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ホスニ・ムバラク大統領の独裁体制は限界に達し、エジプトの体制変革は不可避になった。本コラムではすでに指摘したことだが、アメリカ政府はこうした展開を見越し、「反ムバラク派」の「4月6日運動」とも2008年には接触している。 過去を振り返っても、アメリカは高学歴の若者、つまりエリート/特権意識を持ち、庶民とは一線を画しているであろうグループを手なずけ、支配の道具にしてきた。今回も同じような手法を使おうとしているのだろうが、成功するとは言い切れない。 これまで、エジプトの国民は体制に不満を持ちつつも、おとなしくしてきた。それだけに怒りのエネルギーは蓄積されてきたわけで、吹き出し始めた怒りのエネルギーを押さえ込むことは難しいだろう。アメリカ政府としては、穏やかな方法でムバラクを退場させたかったかもしれないが、すでに150名という死者が出ているとも伝えられるような状況だ。 「ムバラク後」はモハメド・エルバラダイ前IAEA(国際原子力機関)を軸に動くことになりそうだが、この人物はイラクの「大量破壊兵器」をめぐってアメリカ政府と意見が衝突していた。アメリカがイラクを先制攻撃する理由に挙げていた「核兵器開発」は根拠がないと語っていたのである。ちなみに、エルバラダイの後任はアメリカに忠実な日本人、天野之弥だ。 それでもアメリカにとってエルバラダイは許容できる人物だと言える。その周辺を4月6日運動の「親米リーダー」で固めれば・・・というところだろう。 しかし、エジプトには「ムスリム同胞団」という勢力が存在する。イスラム復興運動を推進することを目的にして、1928年に創設されている。イスラエルが建国された1948年、エジプトのマームド・ファーミ・ノクラシ首相を暗殺した。 言うまでもなく、イスラエルなる国が出現する前、そこには多くのアラブ系住民が住んでいた。そうした人々を追い出すためにシオニスト(イスラエルの建国を目指していた勢力)は武力を使っている。その仕上げとも言えるものが1948年4月の「ダーレット作戦」。この作戦では、デイル・ヤーシーン村の254名が虐殺されている。そして、5月にイスラエルの建国が宣言されたわけだ。アラブ軍が参戦するのは、その後だった。こうしたアラブ諸国政府の姿勢にムスリム同胞団は怒ったということだ。 ムスリム同胞団は1954年にガマール・アブデル・ナセル大統領を暗殺しようと試み、非合法化された。10年後にナセルは投獄されていた同胞団メンバーに恩赦を与えて懐柔しようとしたが、失敗する。1981年にはアンワル・アス・サダト大統領を暗殺した。イスラエルと平和条約を結んだことに対する報復だという。 とりあえず、ムスリム同胞団もエルバラダイを支持するとしているようだが、アメリカ政府がパレスチナ問題と真剣に取り組んでこなかったこともWikiLeaksで再確認されているわけで、「暫定政権」がアメリカの親イスラエル政策を受け入れたなら、「革命第2幕」が始まる可能性もある。
2011.01.31
エジプトで反独裁の抵抗運動が激しくなっている。そうした状況を示す映像もインターネット上で発信されている。平和的な抗議を拒絶する独裁者は暴力的な革命を避けることはできず、今のイスラム世界なら、狂信的なイスラム武装勢力が台頭する可能性が高まる。
2011.01.30
エジプトで独裁体制に対する反発が高まっていることをアメリカ政府も当然、理解していた。アメリカにとって受け入れられない体制が出現することは絶対に阻止したいと思えば、既存の体制に見切りをつけ、新たな「親米体制」を作り上げることも必要になる。 そうした準備が遅くとも2008年に始まっていることを示す文書が公開された。(注)この年の12月、「4月6日運動」なる団体のリーダーがワイントンDCでアメリカ政府の高官やシンクタンクの人間と会っているのである。例によって、高学歴の若者にアメリカの支配層は「保険」をかけていたわけだ。 今回の抗議行動でも、こうしたアメリカの息のかかった「反体制派」が新たな支配層を形成するようにとアメリカ政府は考えているようだが、エジプト民衆の怒りがこうしたアメリカ側のシナリオで納まるかどうかは不明だ。(注)VZCZCXRO6679¶1. (C) Summary and comment: On December 23, April 6 activistXXXXXXXXXXXX expressed satisfaction with his participation inthe December 3-5 "Alliance of Youth Movements Summit," andwith his subsequent meetings with USG officials, on CapitolHill, and with think tanks. He described how State Security(SSIS) detained him at the Cairo airport upon his return andconfiscated his notes for his summit presentation calling fordemocratic change in Egypt, and his schedule for hisCongressional meetings. XXXXXXXXXXXX contended that the GOE will never undertakesignificant reform, and therefore, Egyptiansneed to replace the current regime with a parliamentarydemocracy. He alleged that several opposition parties andmovements have accepted an unwritten plan for democratictransition by 2011; we are doubtful of this claim. XXXXXXXXXXXXsaid that although SSIS recently released two April 6activists, it also arrested three additional group members.We have pressed the MFA for the release of these April 6activists. April 6's stated goal of replacing the currentregime with a parliamentary democracy prior to the 2011presidential elections is highly unrealistic, and is notsupported by the mainstream opposition. End summary andcomment.----------------------------
2011.01.29
