F&B 腐向け転生パラレル二次創作小説:Rewrite The Stars 6
薄桜鬼 昼ドラオメガバースパラレル二次創作小説:羅刹の檻 10
黒執事 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧の騎士 2
天上の愛 地上の恋 転生現代パラレル二次創作小説:祝福の華 10
黒執事 転生パラレル二次創作小説:あなたに出会わなければ 5
YOI火宵の月パロ二次創作小説:蒼き月は真紅の太陽の愛を乞う 2
薄桜鬼 現代ハーレクインパラレル二次創作小説:甘い恋の魔法 7
火宵の月 転生オメガバースパラレル 二次創作小説:その花の名は 10
薄桜鬼異民族ファンタジー風パラレル二次創作小説:贄の花嫁 12
薄桜鬼ハリポタパラレル二次創作小説:その愛は、魔法にも似て 5
天上の愛地上の恋 大河転生パラレル二次創作小説:愛別離苦 0
火宵の月 BLOOD+パラレル二次創作小説:炎の月の子守唄 1
PEACEMAKER鐵 韓流時代劇風パラレル二次創作小説:蒼い華 14
黒執事 異民族ファンタジーパラレル二次創作小説:海の花嫁 1
火宵の月 韓流時代劇ファンタジーパラレル 二次創作小説:華夜 18
火宵の月×呪術廻戦 クロスオーバーパラレル二次創作小説:踊 1
薔薇王韓流時代劇パラレル 二次創作小説:白い華、紅い月 10
薄桜鬼 ハーレクイン風昼ドラパラレル 二次小説:紫の瞳の人魚姫 20
天上の愛地上の恋 転生昼ドラパラレル二次創作小説:アイタイノエンド 6
鬼滅の刃×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:麗しき華 1
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:鳳凰の系譜 1
薄桜鬼腐向け西洋風ファンタジーパラレル二次創作小説:瓦礫の聖母 13
コナン×薄桜鬼クロスオーバー二次創作小説:土方さんと安室さん 6
薄桜鬼×火宵の月 平安パラレルクロスオーバー二次創作小説:火喰鳥 7
天上の愛地上の恋 転生オメガバースパラレル二次創作小説:囚われの愛 8
天上の愛地上の恋 昼ドラ風時代パラレル二次創作小説:綾なして咲く華 2
ツイステ×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:闇の鏡と陰陽師 4
天愛×腐滅の刃クロスオーバーパラレル二次創作小説:夢幻の果て~soranji~ 0
ハリポタ×天上の愛地上の恋 クロスオーバー二次創作小説:光と闇の邂逅 2
魔道祖師×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想うは、あなたひとり 1
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:月の国、炎の国 1
天愛×火宵の月 異民族クロスオーバーパラレル二次創作小説:蒼と翠の邂逅 0
陰陽師×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:君は僕に似ている 3
黒執事×ツイステ 現代パラレルクロスオーバー二次創作小説:戀セヨ人魚 2
黒執事×薔薇王中世パラレルクロスオーバー二次創作小説:薔薇と駒鳥 27
薄桜鬼×刀剣乱舞 腐向けクロスオーバー二次創作小説:輪廻の砂時計 9
火宵の月×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想いを繋ぐ紅玉 54
天上の愛地上の恋 昼ドラ転生パラレル二次創作小説:最愛~僕を見つけて~ 1
バチ官腐向け時代物パラレル二次創作小説:運命の花嫁~Famme Fatale~ 6
FLESH&BLOOD×黒執事 転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:碧の器 1
腐滅の刃 平安風ファンタジーパラレル二次創作小説:鬼の花嫁~紅ノ絲~ 1
天愛×薄桜鬼×火宵の月 吸血鬼クロスオーバ―パラレル二次創作小説:金と黒 4
黒執事×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:悪魔と陰陽師 1
火宵の月 戦国風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:泥中に咲く 1
火宵の月 地獄先生ぬ~べ~パラレル二次創作小説:誰かの心臓になれたなら 2
PEACEMAKER鐵 ファンタジーパラレル二次創作小説:勿忘草が咲く丘で 9
FLESH&BLOOD ハーレクイン風パラレル二次創作小説:翠の瞳に恋して 20
火宵の月 異世界ファンタジーロマンスパラレル二次創作小説:月下の恋人達 1
天上の愛地上の恋 現代転生パラレル二次創作小説:愛唄〜君に伝えたいこと〜 1
天上の愛地上の恋 現代昼ドラ風パラレル二次創作小説:黒髪の天使~約束~ 2
火宵の月 異世界軍事風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:奈落の花 2
天上の愛 地上の恋 転生昼ドラ寄宿学校パラレル二次創作小説:天使の箱庭 5
天上の愛地上の恋 現代昼ドラ転生パラレル二次創作小説:何度生まれ変わっても… 0
天上の愛地上の恋 昼ドラ転生遊郭パラレル二次創作小説:蜜愛~ふたつの唇~ 0
天上の愛地上の恋 帝国昼ドラ転生パラレル二次創作小説:蒼穹の王 翠の天使 1
名探偵コナン腐向け火宵の月パラレル二次創作小説:蒼き焔~運命の恋~ 1
FLESH&BLOOD ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の花嫁と金髪の悪魔 6
火宵の月 和風ファンタジーパラレル二次創作小説:紅の花嫁~妖狐異譚~ 3
天上の愛地上の恋 昼ドラ風パラレル二次創作小説:愛の炎~愛し君へ・・~ 1
黒執事 昼ドラ風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:君の神様になりたい 4
火宵の月 昼ドラハーレクイン風ファンタジーパラレル二次創作小説:夢の華 0
薄桜鬼腐向け転生刑事パラレル二次創作小説 :警視庁の姫!!~螺旋の輪廻~ 15
FLESH&BLOOD ハーレクイロマンスパラレル二次創作小説:愛の炎に抱かれて 10
PEACEMAKER鐵 オメガバースパラレル二次創作小説:愛しい人へ、ありがとう 8
天愛×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:翼がなくてもーvestigeー 2
薄桜鬼腐向け転生愛憎劇パラレル二次創作小説:鬼哭琴抄(きこくきんしょう) 10
薄桜鬼×天上の愛地上の恋 転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:玉響の夢 5
黒執事×天上の愛地上の恋 吸血鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:蒼に沈む 0
天愛×F&B 昼ドラ転生ハーレクインクロスオーパラレル二次創作小説:獅子と不死鳥 1
天上の愛地上の恋 現代転生ハーレクイン風パラレル二次創作小説:最高の片想い 4
バチ官×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:二人の天使 3
FLESH&BLOOD 現代転生パラレル二次創作小説:◇マリーゴールドに恋して◇ 2
YOI×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:皇帝の愛しき真珠 6
火宵の月×刀剣乱舞転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:たゆたえども沈まず 2
薔薇王の葬列×天上の愛地上の恋クロスオーバーパラレル二次創作小説:黒衣の聖母 3
火宵の月×薄桜鬼 和風ファンタジークロスオーバーパラレル二次創作小説:百合と鳳凰 2
薄桜鬼×天官賜福×火宵の月 旅館昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:炎の宿 2
薄桜鬼×火宵の月 遊郭転生昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:不死鳥の花嫁 1
天愛×火宵の月陰陽師クロスオーバパラレル二次創作小説:雪月花~また、あの場所で~ 0
薄桜鬼×天上の愛地上の恋腐向け昼ドラクロスオーバー二次創作小説:元皇子の仕立屋 2
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧き竜と炎の姫君~愛の果て~ 1
F&B×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:海賊と陰陽師~嵐の果て~ 1
F&B×天愛 昼ドラハーレクインクロスオーバ―パラレル二次創作小説:金糸雀と獅子 1
天愛 異世界ハーレクイン転生ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の巫女 氷の皇子 0
相棒×名探偵コナン×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:名探偵と陰陽師 1
F&B×天愛吸血鬼ハーレクインクロスオーバーパラレル二次創作小説:白銀の夜明け 2
名探偵コナン×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:碧に融ける 0
