうか?美津の家は村から少し外れたところにある。その前には森が広がっていて、そこを突っ切れば近道になるということを、りつは知っていた。夜の森は暗くて不気味だった。だがこの森を突っ切れば美津と会えるーそう思いりつは恐怖と戦いながら森の中を歩いた。美津の家まであとちょっとというところで、りつは木の下で寝ている女の人と目が合った。黒い着物を着ていて、銀色の髪が月光に輝いてとても綺麗だ。「そこな子ども、どこへ行く?」だが外見の美しさとは反比例し、声は氷のように冷たかった。「天女様の、ところに・・」「そなた、名はなんという?」「りつ・・」そう言ってりつは気を失った。「さてと、どうしようかの・・」鬼神はりつを抱えながらつぶやいた。
2012年02月27日
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母の葬式から数ヶ月がたち、りつは毎日のように美津のところへ遊びに来ていた。「天女様、また遊びに来ちゃったv」「いらっしゃい、りつちゃん。」美津はそう言ってりつに微笑んだ。「お昼まだ食べてないでしょ?よかったらここで食べていってね。」「いただきま~す!」りつはそう言って美津が作ったご飯をあっというまに平らげた。その日一日中、りつは美津と一緒に遊んだ。「あの子、姫様に随分懐いているようですね。」エーリッヒはそう言って笑った。「あの子なんだか妹のような存在なの。わたし一人っ子だからりつちゃんに懐かれるのがうれしくてたまらないの。」「それはよかったですね。でもこう毎日家に来られては食事の支度が大変なんですよ。」エーリッヒはそう言ってため息をついた。「わかってるわ。でもあの子は最近、お母さんを亡くしたばかりなの。わたしがあの子の悲しみを、少しでも癒してあげればって思うの・・」そう言った美津の横顔が、どこかさびしげに見えた。「姫様・・」「わたし、あの子の悲しさがわかるの・・わたしの場合は、自分の手で母上を殺したっていうことだけど・・ごめんね、なんだか暗くなっちゃったね。」美津はそう言って奥の部屋に入っていった。
2012年02月27日
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母の葬式が終わり、りつは村の広場で母のいない寂しさに泣いていた。大好きだった母がもういない。友達にいじめられたときに優しく抱きしめてくれた母。おいしい料理を毎日食べさせてくれる母。その母が、もういない。りつは寂しくて寂しくて仕方がなかった。「母ちゃん、会いたいよぉ・・」「どうしたの?」上から声が降ってきて、りつが顔を上げると、そこには天女様が立っていた。「母ちゃんが、母ちゃんが死んじゃったぁ・・」「そうなの・・私もお母さんを亡くしたわ。」天女様はそう言ってりつを抱きしめた。「亡くなった人は帰ってこないわ。でも、あなたのお母さんはいつもあなたのそばにいるわ。だからいつまでも悲しんでいると、お母さんはあなたの泣き顔を見て悲しむわ。」「天女様ぁっ!」りつは天女様の胸の中で泣いた。「これからは、わたしがあなたのお母さんに代わってあなたを守るわ。だから、もう泣かないで。」美津はそう言ってりつを抱きしめた。
2012年02月27日
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「母ちゃん、今日ねあたし、天女様に会ったんだよ!」そう言ってりつが家に帰ると、母はうっすらと目を開けて自分に微笑んだ。「そうかい・・よかったねぇ・・」母はそう言って、りつの頭を撫でた。「母ちゃん、死んじゃやだ!」りつは母に取りすがって泣いた。「母ちゃんはいつもお前のそばにいるからね・・」そう言って母は息を引き取った。27歳の若さだった。「母ちゃん、母ちゃん~!」家中に、りつの泣き声が響いた。
2012年02月27日
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「わたしはあなたの花嫁なんかにはならないって言ってるでしょ!」美津はそう言って鬼神に向かって長刀を振り回した。「気性が荒いのは相変わらずじゃの。」鬼神は美津の刃を素手で受け止め、笑った。「わしの花嫁に、お前はいずれなるのじゃ。」鬼神は美津のあごを持ち上げ、その唇を奪った。「近寄らないで!」美津はそう言って鬼神の頬を打った。激しい拒絶を受け、鬼神はため息をついた。「まだおぬしの気は変わらぬようじゃな・・」鬼神は四郎を睨んだ。「まぁよい。おぬしの気が変わったらまた来ようぞ。」鬼神はそう言って闇の中へと消えていった。「姫様、あれは一体・・」「あれは嫌な奴よ。とっても嫌な奴。」美津はそう言って食卓へと戻っていった。