チュニジアに続き、エジプトでも民主化を要求する抗議行動が広がり、30名が殺されたという情報も流れている。こうした行動はヨルダン、イエメンなど親米国にも飛び火しつつあり、反米武装勢力を抱えるサウジアラビアも安泰ではないだろう。アフガニスタンとイラクをアメリカ軍が先制攻撃した影響が形になり始めたと言える。 そうした中、チュニジアの「前大統領」の妻は1.5トンの金を持ち出したとも伝えられている。この報道が事実なら、腐敗の象徴的な出来事だと言えるわけだが、欧米の金融機関はよだれを垂らして待っているだろう。 北アフリカや中東に限らないが、アメリカ政府は民主的な体制を破壊し、独裁体制を支えてきた。反植民地/反ファシストを宣言していたフランクリン・ルーズベルトや冷戦の終結を目指していたジョン・F・ケネディは例外的な大統領であり、ルーズベルトはドイツ降伏の直前に急死、ケネディは暗殺されている。 アメリカを「民主主義の伝道者」であるかのように主張する輩は、事実から目を背けているのか、大嘘つきか、どちらかである。アメリカ政府が軍隊を派遣し、破壊工作を繰り返してきたのは巨大資本の利権を維持、拡大するためである。世界でアメリカが嫌われている根底には、支配層の反民主主義的な体質がある。日本の支配層がアメリカを崇拝する理由もそこにある。日本の支配層も民主主義を憎悪している。戦前、戦中、戦後を通し、こうした体質に変化はない。その象徴のひとつが「旭日旗」である。 アメリカの「友好国」、エジプトも民主化を求める声を徹底的に弾圧してきた。拷問が日常的に行われていることは、当然、アメリカ政府も熟知している。(注)すでに本コラムでも紹介したが、アメリカがエジプトの反民主的な体制を支持する理由を米国務省の広報担当、P. J. クロウリーはイスラエルとの友好的な関係を理由のひとつに挙げている。 そのイスラエルは先住のパレスチナ人を暴力的に追放し、生活空間を取り上げてきた。ガザを収容所化して兵糧攻めを続ける一方、軍隊を投入して破壊と殺戮を繰り返し、ヨルダン川西岸でも違法な入植を強行、隔離政策を徹底している。エルサレム、ゴラン高原、レバノン南部などをイスラエルは「潜在的領土」だと考えている可能性も小さくない。イスラエル国内での宗教差別は露骨で、言論弾圧も厳しい。 アメリカはイスラエルと心中することになるかもしれない。そして日本も。(注)在カイロ米大使館から出された文書より【VZCZCXYZ0003】¶1. (C) Summary and comment: Police brutality in Egypt against common criminals is routine and pervasive. Contacts describe the police using force to extract confessions from criminals as a daily event, resulting from poor training and understaffing. Brutality against Islamist detainees has reportedly decreased overall, but security forces still resort to torturing Muslim Brotherhood activists who are deemed to pose a political threat. Over the past five years, the government has stopped denying that torture exists, and since late 2007 courts have sentenced approximately 15 police officers to prison terms for torture and killings. Independent NGOs have criticized GOE-led efforts to provide human rights training for the police as ineffective and lacking political will. The GOE has not yet made a serious effort to transform the police from an instrument of regime power into a public service institution. We want to continue a USG-funded police training program (ref F), and to look for other ways to help the GOE address police brutality. End summary and comment.【VZCZCXRO3905】¶1. KEY POINTS ? (C) Egypt’s bloggers are playing an increasingly important role in broadening the scope of acceptable political and social discourse, and self-expression.-- (C) Bloggers’ discussions of sensitive issues, such as sexual harassment, sectarian tension and the military, represent a significant change from five years ago, and have influenced society and the media.-- (C) The role of bloggers as a cohesive activist movement has largely disappeared, due to a more restrictive political climate, GOE counter-measures, and tensions among bloggers.-- (C) However, individual bloggers have continued to work to expose problems such as police brutality and corporate malfeasance.¶2. (C) Comment: The government generally allows bloggers wide latitude in posting material critical of the GOE. Exceptions to this policy are bloggers who directly insult President Mubarak or Islam, and the government has arrested and jailed bloggers who have crossed these red-lines. The GOE has also arrested activists, such as XXXXXXXXXXXX and XXXXXXXXXXXX, who have used blogging to organize and support protests (refs A andC). Activists are increasingly writing blogs to advance their political aims. Contacts accurately point out that bloggers have ceased to function as a cohesive activist movement. It is noteworthy that bloggers did not play a significant role in the most recent example of mass cyber-activism ? the April 6, 2008 strike orchestrated through Facebook (ref G).
