アルタクセルクセスの王宮址遺跡

アルタクセルクセスの王宮址遺跡

2007年09月21日
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カテゴリ: ドイツ事情
 明日からミュンヘンでビールの祭典 オクトーバーフェスト
 日本では自民党の後継総裁選が目前で、麻生・福田両候補の議論(といえるようなもんでもなさそうだが)が行われているが、今日はそのミュンヘンで行われている政治について。

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 ミュンヘンを州都にもつバイエルン州はドイツ南東部にあたり、連邦国家であるドイツで最大の州であり(ただし面積において。人口ではノルトライン・ヴェストファーレン州)、またドイツでもっとも保守的な州として知られている。これは割合カトリックが強いこと、また農業が盛んなことと関係しているのかもしれない(もっとも、ミュンヘンはBMWの本拠地ですけどね)。あまりいい例ではないが、政権を獲得する以前のヒトラーが活動の中心を置いていたのもこの州ですな。
 それは政治にも反映されていて、この州では戦後数年を除いて一貫して保守系のキリスト教社会同盟(CSU)が政権を担当してきた。CSUは他の15州におけるキリスト教民主同盟(CDU)にあたる政党で、バイエルンにだけ存在する政党だが、州独自の政党があること自体、バイエルンの特殊性を示しているかもしれない。
 とくに1978年から10年間州首相(連邦制なので州ごとに首相がいる)を務めたフランツ・ヨーゼフ・シュトラウスはドイツの保守系政治家の大立物であり、国防相のほか、1980年の連邦議会総選挙で保守政党(CDU/CSU連合)の首相候補にもなっている。ところがバイエルンはどうもほかの州の人には嫌われる傾向があって、僕の知り合いはこの州を「下(しも)オーストリア」と呼んだり、「あれをドイツの典型のように思われては困る」という(日本におけるドイツのイメージは圧倒的にバイエルンのものだが)。シュトラウスも当時の現職シュミット(社民党)に敗れている。

 バイエルン州の現在の州首相は、そのシュトラウスの右腕だったエドムント・シュトイバー博士である。
 シュトラウスの官房長官として辣腕をふるい「ブロンドのギロチン」とあだ名された彼は、シュトラウスの急死(1988年)で州首相となった前任者が1993年にスキャンダルで辞任したのを受けて州首相となり、CSU党首をめぐるテオ・ヴァイゲル(連邦政府・コール政権の蔵相)との党内抗争にも勝利した。最近の2003年のバイエルン州議会選挙では全議席の三分の二を獲得してまさに「保守王国」を築いた。その在任は今年で14年になる。

 そんな彼は師匠のシュトラウス同様、CDU党首であるアンゲラ・メルケルを差し置いて2002年の連邦議会総選挙にCDU/CSUの「顔」(首相候補)として出馬したが、僅差で現職のシュレーダー首相に敗れた。シュレーダーが早々に翌年のイラク戦争への反対を掲げたのにしてやられた格好になった(もちろんそれだけが争点ではなかったが)。

 2005年の前倒し総選挙では、2002年の総選挙ではシュトイバーに「顔」役を譲ったメルケルがシュレーダー首相に辛勝し、社民党とCDU/CSUの大連立政権が誕生した。シュトイバーはこの政権に経済・金融・科学研究などを兼任する副首相級の「スーパー大臣」として入閣することがほぼ決まっていたのだが、何か不満だったのか直前になって就任を固辞し(待遇面での不満があったらしい)、ミュンヘンを去ってベルリン(連邦の首都)に移ることはなかった。
 ところがいったんベルリンに去ることに決めたシュトイバーに、バイエルン政界は冷ややかな視線を向けた。2002年に連邦首相に挑戦したのに飽き足らず、一度は中央政界進出を決めたのに、どの面下げて戻ってきたのだ、ということである。しかしバイエルンに「王国」と呼ばれるほどの盤石の地盤を築いた彼に、誰も面と向かって批判を加えなかった。
 ところがシュトイバーの任期延長が話題になり始めた昨年になって、そんな彼におおっぴらに反対する者があらわれた。

