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「ん・・」ルドルフが目を開けると、窓の外には白い雪が舞っていた。「おはようございます。」隣に寝ていたユリウスはそう言ってルドルフに微笑んだ。「おはよう。朝食は何を食べようか?」ルドルフはユリウスの唇を塞ぎ、2人は激しいキスをした。「もう何も食べたくない。お前以外は。」「あなた様という方は・・」ユリウスはクスリと笑い、ルドルフをベッドに押し倒した。「今度は私の番ですよ?」「お手柔らかに、お兄様。」藍は今日も、エスタトに抱かれた。「やはりお前は最高だ、ラン。どんな女よりも、お前の体には敵うまい。」エスタトはそう言って唸りながら果てた。藍はエスタトの唇を塞ぎ、枕の下においてある銃の感触を確かめた。「今日はどこへ行きますか?」「そうだな・・前からお前と行きたいカフェがあるんだが、そこで朝食でも・・」「いいですね。」ルドルフとユリウスは服を着てカフェへと向かった。「ここの料理はおいしいんだ。特にクルトン入りのオニオンスープが絶品だぞ。」「そうですか、それにします。」2人は仲睦まじい様子で朝食を食べていると、背後から聞き覚えのある声がした。「あら兄様、久しぶり~!」「アフロディーテ・・」ルドルフはそう言ってアフロディーテを睨んだ。「お前、何故ここにいる?」「ご飯を食べに来たのよ。それに兄様にいいこと教えてあげようと思って。」アフロディーテはそう言ってルドルフを見た。「兄様とユリウスはね、決して結ばれない関係なのよvだって私がユリウスを従者にしたものv彼は永遠に私のものなのv」ルドルフは怒りに満ちた瞳でアフロディーテをにらみつけた。「嘘を言うな。」「嘘じゃないわよぉ、だってほら・・」アフロディーテはユリウスの右手首をルドルフに見せた。「これは・・」白い肌に刻まれた禍々しいカラスの刺青に、ルドルフは驚きで目を見開いた。「彼は私のものよ。」「お前、よくも・・」ルドルフは銃をアフロディーテに向けた。「公共の場で銃を抜くとは、皇太子様といえども感心いたしませんな。」低いバリトンの声がして、群青色のスーツを着た白髪混じりの栗色の髪をした男がルドルフの前に立った。「お初にお目にかかります、皇太子様。エスタトと申します。」「エスタト・・まさかお前がランの・・」「ラン?ああ、兄様を誘惑してた東洋の占い師のこと?」アフロディーテの言葉に、ユリウスは動揺した。(ルドルフ様には、他に好きなお方が・・)「やっと会えたね、私の天使。」エスタトはそう言ってニヤリと笑い、ユリウスの頬を撫でた。「美しい・・その翠の瞳が快楽に溺れるのを、是非見てみたいものだ・・」「ユリウスに手を出すな。」ルドルフはエスタトの背中に銃を突きつけた。何事かと、他の客が興味津々に彼らを見ている。「こんなところではなんだから、表で話そうか?」「ああ。」ユリウスとルドルフ、エスタト、そしてアフロディーテとカエサルは雪が舞い散る外へと出た。「やっぱりユリウス狙いだったのね、お前。私を見てくれると思ったのに・・」アフロディーテはそう言ってバッグの中から護身用の銃を取り出した。「何をおっしゃいます、アフロディーテ様。私はいつもあなた様のことを想って・・」「お黙り、このうそつき!死ね!」アフロディーテの銃が火を噴いた。その銃弾は藍の肝臓から入り、左肺を通って頸動脈を抜けた。「ラン!」エスタトは自分のほうに倒れ込む藍を抱きとめた。「どうして・・どうして私を助けた!私はお前にひどいことをしたのに!どうして・・」「そ・・れ・・で・・も・・愛・・し・・て・・た・・か・・ら・・」藍はそう言ってエスタトに手を伸ばした。「愛・・し・・て・・ま・・す・・い・・つ・・ま・・で・・も・・」エスタトの腕の中で、藍は息絶えた。彼が握っていた銃が、地面に落ちた。「ラン・・お前を1人に・・させはしない・・」エスタトは銃を拾い、こめかみに銃口をあてた。舞い散る雪の中で、恋人達の血が地面を赤く染めた。「愛に殉じて死する恋人達・・なんて素敵なのかしらv」アフロディーテはそう言って笑った。「兄様も2人のように死んでみる?どっちみちユリウスとは結ばれないんだから、そうした方がいいと思うわよ。」「黙れ!」ルドルフはそう言ってアフロディーテを撃った。「ドレスに穴開いちゃった。お気に入りだったのに。」ルドルフに撃たれ、穴が開いたドレスを摘んだ。「帰る。新しいドレス欲しいし、ブタペストに行きたいの。」黒テンのコートの裾を翻しながら、アフロディーテはルドルフとユリウスの元を去った。「わかりました。」カエサルはユリウスに一瞥を与しながら、アフロディーテの後を追った。アフロディーテは足を止め、ユリウスに向けて妖艶な笑みを浮かべた。「ユリウス、これで終わりだと思わないでね?」ユリウスは右手首に走る激痛に、顔をしかめた。「長い戦いに、なりそうだな・・」吹雪でアフロディーテとカエサルの姿が見えなくなるまで彼らを睨んでいたルドルフがそうつぶやいた。「ええ・・彼らとは長い付き合いになりそうです。」「大丈夫か?」「平気です。いつものことですから。」ルドルフはユリウスの手を握った。「ブタペストに行く。」「あなたがそう望むのなら・・」舞い散る雪の中、恋人達は手を繋ぎながら元来た道を戻り始めた。―第2章・完―
2007年09月16日