2012年02月27日
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「あの子、じっとあなたのこと見てたわよ。」夕餉の最中に美津はそう言って四郎を見た。「あの子?」「昼間村の広場にいた、女の子よ。あなたのことじーっと見てたわ。きっとすきなのよ、あなたのことが。」「でもまだ子どもですよ?」「女心をわかっていないな。」エーリッヒはそう言って鼻を鳴らした。「じゃあお前はわかるのか?」「まぁな。姫様、その子の名はなんというのです?」「りつちゃんっていったわ。私のこと天女だと思ったみたい。」「天女ですか・・それよりも鬼女のほうが似合ってると思いますが・・」「ちょっとそれ、どういう意味?」美津がそう言ってエーリッヒを睨んだとき、どこからか悲鳴が上がった。「なに・・」美津は長刀に手を伸ばした。「どうやら、招かざる客が来たようですね。」「そのとおりじゃ。」煙の中から、1人の男が現れた。「久しいな、わしの花嫁。」そう言って鬼神は、美津に笑いかけた。
2012年02月27日
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「ここね・・」凛はそう言って島原の街を見渡した。「ここに、鬼姫がいるのね?」「そうじゃ。」不快そうに紺碧の瞳を細めながら、鬼神は言った。「もうそろそろ目覚めておろう。」「じゃあ鬼姫様のところへ行くわ。」凛がそう言って駆け出そうとすると、鬼神が凛の手を掴んだ。「お前はいまは動かぬほうがよい。」「あら、どうして?」「どうしてもじゃ。」凛は鬼神の言葉にむくれたが、鬼神の言うとおりにしようと決めた。「そうね・・それに島原がどんなところか、ちょっと知りたいし。」「わしは四郎に会うてくる。」「そう。あんまり乱暴なことはしないでね。」「わかっておる。」鬼神はそう言って闇の中へと消えた。
2012年02月27日
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りつは今日も、村の広場で遊んでいた。またあの人に会えるだろうか?黒髪の優しい青年に会うことを期待しながら、りつは鞠をついていた。そのとき、りつは鞠を落とし、それは地面に転がった。「これ、あなたの?」雪のような白い肌が、りつの鞠を拾った。艶やかな黒髪と、紅の瞳。そしてふっくらとした桜色の唇。「天女様?」そう言ってりつは鞠を拾ってくれた女性を見た。「私は天女じゃないわ。私は美津。あなたは?」「わたしはりつ。」「そう・・よろしくね、りつちゃん。」美津はりつの頭を撫でて、広場を後にした。りつはぼーっとして、美津の姿が見えなくなるまで彼女の背中を見ていた。(綺麗な人・・)天女のような美しい女(ひと)は、りつにとって憧れの女となった。
2012年02月27日
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美津は畑で四郎とエーリッヒと共に野菜を耕していた。「久しぶりに体を動かすのって気持ちいいわね。」美津はそう言って深呼吸した。「そうですね。姫様は長い間寝ていらしたから、新鮮な空気を吸って気分が優れましたでしょう。」四郎は美津に微笑んだ。「ええ、そうね。畑仕事をしていると、四郎の実家のことを思い出すわ。」「ええ・・」四郎の顔が一瞬曇った。「ごめんなさい、辛いことを思い出させちゃって・・」「いいんですよ。私の家族の魂はいつも私に寄り添ってくれています。」四郎はそう言って母の形見のロザリオをまさぐった。「そうね・・旅の間も、私が眠りに就いている間も、父上や母上はいつも私のそばにいるって感じてるの。」美津はさびしそうに笑いながらいった。「今日から新しい暮らしが始まるのね。」「ええ。」四郎は青い空を見ながらいった。
2012年02月27日
