F&B 腐向け転生パラレル二次創作小説:Rewrite The Stars 6
薄桜鬼 昼ドラオメガバースパラレル二次創作小説:羅刹の檻 10
黒執事 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧の騎士 2
天上の愛 地上の恋 転生現代パラレル二次創作小説:祝福の華 10
黒執事 転生パラレル二次創作小説:あなたに出会わなければ 5
YOI火宵の月パロ二次創作小説:蒼き月は真紅の太陽の愛を乞う 2
薄桜鬼 現代ハーレクインパラレル二次創作小説:甘い恋の魔法 7
火宵の月 転生オメガバースパラレル 二次創作小説:その花の名は 10
薄桜鬼異民族ファンタジー風パラレル二次創作小説:贄の花嫁 12
薄桜鬼ハリポタパラレル二次創作小説:その愛は、魔法にも似て 5
天上の愛地上の恋 大河転生パラレル二次創作小説:愛別離苦 0
火宵の月 BLOOD+パラレル二次創作小説:炎の月の子守唄 1
PEACEMAKER鐵 韓流時代劇風パラレル二次創作小説:蒼い華 14
黒執事 異民族ファンタジーパラレル二次創作小説:海の花嫁 1
火宵の月 韓流時代劇ファンタジーパラレル 二次創作小説:華夜 18
火宵の月×呪術廻戦 クロスオーバーパラレル二次創作小説:踊 1
薔薇王韓流時代劇パラレル 二次創作小説:白い華、紅い月 10
薄桜鬼 ハーレクイン風昼ドラパラレル 二次小説:紫の瞳の人魚姫 20
天上の愛地上の恋 転生昼ドラパラレル二次創作小説:アイタイノエンド 6
鬼滅の刃×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:麗しき華 1
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:鳳凰の系譜 1
薄桜鬼腐向け西洋風ファンタジーパラレル二次創作小説:瓦礫の聖母 13
コナン×薄桜鬼クロスオーバー二次創作小説:土方さんと安室さん 6
薄桜鬼×火宵の月 平安パラレルクロスオーバー二次創作小説:火喰鳥 7
天上の愛地上の恋 転生オメガバースパラレル二次創作小説:囚われの愛 8
天上の愛地上の恋 昼ドラ風時代パラレル二次創作小説:綾なして咲く華 2
ツイステ×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:闇の鏡と陰陽師 4
天愛×腐滅の刃クロスオーバーパラレル二次創作小説:夢幻の果て~soranji~ 0
ハリポタ×天上の愛地上の恋 クロスオーバー二次創作小説:光と闇の邂逅 2
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:月の国、炎の国 1
天愛×火宵の月 異民族クロスオーバーパラレル二次創作小説:蒼と翠の邂逅 0
陰陽師×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:君は僕に似ている 3
黒執事×ツイステ 現代パラレルクロスオーバー二次創作小説:戀セヨ人魚 2
黒執事×薔薇王中世パラレルクロスオーバー二次創作小説:薔薇と駒鳥 27
薄桜鬼×刀剣乱舞 腐向けクロスオーバー二次創作小説:輪廻の砂時計 9
火宵の月×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想いを繋ぐ紅玉 54
天上の愛地上の恋 昼ドラ転生パラレル二次創作小説:最愛~僕を見つけて~ 1
バチ官腐向け時代物パラレル二次創作小説:運命の花嫁~Famme Fatale~ 6
FLESH&BLOOD×黒執事 転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:碧の器 1
腐滅の刃 平安風ファンタジーパラレル二次創作小説:鬼の花嫁~紅ノ絲~ 1
天愛×薄桜鬼×火宵の月 吸血鬼クロスオーバ―パラレル二次創作小説:金と黒 4
黒執事×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:悪魔と陰陽師 1
火宵の月 戦国風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:泥中に咲く 1
火宵の月 地獄先生ぬ~べ~パラレル二次創作小説:誰かの心臓になれたなら 2
PEACEMAKER鐵 ファンタジーパラレル二次創作小説:勿忘草が咲く丘で 9
FLESH&BLOOD ハーレクイン風パラレル二次創作小説:翠の瞳に恋して 20
火宵の月 異世界ファンタジーロマンスパラレル二次創作小説:月下の恋人達 1
