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みなさんこんばんは。歌手の氷川きよしさんが12月31日をもって歌手活動を休止することを発表しました。所属事務所は公式サイトで「自分を見つめなおし、リフレッシュする時間をつくりたいという本人の意向を尊重しこの様な決断に至りました」と説明しています。今日もホロコーストに関する本を紹介します。否定と肯定 ホロコーストの真実をめぐる闘いDenial:Holocaust History on Trial (ハーパーBOOKS 75) デボラ・E・リップシュタット 山本 やよい (訳)本作の映画監督デビッド・ヘアは言う「現実に起きた出来事のすさまじさを前にしたとき、それを伝えるためのもっとも効果的な方法は、いつの時代においても、理性的な報道であり、関係者の直接の証言なのだ。」 確かに、往々にして、真実でない事を主張する者ほど派手な演出を好むものだ。 ホロコースト否定説の研究プロジェクトを勧められたデボラ・E・リップシュタットは、悪名高い歴史学者「デビッド・アーヴィングを知る。彼はヒトラーが最終的解決のことをまったく知らなかったし、知ったときは止めようとした」「おそらく、第三帝国におけるユダヤ人の最大の友であっただろう。ユダヤ人に災いが降りかかるのを阻止しようと手をつくした人物こそヒトラーだった」としごく真面目に論じている筋金入りのホロコースト否定論者だ。 彼をホロコースト否定者と呼んだことで、デボラは名誉棄損で告訴される。著者は、アメリカでホロコースト否定者を告訴したいという人を止めてきた。アメリカには言論の自由を保障する憲法修正第一条があり、訴訟をしても負ける。アメリカでは、原告が「被告の意見が偽りである」と立証する責任がある。しかし、イギリスでは被告たる著者に立証責任がある。 証人として裁判に参加することも出来るが、そうなれば著者とアーヴィングのホロコースト論争になってしまい、アーヴィングの立証方法が出鱈目である事を証明する目的が薄れてしまう。勝手の違う裁判に戸惑いながらも、仲間と共に事実を歪曲する歴史学者との長い戦いに臨んだ著者の日々を綴る。アメリカ式に慣れている著者は、裁判を傍聴しながらつい反論したくなるし、ある時は大声を上げてしまう。おそらく論争好きなのだろう。映画では描かれなかったであろう、彼女の心情が登場して面白かった。 ちなみに嘘だとしても言うだけならば、誰も信じないし罪にはならなかろう、と思ったそこのあなた。2005年11月11日、ホロコーストを否定する発言が禁止されているオーストリアで彼は逮捕され、2006年2月20日に3年間の服役という判決を受ける。すごい国だ。否定と肯定 ホロコーストの真実をめぐる闘い (ハーパーBOOKS 75) [ デボラ・E・リップシュタット ]楽天ブックス
May 21, 2022
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みなさん、こんばんは。中国の雑貨店大手「名創優品(MINISO、メイソウ)」はこのほど、米ニューヨーク・マンハッタンのソーホー地区に新店舗をオープンしたと発表しました。今日から2日間アンネ・フランク関連の書籍を紹介します。こちらはノンフィクションになります。エヴァの震える朝 15歳の少女が生き抜いたアウシュヴィッツEva’s Storyエヴァ・シュロス朝日文庫 ベルゲン・ベルゼン強制収容所で病死したユダヤ人の少女アンネ・フランクは、アウシュヴィッツの悲劇のアイコンとして、あまりにも有名だ。父オットーもまた、家族を全て亡くしたことで、悲劇の人物である。 我々の殆どが知っているのはそこまでで、実はオットーが別のユダヤ人女性と再婚していたことは知られていない。本書はオットーの再婚相手の連れ子であったエヴァの手記とインタビューから構成されている。 エヴァは収容所での過酷な生活を余すところなく語る。その中には、生き残るためにユダヤ人の遺品を分別したり、父親がSSに気に入られている事を生かして食料を手に入れるなど、他者への慈愛や倫理面で考えれば、納得のいかない描写もある。しかし「今の私には当時のような激しい苦悩も憎しみもない。そして一方では、人間が善なるものだということも信ずることができなくなっている」とあるように、綺麗ごとでは生き延びられなかった収容所生活の現実がある。この言葉は、ともすると「過酷な中でも明るさを忘れず生きようとした少女」として半ば神格化されているアンネの『アンネの日記』の中の「人間の本性はやっぱり善なのだということを、いまでも信じているからです」へのアンチテーゼである。生き延びるための闘争は生々しい。弱い者は容赦なく切り捨てられ、自分が選ばれなければ隣のあの人が焼却所送りになる。あの悪名高い医師メンゲレもユダヤ人を実験動物として手ぐすね引いて待っている。隙を作らず、少しでも生きられる可能性が高い方を選ばざるを得なかった、生き残った者ゆえの葛藤がある。そのため、後半『アンネの日記』が出版され、ベストセラーになり、いわば彼女のために生きていたオットーと彼を支える母に対して、エヴァの複雑な心境も垣間見える。 ところで、ナチスの名だたる収容所を解放していったのは、ソ連軍である。エヴァ達はソ連兵に警護されて、オデッサ→イスタンブール→マルセイユ→→パリ→アムステルダムへ4か月かけて帰還する。ソ連兵の描写は、まるで彼らが救世主のようだ。現在、ウクライナ侵攻を進めているロシア兵士の行為が、世界中から称賛されたのは、もう遠い日のことである。エヴァの震える朝 15歳の少女が生き抜いたアウシュヴィッツ (文庫) [ エヴァ・シュロス ]楽天ブックス
May 19, 2022
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みなさん、こんばんは。ウクライナの首都キエフがキーフ読みになりましたね。今日も韓国に関係のある書籍を紹介します。搾取都市、ソウル ――韓国最底辺住宅街の人びと (単行本)イ・ヘミ訳伊東順子ちくま書房 地=半地下の住まい、屋=屋根部屋、考=考試院の略である。私達はそれぞれ映画やドラマでそれぞれの住まいを見ている。半地下の住居といえば、カンヌ映画祭グランプリに輝いた『パラサイト 半地下の家族』の主人公一家が住んでいた。道路で殺虫剤をまけば部屋にまで入ってきたり、大雨が降った時は、家具がぷかぷか浮いていた。もともと朝鮮戦争時に防空壕として作られたものなので、仮住まい設定なのだ。にもかかわらず、現在は仮ではなく常に住む場所になっている。 『屋根部屋のネコ』『屋根部屋のプリンス』などタイトルに登場する他、多くのドラマに登場する屋根部屋は、貧しい若者が住む場所の象徴だった。一見空に近く開放的に見えるが、こちらももともと管理事務所や給水タンクなど、人間が住む場所として建てられたものではない。屋上は避難場所でもあるので、プライバシーもなく簡単に人が入ってこられるし、壁が薄いため夏は暑く冬は寒い。 考試院はもともと大学入試や公務員試験の受験者が、いわゆる缶詰になって試験勉強をする小部屋だった。こちらも一定期間のみの仮住まいなので、机やベッドなど必要最低限のものが置けるスペースしかない。トイレや風呂は共同だ。 現在韓国で安価な住居とされる三つは、いずれも永住できる環境として設定されていなかった。そんな場所に低所得者が永住しているから無理が生じる。その無理が露わになったのは、2018年11月9日にソウル市鍾路区で起こった国一考試院の火災である。放火ではなく電気ストーブからの出火で、消火器があれば消し止められたかもしれない。ところが建築台帳には「考試院」ではなく「その他の事務所」と登録されていたため、安全点検の対象から外れていた。非常ベルや非常口、避難用の緩降機もなかったという。 安全は担保されないにも拘らず、安くても家賃はきっちり取られる。都会ソウルを目指して地方から人々がやってくるから、住民には事欠かない。安全管理に問題がある安価な住宅チョッパンは、管理人とは別にオーナーがいる。そのオーナーは江南あたりに家がある裕福な一族だという。つまり、富裕層が貧困ビジネスで儲けている構図だ。住民たちは「いつかは抜け出す」と思ってはいるものの、暮らしが楽にならず、その“いつか”がやってこないまま、ずるずると生き続けている。 やむなく永住をしなければならないなら、安全な住環境にするべきだ。住環境提供者は「選んだからには居住者にも責任がある」と自己責任論をふりかざすが、それが逃げであるのは明らかだ。国民に最低限の生活を保障する義務があるはずの政府にも、矛先が向けられてしかるべきだ。韓国のみの問題として見るのではなく、日本でも同様の構造はある。取り締まれば抜け道を見つけ出す狡さと、見逃さない鋭さとの攻防は果てしなく続く。セーフティネットから取りこぼされる人がいない社会を作らなければならない。搾取都市、ソウル 韓国最底辺住宅街の人びと [ イ・ヘミ ]楽天ブックスオーバーサイズ スウェット トップス レディース トレーナー 長袖 裏毛 ドロップショルダー ポケット カラバリ 6色展開 リサイクルポリエステル エコ 立体感 着回しきれいめ シンプル カジュアル ゆったり 楽ちん おしゃれ 春 夏 M/L/LLサイズ 洗濯可 フォーシー価格:3960円(税込、送料別) (2022/4/5時点)楽天で購入
April 7, 2022
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みなさんこんばんは。ヒョンビンが結婚しましたね。今日はルネサンスに実在したイギリス人の傭兵隊長の伝記を紹介します。フィレンツェの傭兵隊長ジョン・ホークウッドLe Armi,I Cavalli,L’oro Giovanni Acuto e i condottieri nell’Italia del Trecentoドゥッチョ・バレストラッチ白水社和栗 珠里 (翻訳) ジョン・ホークウッドは、フィレンツェの傭兵隊長として名高く、死後その肖像画がパオロ・ウッチェッロによって大聖堂に描かれるほどの人物だった。冒頭場面はフィレンツェで営まれた彼の葬儀だ。最初は聖職者、次に彼と縁のあった騎士達、政府高官、そしてこんな有名人の葬儀に立ち会うのは初めてだ!の市民(単なるミーハー)が続く。 盛大な葬儀を営んでもらった彼は、フィレンツェ人ではなく、イタリア人でもなかった。彼は14世紀の初めイギリスに生まれるが、次男坊で家は継げない。折しも百年戦争のさなかフランスに渡り、戦いの日々に明け暮れるが、やがて英仏間の和平により軍隊は解散。故郷に帰るあてもない彼は、傭兵となってイタリアへ向かう。当時のイタリアは国家という態を成していない。教皇領があり、都市国家が勃興し、それぞれが異なる外国と結んでいるという複雑さを持ち、一種の戦国時代の様相を呈していた。必ずどこかで戦闘が行われるわけで、政治・軍事面で重要な役割を担っていた傭兵はまさに売り手市場だった。 顧客の中には教皇や聖職者もいるが、これがまた何とも胡散臭い。シエナの聖カテリーナが「キリスト教徒を相手にするのはもうおやめなされ。神のお気に召しませぬゆえ。その代わりに、あの者どもを負かしにお行きなされ」と十字軍参加を促す手紙を出すが、そもそも「汝、殺すなかれ」って聖書でも言ってるじゃないか!殺す相手を変えろってどういう助言だよ! またある時、教皇の依頼で護衛をしたが、なかなか支払ってもらえない。督促するとやたら「愛する息子にして高貴なる」と褒めちぎり、あげくの果てには「引き換えに天国を得るであろうと保証している」と言うが、いや、現世でのご褒美ないと、部下ついてきてくれないから! 最強ホークウッドの前に、ある時は依頼主、ある時は敵の傭兵隊長として立ちはだかったのがミラノの名家ヴィスコンティ家だ。有名な同姓の監督は傍流の家系である。大司教も輩出し、事実上ミラノのシニョーレ(僭主、藩主)として君臨したヴィスコンティ家から依頼を受けたホークウッドはフィレンツェやボローニャに攻め込むが、突如契約を解除して敵方につく。その後もヴィスコンティ家はホークウッドと契約を結び、費用をフィレンツェに払わせるなど、なかなか強かだ。散々悩まされたにも関わらず、フィレンツェが彼の終焉の地となり、生存中に記念像の建設まで決められたのだから、大した厚遇ぶりである。イタリア都市国家は恨みつらみを抱いたままでは生き延びられなかったのだ。 同じ戦国時代といっても、自身もプロの戦闘家&戦略家であり、その時限りの傭兵を率いる傭兵隊長は、戦国時代に専門職の兵士がいなかった日本にはないシステムだ。もし出現していたら、日本の歴史は今より早く進んでいたのか?
