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■意味が変わった量的緩和解除 日銀の量的緩和政策の解除に関しては、2006年1月5日付でこのコーナーにアップした第二十二回のレポート「量的緩和をめぐる駆け引きと2006年の株式市場」で、株式市場の大きな下げ材料になる懸念があるという趣旨の説明を書いた。この時点では、当時のだいたいコンセンサスであった「4月くらいの解除」を前提として原稿を書いたが、1月の消費者物価上昇率が対前年比0.5%のプラスとなったことなどをうけて、日銀内部で予想以上のテンポで量的緩和解除論が勢いづき、3月8日、9日の政策決定会合で議論され、既報のように3月9日に量的緩和解除が発表された。 この政策変更の影響は、まだ市場で完全に消化されたとは言い難いが、上記のレポートに書いた説明と、解釈上重要な部分について変化があったので、補足説明しておきたい。他のメディアでのコメントや記事といささかの重複があるが、当初の想定とどこが違うのか、ということを中心に説明したい。 ■ポイントは「ゼロ金利政策継続期間の予想」 当初の予想との大きな変更は、量的緩和の解除と同時に発表された日銀の「新たな金融政策の枠組みの導入について」、「金融政策決定会合の内容(金融市場調節方針の変更について)」(いずれも3月9日付)において、物価指数の上昇率に関する具体的な目安が発表されたことだ。いささかわかりにくい表現だが、「新たな金融政策の枠組みの導入について」には、以下のように書かれている。「消費者物価指数の前年比で表現すると、0%~2%程度であれば、各委員の「中長期的な物価安定の理解」の範囲と大きくは異ならないとの見方で一致した。また、委員の中心値は、大勢として、おおむね1%の前後で分散していた。「中長期的な物価安定の理解」は、経済構造の変化等に応じて徐々に変化し得る性格のものであるため、今後原則としてほぼ1年ごとに点検していくこととする。」 委員の見解の分布を発表する形で書かれているが、要するに日銀は、0%~2%を「物価安定」と理解し、望ましい物価上昇率の中心値は1%である、と発表したのだ。「原則として、ほぼ1年ごとに点検していく」とのことだから、未来永劫これで行くということではないが、当面の金融政策がこの数字の影響を受けることは間違いない(と筆者は思う)。 問題は今後の消費者物価指数の動向だが、1月は海外の原油高の影響などもあり0.5%(対前年比)のプラスとなったが、今後、2%はおろか、1%をクリアするのも難しいのではなかろうか。目下原油価格がピークアウト気味だし、米国の金融引き締めがそろそろ効いてきてもおかしくない。他方で、今春の春闘では小幅ながら賃上げが実現しそうではあるが、これが消費に波及して物価を押し上げるほどのものであるかどうかは予断を許さない。 今夏、秋以降に、ゼロを下回るような事態になると、日銀も大変だろうなあ、などと、日銀のことまで心配する立場にはないが、このように、具体的な数字が出たことで、ゼロ金利の継続期間は、かえって長期化するのではないかとの予想が出来る。 これまでは、量的緩和政策による「ブタ積み」が、ゼロ金利政策解除までは時間がかかることを保証するいわば担保になっていたが、今後、量的緩和解除によって「ブタ積み」が吸収されることになっても、消費者物価上昇率の「目安」がゼロ金利の継続を保証する形となり、当初考えられていた「量的緩和解除後」のイメージ(数ヶ月後にはゼロ金利解除)よりも、ゼロ金利解除の時期に関する期待は、もっと後ズレしたのではないかと思われる。 今後、たとえば福井総裁の発言などでは、この「目安」が“硬直的に金融政策を縛るものではない”という「独立性を持った中央銀行としての原則論」がニュアンスとして強調されることになるかも知れないが、説明の一貫性を考えた場合に、2%、少なくとも1%といった消費者物価上昇率は、金利引き上げのために必要になるだろう。 従って、二十二回目のレポート「量的緩和をめぐる駆け引きと2006年の株式市場」で書いたように、政策変更のみによる長期金利の独歩高が、株式の理論価値の足を引っ張ることによる、大幅な株安をもたらすということにはならないように思う。