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「どうして・・こんなところに・・あなたが・・」「どうしてだと?決まっているだろう、皇太子様のご機嫌取りさ。」エスタトはそう言って藍の顎を掴んだ。「皇太子様は、今お留守です。ご用件なら私が・・」「お前には関係のないことだ。それとも、誘っているのか?」エスタトは藍の細い腰を掴み、豊満なヒップを鷲掴みにした。藍は彼にしなだれかかり、妖艶な笑みを浮かべて言った。「あなたが、欲しいんです。」「いいだろう。」エスタトは下卑たえみを浮かべながら、プラハ城に近いホテルへと向かった。藍とエスタトは部屋に入るなり、激しいキスをしながら互いの服を脱ぎあいながら、ベッドに倒れこんだ。「お前はいつでも最高だ。」エスタトはそう言って藍の艶やかな黒髪を撫でる。「知ってるか、ラン?最近行方不明になった皇太子様付きの司祭・・黒髪の天使のように美しい・・」「私は?」「もちろん、お前もだ。」エスタトは藍の乳首にしゃぶりついた。「私はあの司祭とお前、2人の黒髪の天使を従えて天国へ行きたい。そんなことを思う私は地獄に堕ちるかね?」「いいえ。」そう言って藍はある決意を固めた。
2007年09月16日
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「ユリウス、腹は減ってないか?」そう言ってルドルフはすっかりやせ細ったユリウスを抱きしめた。「ええ・・少しお腹が空きました。」「わかった。カツレツはどうだ?食べれるか?」ユリウスは静かに頷いた。ルドルフとユリウスは2人きりでランチを楽しみながら、甘い時間を楽しんだ。「デザートは何を食べたいですか?」「お前を食べたい。」そう言ってルドルフはユリウスの唇を塞いだ。「あなたという方は・・」「いいだろ?5週間もお前に触れてないんだから。」藍は恋人達の激しい情事を扉越しに聞いていた。自分にも、あんな頃があった。だがそれはもう昔のこと。あんな悦びは二度と味わうことはないだろう。そう思いながら藍が廊下を歩いていると、後ろから肩を叩かれた。「久しいな、ラン。」「あなたは・・」藍は黒真珠の瞳を驚きで見開きながら、自分の目の前にいる男を見た。そこには自分を杖で打ち据えたエスタトが立っていた。
2007年09月16日
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「やっと・・会えた・・」ルドルフはそう言ってユリウスを抱きしめた。「ここから出よう。」「はい。」ユリウスはルドルフの手を取り、馬車に乗った。「心配をおかけしてすいません。」「いい、謝るな。お前が無事でよかった。」ユリウスとルドルフは互いの唇を塞いだ。「ユリウス~、どこにいるのぉ~?」アフロディーテはあくびをしながらベッドから降りてきた。浴室やユリウスの部屋、リビングに行ったが、彼の姿はどこにもない。「どうしました、アフロディーテ?」カエサルはバスタブに浸かったままうつむいているアフロディーテに話しかけた。「・・ユリウスが、逃げたの。」「あなたには私がおります。」カエサルはそう言ってアフロディーテを抱きしめた。「そうね。ユリウスなんかもう忘れちゃおう。それに、ユリウスは絶~対っ、兄様となんか結ばれないんだからv」アフロディーテは犬歯を覗かせながら笑った。それは女神とはほど遠い、邪悪な笑みだった。
2007年09月16日
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「これはまずいことになりましたね。」今朝の朝刊を見ながら藍は言った。「お前は知っていたのか、このことを?」ルドルフの問いに、藍は静かに頷いた。「そのことはとりあえず忘れて、ユリウスの居場所がわかりました。」「どこだ?彼はいまどこにいる?」藍は椅子から立ち上がり、ルドルフの耳元でユリウスの居場所を教えた。ユリウスは、窓から汚れたどぶ川を眺めていた。この部屋は美しいが、窓の外に映る景色は無味乾燥とした灰色の風景だけが広がっている。一体いつまでここにいればいいのだろうか。今アフロディーテは隣の部屋で寝ているし、カエサルは買い物でいない。逃げるなら、今がチャンスだ。ゆっくり忍び足で部屋を出て、ドアに向かおうとしたとき、廊下で声がした。「本当にここで間違いないんだな?」「ええ。」「下がっていろ。」突然ドアが蹴破られ、ユリウスの前に黒髪の少年と銃を持ったルドルフの姿があった。「ルドルフ様・・?」ユリウスは翠の瞳を涙で潤ませた。「やっと会えた・・」
2007年09月16日
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「アフロディーテ様、入りますよ。」そう言ってカエサルがアフロディーテの部屋に入ると、そこは荒らされていて、ベッドには全裸となったアフロディーテが寝ていた。「どうしました?」アフロディーテは気だるそうに床に捨て置いてある新聞を指した。『東洋の“死の天使”、ルドルフ皇太子と密会』カエサルがそれを拾って読むと、艶やかな長い黒髪をなびかせた少年と、皇太子がカフェで向かいって座っている姿が写っていた。「そいつ、生意気だと思わない?私の兄様に近づくなんて・・」「気をお静めください。」そう言ってカエサルはアフロディーテの髪を撫でた。「ねぇカエサル、私いいこと思いついたの。」
2007年09月16日