天上の愛地上の恋 現代転生パラレル二次創作小説:愛唄〜君に伝えたいこと〜 1
天上の愛地上の恋 現代昼ドラ風パラレル二次創作小説:黒髪の天使~約束~ 3
火宵の月 異世界軍事風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:奈落の花 2
天上の愛 地上の恋 転生昼ドラ寄宿学校パラレル二次創作小説:天使の箱庭 5
天上の愛地上の恋 昼ドラ転生遊郭パラレル二次創作小説:蜜愛~ふたつの唇~ 0
天上の愛地上の恋 帝国昼ドラ転生パラレル二次創作小説:蒼穹の王 翠の天使 1
名探偵コナン腐向け火宵の月パラレル二次創作小説:蒼き焔~運命の恋~ 1
FLESH&BLOOD ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の花嫁と金髪の悪魔 6
火宵の月 和風ファンタジーパラレル二次創作小説:紅の花嫁~妖狐異譚~ 3
天上の愛地上の恋 昼ドラ風パラレル二次創作小説:愛の炎~愛し君へ・・~ 1
黒執事 昼ドラ風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:君の神様になりたい 4
天愛×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:翼がなくてもーvestigeー 2
魔道祖師×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想うは、あなたひとり 2
火宵の月 昼ドラハーレクイン風ファンタジーパラレル二次創作小説:夢の華 0
薄桜鬼腐向け転生刑事パラレル二次創作小説 :警視庁の姫!!~螺旋の輪廻~ 15
FLESH&BLOOD ハーレクイロマンスパラレル二次創作小説:愛の炎に抱かれて 10
PEACEMAKER鐵 オメガバースパラレル二次創作小説:愛しい人へ、ありがとう 8
天上の愛地上の恋 現代昼ドラ転生パラレル二次創作小説:何度生まれ変わっても… 0
薄桜鬼腐向け転生愛憎劇パラレル二次創作小説:鬼哭琴抄(きこくきんしょう) 10
薄桜鬼×天上の愛地上の恋 転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:玉響の夢 5
黒執事×天上の愛地上の恋 吸血鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:蒼に沈む 0
天上の愛地上の恋 現代転生ハーレクイン風パラレル二次創作小説:最高の片想い 4
バチ官×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:二人の天使 3
FLESH&BLOOD 現代転生パラレル二次創作小説:◇マリーゴールドに恋して◇ 2
YOI×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:皇帝の愛しき真珠 6
火宵の月×刀剣乱舞転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:たゆたえども沈まず 2
薔薇王の葬列×天上の愛地上の恋クロスオーバーパラレル二次創作小説:黒衣の聖母 3
火宵の月×薄桜鬼 和風ファンタジークロスオーバーパラレル二次創作小説:百合と鳳凰 2
薄桜鬼×天官賜福×火宵の月 旅館昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:炎の宿 2
薄桜鬼×火宵の月 遊郭転生昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:不死鳥の花嫁 1
薄桜鬼×天上の愛地上の恋腐向け昼ドラクロスオーバー二次創作小説:元皇子の仕立屋 2
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧き竜と炎の姫君~愛の果て~ 1
F&B×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:海賊と陰陽師~嵐の果て~ 1
F&B×天愛 昼ドラハーレクインクロスオーバ―パラレル二次創作小説:金糸雀と獅子 1
F&B×天愛吸血鬼ハーレクインクロスオーバーパラレル二次創作小説:白銀の夜明け 2
天愛 異世界ハーレクイン転生ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の巫女 氷の皇子 1
相棒×名探偵コナン×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:名探偵と陰陽師 1
