60ばーばの手習い帳

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May 28, 2019
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​​​​​星 ​肺…ハイ 患…カン 病…ビョウ や(む)、やまい​





5月28日は堀辰雄の命日です。

​風立ちぬ ​

 私は夏の高原で出会った節子と婚約し、彼女が結核の療養のため信州・富士見
のサナトリウムに行くのに同行します。院長からは節子の病状が悪いことを聞か
されますが、節子は「あなたのおかげで生きたくなった」と言います。

​「風立ちぬ、いざ生きめやも」​

詩歌の一節がふと口をついて出ます。

 春と夏が同時に押し寄せてきたような季節に、私と節子は、山の向こうに沈
んだ夕日の残光に照らされた景色が、次第にねずみ色に沈んでいくのを眺めて
いました。
 ずっと後になって思い出したらどんなに美しいだろう、と話す私に節子は言い
ます。「そんなに長く生きていられたらいいわね」

 景色を美しいと思ったのは自分ではなく、自分の中の節子なのだと私は気づき
ました。
​死んで行こうとする者の眼で見たから。節子の魂がおれの眼を通して見たから。​

だと。
​急に夏が衰え出した。​

 9月長雨の季節に一番重症だった患者が亡くなり、自死する患者もいました。
父がやってきて少女のようになる節子。節子は咳こむようになります。
​嘗て私達の幸福を完全に描き出したかとも思えたあの初夏の夕方のそれに似た、ーーしかし、それとは全然異なった秋の午前の光、もっと冷たい、もっと深みのある光を帯びた、あたり一面の風景を私はしみじみと見入りだしていた。​

 季節の移り変わりの描写の中に融けこむように、死へと傾いていく節子の病状
と、私の心情が語られます。あくまでも透明に、美しさを失わず。



 冬、私は仕事を再開します。夜明けの光は雲を赤赤と染めながら、なかなか
地上まで届きません。節子は喀血しました。
 12月。蛾が窓硝子にぶつかります。
​​
その打撃で傷つきながら、なおも生を求めてやまないように、死に身になって硝子に孔をあけようと試みている。
​​
 節子の死は直接書かれることはありません。
 私は三年半ぶりに村を訪れ、山小屋を借りて住んでいます。
クリスマス・イブに村人に招待された帰り道、私は村からはるか上にある自分の
小屋の灯りをはっきりと認めました。

 が、帰って見ると、小屋の灯りはほんの僅かに周りを照らすばかりです。
そのとき、私は思いました。自分の人生の明るさも、自分から見るとこれっぽっち
だが、本当はもっとたくさんあるのだと。

風の余りらしいものが、私の足元でも二つ三つの落葉を他の落葉の上にさらさらと弱い音を立てながら移している…。


 『風立ちぬ』には、死から来る暗さ、重さが感じられません。
喀血、危篤、死という場面をさらっと通り過ぎるように書いているためでもあり
ますが。

 節子は死んだというより、段々透明になって、山の中の自然に融けてしまった
かのようです。自然の移り変わりを光の筆で描いたような景色の中に、苦しみも
哀しみもフェイドアウトしていくように思えます。


         引用および参照元:堀辰雄『風立ちぬ・美しい村』新潮文庫
​​​​​





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Last updated  May 28, 2019 12:00:25 AM
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