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1874年、プラハ。雪が舞い散るプラハ市街の中で、藍は行く当てもなく寒さに凍え、路地裏でうずくまった。白い雪を見ていると、京都で過ごした幼き日々のことが脳裏に浮かんだ。このまま死んで、両親の元へ行こうかーそう思いながら藍は眠った。だが目を開けたとき、そこは冷たい路地裏ではなく、温かい暖炉のそばにあるソファの上だった。「気がついたかね?」声がするほうを見ると、そこにはあごひげをたくわえた長身の紳士が立っていた。「あなたは・・?」「私はエスタト。君のご主人様だ。」エスタトはそう言ってニヤリと笑った。その日から藍は、エスタト伯爵の愛人として暮らし始めた。エスタトは藍の能力をいち早く見つけ、それをショービジネスとして利用した。2人の関係ははじめ、上手くいっていた。だがエスタトの異常な独占欲に耐え切れなくなった藍は、彼の元から逃げ出し、高級娼館で働いた。そして何日か経ったとき、街角で占いをしているとエスタトに見つかり、杖で打ち据えられたという。「お前はそいつのことを愛しているのか?」ルドルフの問いに、藍はフッと笑った。「愛していない、といえば嘘になります。」藍はそう言ってルドルフを見た。「あの方は私に愛を、家族を与えてくださった方だから・・どんなにひどい方でも、私は愛しているんです。」
2007年09月16日
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1867年、冬、京都。日本中は明治維新の嵐に襲われ、各地で内乱が起きていた。 とりわけここ京都では、長州・薩摩率いる新政府軍と、会津・桑名率いる旧幕府軍が死闘を繰り広げていた。そんな中、藍は家族とともに平穏な日々を過ごしていた。“あの日”までは。誰が密告したのか、両親と弟は奉行所に捕らえられ、惨い拷問を受けた後、磔(はりつけ)にされた。藍は親類とともに日本を脱出し、ヨーロッパへと渡った。「私にとってここは天国のような場所です。私の祖国では昔、キリストを信じただけで虐殺されました。」藍はそう言って、胸元のロザリオを握った。ルドルフは藍の壮絶な過去を聞き、ショックでしばらく言葉が出なかった。イエス=キリストを信じた。ただそれだけなのに、罪のない人々が虐殺された過去があった国。「占い師として働くようになったのは?」「母方の伯父とヨーロッパに渡ってすぐです。その頃はイギリスにいました。何故か私は幼い頃から人の死や災害、殺人事件の真相などが見えたりして、長年それに苦しんできました・・それに、人の心も読めるので、みな私を化け物扱いしました・・」絞り出すような声を出しながら、藍はそう言ってケーキを食べた。「そのうち伯父は死んで・・天涯孤独となった私はロマとともにヨーロッパ各地を渡り歩きました。そして私を拾ってくれたロマ達は、いつしか私の家族となりました。ですがスペインで彼らの旅団が襲われて・・私はまた1人になりました。」「そうか、辛い思いをしてきたんだな・・」「ええ、でも私がここで有名になったことは、ある人に助けて貰ったからです。」「ある人?」藍は少しうつむいた。「それは・・さっき私を杖で打ち据えた人です。」
2007年09月16日
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ルドルフは気晴らしに、プラハ市街を散策することにした。ユリウスと行くはずだったカレル橋や、小さな商店やカフェなどを、ルドルフは1人で見て回った。その内隣にユリウスがいない寂しさが胸からこみ上げてきて、涙で視界が曇った。「この異教徒が!」その時背後で怒声がしてルドルフが悲鳴がした方へと向かうと、そこには貴族に杖で打ち据えられている藍の姿があった。「よくも私を裏切ってくれたな!お前だけは信じていたのに!」貴族はそう言って藍の額に銃を突きつけた。「そこまでだ。」彼が引き金を引く前に、ルドルフが彼の首に銃を突きつけた。「ありがとうございます・・」「血が出てるぞ。」ルドルフはそう言ってハンカチで藍の切れた唇から流れる血を拭った。「どうしてあんな目に?」「それは・・ここでは言えません。それに、あなたが探している“彼”のことがわかったんです。」「そうか・・」ルドルフは藍の手を引いて近くのカフェに入った。「話せ。何故お前はあんな目に遭った?そしてユリウスのことがわかったとは、一体どういうことだ?」藍は紅茶を飲み、ルドルフの手を握って話し始めた。それは衝撃的な内容だった。
2007年09月16日
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「ん・・」深い眠りの後、ユリウスは翠の瞳を開き、ベッドから降りた。どのくらい眠っていたのだろうか?聖ヴィトー大聖堂でアフロディーテから拉致されて、5週間も経つ。その間ユリウスは眠りに就いていた。というのも、アフロディーテに拉致された後、この部屋で彼から口移しで血を与えられた。『これは契約の血よ。裏切ったら死ぬのよ、お前はv』ユリウスはシャツの袖口のボタンを外し、右手首に刻まれた入れ墨に目をやる。そこには、カラスが薔薇をくわえているものだった。アフロディーテに生涯忠誠を誓う証として、カエサルにも同じものが刻まれている。(ルドルフ様・・)目を閉じ、自分に優しく微笑む恋人のことを想った。アフロディーテから契約の血を受け、ユリウスはルドルフとは一生結ばれない関係となった。『これでお前は私のもの・・お前は兄様と結ばれないの。だってお前は私のものだものv』ルドルフのものであるユリウスを奪い、瞳を輝かせながら言ったアフロディーテの姿が脳裏に浮かんだ。この体に契約の血が流れているうちは、ユリウスはいつかルドルフをこの手で殺めなければならないだろう。「ユリウス~、買い物に行くわよ。」ドアの向こうからアフロディーテの声が聞こえる。ユリウスはクローゼットから仕立てのいいスーツを着て、散らかった寝室を少し片付けてからドアを開けた。「んもう、遅いわよ。」「申し訳ありません。」ユリウスは笑顔を浮かべて、アフロディーテの腕に自分のそれを絡ませた。