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黒執事・薔薇王の葬列クロスオーバー中世パラレル小説です。ディズニー映画「ノートルダムの鐘」風のパラレルですが、一部キャラ設定や時代設定が違っていたりしますが、それでもいいよという方のみお読みください。 その日、パリは雲ひとつない晴天だった。「セバスチャン、早くしろ!二人の結婚式に遅れてしまう!」「わかりました、坊ちゃん。」 セバスチャンとシエルがノートルダム大聖堂に着くと、そこには今日の主役を祝う為に、多くの貴族達が集っていた。 その中には、リチャードの家族も居た。「ファントムハイヴ伯爵、本日は娘の結婚式にお越し頂き、ありがとうございます。」「いいえ。それよりも閣下、奥様の事は心からお悔やみ申し上げます。」「ありがとうございます。」 やがて大聖堂の扉が開き、純白の花嫁衣裳を纏ったリチャードが入って来た。―まぁ、なんて美しいのかしら。―まるで天使のようだわ。 陽光に照らされた薔薇窓から射し込む光が、祭壇に居るリチャードとヘンリーを優しく照らした。「末永く幸せにな、リチャード。」「あたし達も二人に負けてられないわね。」 リチャードとヘンリーの結婚式を少し離れたところで見ていたネズミのヴィクトルとリリーは、そんな事を話しながら幸せそうな二人の姿を眺めていた。「リチャード、ヘンリー君と幸せにな。」「ありがとうございます、父上。」「ヘンリー君、リチャードを頼むよ。」「わかりました、まかせて下さい!」「お前は頼りないから、これから心配だな。」「酷いや、リチャード!」「大丈夫だ、ヘンリー。お前のことは主が守ってくださる。」 ヘンリーを今まで息子同然に育ててきたデヴァルジュ司教は、そう言うと彼を抱き締めた。「司教、今までありがとうございました。」「彼女と幸せになりなさい。」 かつて、パリの街には“怪物”が棲んでいた。 彼はその醜い容姿故に、外の世界を知らずに生きてきた。 しかし、“怪物”は愛を知った。 そして彼ははじめて“人”となった。 悪魔の呪縛から解き放たれ、“人”となった彼は、自由の身となった。 今日もパリの街に、朝を告げる鐘の音が鳴り響いている。-FIN-にほんブログ村
2019年08月05日
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黒執事・薔薇王の葬列クロスオーバー中世パラレル小説です。ディズニー映画「ノートルダムの鐘」風のパラレルですが、一部キャラ設定や時代設定が違っていたりしますが、それでもいいよという方のみお読みください。「バッキンガム、お前は望みを果たしただろう?」「いや、俺はまだ望みを果たしてはいない。」そう言ったバッキンガム判事は、牢に繋がれているリチャードを見た。「何だと!?」「俺の望みは、あんたを手に入れる事だ。」「冗談は止せ。」「いや、本気だ。」 バッキンガム判事は、欲望に滾った瞳でリチャードを見た。「俺に何をする気だ?」「それはまだわからない。まぁ、あんたの態度次第だな。」「閣下、奥様が・・」「部屋で待たせておけ。」「それが・・」 牢番がそう言って俯いた時、牢にキャサリンとセシリーが入って来た。「奥様、リチャード様を見つけましたわ。」「ありがとう、キャサリン。リチャード、わたしと一緒に家へ帰りましょう。」「嫌です。」「そう・・では、お前を殺すしかないわね!」セシリーはそう叫ぶと、隠し持っていた短剣を取り出し、それをリチャードの頭上に振り翳(かざ)した。 一体何が起こったのか、リチャードにはわからなかった。 気が付くと、リチャードは血の海の中に居た。 そこには、セシリーとバッキンガム判事の姿があった。セシリーは息絶えていた。「あなた、しっかりして下さい!」 キャサリンは血塗れになって倒れている夫を抱きかかえながら泣き叫んだ。「坊ちゃん、大変です!」「バッキンガム判事が、プランタジネット公爵夫人と刺し違えただと?」「えぇ。」「それで、二人はどうなった?」「プランタジネット公爵夫人は即死、バッキンガム判事は医師の治療の甲斐なく亡くなられたそうです。」「そうか・・」にほんブログ村
2019年08月02日
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黒執事・薔薇王の葬列クロスオーバー中世パラレル小説です。ディズニー映画「ノートルダムの鐘」風のパラレルですが、一部キャラ設定や時代設定が違っていたりしますが、それでもいいよという方のみお読みください。「旦那、俺は何もしていません!」「さぁ、どうだかな。」 バッキンガム判事は部下に目配せすると、彼らはパン屋の店内を荒らし始めた。「お願いです、店を壊さないでください!」「見つけたぞ、ジプシーだ!」 パン屋の床下に隠れていたジプシーの声を聞いたバッキンガム判事は、金の瞳を煌めかせた。「こいつも連行しろ。」「何て酷い・・」「まるで悪魔だ。」 群衆の中からジプシー狩りの様子を見ていたケイツビーは、路地裏で待っているリチャードと合流した。「どうだ?」「状況は最悪です。「そうか。ケイツビー、耳を貸せ、俺に考えがある。」 リチャードはそう言うと、ケイツビーの耳元で何かを囁いた。「そんな、危険です!」「お前とヘンリーが、俺を助けに来てくれるんだろう?」 リチャードはそう言うと、ケイツビーを抱き締めた。「俺は、お前達を信じている。」「リチャード様、待ってください!」 フードを目深に被ったリチャードは、パン屋を連行しようとしているバッキンガム判事の前に立ちはだかった。「彼は何も悪くない。」「こいつはジプシーを匿っていた。」「俺は疲れた旅人に宿を提供していただけだ!俺ぁ盗みも殺しもしてねぇ、善良なパリ市民だ!」「彼らの代わりに俺を連れて行け、バッキンガム。お前の狙いは俺だろう?」 リチャードはそう言うと、優雅な手つきでゆっくりとフードを捲り、バッキンガム判事を睨みつけた。「わかった、そうしよう。」 リチャードがバッキンガム判事に捕えられた事をケイツビーから知ったシエル達は、激しく動揺した。「早くリチャード様を助けないといけませんね。」「あぁ、そうだな。」シエルはそう呟くと、掌の上に載せているキャサリンから渡された紋章入りの指輪を見つめた。にほんブログ村
2019年07月15日
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黒執事・薔薇王の葬列クロスオーバー中世パラレル小説です。ディズニー映画「ノートルダムの鐘」風のパラレルですが、一部キャラ設定や時代設定が違っていたりしますが、それでもいいよという方のみお読みください。「あなた、お帰りなさい。」 キャサリンは、帰宅した夫の様子がおかしい事に気づいた。「キャサリン、暫く俺は家には戻らない。」「何かあったのですか?」「あぁ。」 バッキンガム判事は書斎に入ると、部下を呼んだ。「閣下、どうかなさいましたか?」「ジプシー狩りの準備をしろ。」「はっ!」 バッキンガム判事は、暖炉の中に何かを投げ入れた。「閣下、準備が整いました。」「わかった、すぐ行く。」 バッキンガムが書斎から出て行った後、キャサリンは彼と入れ違いに書斎の中へと入った。「これは、まさか・・」 暖炉の中に燃え残ったあるものを見つけた彼女は、それをコルセットの中にしまった。「奥様、ファントムハイヴ伯爵がいらっしゃいました。」「まぁ、伯爵が?」 キャサリンは急いで身支度を済ませると、客間へと向かった。「まぁ伯爵、急にいらっしゃるなんて・・生憎、主人は外出中でして・・」「それは好都合ですね。」「は?」「ミス・キャサリン、今日はあなたのご主人が虐待していた青年を我が家で引き取る事になりました。そのことをお伝えしたかったので、こちらへ伺った訳です。」「まぁ、そうなんですの・・」 キャサリンはシエルの話を聞いて驚いていたが、やがて彼女は急に何かを思い出したかのように、シエルにある物を手渡した。 それは、辛うじて燃えずに残っていた紋章入りの金の指輪だった。「これは?」「主人がこれを暖炉の中に捨てていました。裏に何か彫ってあるようです。」「何故これをわたしに?」「この指輪は、主人がわたしに見つかってはまずいものだと思いまして・・それよりも、あの人は今、半ば正気を失っています。伯爵、どうか主人を止めてください。」「ご主人は、今どこに?」「主人は先程、ジプシー狩りだといって街へ・・手遅れになる前に、どうか・・」 同じ頃、バッキンガム判事はパリ市街でジプシー狩りを始めていた。にほんブログ村
2019年07月12日
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黒執事・薔薇王の葬列クロスオーバー中世パラレル小説です。ディズニー映画「ノートルダムの鐘」風のパラレルですが、一部キャラ設定や時代設定が違っていたりしますが、それでもいいよという方のみお読みください。「お願い、そんな事をしないで・・」 突然何かに怯えているかのような顔をしたヘンリーは、そう言った後両手で顔を覆って泣き出した。「どうした、ヘンリー?」「嫌だ、もう僕を殴らないで・・」「落ち着け!」 錯乱状態になっているヘンリーの手首に、何かで縛られたかのような痣がある事にシエルは気づいた。「助けて、助けて!」 ヘンリーは天を仰ぎ、喘ぐようにそう叫ぶと、気絶した。「セバスチャン、彼を客用の寝室へ。」「御意。」セバスチャンはヘンリーを客用の寝室へと運んだ後、医者を呼んだ。「これは酷い・・」ヘンリーを診察した医師は、彼の全身に残っているおびただしい数の鞭の跡を見た後、思わずそんな言葉を洩らした。「古い傷が幾つもある事を見れば、彼は日常的に虐待を受けていたのではないかと・・」「あの男ならやりそうな事だ。」 道化の祭りで起きた忌まわしい出来事を思い出したシエルは、そう言うと溜息を吐いた。「坊ちゃん、これからどうなさるおつもりですか?」「ヘンリーは我が家の使用人だ。」「坊ちゃん、大、大変ですだ!判事様が・・」「伯爵、こちらにわたしの息子がお世話になっていると・・」「判事、今日から彼は我が家の使用人です。」「勝手なことを!あいつはわたしの・・」「息子だとおっしゃりたいのですか?貴方のような方に、ヘンリーの父親だと言う資格はない!」「バッキンガム様、お引き取り下さい。坊ちゃんはもうこれ以上、あなたとはお話ししたくないそうです。」 セバスチャンはそう言うと、バッキンガム判事の鼻先でドアを閉めた。(わたしを侮辱した罪は重いぞ、ファントムハイヴ伯爵!) 金色の瞳を怒りで滾らせながら、バッキンガムは雨で濡れた外套の裾を翻してファントムハイヴ伯爵邸宅を後にした。にほんブログ村
