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老人力(著者:赤瀬川原平|出版社:ちくま文庫) なぜ「全一冊」かというと、もとは『老人力』『老人力2』と、単行本では二冊だったものを文庫化に当たって一冊にしたから。 初出一覧を見ると、ほとんどが「ちくま」に掲載されたもので、連載の書籍化なのだが、前半と後半では趣が違う。 前半は、思い出せないことが多くなった話や、東京ドームのチケットをなくしてしまった話など、「老人力」とは具体的にどのようなものであるかを説明している。 それに対して後半は、やや趣が異なる。 「老人力」という言葉がブームになる一方で、「まだまだ若い者には負けない」というのを老人力と表記するような誤用も目立ってきたためか、「老人力とはこれこれこういうものである」という、理論的な記述が多くなる。実際、「老人力という言葉の乱れ」という章まである。 さて、全体を通しての感想を述べれば、これは、ものの見方について書かれた本である。 ものを忘れるのを、「衰えた」とせずに、「忘れる力がついた」ととらえる。現象としては一つのことでありながら、それをどう見るかによって印象が変わるのである。 筆者にはもちろん老人力が随分ついているわけだが、それにしても、忙しい人である。しょっちゅう仕事に追われているらしい。こう忙しくては老人力の発揮のしようもないのでは、と思うが、そうでもないらしい。 楽しく老人力を発揮しているようだ。
2001.12.20
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安政江戸地震(著者:野口武彦|出版社:ちくま新書) 阪神大震災を経験した著者が、安政の大地震がどのようなものであったか、当時の社会にどのような影響を与えたかについて調べたもの。 先行する研究書を利用してはいるが、独自の視点があり、興味深く読める。 冒頭の争論のところの、「未曾有は繰り返す」という言葉は面白かった。すでに何度も起こっている災害ではあっても、経験したものにとっては、やはり未曾有の経験なのだ。 地盤によって被害に大きな差があっただろうとは予想がつくが、日本橋は比較的被害が少なかったというのは意外だった。 武家屋敷では、水戸藩と会津藩の藩屋敷が、被害の大きかった藩屋敷の例として取り上げられているが、幕末からずっと悲劇続きだった会津が気の毒でならない。 仮名垣魯文の「安政見聞志」が、図版も、記録として優れているという。魯文は、明治になると新聞発行にも手を染めるが、すでにその下地はあったのだ。 ほかに、御救小屋が、組み立てればすぐできるようになったものが大量に用意されていて、千坪分ぐらいは半日でできた、というのには感心した。さすがに火事が多かっただけのことはある。 意外だったのは、201ページに紹介されている鯰絵。 鯰と大工たちが、膳ではなく、飯台についている。 ちゃぶ台は明治以降の産物であったはずだが、すでにちゃぶ台式のテーブルはあったのだ。
2001.12.14
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殿様と鼠小僧(著者:氏家幹人|出版社:中公新書) 平戸藩主が、栄達を求めて得られず、四十七歳で隠居してから、八十二歳で没するまで。というと、半生記のようだが、当時の世相、本所という地域を描くことを主眼としている。 挫折し、もう望みが叶わぬなら、と隠居してしまい、結局は早すぎる隠居を悔やむ気持ちがよくわかる。 書名の「鼠小僧」の方は、もう一つの柱、というよりも、当時の世相を描く材料の一つ、という感が強い。 盗みに入られた大名さえも、鼠小僧をそれほど憎悪していなかったらしいのが興味深い。 松浦静山の著した「甲子夜話」は、書名は聞いたことがあるだけなので、是非一度読んでみたい。
2001.12.05
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