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「姫様の様子が、少し変なんだ。」「変?」買い物から帰ってきた四郎は、そう言ってエーリッヒを見た。「なんというか・・寝息を立てているんだが時々目が開いたりして・・それに夜中から奥の部屋で物音がするんだ。ひょっとすると・・」「姫様が目覚める日が近い、と?」四郎はそう言って唸った。「姫様は40年の眠りに就くとご自分からおっしゃった・・私はそれを信じて・・」そのとき、奥の部屋で物音がした。「まさか姫様が・・」2人が奥の部屋へと向かうと、そこにはうめき声を上げて畳の上を這う美津の姿があった。長い黒髪の隙間から紅い瞳が見える。「姫様・・」四郎がそう言って美津に近寄ると、美津は四郎の腕を掴んで頭を摺り寄せた。「四郎・・」「お目覚めになったのですね、姫様。」美津の頭を撫で、慈愛に満ちた表情を浮かべて四郎は彼女を見た。「ごめんね四郎、長い間、待たせちゃったね。」美津はそう言って、2人の従者に微笑んだ。
2012年02月27日
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1621年夏、島原。3歳のりつは村の広場で友達と遊んでいた。本当は家で母に甘えたいが、母は妹を産んだ後、重い病に倒れ、寝たきりとなっていた。日が暮れて友達が次々と帰り、りつが家に帰ろうとしたとき、彼女は誰かにぶつかった。りつが振り返ると、そこには紺の着流しを着た黒髪のハンサムな青年が立っていた。「ごめんなさい・・」りつがそう言って頭を下げると、青年はニッコリとりつに微笑んだ。「怪我はないかい?」優しい光を放った黒い瞳に、りつは一目で恋に落ちた。これが、りつの初恋であった。
2012年02月27日
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1621年、島原。この年に、益田甚兵衛の元に1人の息子が生まれた。その名は四郎。のちに、「救世主」と呼ばれる天草四郎時貞の誕生である。「四郎殿、向こうの村で赤子が生まれたとか。」刀の手入れをしながら、エーリッヒはそう言って四郎を見た。「赤子が?それはめでたいな。男か、女か?」「男だそうだ。名前はお前と同じ四郎だ。」「そうか。」四郎はそう言って槍の手入れを始めた。
2012年02月27日
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その夜、エーリッヒは縁側で物思いに耽っていた。戦乱のない太平の世に暮らし、平凡な日々を送っている。四郎はいまの暮らしにあまり満足していないようだが、自分は戦場を駆け抜ける日々よりも、のどかな暮らしのほうがいいと思っている。3ヶ月前の戦で、エーリッヒはたくさん惨いものを見てきた。凛が無抵抗の村人達を虐殺している光景は、いまも夢に見る。故郷を遠くはなれ、この村に移り住んだとき、エーリッヒはあの戦を忘れてしまった。もう戦うことはないのだと思い、うれしかった。この生活がずっと続いてくれたら・・そう思いながら、エーリッヒは眠りに就いた。
2012年02月27日
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美津が眠りに就いて27年の歳月が過ぎた。四郎とエーリッヒは農作業に勤しんでいた。「秋にはたくさん野菜が獲れるな。」「ああ。」縁側で一休みしながら、四郎とエーリッヒはそう言って茶を飲んだ。「こうも平和な日々が続くと、なんだか気がたるんでしまうな。」四郎はそう言って玄関に掛けている槍を思い出した。「戦乱のない日々は畑を耕すことが一番の仕事だ。それに戦など、決していいものではないからな。」青く澄んだ空を見上げながら、エーリッヒはそう言った。
2012年02月27日
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「やっと着いたわね。」そう言って美津は、眼下に広がる島原の街を見た。島原城がそびえたち、青い海が山の向こうに顔を出している。山に囲まれた磯村には海がなかった。「綺麗ね・・」「姫様、急ぎましょう。」そう言って四郎は美津の腕をひいた。「わかったわ。ねえエーリッヒ、海って綺麗ね。」「そうですね。」美津達が他愛のない話をしながら歩いていると、美津は突然激しい眩暈に襲われた。「姫様っ!」倒れそうになる美津を、四郎は慌てて抱きとめた。「四郎・・わたし・・もう・・」美津はそう言ってゆっくりと目を閉じる。「姫様は、まさか・・」エーリッヒは美津を驚愕の表情を浮かべて見た。「眠っているだけだ。」四郎はそう言って美津を抱きかかえた。「40年の眠りに就く。姫様が目覚めるときまで、わたし達はここで生きよう。」「ああ。」エーリッヒと四郎は、再び歩き出した。四郎とエーリッヒは村に空き家を見つけ、村長や村の人々に挨拶してそこに住むようになった。「姫様は、起きられるのか?」エーリッヒは布団で眠っている美津の寝顔を見ながら言った。「40年後だ。40年も経ったら、この村も国も変わるだろう。」「ああ、それにわたし達を知るものはいなくなる・・」「さびしいが、それはそれでいいかもしれないな。」四郎はそう言ってフッとさびしい笑みを浮かべた。
