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今朝9時半に起きました。結構寝過ぎた。
2007年11月18日
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「ちょっと出かけてくるね。ワイン買ってくる。」「行ってらっしゃい。」ユリウスはそう言ってバゲットをかじった。ジュリオは静かにパリの街を歩いた。吐く息が白い。もう季節は冬になろうとしている。ヴェネチアで起こった2つの悲劇を、16年経った今でもルドルフの心とジュリオの心に暗い影をさしている。あの人は、母に殺されたけれど、あの人は最期まで母を想って死んでいったのだろうか?母は、その想いに気づいていたのだろうか?そんなことを思っていた時、不意に空から真っ白な雪が降ってきた。道理で寒いわけだ。手袋を忘れてしまったことは失敗だった。かじかむ手をさすりながら、ジュリオは歩き続けた。ワインとつまみを買い、酒屋を出てすぐに、彼は男にぶつかった。「ごめんなさい、大丈夫ですか?」「ああ、大丈夫だ。血が出てるぞ。」「えっ」見ると、粉々に砕けたワイングラスで指を切ってしまったのか、ジュリオの中指から血が流れていた。「貸せ。」男はジュリオの中指を強く吸った。その時、男の左目を覆っている眼帯が取れた。その眼帯には、見覚えがあった。幼い頃、自分を可愛がってくれた人が、いつもつけていた・・「サリー・・ちゃん?」そう言って男を見ると、彼は驚いた顔をして自分を見た。「ジュリオ・・ジュリオなのか?」サリエルは、目の前にいる愛しい人を見た。背が高くなり、体つきが逞しくなっても、癖のあるブロンドと美しく輝く蒼い瞳は、初めて出会った時のままだった。「会いたかった、ジュリオ・・」サリエルはそう言って、ジュリオを抱き締めた。「僕もだよ・・」2人の再会を祝うように、雪が静かにパリの街に降り積もった。-第7章・完-
2007年11月17日
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「ママは?」「寝たよ。悪夢を見るのが怖いって言ったから、僕が子守歌を歌ってあげた。」「そうか・・」ユリウスはそう言って、マンドリンケースを旅行鞄から取り出した。「まだ持ってたんだ、それ。」「うん・・」マンドリンケースを静かに開くと、そこには少し年季が入ったマンドリンが入っていた。これはジュリオが産まれる前、ルドルフが胎教のためによく弾いていたものだ。「ねえ、弾いていい?」「いいよ。」ジュリオはマンドリンでさっきルドルフに歌ってあげた子守歌を弾いた。切ない音色が、部屋に響いた。
2007年11月17日
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1949年11月、フランス・パリ。悪夢のような戦争が終わり、パリの街は少しずつ活気を取り戻しつつあった。ジュリオはルドルフのために、焼きたてのバゲットを持って帰宅した。「ただいま。」「お帰り。」そう言ってユリウスは息子に微笑んだ。「ママの様子はどう?」「相変わらずだよ。」「そう・・」ソロモンがヴェネチアで死んで、16年が経った。ルドルフは未だその哀しみから立ち直ることが出来ずにいた。「ねえパパ、あの人はママのこと、愛していたの?」「そうだね・・上手くは言えないけれど、あの人はあの人なりにママを愛していたんだと思うよ。」「そうか・・」ジュリオは寝室のドアをノックした。「どうぞ。」寝室は暗く、目の下に隈を作ったルドルフがベッドに横たわっていた。「ママ、バゲット買ってきたよ。」「ありがとう。」そう言ってルドルフはバゲットを一口かじった。その時、激しい眩暈に襲われた。「ママ、もう眠りが来るんだね?」「ああ・・でも眠りたくない、悪夢ばかり見るから。」「大丈夫だよ、ママ。よく眠れるように、僕が子守歌を歌ってあげるから。」そう言ってジュリオは、静かに歌い始めた。幼い頃、ルドルフがよく歌ってくれた子守歌を。「ジュリオ、ありがとう・・」ルドルフはそう言ってゆっくりと目を閉じた。優しい声に包まれ、ルドルフは眠りに就いた。“また会えますよ、絶対に。”眠りに落ちる前、ソロモンの声が聞こえたような気がした。
