話飲徒然草(S's Wine)

話飲徒然草(S's Wine)

2022年07月15日
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カテゴリ: ワインコラム
本家アーカイブをいずれ閉じるときに備えて、あちらにしかない記事をゆるゆるとこ移管しようと思っています。
コンテンツの中で、飲んだワインの記録とならんでボリュームがあるのがこちらです。
「裏リアルワインガイド」
http://www.asahi-net.or.jp/~mh4k-sri/realwineguide/index.htm
雑誌の創刊時に参加していたテイスティング会の記録で、今となっては、タイムカプセルの中身のような内容ですが、いくつか抜粋して追々こちらにも転載しようと思います。

**************
RWG誌の中でもなんどとなく取り上げられて、おそらく読者の方々にとってももっとも興味があるであろう話題のひとつが、「ワインの状態」に関するネタであろう。バックナンバーをつらつらとめくってみると、レビューや追記などそこかしこで「状態がイマひとつ」というような発言が出てくるし、過去には私の目から見ても結構ショッキング?と思われる表現もあった。
ただし、その論調は4号あたりからだいぶトーンダウンしてきていて、今後は誌面でそれなりのジャブを打ち続けることはあっても、真正面から取り上げることはなさそうな雰囲気である。その裏には、広告を掲載していないといってもやはりインポーターやショップなどの業界関係者との関係を無用にギクシャクさせたくないという配慮もあるのだろうし、雑誌のネタとしても、あれが状態が悪いこれもコンディションが悪いと書いても、単に消費者の不安感を煽るだけでなんの解決にもならないということもあるだろう。
味覚というのは多分に主観的なものだし、劣化に対する感じ方も人によって大きな幅があるものだ。テイスターの中にも、コンディションに対しては非常に厳しい人とそれほどでもない人がいることは私自身も「ワインの保存」の検証で痛感している。

ということで、まずこの手の話の前提として確認しておかなければならないのは、「何を以て『劣化』とか『コンディションが悪い』というのか」もしくは、「どのレベルを基準にするのか」ということだ。



私の周囲では現地のものやハンドキャリーで持ち込んだものの方が状態がよいという意見が優勢だし、 かくいう私も「違いがある」という方に票を投じたくなるクチだが、例のリアルワイガイド式ブラインドテイスティングで検証したとして、百発百中で判別できるかと問われれば、その自信はない。

ボトルによっては、はっきりと違いを判別できるものもあるかもしれないが、差がないと感じるものもあるだろう。優良なインポーターが細心の注意を払って輸入し、管理の行き届いたショップを通じた購入したボトルであれば、現地のものとほとんど遜色のないレベルにあるのは、現地優位派の私も認めるところであるし(問題はそれが国内で流通しているボトルの何割程度にあたるかという点なのだが‥。)、そもそも酒質の強い品種だったり、アルコール度が高く構成要素の豊富な銘柄だったりすると、熱を浴びた影響がそれほど顕在化しない場合も少なくない。USのオークションで落札したブルゴーニュのボトルとカベルネやシラーの「ハズレ」る確率の違いがよい例だ。

他方で、反論を承知で書くとすれば、(少しばかり熟成が進んでいるなど)違いが些細なものに留まるのであれば、地球の裏側に住む我々日本の愛好家としてはある意味それを許容するワリキリも必要かと思う。なにしろ、ワインという生鮮食料品に近い性格のものが赤道を越えて何万キロも旅をしてくるのである。ハンデがあって当然である。個人的には前述のように一部の選りすぐったインポーターやが夏場以外の季節に輸入し、それをあまり間をおかずにきちんと管理の行き届いたショップから購入するのであれば、ほとんど現地のそれと遜色はないとは思っている。思ってはいるのだが、仮にそうしたインポーターやショップにめぐり合えたとしても、資本主義社会の常として、状態管理のための経費がプライスに上乗せされている場合が多い。そして問題は、楽天で一覧検索をかけて1円でも安いところで買おうというような消費者が大半を占めるなかで、このような管理コストのためのプライスアップを多くの買い手が是とするかどうかである。

また、実際に差があったとしても、プロやシビアなマニア以外の多勢を占める愛好家が判別できるほど酷いものがそうそうあるかといえば、実態としてはごく僅かな割合に留まるだろう。こうして書いている私ですら、何アイテムも同時に試飲するような場では判別できても、単体で1本だけ飲んだとしたら、コンディションによるものなのか、それともそういうワインなのかを判断しかねる場合が少なくない。
‥といようなことを考え合わせると 、(それがよいかどうかは別として)あまりこうした分野には深入りしないというか、ある程度おおらかに構えた方が幸せなワインライフを送れるのではなかろうかと思う。
以下は国内で流通している平均値的なボトルを前提にした話である。

1. 残念ながら、「ブショネ」については、一定比率存在するのは間違いない。一時は15本テイスティングしたうち3本がブショネ、などという事例が続いて、「ブショネ恐怖症」になったこともある私だが、トータルでならしてみると、ブショネにあたる確率は世間で言われているように3%前後ではないかと思う。ブショネについては、『ブショネ考』のところで書いたので詳しくはそちらを参照していただければ幸いだが、明らかに生産段階の欠陥であるブショネのボトルを「交換しない」とHP上で開き直っているショップがあるのには正直呆れる。(もちろん購入してから年数が経過している場合など事実上返品できない状況がありうることは理解できる。しかし、開き直ってブショネのリスクを全面的に消費者に背負わせる姿勢は販売者としていかがなものかと思う。)