2007年09月16日
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「その方は、あなたの恋人ですね。」藍はそう言って、ルドルフを見た。「そうだ。ユリウスと私は恋人同士だ。公にはしていない。」「秘めた恋ですか・・ご安心ください、このことは一切外部には漏らしませんから。それに・・」「それに。」「私は一度、そういう思いをしてきましたから。」藍はカップをソーサーに戻しながら言った。「彼はまだプラハ市内にいます。それもここから遠く離れていないところです。そこはあなた方のようなお方が利用するホテルの最上階の部屋です。ホテルの頭文字は“V”」目を閉じながら、藍は手元のタロットカードを握った。「プラハ市内のホテルを調べろ。」「はっ」扉越しに話を聞いていた部下達は慌ててプラハ城を出て行った。「では私はこれで。」藍はそう言ってフードを被り、部屋を出た。「大佐殿、失礼いたします。」藍が出て行った後、ルドルフの部下であるカール=フォン=フェネックが部屋に入ってきた。藍のことをルドルフに教えたのは、彼だった。「ユリウスはまだプラハ市内のホテルにいるらしい。」「そうですか。彼に任せれば大丈夫です。でも・・」「なんだ?」カールは気まずそうにため息をついた。「ただ、彼はこれまで行方不明者を見つけたこともありますが、それよりも死者を見つけた方が多いんです。ですから私たちの間では彼のことを“死の天使”とも呼んでいます。」死の天使。一瞬ルドルフの脳裏に最悪の事態が頭をよぎったが、すぐにそれを打ち消した。「死の天使だろうが悪魔の手先だろうが、私は彼に頼るしかない。」「そうですね。それではこれで失礼を。」1人になり、ルドルフはため息をついて椅子の背にもたれかかった。ユリウスには生きて欲しい。
2007年09月16日
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「ふぁぁ~、よく寝たわぁ。」あくびをしながらアフロディーテはそう言ってソファから起き上がった。「アフロディーテ様、お支度を。もうじき伯爵がお見えです。」「また来るの、あのオッサン。 あいつ私よりユリウス狙いで来てんじゃない?」アフロディーテはそう言ってクローゼットを開けながら、今日着るドレスを選んだ。「そうおっしゃらずに。歌劇場をあなたがあんな状態にして、仕事を失った私たちにとって伯爵は恩人なのですから。」カエサルは不機嫌なアフロディーテを宥めると、アフロディーテとリビングに入っていった。「ご無沙汰しております、閣下。」カエサルはそう言ってパトロンであるエスタト伯爵の手の甲に接吻した。「アフロディーテ、君は今日もお美しい。まさに女神そのものだ。」「いやだわ伯爵、上手いお世辞をおっしゃるのね。」そう言ってアフロディーテはエスタトに微笑んだ。「あなたの隣にいる黒髪の天使はどこにいるのかな?」「ユリウスなら買い物に出かけましたわ。」伯爵が帰り、アフロディーテはカエサルを睨んだ。「やっぱりあいつはユリウス目当てで来たんじゃない。ユリウスは私のものなのに・・あいつ、殺しちゃおうかしら?」「いまは堪えてください、アフロディーテ。」カエサルはため息をつきながらアフロディーテの髪を梳いた。
2007年09月16日
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ユリウスが姿を消してから5週間が経つ。部下達に捜索を命じたが、収穫はほとんど皆無だった。一体彼はどこで何をしているのか。 そして元気にしているのだろうかーそう思いながらルドルフは今日も執務室でデスクワークをしていた。 一国の皇太子、そして軍人としてのルドルフはいつも隙を見せぬ完璧な人間だったが、恋人のこととなると年相応の青年のように落ち着きがなくなってしまうのだった。相手のことを心から愛しているからこそ来る、不安と恐怖。ルドルフは日に日にそれに押しつぶされそうになりながらも、淡々と仕事をこなしていた。だが夜になるとユリウスの温もりが恋しくて、なかなか眠れずに枕を涙で濡らす日々が幾晩も続いた。「大佐殿は、占いや超能力といったものを信じますか?」そんなある日のこと、部下の1人がそう言って恐る恐るルドルフに話しかけた。「私はそういったものは信じない。現実に起こっていることやものだけを信じる。それがどうした?」ルドルフに一蹴され、睨まれた部下は、駄目もとで話を続けた。「実は最近、プラハで人気の占い師がいて・・というよりも予言者ですね・・なんでもその予言者は、極東の島国の出身で、いままで行方不明の者を見つけたり、事件・事故を予見して防いだりしたそうです。」行方不明者、という単語にルドルフは反応した。占いや予言など、うさんくさいものに全く興味はないが、このままいらいらするよりはいい。「その占い師は、今どこにいる?」数日後、プラハ城に例の占い師がやって来た。年の頃はルドルフとは変わらない。フードを被った格好からすると、せいぜい16,7といったところだろうか。「初めまして、皇太子様。お目にかかれて光栄です。」そう言った頭を下げる占い師をルドルフは睨んだ。「顔も見えぬ相手に挨拶されるのは不快だ。フードを取れ。」ルドルフの言葉を聞いて、占い師は漆黒のフードを脱ぎ去った。そこにいたのは長く艶やかな黒髪を背中で一纏めにし、東洋の民族衣装のキモノとハカマを身につけ、腰に刀を帯びた、まだどこかあどけなさを残している紅顔の美少年であった。「お前、名は?」「藍(らん)と申します。」そう言って占い師は澄んだ黒真珠の瞳でルドルフを見つめた。「お前にひとつ、頼みたいことがある。」藍の瞳の輝きに吸い込まれそうになりながらも、ルドルフはキッと顔を上げ、用件を伝えた。