2007年11月17日
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「ど・・し・・て・・」ソロモンはトルマリンの瞳を驚きで見開かせながら、ルドルフの手を掴んだ。その手を、静かに亀裂が走る。「ソロモン、ソロモン!」ルドルフはテーブルに置いてあったナイフで掌を切り、その血をソロモンに与えようとした。「これを飲め!これを飲めばお前は・・」「いいんです。僕はあなたを愛したまま、死ねる・・」そう言ったソロモンの顔には、既に亀裂が走っていた。「あなたと会えてよかった・・私の愛しい人・・」「嫌だ、死ぬなソロモン!」涙を流すルドルフの頬を、ソロモンは優しく撫でた。「僕はあなたを思っているだけで幸せでした・・あなたのその、蒼い瞳を思い浮かべるだけで・・漆黒の闇に包まれていた僕の心に光が射しました・・」「ソロモン・・」ルドルフは、ソロモンの手を握った。「ありがとう・・僕の心を救ってくれて・・ありがとう・・愛しています・・永遠に・・」ソロモンはやがてトルマリンの粒となって、風に飛んでいった。「ソロモン・・」ルドルフは、報われぬ愛と知りながらも、自分を愛してくれたソロモンのために涙を流した。「ママ、どうして泣いてるの?」「そっとしておこうね。」ユリウスはチラリとルドルフを見て、ジュリオと共に寝室に入った。
2007年11月17日
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「何故、女を撃った!?彼女はお前の妻じゃ・・」「僕はあなただけを愛しています。だから、僕と一緒に来てください。」「それはできない。」ルドルフはそう言ってユリウスとジュリオを見た。「私には、守るべきものがある。だからお前の想いには応えられない。」「・・あなたはいつもそうだ・・」ソロモンはくつくつと笑い始めた。「あなたはいつも、ユリウスのことばかり!あなたは、一度も僕のことを見てくれなかった!」ソロモンは震える手で銀の銃弾を装填し、銃口をルドルフに向けた。「だから、ここで死んでください、僕と共に。」「ソロモン・・本気か?」「ええ。あなたを殺して、僕も死にます。」ソロモンはゆっくりと、ルドルフの方へと歩いていく。「こんなことになって、本当に残念です。」パァンッ!!1発の銃声が、部屋に響いた。弾は壁にめり込んだ。「ど・・し・・て・・」ルドルフが振り上げた銀の剣の刃は、ソロモンの胸を貫通していた。
2007年11月17日
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「なんだ、お前は。」ルドルフはそう言って目の前の女を睨んだ。「あなたのせいよ・・あなたのせいでソロモン様は私を愛してくれないのよっ!」半狂乱となった女はそう叫びながらルドルフにつかみかかった。「あなたのせいよ、この悪魔!ソロモン様を返してよぉっ!」女はルドルフに向かって発砲しようとした。「やめなさい。そんなことをしてもあなたは惨めなままですよ。」澄んだ声でソロモンはそう言って冷たい目で妻を見た。「どうして、どうして私を愛してくれないの?私はあなたを愛しているのに・・ねぇ、どうして!」「あなたのことは最初から愛していません。今でも。」ソロモンは内ポケットから銃を取り出し、カトリーヌを撃った。「ど・・し・・て・・ソロモン様・・」「さよなら、カトリーヌ。あなたは最期まで、可哀想な女でした。」カトリーヌは床にゆっくりと倒れながら、ソロモンを見た。そして、驚きの目で自分を見る男性を。私は、最期まで惨めだった。そんなの、認めたくない。「嘘よ・・そんなの、嘘・・」そう言ってカトリーヌは、目を閉じた。閉じた瞼から、真珠のような涙が流れた。
2007年11月17日
