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◆リスク調整とリスク水準の決定者 「年率2%(標準偏差)のアクティブリスクを取って1.5%のアクティブリターンを稼いだ」ファンドAと、「年率6%のアクティブリスクを取って3%のアクティブリターンを稼いだ」ファンドBは、一体どちらが優秀だろうか。 よく使われるリスクを調整した評価尺度(公的年金などでもよく使う)は、アクティブリターンをアクティブリスクで割って一単位当たりのリスクで幾らのリターンを稼いだかの比を求めた「情報レシオ」(IR;Information Ratio)と称するものだ。先ほどの場合、ファンドAのIRは0.75、ファンドBは0.5だからファンドAの方が優秀だとされる。果たしてこれでいいのか。 リスクに対する態度にもよるだろうが、多少リスクは大きくてもファンドBの方がいい、という投資家が居てもおかしくない。特に、年金基金のように多くの運用会社を雇う投資家は委託先の分散でリスクを低減させることが出来るのでそう思っても不思議はない。 実は「IRが高い方が優秀」ということが無条件に言えるのは、IRを保ったままでリスク水準を投資家の自由に決められる場合だけだ。たとえば、ファンドAでこれが可能なら、6%のアクティブリスクを取って4.5%のアクティブリターンを稼ぐことが出来るから、投資家のリスクに対する態度に関係なくファンドAの方が優秀だと決定できる。しかし、これは、理論家が仮定したがるような、アクティブリターンに関して「コストがゼロで、レバレッジの水準が自由に決定できる」ような、非現実的な状況でのみ成立することで、日本の上場銘柄を対象に、組み入れ比率の上限が100%であるような、現実のファンドでは無理な話だ。経験的にいって、同じ投資戦略なら、アクティブリスクの大きさを小さくする方が、IRは高くしやすい。アクティブリスクを大きく取ると、どうしても、プラスのリターンのために欲しい種類のリスク以外のリスクがポートフォリオの中で大きくなる。 しかし、現実には、アクティブリスクを取る大きさに関して、運用者側にある程度の自由度があることが多い。つまり、こうした場合、いつどのくらいのアクティブリスクを取るかという判断も、「運用者のスキル」に帰属させて評価すべきだろう。運用する側の立場で考えるとしても、チャンスのある時とあまりないと思う時、自信のある時とない時では、取りたいリスクの大きさが違うし、この判断は、かなり重要だ(気分の問題に過ぎないかも知れないが、実感としては)。 評価尺度としてのIRには、アクティブリターンがマイナスの場合という別の問題もある。アクティブリターンが共に-1%のファンドC、Dがあって、前者のリスクが2%で後者が4%の場合、IRはそれぞれ-0.5と-0.25で、-0.25のファンドDの方がよく見えるかも知れないが、Cと比較するとDは「同じだけマイナスのリターンで、しかもより大きなリスクを取っている」ということなので、投資家にとって劣る選択肢だ。他方、IRを一定のままで同じリスクを取ることが出来るなら、たとえばDのアクティブリスクをCと同じ2%にすると、リターンは-0.5%となるので、今度はこちらの方がましな選択肢になる。ここにも、アクティブリスクの大きさを誰が決めるかという問題と、IR一定のままでアクティブリスクの水準を自在に動かすことが出来るか、という問題がある。 運用評価の尺度として有名な「シャープ・レシオ」は、リスク・フリー運用(近似的には、たとえばコール市場での短期資金運用)をベンチマークとした場合の情報レシオだ、と解釈する事が出来る。ただし、シャープ・レシオでアクティブ・ファンドのパフォーマンス評価を行うとすると、意味的としては、資産クラス(国内株式、外国債券、などの資産の大分類)と大まかな配分比率が商品性格としてある程度決められていて、ファンドマネジャーが大きな裁量を働かせる余地がない現実の運用とはかなり異なる状況を仮定して、(誤って)運用者のスキルを評価していることになる公算が大きい。なお、この点の理解と、超過リターンがマイナスの場合のシャープ・レシオに関しては、上手く説明できないアドバイザーが少なくないかも知れないが、こうした人物が、ファンドを選ぶことなど出来ないことは自明だ。