仙台・宮城・東北を考える おだずまジャーナル
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最近のニュースでこの法律が今月施行されたと知った。買占めや高額転売を防ぐのが趣旨で、業界団体から制定の要望があった、という話のようだが、自分にはあまり耳慣れない件だったこともあり、即座にいくつか疑問がわいた。(1)罰則はあるというが民事上の売買の効力まで否定するのか(2)そこまでいかなくとも不正転売と知って買った者まで罰するのか(3)所管省庁はどこなのか(4)経緯としてどのような人たちがどう要望したのかたしかにチケットが入手できない、あるいは不当に高値を強いられる、その原因が転売サイトの存在やそれを悪用して利益を得ようとする者だとすれば、一般消費者の利益のために規制は理由があるとは思う。ただ、これまでの論議を知らなかった(注目していなかった)。(1)(2)は立法の在り方としての疑問、(3)(4)は政治過程論的な側面での関心だ。立法の概要。名称は「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」である。演劇、コンサート、スポーツなどのチケット(特定興行入場券)を不正に転売した場合、または不正転売を目的に譲受した場合は、懲役1年以下・罰金100万円以下に科するというもの。少し正確にいうと(法律条文と文化庁サイトから)、・立法目的(第1条) 興行の振興を通じた文化及びスポーツの振興並びに国民の消費生活の安定に寄与するとともに、心豊かな国民生活の実現・「特定興行入場券」(定義、第2条) 不特定又は多数の者に販売され、かつ、①興行主等が、販売時に、興行主の同意のない有償譲渡を禁止する旨を明示し、かつ、その旨を当該入場券の券面等に表示し②興行が行われる特定の日時及び場所並びに入場資格者又は座席が指定され ③興行主等が、販売時に、入場資格者又は購入者の氏名及び連絡先を確認する措置を講じ、かつ、その旨を当該入場券の券面等に表示しているもの・「不正転売」(定義、第2条) 興行主の事前の同意を得ない特定興行入場券の業として行う有償譲渡であって、興行主等の当該特定興行入場券の販売価格を超える価格をその販売価格とするもの・禁止される行為(第3条、第4条) (a)不正転売 (b)不正転売を目的とした譲受・なお、適正な流通確保のための興行主の努力義務、国・自治体の助言協力義務なども定められている。・所管は文部科学省(文化庁)になるようだ(同省設置法第4条の所掌事務に追加)第197国会(昨年秋の臨時会)で議員立法として提案され(衆法)、会期内成立。法案制定には、超党派の議員連盟や自民党の議員連盟が活動したが、山下法務大臣などが主力となったようだ。背景には、音楽関係を中心とした制作者や興行者の声があった。設定したチケット値段の何倍もの高値を健全なファンが強いられる一方で、音楽や文化に関係のない人間が利益を得ている状況は許せない、ということだろう。業界としても本人認証などの対策コストに難渋した事情もあるか。立法目的は健全なチケットの流通の確保。そして、実現手段としては、転売業者や投機目的で買い受ける個人の取り締まりだ。売買行為の民事的効力の否定まではしないから、高値で買わされた健全なファンが払い戻しを求める権利まではない。高値で買った者は、さらにもっと高値で転売しようという意図をもった場合に限って罰せられる。刑法総論でいう目的犯だろう。自分の抱いた所管省庁の疑問とは、効力規定まで設けるなら法務省、払い戻しまで規定するなら消費者庁、流通業界監督なら経済産業省か、などと頭の中に浮かんだのだが、文化庁とは意外だった。立法目的と規制手段のあり方にも依るものだから、上記の立法内容からすれば頷けるものではある。もっとも、議員連盟の議論の過程で所管省庁をどこにするかは、永田町と霞が関で難しい調整があったかと勝手に推察。細やかな政省令への委任規定もなく、地方自治体にも緩やかながら義務を課するというあたりは、いかにも議員立法のフレーバーを放つ。だが、まず所管部署縦割りの発想や予算措置の考慮をするでなく、また、地方分権や行財政秩序の確認などにも目もくれず、現に民の中に所在する問題点を救い上げて罰則規制を設けたことは、国民代表の立法府の仕事として、内閣提案立法にない良さが評価されるべきという感じがする。
2019.06.16
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