天愛×火宵の月陰陽師クロスオーバパラレル二次創作小説:雪月花~また、あの場所で~ 0
名探偵コナン×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:碧に融ける 0
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※BGMと共にお楽しみください。「黒執事」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。―坊ちゃん。 あぁ、またあの夢だ。 シエルは目蓋を震わせ、蒼い瞳を開けると、そこには燕尾服姿のセバスチャンが立っていた。―思い出してくれたのですね、坊っちゃん。 その顔が、徐々に“誰か”の顔と重なって見えた。 それは―(ミカエリス・・先生?)―さぁ、お目覚めの時間ですよ。「シエル、おはよう。」「おはよう、兄さん。」「おはようシエル、今日は調子が良さそうね。」 ジェイドとシエルの母・レイチェルは、そう言うとシエルのカップに紅茶を淹れた。「美味しい・・もしかしてこの紅茶、フォートナム&メイソンの茶葉?」「そうよ。良くわかったわね。お父様がお仕事関係の方から頂いたのよ。」「シエルは、その歳で紅茶の銘柄がわかるなんて、凄いなぁ。」「まぁね・・」 そう言って照れ臭そうに笑うシエルを、ジェイドは何処か恨めしそうな顔で見ていた。「シエル、もう身体は大丈夫なの?」「うん。」 退院してからシエルが新体操部の練習に顔を出したのは、退院して三日後の事だった。「でもミカエリス先生、シエルの事になるとまるで別人みたいになるよね。」「そうか?」「シエルは鈍いからなぁ。」 シエルが練習に励んでいると、そこへジェイドがやって来た。「シエル、迎えに来たよ。」「シエル、またね!」「兄さん、僕一人で帰れるのに・・」「ねぇシエル、前世って信じる?」 突然兄からそう尋ねられ、シエルは戸惑った。「どうして、そんな事を急に聞くの?」「ほら、よく前世の記憶を持っているっていう人が居るじゃない?僕も、そんな人達と同じで、前世の記憶があるんだ。」 ジェイドはシエルに、自分達の両親を何者かに惨殺され、奴隷商に売られ、悪魔崇拝者の生贄となってしまった事を話した。「まぁ、僕は葬儀屋のお陰で生き返ったけれどね。」「葬儀屋・・」 シエルの脳裏に、図書館で自分に話し掛けてきた銀髪の男の姿が浮かんだ。「シエル、お前には僕しか居ない。生まれたからずっと一緒に居たんだもの。あの“悪魔”にお前を渡しはしないよ。」「“悪魔”?」「ううん、何でもない。」(シエルはまだ、何も知らなくていい・・まだ・・) そう、前世で自分達に何があったのかなんて、シエルはまだ知らなくていいのだ。 集中治療室から一般病棟へと移ったセバスチャンだったが、退院に暫く時間がかかると医師から言われ、落胆していた。「あなたが溜息を吐くなんて、珍しいですね。」「おや、死神が見舞いに来るなんて、わたしの魂を回収しに来たのですか?」「勘違いされては困ります。わたしは只の人間です。」 ウィルはそう言うと、セバスチャンを睨んだ。「そうでしたか。」「それにしても、頭部の怪我の治りが遅いなんて、“昔”のあなたならありえませんね。」「人間の身体は、脆いものですから。」 セバスチャンはそう呟いて苦笑すると、夜着の上から腹に残る傷を撫でた。 その傷は、“昔”豪華客船で葬儀屋につけられたものだった。「ジェイド=ファントムハイヴに気をつけなさい。彼はあなたの事を嫌っているようですから。」「それは、初めて彼と会った時からわかっていましたよ。同じ顔をしていても、性格は全然違いますね。」 セバスチャンはそう言った後、ジェイドと初めて会った日の事を思い出していた。「坊ちゃん・・」「誰だ、お前は?」 その言葉を聞いた時、セバスチャンは自分の前に立っている少年がシエルではない事に気づいた。「お前、もしかしてあの時の悪魔だな?」 ジェイドはそう言うと、セバスチャンを睨んだ。「シエルに近づくな。」「わたしに命令出来るのは、坊っちゃんだけです。」 セバスチャンがそう言ってジェイドの方を見ると、彼は不快そうに鼻を鳴らしてその場から去っていった。「ひっ、ひっ、ひっ、まさか、こんな所で君と会えるなんてねぇ。」「あなたは・・」「君は相変わらずあの子に嫌われているねぇ。無理もない、あの子があんな“最期”を迎えちゃったからねぇ。」 セバスチャンの前に現れた葬儀屋は、黒い服ではなく、派手なアロハシャツを着ていた。「わたしと坊ちゃんの仲を、“今度こそ”邪魔しないで頂けますか?」「小生は君達の仲を邪魔するつもりはないさ。まぁ、魂はひとつ、大切におしよ。」「言われなくても、わかっていますよ。」 葬儀屋はセバスチャンに背を向けると繁華街の方へと歩いていった。