2. 「熱劣化」については、前述のとおりどこに基準に持ってくるかでかなり比率が変わるが、とりあえずリリース直後の新しいビンテージであれば飲めないほど酷いものに当たることはめったにないと言っておこう。(ただし、価格レンジの低いワインについては、管理がずさんになりがちなことや構成要素の少なさもあってか、状態の芳しくないものにあたる比率は上昇する気がする)。年代が古くなれば、リスクも当然高まるが、「リアル~」誌のテイスティングは基本的に若いビンテージが中心なので、それがどの程度なのかを私は言う立場にない。

3. それよりむしろ、私が問題だと思うのは、醸造面に起因すると思われる異臭を放つワインが時折り見られることだ。極端な硫黄臭や洗剤のような化学的な異臭、ゼラニウムを煎じたような(←ってやったことはないが)不快な青い香り、いわゆる「馬小屋臭」の極端なもの‥。比率的には全体の5%以下だとは思うのだが、これらのボトルは本当に「不快」であるし、ずらりと並べたある年のある作り手のボトルが軒並み同様の症状に犯されているなんて場合が多いので悩ましい。
もっとも、これらの異臭は、熱劣化などとは逆に、ある程度年数を経過したボトルではほとんど出くわすことはないので、リリース後にのみ特に目立つが、時間とともに消失するという性質のものなのかもしれない。そうあってほしい。

4. 最近流行の「ビオディナミ」系の作り手のワインは、状態さえよければこれまで経験していたワインとは全く別の世界を見せてくれる。しかし、二酸化硫黄を添加していない作り手が多いこともあり、その扱いはひときわデリケートさを要求するように思われる。実際、ビオの作り手のものをテイスティングすると、(それが良心的なショップやインポーターのものであっても)、ヌメヌメとした質感や酸化した色香りなどが妙に強調されてこれが本当に実力なのかな、と首をひねりたくなるようなボトルに出くわすことが少なくない。



6.悩ましいのは、同じインポーターの扱いで同じショップから購入した商品でも、銘柄によってごく健全なものもあれば、ムムッと首を傾げたくなるようなものもあることだ。これはおそらく輸入した時期が夏場にかかっているのか冬場だったのか(夏場だとたとえリーファーコンテナを使っていても、港湾や出国時の扱いに不安が残る)とか、出荷する側の作り手の扱い(案外ぞんざいなドメーヌもあると聞く)、それに店舗での扱われ方と在庫期間(日のあたる店頭に置かれていたり、空調のない店や、空調があっても夜間に電源を落としている店で夏場を越したものだったり‥)などにもよると思う。

7.今まで書いてきたことと矛盾する面もあるが、やはり白ワインとブルゴーニュは神経を使って使いすぎるということはないと思う。幾重にも重ね塗りした油絵の中に、若干ノイジーな色調がまじっていてもそれほど気にならないかもしれないが、繊細な水彩画のパレットに他の色がまじりこんでしまうとひどく濁った印象になってしまうようなものだ。

ということで、結論から言うと、10年レベルで熟成させるとか、自らワイン会を開催するとか、比較テイスティングをするというような用途は別として、通常にワインを楽しむ場合、すなわち新しいビンテージのボトルを購入してすぐ飲むか、もしくは自宅のセラーでほんの数年寝かせて飲むぐらいであれば、一般レベルでそれほど問題のあるボトルというものはないと思う。また、ショップやインポーターの優劣を論じるのもいいが、夏場は極力買わないとか、長期に亘って滞留しているボトルを避けるとか、そういう要素のほうが大きいように感じる。

とはいえ、最低ブショネや醸造トラブルなどによる数パーセントのリスクは見ておいたほうがよいだろうし、ブルゴーニュや白ワインの愛好家にとっては、コンディションの良し悪しが占めるウエイトがどうしても他の品種より大きくならざるをえないのは否定できない事実である。加えてコンディション(特に熱)にシビアな方にとっては、この結論は大いに異論の余地があることも承知している。
ことひどさように、ワインのコンディションをめぐる問題はややこしいのだ。


(後日談)
インポーターの良し悪しや国内の流通状況といった問題は業界全体の底上げもあって、以前ほど神経質に語られることはなくなりましたが、これまでの経験から、愛好家が状態のよいワインを飲む上での 自己防衛の最上の手段は、「高額なワインや貴重なワイン、長く保存するワインなどを購入する場合は、できるだけリリース直後の、蔵出しのボトルを購入して、手元で(レンタルセラーなどでも可)保存しておく」 ことだと思います。出所が明らかということだけでなく、リリース初期の、SO2がまだ液体内に残っている状態の方が明らかに移動等のダメージが少ないからです。
機会があればまた別のエントリーで書きたいと思いますが、詳細は過去の当コラムをご参照ください





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Last updated  2022年07月22日 17時21分29秒
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Comments

shuz1127 @ Re[1]:Ch.リヴェルサン2018(10/16) Henryさんへ おお、オーメドックいろいろ…
Henry@ Re:Ch.リヴェルサン2018(10/16) 私も最近、オー・メドックを愛飲してます…
shuz1127 @ Re[1]:家族でトゥールダルジャン(09/25) Henryさんへ こんにちは。グランメゾンに…
Henry@ Re:家族でトゥールダルジャン(09/25) 大変貴重な現地レポートありがとうござい…
shuz@ Re[1]:今になって新型コロナ感染(8日目)1週間ぶり出社(04/25) うまいーちさんへ お久しぶりです。コメ…
うまいーち @ Re:今になって新型コロナ感染(8日目)1週間ぶり出社(04/25) コロナですか。お大事に。 私もなりました…

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