2007年09月16日
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ルドルフの部下達がユリウスを探している頃、プラハの高級ホテルのスイートで、アフロディーテはユリウスにじゃれていた。「ねぇ、また楽しみましょうよv」「いいえ、結構です。」ユリウスはそう言ってガウンを羽織ってベッドから降り、寝室から出た。「んもぉ~、つれないわねぇ。」アフロディーテはそう言って膨れた。「アフロディーテ様、お夜食でございます。」ユリウスとは入れ違いに、トレイを持ったカエサルが部屋に入ってきた。「ありがとう、カエサル。」カエサルからトレイを受け取り、アフロディーテは夜食のチョコチップクッキーをつまんだ。「ねぇ聞いてよ、ユリウスったらつれないのよ。彼淡白なのかしら?」「さぁ・・彼は新しい環境にまだ慣れていないのでしょう。」カエサルは眼鏡を押し上げながら言った。「ユリウスは私の花婿になる人だもの、慣れてもらわないと困るわ。」「・・そうですね。」カエサルの胸に、ユリウスへの激しい嫉妬が渦巻いた。
2007年09月16日
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「ユリウスはまだ見つからないのか!」「はい、申し訳ございません・・」「お前たちはこの一週間一体何をやっていたんだ?もう一度あいつがいそうなところを徹底的に探せ!プラハ中もな!」部下達が慌てて部屋を出て行った後、ルドルフはため息をついてすっかり冷めたコーヒーを飲んだ。ユリウスがいなくなってから一週間。聖ヴィトー大聖堂でアフロディーテに拉致されてから、消息が一向につかめない。そのせいでルドルフはいつもイライラし、もし彼の身に何かあったらと思うと心配でたまらない。そしてユリウスの消息がわからないことで、ルドルフの中にある焦燥感は増すばかりだ。(ユリウス、どうか無事でいてくれ・・)
2007年09月16日
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「ん・・」 ユリウスが目を開けると、そこにはシーツ1枚だけ体に巻いたアフロディーテが彼に微笑んでいた。「気が付いた?」「ここは?」「ホテルの部屋よ。これからあなたには、わたしの花婿になってもらうわ。」そう言ってアフロディーテはユリウスを押し倒した。「お前はわたしのものよ、だから絶~対っ、兄様には渡さないんだからっ!」妖艶な笑みを浮かべながら、アフロディーテは言った。
2007年09月16日
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アフロディーテはユリウスの首筋に噛み付き、ヒルのようにそれに食いついて離れなかった。「ユリウスから離れろ!」ルドルフはそう言ってアフロディーテに発砲した。「おいしかったv」上機嫌のアフロディーテはユリウスの首筋から離れ、歌を歌い始めた。その歌を聴いた途端、頭が割れそうなほどの激痛を、ルドルフは覚えた。(この歌は、まさか・・)古の時から伝えられていた、呪われた歌。(何故、アフロディーテがこの歌を・・)「教えてあげましょうか、お兄様?」いつの間にか自分の目の前にアフロディーテが妖艶な笑みを浮かばせながら立っていた。「私、小さいときからこれを歌っていたの。大好きな歌だから。お兄様、もっと聴きたいでしょう?」アフロディーテはそう言って再び呪われた歌を歌い始めた。「や・・め・・ろ・・」ルドルフは頭を抱えながら床にうずくまった。「兄様、ユリウスは私のものよ。だからユリウスは私がいただくわ。悪く思わないでね、兄様。」意識を手放す前、ルドルフが覚えているのは、甲高い声で笑うアフロディーテの声だけだった。
2007年09月16日
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「ねぇカエサル、あの女の顔を見た?いつも高慢だったあの女が、私に許してくれって涙ながらに頼んだのよ。」そう言ってアフロディーテは腹を抱えて笑った。「笑っている場合ではありませんよ。あんなことを起こしては、もうここにはいられません。」「そうね・・結構プラハは気に入っていたんだけど・・ここを出る前に私、ユリウスに会っちゃおうv」アフロディーテを乗せた馬車は聖ヴィトー大聖堂へと向かった。「・・あいつは日に日に邪悪になっていくようだな。」深夜の聖ヴィトー大聖堂。誰もいない聖堂の中で、ルドルフはそう言って歌劇場での惨劇を思い出した。「アフロディーテは、もともとあんな子ではなかったはずなのに・・一体どうしてあんな・・」「それはアフロディーテに殺された心理学者のせいだろう。」ルドルフはそう言って白い息を吐いた。血を分けた双子の弟が彼の前に現れたのは、自分の成人祝いと誕生日祝いを兼ねての昼食会だった。あの時、自分に何が起きたのか、自分が何をしたのか、いまだにルドルフは覚えていない。「私が、いけないんです・・あの日アフロディーテを地下牢から出すべきではなかったんです・・私は、大きな過ちを・・」そう言って小刻みに手を震わせるユリウスを、ルドルフは抱きしめた。「お前のせいではない。アフロディーテがもし私と同じ皇族として育てられていたら、あいつはあんな性格にはならなかったかもしれないんだ。全ては、オイゲンが悪いんだ。」「ですが・・私は・・」「2人で何を話しているの?」聖堂の扉が乱暴に開かれ、アフロディーテが長いブロンドをなびかせながら言った。「どうして、ここが・・」「ユリウスの居場所なんて、私すぐにわかるの。ユリウスありがとう、私をあそこから出してくれて。」アフロディーテはそう言ってユリウスの首筋をかんだ。「あなたの血って、おいしそう。」「ユリウス!」