2019年07月05日
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黒執事・薔薇王の葬列クロスオーバー中世パラレル小説です。ディズニー映画「ノートルダムの鐘」風のパラレルですが、一部キャラ設定や時代設定が違っていたりしますが、それでもいいよという方のみお読みください。「一体何の騒ぎだ、セバスチャン?」「申し訳ありません、坊ちゃん。緊急事態が起きました。」「緊急事態だと?」 階下の騒ぎを聞きつけ、寝室から出て来た主に、セバスチャンは事情を説明した。「そうか。では、お前は自分の仕事に戻れ。」「御意、ご主人様。」 嵐が過ぎ去り夜が明けた頃、ファントムハイヴ伯爵邸のダイニングルームでは、リチャードとケイツビー、そしてセバスチャンとシエルがそれぞれのテーブルで朝食を取っていた。「夜分遅くにこちらをお訪ねしてしまって、こちらにご迷惑をおかけしてしまいました。」「ケイツビー殿、そちらの事情はうちの執事から聞きました。怪我が治るまで、ゆっくりとこちらで養生して下さい。」「ありがとうございます、お言葉に甘えさせて頂きます。」「伯爵、ありがとう!」 ダイニングルームの扉が開き、ヘンリーがそう言ってシエルに抱き着いた。「こらお前、離れろ!」「ヘンリー様、坊ちゃんから離れて下さい。」 ヘンリーが突然現れた事に驚いてしまったセバスチャンだったが、彼は慌ててシエルからヘンリーを引き離そうとした。「伯爵、僕なんでもするから、ここに置いてよ!」「わかった、わかったから離れろ!」「やったぁ!」 ヘンリーがそう叫んでシエルに抱き着くと、彼の腕の下でシエルが苦しそうに息をした。「おいヘンリー、少しは落ち着けよ。」」 天井に吊るされたシャンデリアから長い尻尾を巻き付け、そこからぶら下がったネズミのヴィクトルがそう言って顔を出すと、メイリンが悲鳴を上げた。「ネ、ネズミ~!」「大丈夫だよ、この子は良い子だよ。」「そうですだか・・」「ヘンリー、なんでもすると言ったが、お前は何が出来るんだ?」「洗濯や掃除が出来るよ。」「そうか。お前をうちで雇う前に、お前のご主人様と話をしなければならないな。」「ご主人様と・・」 シエルの言葉を聞いたヘンリーの顔から笑みが消えた。「ヘンリー、どうした?」にほんブログ村
2019年07月01日
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黒執事・薔薇王の葬列クロスオーバー中世パラレル小説です。ディズニー映画「ノートルダムの鐘」風のパラレルですが、一部キャラ設定や時代設定が違っていたりしますが、それでもいいよという方のみお読みください。「今夜は嵐になりそうですね・・」 セバスチャンはそう呟きながら、窓を激しく叩く雨音に耳を澄ませていた。 その時、外から誰かが裏口のドアを叩く音がした。「あなたは・・」「お願い、二人を助けて!」 セバスチャンが裏口のドアを開けると、そこには全身血と泥で汚れたヘンリーが、今にも倒れそうな顔をしたリチャードと、負傷したケイツビーの身体をかろうじて支えていた。「どうぞ、中へ。」 セバスチャンはヘンリー達をファントムハイヴ伯爵邸の中へ招き入れると、メイリンとバルドーを叩き起こした。「メイリン、今すぐお湯の用意を。バルドーは温かいスープの用意を!」「イエッサー!」 セバスチャンは客間に入ると、そこには毛布を身体に巻き付けたヘンリーとリチャードの姿があった。「ありがとう、助かったよ。」「それよりも、一体何があったんですか?」「それがね・・」 ヘンリーはセバスチャンに、リチャードとケイツビーを見つけ、ここまで連れて来た経緯を話し始めた。 いつものようにヘンリーが大聖堂の鐘楼からパリの街を見下ろしていると、誰かが鐘楼へと上がって来る足音が聞こえてきた。「誰なの?」「ヘンリー、俺だ、助けてくれ。」そう言ってヘンリーの前に現れたリチャードは、全身血と泥だらけだった。「リチャード、どうしたの?」「ジプシー狩りに遭って、俺を庇ったケイツビーが矢で射(う)たれた。」「君は、何処にも怪我はない?」「あぁ・・」「ここじゃ、君達には僕は何もしてあげられない。だから、僕は君達を助けてくれる人の所へ連れて行くよ。」「頼む・・」 こうして、ヘンリーはリチャード達をファントムハイヴ伯爵邸へと連れて来たのだった。「ケイツビーさんは、どこに?」「ご安心ください、ケイツビー様なら、今客用の寝室で医師の手当てを受けています。」「そうか、良かった。」 リチャードはセバスチャンの言葉を聞くと、安堵の表情を浮かべた。にほんブログ村
2019年06月28日
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黒執事・薔薇王の葬列クロスオーバー中世パラレル小説です。ディズニー映画「ノートルダムの鐘」風のパラレルですが、一部キャラ設定や時代設定が違っていたりしますが、それでもいいよという方のみお読みください。「一体何が起きているんだ?」「ジプシー狩りだ、みんな逃げろ!」 何処からかそんな声が聞こえ、リチャードとケイツビーは素早く荷物をまとめ、隠れ家の裏口から外へと出た。 土砂降りの雨に打たれながら、2人は行く当てもなくパリの街を彷徨った。「リチャード様、何処か雨風を凌げる場所を探しましょう。」「あぁ、そうだな・・」「居たぞ、あそこだ!」「リチャード様、危ない!」 兵士がリチャードに向けて放たれた矢は、彼女を庇ったケイツビーの胸に突き刺さった。「ケイツビー!」「リチャード様、わたしに構わずお逃げください!」「お前を置いてなどいけるか、馬鹿!」 リチャードは負傷したケイツビーの肩に手を回し、彼の身体を支えながら、再びパリの街を彷徨った。「何だと、あの娘が逃げただと!?」「はい、そのようです。」「そうか・・」 バッキンガム判事は暖炉の炎を眺めながら、部下の話に耳を傾けていた。「宿屋で例の娘を見つけ、捕えようと脅しのため矢を放ちました・・」「わたしは生け捕りにしろと命じた筈だ!」「娘は負傷した従者を連れて何処かへ消えました。」「そうか・・」 娘の傍に仕えるあの忌々しい従者は何処かで野垂れ死んでくれればいいが、あの娘だけは必ず手に入れたい。「あなた、どうなさったの?」「いや、何でもない・・」「何か気に病んでいる事でもあるのかしら?」 キャサリンはそう言うと、夫が全く手をつけていない夕食を見た。「ねぇあなた、もうそろそろ子どもをつくりたいの。」「申し訳ないが、その話は後にしてくれ。」「あなた・・」 子どもの話となると、決まってバッキンガムは必ずそう言っては自室へと引き上げてしまう。 その時、夫が何を考えているのかが、キャサリンは女の勘でわかった。「そう・・あの娘にあなたの夫は夢中なのね、キャサリン。」「お姉様、わたしどうしたらいいの?」にほんブログ村
2019年06月21日
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黒執事・薔薇王の葬列クロスオーバー中世パラレル小説です。ディズニー映画「ノートルダムの鐘」風のパラレルですが、一部キャラ設定や時代設定が違っていたりしますが、それでもいいよという方のみお読みください。 雷鳴を聞きながら、リチャードは寝返りをうった。 目を閉じようとしても、雷鳴を聞く度にあの日の事を思い出してしまう。 あの日も、こんな風に外で雷鳴が轟いていた。「リチャード、この方はお前の夫となる方よ。」そう言って母・セシリーがリチャードに紹介したのは、顔や身体の大半が贅肉で覆われた男だった。その男は乱暴者として悪名高く、噂によると前妻は男に殴り殺されたという。「奥様は一体、何を考えていらっしゃるのかしら?」「あのような男をリチャード様の婿に迎えるなど・・」 使用人達がそんな事を厨房で話しているのを聞いたリチャードは、その日の夜、自室で寝ていると、かすかな物音がして目を覚ますと、そこにはあの男が立っていた。「お前、何故ここにいる?」「奥様が、あんたと仲良くなれってさ。」そう言った男は、リチャードを寝台の上に押し倒した。「やめろ、離せ!」「これから、仲良くしようぜ?」 彼がこれから自分に何をするのかがわかったリチャードは、必死に男に抵抗したが、男の力には敵わなかった。「女は大人しく俺様に向かって股を開けばいいんだよ!」 男から殴られ、リチャードは気絶したふりをして寝台の近くに置いてある燭台へと手を伸ばし、それで渾身の力を込めて、男の頭を殴った。「ぐがぁ!」 両手で頭を押さえ、絨毯の上を転げまわる男から逃げるようにして部屋から出たリチャードを待っていたものは、セシリーからの平手打ちと罵声だった。「さっさと部屋に戻りなさい!」「ですが、母上・・」「お前は、わたしに恥をかかせたいの!?」 男から乱暴されそうになっている娘を慮る事もせず加害者を庇うセシリーの態度に絶望したリチャードは、そのまま家を出た。 それ以来、実家には一度も戻っていない。 行く当てもなく、路上を彷徨いながらその日暮らしをしていたリチャードを救ったのは、心配した父にリチャード捜索を命じられたリチャードの従者・ケイツビーだった。 彼は家には戻らないというリチャードの意思を尊重し、彼女と共にジプシーの旅芸人一座に加わったのだった。「リチャード様、起きて下さい。」「ケイツビー、何かあったのか?」「えぇ、それが・・」 ケイツビーが次の言葉を継ごうとした時、外から女の悲鳴が聞こえた。にほんブログ村