アドバイザーの簡単な実力テストとして、シャープ・レシオに関する質問は役に立つことがある。 運用の現実を考えると、アクティブリスクの水準に関しては現実に運用者の裁量が相当程度ある。また、運用者の側から言うと、チャンスがあると思う時にはアクティブリスクを大きく取るし、そうでない時はアクティブリスクを縮小するのが当然だ。運用者の判断に意味があると思えばスポンサーも同様の行動を望むはずだ。従って、アクティブリスクの水準に起因するリターンも運用評価の対象とすることが妥当だろう。そして、ほとんどの場合、アクティブリスクの水準によってIRは影響を受ける。 以上の事情を考慮し、かつ先の実用主義的なパフォーマンス評価の目的に整合的な評価尺度を考えるなら、たとえば次のように、アクティブリターンに関する投資家の効用関数に対する当てはめを、パフォーマンス評価の尺度として考える手があるだろう。 効用=アクティブリターン-(リスク拒否度)×(分散で測ったアクティブリスク) 効用関数は上記に限らないが、上記は単純で最もよく使われる投資家の効用関数形だ。意味的には、期待リターンから、推定リスクのペナルティー分を差し引いた、「リスク修正済みの期待リターン」のようなものだと考えると良い。 ここで使うリスク拒否度は投資家によって異なる。たとえば、リスク拒否度が0.025という投資家の場合だと、先の選択肢AとBでは、Aが1.4、Bが2.1となってBをより好ましく評価することになるが、リスク拒否度が0.05(より強くリスク回避的)ならAが1.3、Bが1.2となって、Aの方が高評価となる。 同じファンドに対する評価が投資家によって異なるという事態は、投資家自身の目的には適合するが、たとえばファンドの評価をビジネスにする会社にとっては不都合かも知れない。しかし、パフォーマンス評価は評価会社のためにある訳ではないから、こうした属性を備えたパフォーマンス評価尺度を使う事の方が明らかに合理的ではないだろうか。 考慮に値する別の現実的な問題として、ファンドを評価する際のリスク拒否度をどう求めるかが難しいことが挙げられる。これは、投資家自身が持っているもともとのリスク拒否度にもよるし、評価対象のファンドが投資家のポートフォリオの中でどう位置づけられているか(ウェイト、他の資産のリターンとの相関関係等)によると言えるだろう。これらは幾らか技術的に煩雑だが、たとえば、アセットアロケーションの計画と一貫した形で解決が可能な問題である。 また、パフォーマンス評価の目的を考えると、投資家が個々の運用対象を評価する際に、前提とするアセットアロケーション全体の影響を受けるのは全く当然のことだ。 また、パフォーマンス評価を考える上でもう一つ重要な問題として、評価の期間を挙げることが出来る。冒頭のパフォーマンス評価の手順整理の(3)に関連する問題だ。たとえば、観測期間1年間のパフォーマンスと観測期間4年間のパフォーマンスは、少なくとも手順(1)のような仮定の下では、後者のデータの方が信頼性が高いと考えられる。評価の尺度とした「効用」が、スキルによって規定される一定の平均値の周りに一定のばらつき具合でランダムに現れると考えるなら、大まかに言ってその平均値の標準誤差は観測期間の平方根分の一倍になる。つまり、同じ効用水準なら、4年のデータは、信頼性の点では1年のデータの2倍程度の価値があると考えていいだろう。この点は、たとえばパフォーマンス評価のデータ期間が異なるファンドどうしを較べる場合に反映させるべきかも知れない。 ただし、先述の拙文(本シリーズ第二十五回)でも触れたように、パフォーマンス評価の期間は単純に長期であるほど良いわけではない。市場の環境も、ファンドマネジャーの能力も、時間と共に変化するから、昔のデータを大きく含めると、かえって目的にそぐわない場合が多い。◆パフォーマンス評価の“主権” 今回述べたパフォーマンス評価の考え方は、よくある画一的な商業ベースのパフォーマンス評価尺度やランキングと較べると、違和感があるかも知れない。しかし、パフォーマンス評価はファンドマネジャーの満足や、運用評価会社のビジネスのためにあるのではなく、投資家自身が運用を改善するためにある。 投資家をいわば「主権者」とした運用パフォーマンスの評価方法を改めて構築しなければならないし、これは投資家自身が行うべき仕事であろう。