2007年09月16日
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アフロディーテは今日も入念にリハーサルを行っていた。今夜の舞台にはルドルフとユリウスを招待してある。2人に最高の歌を聞かせたいーそんな気持ちでアフロディーテはアリアを歌っていた。「ふん、そうして歌っていられるのは今のうちよ・・」舞台袖からアフロディーテを見ながらアネリーゼはそう言ってほくそ笑んだ。「ねぇアネリーゼ、本当にやるつもりなの?」同僚のヘレーネがそう言ってアネリーゼを見た。「やめたほうがいいと思うんだけど・・」「何いってるのよ!わたしがこの歌劇場のプリマドンナなの!」そう叫んだアネリーゼの目は狂気で血走っていた。 その夜、アフロディーテの舞台は華麗に行われ、アフロディーテは澄んだ声でアリアを歌っていた。客はみな、彼女の歌声に聞きほれた。だがロイヤルボックスに座っているユリウスは浮かない顔をしていた。「アフロディーテ・・」あの惨劇の日、自分が外へと放ってしまった少女。惨劇が起きたのは自分の所為だとユリウスは自分を責めていた。「あいつはホーフブルクから出て、自由を満喫しているようだ。」ルドルフはそうつぶやいて、双子の片割れを見た。アフロディーテのアリアが山場を迎えたそのとき、彼女は頭から牛の血を全身に浴びた。 きらびやかな真珠色の衣装は血にまみれ、アフロディーテは舞台を台無しにされ怒りに震えていた。そのとき客席のほうから甲高い笑い声が聞こえた。それはアネリーゼのものだった。それに呼応するかのように客が全員血にまみれたアフロディーテを笑った。 その途端歌劇場の天井に吊り下げられていたシャンデリアが落下し、多くの客が逃げる間もなく下敷きとなった。そして、シャンデリアの炎が客席に着火し、客席はたちまち炎の海となった。「・・許して、お願いだから助けて・・」シャンデリアの下敷きとなっていたアネリーゼはそう言ってアフロディーテを見た。だが彼女のドレスにシャンデリアの炎が引火した。「なんて綺麗なんでしょうv」アフロディーテはそう言って犬歯をむき出しにして笑った。「・・なんてことを・・」下で起こっている惨状を目の当たりにし、ユリウスはぐっと吐き気をこらえた。「行こう。」「ええ。」「アフロディーテ様、もう参りましょう。」狂ったように笑うアフロディーテの肩を、カエサルは叩いた。「これからが面白いところなのにぃ」「もうお時間がありません。」「そう・・仕方ないわね。」アフロディーテはロイヤルボックスから静かに離れるルドルフとユリウスの姿を見た。「ねぇカエサル、兄様にはまた会えるかしら?」「ええ、お会いできますとも。」「なんてことだ・・わたしの歌劇場が・・」 炎を噴きだし、半ば崩落状態となっている歌劇場を見て、支配人はその場で気絶した。あとがき歌劇場の惨劇は創作です。『キャリー』っていう映画のワンシーンを参考に書きました。ヒロインのキャリーはいじめられっこで、いつもいじめグループにひどいいじめを受けて、春の舞踏会でクイーンに選ばれて喜んでいたんですが、いじめグループのいたずらによって血まみれになり、念力能力を爆発させる・・。ラストは切なかったし、何よりもキャリーがかわいそうだったよ。20年以上前に製作された映画でしたが、結構メッセージ性がありましたよ。
2007年09月16日
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「ルドルフ兄様とお食事するなんて初めてだから、緊張しちゃうわ。」そう言ってアフロディーテはフォークを動かした。「ねぇ、ユリウスはこっちに来てるの?」「お前には関係のないことだろう?」ルドルフはそう言って席を立った。「どこへ行かれるおつもりなの、お兄様?」たおやかなアフロディーテの手がルドルフの腕を掴み、彼を椅子に引き戻した。「だめよ兄様、お食事の途中で席を立っちゃぁ。それにわたし、お兄様に言うことがあるからここに来たの。」「何だ?」「ユリウスをわたしにちょうだい、兄様v」「・・それはできない相談だな。」ルドルフはそう言って冷ややかに双子の弟を見下ろした。「・・そう、じゃあわたし、兄様からユリウスを奪うわ。」アフロディーテはそう言って椅子から立ち上がった。「帰る。」カエサルにエスコートされ、レストランを出て行くアフロディーテの後姿を、ルドルフはずっと睨んでいた。
2007年09月16日
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ユリウスと再会を果たした数日後の夜、ルドルフは歌劇場のロイヤルボックスで久しぶりにオペラ鑑賞をしていた。というのも、今人気絶頂の歌姫からじきじきに招待状が届いたのだ。そこにはこう書かれてあった。『お兄様、ぜひ私の歌を聴きにいらしてね。 -A-』 舞台の幕が上がり、きらびやかな皇女の衣装を着たアフロディーテが美しく澄んだ声でアリアを歌い始めた。自分と同じ顔をした、弟。なぜプラハに彼がいるのだろうか?ユリウスを狙っているのか?ルドルフがそんなことを考えているうちに、舞台は幕を閉じた。「皇太子様。」声をかけられ振り向くと、そこには歌劇場の支配人がいた。「アフロディーテが、ぜひ皇太子様とお食事をしたいと。」「・・わかった。」プラハ市内の高級レストランの奥に、アフロディーテとマネージャーが座っていた。「やっと会えたわね、ルドルフ兄様v」豊かなブロンドの巻き毛を揺らしながら、アフロディーテはルドルフにそう言って微笑んだ。
