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この事務所は、開設した時から『探偵事務所』と看板を掲げている。そして、いつか誰かがその探偵と連絡を取りたいと思うような状況に陥らないとも限らない。そんな時のために、オレが腰掛けている位置から最も遠いデスクの一角に、いつでもつながる状態で電話機を置いてある。ここのところ、コイツは全く機能を果たすことはなくなった。ただ、それでも電話機をホコリを溜まり放題にして置いてあるのは、夫を亡くしたばかりの女性が寂しさをまぎらすためにかけてくる電話を受けるためではない。オレが預金通帳をボンヤリ見つめながら、銀行を襲撃する計画を練っていると、珍しくネコがうがいをするような音が響いた。「探偵さん、久しぶりね。」電話をかけてきたのはイエローだった。「ああ、しばらく見ないうちに白髪が増えたんじゃないか?」「うちに隠しカメラ仕込むなんて、余程ヒマなのね。でも、そんな口が聞けるっていうことは、昨夜は家でイイ子にしてたみたいね。」彼女とその旦那が前にボロアパートに住んでいた頃、短期間ではあったが夕食にありつくために頻繁に出入りする時期があった。その頃から、なぜかオレの事をガキ扱いする。「何かあったのかい?」「たまには、うちで食事でもどうかなって思ったもんだから。。。どうも母子家庭っていうのに、なかなか慣れてなくて。。。それで、手料理に飢えてそうな人を探しているのよ。」オレは、マッギーがいなくなって母子4人になってしまった食卓を想像してみた。「たまには、ね。」そう答えてはみたが、オレが加わって5人になった食卓を想像してみたがどうもうまくいかない。外国からの留学生を受け入れたホームステイ先。。。そんな様子が頭に浮かんだ。(まぁ、そういうのもたまにはいいか。。。)ためらう気持ちもあったが、結局は翌日の夕食時にお邪魔するということになった。無理矢理押し切られたせいではない。こんなことを頼むべきではない、と内心で思いながら人に何かを頼むのはしばしば功を奏する、ということだろうか。。。続かないよ。。。
2006/07/31
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自分でも、その時どうしてそんな事を言ったのかわからなかった。後から考えてみると、口実なんかはいくらでもある。マッギーの葬式を終えたばかりだ、というのもあるし、差し迫って金が必要と言うわけでもない。しばらく南の島でバカンスなんていうのも悪くない、なんてさっきまで考えていた。「そうか。助かるよ。ありがとう。実は、お前が引き受けてくれるとは、正直思ってなかったんだよ。他に仕事を抱えている、とかそういった意味じゃなくて。。。」「言っておくが、報酬は受け取らないぜ。これは仕事じゃない。オレが1人勝手に気まぐれでやることさ。今夜、お前はこの『ウクバール』へは来なかった。。。そういうことにしてくれ。それが条件だ。」報酬ももらわずに誰かを見張ったりするような行為は、ただの物好きだ。見方によればどっちがストーカーだかわかったもんじゃない。そんなことは重々承知した上で、オレはそんな条件を出した。タコヤキは腑に落ちないような表情で酒を飲み干し、オレの方をじっと見た。顔色をうかがっているらしい。。。「わかった。それじゃ、俺はもう帰るけど、今夜はオレのオゴリにさせてくれ。見ず知らずの客が、飲んでるうちに気分がよくなって他の客の分まで払った。。。そういうことでいいだろ?」オレは、ヤツのしたいようにさせて帰らせる事にした。(何言ってやがるんだい、タコヤキのくせに。。。)ただ、内心ではそうつぶやいていた。タコヤキが帰った後、オレは手元のグラスと棚に並べられたグラスを見比べながらただボンヤリとしていた。騒々しい酒場で、全身がタコヤキをかたどったカブリモノを着たタコヤキが、その場にいるひとりひとりに車代を配っている様子を想像してみた。。。「なぁ、マスター。。。オレは、さっきのヤツが相手だとどうも調子が狂うんだ。どんなもんだろうね。」「Je est un autre。。。」「私とは他者である、か。。。ランボーだね。あんなヤツごときに惑わされるのはオレらしくないってことかな?」「『自分らしい』とか、『本当の自分』などというものに縛られる必要はない。例えば、今こう思った、ということがあっても、数分後にはそれとは矛盾する考えに支配される事もある。考え方の傾向であれ、行動パターンであれ、所詮は人間のすることは恣意的というか気まぐれというか。。。それならばいっそのこと『他者である』としてしまえばいい。」いい考えかもしれないが、少し異論を挟みたくなってくる。マスターが何か言い切ったような時はいつものことみたいだ。。。そんな事を考えながらも、次第に考えはタコヤキの奥さんに付きまとっているというストーカー(密猟者)のことのほうに移っていった。the end.