April 1, 2022
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みなさん、こんばんは。大泉洋さんがコロナ感染、井上芳雄さんもコロナ感染で舞台を一部中止したそうです。今日は第二次大戦の舞台裏を綴った書籍を紹介します。怒号の日々: リンドバーグとルーズベルトの闘い 大戦前夜1939-1941Those Angry Days-Roosebelt,Lindbergh,and American’s Fight Over World War IIリン・オルスン河内 隆弥 (訳)国書刊行会一介の郵便パイロットが、大西洋単独横断飛行を成し遂げた事で、一躍ヒーローとなる。アメリカン・ドリームを体現したような男性がチャールズ・リンドバーグだ。富豪の次女と結婚し、軍部からも意見を聞かれるほどになった彼は、その頃アメリカを二分していた一つの考え方―孤立主義者の非公式リーダーにしてスポークスマンだった。 孤立を素直に「世界のはぐれ者になる」と考えてはいけない。当時アメリカは、第二次世界大戦に参加するか否かで揺れていた。参加すべきと考える人達を介入主義者、逆の考え方を孤立主義者と呼ぶ。リンドバーグは後者だった。他所の国の事にわざわざ首をつっこむ必要はないと考えていた。トランプ元大統領が標榜した「アメリカ・ファースト」に近い。世界の要人を相手にしなければならないFDRことルーズベルト大統領も、相手がリンドバーグという素人だからといって、余裕かましていられない。とても表に出せないような手段も用いて彼を追い詰めていく。 フランスは早々と降伏し、イギリスもダンケルクでようよう兵士たちを回収できたものの、軍艦も飛行機も足りず反撃ができない。それでもチャーチルは「we shall never surrender」と意気盛んだった。アメリカを当てにしていたからだ。しかし、アメリカは第一次大戦で懲りていた。アメリカが参戦するなりあっという間に形勢が逆転し、存在を全世界にアピールできたが、多くの若者を失い、損失も大きかった。戦争が二度と起きないように国際連盟が創設されたのに、結局は復活したドイツにーロッパの弱小国は手もなく占領されてしまう。ならば、先の戦いは一体何のためだったのか?敗戦処理は間違っていたのではないか?米軍がアフガン撤退を決めた後、タリバンが政権を掌握し、あっという間にこれまで政権の中枢にいた者達が亡命したのは記憶に新しい。歴史は繰り返すのだ。介入が過ぎれば「世界の警察気取り」と揶揄されるが、さりとて手を出さなければ「それが大国の責任」と言われ、世界規模の出来事が起これば常に当てにされるのがアメリカという国だった。 もともと、ドイツはアメリカとは戦争をしたくなかった。欧州の小国なら相手にできたが、アメリカは国も大きく民も大きすぎる。後にソ連を攻めて攻めきれなかったドイツに、もう一つの大国を相手にする余力はない。東方の某国が真珠湾攻撃をして米国に戦争を仕掛けなければ、アメリカは第二次大戦に参加しなかったかもしれない。さすがに国土をやられれば真っ二つだった世論が一つにまとまる。奇襲という卑怯な手段ならなおさら怒りが火に油を注ぐ。9.11テロ後のアメリカを見よ。日本が勝利を掴む手段として選んだ真珠湾攻撃が「飛んで火にいる夏の虫」だったとは。権謀術策とは無縁のリンドバーグと、政治の世界を知りぬくFDRの対立を終わらせ、そして孤立VS介入で揺れ続けたアメリカを一つにまとめた功労者が、敗戦国日本だったなんて。ああ、情報分析が出来る人間が、あの頃の日本にいたならば。怒号の日々 リンドバーグとルーズベルトの闘い 大戦前夜1939-1941 [ リン・オルスン ]楽天ブックス
March 24, 2022
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みなさん、こんばんは。ピードスケート男子500mで森重航選手が銅メダルを獲得しました。この種目で日本選手メダル獲得は3大会ぶりだそうです。 今日は公開中の映画ザ・ハウス・オブ・グッチの原作となったグッチ一族についてのノンフィクションを紹介します。ザ・ハウス・オブ・グッチThe House of Gucciサラ・ゲイ・フォーデン講談社 1995年2月27日、オフィスに入る所を襲われたマウリツィオ・グッチが死亡した。まるで映画の一場面のような描写から始まる本作は、文字通り映画になった。ちなみに殺されるマウリツィオはアダム・ドライバーが演じている。 マウリツィオが入ってくる場面で思ったのは「あれ、警備ゆるゆる?」だった。ミラノのそれなりに近所にセレブもいるだろうビルで、文字通りセレブオブセレブが出社するというのに、ボディガードもなし?怪しげな男を目撃していたのは、ビルの管理人だけだ。 犯人側もゆるゆるだ。ターゲットを刺した後、初めて管理人という目撃者に気が付くくらいの、やや冷静さを失った様子が描かれる。依頼元はイタリアといえば大体想像する通りのアノ方々だが、これではすぐに足がつくのでは? 本作は事件の経過を追うのではなく、グッチ家の始まりに戻る。今でこそファッションブランドの一角だが、そもそもの始まりは皮革製品―鞄だった。日本と同じ敗戦国なので、第二次大戦前後は随分と苦労したようだが、一代目~二代目の世代交代がうまくいって隆盛の一途を辿る。では「売り家と唐様で書く三代目」の行く末が気になるが、冒頭で殺されたマウリツィオがまさに三代目だ。意欲はあったが、作中で複数に指摘される通り、経営手腕がない。しかし皆に愛される。新しい才能を発掘する能力はあったのに、生かす術を持たない。自分がわからない事は他人に任せておけばいいのに、なまじ父や伯父に若い頃頭を押さえつけられていた反動で、何でも自分でコントロールしたくなる。不幸なのはそれができる環境が整っていたにも関わらず能力が伴わなかった点。ああ、このアンビバレンツキャラ、アダム・ドライバーうまく演じてくれそうだ。第三者的にみても、勘と言うしかない経営感覚で老舗企業の方向性を決められたら従業員たまらん。確かにファッション業界でも目まぐるしく変化し、コロナ禍で外出が減る昨今ではファストファッションが売れまくり、ちゃんとしたコレクションに注目は集まらない。トレンドの変遷が目まぐるしかった事だけが、グッチがフランスの流通大手企業であるPPRの保有会社に落ち着いた理由ではない。 それにしても映画化にあたり、マウリツィオの伯父で実質二代目アルドがアル・パチーノ、マウリツィオの父ロドルフォがジェレミー・アイアンズ、マウリツィオの妻がレディー・ガガ、マウリツィオのいとこ、パオロ・グッチにジャレッド・レトーとキャストに純ラテン系が一人もいない。[書籍のメール便同梱は2冊まで]/ハウス・オブ・グッチ 下 / 原タイトル:THE HOUSE OF GUCCI[本/雑誌] (ハヤカワ文庫 NF 583) / サラ・ゲイ・フォーデン/著 実川元子/訳ネオウィング 楽天市場店
February 18, 2022
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みなさん、こんばんは。南太平洋トンガ諸島で大規模火山噴火が起こりその影響で津波警報が昨日ずっと出てましたね。今日は世界最大の死者を出したアメリカと新型コロナとの戦いを描いたノンフィクションを紹介します。最悪の予感: パンデミックとの戦いThe premonition:A Pandemic Storyマイケル・ルイス翻訳中山宥早川書房緊急事態宣言を解除しては出し、を繰り返してきた二年間も、ようやく落ち着きを見せた。オミクロン株の市中感染が騒がれているが、それでも今の所重症化の話は聞こえてこない。 今回ワクチンはこないわ、検査のしくみは決まらないわ、初めてのことだといってもひどくないか?と散々政治家達の的外れ政策に文句を言ってきた。しかし海の向こうの大国も酷かった。何しろトランプ大統領だから。「ええっいいの?」っていうくらいマスク外してたし、いや自分がよくてもさ…と思ってたら感染者になっちゃったり。少なくとも日本の総理は感染者にはならなかったね。意地でもなるまいとしたんだろう。2003年に13歳の少女ローラが科学研究コンテストのために取り上げた課題は、新型のインフルエンザ。人の行動や移動、社会的ネットワークは、病原体の拡散にどう影響するのか。そのコンピュータモデルを、科学者である父ボブ・グラスの手を借りて構築していく。過去に多くの死者を出したパンデミックの記録データを使うことで、二人は試算と現実に共通する重大な事実を発見する。致死性の高いウイルスに対して、ワクチンの完成前にできることとは? いやなんでこのエピソードが最初なんだろう?と思っていたが、読めば読むほど今回の新型コロナウィルスの対策にどんぴしゃり。他にも雑用ばかり頼まれて腐っていたサンタバーバラ郡の保険衛生官であるチャリティ、その言葉が広まる遥か前からソーシャル・ディスタンスを活用する「ある一策」で感染を防げることに気づいたカーター、SARSを研究していち早く中国で起こっている異常事態に気づいたジョー・デリシ、ぽつぽつと優秀な人材はいて、それぞれいいアイデアを持っているのに、点と点を繋ぐ線になるべきツール&人がいない、堅い頭の上司に阻まれるなどしてなかなかうまくいかない。日本の感染対策もなってないなと嘆いていたが、アメリカも似たような事で悩んでいた。もし世界中で同時多発的にこんな事が起こっていたらと思うが、成功していた国もあったので、うまく機能した所もあったのだろう。 ワクチン接種がひと通り済み、落ち着いて物事を考えられる今だからこそ読んでほしい良書。[書籍のメール便同梱は2冊まで]/最悪の予感 パンデミックとの戦い / 原タイトル:THE PREMONITION[本/雑誌] / マイケル・ルイス/著 中山宥/訳ネオウィング 楽天市場店
January 17, 2022
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みなさんこんばんは。イベントの人数制限が撤廃されましたね。本当にこれでコロナが落ち着くのでしょうか。今日もロマノフ王朝の歴史を描いたノンフィクションを紹介します。ロマノフ朝史 1613-1918(下)The Romanovsサイモン・セバーグ・モンテフィオーリ染谷徹訳白水社下巻はエカテリーナ2世の孫、アレクサンドル1世の死から始まる。順当に次男のコンスタンチンが皇位継承するはずだったが、頑なに固辞。貴賤結婚の条件として皇位継承を放棄する秘密文書を交わしていたためだ。しかし公開されていなかったため、弟ニコライはコンスタンチンの即位を宣言し、デカブリストの乱が起こり、最終的にニコライが即位、ニコライ1世となる。それにしても、気候がアレとはいえ、アレクサンドル1世もニコライ1世も病死である。鯨飲馬食、愛人はデフォルトと放縦な生活も影響したのだろう。ロマノフ朝の最期もアレクセイ皇太子の血友病が尾を引いており、病が滅びを招いたようなものだ。そうはいっても最後の皇太子の病気は母系からの遺伝であるため、本人の生活環境は原因ではない。 最期の皇帝ニコライ二世は、訪日するなど日本と縁が深い。深すぎて日露戦争まで起こし、革命への流れを作る。そして何といってもロマノフ朝末期のどの歴史書にも登場するのが、怪僧ラスプーチンだ。彼が祈りを捧げると皇太子の発作が止まったことから、皇帝夫妻の絶大な信頼を得る。結果敵を増やし、最後を迎える前にも別の相手に刺されているが、生命力が強い。本書には銃弾を撃たれまくった写真が載っており、さすがに引く。毒を飲ませても死なず、銃を撃っても死なず、凍えるような川に落としてもしばらくは生きていたなど、最期の様子はまさに怪物のようだ。ただ、皇帝一家の暗殺においても、暗殺犯がなかなか一度で留めをさせていない。両親の死を前にし震える子供達を銃剣で突き刺したり、結果最も惨たらしい死を迎えさせているので、件のラスプーチン怪伝説は、彼の驚異的な生命力というより、殺そうとするロシア人達が、致命的に下手だったのではないか。ロマノフ朝史 1613-1918(下) [ サイモン・セバーグ・モンテフィオーリ ]楽天ブックス
November 19, 2021
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みなさんこんばんは。V6の三宅健が来年2月の舞台「陰陽師」で主演を務めるそうですね。今日から二日間ロマノフ王朝の歴史を描いたノンフィクションを紹介します。ロマノフ朝史 1613-1918(上)The Romanovsサイモン・セバーグ・モンテフィオーリ染谷徹訳白水社 イワン雷帝といえばイリヤ・レーピンの絵画『イワン雷帝とその息子』が有名だ。後継者であるイワンを杖で殴って殺してしまった事に呆然とする姿が描かれている。ロシアの国土を広げた大君であることは確かだが、気分が変わりやすく、周囲は常に彼を恐れていた。 杖で殴ったツケは子孫に回ってくる。気分屋の雷帝をうまくあやしたのが、最初の妻アナスタシア・ロマノヴナだ。リュ―リク朝では雷帝の直系の後継者であるフョードル一世が亡くなり、彼の義兄ボリス・ゴドゥノフ(オペラになっている) とアナスタシアの甥フョードル・ロマノフの一騎打ちの末、後者が敗れる。弟達が皆殺される中フョードルは僧籍に入り、妻は修道女、そして息子のミハイル・ロマノフは両親と引き離されて育つ。政敵は全て葬り去るのが常だが、リュ―リク朝と縁続きだったことが奇跡的に彼等を生かした。そして息子のミハイルこそ、ロマノフ朝初代の国王ミハイル一世である。 ミハイルからアレクサンドル二世まで書かれており、ロマノフ朝の二大スタ―、ピョートル一世(表紙絵)とエカチェリーナ二世が登場する。後者は為政者としては申し分ないが、ポチョムキンをはじめとして、魅力的な愛人が常にいたことも事実だ。当時、プロイセンのフリードリヒ大王のように“やっぱり女は理性的な判断ができない”と言われる原因にもなっている。だがもし彼女が男性だったら“英雄色を好む”で、むしろ愛人がいたことは肯定されたのではないか。エカテリーナ二世のドラマシリーズ『THE GREAT 〜エカチェリーナの時々真実の物語〜』では、彼女の半生を肯定的かつコミカルに描いている。彼女の孫で、本当は息子より先に後継者に据えたかったと言われるアレクサンドル一世は、トルストイの『戦争と平和』の華麗なる脇役である。但し『戦争と平和』では敵役ナポレオンの方がカッコいい。 政敵に対してはえげつなく容赦なく、広大な領土を主に戦争によって広げていったロマノフ朝。ヨーロッパから芸術の粋もわからぬ田舎者扱いされていたから婚姻は初めのうちほぼ断られていたのに、ピョートル大帝の戦勝以後北の大国として受け入れられるようになると、ラスプーチンの暗躍を生む血友病の家系が入り込むのは何とも皮肉だ。この先何人ものピョートル、ニコライ、アレクサンドル、エカチェリーナが登場して誰が誰だかわかりにくいが、本書には系譜もついているので確認しながら読んでいくと良い。ロマノフ朝史 1613-1918(上) [ サイモン・セバーグ・モンテフィオーリ ]楽天ブックスことこと煮魚セット(7P)【送料無料・東北・関東・中部・関西へのお届けに限り】【北海道・中国・四国・九州への送料は500円】レンジで手づくりの味 煮魚 惣菜 無添加 レンジ対応 個食 冷凍 中元 歳暮 ギフト のし対応価格:5400円(税込、送料無料) (2021/8/26時点)楽天で購入
November 18, 2021
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みなさん、こんばんは。甘利さんが幹事長を辞め枝野さんも立件民主党の党首を辞めるんですね。今回は実際に起こった誘拐事件に遭遇した富豪一族の物語を紹介します。ゲティ家の身代金All The Money In The Worldジョン・ピアースンハーパー文庫 邦題を見ると、あの有名な誘拐事件のみを題材とした内容のように見受けられるが違う。むしろ原題=All The Money In The World(“世界中のすべての金を手にした")の方が、その人を言い表すにふさわしい。その人とは、世界的な大富豪ジャン・ポール・ゲティである。彼の16歳の孫ポール(ややこしいが同じ名前である)がイタリアで誘拐された事件が邦題に関係している。 本編はジャン・ポールの生涯を綴る。一言で言うならば女性においても起業においても征服欲の塊のような男だ。但し結婚相手に至っては、相手が子供を産むと、いや妊娠すると飽きてポイ。ちょうど相手もジャン・ポールの欠点に気づいて嫌になり、離婚には同意するが当然の分け前は要求する。有り余る富を持っているのだから鷹揚さを示して言うまま払えばいいものを、舅と争いその恨みは実の息子にまで引き継がれる。金を目当てに多くの者が寄ってくるため、多少人が離れていっても気にしないのだろう。 金がないと生活ができない。だから私たちは、時にどんな仕事でも金のために我慢する。しかし有り余る金が幸せに直結するのかというと、ゲティ家の場合はそうは言えない。金持ちだから孫のポールは狙われ、金持ちだからジャン・ポールは金で人を縛り、操ろうとし、金持ちだからドラッグなど怪しい商売の人間がカモにする。富裕層が一般庶民と同じ感覚を持つことは不可能だが、金に溺れない抑制を効かせる事が大事だ。皆金に溺れていけばジャン・ポール以後すぐに一代帝国は滅びたはずだが、不思議な事に必ず一族に富裕層ながらまともな感覚の持ち主がおり、現代に至るまで生き抜いている。【中古】 ゲティ家の身代金 ハーパーBOOKS/ジョン・ピアースン(著者),鈴木美朋(訳者) 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
November 5, 2021