2019年06月17日
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黒執事・薔薇王の葬列クロスオーバー中世パラレル小説です。ディズニー映画「ノートルダムの鐘」風のパラレルですが、一部キャラ設定や時代設定が違っていたりしますが、それでもいいよという方のみお読みください。 同じ頃、ファントムハイヴ伯爵邸の前に、アンは立っていた。(ここに、本当にリチャード様がいるなんて信じたくないけれど・・一目リチャード様の姿を確かめないと・・)「おい貴様、ここで何をしている?」 背後から声がしたのでアンが振り向くと、そこには伯爵と執事の姿があった。「わたくしはアン=ネヴィルと申します。こちらに伺ったのは、リチャード様の事で・・」「ミス・アン、お待ち申し上げておりました。どうぞ中へ。」「はい・・」 少し戸惑いながらも、アンはシエル達と共にファントムハイヴ伯爵邸の中へと入った。「あの、リチャード様がこちらでお世話になっていると聞きました。リチャード様はどちらに?」「残念ですが、リチャード様は今、こちらにはいらっしゃいません。」「いらっしゃらない?それは、どういう事ですか?」「急に黙って出て行かれてしまったのです。お部屋にわたしが入ると、このようなものが、寝台の上に置かれておりました。」“探さないでください”「リチャード様は、何処に行ったのかわかりますか?」「それは、わたくし共にもわかりかねます。」「そうですか・・」「ミス・アン、あなたはリチャード様の幼馴染だと聞きました。リチャード様は何故、家を出てしまわれたのですか?」 セバスチャンの問いに、一瞬アンは唇を硬く引き結んだが、その後ゆっくりとリチャードが家を出た理由を話し出した。「それは、セシリー様が勝手にリチャード様の縁談を進めた所為ですわ。リチャード様の縁談相手は裕福な商人ですが・・彼は乱暴者で有名でした。」 リチャードはその縁談相手に無理矢理犯されそうになり、その場から命からがら逃げ出したのだった。「セシリー様は、リチャード様を庇うどころか、リチャード様を責めました。」「それは酷いな・・」「セシリー様は何故、リチャード様を嫌っていらっしゃるのですか?」「嫌うなんて、そんな生易しいものではありません。セシリー様は、リチャード様を憎んでいるのです。」「何故、憎んでいるのです?」「それは、リチャード様が悪魔だからです。」 外で、雷鳴が轟いた。「リチャード様が、悪魔?それは一体どういう事なのですか?」「それは、わたしにはわかりません・・」 アンはそれっきり黙り込んでしまった。 セバスチャンの脳裏に、ノートルダム大聖堂で半狂乱になったセシリーの姿が蘇った。(アン様も知らない、リチャード様の秘密があるのかもしれませんね・・)にほんブログ村
2019年06月14日
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黒執事・薔薇王の葬列クロスオーバー中世パラレル小説です。ディズニー映画「ノートルダムの鐘」風のパラレルですが、一部キャラ設定や時代設定が違っていたりしますが、それでもいいよという方のみお読みください。「恋の話なら、このリリー姐さんに任せな!」「おいリリー、ヘンリーはうぶなんだぜ、こいつに刺激が強い話はよせ!」「刺激が強い話って何だい?あんたとあたしの・・」「よせって!」「全く、うぶなのはどっちだか!」 リリーがそう言って笑うと、誰かが鐘楼に入って来る気配がした。「ヘンリー、気をつけろよ!」「う、うん・・」 ヘンリーが護身用の短剣を握り締めていると、足音がゆっくりと、そして各辻に自分達の方へと近づいて来た。「曲者!」「ヘンリー、落ち着け、俺だ!」 短剣を手にしたヘンリーの前に現れたのは、フードを目深に被ったリチャードだった。「リチャード、どうしてここへ?鐘楼の鍵はご主人様しか持っていない筈・・」「ヘンリー、俺が深窓の令嬢だと思っているのなら、とんだ思い違いだな。どうやら俺は掏摸(すり)の才能もあるらしい。そう言ってヘンリーに向かって笑った掌の中には、鐘楼の鍵があった。「ここにきては駄目だよ、リチャード!ご主人様に見つかったら、どうなるか・・」「俺はあの男など恐れてはいない。」「ねぇ、どうして君は家を出たの?」「自分らしく生きる為だ。俺は、誰かの言いなりにはならない。」「君は強いね、リチャード。僕とは大違いだ。」「ヘンリー、自分の心を自分で縛ろうとするな。自分を好きになれるのも嫌いになれるのも自分の心次第だ。」「リチャード・・」「お前に会いに来たのは、これをお前に渡しに来た。」そう言ったリチャードは、ヘンリーの首にルビーのペンダントを提げた。「これは?」「ここに、“奇跡の法廷”の場所が示されている。」「どうして、そんな大切な物を僕に?」「お前を信頼しているからだ。」「そう・・」「また会おう、ヘンリー」 リチャードはそう言うと、ヘンリーの頬にキスをした。 リチャードが立ち去った後、ヘンリーはリチャードに触れられた所が未だに熱くなっている事に気づいた。にほんブログ村
2019年06月10日
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黒執事・薔薇王の葬列クロスオーバー中世パラレル小説です。ディズニー映画「ノートルダムの鐘」風のパラレルですが、一部キャラ設定や時代設定が違っていたりしますが、それでもいいよという方のみお読みください。「あら、奇遇ですわね、ファントムハイヴ伯爵。」「おや、ウッドウィル夫人、貴女もこんな所にいらっしゃるのですね。」「わたくしも神の子ですわ、伯爵。」「では司教様、わたしはこれで。」シエルはそう言ってデヴァルジュ司教に向かって頭を下げると、エリザベスに挨拶もせずに大聖堂から出て行った。「あの態度、何なの!?わたしを完全に馬鹿にしているわ!」「お姉様、落ち着いて!」キャサリンは突然激昂した姉を慌てて宥めたが、彼女の怒りは簡単には収まらなかった。「これが落ち着いてなどいられないわ!あの子は、わたしを“ウッドウィル夫人”と呼んだのよ、プランタジネット公爵夫人ではなく!」「お静かに、エリザベス様。ここは神の家ですよ。」「まぁ、これは失礼を。」「一体朝から何の騒ぎだ?」「あなた!」「これはバッキンガム判事、わざわざいらして下さりありがとうございます。」「司教様、あの踊り子は見つかりませんか?」「えぇ、残念ながら。」「そうですか。」 バッキンガム判事は、金色の瞳を光らせながら、大聖堂の柱の陰からこちらを見ているヘンリーを睨んだ。 バッキンガムの視線に気づいたヘンリーは、慌てて鐘楼へと身を隠した。だが、彼はヘンリーを追って鐘楼の中に入ってきた。「ヘンリー、お前まさかあの踊り子を匿ってなどいないだろうな?」「いいえ、ご主人様・・」「そうか。」 バッキンガム判事は黒衣の裾を翻し、鐘楼から去った。「どうしたんだ、あいつ?」 ヘンリーの肩の上に乗ったネズミのヴィクトルは、そう言ってヘンリーの手からチーズを取り、それを頬張った。「わからないよ、僕には。」「なぁ、あいつもしかしてあの踊り子に気があるんじゃないか?」「まさか!」「お前は恋愛に疎いからなぁ。」 ヴィクトルはそう言うと、笑った。「ご主人様は、どうしてリチャードを・・」「知ってるか、ヘンリー?愛の反対は無関心。相手を愛しているから、憎んでもいるのさ。」「じゃぁ、僕はご主人様に愛されているのかな?」 バッキンガム判事は孤児である自分を育て、読み書きを教えてくれていたが、そこに愛は感じられなかった。 だが、バッキンガム判事はいつもヘンリーに自分に感謝するように言う。いつも鐘楼の下から眺めている親子の姿は愛に溢れているというのに。(僕が化け物だから、ご主人様は僕を愛してくれないの?)「ヘンリー、落ち込まないで、あたしが話を聞いてあげるわよ。」そう言いながら、ヴィクトルのガールフレンド・リリーがヘンリーの左肩の上に乗った。にほんブログ村
2019年06月07日
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黒執事・薔薇王の葬列クロスオーバー中世パラレル小説です。ディズニー映画「ノートルダムの鐘」風のパラレルですが、一部キャラ設定や時代設定が違っていたりしますが、それでもいいよという方のみお読みください。「わたしにお聞きしたい事とは何でしょうか?」「何故、リチャード様はご実家をお出になったのです?」「リチャード様は、家で刺繍をしながら戦場から夫の帰りを待つよりも、自ら戦場で剣を振るう方がお好きな方です。ですがセシリー様は、そんなリチャード様の事を理解なさろうとなさいませんでした。」 ケイツビーの言葉を聞きながら、セシリーとリチャードの母娘関係がどのようなものなのかが、セバスチャンは容易に想像できた。「リチャード様は、セシリー様からの過干渉と束縛に耐え切れず、家を飛び出しました。」「貴族の令嬢であるリチャード様が、何故旅芸人一座の踊り子に?」「セシリー様は、リチャード様が病弱である事を理由に、あの方を屋敷の外から一歩も出しませんでした。リチャード様は、外の世界をこの目で見てみたいとおっしゃったのです。」「これから、どうなさるおつもりですか?」「一座は明朝、パリを発ちます。もうあなた方とは二度と会う事はないでしょう。」「旅の安全と、貴方達の幸運を祈っていますよ。」「ここでお世話になった事、一生忘れません。」 ケイツビーはそう言うと、セバスチャンに向かって深く頭を下げた。「ケイツビー、行くぞ。」「はい。」 ノートルダム大聖堂は、この日行われた慈善バザーで、多くの人が集まっていた。 その中に、アンとイザベルの姿もあった。「沢山人が来ているわね。」「見てお姉様、ウッドウィル一族も来ているわ。大方、善行をアピールして上流階級の仲間入りをしたいんでしょうよ、きっと。」「そんな事言うものじゃないわ、イザベル。」「あら、本当の事じゃない!」イザベラがそう言いながら歩いていると、彼女は一人の少年とぶつかった。「ごめんなさい、坊や。怪我はない?」「ええ、大丈夫です。」そう言った少年は、長身の従者を引き連れ、デヴァルジュ司教の元へと向かった。「あの子、もしかしてファントムハイヴ伯爵?」「あんな子どもが?」「噂で聞いた事があるわ、先代のファントムハイヴ伯爵は、“家業”の所為で殺されたとか・・」「もしその噂が本当ならば、彼に媚を売った方がいいわね。」エリザベス=ウッドウィルは口元に卑しい笑みを浮かべながら、ゆっくりとシエル達の方へと近づいていった。にほんブログ村