「成長率の変化でなく、政策変化による、長期金利変化は、株価に対する影響が大きい」という基本的な仕組みに変化はないが、「目安」の発表があったことで、量的緩和解除の意味が当初想定していたものと違ってきたことを確認しておきたい。 ご承知のように、株式市場は、解除の当日である9日に、日経平均で409円の大幅上昇を見せ、その後も堅調に推移している。「不透明感の払拭」という相場独特の要素はあるとしても、量的緩和解除がむしろ株高の要因に変わった背景は以上の通りだ。 もっとも、この解釈はまだ完全に定着したものとはいえないので、福井総裁をはじめとする日銀関係者の言動や、債券市場の動き(特に長期国債利回り)の動向には注意しておきたい。■ミニ・バブル到来の可能性も 金融政策だけから今後の市場を占うことは出来ないが、以上のように数値の「目安」付きの量的緩和解除により、短期金利は(1)ゼロ金利が続くか、又は、(2)少々上昇したとしても(せいぜい0.25%だろう)明らかに物価上昇率以下の金利、すなわち、実質マイナス金利が続く、という予想ができる。つまり「ゼロ金利ないしは、実質マイナス金利」という環境が、当面かなりの確度で見込まれる。景気の失速さえなければ、この環境は、端的に言って、ミニ・バブルを可能にする環境だろう。 「バブル到来!」と煽るつもりはないが、そのような展開もあり得る、ということを頭の片隅に置いて、投資を検討して頂けるといいと思う。
2006年03月17日
■オリジン東秀争奪戦の構造 お弁当・総菜屋さんのオリジン東秀の株式を巡る、ドンキホーテとオリジン東秀経営陣、また、後からいわゆる「ホワイトナイト」として登場したイオンとの関係はなかなか興味深い構造になっていた。 かいつまんで経緯をまとめる。 物事の発端は、オリジン東秀の創業者の一族がドンキホーテに大量のオリジン東秀株式を売却したところから始まるが、ドンキホーテとオリジン東秀の業務提携がなかなか進まず、ドンキホーテはオリジン東秀の株式取得を目指してTOB(株式公開買い付け)を掛けた。このTOBはドンキホーテが33.4%以上の株式取得を目指すもので、価格は2800円、期限は2月9日であった。これに対して、オリジン東秀の経営陣は、ドンキホーテの傘下入りを選択せず、他の株主としてイオンと交渉し、イオンは、オリジン東秀の労働組合などの支持も得たうえで、発行株式の過半数を成立条件に、株価3100円、期限3月1日のTOBを実施した。 TOB価格には大きな差があって、ドンキホーテのTOBはごく僅かの応募しかなく、失敗に終わったが、ここから数日後に、本件はハイライトを迎える。ドンキホーテは自身のTOB失敗後に、市場でオリジン東秀の株式を買い集め、オリジン東秀の発行株式の46%台の大株主となったことを、2月15日の引け後に発表したのだ。(注:このプロセスが適法であったかどうかについては、特にオリジン東秀側から異議が出ており、法律的な判断がはっきりしている訳ではないが、本稿では、法律問題を議論しないし、どの当事者に味方する立場に立つわけでもない) 株価はぜひ時系列を見てみて欲しいが、2月15日の終値で3090円だったオリジン東秀の株価は、翌日急落して、安値は2590円、終値は前日比310円安の2780円となった。これは、発行株数の半数近くを持ったドンキホーテが、この後もオリジン東秀の経営権取得を目指して、イオンのTOBには応じないとすると、イオンのTOB(過半数取得が成立条件)が成立すると3100円で売れると思っていた投資家が、TOB不成立の可能性を心配して持ち株を売ってきたからだろうと考えられる。 ここで、オリジン東秀の一般株主はいささか困った事態になった。ドンキホーテがイオンのTOBに応じない場合、株価はかなり下がるかも知れないから、リスク回避のためには持ち株を売りたいし、しかし、そうすると、イオンのTOBが成立する場合に2千円台半ばで持ち株を売ったことは勿体ないし、ドンキホーテがさらにTOB価格を上げてくる可能性もあって、この場合にはさらに後悔することになるかもしれない・・・、という難しい判断に直面した。 当然、ドンキホーテの次の一手が注目されることとなった。 ■ドンキホーテの選択 ドンキホーテには、明らかに二つ選択肢があった。 選択肢その一は、引き続きオリジン東秀の株式を買い集めて、過半数を握り、オリジン東秀の経営権を握ることを目指す選択だ。 