2006年07月21日
今回は、運用パフォーマンスの評価について論じるが、第二十五回目の「運用の上手い下手を実績で語ることが出来るか?」の続編的な性格を持っている。幾らか技術的な問題にも踏み込むが、たとえば、投資信託の評価会社が雑誌やホームページで発表する投資信託のパフォーマンス評価は、(A)妥当な評価尺度に基づく納得性のあるものなのか、(B)将来のパフォーマンスが優れたファンドの選択に役立つのか、といった事に関心を持たれている方は、ご一読頂きたい。結論を手短に言うと、(A)も(B)も「NO」である(BがNOであることは、先述の拙文で述べた通り)。 なお、以下の文章は、雑誌「ダイヤモンドLOOP」(残念ながら現在既に「休刊」となっている)の2003年11月号に掲載された、同じテーマを扱った拙文をもとに、加筆・修正して書いていることをお断りしておく。◆パフォーマンス評価とは何をすることか 個人が現在所有する投資信託を継続して持つかどうかを考える場合に、最も重視する要因は、おそらく、その投資信託の保有期間のパフォーマンスだろう。この事情は、年金基金などプロの投資家が現在使っている運用会社の評価をする場合でも一緒だろう。もちろん彼等が新規に買ったり雇ったりするファンドや運用会社を選ぶ時にも、それぞれの過去の運用パフォーマンスを調べるのが普通だ。そういう意味では、日本の投資信託の顧客は、しばしば運用実績の全く無い新規設定のファンドをセールスの情報を信じて(或いは上手に依頼されて)購入するが、これは彼等が「普通でない」とも言えよう。 しかし「普通」なことが、同時に「有効」でもあるかどうかは、大いに疑わしい、というところに「パフォーマンス評価」の問題の難しさがある。 パフォーマンス評価には色々な方法があるが、たとえば過去3年とか5年の運用利回りの絶対値を複数のファンド間で直接比較すると、同じ期間を対象としていても、通常は、ファンド間で「運用期間中に取ったリスクの大きさが違う」とか「そもそも運用目的が違う」といった難点が指摘される。ファンドマネジャーの運用の実力を正しく評価するには、リスクの大きさについて調整したり、適切なベンチマークと比較したりしなければならないといった注文がつく。 ところで、「ファンドマネジャーにとってフェア」であるか否かを厳密に考えることは、パフォーマンス評価の上で、たぶん良いことなのだが、投資家にとって直接の目的ではない。投資家がパフォーマンス評価を行う目的は「将来の投資(状態)を改善するための情報を得ること」に関連づけるべきだろう。この実用主義的で前向きな目的の下では、通常のパフォーマンス評価作業はおおむね次のようなことをしていると整理される。 (1)運用者のスキル(技術)の有効性は過去から未来にかけて安定していると仮定する。 (2)運用者のスキルの計測方法を定義し過去のデータを観察する。 (3)過去のデータが確率的にどのくらい現れにくい位に、良いか(悪いか)を判断する。 (4)「良い(悪い)」と判断されれば運用が上手(下手)だ、と結論する。つけ加えると、ここで得られたデータ(スキルの有効性の程度など)を利用して、 (5)投資家は自らのポートフォリオの最適化を図ることになる。◆スキルの計測方法 運用を正しく評価するためには、運用者のスキルに起因すると考えられるリターンと、顧客が選択した運用方針に起因するリターンを分離して、前者に関する評価を行う必要がある。通常、後者を代表するものとしてベンチマークのリターンを用いて、全体のリターンからベンチマークのリターンを差し引いた「アクティブリターン」を評価の対象とする。 ベンチマーク選びは重要である。投資家側の目的の観点から理想的に考えると、投資家が資産配分に使うベンチマークと運用者が実際に運用を行う場合に参照するベンチマークが一致することが望ましい。 ここでは、運用スタイル別に細分化したベンチマークを使う場合には、個々の運用スタイルを構成要素とするアセットアロケーションが投資家の側で管理出来ていなければならないことにも注意して欲しい。運用スタイル別の評価は、運用者に対して丁寧だが、運用の利用者の側で、運用スタイル別のアロケーションがコントロールできるのでなければ、実用的な意味をなさない。 