2011.01.29
危機的な財政状況であるにもかかわらず、アメリカ政府は戦争を継続し、大企業/富裕層を優遇する政策を継続しているが、共和党の中から外国への援助を止めるべきだという議員が出てきた。ランド・ポール議員である。話題になっている理由は、イスラエルへもカネを出すべきでないと発言したからである。 アメリカが支援している国は、アメリカにとって都合の良い体制の国であり、独裁体制のことが多い。アメリカからの支援は独裁者の懐に入るだけだという指摘は正しい。西側の巨大金融機関にしてみると、西側政府の支援や金融機関の融資は欧米の銀行へ「預金」として還流するので、都合が良いのだ。 しかし、こんな仕組みを維持できなくなりつつある。アメリカは日本と中国から資金を借り、ドル紙幣を刷りながら、かろうじて存在している国にすぎない。日本の支配層は、そうしたアメリカの前に平伏しているのだから恐れ入るが。 現在、北アフリカでは市民が立ち上がりつつある。チュニジアから始まり、エジプトに波及(約6分のあたりに注意!!)しているのだが、サウジアラビアやヨルダンなど親米/親イスラエルの独裁国家は戦々恐々としていることだろう。そうした波がアメリカや日本へ押し寄せないとは言い切れない。
2011.01.28
イスラエルにしろ、アメリカにしろ、パレスチナ和平を真剣に考えていないことは「公然の秘密」であり、イスラエル政府に和平の意志があるかのごとく主張してきた日本のマスコミは破廉恥以外の何ものでもないわけだが、今回、アル・ジャジーラとガーディアンが明らかにした文書によって、アラファト後のパレスチナ自治政府はパレスチナ難民を見捨て、イスラエルとアメリカに屈服していたことが明らかになった。 例えば、イスラエル「建国」の際、シオニストのテロなどから逃れるために難民となった500万人のうち、帰還が認められるのは1万人という条件を呑み、イスラエルを「ユダヤ国家」として認め、つまりイスラム系住民に対する差別を容認し、イスラエルの東エルサレムに対する違法な入植活動も受け入れたのである。しかも、アメリカ政府はパレスチナ難民のラテン・アメリカへの棄民を考えている。 かつて、アメリカ軍は沖縄に基地を作る際、ブルドーザーと銃剣で住民を追い出し、アマゾン川の奥地に棄民したことが知られている。似たようなことをパレスチナでも行おうというわけだ。おぞましいかぎりである。
2011.01.25
イラクやアフガニスタンで掃討作戦を展開し、非武装の住民を殺害したことで悪名の高い121機動部隊。後に改称/再編されているようだが、このアメリカ版「死の部隊」を指揮していたJSOC(統合特殊作戦司令部)には「マルタ騎士団」のメンバーや支持者が多く、またバチカンの秘密結社オープス・デイのメンバーも多いと調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュは今月17日に語ったと、ブレイク・ハウンシェルがフォーリン・ポリシーで書いている。この記事から少なからぬ人が十字軍を連想、話題になっている。 ハウンシェルによると、ハーシュはJSOCを指揮していたスタンリー・マクリスタルやウィリアム・マクレイブンもマルタ騎士団のメンバーか支持者に含まれるとしているようだが、この騎士団に所属していた人は少なくない。 例えば、傭兵会社のXe(ブラックウォーター)の重役何人かは同騎士団のメンバーだと吹聴しているが、それだけではない。日本でも名前の知られている人物を何人か挙げると、ジョージ・H・W・ブッシュ(ブッシュ・シニア)の兄にあたるプレスコット・ブッシュ・ジュニア、アレキサンダー・ヘイグ元国務長官、クライスラーのCEOだったリー・アイアコッカ、ウィリアム・クラーク元大統領補佐官、ジョン・マコーン元CIA長官、そしてウィリアム・ケイシー元CIA長官も含まれている。 この騎士団は一〇六一年、「巡礼者を守る」目的で創設されたことになっているが、真偽は不明。騎士団によると、現在は42カ国に1万人のメンバーがいるのだという。中米のエルサルバドル、グアテマラ、ニカラグアなどに大きな影響力を持っていたが、現在の状況は不明だ。東南アジアへのアメリカ軍の介入を騎士団が支持していたことも知られている。 オープス・デイはバチカンの結社で、創設は1928年。ナチスの支援でスペインの独裁者になったフランシスコ・フランコの体制、あるいはラテン・アメリカの軍事政権を支持しいていたと言われ、ポーランド生まれのヨハネ・パウロ2世もメンバー、あるいは支持者だった。その前任者、ヨハネ・パウロ1世が1978年9月、在位約1カ月で急死した際には暗殺が噂され、秘密結社P2とともに、オープス・デイも「容疑者」といて名前が出ていた。 イラクでの掃討作戦といえば、ウィリアム・ボイキン中将を忘れてはならないだろう。この人物はカトリックでなく、キリスト教系カルトの信者。2003年6月に少将から中将に階級があがると同時に、国防副次官に任命されている。 彼によると、自分たちの敵はオサマ・ビン・ラディンでもサダム・フセインでもなく、「サタン」と呼ばれる霊的な敵なのだという。また、2002年6月に彼はソマリアの首都モガジシュで撮影した写真を示しながら、街の上空にある奇妙な暗黒の印に気づいたと語り、2003年6月には、オサマ・ビン・ラディン、サダム・フセイン、そして金正日の写真を示しながら、「イエスの名の下に戦えば、あの霊的な敵を打ち破ることができる」と発言している。
2011.01.23
そこに意志が働いているかどうかは不明だが、アメリカの支配層は日本の経済構造を破壊しつつ、富を一部に集中させようとしてきた。集まったところで、その富を乗っ取るつもりなのだろう。 富が一部に集中すれば資金の循環が滞り、社会システムも機能しなくなる。日本政府は積極的に社会システムを破壊しようとしているようにも見える。 公的な健康保険も年金も破壊されようとしているが、これは日本政府の政策、あるいは意志のようだ。要するに、日本政府はアメリカ支配層の代理人にすぎない。(いまさら言うこともないだろうが。)勿論、アメリカは郵便貯金にも手を伸ばそうとしている。中曽根康弘でホップ、小泉純一郎でステップ、そして菅直人でジャンプというところだろう。 アメリカが日本乗っ取りを本格させたのは1980年代の前半、つまり中曽根政権の時代である。中小企業の優秀な職人たちが低い報酬で大企業を支えている「ケイレツ」こそが日本の大企業の強みだと見抜いていたアメリカは、その下請けシステムを問題にしてきたのだ。 日本の中小企業に注目しはじめたのは、第2次世界大戦の終盤、あるいは終わった直後のことだったようだ。最初は、日本の高い技術力を支える秘密研究所のようなものが存在するとも推測していたようだが、調べてみると町工場だった。 