2006/07/26
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この店では、棚に並べてあるグラスはいつ見ても光っている。おそらくマスターのこだわりなんだろう。。。毎日そいつを、端から順番にひとつひとつ取り出してはじっくり時間をかけて磨き、何度も灯りにかざして点検を繰り返す。ようやく気に入った状態になるとグラスを棚に戻し、次のグラスにとりかかる。どうも、ただのグラスに対する扱い方とは思えない。その動きはまるで。。。アナログレコードをターンテーブルから丁寧にジャケットに納めて棚に戻し、別のレコードを物色して、とっておきの一枚を取り出して慎重に針を載せる。。。そんな姿を連想させる動きだった。最後のグラスを棚に戻すと、マスターはいつもミックスナッツを一皿サービスしてくれる。自分も同じものをつまみながらビールを飲むためだ。「おそらく全国紙に載るような事件ではないから、お前が知らないくてもムリはないんだけど。。。うちの近隣では女性が失踪する事件が、知ってるだけでこの2年で5件発生した。」オレは、知らないと答えた。その後タコヤキは詳細を話し始めた。話をまとめてみると、だいたいこういうことだった。タコヤキは奥さんの異常に気付き、車で外に連れ出して夜を明かす、という日々を過ごしている。夜中に自宅にいなければ大丈夫だと考えたらしい。その知り合いの場合も、奥さんの異常には気付いていた。奥さんのその行動が始まってから一晩中見張るようにしていた。ただ、5日目に寝込んでしまって、熟睡している間に出て行ってしまった。。。翌日捜索願を出したが、残念ながら手がかりもなく、連絡もないまま1カ月が過ぎた。タコヤキの説では、少なくともこの2人の間には何らかの接点あるいは共通点があり、そのために何者かにターゲットとして選ばれたのだ、ということだった。「2人の接点あるいは共通点が何なのか俺なりに調べてみようと思う。その間、妻は実家に預けて置こうと思うんだ。実家にいれば問題ないとは思うが、ただ、何が起こるかわからない。だから、君を頼ろうと思ったんだよ。」オレは少し時間をおいた。酒をひと口飲み、タバコに火をつけた。「困ったな。。。断る口実がみつからない。」to be continued...
2006/07/23
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「話を聞かせてもらおうか。お前の頼みっていうのが何なのか、今のところ、おそらく奥さんに関することだろうってことしかわからない。」タコヤキは軽く1回うなずいた。いつも絶やすことのない口元のうすら笑いが消えていた。「実は、ストーカーのターゲットになっているみたいなんだ。 ただ。。。」タコヤキは少し口ごもった。どうやらその先はあまり楽しい話ではなさそうに思えた。オレは気が重くなってきたが、それでもそんなとこ話を切り上げる訳にもいかない。「ただ?1日に何十回もイタズラ電話をかけてくるとか、1600ミリの超望遠レンズで遠くから姿を拝んでいるとか。。。そんなそこいらにいるようなストーカーだったら、わざわざオレに会いに来ておべんちゃら言ったりはしないね。」タコヤキは、今度は2回ゆっくりとうなずいた。「誰も信じてくれないだろうと思って、今まで誰にも話してないんだ。お前だったら、笑わないで聞いてくれると思ってたよ。」そう言って、さっきから手をつけなかったバーボンを一口すすった。「1年ほど前から毎晩、妻は夜中に突然起き出して、パジャマのまま靴も履かずに家から出て行こうとするようになった。妻の話では、誰かに手を引かれているらしい。後姿だけははっきり見えていて、手を引くのはあまり見覚えのない男の後姿だって言ってた。」タコヤキはガラにもなく、慎重に言葉を選びながらそこまで話し、また一口すすった。「夢遊病じゃないのか?少なくともここまでの話では、ストーカーによって被害にあっていると言えるような状況ではない。。。」タコヤキは続きを話すべきかどうか少し考え込んでいるようだった。オレは話を少し変えてみることにした。「ストーカーといえば。。。マスター、タルコフスキーの映画で『ストーカー』っていうのがあったよな?」「あれは。。。1979年に制作された映画で当時はまだソ連だった。この映画の中では”ストーカー”と言うのは今使用されているような意味ではなく、”密猟者”の意味のほうで使われていていて、”ゾーン”という謎の場所へ連れて行く”水先案内人”のような人物をあらわしていた。」「ラストも良くわからなかったが、超能力を持っているような少女が出てきたよな?」「おそらく主人公のストーカーの娘、ということだと思われるが、一人でテレキパス(念力移動)を使っているシーンがあった。そのシーンの間にはチュッチェフの詩が朗読されていた。確かにその意図はつかみようがない。」話を聞きながら、オレは2杯目のバーボンを飲み干した。to be continued...