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カトリーヌとソロモンは無言のまま、ホテルの部屋へと入った。「ねぇ、さっき会ってらしたあの方はどなた?」「言ったでしょう、私の愛しい人だと。あなたによく似ているでしょう?」ソロモンはそう言って口端を上げた。「あなたは・・ひどい方ね・・そうやって私を惨めにして・・」「惨め?笑わせないでください。惨めになろうとして、あなたは僕と結婚した・・違いますか?」カトリーヌは、ソロモンの言葉を聞いて何かが崩れ落ちていくのを感じた。「私は、ずっとあなただけを見ていたわ・・だから・・今からその方を殺しに行くわ!」そう言ってテーブルに置いてあった拳銃を握り締め、カトリーヌはホテルの部屋を見た。「可哀想な女ですね・・」くつくつと笑いながらソロモンは、ベッドに横になった。ヒールの音を響かせながら、カトリーヌはあの男性を探した。(どこなの?どこにいるの・・私を惨めにした方は!)そして彼女は見つけた。自分を惨めにした、自分とそっくりな男性を。男性は肩に男の子を担いで、幸せそうに笑いながら家の中へと入っていった。カトリーヌは男性の後を追った。「ただいま。」「お帰りなさいませ、ルドルフ様。」ユリウスはそう言ってルドルフの方を見て、恐怖で顔が引きつった。「どうした?」ユリウスはしきりに指を指している。「動かないで。」氷のような冷たい声がして振り向くと、自分と同じ顔をした女が銃を向けていた。
2007年11月17日
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「なにっ、“黒薔薇”を抜けたいだと!?」そう言って法王はドンと机を叩いた。「はい。もう私も年ですし・・」「何を言う!お前達3人が揃ってこそ、“黒薔薇”なのだぞ!ロードが死んだ今、“R”を殺せるのはお前達だけなのだ!」「ですが・・」サリエルの脳裏に、無垢なジュリオの笑顔が浮かんだ。「躊躇うな、あいつの一族を根絶やしにしろ。女子ども、老人も全て。」法王はそう言って不機嫌に鼻を鳴らして去っていった。「どうしたんだ、サリエル?“R”を殺したくないなんて・・」ルシフェルはそう言って長兄を見た。「私は、あの子を戦いに巻き込みたくない。」「“G”のことか?あの子は既に戦いの渦の中にいる。お前と出会ったことによって。」「・・・約束したんだ、あの子をいつか嫁に迎えると。」「それは叶わない夢だ。」ルシフェルはそう言ってサリエルに背を向け、去っていった。自分の役目は、“R”とその一族を皆殺しにすること。いままでそれを支えに生きてきた。だが、ジュリオと出会って、彼を殺したくないと思った。彼は、敵なのに。(私は・・一体どうすればいい・・どうすれば・・)
2007年11月17日
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「お前を、ヴェネチアへ帰すことにした。」「え?なんで?僕サリーちゃんともっと一緒にいたい。」そう言ってジュリオはサリエルを見た。「お前の両親が心配していることだろうし、私といてもひとつもいいことなんかない。」サリエルはジュリオの髪を撫でた。「そうだよね・・サリーちゃんはパパとママの敵、なんだもんね・・」ジュリオはそう言ってうつむいた。「ねぇ、約束してくれる?僕が大人になったら迎えに来て、お嫁さんにしてくれるって。」「お前は男だろう?」「そんなの関係ないもん。ねぇ、約束して?」「・・わかった。必ず、お前を迎えに行く。」サリエルは自分の小指を、ジュリオの小さな指に絡めた。「約束だからね。僕をお嫁さんにしてね。」「ジュリオ・・短い間だったがお前と過ごせてよかった。」「僕もだよ、サリーちゃん。」やがて迎えの車が来て、ジュリオは無事、ヴェネチアの両親の元へと帰された。「パパ、ママ!」「ジュリオ、無事でよかった!」ルドルフはそう言ってジュリオを抱き上げた。「何も変なことされなかった?」「うん。みんなよくしてくれたよ。それに、サリーちゃんと約束したんだ。」「サリーちゃん?それは誰だ?」「教えないっ」「お腹空いたろ?今日はジュリオが大好きなピザだ。」「やったぁーv」いつかまた会えるよね、サリーちゃん?