 バイエルンの「国王」に反旗を翻したのは、 ガブリエレ・パウリ という、フュルト選出のCSUの州議会議員だった。ファッション誌にモデルとして登場し、愛車ドゥカティ(BMWじゃないのね・・・)に跨って選挙区を回る当年50歳の彼女は、66歳のシュトイバーの任期延長を公然と批判し、新聞を賑わせた。さらにシュトイバーの右腕である官房長官が、同僚議員に彼女のアルコールや男性問題などのスキャンダルを嗅ぎまわっていることが発覚し、否認のまま辞任に追い込まれる。
 「裸の王様」シュトイバーに対する彼女の批判は次第に支持を増し、「空気を読んだ」シュトイバーは今年1月に、9月いっぱいでの州首相辞任とCSU党首選への不出馬を表明した。7月、CSU執行部はバイエルン州首相の後任候補としてギュンター・ベックシュタイン内相を立てることに決した。
 ところが一方で「王様」であるシュトイバーを引きずり下ろしたパウリに対する党内の風当たりは強く、吊るし上げを食った彼女は次期州議会選挙への不出馬を宣言した(3月)。転身を図った彼女がしばらくして選んだ道は・・・・なんとCSUの党首選挙に出馬することだった(7月)。CSU党首選は党内の有力政治家である上記ベックシュタイン内相とエルヴィン・フーバー経済相の間で争われることが決まっていたが、そこに彼女が闖入したのである。ちなみに現在の世論調査ではCSU支持者の15%がパウリを支持しているという。

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 シュトイバーの退任と党首選挙が迫る今週水曜日、その彼女がCSU党首候補としての 政策 を発表した。その内容はその場にいた50人ほどの記者が唖然とするもので、オーストリアの記者は「またドイツ発のおバカなニュースがとれた」と喜び、生真面目なフィンランドの記者は理解できない自分のドイツ語力に自信を失って確認のため聞き返したという。

 彼女の発表した政策は11ページに及び、トルコのEU加盟に必ずしも反対しないこと、CSUが最優先に推進してきたミュンヘンでのリニアモーターカー建設計画を「ミュンヘン以外では役立たず」と断じるなどの独自性があるが、なにせこの「期限付き婚姻制度」が目立ってしまい(家族政策は彼女の政策の柱でもあるのだが)、党内外から集中砲火を浴びている。対立候補であるベックシュタイン内相は「ここはサーカスじゃない。ふざけている。立候補をやめるべき」と断じているが、彼女に追い落とされたシュトイバー党首はこの一報に驚いたそぶりも見せず、「そういうことは他の党でやったらどうか」と答えたのみだったという。
 さらに今日になって、彼女はこのアイデアを 漫才師のネタから剽窃したことが判明 してさらに物議を醸している。日本でいえばビートたけしの本から選挙公約を探し出すようなものか。たけしの元弟子の宮崎県知事はネタに走らず結構手堅くやってるみたいだけど。


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 家族制度に代表される伝統的価値観を重視する保守政党・CSUにとって、彼女の政策はそれに真っ向から反するもので、「シュピーゲル」はこの提案を「ヴァイスヴルスト(白ソーセージ。バイエルンの名物)を廃止し、ミュンヘンの聖母教会のドーム屋根を吹き飛ばし、オクトーバーフェストをやめて断酒会に変えるようなもの」と例えているが、言い得て妙だと思う。

 「三年目の浮気」って歌もあるけど、確かに7年というのは何か一区切りとなる期間かもしれないなあ。ドイツの大学生の平均在学期間も7年くらいだし(最近は授業料導入とか学士(バチェラー)制度の導入で短くなってるんだろうけど)。
 結婚したこともない僕には何とも言えませんが。出来れば離婚は避けたい。

 まじめ一辺倒なイメージがあるドイツの政治(まあ電八郎さんに教えてもらった ドイツ無政府主義ポゴ党 というのもあるが)、しかももっとも保守的かつ圧倒的な男性社会であるバイエルンのCSUでこのようなことが起きているのはきわめて画期的、悪く言えば戯画的としか言いようがない。CSUの多くは「ただのヒステリー女」と切り捨てているが。
 彼女がCSU党首になる目は皆無で、シュトイバー現党首も「彼女は史上最低の得票に終わるだろう」と断じているが、ガブリエレ・パウリは、連邦首相である アンゲラ・メルケル 、少子化対策を推進している ウルズラ・フォン・デア・ライエン家族相 とともに、今ドイツでもっとも注目すべき女性政治家の一人かもしれない。リベラルな社民党や緑の党にいま一つこういう「キャラの立つ」女性政治家が欠けているのは、むしろそこでは当たり前すぎて目立たないからか?





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最終更新日  2007年09月22日 03時13分37秒 コメント(8) | コメントを書く
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