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みなさん、こんばんは。昨日はハンカチ王子斎藤祐樹選手の最終登板でしたね。今日はあの有名なファーブルの伝記を紹介します。ファーブル伝La vie de J,H.Fabre,Naturaliste suivie du Repertoire general analytique des Souvenirs entomologiquesジョルジュ=ヴィクトール・ルグロ 集英社連れ合いを求めて最後につかまってしまう『狼王ロボ』で名高い『シートン動物記』が動物ものの雄ならば、こちらはフンコロガシの習性について書かれた話を子供の頃に読んだ人が同じ割合できっといるはずだ。ちなみにフンコロガシの話は『昆虫記』第一巻に掲載されている。 アンリ・ファーブル、博物学の巨人だそうだ。昆虫学かと思ったが、彼の守備範囲はもっと広い。ただまあ学者はとにかく儲からない職業なんじゃないの?金にならなそうだし、と思っていたら案の定。昆虫記があまりに有名すぎて、彼の生涯は記憶に残っていない。 父親の事業の失敗で碌に学校に行けなかったにも関わらず三年かかるところを二年で課程を終えてしまうほどの秀才。頭脳も探求心も人一倍あったにも関わらず、なかなか本が出版できず、いざ資金がたまった時には随分と年齢がいっていたためできなかったと書いてあるが、八十代、九十代であれだけの文章が書けるほうが珍しい。また、貧しさを喧伝されるのも嫌ったとか。概略を書くと悲劇の人だ。その文章はノーベル賞文学賞候補にもあがったとか。私たちは翻訳文しか見ていないが魅力的な文章だったのだろう。 フンコロガシ以外の動物・植物の描写や、カソリック教徒のため進化論に否定的であったことも本書で知ることができた。ファーブル伝 [ ジョルジュ=ヴィクトール・ルグロ ]楽天ブックス
October 18, 2021
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みなさん、こんばんは。IOCバッハ会長の「いかなる犠牲を払ってもオリンピックを成功させねば」発言が波紋を呼んでますね。さて今日はあの文学小説のモデルになった人物の伝記を紹介します。脱獄王ヴィドックの華麗なる転身Der Detektiv von Parisヴァルター・ハンゼン訳小林俊明脱獄囚から市長へ、一転執念深い警部に追われて逃亡生活を繰り広げる。激動のフランスを生きる一人の男性の生涯を描いたヴィクトル・ユーゴーの『レ・ミゼラブル』の主役、ジャン・バルジャンにモデルがいたのは最近知られている。 彼はパン屋に盗みに入ったが、パン屋の倅だった。おや?なぜ自分の家に盗みに入る?実は父親が、食べ盛りの子供とぼろの服を着ている妻がりにも関わらず、自分だけ贅沢をするために、金をためこんでいた。“飢えている子供のためにパンを盗みに入る”ようには現実はキレイに出来ていない。その時相談した相手が悪かった。貴族の生まれながら名うての悪で、まだおぼこいヴィドックは強盗に加担させられてしまう。 幼い頃から向学心も豊かだったヴィドックは何か国語も習得し、フェンシングの技術も見ていただけでマスター。一種の天才だ。生育環境がもし違っていたら、才能を早くから生かす道もあったろう。それなのにサーカス団で珍妙な化け物コスプレをやらされたり、強盗団の仲間にされたりと不運続きの人生が続く。 泣く子も黙る警察大臣ジョセフ・フーシェに見込まれて、遂にパリ警察に就職を果たす。しかし“出る杭は打たれる”の例え通り、有能さが嫉妬され、信頼してくれた王がなくなれば庇護者を失い、後任からは誹謗中傷される。それでも能力だけは誰も無視できず、何と海の向こうからも教えを乞いにやってきたそうだ。 バルジャンと異なり神への回心はかけらもないが、彼なりに職務に忠実で、同じ囚人だった仲間の救済措置を個人で行っているなど、ひとかどの人格者と言えるのではないだろうか。脱獄王ヴィドックの華麗なる転身 (論創海外ミステリ 259) [ ヴァルター・ハンゼン ]楽天ブックス
June 8, 2021
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みなさんこんばんは。東芝の買収は断念されたようですね。今日はルイ14世の祖母にあたる女性の伝記を紹介します。マリ・ド・メディシス: 母と息子の骨肉の争いMarie De Medicisミシェル・カルモナ国書刊行会 まずこの書誌情報を見てもらえばわかるが、892頁。持ち歩いて電車で読むわけにはいかない。寝っ転がって読むとしても、持ち上げると重い、重すぎる。 メディシスとつくのでわかるだろうが、彼女はメディチ家の出身だ。同じフランス王妃となったカトリーヌ・ド・メディシスとは遠縁にあたる。表紙写真では二十顎だが、これが当時の美人の条件だったらしいので合格。もっと彼女を見たい人は(いるのか)ルーブル美術館に行くと、ピーテル・パウル・ルーベンスの二十四枚の連作『マリー・ド・メディシスの生涯』が見られるので是非見に行って欲しい。これだけ大画面で描かれるなんて、フランスにとってすごいことをした人?と思うが、要は金払いのいい客だっただけのこと。佞臣を受け容れ、言う事を聞いてもらうために金を払いまくったので、旦那が貯めた金庫が空になって軍隊を雇えなくなってしまったのは本当の話。政治能力はなかった。「女に政治は無理」という性差別で言うのではなく、育ってきた環境に拠るものだ。 さて話が先走ったが、彼女の旦那はフランス王アンリ4世、息子の一人はルイ13世、太陽王14世のお父さんだ。だから彼女はルイ14世の祖母にあたる。だが副題にもある通り、母と息子の仲は最悪だった。その最悪っぷりが延々894頁に亘って書かれていたら萎えるが、確執が表面化するのはルイ13世が国王として統治し始めてからだ。アンリ4世は息子が幼い時に暗殺されたので、わずか8歳で即位はするものの、当初母親たるマリーが摂政として政権の中枢についた。しかしやがて成長した息子が自分で政治をやりたいと思うのは当然、一方母親は一度得た利権を手放したくない。そこへ優秀なリシュリューが現れ枢機卿となって国王とタッグを組む。さあ均衡は一気に国王の方へ傾く。後半はデュマが『三銃士』で描いた時代になる。更に宗教が親子をややこしくする。カトリーヌ・ド・メディシスの時代にも激しかったが、フランスは旧教と新教がぶつかる国だ。マリーは旧教側だが、夫アンリも息子ルイも特に新教を取り締まる気はない。遂にこの親子は母親を幽閉、追放と行く所まで行ってしまう。ただフランスという国のためには、彼女を排除して大正解。仲良しのルイ13世とリシュリューが相次いで亡くなっても、太陽王の時代が来るのだから。 一点、締め切りが厳しかったのか一つ二つだけではない脱字があったので再版の際に修正願いたい。 二人の確執をドラマで見たい人は『マスケティアーズ』をどうぞ。マリ・ド・メディシス 母と息子の骨肉の争い [ ミシェル・カルモナ ]楽天ブックス
May 7, 2021
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みなさん、こんばんは。「東北新社」の衛星放送事業の認定が取り消しになっちゃいましたね。 事実と異なる申請だったとか。さて、今日は実在の一族についてのノンフィクションを紹介します。ウィトゲンシュタイン家の人びとThe House of Wittgensteinアレグザンダー・ウォー中央公論新社ルートウィヒ・ウィトゲンシュタインといえば、おそらく哲学に興味のない人は名前を聞いたくらいだろう。歴史の教科書にも出てこないはずだ。最初の著書『論理哲学論考』で自分の中の哲学を完成してしまったので、以後の著作がないのも知られていない所以だ。 そんな早熟な天才を生んだ父親はといえば、父親(ウィトゲンシュタインの祖父)に逆らって起業し、一代にして財を成した立志伝中の人物だ。こうした父親の常として、息子にも自分と同様の資質を求める。何せ自分が成功例なのだから確信がある。幸いにして八人も子供がおり五人が息子で後継者はより取り見取りのように思われた。ところが傍目には「父と子のとくに大きな違い―とくに悲劇的な違い―は、幼いころから息子たちには人生に対するバイタリティと意思が欠けていたことだった 」と早々に見切られて、息子三人がいずれも失踪・自殺している。強すぎる父親の圧を受けかねたのか。生き残ったのはルートウィヒとそのすぐ上の兄であるパウルのみだ。 ならば二人が圧を乗り越えるくらい個性が強かったのかと言えば、まあそうだ。戦争で右腕を失ったパウルは父親から受け継いだ莫大な資産をバックに、ラヴェル、プロコフィエフと当代随一の作曲家に次々と左手だけで演奏できる作曲を依頼している。しかしどうしても片手で弾くため両手よりもピアノの音が小さくなる。そこで作曲家にオーケストラの音を薄くしてくれるよう指示(頼むのではない)し、揚げ句喧嘩になる。一面から見れば、片手のピアニストでも演奏できる曲を生み出してくれた恩人なのだが、作曲家の思惑を圧ではねのける暴君と思われても仕方がない。 一方のルートウィヒも、誰もが向いてないと思っているにも関わらず小学校教師になる。なまじ自分が頭がいいものだから、わかりの悪い生徒に体罰を加える事態が度重なって裁判沙汰になり、しまいには精神鑑定を受けさせようという騒ぎになってしまう。複雑な世界を解き明かすことはできても、自分を客観的に見ることができないという典型的な例である。 彼等が育った国がオーストリアであることから、二回の大戦を経て名家ウィトゲンシュタイン家が動乱に巻き込まれる事は予測がつくであろう。一方、彼等のすぐ近くでこの動乱に関係する人物がいた。アドルフ・ヒトラーだ。ルートウィヒとアドルフ・ヒトラーは公立実科高等学校で同級だった。ルートウィヒやパウルと同様第一次大戦に参戦したヒトラーは、偉大な父も財産も持たず一兵卒の扱いだった。塩素ガス攻撃によって目も見えず口もきけなくなっていた彼は大いに人生を悲観してもいいはずだが、「こんな問いが頭をよぎった。『おまえはまったく死を恐れていない―なぜだ?まわりの誰もが倒れているのに、おまえはまだ生きている―なぜだ?』そしてそのとき、私は思った。それは私が選ばれた人間だからだ。私に何かをなさせるために、運命がわたしを選んだのだ。私は自分の生涯を祖国に捧げようと決意した―敵を駆逐して国境の向こうに追いやるのが私の務めだと決意した。」とプラス志向に転じてドイツでのし上がってゆくのは周知の通り。父の遺産で裕福に暮らしたウィトゲンシュタインの息子達と、守衛と家政婦の息子が人生のどこかですれ違い、転落と栄達に分かれてゆく様は大いにドラマティックだった。誰かこの視点でドラマ化してくれないものか。ウィトゲンシュタイン家の人びと—闘う家族 【中古】BUY王楽天市場店
April 9, 2021
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みなさん、こんばんは。やっぱり白鵬休場しましたね。鶴竜は引退勧告受けないのでしょうか。今日ご紹介するのはなかなか衝撃的な実話をもとにしたフィクションです。告発 フェイスブックを揺るがした巨大スキャンダル (ハーパーコリンズ・ノンフィクション)Targetedブリタニー・カイザーハーパーコリンズ・ ジャパン 2018年3月17日、イギリスの選挙コンサルティング会社ケンブリッジ・アナリティカが5000万人以上のフェイスブックの個人情報を不正利用し、2016年アメリカ大統領選挙においてドナルド・トランプ陣営を支援していたというニュースが世界中を駆け巡った。 CAで事業開発担当を務めていた著者ブリタニー・カイザーが数十億ドル規模のデータ産業の発展の内幕を告白。個人情報がどのように収益化され、企業が個人情報を使ってどのように利益を得ているか、ドナルド・トランプを当選させるために、行動心理学と社会心理学からフェイスブックのユーザー分類が行われCAがこれらの弱点をどのように利用したのかを明らかにする。心理学という学問自体には決して罪はないが、利用する人間の意図によって善にも悪にも見えてしまう事が残念だ。 本書は来る2020年の選挙で同じことがふたたび起きようとしていることに警鐘を鳴らしていたが、結果は既に出た。4年間部下を解雇しては任命するなど、一般企業のようにホワイトハウスを扱い、国内外であまりにも出鱈目を行ってきた大統領が遂に来年1月ホワイトハウスを去る。思想操作でいっときは“結果”を得たとしても魔法は解け、結局は人々の良識が優ったという事になろう。 単に自分の意見の正当性だけを述べた内容に留まらず「仕事をしたのに業績は全部トップに持っていかれた」「やった分の給与は支払われてない」などの恨み節も続く。この件に関しては、個人の告発による一方的な内容になるため、会社側にはそれなりの言い分もあるのかもしれない。 筆者は現在、#Own Your Dataキャンペーンを始め、DATA(デジタル・アセット・トレード・アソシエーション)を設立し、データ権、データ・リテラシー向上の為の、啓蒙活動を行っている。インターネットで何気なく引き渡されている/引き渡しているデータの取り扱いの怖さを教えてくれる一冊である。告発 フェイスブックを揺るがした巨大スキャンダル (ハーパーコリンズ・ノンフィクション 51) [ ブリタニー・カイザー ]楽天ブックス
March 23, 2021
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みなさん、こんばんは。トヨタが富士の裾野で未来都市をつくるみたいですね。夢のある話です。オスカー・ワイルドはご存知ですよね。若い青年の恋人絡みのあの有名な裁判も含めて。しかし彼には妻がいたのです。彼女の評伝を読みました。オスカー・ワイルドの妻 コンスタンス 愛と哀しみの生涯Constance : The Tragic and Scandalous Life of Mrs Oscar Wilde (Woman's Best 3)フラニー・モイル書肆侃侃房 超美形の名家の坊ちゃんドリアン・グレイは酸いも甘いもかみ分けた大人のヘンリー卿に誘惑され悪の道へと踏み出す。『ドリアン・グレイの肖像』 将来有望な国会議員のロバートと、婦人参政権に熱心なガートルードは理想的なおしどり夫婦。しかし実は夫ロバートには秘密があった。秘密を知っている上流婦人に脅迫され、潔癖なガートルードにばれないよう腐心するロバートだったが『理想の夫』 「人のふり見て我が振り直せ」と言うが、フィクションである小説もまた“人のふり”がふんだんに書かれている。読者は主人公達の言動で教訓を学ぶ。ならば、書いた作者は読者よりも教訓が身体に沁み込んでいるのだから、失敗などしないはず。 ところがそうではなかった。 冒頭の作品の著者であるオスカー・ワイルドは、自分を慕う青年を溺れさせても自分が溺れないオトナの男・ヘンリー卿でも、策を弄して秘密を隠しおおせる理想の夫・ロバートでもなかった。数々のどうにもコントロールできない人間の感情を描いてきたワイルドもまた、コントロールがきかない人間の一人だった。作家に求められる客観的視点を持ちながら、その視点が自らに向けられなかったというのは面白い。 同性愛的嗜好のあった作家なら彼以外にもいるが、裁判沙汰になったのは彼くらいなものだ。ましてや人気絶頂の作家だったものだから、これまで押さえつけてきた傍観者の嫉妬が噴き出す。誹謗中傷には家族もまた無傷ではいられない。 てっきり仮面夫婦かと思われそうだが、コンスタンスとは恋愛結婚である。オスカーは若干金目当てだった疑いもあるが、コンスタンスは純粋な愛情から彼と結婚した。オスカーが羽振りが良く名士婦人だった頃は、童話を書いたり編集を行ったりと精力的に動いており、問題児の兄に代わって財産管理にも関わっていた。サブタイトルに“愛と哀しみの”とついているので、まるでB級映画のタイトルのようだが、彼女の生涯は決してB級などではなかった。振りかかる災難を泣き暮らすのではなく、子供を守るために手を尽くし、恋もする。だが、運命の男とどうしても手を切れない夫とは対照的に、プラトニックを貫く。夫の才能は持たなかったが、夫が生涯持ち得なかったものを、彼女は持っていた。【中古】オスカー・ワイルドの妻 コンスタンス 愛と哀しみの生涯 Constance : The Tragic and Scandalous Life of Mrs Oscar Wilde (Woman's Best 3)【中古】クロネコ書店
March 4, 2021
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みなさん、こんばんは。オリンピック組織委員会会長は橋本聖子さんに決まりましたね。今日は独裁者たちの最期にスポットをあてた評論を紹介します。独裁者たちの最期の日々 上Les Derniers Jours des Dictateursディアンヌ・デュクレエマニュエル・エシュト清水 珠代 (訳)原書房独裁者の死はできるだけ悲惨な方がいい、二度と独裁者になろうなどという人が出てこなくなるから。とはいうものの、独裁者は二十世紀にこれだけ登場した。上下巻で二十四人の独裁者の死が紹介されている。1 ドゥーチェの二度目の死3 ペタン元帥は四度死ぬ12 ポル・ポトは六度死ぬなどのように、007じゃあるまいし、まるで死んだ回数を競うようなタイトルもある。1 ドゥーチェの二度目の死2 ヒトラーの自殺の二人は、最近映画で復活させられた。まあ、こんなパロディ&風刺精神豊かな作品も、絶対に彼等が復活しないと分かっているから作れる。二人は「独裁者は悲惨な死を迎える」という、いわば勧善懲悪の見本のような死になっている。1 ドゥーチェの二度目の死劣勢に立たされた時の、ヒトラーのムッソリーニに対する「こいつと組むんじゃなかった」感があからさまだ。死んだ途端にムッソリーニとその妻に加えられる暴行は、これまで民衆が抱えていた鬱屈の表れとはいえ恐ろしい。4 魔のソファ スターリン断末魔の五日間パロディ映画「スターリンの葬送行進曲」がある。事ほどさように独裁者はパロディにしやすいらしいが、死後しばらく放っておかれたのは史実。独裁者も善しあしということ?5トゥルヒーリョ、熱帯のカエサルマリオ・バルガス・リョサの『チボの狂宴』に描かれた、ドミニカ共和国で30年にわたり独裁政治を敷いてきたトゥルヒーリョはロマン将軍に追われ銃弾を全身に撃ち込まれて死亡。まるで映画のような最期だった。ただ彼を引き立てたのは、中南米に拠点を持ちたかったアメリカであり、彼が失脚すると見捨てるというえげつない事をしている。6 ゴ・ディン・ジエム、「自己流愛国」大統領の死事実上フランスの傀儡政権の初代首相。仏教徒の弾圧により一挙に支持を失い、また暗殺により亡くなる。独裁者で畳の上で眠れた人は少ない。7 パパ・ドクの静かな死ハイチの政治家で本名はフランソワ・デュヴァリエ。パパ・ドクは愛称。親子で30年間独裁政治を敷きデュヴァリエ王朝とも呼ばれる。心臓病のため早くに亡くなり息子を後継者に指名するが、19歳の息子では抑えにならず失脚。要は英才教育(子育て)の失敗か?の失敗か?8 フランコの果てなき苦しみ軍部でのしあがってゆきやがて総裁に。ただし自分の死後はブルボン王朝復活を願っていた点が意外だ。9 毛沢東の長い死亡くなった時にTVニュースが彼の写真いっぱいだったのを覚えている。当時はSNSがなかったが、もしあったら今の中国のパワーならばSNS乗っ取りもありえるのでは。全世界への伝播が返って恐ろしい。そして現在国家主席である習近平氏の任期制限が最近撤廃された。中国は独裁者を好むお国柄なのか。10 フワーリ・ブーメディエンの最期の日々クーデターで倒れたり国を追われる独裁者が多い中で、葬儀の間中人々の嘆きを背に受けていたというのは珍しい。12 パフラヴィー二世、最後の皇帝我々の世代では言いやすいようにパーレビ国王と呼んでいた。ホメイニ師の写真や大判のポスターがTVニュースで出回っていて、師の方が独裁者イメージがあった。独裁者たちの最期の日々 上 [ ディアンヌ・デュクレ ]楽天ブックス