2007年11月17日
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華燭の典を上げてから1週間後、ソロモンとカトリーヌは新婚旅行のためヴェネチアを訪れていた。悠久の水の都・ヴェネチアの街並みを見て、カトリーヌの心は少し癒された。チラリと、隣にいるソロモンを見た。ソロモンは相変わらず自分を全く見ようとしない。それは、自分がソロモンの愛しい人に似ているから。(ソロモン様が恋いこがれていた方って、どんな方だったのかしら?)カトリーヌはそっと、夫の手に触れようとした。彼女の手が、ソロモンの手に届きそうになったその時―「ソロモン?」澄んだ声がして、ソロモンは振り向き、そちらへと走っていった。「お久しぶりですね。」そう言ってソロモンが笑みを浮かべた相手は、自分によく似た綺麗な男性。波打つ癖のあるブロンドの短い髪は、太陽の下で輝き、美しく澄んだ蒼い瞳は、ソロモンをまっすぐに見ている。「最近いかがお過ごしですか?」「まあまあだ。ただちょっと困ったことになってな。」「困ったこと?僕でよれけばお助けいたしましょうか?」初めて聞く、ハキハキと、そして嬉しそうなソロモンの声。その時、カトリーヌは悟った。この人こそが、ソロモンが長年恋いこがれていた方なのだと。そして自分は、その代用品でしかないのだと。(どうして・・どうしてその方にはお優しい顔をするの、ソロモン様?)男性と談笑するソロモンを見て、カトリーヌは心に隙間風が吹いたのを感じた。
2007年11月17日
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「カトリーヌ殿、我が家の家風には慣れましたかな?」オルフェレウスはそう言って、義妹となったカトリーヌを見た。「え、ええ・・」強張った笑みを浮かべてカトリーヌは震える手でカップを掴んだ。その隣には、能面のように無表情なソロモンがいた。オルフェレウスはカトリーヌを見た。本当にルドルフに似ている。愛されずにこの家に嫁いだ可哀想な女。ソロモンはどうやら自棄を起こしてこの娘との結婚を決めたようだ。「ソロモン、新婚旅行はどこに行くつもりだ?」「そうですね・・ヴェネチアに行ってみようと思います。」ソロモン、お前はまだルドルフを想っているのか。「そうか・・楽しんでこい。」「ええ。」ソロモンはそう言って仮面の笑みを、兄に浮かべた。「では僕はこれで。仕事がありますから。」ダイニングを出ていくソロモンを引き留めようともせず、カトリーヌはワンピースの裾を握り締めたまま、うつむいている。「カトリーヌ殿、我が弟は気まぐれなところがあってな。あまり気になさらないでいただきたい。」「ええ・・わかっておりますわ、そんなこと。」カトリーヌは無理に笑顔を作って、ダイニングを出た。「本当に、可哀想な女だ・・」オルフェレウスはそう言ってコーヒーを飲んだ。
2007年11月17日
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この日、私は人生最高の日を迎えた。今日、私はジュネベール家のソロモン様と永遠の愛を誓う日。この日のために用意したヴェネチアンレースに真珠が散りばめられた豪華なウェディングドレスを纏い、私はゆっくりとソロモン様の方へと歩いていった。白いタキシードを着たソロモン様は、まるでおとぎ話に出てくる王子様のようだったわ。(なんて素敵な方・・この人と一生を共にするのだわ。)中世から続く由緒ある名門貴族・ジュネベール侯爵家の三男で、美人と誉れ高かったナタリー様の生き写しといわれるほど、ソロモン様はとても彼女に似ているわ。美しく聡明なソロモン様と結婚する私は、なんて幸せなんでしょう。華燭の典を終え、ソロモン様と共に新居へと向かった。お付きのメイドとともに身支度を終えた私は、ベッドに入ってソロモン様を待っていた。蝶番が軋む音がして、タキシードを着たソロモン様が入ってきた。「さてと、早く跡継ぎをもうけましょうか?」その言葉を聞いた途端、私は顔をひきつらせた。何・・何を言っているの、この人?「そ、そんなことおっしゃらないで・・私たち、これから愛し合うのでしょう?」「私はあなたのことなど愛していません。あなたとの結婚を決めたのは、あなたが私の愛しい人に似ているから・・ただそれだけの理由ですよ。」ひどい。なんて、ひどい話。その夜、私にとっては悪夢の始まりとなった。全てが終わった後、私は涙さえ出せずに、自分が置かれた惨めな状況に打ちひしがれていた。