2006/07/19
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「まさか、オレに用事があって遠いトコはるばるやって来たなんて言うんじゃないだろうね?」「そのまさかだよ。」タコヤキは少し照れくさそうにそう言った。高校生の頃、コイツは何人も彼女をこしらえては、得意気にあちこち連れ歩いていた。それを見かける度に、オレ達はひがんで、「タコヤキのくせに。。。」といつもコソコソ毒づいていたものだ。「女性関係でのトラブルならゴメンだぜ。 テメエのケツはテメエで拭くもんだよ。なぁ、マスター。」マスターは聞いていないような格好で、ビールを片手に持っていた。「同感だが、それがままならない状況っていうのもよくある。こんな状況でどうすべきか、そんな時に客観的な意見をきいてみるのも全く無意味とは言えない。ただ、当事者にとっては重大問題であっても、関係のない人物にとっては所詮他人事であって、協力できる部分とできない部分がある、というのは事実であり、問題解決につながるような回答は期待すべきでないのかもしれない。ある程度自分で結論を出しておいて、その正当性を確認するというのが実際のところのように思われる。」マスターはオレとほとんど同意見のようだった。「そう言わずに、まぁ聞いてくれよ。」昔とは打って変わって低姿勢なことに気がついた。オレは話の続きを待つことにした。「高校生の頃、俺はお前に嫉妬してたよ。。。お前は自分に気がある女の子の事は見向きもしなかった。そして、みんなから好かれるように努力するとか、無理するとかってことにはまるで無縁だったのに、お前のことを悪く言うヤツはほとんどいなかった。俺はそれがずっと気になってたんだ。」オレに気がある女の子なんて初耳だったし、オレのことを悪く言っていたヤツをオレは何人か知っている。「そんな話でオレが、この上なくいい気分になって、『これからはどんな事でも協力させてくれ』って言うとでも思ってるのか?」「ははっ。相変わらずだな。」タコヤキは笑っているが、どこまで本気なのかつかめなかった。さっき見かけた奥さんと子供(らしき2人)の表情も気になっていた。「さっき一緒に居たのは奥さんと子供かい?」「まぁね。」ニヤけた表情が少しひきつった笑いに変わったのがわかった。to be continued...
2006/07/17
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ウクバールというのは実際にある地名かもしれないが、マスターの話ではJ.L.ボルヘスの小説に出てくる架空の地名からとったらしい。エキゾチックな屋号だが、特に変わった酒が置いてあるわけでもない。いつものバーボンを頼み、音楽に耳を傾けた。(友人の葬式の後で『Left Alone』は聞きたくねえな。。。)オレは、グラスを明かりにかざして曇りを点検しているマスターに話しかけた。「なぁ、マスター。思い出ってやつは厄介なもんだなぁ。」「そうだとも言えるし、そうでないとも言える。なぜなら、ノスタルジーというのは個人的なものであり、多くの場合感傷的なもので、確かに厄介ではあるし場合によっては非常に気の滅入るものではある。しかし、『時間』というものは常に過ぎ去っていくものであり、過去を振り返る行為というのは、人類が『時間』というものに対して行うささやかな『抵抗』と言えなくもない。」「・・・・」いつもの少し早口で、それでいて淡々とした調子でそう答えた。オレは少し異論を挟みたい部分もあったが、黙って聞いていた。10時を10分ほど過ぎた頃、タコヤキが店の入り口から顔だけを覗かせた。「やぁ、盛り上がってたかい?」オレがいるのを確かめてタコヤキはそう言った。「お前が来るまではな。。。」タコヤキは気を悪くした様子もなく隣に座り、オレと同じものを注文した。「待たせたかな?」気を使っているつもりなんだろうか。。。「別にお前が来るのを待ってたわけじゃないさ。 この時間には大抵オレはここでこうしてる。」オレはそう言って1杯めを飲み干した。。。人差し指を立ててグラスを置く。おかわりのサインのつもりだが、マスターは見逃すことも多い。。。to be continued...