ところが、日本の「エリート」は中小企業群の価値を理解できず、適切な報酬を払って日本の発展を考えるどころが、まんまとアメリカの策略に引っ掛かっている。勿論、個人的な利益のため、アメリカに協力している人も少なくないだろうが。 当初、アメリカ側は話し合いで日本の政治経済構造を替えようとしたようだが、トヨタに代表される日本の産業界は目前の利益にとらわれて拒否、そこで1990年代に入るとアメリカ側は強硬手段に出たのである。 当時、アメリカ側の先兵として動いていたのがT・ブーン・ピケンズという投機屋。この人物はジョージ・H・W・ブッシュともつながっていた。1990年代に入るとピケンズは日本から撤退するが、これはアメリカの日本に対する「宣戦布告」だったと理解するべきだろう。 その後、証券会社の不正行為や銀行の不良/違法債権が発覚する。証券会社の不正行為とは、日本を支配していた財閥系の大企業など支配的な立場にあった会社を儲けさせるために行っていたもので、霞ヶ関の官僚も深く関係していた。株価操作で相場を引き上げ、時価で増資したり転換社債を発行して資金調達するというシステムも「政策」として実行されていたのである。だからこそ、証券会社は「損失補填」もしなければならなかった。 その後、日本では政治も経済も迷走、そこで登場してくるのが小泉だ。小泉は自民党どころか、日本に致命的な打撃を与えた。菅は日本にとどめを刺す役目を言いつかっているように見える。 日本社会が崩壊すれば、当然、日本の大企業も立ちゆかなくなる。独裁政権に押さえ込まれている国でなければ、日本企業の経営者に現地の労働者を使う能力はない。エンジニアや研究職などの場合、外国人は仕事を覚えたところでキャリアアップを狙って会社を飛び出していくことだろう。アメリカの顔色をうかがうことしかないできない日本の経営者には、外国のライバル企業と競争する能力もない。残された道は、アメリカ資本に自社を安値で叩き売るだけだ。そんな将来が見える。
2011.01.22
2010年における中国のGDP(国内総生産)が日本を上回り、世界第2位になったというのだが、これは予想されていたこと。この事実を伝えるだけでは気に入らないらしい日本のマスコミは、中国の「人権問題」や「貧富の格差」を強調しているのだが、これは自分たちに跳ね返ってくる問題だということを認識すべきだ。 20世紀の半ばまで、アメリカでは有色人種や女性を公然と差別、今でも水面下では差別が続いているわけで、人権意識の強い国だとは言えない。公民権運動の指導者、マーチン・ルーサー・キング牧師が暗殺されたのは1968年4月、半世紀にも満たない43年前のことである。 また、労働者の権利を主張する活動家が殺されていたのも遠い昔の話ではない。労働組合の中央組織であるAFL-CIOがCIAと緊密な関係にあることも広く知られている。 国外では自分たちにとって都合の悪い、つまり民主的な政権を暴力的に潰して独裁政権を樹立させ、支配の道具として使い、反対勢力を拉致、拘束、拷問、そして殺害してきたことを忘れてはならない。最近では国外でのアメリカ人殺害も認めている。 さらに、ジョージ・W・ブッシュ政権以降、国際条約を無視、アメリカでは憲法を機能停止の状態にして庶民の人権を蹂躙している。貧富の格差という点でもアメリカや日本は「先進国」の中で最悪のレベルであり、そうした状況を改善するどころか、推進しようとしている。 労働組合と同様、アメリカの支配層は自分たちの利権システムを維持、強化するための道具としてメディアも使ってきた。メディアとは、自分たちに都合の良い考え方や情報を庶民に植えつけるためのプロパガンダ/扇動機関であり、労働組合は労働者の権利を押さえ込む仕組みでしかない。が、そうした実態を隠しきれなくなっている。
2011.01.21
国連安保理の決議に基づいてい設置された特別法廷のダニエル・ベルマール検事は、ラフィク・ハリリ殺害事件に関する起訴状を提出したのだが、その内容は秘密にされているため検証できない。レバノンの状況を考慮したというのだが、起訴内容に自信がなく、公表できないのだという陰口もたたかれている。 事件は2005年2月に引き起こされ、ラフィク・ハリリのほか22名が殺されている。早い段階で黒幕はシリアだという話を西側メディアは盛んに流し、後にヒズボラも容疑者リストに載せている。言うまでもなく、2005年と言えばアメリカのジョージ・W・ブッシュ政権が偽情報を撒き散らしながらイラクへ先制攻撃を仕掛けてサダム・フセインを排除、その矛先をシリアとイランに向けたところだった。ハリリの暗殺事件は、シリアの「体制変革」を実現するために格好の出来事だった。 2005年10月に国連国際独立委員会のデトレフ・メーリス調査官は「ラフィク・ハリリ元首相の殺害がシリアの治安機関幹部の許可なく、またレバノンの治安機関内部の共謀なしに実行されることはありえないと信じる有望な根拠がある」としていた。要するに、事件の真相は不明だが、シリアが怪しいということだ。 事件は三菱ふそう製の白い「キャンター」(バン)を使った「自爆テロ」だった可能性がきわめて高い。このバンは2004年10月12日に日本の相模原で盗まれ、アラブ首長国連邦のドバイへ船で、そこからベイルートに運ばれたのだが、その経路が明らかにされていない。盗難に関する日本側の情報も不明のままだ。どのような経路で誰の手に渡ったかが明確になれば、真犯人に近づくことができるのだが、真剣に調査したようには思えない。 この事件に関し、アーマド・アブアダスが「自爆攻撃を実行する」と宣言する様子を撮影したビデオをアルジャジーラは放送したが、このビデオをメーリスは無視している。 メーリスが信頼する重要証人のひとりは、アブアダスは事件と関係がなく、シリアの情報機関に脅されて犯行を宣言したのだと主張、またズヒル・イブン・モハメド・サイド・サディクによると、アブアダスが途中で自爆攻撃を拒否したため、シリア当局に殺されたという。 しかし、ドイツの「シュピーゲル」誌は、サイド・サディクが有罪判決を受けた詐欺師だと指摘、しかもサディクを連れてきたのがシリアの現政権に反対しているリファート・アル・アサドだとしている。サディクの兄弟によると、メーリスの報告書が出る前年の夏、サイドは電話で自分が「大金持ちになる」と話していたという。 もうひとりの重要証人、フッサム・タヘル・フッサムはシリア関与に関する証言を取り消している。レバノン当局の人間に誘拐され、拷問(ごうもん)を受けたというのだ。その上で、シリア関与の証言をすれば130万ドルを提供すると持ちかけられたと語っている。 で、担当者がメーリスからベルマールにへと交代になる。そのベルマールは2006年5月、爆発は地下に掘られたトンネルの中で遠隔操作によって起こったという「説」を語るのだが、大きな問題がある。