2019年06月03日
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黒執事・薔薇王の葬列クロスオーバー中世パラレル小説です。ディズニー映画「ノートルダムの鐘」風のパラレルですが、一部キャラ設定や時代設定が違っていたりしますが、それでもいいよという方のみお読みください。「お姉様、大丈夫?」「えぇ、大丈夫よ。」 イザベルは咄嗟に、アンの指から滴り落ちる血を舐め取った。「どうして、リチャード様が踊り子なんかに・・」「セシリー様が追い出したに違いないわ。あの方はいつもリチャード様を目の敵にしていたもの。」「イザベル、滅多な事を言うものじゃないわ!」「あら、みんな知っているわ。今更隠す事はないでしょう?」「それは、そうだけれど・・」「あなた達、そんな所で何をしているの?油を売っている暇はないでしょう?」「はい、お母様。」「あなた達、早く部屋に戻って出掛ける支度をなさい、今日は忙しいんだから!」 不機嫌なネヴィル夫人から逃げるように、アンとイザベルはそれぞれ自室へと戻った。 一方、シエルは毎朝リチャードから剣の稽古を受け、連日筋肉痛に苦しんでいた。「あの女、何をどうしたらあんなに強くなれるんだ?」「あれは、日頃の鍛錬の賜物でしょう。あの方は坊ちゃん程甘やかされていないのでは?」「甘やかされているだと、僕が?」 シエルはそう言うと、蒼い瞳でセバスチャンを睨んだ。「失言でしたね。」 セバスチャンがそう言ってシエルに頭を垂れていると、遠くからメイリンの悲鳴が聞こえた。「どうしたのですか、メイリン?」「大変ですだぁ、今日協会に寄付するテーブルクロスが・・」メイリンがそう言ってセバスチャンに見せたものは、ネズミにかじられたテーブルクロスだった。「どうしましょう、今から作り直すにしても、時間がねぇですだ。」「見せてみろ。」 リチャードがメイリンの背後に立ったかと思うと、彼女はメイリンの手からボロボロのテーブルクロスを手に取った。「テーブルクロスは、俺が作ろう。」「このような物を、貴女が作れるのですか?」「俺を余り侮るな。」リチャードはそう言ってセバスチャンを睨みつけ、そのままメイリンと共に裁縫室の中へと入った。「坊ちゃん、お待たせしましただ!」 一時間後、裁縫室から出て来たメイリンは、息を弾ませながら、美しい刺繍が施されたテーブルクロスを広げた。「これは、見事ですね。」「言っただろう、俺を侮るなと。」「リチャード様、お召し替えを。」「わかった。」「ケイツビーさん、少しお尋ねしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」「ええ、構いませんが・・」にほんブログ村
2019年05月31日
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黒執事・薔薇王の葬列クロスオーバー中世パラレル小説です。ディズニー映画「ノートルダムの鐘」風のパラレルですが、一部キャラ設定や時代設定が違っていたりしますが、それでもいいよという方のみお読みください。「おはようございます、坊ちゃん。」「セバスチャン、昨夜お前が話していた事は本当か?」「はい、わたしは嘘を吐きません。」そう言ったセバスチャンは、昨夜シエルに話した内容を思い出していた。 シエルにノートルダム大聖堂で目撃した事をセバスチャンが報告すると、リチャードが貴族の娘と知り、シエルは動揺を隠せなかった。「何故、彼女は家から追い出されたんだ?」「お言葉ですが坊ちゃん、彼女は家から“追い出された”のではなく、自ら家を出たのでしょう。」「あの男―ケイツビーの素性はわかったのか?」「はい。彼はジプシーで、ジプシー狩りに遭って両親を亡くし、プランタジネット公爵に拾われ、リチャード様付きの執事となったとか。」「そうか。セバスチャン、引き続き二人の事を調べろ。」「御意。」 シエルがダイニングルームで朝食を取っていると、中庭から突然剣戟の音がした。「シエル様、おはようございます。」「おはようございます、ケイツビーさん。朝から一体何をなさっているのですか?」「剣術の稽古です。シエル様もいかがです?」「いや、いい。」「坊ちゃん、お屋敷に引き籠ってばかりいたら身体が鈍ってしまいますよ。」 セバスチャンはそう言うと、剣の稽古を渋るシエルを半ば強引にケイツビー達の前へと押し出した。「セバスチャン、お前・・」「では、シエル様のお相手はわたしが・・」「いや、俺がシエル様のお相手をしよう。」そう言ってケイツビーを軽く押しのけたリチャードは、持っていた剣の切っ先をシエルに向けた。「言っておくが、俺は子供相手でも容赦しない。」「望むところだ。」シエルはリチャードを睨みつけたが、彼は呆気なく数分も経たぬうちにリチャードに倒された。「俺がここに滞在している間、剣の稽古をつけてやろう。」「それは光栄です、リチャード様。ねぇ、坊ちゃん。」「あ、あぁ・・」 こうして、シエルとリチャードの奇妙な共同生活が始まった。 同じ頃、ネヴィル家の長女・アンは溜息を吐きながら窓の外を眺めていた。「お姉様、溜息なんか吐いてどうしたの?」「イザベル、リチャード様はまだ見つからないの?」「リチャード様なら、この前のお祭りで踊っているのを見たわよ。」 妹の言葉を聞いたアンは、思わず刺繍針を指に刺してしまった。にほんブログ村
2019年05月27日
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黒執事・薔薇王の葬列クロスオーバー中世パラレル小説です。ディズニー映画「ノートルダムの鐘」風のパラレルですが、一部キャラ設定や時代設定が違っていたりしますが、それでもいいよという方のみお読みください。※BGMと共にお楽しみください。「ごめんなさいね、急に来てしまって。」 キャサリンの姉・エリザベスは、そう言うとバッキンガム判事に一通の招待状を手渡した。「これは?」「今週末、お義父様のお誕生日パーティーが開かれるの。あなたも来てくださるわよね?」「当然だ。」 エリザベスの嫁ぎ先は、プランタジネット公爵家だ。 社交界の重鎮的存在であるプランタジネット公爵の機嫌を損ねないようにしなければ―そう思ったバッキンガム判事がそう言うと、エリザベスは何処かホッとしたような表情を浮かべた。「キャサリンから、あなたがあの例の踊り子に夢中になっていると聞いたわよ。夫婦仲は上手くいっているの?」「人の心配をするよりも、あんたの旦那の事を心配したらどうだ?あんたの旦那、最近あの娼婦の所に入り浸っているそうじゃないか?」「あんなの、男の嗜みのひとつだわ。彼は、わたしの事を一番愛していると・・」「男は平気でうそを吐く。女はその嘘を平気で信じる。」「あなたはいつも、わたしを不快にさせるような事ばかり言うのね?」「嫌いな相手に媚を売ってどうする?」「あら、そう。では私の方もあなたには今後遠慮などしなくていい、そう思っていいのね?」「そう受け取ってくれて構わない。」「失礼するわ。」 エリザベスはバッキンガム邸から出て行った。「あなたは何故お姉様と仲良くしようとなさらないの?」「お前の姉だからといって、俺が仲良くする義務などないだろう?」 戸惑う妻に背を向け、バッキンガム判事は執務室から出て、自室に入った。 暖炉の炎を見つめながら、バッキンガム判事はリチャードの事を考えていた。 ジプシーとは思えぬ肌の白さと、左右異色の瞳。 何処か魔性めいた魅力を持った彼女に、いつしかバッキンガム判事は惹かれていった。(人間とは、愚かなものだな・・) 彼女の白い肌を、炎が灼くさまを想像すると、バッキンガム判事は自然と笑みを浮かべていた。(あの女を、必ず捕えてやる!そして、あの女を俺の手で火炙りにしてやる!) 欲望を宿して爛々と瞳を輝かせているバッキンガムの姿は、悪魔そのものだった。にほんブログ村
2019年05月24日