2007年09月16日
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「・・あの子、なんとかならないの!?」 歌劇場から少し離れたところにあるアネリーゼの邸では、アネリーゼが支配人に怒鳴り散らしていた。「プリマドンナ、落ち着いてください。」「どうしてあの子ばっかり人気なのよ。歌劇場のプリマドンナは私のはずなのに!」アネリーゼはなんとかしてアフロディーテをプリマドンナの座から引きずりおろしたいのだ。「何かいい方法はないかしら・・」そう言ってアネリーゼは、テーブルの上に置いてある赤ワインを見てひらめいた。「そうだわ・・」
2007年09月16日
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「お疲れ様でした。」そう言ってカエサルは、アフロディーテに赤い薔薇の花束を渡した。「ありがとう、カエサル。綺麗ね、まるで血の色みたい・・」アフロディーテは薔薇の赤い花びらを摘みながら言った。「ホーフブルクに咲いていた赤い薔薇・・死体の山の中でも、綺麗に咲いていたわv」アフロディーテの脳裏に、戦神のように人々を襲う双子の兄の姿が浮かんだ。そして血の海の中に咲く赤い薔薇を。「ユリウス、どうしてるかな?」アフロディーテはそう言って、自分を解放してくれた若い司祭のことを想った。
2007年09月16日
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「やっと着いた・・」プラハの聖ヴィトー大聖堂の前で辻馬車を降りたユリウスは、そうつぶやいて新しい職場へと向かった。新しい上司と同僚達は、ユリウスを歓迎してくれた。聖ヴィトー大聖堂では、自分や同僚達の陰口や噂話で盛り上がる卑しい連中はおらず、みな仕事に一生懸命打ち込み、互いに切磋琢磨しあうものばかりだった。(こんな人たちと一緒に働けてうれしい。)ユリウスはいままで以上に仕事に打ち込んだ。そんなある日のこと、ユリウスは3ヶ月ぶりにルドルフとプラハ城で再会した。「久しぶりだな、ユリウス。」「お久しぶりですね、ルドルフ様。」そう言ってユリウスは癖のあるルドルフの髪を撫でた。ルドルフが食事の場所に選んだのは、プラハ市内にあるお洒落なレストランだった。「新しい職場はどうだ?」「ええ、とてもいいところです。みんな優しいですし、それに・・」「それに?」「あなたにまたお会いできて。」「そうか・・」ルドルフはそう言ってユリウスに微笑んだ。「続きはベッドで聞こうか。」「あなた様という方は・・」
2007年09月16日
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歌劇場では、アフロディーテの歌を今日も聴きに来る客で席がほぼ満席状態だった。「ったく、何よあの子・・新人のくせに生意気だわ。」この歌劇場で2ヶ月前デビューしたオペラ歌手・アネリーゼはそうつぶやいて舌打ちした。このところ、アネリーゼの人気は徐々にアフロディーテに奪われつつある。アフロディーテは礼儀正しく愛想もいいので、歌劇場のスタッフや客達から人気がある。 だがアネリーゼはスタッフをまるで召使扱いし、客には自分の歌を聴くために来たのだと思っているので、始終尊大な態度を取る。両者の客に対する態度を見れば、おのずと軍配が上がるのはアフロディーテの方なのだが、そのことをアネリーゼはわかっていない。人気が落ちるのは自分の態度が原因だということが。(あの子がいなくなれば、私はプリマドンナになれる。)そう思ったアネリーゼは、楽屋に行き、アフロディーテの衣装を切り刻んだ。 着替えをしようと楽屋に入ったアフロディーテは、これから着る衣装がぼろ布同然になっているのを見てショックを受けた。(代わりのやつはないし・・どうしよう・・)アフロディーテは覚悟を決めて、ボロボロの衣装を着て舞台に立った。 ここでは深窓の皇女が恋人に対する愛を歌うシーンなのだが、アフロディーテはアドリブで突然無一文となった皇女の悲しみを歌った。 アフロディーテの歌を聴いて劇場のスタッフ達は首をかしげ、脚本家は苦虫を噛み潰したような顔をしたが、アフロディーテの歌を聴いて自分が書いた筋書きを変えられたことなど、すっかり忘れてしまった。アフロディーテは今夜も舞台で大成功を収めた。アフロディーテに恥をかかせようとしたアネリーゼは、舌打ちして歌劇場を出て行った。
2007年09月16日
