気まぐれ屋。

これがかぞく。

二年半ぶりに見るその街の駅前の風景は、想像以上に【別のモノ】になっている。私の記憶にない景色。去年は予期せぬ姑の介護に振り回され、故郷の地を踏むチャンスを完全に奪われた。その間、地元の駅周辺の再開発が一気に進み、私にとっての「懐かしい」はほとんどが消えてしまっていた。それなのに駅前以外は、相変わらずの暗闇。どんなに街に新しいまぶしいビルが建とうが、ちょっと進めば灯りも疎らな田舎町。このアンバランスなギャップが、なんだか妙に寂しくて。この街があの頃よりも良くなったのかそうじゃないのか・・・正直言って判らない。車で迎えに来た弟は、直行バスから降りる人々の中にマスク姿の私を一発で見つけだす。手を振る少し肥えてやや重そうな体。会えない時間分おじさん化が進んだものの、幼い頃の面影のある困り眉の笑顔と、照れたような立ち姿は変わらない。家に着いても、何ひとつ変わらず。１１日前、大きな手術を受けたばかりの母も、思ったよりも顔色は好い。いつもと変わらぬ二人の様子と、久しぶりの我が家の空気に緊張の糸が解ける。なんにも変わらない。なんにも違和感がない。すっとそこに戻れるのだ。どんなに街が変わろうとどんなに月日が流れようと・・・私たちはほんとうの家族だから。それは親族に会っても同じだった。いつもそばに居るように、すぐに打ち解け自然に話せてしまう。皆それぞれに、歳をとり確実に老いてはいるが、実の子のように私の帰りを喜び、私の体を心配してくれる。いつもは自分だけ好ければいい人＝姑を相手にして疲れてるので、この温かい人への気遣いは、心にグッとくる。人はひとりでは生きられない。周りの人を思い遣り、周りに思われ生きるのだ。姑には何度言っても理解できないみたいだが、私の故郷にはまだその精神が根強く残り、受け継がれている。そんな我が郷特有のちょっぴりお節介でコミュニケーション好きな所が、若い頃は時に面倒で、その輪から逃げる目的で上京したのも事実。でも、私自身歳をとってみると、これがなかなかありがたい。遠い土地で新たな家庭を築き、その暮らしに追われててどんなに悩んでも苦しくても、自分で選んだ道だから結局最後は自分で責任もって何事も解決していくしかないと思ってるけど・・・ココに戻れば私の成長過程を知る人たちが、今も変わらず温かく迎えてくれるから素直に自分に戻れるし、私の原点を確認できる。母や弟が日頃からお世話になってる人に会い、この家の長女としてのツトメを果たしあっという間の一週間。なんだかまだ、夢だったのか本当のことなのか曖昧な感じはするのだが。この二年半に及び燻り続けたモヤモヤが、ひとまず収まったのであの帰省は本当のこと、だったのだろう。「次に帰る時は、うちが死んだ時でいいで。うちはもう充分や。あんたら若いもんが長生きせんといけんので。あんたは自分の体を治しよ」繰り返し母は言うけれど・・・いやその前にまだまだ親孝行させてくれ。とりあえず、大きな手術を乗り越え、今日またひとつ歳を重ねることが叶ったそのことに、心からおめでとうと言いたい。★　　★　　★　　★　　★今日のひとこと。「実家でてんこ盛り食べ続けたのに、こっちに戻ってわずか二日で２キロ以上減」