2012年02月27日
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美津達が海を渡り、島原を目指している頃、魔界では鬼神が退屈そうに邸で横になっていた。3ヶ月前、17年間契約を交わしている美津姫と出会い、一目で恋に落ちた。金の瞳を持つ凛は気性が激しく、物静かな女が好きな彼は凛のことを気に入らなかった。だが美津は違う。普段は物静かだが、怒りを爆発させて戦うときの彼女の猛々しさといったら美しいことこの上ない。彼女こそ我が花嫁にふさわしい。だが彼女にはまるで金魚の糞のように付いて回る犬がいたので、そいつには呪いをかけてやった。名前は、四郎といったか・・まぁ名前など関係ない。あの犬にはじわじわと苦しみを与えてやろう。「ご主人様、湯浴みの用意ができました。」使用人の小鬼がそう言って恐る恐る自分を見た。「ご苦労だった。さがってよいぞ。」鬼神は小鬼の首をはねて言った。「・・汚れてしまったな。」鬼神はボソリとつぶやき、浴室へと向かった。
2012年02月27日
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「姫様、お待ちくださいっ!」四郎は慌てて美津の後を追った。美津は既に何人かを血祭りに上げていた。「きゃぁぁっ、化け物ぉぉっ!」背後で声がして振り向くと、恐怖に目を見開いておびえた表情を浮かべる女がいた。美津はその声に反応し、女の方へと突進した。美津の長刀が女の首を掻っ切ろうとしたときー「おやめくださいっ、姫様っ!」四郎が女の前に立ちはだかり、美津の刃を肩に受けた。「四・・郎・・?」緋色だった美津の瞳が、少しずつ紅へと戻っていく。「四郎・・わたしはいったい・・」美津がそう言って四郎の肩の傷を見た。「わたしが・・これを・・」そのとき、美津の頭に石が当たった。「さっさとここから出て行け、この疫病神が!」石を投げたのは、この宿の主人だった。「・・行きましょう、姫様。」呆然とする美津の肩を抱き、四郎は部屋へと戻っていった。「四郎、わたしは疫病神よね・・父上と母上を殺したもの・・わたしがいなけば・・」「姫様、もうお休みください。」「四郎、ごめんね・・わたしのせいで、ごめんね・・」美津はそう言って涙を流し、やがて眠りに就いた。翌朝早く、美津達は宿賃を払って宿を出た。「島原は海を渡ればすぐそこです、姫様。」「ええ、そうね。」美津はそう言って水平線の彼方を見た。「すっかり遠くに来てしまったわね・・」
2012年02月27日
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私が・・両親を殺した・・あれは、私がしたの?私が、みんなを殺したの?そんなの嘘よ・・嘘に決まってる・・「結構利いたみたいね、心理攻撃は。」凛はそう言って満足げに笑った。「また会いましょうね、鬼姫様。次はもっといい勝負を期待していてよ。」やがて凛は闇の中へと消えていった。「姫様?」四郎は美津の肩を叩いた。「・・そよ・・」「姫様!」「そんなの嘘よ・・そんなの・・」美津の瞳が徐々に狂気を孕んだ緋色になっていく。「姫様、どうかお気をお鎮めください!」美津の異変に気づいた四郎がそう言って美津の肩を揺さぶった。だが、もう遅かった。美津は獣のような叫び声をあげて、長刀を振り回して宿の中へと突進した。
2012年02月27日
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月明かりの下、美津と凛は刃を交えていた。激しい剣戟の音が、静かな夜の庭に響く。「やっぱり鬼姫様ね。私と互角に戦えるなんて・・でも、3ヶ月前に比べて弱くなったんじゃなくて?」凛はそう言って笑った。「黙れ、人殺しが!」美津は長刀を振り回しながら凛を睨んだ。「人殺しはあなたのほうでしょ?まさか私が、あなたの両親を殺したとでも思ってるの?」「なに・・何を言ってるの?」「何も知らないようだから、教えてあげましょうか?あなたはね、あの時両親を殺したのよ。」美津の脳裏に、父の最期の微笑が浮かんだ。燃え盛る城と、おびただしい死者の山。あれは凛がしたものだと思っていた。彼女が自分の両親を殺したと思っていた。「あなたが、殺したのよ。」「嘘よ、そんなの嘘・・」美津は長刀を落として地面に蹲った。「あなたが殺したのよ、あなたが私の両親を・・」「いいえ、あなたが自分の両親を殺したの。」凛は美津の反応を見てニヤリと笑った。「嘘よ・・そんなのっ!」