February 19, 2021
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みなさん、こんばんは。今度は運転免許証とマイナンバーカードを紐づけるとか。とにかく増やしたいんですね。今日は今だ女性の宰相が誕生しないこの国でこそ、読まれるべき作品を紹介します。才女の運命 男たちの名声の陰でDas Schicksal Der Begabten Frau Im Schatten Beruhmter Mannerインゲ・シュテファンフィルムアート社 よく、「結婚は人生の墓場」と言う。言う相手は十中八九、男性である。しかし、本当にそうだろうか。墓場に片足を突っ込むのは、実は女性では。 取り上げられた女性のフルネームを見てぴんと来なくても、そのパートナーの男性の名前はよく知っている。それが大方の読者の認識だ。 例えばトルストイの妻ソフィア。悪妻のイメージが強く、彼の不可解な死の責任まで負わされているが、残された日記からは、ひどい目にあったのはソフィアの方だ。トルストイは『クロイツェル・ソナタ』『アンナ・カレーニナ』『戦争と平和』作品中で立て続けに浮気に走る人妻を描いてきたが、人妻=夫、全て自分だ。事実を知ったとしても、熱烈な読者は「天才ならばそういう事もあろう。一番身近な家族なのだから、我慢してしかるべきだ」と考える。 映画にもなったカミーユ・クローデル。自身の作品を師匠ロダンのものだと思われ、長らく不当評価されてきた。家族からも引き取りを拒否され、一人寂しく病院で亡くなった。 クララ・シューマンとロベルト・シューマンは長い間理想のカップルとされてきたが、これも間違いだった。父親は彼女を自分の教育方針を見せびらかす“手段“とピアノ=商品を売る“コンパニオン“のように考えていた。やっと支配的な父親から逃れられたと思ったら、弾きすぎて手を痛めたシューマンの作品を披露するために、またもや“手段“にされる。但しクララはある程度割り切っていたようだ。 パートナーが有名だった故に、彼女たちの才能は無視されてきた。十人の生涯を見て驚くのは、男性側の妊娠・出産・子育てに対する恐るべき無関心だ。子供をたくさん産めば、それだけ経済的にも大変になるのは目に見えているのに、自分の欲望を発散すればすっきりした、とばかりに“その後”については無関心。現代女性に少子化の圧がのしかかるが、男性側の意識がこの頃とさほど変わらないのなら、状況が変わらないのもむべなるかな。 二十五年前に刊行された作品の新版にあたって“新版のための前書き”が追加されている。◎「生死をかけた闘い」ソフィア・アンドレイェヴナ・トルストヤの日記◎「わたしたち女性にはこうしたあらゆる闘いのなかでも、いっそう困難な闘いが割り当てられるのです、というのもそれはより細かい部分に関する闘いなのですから…」イェニー・ヴェストファーレン゠マルクスの生涯◎「わたしが自分の人生の重点を自分自身ではなく、他の人のなかに求めなければならないということ…」クララ・ヴィーク゠シューマンの人生と作品◎「これは女性の搾取であり、女性芸術家を破滅させる行為です…」カミーユ・クローデルの生涯と作品◎「わたしは、女でも男のようにキャリアを積むことができると思う…」ミレヴァ・マリチ゠アインシュタインの生涯◎「彼女はまるで男のように大理石をつかむ」クララ・ヴェストホフ゠リルケの生涯と作品◎「わたしが一番力にあふれていた時代をわたしはロヴィスのために捧げました…」シャルロッテ・ベーレント゠コリントの生涯と作品◎「彼女は夫の仕事を支える代わりに、むしろ自分の論文を書いていたのです…」ヘートヴィヒ・グッゲンハイマー゠ヒンツェの生涯と仕事◎「女性が自立していない、価値の低い地位に置かれているなどと、いったい誰が言うのでしょう…」カール・バルトの傍らにいたシャルロッテ・フォン・キルシュバウムの生涯◎「わたしの考えは、ネズミを追う猫のよう…。」ゼルダ・セイヤー゠フィッツジェラルドの生涯と著作才女の運命 男たちの名声の陰で [ インゲ・シュテファン ]楽天ブックス
November 8, 2020
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みなさん、こんばんは。大坂なおみ選手優勝しましたね。すごいすごい。ところで図書館はお好きですか?アメリカ大陸発見(異論はあるものの)の殊勲者であるコロンブスと図書館の意外な関係について書かれた本を紹介します。コロンブスの図書館The Catalogue of Shipwrecked Books:Young Columbus and the Quest for a Universal Libraryエドワード・ウィルソン・リー柏書房 最近は「いよっ国がみえるぞ」(意欲に燃える説も)と覚えるらしい。1492年は、コロンブスがアメリカ大陸を発見した年として、世界史試験の頻出問題の一つだ。だが、オトナになって考えてみれば、ヘンな話だ。そもそも発見て何だ発見て。既に土地があって先住民(先に住んでいた民)もいたのに。まるで自分が初めて見つけた場所みたいに、勝手に宣言して国王に領主にしてもらおうとするなんて厚かましい。まあこの頃の冒険野郎なんてそんなものだ。更に、国を長く離れると、あることないこと国王に言上されるというので慌てて帰国すると、新大陸に残してきた人達が殺される事態も起きる。借金取りに追われ、「黄金が出るんですよ」とチラ見せしては資金を得てきたコロンブスも、末路は悲惨なものだった。 さて、そのコロンブスに息子がいた。正妻の息子ディエゴと庶子エルナンドである。コロンブスが支援を仰いだスペインで庶子故に苦労した男といえば、チェーザレ・ボルジアがいる。エルナンドの苦労も並々ならぬものがあったはずだ。ましてや彼は、父親が教皇でなく、むしろ山師扱いされていたコロンブスだ。 それでも彼は父親を愛していたようだ。というのは、盛った所があるものの、コロンブスの所業が世に知れたのは、航海を共にしたエルナンドの著作『コロンブス提督伝』によってである。何事かを成しても、それを伝える者がいなければ、後世に残らないのだ。 “残す”事の意義を知っていたエルナンドがもう一つ後世に残そうとしたものがある。それは「世界の図書館」だ。仰々しい命名だが、本人は至って真剣だったらしい。当時の書籍のみならず、イラストなどを所かまわず買いあさったそうだ。また、彼自身ハプスブルグ家に仕えていたので、各国の資料を集めやすかったことも大きい。但し彼にとって誤算だったのは、“新大陸を発見した提督”コロンブスに、スペインがさして金を支払ってくれなかったので資金に限りはある。それでも、自分の名を残す事に熱心だった父親、父親に似て愛人騒動を起こすダメ兄、二人の面倒を見ながらも宮廷の仕事もして、かつ後世に残る図書館を遺産として残そうとするとは、最も優れた能力の持ち主なのに、何て控えめで利他愛の持ち主なんだ。ちなみに、表紙絵にあるように書籍を縦に並べることを始めたのも彼らしい。もし、横に寝かせてどんどん重ねていけば、下に置いた本だけが傷んでしまう。何せ目指すのは“世界”なので、志半ばで彼の寿命は尽きてしまうが、いくつかは残り、当時の様子を何百年先の私達に知らせてくれる。まさに、ライブラリアンの鑑と言える。コロンブスの図書館 [ エドワード ウィルソン リー ]楽天ブックス
September 14, 2020
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みなさん、こんばんは。オシドリ夫婦で有名だった野村克也元監督が亡くなりましたね。今日はおっそろしい観点から見た世界史の本を紹介します。暗殺が変えた世界史 上 Assassinésカエサルからフランツ=フェルディナントまで ジャン=クリストフ・ビュイッソン原書房最初の暗殺者は誰だったのか記録には残っていないが、先のアメリカによるイラクにおけるイランの司令官(ややこしいな)に至るまで、暗殺の歴史は続いている。上巻収録は以下の内容。1 ユリウス・カエサル腹心の裏切り――ローマ、紀元前四四年三月一五日2 アンリ三世修道士と「暴君」――サン=クルー、一五八九年八月一日3 マクシミリアン・ド・ロベスピエール殺された殺人者――パリ、一七九四年七月二八日4 エイブラハム・リンカン南部の復讐――ワシントン、一八六五年四月一四日5 マクシミリアン・フォン・ハプスブルク張り子の皇帝――ケレタロ(メキシコ)、一八六七年六月一九日6 アレクサンドル二世皇帝狩り――サンクトペテルブルク、一八八一年三月一日7 オーストリア皇后エリーザベト、愛称シシィ呪われた魂と悪霊にとりつかれた魂――ジュネーヴ、一八九八年九月一〇日8 オーストリア皇太子フランツ=フェルディナントヨーロッパが終わった日――サラエヴォ、一九一四年六月二八日 シェイクスピアの史劇よろしく何度も「気を付けるように」と言われており、念をいれて妻が「お願い!今日は行かないで!」と懇願したにも関わらず行ってしまったカエサル。暗殺を恐れてキャラント=サンクという親衛隊を侍らせていたにも関わらず、最も近くに暗殺者を引き入れてしまったアンリ三世。貴賤結婚をも乗り越えたのにその暗殺が文字通り歴史を変えてしまったハプスブルグ帝国皇太子夫妻。 いずれの暗殺犯も自分だけにしかわからない信念を抱いていてちょっとやそっとの事では揺るがない。暗殺が変えた世界史 上 カエサルからフランツ=フェルディナントまで [ ジャン=クリストフ・ビュイッソン ]楽天ブックス
March 4, 2020
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みなさん、こんばんは。クルーズ船の乗客、感染してなくても2週間隔離ですってよ。ひえー。ところでみなさん、恐竜はお好きですか?恐竜の世界史――負け犬が覇者となり、絶滅するまでThe rise and fall of the dinosaursスティーブ・ブルサッテみすず書房 昔々地球は温暖化どころではない熱い暑い惑星でした。ガスが噴き出し、大陸はパンゲアという一つだけですが、少しずつ亀裂が入っていきました。やがて長い長い時代を経て、白亜紀という時代が到来し、恐竜が闊歩するようになったのです。 えっ負け犬?あんなに大きいのに?そもそも犬じゃないし!と邦題に異論ありの読者も多数いそうだ。ちなみに原題はフツーに「The rise and fall of the dinosaurs」と恐竜たちの栄枯盛衰。しかし一時期恐竜がワニに負けていたのは本当の話らしい。その頃恐竜たちはあれほど大型化していなかった。まあ、大型化すればしたでコスパは悪いのだが。 誰も姿を見たことがない(『ジュラシック・パーク』などの映画は除外)恐竜たちになぜ私たちは夢中になれるのか。言葉が通じないのでコミュニケーションが取れるわけでなし。その大きさから出会いがしらに踏みつぶされることは必定。それでも恐竜を昔の図鑑で見て狂喜乱舞した子供達は少なからずいるはず。地上で誰も負かす者のいなかった恐竜が、空から降って来る隕石でばったばった倒れていく描写はまんまスペクタクル。もし隕石の軌道がほんの少しでもずれていたら、我々人間の登場はあったのか?おや、こう考えるとホラーかも。 著者もどうやらその一人だったようで、高名な博士の元で研鑽を積み発掘調査で15種もの新種を見つけ出した。著者近影の嬉しそうなこと。本編は彼や科学者の化石発見の経緯と、恐竜たちの歴史を並行して描く。別々に章を分けてくれたらもっと分かりやすかった。恐竜の世界史ーー負け犬が覇者となり、絶滅するまで【電子書籍】[ スティーブ・ブルサッテ ]楽天Kobo電子書籍ストア
February 7, 2020
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みなさん、こんばんは。第二次大戦当時から終戦まで、パリはどんな様子だったのでしょう?有名人が多数登場するノンフィクションを紹介しますね。パリ左岸:1940-50年Left Bank: Art, Passion, and the Rebirth of Paris, 1940-50アニエス・ポワリエ白水社 タイトルは一九四〇年から五十年までとなっているが、本書はそれより二年前の一九三九年から始まる。その年、ドイツがソ連と不可侵条約を結んで東の守りを固め、九月にはイギリスとフランスがドイツに宣戦布告して第二次大戦が始まる。その直前に、ルーヴルの『モナリザ』をはじめとする美術品の避難大作戦が始動する。ドイツの初期の勢いが凄まじかったもので、一九四〇年六月にはドイツ軍はパリ入場を果たす。もしこのタイミングが少しでもずれていたら、私達は今頃モナリザを見られない。 フランス右岸がブルジョアジーの住まいで、左岸は芸術家達の住まいだった。というわけで本編には作家、俳優、ミュージシャン、画家など錚々たるメンバーが登場する。フランスと芸術に疎い人でも、誰か一人は名前を聞いたことがあるはずだ。冒頭に登場人物リストと年表もついているが、入れ替わり立ち代わり登場するのを読むと、脳内変換で三次元化して物語を動かすのでかなり疲れた。本当に三次元化してドラマにすると面白いしわかりやすいが、逆に演じている人に注目してせっかくの“複数の登場人物が交錯する”楽しみを味わえない。だからこれはやはり本で楽しむべき内容だ。並行して、ドイツに占領されてから戦勝国に返り咲き、ごたごたを経て復興に向かうフランス政体の変遷も描かれる。相手を倒すまでは結束するのに倒した途端また分裂に走るのもむべなるかな。 冒頭にはシモーヌ・シニョレが登場し、戦争真っ只中で女優への階段を上っていくが、ラスト近くはブルジョア育ちのご令嬢ブリジット・バルドーが新しき女性のシンボルとして台頭する。シニョレが対独協力者達と決別する時に言い放つ台詞がカッコいい。こんなに骨のある人だったとは。アルレッティとの対比で映画かドラマにならないものか。全編通していろいろありながらも存在感を発揮したのはボーヴォワールとサルトル。結婚して子供がいるカップルがぐちゃぐちゃしているのに、この二人は永遠につかずはなれずで適当に恋人がいて次々変わる。規格外カップルあっぱれ(なのか?)。後半にはヌーベルバーグの巨匠と呼ばれる監督達の若き頃が登場。パリ左岸 1940-50年 [ アニエス・ポワリエ ]楽天ブックス
January 22, 2020
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みなさん、こんばんは。桜を見る会に反社が出席していたそうで、穏やかではないですね。ところで芸術作品は年月と共に摩耗したりしますよね。芸術作品を襲う災難はそれだけではないようです。失われた芸術作品の記憶The Museum of Lost Artノア・チャーニイ原書房 なくしたと思っていたものが見つかるのは誰でも嬉しい。例えば、先ごろまで国立西洋博物館で開かれていた松方コレクション展では、モネの《睡蓮、柳の反映》は、いっときフランスに接収されており、2016年ルーヴル美術館の片隅にあるのを発見された時には既に上半分が失われた状態だった。モネの過去作品を元にAIが弾き出した色を元に復元されたものが公開された。 この作品はまだいい方だ。絵画に限らず芸術作品は、盗まれ、燃やされ、破壊された。所有者や画家自ら破壊したケースもある。チャーチル首相による肖像画破棄は、BBCドラマ「The Crown」でも描かれた。議員達がチャーチルの80歳の誕生日に肖像画を贈ることになった。指名されたのは肖像画専門ではなく、モダニズムの画家グレアム・サザーランドだった。そろそろ引退してくれないと後が詰まっている議員達にあの手この手で迫られても絶対首を縦に振らなかった肖像画を見た途端に愕然として引退を決意する。 映画『フリーダ』では依頼主に拒絶されたディエゴが壁画を壊すシーンが登場する。壁画を依頼されたディエゴ・リベラが依頼主ロックフェラーの意図とは全く異なるデザインで作成した。共産主義者のリベラがどういうデザインが出てくるかくらい想像してもよかったのに、資本主義の頂点にいるロックフェラーが仕事を依頼するのもおかしな話だ。 他にも映画『ミケランジェロ・プロジェクト』に登場したナチスの美術品奪還の試みや、燃えさかる城の中から絵画をくるくると丸めて救出した漫画『あき姫』の試みに似た絵画『ラス・メニーナス』の救出作戦が描かれている。芸術品を闇ルートで売りさばきながら、歴史的遺産を破壊することで人々にインパクトを与えようとするテロリストも跡を絶たない。戦争、事故、火災などに比べて盗難ならば、もし好事家の手に渡れば、手酷い扱いは受けないかもしれない。誰も持っていないものを持っていることがすなわちステイタスなのだから。しかしその場合多くの人の目に作品が触れることはない。失われた芸術品が、もし私たちの目の前にあったなら、どれだけ心が豊かな生活が送れただろうか。失われた芸術作品の記憶 [ ノア・チャーニイ ]楽天ブックス
December 3, 2019