2006/07/15
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マッギーの葬儀の間、イエローは参拝者ひとりひとりに向かって丁寧に頭を下げていた。レッドも列に混じって焼香していたが、イエローはそれに気が付かなかったのか、他の人と同様に対応していた。話しかけるチャンスがないわけではなかったが、オレは特に話はしなかった。ふと、オレの名前を呼ぶ声が聞こえた。オレは香典を整理する手伝いの手を止めて、声の主を探した。見覚えのある顔が、オレの方を見てニヤけていた。高校の頃、マッギーとウラで『タコヤキ』と呼んでいた、いけ好かないヤツだ。「久しぶり。遠いところご苦労様だな。」オレはそう言った。こいつがやって来るとは意外だった。遠方で居を構えたと聞いていたし、だいいちそれほど親しくしていたわけでもない。「遠いけど、こんなことでもないと帰ってくる機会もないんでね。」(なるほど。。。このあと同窓会でもやるのか。。。)「そうだな。たまには顔出しておかないと忘れられちまうからな。」なぜか、あまりにもマトモな返答をしてしまった。。。コイツが相手だとどうも調子が狂う。「ところで、後で時間とってくれないか?折り入って頼みたいことがあるんだ。」タコヤキのくせに、意外なことを言う。。。生憎だが。。。と言いかけて、ヤツの後ろにいるのはその奥さんと子供らしい、と気が付いた。「10時以降だったら駅前の『ウクバール』にいるよ。」とりあえず、オレがいつも飲みに行く場所を教えた。ヤツもそこは知っているらしく、安心したような表情をした。to be continued...
2006/07/12
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オレはクマから手を離したが、クマはオレから離れようとしない。オレは気味が悪くなって、手に持ったクマを地面に何度も叩き付けた。足で踏みつけ、ムリヤリ引き剥がしたが、その後もバタバタと暴れていた。「ある時、妻が彼女からそのクマを預かってきた。 オレはそいつが憎くてしょうがない。。。 そいつは人の心の弱ったところを見つけては、そこに入り込む。 そして、傷を癒してくれているような顔をして、実は傷口を思い切りひっかき回して喜んでやがる。。。」クマの方に目を向けると、まだ微かに暴れている。「そして、そいつがいると、ゾウが凶暴になるのさ。 ピンクに塗りつぶしても大人しくならないんだ。 やむを得ず、信頼できる人間に任せようと思った。それだけさ。」オレは黙って聞いていた。オレには訊きたいことが山ほどあったはずだが、何を訊きたかったのかわからなくなってきていた。「オレはこれまで何もしてないよ。 これからも、何もする気はないね。」マッギーはもうオレと話を続けるつもりが無いように感じた。これから先、もう会話をかわすこともないかもしれない。おそらく、イエローとレッドのことは、あの世からいつまでも見守っていくんだろう。。。足元ではクマがまだ微かに暴れている。オレはそいつのマヌケ面を見ていると、無性に何か叫びたい衝動に駆られた。オレはおもむろに腹にナイフを突き刺した。(オレはいつナイフを手に持ったんだ。。。?)そしてそのまま約90度回転した。昔のTVのチャンネルを替えたときのように、ガチャガチャという手ごたえがあった。ようやく、クマは大人しくなった。そしてオレは、そいつを池に向かって思い切り投げた。とっておきの映像をヤツに見せることができたのだろうか。。。何もする気はない、とさっき言っておいてなぜそんなことをしたのかは、自分でもわからない。ただ、ようやく何かをしてやることができた、という気がしていた。(もうこれっきりだ。。。)遠くの方で、子供が母親を呼ぶ悲痛な声がしていた。さっきから何度も繰り返し呼んでいる。その声を聞いたせいか、急にさっきの頭痛とめまいが治まっていないことに気がついた。立っているのがやっとだ。。。(やれやれ。。。この調子じゃ一緒にママを探してやる事なんてできないぜ。。。)オレは、急に足取りが覚束なくなって、フラフラしながら子供の声のする方に向かった。(そうだった。。。レッドを港に置いてきたままだった。。。) the end.