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「ユリウス、ちょっといいかな?」ユリウスが書類を処理していると、マイヤー司祭が肩を叩いた。「お話とは、なんでしょうか?」「まぁ、掛けなさい。」マイヤー司祭の言葉に甘えて、ユリウスは椅子に腰を下ろした。「ルドルフ様がプラハに行かれたことは、知っているね?」「ええ、知っていますが・・それが何か?」「君にはプラハの聖ヴィトー大聖堂に行ってもらう。あそこは人手が足りないようだから、君のような優秀な司祭にはすばらしいところだろう。」「はい、わかりました。」ルドルフの遠距離恋愛が始まり、不安な毎日を過ごしていたユリウスにとって、マイヤー司祭の言葉は涙が出るくらい嬉しかった。「君は向こうでもやれると思う。がんばってくれよ。」「わかりました。」仕事を終わらせ、ユリウスは旅支度を始めた。「ユリウス、ちょっといいかな?」「入ってください。」ユリウスの部屋に、同僚のリューイが入ってきた。「君はいいよねぇ、マイヤー司祭様のお気に入りでさ。あんな気難しい人のおめがねにかなうなんて、君はよほど優秀なんだね。」リューイはそう言ってため息をついた。「何も用がなければ出て行ってくれないかな?君だって忙しいんだろう?」「わかったよ。」リューイは舌打ちして部屋を出て行った。リューイは噂好きで、すきあらば人のあらを探そうとする。あんな性格で司祭が務まるなんて、と同僚達が彼の陰口を叩き合っているのを聞いた。プラハ行きが決定したことで、リューイはますますユリウスに対して敵意を抱くだろう。ただでさえ彼はユリウスに対していい感情を持っていないのだから。今日は疲れたので、早く寝よう。翌朝、ユリウスは夜明け前にウィーンを出発した。辻馬車屋でプラハ行きの馬車を頼んで、馬車に揺られながらユリウスは眠った。(プラハに行けばルドルフ様と会える・・)
2007年09月16日
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ルドルフは深夜寝る前に、恋人・ユリウスへ手紙をしたためた。プラハへ発ってから3ヵ月後。 あの惨劇から、プラハへ赴任した彼は、36連隊大佐に命じられ、目が回るほどの慌しい日々を過ごしていた。ペンを走らせてる手をふと止めて、ルドルフは左手薬指をチラリと見る。そこにはあの日、永遠の愛を誓ったプラチナの指輪がランプの光を受けて輝いている。いつウィーンに戻れるのかわからない。毎日ルドルフは、ユリウスのことばかり考えてしまう。彼は元気なのか、怪我でもしていないだろうか。(どうしたんだろう・・私は・・)フッと自嘲めいた笑みを、ルドルフは浮かべた。いつもユリウスがそばにいたときは時折彼の存在が鬱陶しく感じられたのに、いざ彼と離れてみるとその存在がかけがえのないものとわかる。それも遠距離恋愛ゆえかールドルフは再びペンを取り、愛の言葉を綴り始めた。
2007年09月16日
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ルドルフはユリウスの腕の中でねむりながら、夢を見ていた。村を包む赤い炎。そして死体の山。その山の上に立っているのは・・「・・っ!」ルドルフは悪夢から目覚めた。額には汗が浮かんでいる。「大丈夫ですか?」ユリウスはそう言ってルドルフの髪を撫でる。「ああ、大丈夫だ。」「まだお休みになってください。」恋人の言葉に甘えて、ルドルフはユリウスの膝の上に頭を預けて目を閉じた。今度は悪夢など見ないだろう。自分は今、安らぎの海の中にいるのだから。
2007年09月16日
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プラハの歌劇場で、アフロディーテは入念なリハーサルを行っていた。今夜彼はオペラ歌手としてデビューを果たすのだ。アフロディーテは地下牢で歌っていたときから、自分の歌で誰かを元気にしたいという夢を密かに抱いていた。その夢をかなえてくれたのは、芸術方面でパトロンとして名高いカエサルの実家・アルフォミュラー侯爵家の力と、カエサルの好意だった。いままで一度も人前で歌ったことがないアフロディーテは、初舞台に緊張していた。「準備はよろしいですか?」カエサルはそう言って楽屋に入ってきた。「ええ、いいわ。」「それでは、参りましょう。」カエサルが差し出した手を、アフロディーテはそっと握った。その夜、アフロディーテは舞台に立っていた。真珠色のドレスと、サファイアを散りばめた櫛が、アフロディーテを美しく彩る。アフロディーテの美しく澄んだ歌声は、観客を魅了し、この日からアフロディーテは「プラハの歌姫」と呼ばれるようになった。
2007年09月16日
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あの誕生日の惨劇から何ヶ月か経った後、ルドルフはプラハ赴任が決定となった。「そうですか、プラハへ・・」ユリウスはそう言って心配そうな顔をしてルドルフを覗き込む。「大丈夫だ。私はもう、あの日のことは忘れたから。」だが、ルドルフの脳裏には炎に包まれた庭園と死体の山がいまだに消えることがなかった。「そうですか。お体をあまり壊さないようにしてくださいね。」そっと自分の手をルドルフの手に添えるユリウスの左手薬指には、永遠の愛の証がはめられてあった。「ユリウス、私のそばにいてくれるか?どんなことがあっても、私のそばにいてくれれるか?」そう言ってルドルフはユリウスの胸に顔をうずめた。「私は怖いんだ・・自分が何者なのか、私は怖くて仕方がないんだ・・」やっぱり、この方は無理をしてらしたのかーユリウスはルドルフの髪を撫でながら、そう思った。“あの日”から、ルドルフの情緒が不安定になっていることは、宮廷の誰しもが知っていた。だが誰1人としてルドルフをいたわろうとせず、ルドルフはいつも深い悩みを抱えていた。そんなルドルフを、ユリウスは支えてきた。「私はこのままだと心が壊れる・・だから、壊れる前に私を・・」ルドルフはそう言って頭を抱えた。「約束します。私はどんなことがあっても、あなたのおそばにおりますよ。」「ありがとう、ユリウス・・」ルドルフは恋人の腕に包まれながら、眠りについた。
2007年09月16日
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