もっとも現実にはベンチマークを適切に使える投資家ばかりではないし、ビジネス上の必要性から大まかな比較を行う場合には、たとえば「同類のファンドの平均パフォーマンス」といった便宜的なベンチマークを使うことがある(ただし、この場合には、スキル要因の分離は曖昧になる)。 運用手数料の扱いも重要だ。運用手数料は運用者のスキルによるものではないので、パフォーマンス評価では、運用手数料差し引き前のリターンを対象としなければならない。「投資家が受け取るリターンを評価する」といったお題目で、手数料差し引き後のデータを使うパフォーマンス評価会社(割合有名な会社である)があるようだが、これは技術的に明らかな間違いだ。 ただし、最終的に運用商品を評価・選択する際には、手数料は「確実にマイナスのリターン」として別途差し引いて評価しなければならない。現実に商品を購入するか否かの評価の際には、パフォーマンス評価の情報上の有効性を考えると、手数料の差は、ほとんどそれだけで決定的な要因になることが多い。過去のパフォーマンスの評価が示唆する将来のパフォーマンスの差はあってもごくわずかだが、手数料の差はリスクゼロで実現するマイナスのリターンの差だから、顧客にとっての商品評価上は決定的なのだ。この点が分からないか、或いは分からないふりをしている(たぶん商売上の都合で)、マネー・アドバイザーは困ったものだ。
2006年07月21日
◆投資と投機 ここで、現実の運用を考える場合にややこしいのは、現実の運用には、「投資」と、「投機」の二つの要素があるからだ。 投資と投機には、さまざまな定義があり、ここでも混乱が見られるが、筆者は、経済価値の生産に関わる資本に参加し、理論的には、追加的リスク負担に対するリターンの追加(リスク・プレミアム)が期待できるのが「投資」であり、基本的に市場参加者間の見通しの違いに賭けるゼロサム・ゲームであって、リスク負担に対する追加的リターンが期待できないのが「投機」だと考えるのが、現実的であり、便利だと思っている。よく、リスクの大小で、投資と投機を分ける人がいるが、運用主体が負担するリスクは、運用に投じる額でコントロールできるのであり、リスク負担に対して、追加的なリターンが期待できるかどうかの方が本質的な違いだ。 具体的には、株式や債券、不動産などに資金を投じる行為には「投資」の側面があるが、外国為替のリスクは基本的に「投機」のリスクだ。もっとも、ここで、投資がいいことで、投機が悪いことだ、というようなニュアンスは一切込めていないことに注意して欲しい。投資も投機も、ルールに則って行われる限り悪いことではないし、多くの場合経済的にプラスの役割を果たしている。 それでは、投資の場合、何がちがうかというと、たとえば株式投資の場合、予想された収益を企業が上げてくれるなら、時間の経過に従って、株主の保有する価値が増えることだ。たとえば、株価1000円で、PERが10倍、PBRが1倍の株は、利益成長がゼロの場合でも、10年経てば、BPSが2000円になる。この間、配当で利益が流出していなければ、10年後には、株価は1000円よりはかなり高くなっている公算が大きい。つまり、投資の場合、適切な価格(あるいは、それ以下)で買って、保有していれば、時間の経過が投資家にとってプラスに働く効果が期待できるということだ。 乱暴な言い方だが、たとえば、「株式投資は博打だけれども、時間を掛けると、回収率が100%を超える有利な博打だ」ということが、言える。この場合、「時間が味方になる」という見方が出来、時間と共に、有利さが拡大することが期待されるわけだが、これを取引の上で単純に「有利」と言っていいかどうかについては、問題が残る。 投資の理論を考えると、「リスクを負担した状態でより高いリターンを期待できる」という状態は、「リスク無しで低いリスクフリー・リターンを期待する」という状態と、市場を通じて交換可能なのだから、「投資」で時間を掛けることが、「有利だ」という訳ではない(要は、「証券市場線」の上にある点同士は、市場で交換可能なのだから、等価なのだ、と考えるべきだということだ)。比較の観点では、期待回収率が100%(手数料抜きで)のゼロサム・ゲーム的博打である「投機」が、相対的に不利だというだけのことである。ちなみに、理論の世界の投資家は、無駄なリスクを取った投機には参加しない。 ◆長期運用の短所 現実に、たとえば、特定の銘柄に対する株式運用で得られるリターンには、生産活動に資本を提供することによって得られるリターンと、その時にその銘柄を選んだことの当否を反映したリターンとの、二種類のリターンが混じる。 前述のように、前者は投資のリターンと言っていいが、後者は、その運用者と他の市場参加者のどちらが正しいかによって決まる投機のリターンだと言って良い。 仮に、「割安だ」と判断して資金を投じた株式の株価が、その判断が他の市場参加者にも受け入れられて、適正だと思う価格まで上昇した場合、これは、投機のリターンが首尾良く実現したケースだと考えられる。 物事を整理する上でいささか複雑なのは、たとえば「良い!」と思う情報に基づいて資金を投じる場合、運用期間が長期化するほど、その情報以外の要素が資産価格に影響することが増えてくるし、その情報自体の価値も変化する。 たとえば、有望な新製品の発売を見越してある会社の株を買った場合、その製品が市場に出る前の期間に、経済情勢の急変や、その製品とは別の分野での経営の失敗などが起こる可能性があるし、時間が経つうちに、その製品や技術の相対的な価値が低下してしまう可能性もある。 つまり、「特定の情報(いわゆる「材料」)」に基づいて資金を投じる場合、いったん投資ポジションを作ってしまうと、その後は、なるべくその情報が早く広まって、価格に早く反映する方が有利だし、有り難いのだ。「有利な投機の機会」などというものは、そう頻繁に手に入るものではないが、平たく言えばチャンスに資金を投じる場合、運用期間が長くなるほど勝率が悪くなる、とも考えられる。 もちろん、同じだけ儲かるなら、短期間に儲かる方が、資金の効率がいい。 ◆長期と短期のまとめ要点を箇条書きでまとめておこう。 (1)長期運用でリスクが縮小するというのは嘘。(2)リスクに対する態度が一定の場合、運用期間によって、適切なリスク資産への配分比率は決まらない。どれだけリスクを取ることが出来るかを決める最大のファクターは投資主体の財務的な強さ。(3)長期運用の確実が期間当たりのリターンに与える悪影響が大きい。(4)「投資」は生産活動への資本の提供であり、理論的には、リスク負担に対して追加的なリターンが期待できる。(5)「投資」にあっては、時間と共に運用資産額の増価が期待できるが、これは、資産市場での取引条件と比較すると「有利」なわけではない。(6)チャンスに対する資金投下にあっては、運用期間の長期化は、余計なリスク要因の影響が増大を意味するので、歓迎できない。(7)自分が、利益に参加する「投資」をしているのか、チャンスに賭ける「投機」をしているのか、について、意識することが重要である。
2006年07月07日
株式に限らず、投資やトレーディングの世界では、論者によって、「長期」と「短期」について、多くの意見が存在し、それらには、しばしば誤解と混乱が見受けられる。 たとえば、運用戦略の基になるべき将来の予測は「長期の方が簡単だ」という人もいれば、「短期の方が簡単だ」という人もいる。また、長期運用ではリスクが縮小するので運用のリスクを大きく取ることが出来るという人もいれば、それは間違いだという人もいる。 加えて、長期と短期の区別に関して、「投資」と「投機」の概念の区別が混じり込んで、この投資と投機に関して論者によって様々な意見があり、議論が一層複雑になっている。 本稿はこれらの概念と、願わくは正しい知識の、なるべくコンパクトな整理を目指すものだ。はじめから、「投資」、「投機」という言葉を使うと議論が混乱するので、両方を合わせて、運用資産を増やそうとする行為全般に「運用」という言葉を使い、先ず、両者を区別せずに行けるところまで、話を進めてみたい。 ◆長期運用に関する誤解 運用における「長期」と「短期」に関する誤解で、おそらく最も広く普及していて、かつその影響が深刻なのは、「長期投資では、リスクが縮小するので、投資期間が長い場合には、大きなリスクを取ることが出来る」という考えだろう。これは、投資教育のテキストにも堂々と載っていることがあるし、新聞・雑誌のマネー運用特集にも、ご丁寧にもデータのグラフ付きで(見せ方を誤ったグラフなのだが)載っていることがある。 また、古いタイプのファイナンシャル・プランナーのアドバイスには、「あなたの場合、運用期間が長いので、ある程度リスクが取れます・・・」式の、こうした誤りに基づいたものが数多く見受けられる。 