そんなトンネルが存在しないのだ。 そして2007年5月、レバノン北部の港町トリポリで治安部隊が武装組織「ファタハ・イスラム」のアジトを襲撃し、戦闘は難民キャンプに拡大した。この組織は親シリア派のグループからスピンアウトして誕生、ヒズボラとは対立関係にあったという。 この武装集団のリーダーたちには海を臨む高級マンションが提供され、武器弾薬はそこに保管されていた。資金源はサード・ハリリを中心とする「ハリリ・グループ」。サードはラフィクの息子である。その背後には米国務省のデイビッド・ウェルチ次官補がいたのだという。 ハリリ一族はサウジアラビアと緊密な関係にあるのだが、そのサウジアラビアのサウド・アリファイサル王子は2008年5月にアメリカ大使のデイビッド・サッターフィールドらと会い、ヒズボラが勝利するとレバノンがイランに乗っ取られると主張している。 ラフィク・ハリリ暗殺事件について、アメリカ政府や西側メディアが流しているシリア黒幕説は信用できないことは間違いない。【参考】SUBJECT: LEBANON: SAG FM SAYS UN PEACE KEEPING FORCE NEEDED1. (S) SUMMARY. S/I Ambassador David Satterfield and an MNF-I/Embassy Baghdad team met with SAG Foreign Minister Prince Saud Al-Faisal on May 10. While Iraq was the main topic discussed, Saud brought up events taking place in Beirut and emphasized the need for a "security response" to Hizballah,s "military challenge to the Government of Lebanon." Specifically, Saud argued for an "Arab force" to create and maintain order in and around Beirut, which would be assisted in its efforts and come under the "cover" of a deployment of UNIFIL troops from south Lebanon. The US and NATO would need to provide movement and logistic support, as well as "naval and air cover." Saud said that a Hizballah victory in Beirut would mean the end of the Siniora government and the "Iranian takeover" of Lebanon. END SUMMARY.
2011.01.19
チュニジアのジン・アビディン・ベンアリ大統領とその家族はサウジアラビアに逃亡、暫定大統領にはモハメド・ガンヌーシ首相が就任した。経済状況が悪化する中、支配層の腐敗が進んで国民の不満が高まっていたのだが、その不満を爆発させたひとつの要因が告発支援サイトWikiLeaksだった。(下に文書の要約部分を掲載) 勿論、WikiLeaksが外に出している文書はアメリカ側の見方なわけで、内容にバイアスがかかっていることを忘れてはならないが、昨年12月7日に公表された文書の場合、チュニジアの庶民が感じていたことが書かれていたため、抗議行動の引き金になったようだ。 ベンアリが逃げ込んだサウジアラビアも人ごとではない。サウジアラビアでも国民の王室に対する不満は鬱積、何とか力で押さえ込んでいる状態だ。中東/北アフリカの「親米国」は独裁国家ばかりであり、いずれも同じ問題を抱えている。もし、「民主化のドミノ倒し」が起こったならば、間違いなく中東は「反米地帯」になる。チュニジアでの出来事をもっとも懸念しているのはアメリカの支配層かもしれない。【WikiLeaksが公表した2008年6月8日付け文書の要約部分】------- Summary ------- ¶1. (S) According to Transparency International's annual survey and Embassy contacts' observations, corruption in Tunisia is getting worse. Whether it's cash, services, land, property, or yes, even your yacht, President Ben Ali's family is rumored to covet it and reportedly gets what it wants. Beyond the stories of the First Family's shady dealings, Tunisians report encountering low-level corruption as well in interactions with the police, customs, and a variety of government ministries. The economic impact is clear, with Tunisian investors -- fearing the long-arm of "the Family" -- forgoing new investments, keeping domestic investment rates low and unemployment high (Refs G, H). These persistent rumors of corruption, coupled with rising inflation and continued unemployment, have helped to fuel frustration with the GOT and have contributed to recent protests in southwestern Tunisia (Ref A). With those at the top believed to be the worst offenders, and likely to remain in power, there are no checks in the system. End Summary.
