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昭和国民文学全集(15)(著者:山手樹一郎|出版社:筑摩書房) 「桃太郎侍」と「鬼姫しぐれ(又四郎行状記第一部)」収録。 初めて山手樹一郎を読んだ。桃太郎侍といえば高橋英樹のドラマしか知らなかったが、全く違う話。 どちらも新聞に連載されたもので、山場の連続。途中から読み始めた人にも分かるように、という配慮なのか、説明的な文章が多く、又、心理描写もたっぷり。 解説によると、「山手樹一郎は、自分の作品を家族を養い食べさせていくためのもので、ほんとうに自分が書きたい作品はべつにある、と考えていたようである」ということだ。 山手は、山本周五郎の世話になったことがあり、山本周五郎が、自分のグループに入れと勧めたが、「山手は自分は家族を食わせる作品を書かなくてはならないからと断った、という」とある。 しかし、「家族を食わせる」ためと割り切って、こういう長いものが面白く書けるものなのだろうか。 桃太郎侍も又四郎も、若く、二枚目で、明るく、とにかく剣の腕が立ち、女にもて、生まれつき備わった他を圧する気品がある。 いってみれば「若様」の理想像なのである。実にわかりやすい。 初めはそれが鼻についたが、読んでいくうちに、「これはお手本を示した小説なのだ」という気がしてきた。 武士に生まれたらこうあるべきだ、町人に生まれたこうあるべきだ、というそれぞれの環境に応じた理想像を示しているのである。 悪を憎み、弱きを助け、体を鍛え、頭も使う、というお手本を示しているのである。皆が皆、子供の頃から、こういう登場人物をヒーローとして親しんでいれば、世の中少しはよくなるかもしれない。 今の、規範が欠如した社会に求められるのは、屈折した主人公ではなく、こういう単純な主人公なのだ、という気にさえなった。
2000.04.30
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剣に生き、剣に死す(著者:縄田一男|出版社:新潮社) 書名通り、剣戟小説集。主題が共通しているのでわかりやすい。そして、どれもこれも面白い。 「眠狂四郎」「剣客商売」などのシリーズものも四編あるが、それ以外の十三編は読み切りもの。柴田錬三郎、五味康祐、南條範夫、池波正太郎はシリーズものと読み切りものの二編ずつ。それ以外の作者のものは一編ずつ。 いずれも趣向が凝らしてあり、読み応えがある。今まで不幸にして「時代小説の楽しみ」というシリーズのあることを知らなかった。編者が一個人であり、視点がしっかりしていることを窺い知ることができる。解説も編者。 もとは、1990年に新潮社から刊行されたもの。 気になる点が二つ。 一つは、出典がいずれも単行本になっていること。いつ発表されたものか、ということまで明らかにするために、初出誌に触れて欲しかった。 もう一つは、池波正太郎の「妙音記」の中で、「憧憬」に「どうけい」とルビが振ってあること(256ページ)。これは本来は「しょうけい」のはず。池波正太郎が自分で「どうけい」とルビを振ったのかどうか知りたいものだ。
2000.04.17
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南海の竜 若き吉宗(著者:津本陽|出版社:中公文庫) 題名通り、将軍となるまでの吉宗の半生を描いたもの。 著者は和歌山出身で、吉宗に対する愛着が感じられる。幼い頃から吉宗を教育してきた家臣と同じように、著者もまた吉宗を温かい目で見ている。 特筆すべきは、登場人物がみな、現代人とは異なる価値観で行動していることである。 吉宗が好みの女にはすぐに手を付けることも当然のこととし、暗君を戴くよりは英邁な君主を、という論理で君主を暗殺する。吉宗を将軍とするためには、邪魔者は消す。これはもう、丁髷を載せた現代劇ではない。 文章は平易で読みやすい。月刊誌に1年かけて連載されたもののせいか、大河ドラマを見ているような気になる小説である。
2000.04.14
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剣よ風を呼べ(著者:日本文芸家協会|出版社:講談社文庫) 十四人の作家の短編を集めたアンソロジー。 日本文芸家協会編『代表作時代小説』の昭和六十年から六十三年度版までのものからさらに選んだもの。 顔ぶれは多彩で、井上ひさし、戸川幸夫、平岩弓枝、日影丈吉、安西篤子、白石一郎、梅本育子、藤沢周平、神坂次郎、津本陽、早乙女貢、北原亞以子、遠藤周作、泡坂妻夫のものが収められている。 連作の一編というのも多いが、独立した一編として読むことができる。 時代小説とは言っても、明治初期を舞台としたものまで含まれている。 どれもそれなりにおもしろいが、藤沢周平のと神坂次郎のが気に入った。 白石一郎のもよかったが、解説によると、「資料に拠らず現代風俗を過去に投影してみる心づもりでこの連作をつづけている。」のだと言う。これでは一歩間違えると、ちょんまげを乗せた現代劇になってしまい、時代劇である必要が無くなってしまうが、これに収められている者を読んだ限りでは、時代小説である必然性があって書いているように思われる。 内容は充実しているが、書名はよくない。 これでは剣豪小説集と思われてしまう。ただ単に、『時代小説傑作選』でよかったのではないだろうか。
2000.04.12
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