「遅かったね。あいつと何を話していたの?」「余り人の恋路を邪魔しない方がいいと思うよ。」「うるさい。」 ジェイドはそう言うと、苛立ったかのように飲んでいたコーラのグラスをテーブルの上に叩きつけるように置いた。「おぉ、怖い、怖い。」 葬儀屋は注文したフライドポテトを頬張った後、そう言って笑った。「旅行?」「ええ。丁度わたし達の仕事も一段落してまとまった休みが取れたから、旅行に行こうと思って。」 そう言った両親は、ジェイドとシエルの前にA4サイズのパンフレットを見せた。 そこには、『豪華客船カンパニア号でゆく太平洋横断クルーズ』と書いてあった。(カンパニア号・・) シエルの脳裏に、“昔”の記憶が甦って来た。「シエル~、あなたも一緒にこの船に乗るのね!」「リジー・・」 カンパニア号に乗船する為横浜港へと向かったシエル達は、そこでエリザベス達と会った。「大丈夫よシエル、この船にはゾンビなんて出ないから!」「あぁ、そうだな・・」 こうして、シエル達はハワイまでの船旅を楽しんだ。「ねぇシエル、大会もうすぐね。」「そういえば、リジ―も剣道とフェンシングの大会が近いんじゃないか?」「そうね。大会が終わったらゆっくり出来るから、それまで無理しないようにするわ。」 シエル達がそんな事を話しながらカンパニア号の廊下を歩いていると、向こうからセバスチャンが歩いて来た。「ミカエリス先生、こんにちは。」「こんにちは。奇遇ですね、皆さんがこちらにいらっしゃるなんて。」「ミカエリス先生は、どうしてこの船に?」「丁度まとまった休みが取れたので、優雅な船旅を満喫しようと思いましてね。」 そう言ったセバスチャンは、ちらりとシエルを見た。「じゃぁ、わたしはこれで。」 セバスチャンは、擦れ違う時にさり気なくシエルの手に何かを握らせた。 シエルが船室に戻り、セバスチャンが自分に握らせたものを確めた。 それは、船室のカードキーだった。「どうしたの、シエル?」「何でもない。」 シエルはそう言うと、カードキーをスラックスのポケットにしまった。「ひっ、ひっ、ひっ、また会えたねぇ、伯爵。」「お前は・・」「安心おしよ。ここにはゾンビは持ち込んでいないさ。それよりも、小生と少し話さないかい?」「あぁ。」 シエルは葬儀屋と共に、カンパニア号の甲板へと向かった。「話とは何だ?」「小生は昨日、君のお兄さんと会ったよ。やっぱり、お兄さんは君とセバスチャン・・あの執事君と恋人になるのを警戒しているんだよね。」「兄さんが?」「君のお兄さん、君に対して執着心が強いんだよね。双子だからなのかと思ったけれど、わかんないなぁ。」葬儀屋はそう言った後、ブルーハワイを一口飲んだ。「君のお兄さんの魂を回収した時、小生はある違和感を抱いたんだ。」「違和感?」「君のお兄さんは、“あの時”死んだ筈だったんだけど、小生が蘇らせてしまったから、シネマティック・レコードの一部がなくなっているのさ。」「なくなっている?」「えぇっと、君がファントムハイヴ伯爵の地位と名誉をお兄さんから取り戻した時さ。君達が殺したサーカス団の子・・」 葬儀屋がそう言葉を切った時、誰かが自分達に近づいて来る気配がした。「シエル君、彼と何を話しているのです?」 そう言ったセバスチャンが葬儀屋を見る眼光は、鋭かった。「おやおや、相変わらず嫉妬深いねぇ。それじゃぁ伯爵、またね。」 葬儀屋は銀髪をなびかせると、甲板から去って行った。「ここは冷えますよ、さぁ、参りましょう。」 セバスチャンはそう言うと、自分の船室へとシエルを連れて行った。「あの‥先生・・」「シエル君、彼は危険です。」「危険・・」「ええ。」「シエル、何処~!」 セバスチャンが次の言葉を継ごうとした時、外からシエルを捜しているエリザベスとジェイドの声が聞こえた。「カードキーは、持っていて下さい。」「あの、先生・・」「また、夕食の時間に会いましょう。」 だが、夕食の時間に、シエルはセバスチャンの姿をレストランで見かけなかった。(どうしたんだろう・・)「シエル、どうしたの?」「ううん、何でもない。」 シエルがレストランでセバスチャンを捜していた時、彼は甲板で葬儀屋と対峙していた。「ひっ、ひっ、執事君が小生と何を話したいのかな?」「あなた、坊っちゃんに何を吹き込んだんです?」「吹き込むなんて、人聞きが悪いなぁ。小生はただ、“あの子”が君の恋人に執着している事を彼に話しただけさ。」「“あの子”?」「双子の片割れさ。小生が無理に蘇生させた所為で、歪な魂を持ってしまった子さ。」 葬儀屋はそう言うと、セバスチャンの腹の傷を見た。「懐かしいねぇ、その傷。まさか、転生してまでその傷が残るなんて思わなかったよ。」「そうですね。」 セバスチャンがそう言って葬儀屋の方を見ると、ジェイドが彼の隣に立っていた。「セバスチャン、お前に弟は渡さない!」「それは、宣戦布告という事でしょうか?わたしは、売られた喧嘩は買う主義なので・・」「ひっ、ひっ、面白くなって来たね。」にほんブログ村