2011.01.16
8日に銃撃されたガブリエル・ギフォーズ下院議員も元々は共和党だったという。確かにありえる話だ。共和党は1980年代から大きく変貌している。かつての共和党員は「保守的」かもしれないが、憲法は尊重するという立場だった。ところが、憲法を軽視、あるいは敵視する勢力によって乗っ取られたのである。 共和党を乗っ取った勢力とは、ネオコン(新保守)やシアコン(神保守)と呼ばれる人々。「ユダヤ系ファシスト」と呼ばれているグループやキリスト教系カルトの信者たちで、その共通項は、イスラエルの軍事強硬派(リクード)に親近感を感じているということ。その背後には戦争ビジネスも存在している。早い話、日本の支配層が従属している勢力だ。 1970年代の中頃、アメリカでは軍事強硬派がデタント派をパージしている。その際にジョージ・H・W・ブッシュも軍事強硬派に属していたのだが、1980年代になるとネオコンやシアコンと一線を画すようになる。この勢力とイスラエルとの緊密な関係を警戒してのことだった。ちなみにロバート・ゲーツ国防長官はブッシュの側近だが、ジョージ・W・ブッシュ、つまりH・Wの息子はネオコン/シアコンにコントロールされていた。 ブッシュ・ジュニアはネオコン/シアコンが1990年代から描いていたプランにしたがい、イラクを先制攻撃して占領した。ところが、その際に偽情報を撒き散らしていたことが明確になってネオコン/シアコンはホワイトハウスで主導権を奪われた。ま、予定通りサダム・フセインを排除し、イスラム諸国を混乱させることには成功したわけで、無理はしなかったのだろう。 そのネオコン/シアコンの別働隊として登場してきたのがティー・パーティーだと言える。つまり、日本の支配層にとっては仲間。ギフォーズ議員の事件でもティー・パーティーに都合の悪い話は伝えたくないようだ。 そのティー・パーティーの象徴的な存在がサラ・ペイリン。2008年、ペイリンが共和党の副大統領候補として選挙戦を戦っていた当時、民主党の大統領候補だったバラク・オバマをテロリストに囲まれていると攻撃、彼女の集会では支持者たちが「テロリスト」、「殺せ」と叫んで盛り上がっていたようだ。そうしたこともあり、複数のオバマ襲撃計画があったという。 この殺伐とした雰囲気はペイリンの集会だけのものではない。最近では、WikiLeaksのジュリアン・アッサンジを殺せという声がアメリカでは飛び交った。さすがにオバマ大統領はそうしたことを言っていないが、デジタルIDを導入してインターネットを監視するという程度のことは言っている。
2011.01.10
ガブリエル・ギフォーズ下院議員を含む18名が銃撃され、6名が殺された。日本のマスコミがどのように扱っているかは知らないが、この事件でサラ・ペイリン元副大統領候補が世界的に注目されている。ギフォーズ議員が敵対していたティー・パーティーの象徴的な存在というだけでなく、ペイリンの「暴力的表現」が改めて問題になっているのだ。 1970年代後半からアメリカで続けられている大企業/富裕層の優遇政策で中間層が崩壊して貧困層が急増、そうした流れが人種差別感情に火をつけている。アメリカで国民皆保険が実現せず、社会福祉が嫌われる最大の理由は人種差別感情にあるとする指摘を耳にする。おそらく、その通りなのだろう。逆に、福祉政策を攻撃するために差別意識を煽ると言うこともある。 衰退していくアメリカ、貧困化への恐怖、そういったものからくるフラストレーションを暴力的な表現は麻痺させてくれる。閉塞感の強まった社会で暴力的、あるいは差別的な発言が好まれるのは日本にも当てはまる。オイル・ショックの後に人気が出たビートたけし、少し前では2チャンネルの書き込みもそうした現象だと言えるだろう。 乱暴な表現を意識的に使って人気を得てきたティー・パーティーだが、「計算された罵詈雑言」が途中から暴走状態になっていた。ライバル候補を「ターゲット」と表現、地図上にライフルの照準で示していたことも知られている。そうしたターゲットのひとりがギフォーズ議員だった。
2011.01.10
アリゾナ州選出のガブリエル・ギフォーズ下院議員が主催した集会で男が銃を乱射、18名が撃たれ、ギフォーズ下院議員も頭に銃弾を受けて重体だという。 反エスタブリッシュメントの看板を掲げながら大企業/富裕層優遇の政策を支持するティー・パーティーの候補、ジェシー・ケリーを破って当選したギフォーズ議員。以前から、言葉だけでなく物理的にも脅迫されていた。 選挙期間中、ガブリエル・ギフォーズをオフィスから排除するのを助けてくれ、M16自動小銃をジェシー・ケリーと一緒に撃ってくれ、というようにケリーは宣伝、元副大統領候補のサラ・ペイリンもケリーを応援していた。 アメリカで殺人は珍しくないのかもしれないが、それでも今回の一件は「アメリカ低国」が正体を見せたように思える。
2011.01.09
なぜかWikiLeaksが公表する日本関係の文書はクジラに関するものばかりである。万一の場合に備え、アラブ諸国でアメリカに協力している有力者の名前がわかる文書は切り札として用意しているようだが、日本の支配者は基本的に対米協力者なわけで、公表してもインパクトは小さい。それでも個人名の公開には慎重なのだろうか。 それはともかく、元旦に公開されたキャンベラ発、昨年2月5日付けの文書では、日本政府が反捕鯨団体の船を監視する目的で飛ばしている「スパイ機」が問題になっている。この航空機はオーストラリアの空港を使っていることもあり、同国の議会では日本の捕鯨に関する反発を強めたようだ。(注) 今年1月8日付けシドニー・モーニング・ヘラルド紙に掲載された記事によると、同紙がWikiLeaksから独占的に入手した文書では、日本の「第2昭南丸」とシー・シェパードの「アディ・ギル」との衝突に関して書かれていたという。アディ・ギルが第2昭南丸の進路上に停船、接近したところで第2昭南丸が回避行動をとったとしている。 これは本コラムで書いたことと矛盾しない。ただ、表現が全く違うが。つまり、映像を見ると、洋上に停船していたアディ・ギルに向かって第2昭南丸が直進、衝突する寸前に左へ舵を切ったのだが、その直前にアディ・ギルが前に出て逃げようとし、結果として衝突したということである。少なくとも、アメリカ大使館の文書が「抗議船側の責任を示唆する内容」だとは到底言えない。(注)¶2. (C/NF) Garrett told Ambassador Bleich he appreciated the"robust" exchange between the U.S. and Australia on whalingand felt he could speak frankly. In Garrett's view, thecurrent agreement being negotiated in the InternationalWhaling Commission (IWC) and its associated small groupswould, in the end, be unacceptable to the Australiangovernment as it fell short in several areas. Garrett saidthe negotiating process had largely ground to a halt, with no"real" proposals on the table. He said legislation pendingin the Australian parliament (introduced by the Green Partyon February 4 to examine the role of "spy flights" in Japan'splanning for this year's whaling season) would strengthenanti-whaling sentiment in Australia, making it difficult forthe government to accept the current proposals. Garrett saidthe February 22 IWC Small Working Group briefings, which willalert the NGO and global community to the state ofdiscussions, will be key for Australia's policy on thenegotiations.