長期でリスクが縮小するという説の主旨は、あらまし次のようなものだ。 たとえば、計算を簡単にするために、リターンの期待値がゼロでリターンの標準偏差が10%で、リターンはランダムに発生し、正規分布するとする。この場合、「たとえば、2年間の運用の年率リターンの標準偏差は10%×(√2)÷2≒10%×1.414・・・÷2=7.07%となり、1年間の運用よりもリスクが縮小している。4年間の運用のリスクを同様に計算すると、10%×(√4)÷4=5%と、1年間の運用の半分になっている。同様に、運用期間が長くなれば長くなるほど、リスクは縮小するのだ」というものだ。この場合、リスクを「年率リターンの標準偏差」で評価していて、これが縮小するなら、リスクに対する拒否度(リスクの追加に対してリターンの追加をどの程度求めるかの度合い)が一定だとすれば、運用期間が長ければ、大きなリスクを取ることが出来る、と話を展開していることになる。 しかし、この議論では、投資の意思決定において評価すべきリスクを、「年率リターンの標準偏差」で評価しているが、この点が不適切だ。 もともと、人の効用は、富の額に対して計算されるが、富の額のばらつきは、2年間の運用だと、1年間の運用の約1.414倍だし、4年間の運用だと2倍になる。つまり、先に仮定した条件で、それぞれ-1標準偏差レベルの不運に見舞われたときに、初期運用額100万円が、1年間運用すると90万円、2年間の運用だと約85万8千円、4年間運用すると80万円になってしまうということだ。要は、長期投資を年率にならしたリターンの上下でリスクを見る、というデータの見方が正しくないのだ。新聞・雑誌などの記事によく載っている、日本の株式投資のリターンの40年くらいのデータ(多くは、証券経済研究所のデータによると書いてある)も、長期間の投資の「年率リターンの上下を見る」という形になっており、同様に正しくない。 考えてみると、リスクをヘッジする役割を持つ、保険やオプションだって、これを買う価格は、期間が長いほど高い。通常、負担すべきリスクの対価は、期間が長い方が大きいのであり、つまり、運用期間が長期化するとおおむねリスクは拡大すると考えるべきなのだ。 しかし、現実的には、運用のリスクを負担する必要がある資産は、期待リターンが、リスクの無い資産よりも大きい場合が多い。こうした場合、運用期間の長期化によるリスクの拡大は、同時に、運用期間の長期化による期待運用資産額の増大によってカバーされる。 厳密には、投資家側評価の考え方が不変だとすると、時間的に前後のリターンどうしの相関関係がプラスの場合は(値上がりの後には、値上がりが続きやすい場合)運用期間の長期化は、それ以前の期待リターンとリスクの効率性を損なう公算が大きい。逆に、前後のリターンの相関関係が、マイナスの場合は、運用期間が長い方が、期待リターンのリスクに対する効率は改善する。 しかし、リターンの前後の相関関係は、ほぼゼロと見なされることが多く、この場合、運用期間の長期化は、より短期間の運用と比べて、「損でも得でもない」というのが、ほぼ正解なのだ。つまり、運用期間が長い方が、より大きなリスクを選択できる、という通念は誤りなのだ。 それでは、負担できるリスクの大きさは、何によって決まるのかと言えば、第一に、運用主体のリスク負担能力の大小だ。 しかし、「長期運用だと、運用者が負担するリスクは縮小する」という誤った通念は、運用商品のマーケティングに好都合であることもあって、日本でも、アメリカでも、訂正されることなく拡がっていることが多い。 ◆長期運用のメリット リスク資産のリターンの時系列的な自己相関がゼロの場合、運用期間を長期化することで、確実に得られるメリットは、実は、売買手数料など、一時的にかかるコストが運用期間を長期化することで、薄められることだ。 たとえば、投資信託の購入時に手数料を3%取られるとして、この場合運用期間が1年だと、期待リターンに与えるマイナス効果は、3%だが、運用期間が3年だと年率1%に、10年だと0.3%に縮小する(何れも、単利で大雑把に考えた場合だが)。 長期運用のメリットは、厳密には、この点だけだ。
2006年07月07日
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