2023年08月05日
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「黒執事」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。「ミカエリス先生、どうして・・」“あぁ、その様子だと、あなたは全てを思い出してはいらっしゃらないようですね。” そう言ったセバスチャンは、寂しそうな笑みを浮かべた。“いつかきっと、あなたはわたしの事を思い出して下さると、信じています。”「待ってくれ・・待って!」 夢から覚めた時、シエルは何故か涙を流していた。(何で、涙なんか・・)「シエル、おはよう。」「おはよう、兄さん。」「どうしたの、目が真っ赤だよ?」「うん、ちょっとね・」「もしかして、誰かにいじめられたの?」「ううん・・そんなんじゃ・・」「そう。でも、もし誰かにいじめられたら、僕に相談してね。」「わかった・・」 双子の兄は、物心ついた頃からシエルに対して過保護だった。『シエルの兄貴って、いつもああなの?双子だからって、監視厳し過ぎじゃない?』 ある日、大会前の強化合宿に参加できない理由をアロイスに話したら、彼からそう言われた事をシエルは思い出した。(兄さんが僕に対して過保護なのは、“昔から”だもの。)“昔から”? 今、自分は一体何を思い出そうとしていた? 一体、何を・・「・・エル、シエル!」 アロイスに名を呼ばれ、シエルが我に返った時、彼は突然崩れて来た本棚が自分の前に迫って来ている事に気づいた。「坊ちゃん、危ない!」 大きな声がシエルの頭上で聞こえたかと思うと、誰かが自分の上に覆い被さった。「誰か、救急車!」「シエル、大丈夫!?」「うん・・ねぇ、一体何が・・」 シエルがそう言って周囲を見渡すと、自分の前に頭から血を流しているセバスチャンの姿があった。「嫌だ、先生!」「シエル、落ち着いて!」 急に息苦しくなり、シエルは気を失った。「シエル、シエルは大丈夫なの!?」 シエルが喘息の発作を起こして病院に運ばれた事を知った彼の双子の兄・ジェイドは、そう叫びながら彼の病室へと入ると、そこには両親とアロイス、そして婚約者のエリザベスの姿があった。「ジェイド、シエルなら大丈夫よ。少しパニック発作を起こしただけ。」「どうして、そんな・・」「実は・・」 アロイスからシエルが病院に運ばれるまでの経緯を聞いたジェイドの端整な美しい顔は、たちまち怒りに歪んだ。「あいつは今何処に?」「ミカエリス先生は、集中治療室に居るわ。本棚が倒れた時、先生がシエルの盾になってくれて、その時頭を強く打って・・」「そう。」 エリザベスの話を聞いたジェイドは、外の風に当たりに、病院の屋上へと向かった。「おや、誰かと思ったらあなたでしたか、ジェイド=ファントムハイヴ。」「死神が医者だなんて呆れるね。もしかして、医師の方が魂の回収がしやすいから?」「あの害獣と一緒にしないで頂きたい。それに今のわたしは、唯の人間ですよ。」 そう言った元死神・ウィルことウィリアム=T=スピアーズは、メガネのテンプルを軽く指先で弄った。「その害獣も、今は唯の人間だけれど、僕にとって・・いいや、“僕達”にとってあいつは“悪魔”だ。」「あなたは、死しても尚その魂は弟君と共にあった。そしてその想いは、今世でも繋がっている。」「当然だろ、シエルは僕の大切な弟なんだから。僕は、“今度こそ”弟を一人にさせたくないんだ。」 そう言ったジェイドの蒼い瞳は、少し憂いを帯びていた。「もし、弟君が全ての記憶を思い出したらどうなさいますか?」「・・その時は、弟をあいつから引き離す。絶対に、あの二人を幸せにはさせない。」(やれやれ、前世でも結ばれなかった分、今世では幸せになって欲しいと願っているのに・・とんだ強敵が現れましたね。) ウィルは屋上から去ってゆく双子の片割れの背中を見送りながら、溜息を吐いた後一階の売店で買ったサンドイッチを一口食べた。 一方、都内某所にあるブティックでは、一人のデザイナーがデザイン画を描いては丸めていた。「あぁもう、インスピレーションが湧かないわぁ。どっかにいいイケメン、居ないかしら?」「先輩~、失礼しま~す!」「イケメンかと思ったら、あんたか。」 そう言ったデザイナー、グレル=サトクリフは、死んだ魚のような目をしながら後輩デザイナーを見た。「あんたはあたしより調子良さそうね。」「先輩、もうすぐファッションショーだっていうのに、デザイン画描いていないんですか!?」「仕方ないでしょ、インスピレーションが湧かないのよ!