2012年02月27日
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「お前、どうしてここに・・」「どうしてって、あなたのことを追いかけに来たのv」そう言って凛は腰に帯びていたレイピアを抜き、四郎に突進した。丸腰であった四郎はかろうじて凛の刃を手で受け止めた。「うふふ、相変わらず強いわね。でもこれはどう?」凛はそう言って四郎の腹を薙いだ。着物が破れ、腹から鮮血が滴り落ちる。「くっ・・」四郎は床に蹲った。「お前はここで死んでもらうわv」凛が四郎の喉下を刃で貫こうとしたときー「四郎!」月が美津の姿を照らし、凛が持っていたレイピアは長刀によって彼女の手から弾き飛ばされた。「まぁ、なんて乱暴な挨拶なのかしら?」凛はそう言って美津を睨んだ。「黙れ!」美津は凛に向かって長刀を振り回した。凛は美津の攻撃を避け、地面に刺さっているレイピアを取った。「あなたはここで死んでもらうわ。」「それはお前のほうよっ!」月明かりの下、金と紅の瞳が火花を散らした。
2012年02月27日
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風呂から上がった四郎は、部屋へと戻る最中、歌声を聞いたような気がした。凛の歌声を。(そんなはずはない・・あいつはまだ尾張にいるはず・・)また歌声が聞こえてきた。空耳だろうと四郎がそう思って廊下を歩こうとしたとき、誰かに両目を塞がれた。「だ~れだっv」「お前は・・」四郎の目の前には、西洋の着物を着た凛が立って四郎に微笑んでいた。「お久しぶりね、四郎様v」
2012年02月27日
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尾張を出てから3ヶ月がたち、美津達は瀬戸内の宿で休みを取っていた。人であれば天草まで1年くらいかかるであろう道のりを、鬼である3人は休みを取らずにここまでやってきた。だが眠りの時期を迎えようとしている美津の体力の消耗が激しく、瀬戸内に入ったところで四郎とエーリッヒも疲れを感じてきたので、宿で休みを取ることにしたのだ。「姫様は?」「寝ておられる。ここまでの道のりを休みなしで歩いてきたゆえ、疲れたのでしょうな。」そう言って四郎は美津の頭を優しく撫でた。「お前は姫様一筋だな。」「ああ、姫様と会えたことで私はここにいるのだから。」四郎はそう言って胸を押さえる。「どうした?」「いや、なんでもない・・風呂に入ってくる。」四郎はそう言って部屋を出た。夜中過ぎだからか、大浴場には誰もいない。四郎はゆっくりと湯船に浸かり、旅の疲れを癒した。3ヶ月前、四郎と美津は全てを失った。自分を無償の愛を与えてくれた家族。幸せで平凡な毎日。そして、ゆっくりと流れる時間。だが戦が起き、美津は両親を、四郎は両親と兄弟達を亡くした。明かされた衝撃の真実は、四郎に呪いをかけた。四郎はそっと、胸に刻まれた十字の傷に触れた。鬼神につけられた、のろい。美津との間に子ができぬ呪い。いつか美津と所帯を持ち、家族を作れると思っていた四郎は、鬼神にのろいをかけられ、絶望の淵に沈んだ。美津のことをいつも想い、愛していたのに、美津との間に愛の結晶ができないとは、四郎にとってはなんとも辛いことであった。子が成せぬのなら、美津の傍にいて、彼女を一生守ろう。それがいま、自分にできることだから。四郎はそう決意し、湯船から上がった。
2012年02月27日
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「・・鬼姫様は天草へと向かったのね。」かろうじて火を免れた実家の部屋で、凛はそう言って新しい従者の男を見た。「はい。それと・・」男はそう言って凛の耳元に何かを囁いた。「へえ・・四郎様とエーリッヒが鬼となったのねぇ・・これからが楽しみだわ。」凛はほくそ笑んだ。「待っていなさいね、鬼姫様。私がその命を奪ってあげてよv」そうつぶやいた凛は、お気に入りの歌を歌い始めた。
2012年02月27日
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