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黒執事・薔薇王の葬列クロスオーバー中世パラレル小説です。ディズニー映画「ノートルダムの鐘」風のパラレルですが、一部キャラ設定や時代設定が違っていたりしますが、それでもいいよという方のみお読みください。「先程騒いでいらした方は、貴女のお知り合いのようですね?」セバスチャンの言葉を聞いたリチャードは、そっと目を伏せた。「あの人は、俺の母だ。」「そうですか・・貴女は何故、実の母親から憎まれているのですか?」「それは、俺が男と女、両方の性を持っているからだ。」リチャードの衝撃的な告白に、セバスチャンは絶句した。「俺は昔、あの人から何度も殺されかけたことがある。あの人は、俺の母であって、母ではない。」そう言ったリチャードがセバスチャンに背を向けて立ち去ろうとした時、入り口の方が急に騒がしくなった。「居たぞ、あの女だ!」 武装した兵士の一人が、そう言ってリチャードを指した。 セバスチャンが入り口の方を見ると、そこには彼らの仲間と思しき数人の兵士達の姿があった。 どうやら彼らは、バッキンガム判事の命令で大聖堂にやって来たらしい。「ここは聖域だ、たとえあの男が俺を捕えろとお前達に命じたところで、お前達は何もできない。」この時代、教会には政治家や貴族ですら力が及ばない権力があり、リチャードのように一度聖域であるノートルダム大聖堂へと一歩足を踏み入れた者は、たとえあのバッキンガム判事であっても捕えることは出来ないのだった。「・・おのれ!」 兵士の一人がリチャードに殴りかかろうとしたのを見たセバスチャンは、その兵士の腕を捻り上げた。「神の家で乱暴な真似は許されませんよ。」「そうだ、神の家から出ていけ!」 周囲の冷たい視線を浴びながら、兵士達は大聖堂から出て行った。「助けてくれてありがとう。」「これからどうなさるおつもりですか?」「それはまだ決めていない。」「でしたら、我が主の元へ参りましょう。わたしから坊ちゃんに事情をお話し致しますので。」「・・わかった、世話になろう。」 こうして、リチャードはファントムハイヴ伯爵邸にしばらく滞在する事になった。「これからお世話になります。」「こちらこそよろしくお願い致しますね、ケイツビーさん。」「何だと、取り逃がしただと!?」「申し訳ありません、判事・・」「下がれ、まぬけめ!」 バッキンガム判事は、そう言うと燃え盛る暖炉の前に立ち、暫くその炎を眺めていた。「あなた、執務室の中にいらっしゃるの?」「どうしたキャサリン、何か用か?」「お姉様が、あなたに会いにいらしたわ。」にほんブログ村
2019年05月20日
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黒執事・薔薇王の葬列クロスオーバー中世パラレル小説です。ディズニー映画「ノートルダムの鐘」風のパラレルですが、一部キャラ設定や時代設定が違っていたりしますが、それでもいいよという方のみお読みください。「おはようございます、坊ちゃん。」 セバスチャンがシエルを起こしに主の寝室へと向かうと、彼は苦しそうに咳をしていた。「坊ちゃん、今医者を・・」「いい、少し休めば治る。それよりも・・」「わかりました。」 セバスチャンは病に臥せっているシエルの代わりに、ファントムハイヴ伯爵邸を出てノートルダム大聖堂へと向かった。「おや、セバスチャン殿ではありませんか?」 セバスチャンがノートルダムの薔薇窓を眺めていると、そこへアーガス神父がやって来た。 アーガス神父は淡い蒼い瞳でセバスチャンの主が居ない事に気づいた。「ファントムハイヴ伯爵はどうかなさったのですか?」「坊ちゃんは、風邪で寝込んでしまいました。」「それは・・後でお見舞いに伺ってもよろしいでしょうか?」「申し訳ありません、坊ちゃんは誰ともお会いしたくないとおっしゃっております。」「そうですか、それは残念です。」 アーガス神父は、隙あらばシエルのような貴族や、有力者に取り入ろうとする男である。 シエルはそんな彼を嫌い、彼を極力避けているのだが、アーガス神父には自分がシエルから避けられる理由がわからないらしい。「アーガス神父様、お助け下さい!」 (欲深なのは、聖職者も同じですね。) セバスチャンがそんな事を思いながら薔薇窓を眺めていた時、美しいドレスで着飾った貴婦人が大聖堂の中へと駆け込んできた。「奥様、落ち着いて下さい!」「悪魔が、悪魔がわたしを殺しに来る!」 その貴婦人はブロンドの髪を振り乱しながら、そう叫んで気絶した。「奥様!」「奥様~!」 貴婦人の供と思しき数人の女性達は、主が目の目で昏倒したのを目の当たりにして、悲鳴を上げたり泣き叫んだりした。「司祭様、あの方は一体どなたなのですか?」「あの方は、プランタジネット公爵の奥方様の、セシリー様でいらっしゃいます。セシリー様はとても信心深い方で、毎年こちらに多額の寄付をしてくださっています。」「そうですか・・」 セバスチャンは、彼女が倒れる前に彼女が呟いた“悪魔”とい言葉が気になった。(一体、彼女は何に怯えていたのだろう?) セバスチャンがそんな事を思いながら大聖堂内を歩いていると、彼は一人の女性とぶつかった。「申し訳ありません、お怪我はございませんか?」「いや、大丈夫だ。」そう言ってセバスチャンを見たのは、黒と銀の瞳を持った例の踊り子だった。「少しお話したいことがありますので、わたしと共に来て頂けないでしょうか?」「・・わかった。」にほんブログ村
2019年05月17日
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黒執事・薔薇王の葬列クロスオーバー中世パラレル小説です。ディズニー映画「ノートルダムの鐘」風のパラレルですが、一部キャラ設定や時代設定が違っていたりしますが、それでもいいよという方のみお読みください。 セバスチャンは彼女に睨まれて一瞬たじろいだが、ここは主の体面を保つ為、一旦退いた方がよそさそうだと瞬時に判断した。「そうですか。ではわたしはこれで失礼致します。」「お言葉ですがミス・キャサリン、彼は我が伯爵家の執事だが、僕の後見人だ。」「まぁ、そうでしたの。それならば仕方ありませんわね。」ただの使用人であるセバスチャンが、次期伯爵であるシエルの後見人と知り、一瞬狼狽しながらもキャサリンはわざとらしく豊満な胸を揺らしながら、静かな口調で話し始めた。「夫はあの祭りで、あのジプシーの踊り子に恥をかかされたのを根に持っておりまして、あのジプシーの踊り子を血眼で探しておりますの。」「残念ですがミス・キャサリン、わたくし共はその踊り子の行方を存じ上げません、お力になれず残念です。」「まぁ、そうでしたの。どうやらこちらを訪ねたのは、無駄足に終わりましたわね。」キャサリンはそう残念そうに言ったが、その言葉の端々には微かな毒が含まれていた。「セバスチャン、ミス・キャサリンをお宅までお送りしろ。」「イエス、マイロード。」「表に馬車を待たせておりますの、お気持ちだけで充分ですわ。」 またお会い致しましょう、キャサリンはセバスチャンの耳元でそう囁いた後、ファントムハイヴ邸から去っていった。「あれがウッドウィル家の美人姉妹の、妹の方か。」「坊ちゃん、まさかとは思いますが・・」「僕は年増には興味がない、勘違いするな。」「これは失礼を。それよりも、キャサリン様は何処から坊ちゃんの事をお知りになられたのでしょう?」「さぁな。それよりもあの踊り子は何処へ消えたんだろうな?」「彼女なら、“聖域”に居るのではないかと。」「“聖域”だと?」「あのバッキンガム判事の力が及ばない所といえば・・」「ノートルダム大聖堂か。」「えぇ。坊ちゃん、今夜は遅いので明日にでもノートルダム大聖堂へと参りましょう。」「わかった。」 同じ頃、プランタジネット公爵邸の一室では、一人の貴婦人が鏡に向かって話しかけていた。「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰?」―それは、リチャード。(リチャードを一刻も早く見つけ出して、殺さなくては!) その貴婦人は、鬼のような形相で割れた鏡を睨んでいた。そのひび割れた破片の隙間から、リチャードへの怒りと激しい殺意に燃えた彼女の蒼い瞳が、蝋燭(ろうそく)の仄かな灯りの下、爛々(らんらん)と不気味な光を放っていた。「奥様、どうかなさいましたか?」「手が滑って、鏡を割ってしまったの。破片を片付けて頂戴。」「まぁ、大変!奥様、お怪我はありませんでしたか?」「ええ。」 慌てた様子で、割れた鏡の破片を片付けている侍女達の姿を見ながら、貴婦人は怒りで乱れた呼吸を整えていた。「お前達はもう下がりなさい。」「かしこまりました。お休みなさいませ、奥様。」 侍女達が部屋から立ち去った後、貴婦人はロザリオを握り締め、神に救いを乞うた。にほんブログ村
2019年05月13日
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黒執事・薔薇王の葬列クロスオーバー中世パラレル小説です。ディズニー映画「ノートルダムの鐘」風のパラレルですが、一部キャラ設定や時代設定が違っていたりしますが、それでもいいよという方のみお読みください。「坊ちゃん、お帰りなさい。」「お帰りなさいですだ!」 シエルとセバスチャンが広場から帰宅すると、ファントムハイヴ家の使用人達が一斉に二人を出迎えた。「メイリン、バルドー、フィニ、一体何があったのです?」「セバスチャン、俺達は何もしてねぇぜ!」「そ、そうですよ!」そう言ったバルドーとフィニの目は、少し泳いでいた。 セバスチャンが厨房に入ると、案の定そこは足の踏み場がない程散らかっていた。「バルドー、貴方一体何をしたんですか?」「い、いや、ちょっと、なあ・・」 バルドーがまた例の“創作料理”を作ろうとしたのかと睨んだセバスチャンは、大きく溜息を吐いた。「坊ちゃん、本日の夕食が遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。」「別に気になどしていない。それよりもセバスチャン、例の事はわかったのか?」「はい。バッキンガム判事は、あの若さで異例の出世をしたのは、ある事を徹底的に行ったからだそうですよ。」「ある事だと?」「ジプシー狩りですよ。」「バッキンガム判事は何故ジプシーを憎むんだ?ジプシーに親でも殺されたのか?」「殺されはしませんでしたが、昔バッキンガム公爵家はジプシーの金貸しから財産の大半を騙し取られたとか。」「坊主憎ければ何とやらか・・それよりも、あのジプシーの踊り子はどうなった?」「未だに行方はわかりません。ですが、彼女の出自に関する面白い事実が判りました。」「面白い事実だと?」「えぇ・・」 セバスチャンは口元に笑みを浮かべると、シエルの耳元に何かを囁いた。「そうか・・」「失礼いたします、坊ちゃん。お客様がいらっしゃっております。」「客だと、こんな時間にか?」「えぇ、それが、どうしても坊ちゃまにお会いしたいと・・」「失礼致します、ファントムハイヴ伯爵。夜分遅くに突然訪ねてしまって申し訳ありません。」 輝くようなブロンドの髪をなびかせながら、一人の貴婦人がダイニングルームへと入ってきた。「わたくしはキャサリン=ウッドウィルと申します。」「このようなお時間に、バッキンガム判事の奥様がどのようなご用件でこちらにいらっしゃったのですか?」「それは、使用人のあなたには申し上げられませんわ。」何処か有無を言わさぬ口調で、キャサリンはセバスチャンを睨みつけながらそう言った。彼女の蒼い瞳は、“使用人の分際ででしゃばるな”と、セバスチャンを静かに威圧しているかのようだった。にほんブログ村