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みなさん、こんばんは。GSOMIA危うい所で回避しましたねぇ。でもこの先打開策は見つかるのでしょうか?今日はドイツの有名人に関わるエッセイを紹介します。希望名人ゲーテと絶望名人カフカの対話フランツ・カフカヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ飛鳥新社 「晩に、わたしは千匹のハエをたたき殺した。それなのに早朝、一匹のハエに起こされた。」ちなみにこれは比喩である。実際にゲーテが蠅殺しフェチだったわけではない。だって千匹ハエがぶんぶんいる場所ってどこ?で、一方カフカはぶんぶんうるさい蠅を叩こうとした少女に一言。「かわいそうなハエを、なぜそっとしておいてやらないのですか!」え、もしかしたら「夢から目をさますと、自分が寝床の中で一匹の巨大な“ハエ”になっているのを発見した」りすると、イヤだから?んなアホな。 カフカは優しい、ゲーテは残酷、というわかりやすい話ではない。だが、この二人はあまりに違いすぎる。カメラのネガとポジのようだ。カメラのネガとポジのようだ。本だってどう?白と黒で差をつけちゃって。 友達になったら、いつでも訪ねてきていいよ、とオールウェルカムなゲーテ。「ひとりでいられれば、ぼくだって生きていけます。でも、誰か訪ねてくると、その人はぼくを殺すようなものです。」というカフカ。そんな事言ったら誰も訪ねて行きにくくなっちゃうじゃん! 作家だけでなく政治向きの仕事もしていたゲーテは「仕事の重圧はいいものだ。」と前向き。しかしカフカは「しばらく事務所を離れていられると思うと、嬉しくてたまらないよ。」天性のナマケモノ?両親に対する見方や希望に対する考え方など、悉く二人は対立するので、実際に会っていたら“会話”が果たして成り立っていたのか。最後に二人の写真があるが、二人ともイケメンだ。絶望に走りたがるカフカにいつも付き添ってくれる友人と一度別れても再び恋人になってくれる女性がひたすら尊い。希望名人ゲーテと絶望名人カフカの対話【電子書籍】[ ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ ]楽天Kobo電子書籍ストア
November 24, 2019
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みなさん、こんばんは。ノーベル平和賞はエチオピア首相がもらいましたね。トランプ大統領なんてとんでもない!さて、今日は失敗にまつわる世界史の本を紹介します。とてつもない失敗の世界史Humans:A Brief History of How We F*ucked It All Upトム・フィリップス 河出書房新社失敗しないで生きたいと誰もが思うものの、生まれてから死ぬまで一度も失敗しない人はいない。「他山の石」という諺もあるように、我々は先人の間違いを数多く見て来て、それを自分の糧にしようと心がける。にもかかわらず、似たような失敗をしてしまう人間は、実は学ばないイキモノなのか? なぜ失敗してしまうのか。理由その1.今まで一度もやったことがないから。原因としてはこれが一番多い。例えば「オーストラリアでウサギを増やすと狩りが楽しいな~」などと兎を持ち込むのがこのパターン。ところが、ウサギが予想以上に増えてしまって、土地の生態系や自然環境をも変えてしまった。理由その2.どこぞの首相のように自然に対しても「The situation is under control」(状況はコントロール下にある)と自らを神のごとく勘違いしているから。中国で雀が増え、穀物を食べられて困っていた。そこで雀さえいなくなれば豊かな収穫がもたらされると考えて、雀撲滅作戦を展開。ところが、雀がいなくなっていなごが増え、さしずめ旧約聖書のエジプト人に襲い掛かるイナゴの災いのような惨状になってしまった。理由その3.他人は失敗したが、自分だけは失敗しないと思い込むから。わかりやすいのはヒトラー。ナポレオンがロシアを攻めて攻めて攻め込みすぎて、冬将軍到来の最中兵站を長くし切った所に反撃されて敗退したのを知っていながら、自身も当初の予定とは異なり戦線を拡大しすぎて敗北。ロシアを攻めて攻めて攻め倒した国はいまだかつてない。 まあ失敗も悪い事ばかりではない。カップルがエレクトリカルパレードや花火でうっとり見上げるシンデレラ城は、失政を繰り返したバイエルン王ルートヴィヒのノイシュヴァンシュタイン城がモデルなのだ。狂王と呼ばれた男の創造物がディズニーと結びついているのは何とも皮肉。 直近の自分がしでかした失敗をくよくよ悩んでいた読者も「あ、全然セーフ。OK。」と気が楽になるはず。ところで、最後の写真があれになった意図って、現代社会最大の失敗があの人ってことなのかな?さて直すのは誰?とてつもない失敗の世界史 [ トム・フィリップス ]楽天ブックス
November 10, 2019
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みなさん、こんばんは。ラグビーワールドカップ、遂に南アフリカ優勝ですね。じゃあ日本はいい線いったってことじゃないですか!すごいすごい!ところで皆さん、あのヒトラーがどんな家に住んでいたかご存知でしょうか?ヒトラーの家: 独裁者の私生活はいかに演出されたかHitler At Homeデスピナ・ストラティガコス/著北村京子/訳作品社タイトルにもAT HOMEと書いてあるが、この言葉と全く似合わない人物が、写真に写っているあの人だ。死ぬ間際に結婚したとはいえ、彼と家庭とはイメージとして全く結びつかない。少年少女と撮影した写真は残っているが、あくまでイメージづくりで、本当の所彼は自分以外誰も好きではなかったはずだ。 さて、そんなヒトラーでも家は必要だ。一国の指導者として国内外の有力者を招く必要もある。収容所を作る一方で、彼は建築家のパウル・トローストに家のデザインを任せた。オリンピックさえ宣伝に利用したヒトラーが、家を除外するはずがない。パウル亡き後妻ゲルダがインテリアデザインを担当するが、彼女が拘った食器や家のデザインは、世界中から非難されているヒトラーを「派手な生活を好まない常識人」としてアピールするのに役立ち、雑誌で広く喧伝された。 寵愛した建築家としてはアルベルト・シュペーアが有名だが、その頃既に大家だったトローストの方が先にヒトラーに気に入られていた。シュペーアが終戦後転向したのに対して、ゲルダは終生ヒトラーびいきを通した。どうしてこうも、既婚にせよ未婚にせよ才能ある女性達がヒトラーに惹きつけられ、世間で騒がれていた彼の行状をも嘘だと信じてしまうのか。 彼の住まいの中で最も有名なのはオーバーザルツベルクの山荘、ベルクホーフだ。窓を広くとって山が見えるように設計されている。チャップリンが映画で皮肉った巨大な地球儀はここにあった。撤退するSS軍が火をかけ、更に進駐軍が掠奪を行ったのちバイエルン州に返還された。歴史資産として残す選択肢もあったが、聖地化される恐れがあったらしく、結局ヒトラーの命日に爆破解体されてしまった。これが正しかったのかどうか、という問いが本書で投げかけられている。収容所は残し、ベルクホーフを残さない理由は何か。誰が残す残さないを決めるべきなのかはっきりとした“モノ”があった方が人々の記憶には残る。しかし残すことによって全ての人が同じ反応をするわけではない。そこが厄介だ。同じ敗戦国である日本はどんな選択をしているのか。ヒトラーの家 独裁者の私生活はいかに演出されたか / 原タイトル:HITLER AT HOME[本/雑誌] / デスピナ・ストラティガコス/著 北村京子/訳CD&DVD NEOWING
November 3, 2019
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みなさん、こんばんは。昨日は朝起きたら首里城が燃えていてびっくりしました。映画『戦場のピアニスト』を見たことがありますか?あの映画に出て来るドイツ人将校は実在の人物だったのです。「戦場のピアニスト」を救ったドイツ国防軍将校:ヴィルム・ホーゼンフェルトの生涯Ich sehe immer den Menschen vor mir:Das Leben des deuschen Offiziersヘルマン・フィンケ白水社映画『戦場のピアニスト』より。悪夢のような1か月を想像上のピアノに向かうことで乗り切ったウワディク・シュピルマンは、ある日とうとう独りのドイツ人将校ホーゼンフェルト大尉に見つかってしまう。ウワディクが自分はピアニストだと言うと、将校はピアノのある部屋へ彼を連れて行き何か弾くよう命じる。2年ぶりの演奏を静かに弾き始めるピアニスト、暗闇の中にショパンが響き渡る―。 ピアニストも将校も実在の人物だ。ピアニストは一躍注目を浴びたが、シンドラーや杉原千畝らに比べてホーゼンフェルトは知られていない。彼は、いきなりあの現場に遭遇して、咄嗟に行動できたのではない。素地があったのだ。 両親とも教師だったホーゼンフェルトは、ワンゲル好きの大学生からごく自然に教師の道を選んだ。しかし厳格な教師だった父親とは別の道を選ぶ。「宿題に取り組む子どもたちに対して、両親は苛立ったり、叱ったり責めるべきではない。『バカだな』とか『こんなことではお先真っ暗だ』などと言ってはいけない。そのような叱責はなんの役にも立たない。むしろ、子どもは勇気をそがれ、多くを失ってしまう。叱るより褒めるべきである。」「教師は支配者、君主、暴君だ。その家来である生徒は授業の構成には関与しない。子どもたちは臣下であり、彼らには卑屈さが染みついている。自ら考えることなく命令に従う。不誠実、媚び、偽り、ごまかし、判断力の欠如。彼らには自分の意見も個性もない。」「私は若者たちの魂を揺り起こし、彼らの思考に新しい方向性を与えたい。彼らは一日中、目の前の仕事だけに没頭している。ある者はホウキを作り、ある者は森で木を切る。職人もいる。どれも力そのものを必要とする仕事だが、知力は使われないままだ。」ところが、理想に向かって邁進する教師は、祖国が始めた戦争によって兵士になる。「ヒトラー氏は、何のために子どもたちを必要としているのかしら?大砲の餌食になるがオチでしょう。もしあなたが、もうひとり男の子か女の子が欲しいと言うなら賛成するわ。夫が望むなら、という女たちはたくさんいるでしょう。だけど、子どもは決してこの『輝かしいドイツ』のために生まれるべきではない。」当初からヒトラーに懐疑的だった妻アンネマリーの影響もあり、彼は次第にヒトラーやナチスに批判的な目を向けるようになる。彼の克明な心情の変化が後世に伝わるのは、彼の日記や書簡が残されているからだが、戦況が悪化すれば検閲も厳しくなったはずで、よくも粛清されなかったものだと安堵する。 もともとユダヤ人に対しても、彼等に対する行為についても強い憤りを感じていたホーゼンフェルトは、シュピルマン以外にも多くのユダヤ人を救っている。戦争の行く末を見通していたからといって、後に自分がいい想いをしたかったのではない。人間として当然そうするべきだと思ったから、そうしたのだ。多くの人たちが正義を知りながら流されていったのも事実だ。しかしホーゼンフェルトのように、抗するには大きすぎる権力の中に在りながらも、自分に出来ることを選び取ることができた人がいたことは、ドイツにとって誇りである。「戦場のピアニスト」を救ったドイツ国防軍将校 ヴィルム・ホーゼンフェルトの生涯 [ ヘルマン・フィンケ ]楽天で購入
November 1, 2019
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みなさん、こんばんは。香港ではデモ隊の学生に発砲して高校二年生が重体だそうですね。もう一か月にもなるのでは?さて今日は呪われたダイヤと呼ばれる宝石にまつわる話をします。コ・イ・ヌール 美しきダイヤモンドの血塗られた歴史Koh‐i‐noor:The History of the World Most Infamous Diamondウィリアム・ダルリンプル東京創元社1849年、いち民間企業に過ぎなかった東インド会社が、シク教徒の独立王国シク王国の若き君主ドゥリープ・シングから、コ・イ・ヌール(光の山)と呼ばれる巨大なダイヤモンドを受け取る。君主のサインした文書には「ラホールの王からイギリスの女王に譲渡」と書かれていたが、譲渡の代償に君主が受け取るものは何もなかった。その日を境にシク王国は消滅し、大英帝国の支配下に、若き君主はヴィクトリア女王の庇護下に置かれ、コ・イ・ヌールは英国に渡る。現在は英国王室の王冠で光り輝く、コ・イ・ヌール(光の山)と呼ばれる巨大なダイヤモンド。エリザベス女王が身につけることを拒んだほどの、凄絶な来歴を有している。こうなると、すわ呪いだ何だと騒ぎそうだが、それはダイヤモンドに対してフェアではない。確かに、ムガル王国の皇帝やシク王国の君主など、さまざまな者の手を経て、英国王室が所有するに至ったダイヤモンドだが、歴史と共に見ていると、必ずしもダイヤモンドが呪いやら宿命やら厄介なものを運んでいるわけではない。ダイヤモンドは必ず権力者が持っており、権力闘争が壮絶かつ凄惨であったたけだ。そして内ゲバをやっているうちに地元勢力は次第に弱体化し、蓋を開けてみれば、英国のいち企業がダイヤモンドを手にしていたというわけだ。 前半はダイヤモンドがイギリスに来るまでの経緯、後半は来てからのドゥリープ・シングの生涯を綴る。敵地でヴィクトリア女王に庇護されて育った彼は、途中までは素直な紅顔の美少年として育つが、実母がイギリスへの恨みを吹き込んだ途端に豹変する。当然の権利としてコ・イ・ヌール返還を要求し、受け入れられないと知ると散財して支払いを英国王室に持ってくる。親の敵討ちをした源義経になれればよかったのだが、母国に帰って一旗揚げようとの試みも阻止され、彼はイギリスで亡くなる。これほどの恨みつらみを負っているのだから、恐ろしくてロンドン塔でひっそりと置かれているのもむべなるかな。コ・イ・ヌール 美しきダイヤモンドの血塗られた歴史 [ ウィリアム・ダルリンプル ]楽天ブックス
October 7, 2019
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みなさん、こんばんは。選挙が終わりましたね。ナチスドイツがユダヤ人を収容所まで運ぶ列車と駅から降りるユダヤ人の写真を見たことがありますよね?その列車を走らせていた国鉄トップの生涯を綴った評伝を紹介します。鉄道人とナチス: ドイツ国鉄総裁ユリウス・ドルプミュラーの二十世紀鴋澤歩国書刊行会ドイツ読みは格好良い。アウトバーン、シュトラーセン・バーン、要はバーンという響きが格好良い。そしてドイツ国鉄―ライヒスバーン―も格好良い。 ドイツ国鉄総裁の座についたのは、発明家の父譲りの技術力を若い頃から認められたユリウス・ドルプミュラーである。彼は古い社会的偏見にさらされた技術官吏の出身でありながら、異国中国で活躍し、異例の栄達をとげた。たたき上げのいち技術者から始まった彼のサクセスストーリーと、悲願の統一を果たながらも連邦意識が根強く残っていたドイツの鉄道がやがて国鉄という形に収斂される過程が描かれる前半は高揚感がある。しかし後半、高揚感はしぼむ。ライヒスバーンは、第二次大戦時、国のトップに就いたナチス政権の指揮下に入る。ナチスと列車と言えば、悪名高い死の列車―アウシュヴィッツをはじめとする強制収容所へ、ユダヤ人達を移送した列車を走らせたのはドイツ国鉄だ。国鉄のトップだった彼は、ついに鉄道行政の責任者として戦争とユダヤ人虐殺に加担したのだ。 もちろん彼は敗戦後戦争責任を追及されるが、彼は列車の為した役割についてよく知らないとコメントした。実務を担当したのは確かに直属の部下であり、折り合いが悪かったため総てを報告していたとは考えにくい。しかしだからといって、知らなかった彼に何の責任もないと言ってしまって良いものか。国家として為した犯罪において、知らなかった国民は責任を負わなくて良いのか。この問いは、我々日本人にも突き付けられる。我々が二度と加害者にならないために。「ホロコーストは、加害者、被害者、そしてその間に立つ傍観者で成りたっていた。傍観者のなかには、加害者に取り込まれ、単なる傍観者でありつづけることすらできなかった者も多い。そうなりうる私たちが、これを銘記するために、ドルブミュラーの名は残されねばならない。」鉄道人とナチス ドイツ国鉄総裁ユリウス・ドルプミュラーの二十世紀 [ ?澤歩 ]楽天ブックス
July 23, 2019
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みなさん、こんばんは。エリザベス一世の祖父がどんな人だったか知っていますか?あの悪名高いリチャード三世を倒して王になった人なのになぜか影が薄いのですよ…。冬の王 ヘンリー七世と黎明のテューダー王朝Winter King:The Dawn of Tudor Englandトマス・ペン彩流社 ヘンリアドと呼ばれるシェイクスピア史劇の掉尾を飾るのは、『リチャード三世』だ。やっと手に入れた王国を馬と交換しようと叫びながら死んでいく彼を倒したのは、チューダー朝を開いたリッチモンド伯ヘンリー、のちのヘンリー7世だ。エリザベス一世の祖父である。シェイクスピアが女王に配慮してリチャード三世を王位簒奪者・稀代の悪漢に描いたならば、彼を倒した男を史劇のヒーローに選ばなかったのはなぜか。イギリス版青髭『ヘンリー八世』は史劇になっているのに。 ヘンリー7世の出自は、実はリチャード3世よりも怪しいものだった。本当はリチャード3世を倒した彼こそ王位簒奪者として糾弾されるべきである。そこで彼は、エドワード4世の娘エリザベス・オブ・ヨークを妻に迎えて怪しさを払拭し、ランカスターとヨーク両家統一を印象づけた。長男に『アーサー王伝説』のヒーローの名をつけ、強国スペインの王女キャサリンとの結婚もとりつけた。ここまでは順風満帆だったが、長男も王妃も病気で亡くしてしまう。ざっと書いてみただけでもドラマティックで、シェイクスピアによってアレンジを加えれば、国王の奮戦記になりそうだ。 しかし為政者が手を汚さずに生きられるはずがない。ヘンリー7世の治世は、現代の東洋の彼の国も真っ青の、忖度部下が金の取れる国民にいちゃもんをつけ、搾取しまくるアウトレイジ国家だった。表ざたにできない事を隠して上演すると、悪政の記憶も生々しい観客が、あまりにも嘘っぽいと言い出して受けないと踏んだのか。 人々は汚職と腐敗にまみれた治世を恨み、新たな王の出現を切望する。しかし意気揚々と登場した新たな王も、後継者問題に悩み新たな宗教を打ち立てたことで、周辺国との関係を悪化させる。「時代が変われば世の中は良くなる」という国民の期待は常に裏切られる。にもかかわらず、人々はまた次の治世に望みを繋ぐ。東洋の彼の国も中世イギリスも、人々が思う事は変わらないようだ。冬の王 ヘンリー七世と黎明のテューダー王朝 [ トマス・ペン ]楽天ブックス
