森田理論学習のすすめ

森田理論学習のすすめ

2017.10.22
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朝日生命保険会社で名社長とうたわれた行方孝吉氏という方がおられた。
この方は30代の半ばに書痙という神経症にかかり、苦しみぬいた体験の持ち主であった。
その方の手記が残っている。

書痙に苦しむようになったきっかけは、会社で報告書を書こうとすると、なんだか手首の筋がひきつるような感じで、ペン先は自分の意志に反した方向に動き、思うようにしか書けないのである。
底冷えのする日のことだったので、 「たぶん、手がかじかんだせいだろう」くらいに思い、その時はそれほど気にも止めなかった。
ところが、手が震えて字が書けないことが何日も続いて消えないので、 「どうもこれはおかしい」と少し心配になってきた。
こんな時、融通のきく人ならば、あっさりそのことを同僚にも話し、しばらく字を書くことを休んだであろう。
ところが私は、何分にも負けず嫌いな性分で、仕事の上では同僚に絶対負けたくないという競争心があるので、自分の恥になるような事を同僚に打ち明けるなど思いもよらなかった。
そこで、肘から先の前腕の部分を、机の表面にぴったりとくっつけ、手首が震えないように固定しながら書いていた。

しかし、こんな不自然なことしていると、右腕全体が痛んでくるし、字を書く速度ものろくなり、それに手の方ばかり注意を取られるので、書こうと思う事柄も順序立てて考えることができない。
ついに、いても立っても居られないような焦燥感に襲われるようになった。
しまいには、私の注意力のすべてが、手の事だけにとらわれてしまい、肝心の書こうとする内容については、ほほとんど頭が働かないようになった。
会社での仕事が終わると、真っ直ぐに家に帰って痛む腕にサロメチールを塗ったり、家内に揉ませたりして、なんとかしのいでいた。

そんな状態で数ヶ月間経過した。ある時、会社の新築落成記念式典が行われることになった。
私はその時準備委員を命ぜられた。仕事というのは、生命保険に関する展覧会の準備をすることだった。
毎日、各種の図表や統計表、ポスター、写真を適当に揃えて、勝手にピンでとめていた。
3日ばかり続けてそれをやったところ、右の親指の先はすっかり痺れてしまった。
記念式典が終わり、通常の業務に戻った。すると右手がめちゃめちゃに震えてどうすることもできない。
ただの1字も書けない。 「大変なことになった」と思い、私の心は恐怖で凍ってしまった。
毎日机に向かって恥をかくことを職務としているものが、字が書けなくなったらおしまいである。


その医者は、 「これは書痙という病気だが、なかなか治りにくい。しかし、生命に関わるものではないから、気を楽に持って、少し静養するとよい」と言われた。
「なかなか治りにくい病気だ」と聞いて、私は地の底に引きずりこまれるような絶望感に襲われた。
ドクターショッピングを繰り返すうちに、森田療法に巡り会った。
森田先生は、 「手のことなんかほったらかしにして、そのまま会社で一生懸命働け」ということであった。
私は、当時としてはかなり高い診察料を払っていたので、特別の理学的療法か何かで治して下さるとばかり思っていたので、すっかりアテが外れた。

しかし、掃除や飯炊きをさせられるばかりで症状が治る見込みが立たないので、2か月で森田先生に許可も得ずに治らないままに退院した。しかし、家に帰ってみると書痙はどんどん悪化した。
そこで、また森田療法に頼ることにした。今度は宇佐先生の京都の三聖病院に入院した。
そこで入院治療を続けるうちに森田療法の言わんとしていることがよく分かるようになった。
そこで入院しているうちに、私も往生したとゆうか、諦めたというか、ついに会社の仕事に精進することが1番の治療法であるということを悟った。
そして、あらゆる不快感を耐え忍び、勇気を出して会社に出勤した。その時の決意はこうである。
字を書けば、支離滅裂で、小学生にも劣るかもしれないが、字を書くばかりが、仕事ではない。
字を書く以外の仕事で、人並み以上に働いてみようと思った。
その後は、字を書く分以外の仕事で弱点を補うことにした。
今日でも字を書けば、格好良く書こうという意に反して、ひどく金釘流の悪筆となる。
それも仕方がないと思っている。結局書痙そのものは治すことはできなかった。
しかし書痙にとらわれて他のことが何もできなくなるという神経症は治すことができた。
退院した直後は、出世コースから外れ、健康増進課に配属された。
それでもめげることがなく、一生懸命に業務に励んで成果を上げて、ついに社長にまで昇りつめることができたと言われている。
もしやあの時、私がいつまでも主観的な気分に支配されて、会社に出ることをしり込みしていたら、今日の自分はどうなっていたであろうか。
おそらく、生ける屍となって、 一族の持て余し者になっていたであろうと思う。
(慎重で大胆な生き方 水谷啓二  白揚社 132ページより引用)





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Last updated  2020.03.22 06:47:09
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kurokawa@ Re:感情と行動を分離して行動する(11/11) 申し訳ございません。生涯森田様でした。
kurokawa@ Re:感情と行動を分離して行動する(11/11) 障害森田様 この記事の中で「心とは裏腹…
楽天星no1 @ 早速のご返事感謝 森田生涯さんへ 早速のご返事ありがとう…

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