2006/07/09
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オレは、眠っているイエローからメモを預かったことを思い出した。もう一度読もうと思い、ポケットから取り出してみた。「クマを持って、公園の池の白鳥の前に来てくれ」と書かれていた。前に読んだときと内容が異なることには、オレはたいして驚かなかった。おそらく、数時間後にはまた違うことが書いてあるんだろう。オレは事務所に寄り、金庫にしまっておいたクマのぬいぐるみをつかんで、また車に戻った。そして、公園に向かって車を走らせた。いろんなことが起こった、というよりは、オレはただいろんなものを見せられただけだった。全てマッギーが仕組んだことだった。常識離れした会話、現実とは思えない行動、意味ありげな夢。。。どれもこれも、オレみたいな凡人にはついていけない。。。幸い公園には人気はなかった。オレは手にクマを持って白鳥を探した。白鳥は見当たらなかったが、桟橋のところに白鳥をかたどった足漕ぎボートがくくり付けられている。(やれやれ、ここまできて散々振り回しやがって。。。)当然ながらマッギーの姿はない。しばらく待ったが、何も起こりそうにないので話しかけてみた。「高校生の頃、集団暴行で少年院送りになった3人のことはよく憶えてるよ。」(おそらく伝わっている。。。)返事はないが、そんな気がしていた。「お前が関わったって言うのは事故なんかじゃない。 高校生の時に、あの3人と一緒になってやらかした集団暴行だな。 それが元で、お前はゾウの幻影に悩まされるようになった。そうだろ?」マッギーは答えるのをためらっている、オレはそう感じていた。「いつお前が話してくれるのかって、オレはずっと待ってたよ。」オレはそこまで言って待つことにした。マッギーは必ず返事をすると確信していた。「俺もずっと話したかったさ。。。」マッギーは姿を現さず、声だけが聞こえた。「しかし、話そうとするたびに、ゾウに襲われた。。。 もちろん、死ぬほど後悔したし、相手には申し訳ない気持ちでいっぱいだよ。 でも、俺には謝罪する事もできなかった。 しかも、法の裁きを受けることすら出来なかったんだよ。。。」「泣き言なんか聞きたくないな。。。 なんで、海に飛び込んだりしたんだい。。。」「オレはゾウとクマから逃げてばかりいたんだよ。 ケリをつけようと思って、彼女を悩ましているゾウもまとめて始末しようと思った。 そうしたら、2頭がかりで倒されちまったってわけさ。」訳がわからない。。。そう思っていると、手に持ったクマが勝手に、小刻みに揺れ出した。to be continued...
2006/07/08
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事務所にやってきたのは、まるで1年振りくらいに感じられた。懐かしいにおい、懐かしい壁の色、懐かしい床の味。。。オレはリノリウム張りの床に顔を押し付けていた。結構長時間だったようだ。手には、やはり紙切れを持っていた。(ここには長居はしていられない。。。)前にこの場所でイエローに言われた言葉が気にかかった。早々にここから立ち去ろうと、オレは一人でもがいていた。だが、頭痛とめまいに襲われて、到底立ち上がれそうな気配すらなかった。「探偵さん、気がついた?」驚いて、声のする方に目を向けた。はっきりとは見えないが、レッドが来ている。。。「この事務所から。。。早く離れよう。」人が居ることで、少し気持ちが強くなったんだろう。おそるおそる立ち上がってみると、なんとか歩けそうだった。「分かった。あたしもここにはあまり居たくなかったの。。。」フラフラして、何度かレッドの肩をつかんで支えてもらいながら、どうにか車に乗り込むことができた。今日は赤い服を着ていた。「探偵さん、海へ行かないと。。。 昨夜、車ごと海に沈んでた身元不明の遺体が発見されたの。。。」レッドも助手席に乗り込み、心配そうにオレの顔を覗き込みながらそう言った。(マッギーの遺体がとうとうあらわれたか。。。)「そんな事を、わざわざオレに知らせにきてくれたのかい? 火事が起こっても、オレに知らせに来てくれてるつもりじゃないだろうね。」「なぜか、自分に関係がある事のような気がして。。。 気がついたら、知ってるはずないのにここへ来てた。」オレはゆっくり、海に向かって車を走らせた。前にイエローが明け方帰ってきて、海を見に行っていた、と言った事を思い出した。おそらくマッギーは、最後に電話をかけてきて間もなく逝っちまったんだろう。もしかしたら、あの電話をかけてきた時はすでにこの世にいなかったのかもしれない。。。(やっぱりオレにはわからないよ。一体オレに何をさせようって言うんだい?)港の近くまで来ると人だかりができていた。車では入って行けそうにない。車は数珠つなぎで全く動かなくなった。オレはそこでレッドに、車から降りるように言った。レッドは不思議そうな表情も見せず、黙って降りた。オレはUターンして、そのまま車でアテもなく彷徨った。to be continued...