June 29, 2019
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みなさん、こんばんは。5月なのに随分と暑いですね。特に冷房のない北海道はたまらないでしょう。さて、今日はどんな時も図書館を守ろうとした人達の実話をもとにした作品を紹介します。ナチスから図書館を守った人たち:囚われの司書、詩人、学者の闘いThe Book Smugglers Partisans,Poets,and the Race to Save Jewish Treasures from the Nazisデイヴィッド・フィッシュマン原書房裏表紙に使われているのはナチス兵の革靴の裏だ。書かれているのは呪文ではなく、ユダヤのトーラーと呼ばれる巻物が使われているためだ。ナチスドイツは、一つの民族を抹殺するために、命だけでなく、文化まで根こそぎ奪おうとした。メディアに対する取り締まりを正当化する法律“メディア良化法”が施行されてから30年がたった日本を舞台に、読書の自由を守るための自衛組織“図書隊”の活躍を描いた有川浩氏の『図書館戦争』という小説がある。 ポーランド領ヴィリニュスでは、図書隊ならぬ紙部隊が実在した。中心人物は陽気な詩人のシュメルケ・カチェルギンスキと物静かな詩人アブロム・スツケヴェルという、これまたドラマのような対照的な性格の二人だ。仲間の間には恋が芽生えるが、あいにくこちらは『図書館戦争』のようなハッピーエンドはない。仲間達の中には収容所に送られそのまま戻ってこない者もいた。それでも、読書の自由を楽しむためでなく、ユダヤ文化を守るために、彼等は自らの命を懸けた。 第二次大戦は終わっても内戦は世界のどこかで起こっている。本など二の次、自分や家族の命を救うために身一つで国を出ていく人もいる。それが当然で、皆が本を優先するわけではない。しかしたとえ国を失っても、自らを育んだ文化の証拠が残っていれば、後追いでも学べるし、民族の歴史を繋ぐことはできる。 幸いにして日本語書籍の廃棄を命じられることもなかった日本人は、書籍・文学を残すことが文化の継承に繋がるという意識に乏しい。紙の本からデジタル書籍に移り、ますます人は簡単に書籍を所有し廃棄できるようになった。しかし本の軽さは文化の軽さではない。 もしこの先、我々がリトアニアと同じ立場に立った時―ない方がいいが―何人が書籍を守ろうと立ち上がるだろうか。 ナチスから図書館を守った人たち 囚われの司書、詩人、学者の闘い [ デイヴィッド・E・フィッシュマン ]楽天ブックス
May 31, 2019
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みなさん、こんばんは。阿蘇山の噴火が恐ろしいですね。さて、今日は実在の事件を扱った書籍を紹介します。エドガルド・モルターラ誘拐事件 少年の数奇な運命とイタリア統一The kidnapping of Edgardo Mortaraデヴィッド・I・カーツァー早川書房キリスト教徒にとって、原罪を許す行為である洗礼を受けずに、天国へ召されることは最大の不幸だ。だからカソリックの女中は、今にも死にそうに見えたユダヤ人の男児に洗礼を施した。だが、ただそれだけの事だと思っていた行為は、男児を両親から引き離し、教皇や諸国を巻き込んだ論争に発展する。 この邦題にも、異論を唱える向きはいよう。突然息子を連れ去られた両親からすれば、誘拐という立派な犯罪行為だ。しかし連れ去った側、命じた側からすれば「ユダヤ人家庭にキリスト教信者を置いておく=異教徒の中にキリスト教徒を置いておく=のは好ましくない」という原則に基づいたまでだ。どちらも正しいと思っており、それぞれに味方がついたことから、事態は個人対個人の問題ではなくなっていく。 残念だったのは、誘拐された時、エドガルドがまだ事態を理解できる年齢ではなく、子供だったことだ。そのため、長い間キリスト教信者と暮らすうちに、近くに接する彼等への好意が、必死の形相で息子を連れ去ろうとする両親への情に勝ってしまう。彼が両方の宗教の教義を理解し、自分で考えて選択できる年齢に達していれば、このような軋轢は起きなかった。 教皇にとって誤算だったことは、今回の事件で諸国に存在を危険視されてしまったことだ。横暴行為に怒った市民によってイタリア統一運動が盛り上がり、遂に王国となってしまう。 宗教は、人を幸せにするためのものだ。そうでないなら、宗教は要らない。宗教のために実の家族が一生会えないなんてことが、この先も決してあってはならない。 スピルバーグが映画化し「ブリッジ・オブ・スパイ」でアカデミー賞助演男優賞を受賞した英俳優のマーク・ライランスが、ピウス9世役。エドガルド・モルターラ誘拐事件 少年の数奇な運命とイタリア統一 [ デヴィッド・I・カーツァー ]楽天ブックス
April 18, 2019
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みなさん、こんばんは。職場の同僚の子供の学級主任が、かつて私達が知っていたロックグループの初代ドラマーだったと聞いて、時の流れを感じております(しみじみ)。ところで、今日はとんでもない事を計画した実在の作家の評伝を紹介します。理想の花嫁と結婚する方法: 児童文学作家トマス・デイの奇妙な実験How to Create the Perfect Wife The True Story of One Gentleman,Two Orphans and an Experiment to Create the Ideal Womanウェンディ・ムーア原書房 源氏物語の光源氏は、父親に育てられるはずだった若紫という少女を略取し、自邸の二条院において、周囲には彼女の素性を隠しながら理想の女性に育てる。そして最初の妻・葵上が亡くなった後に、源氏と初床となり、以後公に正妻同様に扱われる。しかし若紫―紫の上はこの後源氏の結婚と浮気に悩まされ、出家したい心境を訴えたが、最後まで許されぬまま、源氏に先立って病に倒れる。光源氏は―少なくとも一時は、理想の伴侶を得て幸せだったろう。しかし、紫の上は幸せだっただろうか? 大陸を越えたイギリスでは『ピグマリオン』を元にしたオードリー・ヘプバーン主演の映画『マイ・フェア・レディ』がある。ロンドンの下町の花売り娘イライザが音声学の天才である言語学者ヒギンズと、ひょんなことから出会い、洗練された喋り方を教授してくれと頼む。実験精神に富んだヒギンズは彼女を家に住まわせ、彼女のコックニー訛りをレディらしい英語に直すが、ヒギンズが大人としての敬意を払わないことに怒り、出ていってしまう。映画では一旦出て行ったイライザは戻って来てハッピーエンドだが、戯曲は去られたままだ。 さて、ここまでは皆フィクション。まさかこれを実際にやろうとする人はいないだろうと思ったら、いた。イギリスの児童文学作家トマス・デイだ。彼の望む花嫁の条件は以下の通り。聡明で博識で機知に富む政治や哲学や文学について存分に語り合えるギリシアやローマの女神のように若くて美しく都会の悪習にも現代社会の思想にも染まっていない純粋無垢確実に処女『エミール』の理想の伴侶ソフィーのように肉体的に健康寒くてわびしい禁欲生活に耐えられるくらい丈夫 まあこれだけ条件を並べるからには、さぞやご立派な御仁でしょうよ、と思いきや顔は疱瘡の跡がついていた…とこれは病気だからよしとして、裕福な生まれで慈善事業に熱心虚飾を嫌う奴隷解放論者 おや、なかなかいいじゃないか。 しかーし!髪はぼさぼさ、服装は構わない。何より頭でっかち!本に出てきたような女性が実際にいるはずないじゃないか!今でいうオタクか。妄想だけで終わればいいものを、下手に親が財産を残し、かえって計画を奨励する友人もいたために、彼は計画を実行できてしまう。孤児院から少女を引き取り、名前まで変えて、ルソーの教育論に則って理想の花嫁を作り出そうとする。ここで問題なのは「作り出す」という言葉だ。一から作るというならば、最初からあった「彼女」はどうなる? 教育という言葉をはき違えてしまっており、何より他人を自分の思い通りにできる(してもよい)と思い込んでいる考えがおかしい。彼の実験は勿論失敗するが、そのために費やした彼女の人生はどうなるのか。当時ならば少女はメイドとして雇われているものだと周囲は考えるが、デイは人々に会わせる時に娘であるかのような振る舞いをさせる。失敗したからと言って放り出した時、少女たちは自分の経歴を文字通り語ったら、かえって邪推をされてしまう。 そんな先の先まで考えられないようならば、かつ、子供であろうと、人の気持ちを理解しようとしないならば、教育なんてしないほうがいい。常に現実の先を行く人間の想像力を、作家であるデイがなめていたのではないか。『中古』理想の花嫁と結婚する方法: 児童文学作家トマス・デイの奇妙な実験KSC
April 10, 2019
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みなさん、こんばんは。今年の桜はよくもってます。今日もイーヴリン・ウォー関連の書籍を紹介します。昨日は小説でしたが今度は評伝になります。イーヴリン・ウォー伝 人生再訪Evelyn Waugh:A Life Revisited フィリップ・イード白水社 「アラン・チューリングが同性愛を“矯正”するよう指示された時代ではなく、今の時代だから公表できたんだろうか」と思える資料が多い。学生時代ウォーには当たり前のように複数の同性の恋人がおり、プラトニックではなかった。彼の兄アレックにも同様の経験があり、その経験をもとにした著作もある。イーヴリンよりも兄を偏愛した父親の怒りはすさまじかった。しかし二人とも、ある時期を過ぎたら憑き物が落ちたように異性と恋愛し、結婚していった。性的嗜好ではなく、ある年代のたしなみのようだ。 作品執筆風景も登場するが、ウォー作品を読んでいると思い当たるキャラクターが友人・知人として登場する。知っている人にはすぐにモデルがわかったらしいから、やはりイーヴリンは意地悪だ。すぐモデルが思い当たるような書き方ができるなら、その逆で、絶対にモデルが思い当たらないようなキャラクターを描き出すことだってできたはずだ。 中でも思い入れの強いのは、意地悪なイーヴリンにしてはやけに登場人物に同情的な『回想のブライズヘッド』のようだ。何と戦争中に執筆していたというから驚く。 イーヴリン・ウォーの没後五十年を記念して刊行された評伝。本人は自伝を書くつもりだったようだが心臓発作で亡くなったため、その間もなかった。 イーヴリン・ウォー伝 人生再訪 [ フィリップ・イード ]楽天ブックス
April 8, 2019
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みなさん、こんばんは。昨日東京で桜が満開だったようですね。お花見はされましたか?昨日紹介した本の下巻について紹介します。ガンディーとチャーチル(下):1929-1965Gandhi &Churchill The Epi Rivalry That Destroyed an Empire and Forged Our Ageアーサー・ハーマン白水社 「すなわち、決して屈服するな、決して負けるな、決して、決して、決して…名誉と良識を確信している場合は別として、決して降伏するな…敵が一見圧倒的であろうと屈するな。Never give in― never, never, never, never, in nothing great or small, large or petty, never give in except to convictions of honour and good sense. Never yield to force; never yield to the apparently overwhelming might of the enemy. 」 映画にも登場したであろうチャーチルの名セリフだ。フランスが降伏し単独でヒトラー率いるドイツと対峙することになった時、彼は巧みな演説で国民を鼓舞した。 引退同然の暮らしから戦争内閣の首相に返り咲いたチャーチル。彼は間違いなく英雄の一人だ。そして彼から、一度も武器を取ることなくインド独立を勝ち取った立役者ガンディーも。勝利と独立、彼等は望むものを手に入れたはずだ。しかしその代わりに、かけがえのないものを失った。チャーチルは輝かしい大英帝国を、ガンディーはイギリス統治下の元で統一国家であった祖国を。 非暴力主義のガンディーは、しばしば断食を行った。しかし 「ガンディーの断食が有力な武器となったのは、その道徳的な偉大さのためではなく、彼の死がインド全域での反乱を誘発するのではないかという恐怖からである。」とあるように、皮肉にも、非暴力行為が暴力の起爆装置、或いは脅迫と見なされた。 チャーチルが終始「英国が去ればインドは分裂する」と言い続けてきた通り、インドは宗教の違いからパキスタンとインドに分かれてしまった。こちらも皮肉にも、共通の敵を頂いていた方が、むしろ国家として団結していたのである。 ガンディーが道半ばで暗殺されたようなイメージを抱いていたが、独立前後、彼は、自ら名乗りを挙げたのではない代表としての立場に、既に疲弊していた。「誰もが私に耳を傾けなくなる。私は小男だ。でも声が大きかったときがあったのは事実だ。いまや国民会議派、ヒンドゥー教徒、ムスリムまでが耳を傾けない…私は荒野のなかで泣いている。」マハートマ=「偉大なる魂」と呼ばれた男にしては、何とも小さくかぼそい言葉だ。ガンディーとチャーチル。最初に理想を追い求めた時には、時代の先端を行きすぎて理解されなかった二人は、第二次大戦を終えた時、いつしか時代に取り残される存在になっていた。二人は何度かすれ違っていたが、国家を背負った立場となってからは、一度も会っていない。もし二人が実際に言葉を交わしていたら、インドは、イギリスは、今、どうなっていただろうか。ガンディーとチャーチル(下) 1929-1965 [ アーサー・ハーマン ]楽天ブックス
March 28, 2019
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みなさん、こんばんは。トランプ大統領がまたイスラエル寄りの発言をして物議をかもしていますね。国のトップには責任が伴います。今日と明日は20世紀イギリスを率いたチャーチルとインドのカリスマガンディーの本を紹介します。ガンディーとチャーチル(上):1857-1929Gandhi &Churchill The Epi Rivalry That Destroyed an Empire and Forged Our Ageアーサー・ハーマン白水社本作は、歴史で習ったシパーヒー(セポイ)の乱から始まる。インドを絶対的植民地として信頼していたイギリスに、東インド会社インド人傭兵シパーヒーが牙をむいたのだ。きっかけは新たに支給されることになっていた新式の銃の薬包の紙に塗られていた牛脂・豚脂である。シパーヒーの中にはヒンドゥー教徒もムスリムもおり、ヒンドゥー教徒にとっては聖なる動物の牛脂を口に触れることは許されず、イスラム教徒にとっては汚らわしい豚の脂が口に触れることは我慢できなかった。反乱は平定され、担ぎ出されたムガル帝国最後の皇帝は流刑、ティムール朝から数えて約500年続いた王朝は完全に消滅した。 そしてインドとイギリスに、運命の男性が生まれる。ウィンストン・チャーチルとモーハンダース・ガンディーだ。ザ・英国紳士でシルクハットもぴしっと決めるチャーチル。手織りのマントと腰布を身にまとうガンディー。チャーチルは亡き父の野望を叶えるために、ガンディーは「すべてのインド人―ヒンドゥー教徒とムスリム、ブラフミンと不可触民、ベンガル人とパンジャーブ人―によって、一つの国家、一つの民族を構成する」ために、お互いインドを大事な存在と思う二人はぶつかる。「英国の使命は“われわれの知識、法律、より高度な文明”を用いて、インドの二億三千万人の人々を”偉大にして、統一された人々のなかに”結びつけることにあるインドなくしては、大英帝国は歴史の中で心臓発作を起こして死滅することになる」というのがチャーチルの持論。一見インドを大切に思っているようだが、チャーチルにとってはインドは大英帝国の一部であり、帝国の繁栄が第一目的である。他方ガンディーはといえば「インドの救済は、インドが過去五十年の間に学んだことを捨てることにある。鉄道、電信、病院、弁護士、医者などといったものは捨てられねばならず、いわゆる上流階級は意識的に、信心深く、慎重で、質素な農業生活を生きるべきで、そうした生活を知ることで、真の幸福を知るようになる」と、かなり極端な意見を発表する。文明と名の付くものは全て英国から与えられた事実は否定できない。だからといって、一度手にしたものを人間が拒否するのは難しい。どんなに高度で優秀な薬があっても、病院や医者を頼らず原始的な薬草で治せと言っているようなものだ。 現時点では、どちらの考えもインドのためにはなっていない。また、非暴力主義だったガンディーが第一次大戦で徴募活動を行う。一見矛盾した行動に見え、「戦いにおいて息子たちを犠牲にするのは、苦痛ではなくして、勇気ある男にとっての喜びの源であるべきだ」という意見も当時の人々がすんなり受け入れたわけではなかった。ガンディーは、南北戦争で黒人が参加した時のような希望「インドは、こうした行為によって大英帝国におけるもっとも好ましい仲間になり、人種差別は過去のものとなろう」を抱いていたが、これは甘かった。上巻のラストでは、引退同然のチャーチルと、刑務所でやせ衰えていくガンディーという姿になっているが、二人がこのまま終わるわけではない。二人の戦いは、まだ始まったばかりだ。ガンディーとチャーチル(上) 1857-1929 [ アーサー・ハーマン ]楽天ブックス
March 27, 2019