あ~あ、何処かに目の覚めるようなイケメンが近くを通らないかしら・・」 グレルがそう言いながら通りを窓越しに見ていると、そこへ丁度白銀の髪をなびかせながら有名コーヒーチェーン店のタンブラーを持ったいかにも外回り中の営業マン(イケメン)が通りかかった。「あ~、いいわ!あたしが求めていた理想の男が遂にキターッ!」 グレルはそう叫ぶと、次々とデザイン画を仕上げていった。「ホント、イケメンパワーマジパネェ。」「ロナルド、突っ立ってないであんたも手伝いなさいよ!」「は~い。」「あぁ、もっとイケメンが通らないかしら~!」 グレルはそう叫びながら、ミシンで次々とステージ用の衣装を仕上げていった。「おや、さっき視線が・・」「もう、遅れますよ!」「はいはい、わかったよ。」 グレルにインスピレーションを湧かせた件のイケメンは、颯爽と横断歩道を渡っていった。―坊ちゃん。 まただ、またあの夢だ。―坊ちゃん、何処にいらっしゃるのですか? 暗く、光すら届かない森の中で、わたしは“あの方”を探している。 泣き声は聞こえているのに、“あなた”の姿は見えなくて。 森の奥に行けば行く程、“あなた”とわたしを遮る霧が徐々に深くなって―もう、何も見えなくなった森の真ん中でわたしは一人、呆然と立ち尽くすのです。―早く、探さなければ・・“あなた”は、今何処にいらっしゃるのです? まだ、あの霧の深い森の奥で泣いているのですか? 大丈夫です、必ず“わたし”が“あなた”を見つけ出しますから、だからもう、独りで泣かないで。わたしの―愛しいシエル。わたしの―世界で一番の宝物。「先生、患者さんの意識が戻りました!」「わかりますか?ここは病院ですよ。」「坊ちゃんは・・シエルは無事なんですか!?」「あなたが助けた子は無事ですよ。」「あぁ、良かった・・」 セバスチャンはそう言うと、ゆっくりと瞳を閉じた。 瞼の裏に、一瞬愛しい人の面影が映った。―坊ちゃん。 シエルが目を開けると、そこにはあの燕尾服姿のセバスチャンの姿があった。―さぁ坊ちゃん、今日は忙しいのですから、早く支度致しませんと。“あぁ、わかっている。” シエルはそう言うと、白手袋に包まれたセバスチャンの手を取った。 そこで、夢から覚めた。「シエル、目が覚めたのね!」「良かった!」「お父様、お母様、心配かけてしまってごめんなさい。」「いいのよ。ミカエリス先生も意識を取り戻したんだから、良かったわ。」「それは本当なの、お父様?」「あぁ。彼は今朝早く、集中治療室から一般病棟へと移ったよ。」「良かった・・」「今はまだ会うのは無理だけれど、暫くしたら会えると思うよ。だからシエル、今はゆっくり休みなさい。」「そうよ。余り無理しちゃ駄目。」「わかりました。」 シエルが入院して数日経った頃、彼は漸くセバスチャンの見舞いに行く事が出来た。「ミカエリス先生・・」「ファントムハイヴ君、まさか君と同じ病院に運ばれるなんて、思ってもみませんでした。」「僕もです。」そう言ったシエルは、セバスチャンと抱き合った。「あ、すいません・・嬉しくて・・つい・・」「ふふ、わたしもです。」(ミカエリス先生の笑顔、初めて見たな・・)「どうしました?」「・・いいえ、何でもないです。」 脳裏に、“誰か”の笑顔が浮かんだ。にほんブログ村
2023年07月05日
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「黒執事」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。「新しい担任の先生、シエルの事ずっと朝のHRの間見ていたよね?」「そうかな?」「ねぇ、ミカエリス先生と昔から知り合いだったとか?」「それはない。」 放課後、シエルとアロイスは体育館で柔軟体操をしながらそんな事を話していると、そこへシエルの幼馴染であり剣道部・フェンシング部主将のエリザベスがやって来た。「エリザベス、どうしたんだ?」「シエルの為に、リボンケースを作ってみたの!」「ありがとう、エリザベス・・」 レースがふんだんに使われたリボンケースをシエルは若干笑顔を引きつらせながら受け取ると、エリザベスは嬉しそうな顔をして体育館から出て行った。「ラブラブだね、シエル。」「うるさい。」「おいそこの一年、喋ってないで練習しろ!」「は~い。」 シエル達が所属しているのは、新体操部ではあるが、そこでは男子部員も女子部員と同じリボンやロープ、ボール、クラブ(棍棒)、フープなどを使って演技をする。 この学校の中等部からシエルは新体操部に入学と同時に入部したが、彼以外の男子部員達は皆初心者だった。 小児喘息を患っていたシエルは、その治療の一環として六歳の頃から新体操を始めた。 新体操クラブには、今でも週末には顔を出して練習している。「ねぇ、あの子が今年の期待の新人?」