2019年05月10日
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黒執事・薔薇王の葬列クロスオーバー中世パラレル小説です。ディズニー映画「ノートルダムの鐘」風のパラレルですが、一部キャラ設定や時代設定が違っていたりしますが、それでもいいよという方のみお読みください。「ほら、もっとあいつにトマトを投げてやれ!」バッキンガム判事はそう部下達を嗾(けしか)けると、トマト塗れになったヘンリーを見て笑った。彼の様子を隣で見ていたシエルは、ワイングラスの中身を彼にぶちまけてやりたい衝動を必死に抑えていた。「随分と悪趣味な見世物ですね。」そんな主の心中を慮ってか、セバスチャンはさりげなくバッキンガム判事に嫌味を言うと、ワインを注ぐふりをして、バッキンガムのグラスの中身をぶちまけた。「あぁ、これは失礼。」「帰るぞ、セバスチャン。こんな醜悪な見世物はこれ以上見たくない。」シエルはそう言うと、バッキンガム判事を睨んだ。「バッキンガム判事、弱者を虐げる事を生き甲斐とするような人間には、必ず天罰が下るだろう。」シエルはバッキンガム判事に背を向け、貴賓席を後にした。 広場の“玉座”では、全身を荒縄で縛られたヘンリーが、必死に身を捩って暴れていた。だが、暴れれば暴れるほど観客達は面白がり、彼に向かって容赦なくトマトを投げつけた。「ご主人様、お助け下さい!」「勝手に外に出た罰だ、しっかりと味わえ。」「待ってろヘンリー、今助けてやる!」 テントからヘンリーの元へと飛び移ったヴィクトルはそう叫ぶと、ヘンリーの腕を縛っている荒縄を齧り始めた。「やめろ!」 観客達の輪の中から、あの黒髪の踊り子・リチャードが飛び出てきた。「貴様、何の真似だ!?」 リチャードが手に持っていた短剣で素早くヘンリーを縛めていた荒縄を切り落とすのを見たバッキンガム判事が、怒りの声を上げた。「弱者を虐げる事でしか己の欲を満たせないのか、この愚か者め!」「おのれ、このわたしに向かって・・」「俺達は、どうやら王を間違えたようだ。」リチャードはヘンリーの頭からフェルトの王冠を剥ぎ取ると、それをバッキンガム判事に向かって投げつけた。「本物の道化の王は、貴様だバッキンガム!」「おい誰か、その女を捕まえろ!」 バッキンガム判事の部下達がリチャードを捕えようとしたが、義手のピエロと彼の仲間達がそれを阻んだ。「リチャード様、こちらへ!」「ありがとう、リチャード!」「また会おう、ヘンリー!」 リチャードは忠実な従者と共に、夕闇の中へと消えていった。にほんブログ村
2019年05月03日
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黒執事・薔薇王の葬列クロスオーバー中世パラレル小説です。ディズニー映画「ノートルダムの鐘」風のパラレルですが、一部キャラ設定や時代設定が違っていたりしますが、それでもいいよという方のみお読みください。「奇遇ですね、ファントムハイヴ伯爵、このような所で会えるなんて。」 神経を逆撫でするかのような声が聞こえ、シエルが振り向くと、そこにはバッキンガム判事の姿があった。「もうすぐあちらの広場の方で面白いものが見られますよ、ご覧になりますか?」「わかりました。」 シエルがセバスチャンとバッキンガム判事と共に貴賓席に着くと同時に、踊り子達が広場の中央に出て来た。 色とりどりの衣装を纏った彼女達の中から、一人の踊り子が出て来た。 顔を覆っていたヴェールを乱暴に剥ぎ取ったその踊り子は、白皙の美貌を民衆の前に晒した。 烏の濡れ羽色の髪、血のように紅い唇、そして黒と銀の瞳―それは、まるで闇の中に咲く白薔薇のような美しさだった。「彼女もジプシーか?だとしたら肌が白いのは何故だ?」「それはわたしにはわかりかねます、坊ちゃん。ですが、彼女の美しさは何処か魔性めいたものを感じますね。」セバスチャンは、そう言うと笑った。「何がおかしい?」」「いいえ、何も。」(全く、おかしな奴だ。) シエルがそんな事を思いながら黒髪の踊り子の方を見ると、シエルと彼女の目が一瞬合った。「さぁさぁ紳士淑女の皆様、道化の王様選びの始まりどすえ!」 義手のピエロがそう言いながら、仮面を被った参加者の顔から仮面を剥がし、その素顔を晒した。 その中に、ヘンリーの姿があった。「何と醜い仮面どすなぁ。ほな、素顔を見せてもらいまひょ。」 ピエロと祭りの観客達は、ヘンリーの顔が仮面ではなく素顔である事に気づき、悲鳴を上げた。「今年の道化の王様は、彼どす!皆様、彼に盛大な拍手を!」観客達から喝采を浴びながら、ヘンリーは意気揚々とした様子で“玉座”の上に座った。その時、ヘンリーはバッキンガム判事が自分を睨みつけている事に気づいた。「道化の王には、これをくれてやる!」 どこからともなく、そんな声が聞こえたかと思うと、バッキンガム判事の部下達がヘンリーに向かってトマトをぶつけた。観客達も、彼らに倣ってヘンリーにトマトをぶつけ始めた。にほんブログ村
2019年05月03日
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黒執事・薔薇王の葬列クロスオーバー中世パラレル小説です。ディズニー映画「ノートルダムの鐘」風のパラレルですが、一部キャラ設定や時代設定が違っていたりしますが、それでもいいよという方のみお読みください。 初めて外の世界へと出たヘンリーは、賑やかな音楽に満ちた祭りの広場を一周しながら、瞳を輝かせていた。 だがその時、彼は一人の少年とぶつかってしまった。「ごめんね、怪我はなかった?」「お前、その顔は・・」 ヘンリーは、少年が怯えたような目で、フードに隠された左側の焼け爛(ただ)れた顔を見ていた。 生まれて初めて、他人から恐怖の視線に晒されたヘンリーは、脱兎の如くその場から逃げ出した。(やっぱり、僕はモンスターなんだ!)「ヴィクトル、もう帰ろうよ。僕もう疲れちゃった。」「おいおいヘンリー、まだ祭りはこれからだぜ!」「でも・・」「さっきの事なんか忘れろ!ほら、見ろよ、道化の王様選びが始まるぞ!」 ヴィクトルはそう叫ぶと、ヘンリーの肩から勢い良く飛び降りて、器用に屋台のテントに張られたロープを伝いながら、道化の王様選びの会場となっている一番大きなテントの上へと行ってしまった。「待って、ヴィクトル、戻ってきて!」 慌ててヴィクトルを追いかけたヘンリーは、 バランスを崩した勢いで踊り子達が居るテントの中へと頭から突っ込んでしまった。「きゃぁ、変態!」「誰かこの男をテントから追い出して!」「ごめんね、僕は・・」「うるさいな、一体何の騒ぎだ?」 テントの奥から、宝石が鏤(ちりば)められた紫の衣装を纏った一人の踊り子が出て来た。 絹糸のような、烏の濡れ羽色の髪をしたその踊り子は、黒と銀の瞳でヘンリーを見つめた。「リチャード、こいつ覗き魔よ、つかまえて!」「違うんだ、僕は・・」「わざとじゃないんだから、許してやれ。」「でも・・」「お前達、そろそろ出番だぞ、早くしないか!」 テントの外から親方の声が聞こえ、踊り子達は慌ててテントから飛び出していった。「ごめんね、僕は・・」「お前、名前は?」「ヘ、ヘンリーだよ。僕、親友のヴィクトルを探しに来たら、迷っちゃって・・」「そうか、ヴィクトルはどんな男だ?」「白くて目が赤いネズミなんだ。」「わかった、後で、ここで会おう。仕事が終わったら、一緒にお前の親友を探してやる。」「リチャード、早く!」「わかった、すぐ行く!」「じゃぁね、リチャード!」 これが、ヘンリーとリチャードの、運命の出逢いだった。にほんブログ村
2019年05月02日