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みなさん、こんばんは。いだてんのピエール瀧さんの代役が決まりましたね。頑張って欲しいものです。さて、今日は実話を元にしたノンフィクション作品を紹介します。帰還: 父と息子を分かつ国The return:Fathers,sons and the land in betweenヒシャーム マタール 人文書院 モノクロの写真に写っているのは、カラッポの椅子。そこに座るべき―かつて座っていた―人は、今はいない。どこにいるのかもわからない。「おそらくあの日に死んだ」と複数の人が言うものの、誰も死んだ現場を見ていない。せめて手を取り顔を見ることができたなら、気持ちに区切りをつけることができるのに。息子の心は、父が消えた日から、ずうっと宙ぶらりんのままだ。そして、そんな息子と父は、一人ではない。原題サブタイトルは「Fathers,sons and the land in between」と複数になっている。 1979年、リビア。反体制運動のリーダーだった著者の父はエジプトに亡命するが、11年後に拉致され、消息を絶った。2011年、カダフィ政権が崩壊し、息子であり作家のヒシャームは、ついに故郷の地に降り立つ。本当なら故国は、故郷は、懐かしく愛おしい存在であるはずなのに、ヒシャームにとっての国は、父を奪った憎い存在、不安と緊張の中で過ごした思い出しかない、辛い存在でもある。そして何より、父を奪った存在だ。本当は愛したいものを、素直に愛せないほど辛い事があろうか。 敗戦によって軍事政権を一掃され「与えられた民主主義や憲法」だと、最近の日本では批判も出ている。しかし、もし国の内部で争った末に一方が政権を取り粛清が行われていたら、今のような日本になっていただろうか。平和裏な民主化は、他の国からすれば、喉から手が出るほど欲しい贈り物である。 平易な文章で書かれており、先を知りたくなりさくさくと読み進んだが、同時にそれは「彼が父の死を決定的に知ることになるのだろうか」と迷いながら読了した。 ピューリッツァー賞(伝記部門)受賞作。帰還 父と息子を分かつ国 [ ヒシャーム マタール ]楽天ブックス
March 21, 2019
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みなさん、こんばんは。大冒険時代をご存知ですか。冒険家たちが未開の地を求めて大海原を自由自在に行き来したかっこいい時代だと思っていましたが、見方を変えると別の事実が浮かび上がってきます。ヴァスコ・ダ・ガマの「聖戦」: 宗教対立の潮目を変えた大航海Holy warナイジェル・クリフ白水社ヴァスコ・ダ・ガマやコロンブスが新大陸を見つけようとしたのは「黄金の国ジパングに行きたかったから」「当時貴重だった香辛料をゲットしたかったから」など諸説あるが、実は動機に宗教が絡んでいた。そういえば、ザビエルも鉄砲と聖書を持って、はるばるジパングにやってきたのだ。 キリスト教国では都市伝説ならぬ謎の人物に関する伝説が信じられていた。その名はプレスタ―・ジョン。偉大なキリスト教の王で、所在地はインド。キリスト生誕の時に捧げものをした東方の博士の一人の子孫である。七人の王が付き従い、それぞれの王には六十二人の公爵、それぞれの公爵には三百六十五人の侯爵が仕えている。彼の国には若さの泉、世界が映る鏡があり、角の生えた人間や、フェニックス、一つ目の巨人がいる。何だかキリスト教の王にしては、随分とアラビアンナイトの影響を受けた王だ。当時イスラム勢力が押せ押せだったヨーロッパは、この王と手を組めば、イスラームをヨーロッパから駆逐できるはずだと信じた。「プレスタ―・ジョンを見つけるまで帰ってくるな!」と王に言われ、結局帰国を断念した残念な人もいる(だって見つからないんだもん)。信じた国の一つがポルトガルだ。王子の頃から冒険に目がなかったエンリケは、佐藤賢一氏の著書にも書かれた『テンプル騎士団』が滅亡すると、彼等の莫大な財力をちゃっかり手にいれて航海の資金にあてた。また、1444年アフリカ大陸西海岸の沖合の島に夜更けに上陸し、夜明けに「ポルトガル、聖ヤコブ、聖ゲオルギウス!」と叫び、「おっ、言葉が通じない!こいつらはキリスト教徒じゃない!」と確かめたのちに、平和に暮らしていた島の住民に襲い掛かり、殺したり奴隷として連れてきたりした。彼等をかっさらい奴隷にした事を悔いるどころか獣同様の無宗教の環境から救ったと大いに満足したとのこと。ひどい。 この暴挙に対して愛と寛容を説くキリスト教の総本山=ヴァチカンはどう反応したか。真の信仰を見つけられなかったアフリカ人は、キリストの法の外にあり、彼らの肉体に関してはいかなるキリスト教国も自由に裁量してよい(p88) などと、エンリケにのたもうた。これはひどい。もともとキリスト教を知らない国に行き、、勝手に領地を分捕り人を好きにしていいなんて。慈愛と許しは、キリスト教信者にだけ向けられるのか‼(いや、そうなんだろう)。 まだ満足な地図もない大航海時代、フロンティアに漕ぎ出していった冒険家・探検家を「をを、これぞ男のロマン!」と崇めている人たちにこそ、ぜひ送りたい。人間、最後に残るのは欲である。ヴァスコ・ダ・ガマの「聖戦」(新装版) 宗教対立の潮目を変えた大航海 [ ナイジェル・クリフ ]楽天ブックス
March 16, 2019
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みなさん、こんばんは。 どんなものでも数値で表せれば比較はしやすいですよね。人間だって密かに数値化されてます。でもその数値が間違っていたら?そんな書籍を紹介します。人間の測りまちがい〜差別の科学史(上)(下)The Mismeasure of Manスティーブン・J・グールド河出文庫「自分に似た人間なんかいない。」と公言しつつも、「ルックスでは 自分は中の上」などと言う。「自分はこの世でただ一人」である事にプライドを持ちつつも、外部の基準でラベルづけされたい。そんな矛盾したところが、人間には少なからずあるようだ。だがそもそも、その外部の基準って、そんなに信用できるもの? さて、本書でさまざまな「外部基準」が飛び交うのは、知能についてだ。「ルックス」なんて曖昧なものは、「その判断基準って何?」なんてツッコめそうだが、知能は「知能テスト」がある。数値で計れるものならば、多少は信頼できるかも。ところがそれが大間違い。 ここではさまざまな学者達の測り間違いと、偏見が取り上げられ、その偏見ゆえに、どれだけいわれのない人種、性別、階級による差別が為されてきたかが明らかにされる。「油断のならない、ずるく、臆病なモンゴル人種(p115)」 なんて書かれていますよ。どうしますか、皆さん?最初からある結論を導きだすために実験をして、値をごまかすなんて、理論を重んじる学者がやっていい事なんだろうか?ところで、他人を批判するにめっぽう鋭い彼のペンも、自説の展開という面から見ると、やや緩く感じる。人間の測りまちがい(上) 差別の科学史 (河出文庫) [ スティーヴン・ジェー・グールド ]人間の測りまちがい(下) 差別の科学史 (河出文庫) [ スティーヴン・ジェー・グールド ]楽天ブックス
January 6, 2019
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みなさん、こんばんは。第九の季節になりましたね。作曲家ベートーヴェンはいろいろな伝説の持ち主です。でもそれが全て本当なのでしょうか?ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつくかげはら史帆 柏書房本書は装丁に工夫が凝らされている。見えている側の表紙では、ベートーヴェンと、ある人物の間にはうっすらと亀裂が入っており、裏側では眼鏡をかけた人物が炎上している。これは何を意味するのか。 本書は、以下、オペラのように章タイトルが冠されている。序曲 発覚第一幕 現実第一場 世界のどこにでもあるド田舎第二場 会議は踊る、されど捕まる第三場 虫けらはフロイデを歌えるか第四場 盗人疑惑をかけられて第五場 鳴りやまぬ喝采間奏曲 そして本当に盗人になったバックステージI 二百年前のSNS―会話帳から見える日常生活―第二幕 嘘第一場 騙るに堕ちる第二場 プロデューサーズ・バトル第三場 嘘vs嘘の抗争第四場 最後の刺客バックステージII メイキング・オブ・『ベートーヴェン捏造』―現実と噓のオセロ・ゲーム―終曲 未来バックステージI以降がベートーヴェン死後の話になる。 生きている間も、死んでからも、ベートーヴェンは受難の人である。その一端は『偉人は死ぬのも楽じゃない』に描かれた死の瞬間でも窺い知れる。また、小説『モーツァルトは子守唄を歌わない』のエピローグでは、頭蓋骨を盗もうとする輩が現れた件が紹介されている。 ベートーヴェンと同時代に生きていない我々は、まず、偉人物語で彼の生涯に触れる。その中には、いくつかのエピソードが紹介されている。『英雄』をナポレオンに捧げようとして、彼が皇帝になった事に激怒して献呈を取りやめた。ピアノソナタ『月光』は不滅の恋人に捧げられた。そして『運命』のジャジャジャジャーン!について、「運命はこのように戸を叩く」と言った、等々。いずれも、一度は聞いたことのあるエピソードだ。ところが、運命にまつわるエピソードが、実はねつ造されたものという疑いが浮上した。 アントン・シントラ―は、無給でベートーヴェンの秘書を務めた。ベートーヴェンが難聴になったことは、これまたよく知られているが、その際他人との会話に使われたのが会話帳だ。音楽家であるシントラ―はベートーヴェンの伝記の著者として有名だが、自分の書いた伝記に辻褄を合わせるために、400冊以上もあったとされる会話帳を廃棄し、あろうことか、自分のコメントまで追加した。有名人のヴェートーベンのことだから、伝記を書こうとする動きも他にあったが、証拠となる会話帳の存在は絶対で、シントラ―の伝記は注目されていた。 晩年、彼のいない所でベートーヴェンはシントラ―を疎んじていた。シントラ―も気づいていただろう。にもかかわらず、「ベートーヴェンの最も近しい人物であったこと」を自らの唯一のアイデンティティとせざるを得なかったシントラ―の一生は哀しい。死後も図らずして多くの人々を振り回したベートーヴェンの影響力の大きさよ。彼の言葉の真偽はともかく、ベートーヴェンの人生は、多くの人の人生の扉を叩きまくったことは間違いない。ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく [ かげはら史帆 ]楽天ブックス
December 20, 2018
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みなさん、こんばんは。今日もまたまた病気の話です。といいますか、偉人の死についてのお話です。病気で死ぬくらいならまだいいほう、という話が出てきますよ。偉人は死ぬのも楽じゃないHow they croakedThe Awful Ends of The Awfully Famousジョージア・ブラッグ河出書房新社生と死は時と場所を選べない。誰もが安らかな死を迎えたいと思っているが、有名人ほど周囲が生かそうとする。努力が実を結べばよいが、逆効果の場合もある。 たとえば、ツチハンミョウ。強い毒を持つカブトムシだ。何に使うのかといえば、つぶして乾かして粉にしたものを患部に塗るのだ。当然体は毒を入れられた時の、当然の反応をする。水ぶくれができる。するとそこから血を抜く。瀉血である。これが当代きっての効くと言われた治療だった。「悪い血を抜けば治る」と信じた故の行為だが、人工的に貧血状態を作るわけで、弱った心臓を更に弱らせる効果でしかない。ジョージ・ワシントンも、モーツァルトもツチハンミョウによって弱った命を絶たれてしまった。なんてことだ。 本書は19人の有名人の死を扱っているが、評伝にしては辛らつだ。例えばカエサルの章。カエサルは「善き独裁者」を実践する。金利を下げ、土地を分配し、植民地を築いて退役軍人を住まわせる。政敵にも恩赦を与えた。これはなかなかできることではない。許すより殺すほうがはるかに簡単だからである(今でもそう思っている人はいる)。新大陸発見に乗り出す冒険家コロンブスに関しては何が楽しくてそんなことをするんだろう。頭がいかれたに違いない。誰もがそう思った。(中略)たしかにそれなりには頭もいかれていた進化論を唱えたダーウィンは生物は長い年月をかけて進化し、一番強いものだけが生き残るとこの学者は考えた。あいにくダーウィン自身は弱いほうの部類に入る。あまり敬意を抱いて書いている文章ではない。くすり、と笑みがこぼれてしまいそうだ。 とりわけポカホンタスの章は、ディズニーアニメを見て夢を抱いている子供達には絶対に読ませたくない。だが、おそらくこちらが真実だろう。 二十世紀の初めまで、瀉血は続けられたらしい。少子高齢化社会で「高齢者が長生きすると云々」などと論議もかまびすしいが、わずか一世紀前を振り返ればこの始末。抗生物質、ありがたやありがたや。【バーゲン本】偉人は死ぬのも楽じゃない [ ジョージア・ブラッグ ]楽天ブックス
November 14, 2018
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みなさん、健康って大事ですね。健康診断受けましたか?昔は治らない病気がこんなにありました。聞いたことのない病もありますよ。世界史を変えた13の病History’s Worst Plagues and the Heroes Who Fought Themジェフリー・ライト原書房1518年、ストラスブールで若い女性が踊り出す。きっと楽しいことがあって踊っているのだろう。最初は周囲の人達もそう考えていた。ところが、彼女はいつまで経っても踊りを止めない。どころか、彼女は踊ることに全く喜びを感じていなかった。えええ‼それでどうして踊ってるの?映画『赤い靴』の実写版のようだ。彼女は通りで気絶し、目覚めるとすぐに踊り出し、そして何十人もの町の人々が彼女に続いた。足から血が出て骨が見えるほどだったというから明らかに異常だ。 これ、病気らしい。病気なら原因があるはずだが、現在に至るまでよくわかっていない。昔だから魔女だと言われても仕方がないが、町の人達は彼女を荷馬車に乗せて聖堂に連れていったそうだ。そういえば恐ろしい昔話として知っている『ハーメルンの笛吹き男』についていってしまう子供も、もしかしたらこの病気? 医療が発達して、世界史を変えてきた病の多くは根絶された。治療までの過程を描くとプロジェクトX医療版だが、本書はむしろ、治療が困難だった時代に人々がどう病と向き合ったかを描いている。ハンセン病の項では、ハンセン病が流行しているモロカイ島に出向いたダミアン神父の献身的な看護が描かれる。出発前に神父は司教から、感染しないための注意事項を散々聞いていたが、上陸直後その教えを全て破ってしまう。やがてダミアン神父は湯を足にこぼしたのに、少しも熱いと感じないことに気づく。発病したのだ。死後ダミアン神父は中傷されるが、病を憎んで病人を排除しなかった彼の生き方を著者は絶賛している。踊る女性に接した村人たちもダミアン神父も、病と病にかかった人とをきっちり分けている所がいい。憎むべきは病なのに、ともすると我々は病人をも忌避し、本書に記載されているロボトミーにおいては人格をも変えてしまおうとする。偏見は病ではないから厄介だ。だが、自分が自覚しさえすれば、いつでも、どこでも治せるのだ。世界史を変えた13の病 [ ジェニファー・ライト ]楽天ブックス
November 13, 2018
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みなさん、こんばんは。芸能界ではおめでたいニュースが続きますが、離婚のニュースも同じくらいありますね。歴史上有名なカップルの破局について書いた作品を紹介します。史上最悪の破局を迎えた13の恋の物語IT Ended Badly:Thirteen of the Worst Breakups in Historyジェニファー・ライト原書房恋している時はみんな幸せだ。周りが全てバラ色に見えてくるし、ちょっとへこむことがあっても恋する人のことを考えれば心はウキウキ。 ところが恋にも終わりは来る。穏やかに終わりたいが、相手がいることなのでそうもいかない。とはいえ、この本に出てきたような別れ方はしたくない。何せ最悪は殺される。 「キャロライン・ラムとバイロン卿」。英国ドラマ「女王ヴィクトリア」で若き女王に熱愛されていたメルバーン郷は、妻に浮気されていた。浮気相手がバイロン郷だ。自分がした事は全部自分に返ってくるとわかっているはずなのに、「私だけは特別」と思いたいのもまた恋愛特有の心理。キャロラインはバイロンにつきまとい、何とバイロンの「あるもの」を要求。どうするのだそれを得て。魔女っぽく秘薬でも作るのか。恋にやつれた彼女は「骸骨みたい」とまで言われてしまう。ひどいよバイロン。 相手にけなされるという点で共通しているのが「ジョン・ラスキンとエフィー・グレイ」のカップル。エフィー・グレイ ラスキン、ミレイと生きた情熱の日々でも紹介したが、ラスキンはエフィ―との新婚初夜でショッキングなものを見てしまったらしく(いやー、アレをショッキングと言われても、さ…)、妻を生殺し状態に。だがエフィ―にとってラッキーだったことに、次のお相手ミレイが現れる。裁判沙汰にもなってすったもんだした挙句、離婚は成立。しかしミレイがエフィ―の妹によろめいたりとその後も前途多難は続く。まあ、恋愛だからね。「オスカー・ワイルドとアルフレッド・ダグラス卿」は同性愛カップル。オスカー・ワイルドとキャンドルライト殺人事件などというフィクションが作られるほど有名だった二人の仲も、ダグラス郷がワイルドを一方的にディスりまくるという最悪の結果に。それでもダグラスに反撃できないワイルド、恋は盲目。 この本を読むのは「自分の別れはこれよりまし」と思いたいから?何だか切ないなぁ。13という数の集め方が何だか意味深。12なら一ダースなのに、13は確か魔女の1ダースだったはず。不吉な話だからぴったりだと思った?史上最悪の破局を迎えた13の恋の物語 [ ジェニファー・ライト ]楽天ブックス
November 12, 2018