「凄いわね。あのリボン捌き、わたし達でも出来ないわ。」 シエルが大会に向けてリボンの演技を練習していると、そこへ他校の生徒が視察にやって来た。 皆女子ばかりで、男子は一人も居ない。 華やかな新体操で、男女比では女子の方が圧倒的に多く、男子はまだまだ少数派である。「何だか、嫌な感じだね。」「あぁ・・」「ま、気にせず練習、練習!」 一通り練習を終えたシエルがシャワールームでシャワーを浴びていると、誰かが入ってくる気配がした。「誰だ?」 シエルが個室から腰にバスタオル一枚巻いた姿で出て来ると、そこには誰も居なかった。(何だったんだ・・) シエルが帰ろうとした時、彼はロッカーの中にあった筈のリボンが、リボンケースごとなくなっている事に気づいた。「はい、これ。」「ありがとう。」「それにしても、わざわざ俺達を使ってライバル選手を潰すなんて、やる事陰湿だよなぁ。」「邪魔な奴は潰すに限るわ。」「女って怖ぇな~!」「絶対にあたしが頼んだって話さないでよ!」「わかったよ。」 シエルのリボンを受け取ったのは、新体操部の練習を見に来ていた他校の女子生徒だった。 彼女はシエルのリボンをどうしようかと考えながら夜道を歩いていると、そこへ一台の車がやって来た。「こんな時間に夜道での一人歩きは危ないですよ?家までわたしが送ってさし上げましょうか?」「あ、ありがとうございます!」 彼女は、自分を家まで送ってくれる美青年に、瞬時に心を奪われた。 彼の目的など知らずに―「そのリボンケース、可愛いですね。」「あ、ありがとうございます!」「でも、これあなたのリボンじゃないですよね?」「え?」 彼女が運転席でハンドルを握っている青年の方を見ると、彼が冷たく自分を見つめている事に気づいた。「シエル、ミカエリス先生がいらっしゃったわよ!」「え、先生が!?」 シエルは自室で勉強していたが、母の声を聞いて思わず階段を踏み外しそうになりながらも玄関へと向かった。「夜分遅くに済まないね、シエル君。」「ミカエリス先生、何で・・」「これ、学校に忘れていったでしょう?」そう言ってセバスチャンがシエルに手渡したものは、学校で必死に探しても見つからなかったリボンだった。「ありがとう・・ございます。」「大会が近いと思いますが、練習無理しないで下さいね。お休みなさい、シエル君。」「あ・・お休みなさい、先生。」 セバスチャンが玄関から去っていった後、何故かシエルは胸がズキンと痛んだ。「シエル、どうしてお前の担任の先生がうちへ来たの?」「僕のリボンを届けてくれたんだよ、兄さん。」「そう・・ならいいけど。」 その日の夜、シエルはまた不思議な夢を見た。“坊ちゃん・・” 自分の前に現れたのは、セバスチャンその人だった。にほんブログ村
2023年07月05日
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「黒執事」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。「誰だ、貴様!?」「おやおや、もしかして小生の事を覚えていないのかい?悲しいねぇ。」 謎の男はそう言って溜息を吐くと、何処かへと去っていった。(何だったんだ、あいつは?) シエルがそう思いながら、兄達が居た方を見たが、そこには誰も居なかった。 すぐ帰るのは両親に怪しまれるし、また炎天下の中を歩くのは嫌なので、シエルは図書館で少し涼んで行く事にした。 図書館には、夏休みだからか自習室で勉強する学生の姿が多かった。 丁度夏休みの宿題が少し残っているので、シエルは自習室の空いている腰に席を下ろすと、背負っているリュックから筆記用具と宿題のプリントが入ったファイルを取り出した。気がつけば、夕方の四時近くになっていた。(そろそろ、帰らないと・・) 図書館から出たシエルは、少し冷たくなった風を感じながら帰宅すると、リビングには心配そうな顔をした両親と兄の姿があった。「シエル、遅かったわね。」「ごめんなさい、図書館で宿題をしていたら、遅くなっちゃった・・」「そう、宿題は終わったの?」「はい、お母様。」「シエル、話したい事があるから後で部屋へ。」「わかりました、兄さん・・」 夕食後、シエルは兄の部屋へと向かった。「今日、図書館の前で変な男に会ったんだ。」「変な男?」「背が高くて、モデルみたいな美男子だったよ。僕の事見て、そいつはじめは嬉しそうだったんだけれど、ちょっと残念な顔をした後、こう言ったんだ・・“あなたは、坊ちゃんじゃない”って。」 兄は少しイライラしたように、唇を少し噛んだ。「ねぇ、シエルはそいつについて何か知っているの?」「知らないよ・・」「そう。」 シエルは自分の部屋に戻ってベッドに入って寝ようとしたが、目がさえて中々眠れなかった。 