2011.01.09
菅直人政権が推進しようとしているTPP(環太平洋連携協定)によって、日本の農業が壊滅的な打撃を受ける可能性はきわめて高い。農業を中心に動いている地域の経済も破壊されるということである。前原誠司外相は、GDP(国内総生産)の1.5%にすぎない第一次産業を守るために他を犠牲にできないと言ってのけた。人間、生きていくためには食べ物が必要だということを理解していないらしい。 数十年前まで、東京の近郊でも水田や畑があり、農作物を生産していた。そうした田畑は宅地開発などで消えてしまい、農作物は大都会から離れた地方で作られているだけだ。しかも農業の担い手は高齢化している。カネを積めばいくらでもコメが出てきた敗戦直後とは違い、現在の農業生産力は崩壊寸前にある。食糧生産を軽視する政策の結果だが、その行き着いた果てがTPPだとも言える。 大都会の周辺から田園風景が消えても問題はなかったのだから、日本から田園風景が消えても問題はないと考えている人もいるだろう。確かに、今のところ、アメリカ、中国、あるいはオーストラリアなど世界中から輸入できている。が、そこは外国。日本政府の手が届かない国々だ。どのような理由で輸入がストップするかわからない。かつての「満州国」のような傀儡国家をでっち上げ、農作物を生産するつもりなのだろうか? そういえば、前原外相は以前から中国を「脅威」だと叫んでいる人物。昨年9月8日の事件でも黒幕だと強く疑われている。その日、石垣海上保安部の巡視船が尖閣諸島で中国のトロール漁船の船長を逮捕したのだが、この取り締まりは日中漁業協定を無視したものだった。 この協定によると、その海域では「自国の漁船を取締り、相手国漁船の問題は外交ルートでの注意喚起を行う」ことになっていた。つまり、何らかの問題が中国の漁船にあったとしても、海上保安部の巡視船が取り締まれないことになっていたのである。石垣海上保安部がこの協定を知らなかったはずはない。少なからぬ人は、当時の国土交通相、前原が協定を破れと命令したのだと信じている。 国際的な協定を一方的に破る重大さを改めて指摘する必要はないだろう。誰の意志で漁業協定を破ったにしろ、その人物が日本と中国との関係を悪化させ、東アジアの軍事的な緊張を高めたいと願っていたことは間違いない。要するに、尖閣諸島での取り締まりは挑発行為だった。 中国との関係が悪化すれば、日本の食糧事情も悪化する。アメリカから輸入すれば良いとでも思っているのだろうか? 現在、穀物取引の世界では、カーギルとアーチャー・ダニエルズ・ミッドランドの2社が圧倒的な力を持っているようだ。カーギルなどは現在でも「個人経営」の会社で、その実態は闇の中だ。1970年代の半ばにアメリカ上院の外交委員会多国籍企業小委員会で穀物メジャーの実態について調べたこともあるが、「徹底的」とは到底、形容できないものだった。まして、個人で調べようとすると、犯罪組織の手が伸びてくることは常識化している。 食糧を扱う会社だからといって平和的だとは言えない。例えば、グアテマラで民主的プロセスを経て選ばれたヤコボ・アルベンス・グスマン政権をユナイテッド・フルーツはCIAと手を組み、軍事クーデターで潰している。この会社には、1920年代に労働者をハイチやサント・ドミンゴからキューバへ売り飛ばした過去もある。 アメリカの農業を支えてきた地下水は近い将来に間違いなく枯渇し、農産物の生産力は落ちるはず。工業化が進む中国で農産物の輸出余力が増えるとも思えない。そうした状況の中、日本の政府、財界、官僚が目論んでいることは、自分たちの懐にカネを溜め込むため、日本人が生きる糧を一部の食糧メジャーに依存するということになる。 イスラエル政府のガザ封鎖は経済破壊にあり、支援物質の搬入を「パレスチナ人が餓死しない程度」に抑えている。餓死者が出なければ、「危機でない」と主張できないという判断のようだ。日本の農業が破壊されてしまうと、いつガザと同じようになっても不思議ではない。
2011.01.09
日本の政府やマスコミは第2次世界大戦の前と同じで、好戦的な雰囲気を広めようとしている。経済力で勝てないなら軍事力がある・・・と日本のエリートは考え始めたようだ。もっとも、こうしたことを言い始めたのはアメリカの好戦派、つまり戦争ビジネスにつながるグループ、ネオコン(新保守)、キリスト教系カルト集団などだが。 一部の大企業/支配層に富を集中させる政策を日本政府が続けた結果、庶民は疲弊し、社会システムが崩壊し始めている。無能なエリートを有能な庶民が支えてきた日本で、庶民を疲弊させる政策を採れば社会が機能不全になるのは当然のことだ。そうした流れが2011年に変化するとは考えにくい。 それに対し、中国では経済が急速に発展している。