2006/07/06
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見たことの無いダイニングキッチンの風景。。。あちこち見回してみるが、誰かの家の中ということ以外は何もわからない。家の中は静まり返っていて、なんとか障害物を見分けられる程度の明かりしかない。イエローが、テーブルに顔を伏せている。(マッギーの家か。。。)例によって声は出せない。。。ヤツから聞いていた通り、質素な暮らしぶりが見て取れた。手馴れた空き巣なら、侵入した瞬間に自分のバカさ加減に気づかされて頭を抱えてしまうだろう。いくら物色してみても金目のものはおそらく見つけることはできない。。。イエローは眠っているのかもしれない。オレがいる事に全く気づいていないようだった。イエローは右腕だけをテーブルの上に伸ばしていた。そして、手には紙切れを持っていた。(これを受け取れってことかい。。。)オレはその紙切れを、イエローの手からそっと取り上げた。小学生が授業中に、教師の目を盗んで伝言を回すのに使うような、小さなメモ用紙だった。「クマとゾウは俺が始末する。 うまくいくかどうかわからないが、 いざとなったら強い味方がいるから心配はいらない。」書いてあるのはそれだけだった。(マッギーの字か。。。相変わらず女の子みたいな字を書くヤツだ。。。)念のために裏面を見ると、頭にネコの耳のようなものが生えた女の子が、オレに向かってニッコリと微笑んでいた。予想していたことだった。おそらくマッギーは、もうこの世には居ない。。。イエローにはわかっているのだろう。この紙切れを何度も手にとって読んでいたのかもしれない。イエローの方を見ると、少しモゾモゾ動いていた。やはり眠っていた。その時、例によって場違いなほど大きな音がして、頭に衝撃が走った。。。(そうだった。こいつを忘れてたぜ。。。)薄れていく意識の中でオレは、マッギーがイエローを連れて来て、付き合い始めたことを報告しに来た時の姿を思い出していた。to be continued...
2006/07/04
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どうやら高校の教室のようだった。高校生のマッギーとなにやら見覚えのある3人(ブルー、グリーン、ブラウンとしておこう)がひそひそ話をしている。深刻な話をしているらしい。。。その時、普段はおとなしいはずのブルーが突然立ち上がり、ブラウンにつかみかかろうとした。マッギーとグリーンが止めに入ろうとして立ち上がった時に、マッギーの目がオレの方を向いて動きが止まった。(気付かれた。。。)少し焦って、逃げようかと考え始めたところで目が覚めた。オレは車の中で、酒ビンを片手に握り締めたまま眠ってしまっていたらしい。外は真暗だが、早起きマニアにとっては、少しばかり早い時刻だ。こんな時間に何も無いだろうと思いながら外を見ると、イエローが家に向かって歩いて来ているのが見えた。やはり偶然ではない。「朝帰りとは妬けるな。。。」オレは、家に入っていこうとする背中に向かって声をかけた。イエローは驚いて振り返った。「海を見に行ってただけ。」(こんな時間まで?)「マッギーはどこにいる?」オレがそう尋ねると、イエローは逃げるようにドアを開けて、家の中に消えた。しばらくオレは家の前に立ち尽くすしかなかった。(ムリもないか。。。)しばらくそのままの状態で待ったが、やはり出てきそうな気がしなかった。また出直そうか、と車に向かって歩き始めた時、背後でドアが閉まる音がした。イエローが、立っていた。。。手には見覚えのあるナイフを握っている。(やれやれ、またか。。。)オレはレッドが同じようなナイフを持っていたときのことを思い出していた。(まるで30年ほど前のテレビだな。オレの腹にナイフを差し込んで、そいつをガチャガチャと回し、とっておきの場面のチャンネルに合わせようってことか。。。)あの時の痛みの記憶がよみがえってきた。あの少し前にに献血した時の痛みとは比べ物にならない。(どうせそのうち、イエローの姿が一瞬見えなくなって、オレは腹に痛みを感じ、何かを預かるんだろう。。。)残念なことに、オレの予想は外れなかった。。。to be continued...
2006/07/02
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