過半数取得までは目前に迫っていたから、実現性は十分あった。しかし、過半数を握った後に、オリジン東秀の経営陣・従業員組合等が、第三者割り当て増資によるドンキホーテの持ち株比率引き下げや(裁判所が認めるかどうか疑問だが)、有力な役員・従業員などの退職、事業や資産の売却(いずれも、あまり筋のいい抵抗ではないが、可能性はある)など、経営権を掌握するまでには何らかの「抵抗」を受ける可能性があった。さらに、仮に、経営権を掌握したとしても、心理的にはかなりの抵抗感を持っていると見られたオリジン東秀の社員のマネジメントなども含めて、ドンキホーテがオリジン東秀を上手く経営できるか、ということのリスクがあった。 もう一つの選択肢は、オリジン東秀の株式をすべて、イオンのTOBに応募して売却してしまうことだ。純粋に意思決定論の問題としては、取得価格よりも、意思決定時点に売却可能な株価を基準に考える必要があるのだが、平均取得価格は3100円よりも相当に安いし、売却代金は200億円以上になるので、多額のキャッシュが転がり込む。しかし、オリジン東秀をパートナーとする次世代コンビニの構築というこれまでの経営方針は挫折することになる。 どちらがいいだろうか? 筆者は個人的に、前者の選択肢はリスクが大きく比較の観点で損ではないかと思ったが、一方、経営者が意地を張って「退却」には至らないのではないかという可能性も否定できなかった。■「勝者の呪い」 結論が出たのは、2月24日であった。ドンキホーテの安田会長とイオンの岡田社長が会談し、ドンキホーテが所有するオリジン東秀の全株式(発行株式の約48%)をイオンのTOBに応募して、売却する、というものだった。オリジン東秀を傘下に入れた場合にどれだけの利益が得られたものか、計測のしようがないので、確実な事は言えないが、筆者から見ると、数十億円(ドンキホーテ高橋専務の発表では57億円)の売却利益と、200億円を超えるキャッシュを得るのだから、大きなリスクのある選択肢その一よりもドンキホーテにとっては良い選択だったのではないかと思える。 ところで、仮に、ドンキホーテが正攻法的にイオンよりもさらに高い価格でTOBを掛けたとするとどうなっただろうか。もちろん、イオンやオリジン東秀の出方にもよるが、最終的にオリジン東秀を買った買い手がかなり「高い買い物」をすることは間違いない。 実は、このようなオークション(せり)状態での勝者は、その後に儲かりにくいという現象が経済学の世界では指摘されている。たとえば、天然資源の採掘権のオークションなどで、勝者がその後儲けることがなかなか難しいといったケースがしばしば観察されているのだ。勝者は、誰よりも高い価格を払い、他人が買ってくれる価格よりも高い価格で買っている、という意味で、買った(同時に「勝った」)瞬間には、いくばくかの不利を抱えているから、ということがその理由だ。この現象は、「勝者の呪い」と名付けられている。 もちろん、買収の後に、買収した事業が上手く行くことはあるが、誰でも買える物を他人より高く買うケースや、まさにオークションのような状況になったケースでの買収のその後については、いささか厳しい見方をするくらいで丁度良いことが多いようだ。 この観点からは、ドンキホーテは「勝者の呪い」のエスカレートを避けたという意味で賢い判断だったように見える。もちろん、イオンは、もともと過半数以上全株を買ってもいいという条件でTOBを掛けたので、こちらも予定が狂った訳ではない。 ■企業買収のルールに関する問題 今回の件で一つ気になるのは、ドンキホーテがイオンのTOBの成否に関するキャスティング・ボートをほぼ握った時に、ドンキホーテ自身は自分が決める訳だから問題ないが、オリジン東秀の株式を持っている一般投資家はこの点について不確実性に直面する、という状況が生じたことだ。現実に、ドンキホーテがオリジン東秀株の46%超を取得したと発表してから、数日の間、2千数百円の株価でオリジン東秀の株式を売却した投資家がいた。この点は、企業買収を巡る今後のルール作りの議論に影響する可能性があると思う。 興味深いケースであったし、また、TOBの状況での投資に関わる教訓もあるケースなので、記憶しておきたい。
2006年03月03日
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