日本で庶民の教育水準を意図的に低下させていることもあり、少なくとも都市部の場合、学生の能力は日本を上回り、日本企業は中国で積極的に若者を採用する傾向にある。10年後、20年後になると、日本は中国に置いていかれている可能性が高い。1980年代から日本で続けている「エリート教育」の必然的な結果だとも言える。 例外はあるものの、日本のエリートの多くはペーパー・テストで点を取ることしか能がなく、自分たちで戦略をたてることができない。で、アメリカの「強そうなグループ」に丸投げし、その後を追いかけるわけである。これが「属国日本」の実態。 アメリカの好戦派は19年前からワシントンで活発に動き始める。その出発点と言えるものが1992年にアメリカ国防総省が作成したDPG(国防計画指針)。潜在的なライバルを軍事力で事前に潰してしまうというのだ。ソ連の消滅した世界でアメリカは「唯一の超大国」になったと考え、アメリカを中心とした「新秩序」を維持するためには軍事力を前面に出すべきだというわけである。そのターゲットには西ヨーロッパ、東アジア、旧ソ連圏、そしてエネルギー源が地下に眠っている南西アジアを挙げ、特にイラクと朝鮮に注目、「必要なら先制攻撃の準備をするべきだ」と主張している。 この指針を実際に作成したのは、I・ルイス・リビー、ポール・ウォルフォウィッツ、ザルマイ・ハリザードというネオコン人脈だが、その背後には、国防総省系のシンクタンク「ONA(ネット評価室)」で室長を務めていたアンドリュー・マーシャルがいた。 あまりに好戦的な内容だったことから外部にリークされ、よりソフトな内容に書き換えられたようだが、それで引き下がるマーシャルではなかった。2001年にジョージ・W・ブッシュ政権がスタートすると、ドナルド・ラムズフェルド国防長官は軍事戦略の大幅な変更に着手する。この戦略変更の中心にいたのがマーシャルだ。新戦略の内容は基本的にDPGと同じで、軍事的な焦点をヨーロッパからアジアへシフトするとしている。 マーシャルの主張に異を唱えたのが太平洋軍司令官だったデニス・ブレア提督。2001年5月17日付けのニューヨーク・タイムズ紙によると、アメリカ軍の基地や海軍にとって中国は1970年代のソ連とは違い、脅威になっていないとブレア司令官は反論している。つまり、数十隻の潜水艦、数百機の長距離爆撃機、数十の衛星、多くの経験という要素が欠けているというわけだ。アメリカ軍を攻撃するためには、長距離ミサイルだけでなく、偵察や通信のシステムを開発する必要があり、OTH(超長距離)システムがなければ攻撃は不可能だともしている。 アメリカ人が交易し、旅行し、平和的に交流できるようにすることがアメリカ軍の最終目的だとしていたブレア提督は反論から間もなく退役に追い込まれた。 2003年にアメリカの好戦派はイラクを先制攻撃してサダム・フセイン体制を崩壊させているが、これは1992年以来の計画ということになる。もうひとつのターゲット、朝鮮に対する攻撃準備が明確になるのが1998年。 この年、朝鮮に対する先制攻撃、体制転覆、傀儡政権の樹立という軍事作戦「OPLAN 5027-98」が作成され、朝鮮の体制が崩壊した場合を想定した「CONPLAN 5029」が翌年に作成されている。 OPLAN 5027-98が作成される3年前、ジョセフ・ナイ米国防次官補が「東アジア戦略報告(ナイ・レポート)」を公表しているが、これもDPGに始まる好戦的な戦略の一環だと言えるだろう。日本政府はこの戦略に乗ったわけで、朝鮮や中国への挑発行動はシナリオ通りということだろう。 昨年の末、スターズ・アンド・ストライプス紙は、米太平洋軍司令官のロバート・ウィラード提督が朝日新聞に語った内容を紹介するという形で、「中国の脅威」に関する記事を掲載した。中国は航行中の空母を1200から1800マイル(1900から2900キロメートル)の距離から攻撃できる「初期の作戦能力」を保有しているというわけだ。 しかし、これで中国軍がアメリカ軍にとって脅威だとは言えない。1970年代から軍事戦略の軸になっているのは原子力潜水艦であり、空母を攻撃しても潜水艦から核ミサイルを発射されてしまう。少なくとも先制攻撃をするためには、敵国の原子力潜水艦の位置を正確に把握し、破壊する能力が必要になる。つまり、たとえ空母を攻撃する「完全な作戦能力」を手にしたとしても、防衛的な意味しかない。しかも、ウィラード提督は中国のミサイルは発射実験がまだで、「完全な作戦能力」にはまだ達していないと認めている。 ウィラード提督の話に対する「反論」は10年前、ブレア提督がすでに行っていると言えるだろう。
2011.01.01
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