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みなさん、こんばんは。本来アメリカ大陸に住んでいた先住民でありながら、インディアンは土地を取り上げられました。そして彼らが追いやられた先には石油があったため、彼等はにわか大尽になりました。そこから始まるきな臭い事件について書かれた本を紹介します。花殺し月の殺人――インディアン連続怪死事件とFBIの誕生デイヴィッド・グランKiller of the Flower MoonThe Osage Murders and the Birth of the FBI早川書房 映画『タルサ』のヒロインは、オクラホマに住む牧場主の娘チェロキーだ。その名の通り先住民の血を引く彼女は石油採掘の塔が倒れてきて父親を失い、最初は石油採掘にうんと言わなかった。「あなたのやり方が嫌いよ。貴方達石油業者は私達の土地にやって来て、小川を汚し、私達の牛を殺した、そして私の父もね。Because I don't like the way you operate. You oilmen come into our country, pollute the streams, kill our cattle, yes, and our men, too. 」「君はまるで子供みたい、いや、自動車に弓矢で向かっていった君の先祖みたいだ。土地の下には富が埋まっているというのに。You're being childish, like your Cherokee grandparents who shot arrows at the first locomotive. The wealth is under the ground, not on top of it. 」 油田が焼け落ちて、金の亡者になり果てた彼女が改心する。しかしあの時代、燃えたのは石油だけではなかった。 1920年代、禁酒法時代のアメリカ南部オクラホマ州。先住民オセージ族が「花殺しの月の頃」と呼ぶ5月のある夜に白人の夫を持つ先住民の女性が行方不明になり銃殺体で発見される。それは、オセージ族とその関係者20数人が、相次いで不審死を遂げる連続殺人事件の幕開けだった。 私立探偵や地元当局が解決に手をこまねくなか、のちのFBI長官J・エドガー・フーヴァーは、テキサス・レンジャー出身の特別捜査官トム・ホワイトに命じ、現地で捜査に当たらせる。 開拓のために先住民を追いやった地に、皮肉にも石油という遥かに大きな利権が埋まっていた。もともとの先住民達の暮らしも祖先の地も奪ったのだから、見返りにそれくらいいじゃないか。と、考えるほど当時のアメリカ人はお人よしではなかった。利権があるなら、そして法律に無知である相手なら、どこからでも、どこまででも、搾取しつくすのがアメリカだった。自由と平等は、あくまで彼等がアメリカ人と呼ぶ人種だけのもので、差別する側の先住民には与えないことが当たり前だった。 捜査官達は危険を顧みず潜入捜査を行い、真犯人を逮捕した。ところが彼等を指揮するフーヴァー長官の念頭にあったのは、正義感だけではなかった。本書の副題は「The Osage Murders and the Birth of the FBI」。この事件の解決によって名を売ったフーヴァーは、BI(Bureau of Investigation)でしかなかった部署をFederal Bureau of Investigation=連邦捜査局に押し上げた。歴代大統領の弱みを握り長くトップの座に君臨し続けた一方で、人種差別主義者でもあったフーヴァーは、この事件を忘れ去った。 だが、どうしても忘れられない人達がいた。最終章は彼等のためにある。自分が最も信じていた国と人に裏切られて、それでも生き続けなければならない人達の苦しみも悲しみも、「自由と平等の国アメリカ」の地下深くに澱んでいる。本書はやっとその深みにたどり着いた好著である。マーティン・スコセッシ&レオナルド・ディカプリオによる映画化決定。花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生 [ デイヴィッド・グラン ]楽天ブックス
November 9, 2018
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みなさん、こんばんは。毎日事件が新聞紙面やニュースをにぎわわせていますね。最初の頃の刑事がどんなだったか知りたくありませんか?こちらは小説のモデルになった事件を担当した最初の刑事についてのノンフィクションです。最初の刑事 ウィッチャー警部とロード・ヒル・ハウス殺人事件The suspicions of Mr.Whicher or the Murder at Road Hill Houseケイト・サマースケイル早川書房 『シャーロック・ホームズ』のレストレード警部、『名探偵ポアロ』のジャップ警部、『金田一耕助』の等々力警部…ミステリ小説では、警察は常に探偵の引き立て役だ。一般人でなく、捜査のプロが一目置く存在だと位置づけることで、探偵の優秀さを証明する。しかし、現実には我々は新聞やニュースで捜査関係者による犯人逮捕の記事を目にする。ならば現役刑事が、探偵に代わる能力の持ち主であるということだ。 1860年6月29日-30日。ヴィクトリア朝時代の英国で、3歳の男児サヴィル・ケントが惨殺された。行方不明になったのが夜で、子供なのだから行動範囲は狭い。素人判断でも「犯人は男児の身近にいた者」と見当がつけられる。しかし早々に証拠品となる“あるもの”が消え、悲惨な状態にあった遺体が遺族の感情を考慮して早々に埋葬され、捜査は難航。満を持してやってきたのは、スコットランド・ヤードのウィッチャー警部。 ヴィクトリア朝は、リアルタイムに現代我々が読むミステリ作家が生きていた。ウィッチャー警部を知っていたチャールズ・ディケンズは、以下のように描写している。「ひと目見ただけで部屋の中の家具の特徴を一瞬にしてつかみ、住人の正確な姿を描くことができる(中略)刑事たちの捜査は生きている駒を使ったチェスのようなものであり、どこにも記録はされていない」「品行には非の打ちどころがなく、並はずれて頭がいい。態度にのらくらしたところもこそこそしたところも、まるでない。鋭い観察眼と敏捷な理解力を感じさせる話しぶり。」「自分が何かを確信すると「わたしが生きているのと同じくらい確かだ」と言う。そして手がかりを見つけると「もうこれで十分!」と言うのだ」また、医師で作家のアンドルー・ウィンターも刑事達についてこう述べる。「のどもとまでボタンがきっちりかけられた巡査の上着をつかめないのと同じで…教則本の指示するとおりにだけ動き、考え、しゃべる機械」 決め台詞まであって、まるでホームズ。これほどの名刑事が登場するならば、難事件もたちどころに解決しそうだが、予定調和にならないのが現実の辛いところ。 前述のように証拠物件が存在せず、状況証拠と自白を含む証言に頼るしかない。お定まりのような地方捜査陣のスコットランドヤードからやってきた余所者刑事に対する反発もあって、捜査はなかなか進まない。当時この事件は世間の注目を集め、現代と同じようにマスコミが捜査状況を逐一報道するため、民衆とマスコミという、見えない敵がウィッチャー刑事を追い詰める。また、刑事という職業に対する世間の目も冷たかった。真相にたどり着いておきながら、全面解決できなかった刑事の無念はいかばかり。 義侠心や無念が、ミステリ作家達の共通認識としてあったかどうかはわからない。ただ、 6年後の1887年、アーサー・コナン・ドイルがサーロック店ホームズシリーズの第一作を書く。ワトソンのホームズ評は「推理や観察にかけては世に比類のない完全な機械」だった。最初の刑事 ウィッチャー警部とロード・ヒル・ハウス殺人事件 [ ケイト・サマースケイル ]楽天ブックス
November 8, 2018
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みなさん、こんばんは。さくらももこさんが乳がんで亡くなりましたね。彼女も活躍した女性の一人でした。女性について書かれた本を紹介します。問題だらけの女性たちThe Trouble With Womanジャッキー・フレミング河出書房新社 邦題タイトルを見ると、まるで女性に問題があるかのようなイメージだ。「おっしゃる通りなのでしょう。」あら、本文の言い方がうつっちゃった。 まず、冒頭より「女性が存在しませんでした」「黒人女性が存在しませんでした」という否定文がぐさぐさ並ぶ。子供を産むことは女性しかできないはずなのに、存在しないでどうやって、いわゆる天才と呼ばれる男たちはこの世に現れたのか。いや、その言い方もまずい。まるで女性が産む性でしかないようで、これでは彼の国の政治家と同じだ。「知能が発明や創造には向いていない。男性を讃えるのが仕事だ」「男性が普通に成し遂げられるのと同等の程度にまで女性が学問や研究に精通していることはめったにない」など、ショーペンハウアー、モーパッサン、ジャン・ジャック・ルソーなど錚々たる面々の「えっ、あの人がそんなことを?」という衝撃のコメントが並び、思わず笑ってしまうイラストが添えられている。「ピカソによると、女性の存在価値は苦しむことだそうです。」(ふざけんな)のページには抽象画となりながらも涙を流す女性が描かれ、その次のページには恐らくエド・ハリスが演じたジャクソン・ポロックらしき男性と、傍らで称賛する女性画家リー・クラズナー(拍手してるけど顔が笑ってない)が描かれる。 未だに政治家が見当違いの発言をしている彼の国しかり、男性の頭の中は、世紀を越えようがなかなか変わっていないようだ。救いは、そうした男性ばかりではなかったから、本に書かれた時代にはなかった女性の権利や活躍の場が増えており、土俵際のせめぎあい、セクハラ疑惑に対するとんちんかんな対応などに「バカバカしい。いつまで前の時代を引きずってるんだ。」と自由に意見が言える世の中になっていることだ。 言われたからと言って、さあリベンジ!と息巻くのは、早計というもの。偏見を跡形もなく無くす方法を、じっくり考えてみましょうか。何せ、脳がスポンジでできていますからね。スローペースなんです。ところで、スポンジってぎゅーっと絞っても必ず元の形に戻るし、洗えば何度でも綺麗になったっけ。問題だらけの女性たち [ ジャッキー・フレミング ]楽天ブックス
August 28, 2018
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みなさん、こんばんは。病気って怖いですね。かからないようにするにはどうしたらよいでしょう。この本にヒントが隠れているかもしれませんよ…。菌と人類 終わりなき攻防の歴史 ウィリーハンセン、ジャンフレネ中央公論新社 2001年秋の同時多発テロ事件で注目された、炭疽菌に代表されるバイオテロ。遺伝子組み換え製品の安全性や、クローンの是非が議論され、菌・ウィルスをテーマとする漫画『もやしもん』が大ヒット!今、私達にとって、細菌はずいぶん身近な存在になった。 本書では、そんな細菌が「見えない敵」として恐れられていた時代から、細菌学者達によって研究が行われる現代までの歴史を綴っている。要点を的確に抑えており、ちょっとくだけたエピソードも挿入されているので、入門篇としては読み易いだろう。予防法が優れていたから病気にかからなかったのに、逆に「病気の原因」呼ばわりされて迫害を受けたユダヤ人のエピソードは、「思い込みの愚かさ」に対する警鐘となろう。「コロンブスがヨーロッパに持ち込んだあの細菌」についての有名なエピソードも登場する。法王アレクサンドル六世、ブランデンブルグの司教など、当時の著名人ほどこの病気にかかるというのは何ともはや…。細菌と人類 終わりなき攻防の歴史
July 19, 2018
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みなさん、こんばんは。日本チームのワールドカップは終わってしまいましたね。今回のワールドカップで代表引退を口にする選手もいました。これほど直前にもめた大会もなかったと思います。さて、ナチスドイツ特集は最終回です。今回はノンフィクションです。アウシュヴィッツの歯科医The Dentest of Auschwitzベンジャミン・ジェイコブス 紀伊國屋書店 虫歯は早いうちに治した方がいい。大した事ないから、と放っておくと、次第に沁みるようになり、そのうちずきずき痛くなり、さぁこうなったら抜くしかない。あちゃー。 ヒトラーの出現も似ている。最初は遠くで「気になる」位だったのかもしれない。そのうち「何だか変な事を言い出した」と思っていたら、あっという間に国民を惹きつけ、周辺国を、そしてユダヤ人を害する存在となった。虫歯と同じように、早期に退けておけばこんなことにはならなかったが、誰も手を出そうとしなかった。 筆者は試験を受けたわけではないが、歯科医治療箱を持ち、そして働き盛りの男性であったおかげで収容所生活を生き延び、父を比較的楽な仕事につけたり、離れた所にいた兄と会うこともできた。あまつさえ恋もする。しかしこれは極めて稀有な例だ。殆どのユダヤ人は、気まぐれのように殺され、そして死体となってからも尊厳を奪われるような扱いをされた。筆者も例外ではなく、歯科医として絶対やってはならない事をやらされた。大戦終了後、彼は歯科医にならず起業したが、収容所時代の事を思い出させる仕事でなかったことは、むしろかえって良かったのではないか。 ドイツは暴れまわった虫歯によって、周辺諸国を巻き込み、その国土も国民も瀕死状態に陥った。虫歯を防ぐには、定期的に歯科でチェックを行い、適切な治療や受けることだ。虫歯菌は放置すると死に至る。二度と虫歯を暴れさせないように、我々は、一人一人が優秀な歯科医となるべきだ。アウシュヴィッツの歯科医 [ ベンジャミン・ジェイコブス ]楽天ブックス
July 4, 2018
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みなさん、こんばんは。どんな時でも人は本を読めるものでしょうか。それとも本なんてどうでもよくなってしまうのでしょうか。本書はそれに対する一つの答えだと思います。シリアの秘密図書館 瓦礫から取り出した本で図書館を作った人々Les Passeurs de livres de DarayaUne biblioteque secrete en Syrieデルフィーヌ・ミヌーイ東京創元社 「無人島に行くなら、一冊何を持っていく?」本好きの間では、よく話題になる。しかし本当に無人島に行ったなら、本の事を考えるのは後回しになる。食糧、寝る場所、脱出方法等々、他に考えるべきことは沢山あるからだ。この質問が出来ること自体、平和な国で生きていることの表れだ。 矛盾するようだが、一方で、たとえどんな非日常―今の私達から見て―においても、人は本を読む。読まずにはいられない。 最近困難な状況の中で図書館を維持するノンフィクションを多く読むのも、本を愛する人達の事を知りたいからだ。悪名高き収容所で密かに図書館を維持し続けた実話を元にしたノンフィクション『アウシュヴィッツの図書係』、第二次大戦時、戦場の兵士たちに本を送り続けた活動を綴った『戦地の図書館 (海を越えた一億四千万冊)』、時代はぐっと現代に近づいた『アルカイダから古文書を守った図書館員』、等々。本の好みは違っても、本を好きだという一点で、私達と彼等の想いは繋がる。 本書もまた、とびきりの本好きの人達が登場する、爆弾飛び交う街で図書館を守った人々の実話だ。残念ながら守り切ることはできなかった。舞台となる街ダラヤは、政府軍の手に落ちて民間人は撤退させられたからだ。彼等が必死に守り集めた書籍は安価で売られた。本は武力に対して無力なのか。 いや、違う。いちど本を読んだ人達は、新しい思想、力強い言葉、現実とは違う世界に触れて生きる力を取り戻し、明日への指標を見つける。本になって溢れ出た思いは、次々に人を動かしていく。図書館を奪われた人達は、新たな場所で再び図書館を運営する。何度燃やされても本の世界は揺るがない。時代を越えて、人種を越えて、かつて本や図書館を破壊した人達の人生より遥かに長く遠く広く、生き続けていく。 ルポルタージュという割には書き手の感情が勝った箇所もあったが、一度も取材対象と会えなかった分、彼等に思い入れが強かったと思われる。【楽天ブックスならいつでも送料無料】シリアの秘密図書館 瓦礫から取り出した本で図書館を作った人々 [ デルフィーヌ・ミヌーイ ]楽天ブックス
June 27, 2018
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みなさん、こんばんは。もう一冊ノンフィクションを紹介します。冷戦時代米ソ両国から愛された実在のピアニストの評伝です。さぞや幸福だったろう、と思うでしょうがやはり苦労はあったようです。ホワイトハウスのピアニスト ヴァン・クライバーンと冷戦Moscow Nights: The Van Cliburn Story-How One Man and His Piano Transformed the Cold Warナイジェル・クリフ松村哲哉白水社冒頭はNYパレードのシーンから始まる。「一体誰を祝うパレードなのか」という問いに答えて紹介されるのがタイトルの人物、ヴァン・クライバーンだ。 第二次大戦で同志として戦ってから、米ソが敵同士になり東西冷戦時代になるまではあっという間だった。独裁者スターリンの死によって、西側諸国に変わった所を見せたいと思いつつ、自国の揺るがぬ優位も示したい。そんなソ連首脳陣の意図が結実したのが第一回チャイコフスキー・コンクールだ。ところが、事もあろうにそのコンクールでアメリカから来た若者が一等賞を取ってしまった!ドラマにするにはまさにうってつけの題材だ。直近のオバマ大統領まで歴代大統領に招待されていることからも、彼の偉大さがわかる。 米ソは相変わらず宇宙開発競争や世界のどこかで代理戦争を繰り広げていたが、彼だけは両国から愛された。政治的野心とは無縁で、純粋に音楽を愛したところも愛された理由だろう。東西冷戦で見えない敵意が飛び交っていたはずなのに、国を意識せず素直に好意を寄せられる人物がいた事は、米ソ双方にとって幸せな事だったはずだ。但し奉仕精神に富んだ彼は、言われるままにコンサートやレコーディングに精を出し、70年代後半とうとう燃え尽きてしまう。ここで押しつぶされず80年代に再び復活したのは彼の実力故だ。 クライバーンの生涯のみならず、米ソの状況も併せて述べていたためかなりのボリュームになっている。老獪な政治家のイメージが強かったフルシチョフも、彼の前ではいい叔父さんになっていて意外だった。 ホワイトハウスのピアニスト ヴァン・クライバーンと冷戦/ナイジェル・クリフ/松村哲哉【2500円以上送料無料】オンライン書店boox
April 7, 2018
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