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黒執事・薔薇王の葬列クロスオーバー中世パラレル小説です。ディズニー映画「ノートルダムの鐘」風のパラレルですが、一部キャラ設定や時代設定が違っていたりしますが、それでもいいよという方のみお読みください。「ご、ご主人様、僕は・・」「ヘンリー、お前まさか、外へ出たいのか?」「いいえ、僕は、僕は・・」「いいかヘンリー、外の世界は危険に満ちている。外の世界は、お前にとって地獄だ。」 バッキンガム判事は溜息を吐きながら、そうヘンリーに言い聞かせた。「二度とこのような事を口に出すな、わかったな。」「はい、ご主人様。」 バッキンガム判事が部屋から出て行った後、ヘンリーは自分が作った街の模型を眺めながら涙を流した。一度も外の世界を知る事なく、このまま鐘楼の中で一生を終えるなんて嫌だ。「ヘンリー、俺がついている。一度だけ祭りを見ればいいじゃないか?」「でも・・」「今日は道化の祭りだ、お前のことなんか誰も気に留めやしないさ!」「そうだよね!」 バッキンガム判事には決して見つからぬよう、ヘンリーは大聖堂の雨樋(あまどい)を伝い、初めて外の世界へと飛び出した。 外の世界は、今まで世間と隔絶された世界の中で生きてきたヘンリーにとって大変刺激的なものだった。 だが、そこはとても楽しい場所だった。あちこちと店を見てまわる内に、ヘンリーは一人の少年とぶつかってしまった。「ごめんね、怪我はなかった?」「お前、その顔は・・」 ヘンリーの焼け爛れた方の顔を見た少年は、恐怖の表情を浮かべていた。「おい、待て!」 自分に背を向けて走り出したヘンリーをシエルは慌てて追おうとしたが、その前に彼は厄介な人物と会ってしまった。「奇遇だね、まさかこのような場で君と会えるなんて!」 レースをふんだんに使った、まるで白孔雀のような服を着た金髪の男が、そう言って熱っぽい視線をシエルに送った。「お久しぶりです、ドルイット子爵。」「愛らしい駒鳥と再び会えるなんて、主に感謝を!」 ドルイット子爵はそう言って腕を大きく広げると、胸の前で十字を切った。「坊ちゃん、こちらにいらっしゃったのですか、探しましたよ。」 白粉の臭いを全身からぷんぷんとさせながら、セバスチャンがシエルの元へとやって来た。 よく見ると、セバスチャンの白皙の美貌には、ところどころ女達がつけたと思われる口紅の跡が幾つかあった。「お前、一体どこに行っていた?」「ジプシー達の元へ行っておりました、情報収集の為に。」「情報収集だと?」「何でも、近々ジプシー狩りがあるようです。」「ジプシー狩りだと?バッキンガム判事は一体何を考えて・・」そうシエルが言った時、一人の女がセバスチャンにしなだれかかった。「色男さん、貴方の運命を特別に占ってあげるわ。」「結構です。」「まぁ、それは残念ね。」女はそう言ってセバスチャンから離れると、ちらりと横目でシエルを見た後、雑踏の中へと消えていった。(何なんだ、あの女は?)にほんブログ村
2019年04月28日
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黒執事・薔薇王の葬列クロスオーバー中世パラレル小説です。ディズニー映画「ノートルダムの鐘」風のパラレルですが、一部キャラ設定や時代設定が違っていたりしますが、それでもいいよという方のみお読みください。「ファントムハイヴ伯爵、お忙しい中わざわざわたくしの為にお時間を割いて頂き、ありがとうございます。」「いいえ、こちらこそ。」 先程セバスチャンからバッキンガム判事の冷酷ぶりを聞かされていたシエルは、バッキンガム判事に愛想笑いを浮かべながら、彼に対する不快感を完璧に隠した。「それで、本日はどのようなご用件でわたしに会いに?」「今日は道化の祭りですな。伯爵、急なお願いで申し訳ないのですが、伯爵の兵を少しお借りできないかと思いまして・・」「兵を?何故です?」「祭りになると、毎年ならず者達が良からぬものを運んできますからね・・その駆除の為に。」「申し訳ありませんが、兵を貴殿にお貸しする事は出来ません。」「そうですか・・それは残念です。」 バッキンガム判事はそう言って溜息を吐くと、客間から出て行った。彼が乗った場所が遠ざかるのを確認したシエルは玄関ホールに入るなり、近くに置いてあった花瓶を床に叩きつけた。「何が駆除だ、あの男!」「坊ちゃん、落ち着いて下さい。」 セバスチャンはメイドのメイリンに花瓶の破片を片づけるよう命じた。「坊ちゃん、お怪我はねぇですがか?」「大丈夫だ、さがれ。」「はいですだ。」 セバスチャンは、主の怒りが鎮まるのを暫く待った。「セバスチャン、祭りに行くぞ。」「お供致します。」 ノートルダム大聖堂の鐘楼では、ヘンリーが鳩の雛鳥を掌に乗せ、そこから広場を見下ろしていた。 広場は祭りの為に設けられた屋台の料理のうまそうな匂いや、音楽、人々の喧騒に満ちていた。「さぁ、おゆき。外は素晴らしい所だ、君はこんな所に居ちゃいけない。」やがて雛鳥は小さな羽をはばたかせ、パリの空へと旅立った。「漸く旅立ってくれたわね、全く!」そう言いながら口の中のおが屑を吐き出したのは、老女の石像・マリーだった。「運が悪かったね、婆さん。」するすると一匹の一匹のネズミがヘンリーの肩の上に登ると、彼はそう言ってチュウと鳴いた。「今年の祭りはいつになく賑やかね。ほらヘンリー、芸人が綱渡りを始めたわよ!」マリーがそう言ってヘンリーの方を見ると、彼は俯きながら泣いていた。「どうしたの、ヘンリー?」「みんな楽しそうなのに、どうして僕だけが・・」「一度だけ外へ抜け出せばいいじゃないか、ヘンリー?」ネズミのヴィクトルは、そう言ってヘンリーの頬を舐めた。「出来ないよ・・だって僕はモンスターなんだもの。」ヘンリーがそう言った時、誰かが階段を登ってくる音がした。「誰かと話している声が聞こえたが、俺の空耳か?」「ご主人様、おはようございます。」 バッキンガム判事は、ヘンリーの肩の上に乗っているヴィクトルを忌々しく見つめると、ヘンリーに書き取りの復習をさせた。「F・・フェスティバル!」「今、何と言った!?」にほんブログ村
2019年04月26日
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黒執事・薔薇王の葬列クロスオーバー中世パラレル小説です。ディズニー映画「ノートルダムの鐘」風のパラレルですが、一部キャラ設定や時代設定が違っていたりしますが、それでもいいよという方のみお読みください。それは、寒い冬の夜の事だった。 セーヌ川をすべるように進む小舟の中には、疲れ果てた顔をした数人のン旅人が、少しでも暖を取ろうと互いの身を寄せ合うようにして座っていた。 やがて彼らを乗せた小舟は船着き場に横づけにされた。 頭からフードを被った女が、寒さと空腹で泣く赤子を必死であやしたが、赤子は泣き止むどころか、ますます激しく泣きじゃくった。 その時、建物の陰から数人の兵士達が飛び出して来たかと思うと、彼らはあっという間に旅人達を取り囲んだ。 女は恐怖に怯えながら、腕に抱いた赤子を守ろうと、己の胸元へ引き寄せた。すると、船着き場から少し離れた所から、黒馬に跨った一人の男が彼らの前に現れた。 パリの冷酷な独裁者・バッキンガム判事だ。「こいつらを牢に繋いでおけ。」 武装した兵士達に取り囲まれた男達は、大人しく兵士達に捕らえられた。冬の寒さと飢えで凍え死ぬよりも、牢に繋がれた方がマシだからだ。「おい、お前何を隠している!?」「盗んだ物を隠しているに違いない、その女を捕らえろ!」 女は兵士達に捕らえられる前に、身を翻して船着き場から逃げ出した。「待て!」バッキンガムは黒馬を鞭で打つと、女を追い始めた。 女は必死にバッキンガム判事から逃げようとしたが、馬と人間の足ではスピードが違う。 徐々にバッキンガムの黒馬が女との距離を詰め、黒馬の荒い鼻息が女の背中にかかった。 それでも女は我が子を守る為、聖域であるノートルダム大聖堂へと続く石段をつんのめるようにして上り、正面扉を叩いた。「助けて!」女は堅く閉ざされた大聖堂の門を叩いたが、中から人は出てくることはなかった。だが女は我が子を救いたい一心で、神に救いを求めた。 しかし、バッキンガムが彼女の背後に迫っていた。女は必死にバッキンガムに抗ったが、バッキンガムは女の腕から赤子を奪い取った。その拍子に女はバランスを崩し、後頭部を石段に打ちつけ、ぐったりとしたまま動かなくなった。 バッキンガムは腕に抱いていた赤子が泣き出し、その小さな身体を包んでいた布を少し持ち上げ、その顔を見た途端彼は思わず顔をしかめた。 赤子の顔の左側は、醜く焼け爛れていたのだ。バッキンガムは赤子を井戸へと落そうとした時、中から司祭が出て来た。「やめろ、これ以上罪なき神の子を殺めるつもりか!?」「俺は正義を遂行しようとしたまでだ。」「神は全てをご覧になっているぞ、バッキンガム!」 その時、バッキンガムは感じたのだ、罪なき女を殺めた自分に対する神の怒りを!「どうすればいい?」「この子を我が子のように育てなさい。」「では、この子はノートルダムの鐘楼に住まわせる。こいつは化け物だからな。」 こうして、バッキンガムは赤子をヘンリーと名付け、ノートルダムの鐘楼に住まわせた。「坊ちゃん、バッキンガム判事様がお見えになりましただ!」「わかった、すぐ行くと伝えろ。」 シエルは忠実な従者を連れ、自室から出てバッキンガムが待つ客間へと向かった。にほんブログ村
2019年04月26日
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黒執事・薔薇王の葬列クロスオーバー中世パラレル小説です。ディズニー映画「ノートルダムの鐘」風のパラレルですが、一部キャラ設定や時代設定が違っていたりしますが、それでもいいよという方のみお読みください。 今日もパリの街に朝の訪れを告げる、ノートルダム大聖堂の鐘の音が鳴り響いている。 大小の鐘が美しい音色のハーモニーを生み出しているが、誰もそれを奏でている者の名も正体も知らない―「今日もあのうるさい鐘の音で起こされた。」 主の不機嫌な顔を見ながら、彼の従者は紅茶色の瞳に優しい光を宿した。「坊ちゃんは、あの鐘を鳴らしている者が誰なのかご存知ですか?」「そんなの、僕が知る筈がないだろう。」「そうですか、ではわたしが坊ちゃんに教えて差し上げましょう。鐘を鳴らしている者は、顔に醜い大きな傷がある怪物だそうです。」「怪物だと?」「えぇ。その怪物は光り輝くような金髪、宝石のような蒼い瞳、雪のような白い肌を持った怪物の名は、ヘンリーというそうですよ。」「怪物らしからぬ高貴な名だな。まだラテン語の授業まで時間がある。セバスチャン、退屈しのぎにもっと僕にその怪物の話を聞かせろ。」「御意、ご主人様。」 セバスチャンはそう言って軽く咳払いした後、ノートルダムの鐘楼に棲む怪物の話を始めた。 同じ頃、その怪物・ヘンリーは朝日を浴びながら鐘を鳴らしていた。 その時、風が吹いてヘンリーの焼け爛(ただ)れた顔があらわになった。にほんブログ村
2019年04月22日
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