暫く眠れるまで、シエルは四月に買ったまま読んでいない小説を読んで暇を潰す事にした。 ページを捲った途端、シエルの脳裏に突然小説と同じ光景が浮かんだ。“坊ちゃん、漸くお目覚めになりましたね?”―お前は、誰だ?“何をおっしゃる・・嗚呼、あなたはもう・・”―おい、何処へ行く?“さようなら、わたしの愛しい人。”―待て、・・・・・! 変な夢から目覚めた時、シエルは何故か涙を流していた。「シエル、おはよう。」「おはよう、兄さん。」「今日からまた学校だね。」「はい・・」「シエル、お弁当作ったからお昼に食べてね。」「はい、お母様。」 シエルは兄と共に学校に向かった後、それぞれ別の教室へと向かった。「シエル、おはよう!」 シエルが教室に入ると、アロイス=トランシーが彼の方へと駆け寄って来た。「・・おはよう。」「ねぇシエル、夏休みの宿題やった?俺は全部クロードにやらせたよ!」「そうか。」「今日、新しい先生が来るんだってさ。どんな人なんだろうねぇ。」「さぁな・・」 朝のHR(ホームルーム)でシエルはそんな他愛のない事をアロイスと話していると、教室に一人の男性が入って来た。 長身に、黒髪と紅茶色の瞳をした、モデルのような美男子―この前、兄が話していた“謎の男”と瓜二つの顔をしていた。「皆さん、はじめまして。わたしはセバスチャン=ミカエリスと申します。本日から、わたしがあなた方の担任を務めさせて頂きます。」(セバスチャン・・) 懐かしさを覚える名前に、シエルは何故か胸が熱くなるのを感じた。 その時、セバスチャンとシエルの目が一瞬合った。にほんブログ村
2023年07月05日
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「黒執事」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。「坊ちゃん、目を閉じて。」「あぁ・・」そっと、碧い瞳と、悪魔の契約印が刻まれた紫の瞳を閉じた主の頬を、セバスチャンは優しく撫でた。両親と双子の兄を殺害した犯人の復讐を果たした彼は、その生を終えた。「坊ちゃん、あなたと共に生きた日々は、まるで宝石のように美しいものでした。もし、再び会える事が出来るのなら、その時は・・」「そこまでです。害獣の癖に感傷に浸り過ぎです。」セバスチャンとシエルの間を、一人の男が割って入ってきた。漆黒の髪と、黄緑色の瞳をしたその男は、持っていた高枝切り鋏の刃先をセバスチャンに向けた。「坊ちゃんとの別れの時間すら与えられないのですね・・死神という者は。」「何とでもおっしゃい。さぁ、シエル=ファントムハイヴの魂を今から回収致します。」黒髪の男―死神・ウィルはそう言うと、高枝切り鋏でセバスチャンの頸動脈を切り裂いた。セバスチャンが最期に見た光景は、シエルの胸にウィルが高枝切り鋏の刃を突き立てる姿だった。“坊ちゃん、お目覚めの時間ですよ。”何処からか、懐かしい声が聞こえて来た。(誰だ、僕を呼ぶのは?)目蓋の裏に浮かぶ“彼”に向かって手を伸ばそうとしたシエルは、そこで奇妙な夢から目覚めた。「おはよう、シエル。」「おはようございます、お父様。」「日曜だからって、夜更かししちゃ駄目よ。」シエルが部屋から出て一階のリビングに降りると、ソファには朝刊を読んでいる父と、キッチンで洗い物をしている母の姿があった。「兄様は?」「あの子なら、図書館へ出かけたわ。勉強のし過ぎはよくないんじゃないかしら?」「たまには息抜きをさせてやらないとな。」両親の話を聞いたシエルは、自分と同じ顔をした双子の兄の事を考えると、溜息を吐いた。双子の兄は、病弱な自分と違って成績優秀でスポーツ万能の優等生だ。優秀な兄が居る所為で、シエルは幼少の頃から彼と比較されながら育った。だが、その事でシエルが兄に対して屈折した感情を抱いた事はなかったし、兄弟仲は良好過ぎると言っても良かった。「シエル、何処行くの?」「図書館に行って来る。」「そう。今日は暑いから気を付けるのよ。」「わかりました。お父様、お母様、行って来ます。」朝食を済ませた後、シエルは兄が居る筈の図書館へと向かった。炎天下の中、蝉時雨が降り注ぐ公園を抜けて図書館へと辿り着いたシエルは、そこで兄が誰かと言い争っている声を聞いた。「シエルには近づくな。」「何の権利であなたがわたしに命令するのです?わたしに命令できるのは、“坊ちゃん”だけです。」シエルは、木陰から兄と言い争っている“誰か”の姿を見ようとした。だがその前に、彼は誰かに腕を掴まれた。「ひっひっひ、やぁっと見つけたよ、伯爵。」不気味な声と共に、シエルの顔を黄緑色の瞳をした男が見つめた。にほんブログ村
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