2007年11月17日
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「遅かったな、ソロモン。」「ちょっと寄り道をしていて・・僕に話って何ですか、兄さん?」パリの邸に帰宅すると、オルフェレウスが上機嫌な顔で自分を見た。「お前に、縁談があってな。」「縁談・・ですか?」ズキン、と胸が痛む。「ああ。相手はかの大貴族の娘だ。」「そうですか・・」「あまり乗り気ではないな、ソロモン。まだ“あの方”を愛しているのか?」「そんなんじゃありません・・」ソロモンはそう言って椅子に腰を下ろした。「そうか・・」オルフェレウスは弟を見た。「叶わぬ想いで胸を焦がすなら、潔く諦めることだ。」「・・はい。」縁談には乗り気ではないが、会うだけならいいだろう。数日後、ソロモンは縁談相手の娘と会った。その顔を見てハッとした。なぜなら彼女は・・ルドルフにそっくりだったからだ。彼女のことは愛していないが、ルドルフに似た彼女を傍に置くことができるなら・・ソロモンはそう思い、彼女にプロポーズした。何も知らない初な娘は、ただ純粋に喜んでそれを受けた。
2007年11月17日
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「ジュリオはヴァチカン宮殿の中で王子のように育てられている。」そう言ってルドルフは、サリエルからの手紙をユリウスに見せた。「そうですか・・」「だが油断はできない。あそこは敵の巣窟なのだから。」「ええ。」ユリウスはコーヒーをルドルフに渡した。「あの子にもしものことがあったら、許さない・・」ルドルフはそう言って拳を固めた。「・・本当に、あなたは変わりましたね。」澄んだ声がしてルドルフとユリウスが振り向くと、そこには濃紺のジャケットを着たソロモンがいた。「久しぶりだな、ソロモン。いままで一体どこにいた?」「ちょっとヴァチカンへ。こんなものを手に入れました。」ソロモンはルドルフに1枚の書類を渡した。それは、法王によるルドルフ抹殺命令だった。「何故これを私に?お前は敵だろう、私を今すぐここで殺すことだってできるはずだ。」「・・出来ることならそうしたい。けれども僕は、あなたに死んで欲しくない。」ソロモンはルドルフの頬を撫でると、風に乗って姿を消した。「・・あなたは本当に変わった・・あなたはもう、僕のことを見ていない・・僕はあなたと出会ったあの日からずっと、あなたを見ているのに・・」ソロモンはそう言ってため息を付いた。
2007年11月17日
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「ヴェネチアまで飛べ。頼んだぞ。」サリエルはそう言って黒い鳩の足に手紙をくくりつけ、窓から飛ばした。「サリーちゃん、遊ぼv」ジュリオはサリエルに駆けていって黒衣の裾を掴んだ。「ああ。その縫いぐるみは?」「パパがくれたのv」ジュリオの笑顔が、一瞬今は亡き娘の笑顔とダブッて見えた。「どうしたの?」「いや・・昔私には、お前と同い年の娘がいた。」「名前はなんていうの?」「ヴィクトリア。黒髪の巻き毛と笑顔が可愛い子だった。」「その子、どこにいるの?」「・・死んだ。妻とともに瓦礫の下敷きとなって・・」サリエルはそう言って目を閉じ、“あの日”のことを思い出した。あの戦争で、サリエルが住んでいた村はドイツ軍の攻撃によって滅ぼされた。その攻撃でサリエルの妻子は倒壊した家の瓦礫の下敷きとなって死んだ。その日から、サリエルは鬼となった。だがジュリオの笑顔を見ていると、その悲しみが癒えた。哀しい過去を乗り越え、サリエルは新たな希望を見つけた。「今日は何して遊ぼうか?」「んーとね・・かけっこ!」「またか。」サリエルはそう言ってジュリオに微笑んだ。
2007年11月17日
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ヴァチカン市国・法王庁。「猊下、“G”を連れて参りました。」そう言ってサリエルは法王にジュリオを見せた。「悪魔の子・・なのに天使のように美しい。魔性ならではの美しさだ。」法王はジュリオの頬をつねって言った。「パパ・・ママ・・?」その時眠っていたジュリオが目を覚ました。「ここ、どこ?パパとママは?」ジュリオはそう言って広い部屋を走り回った。「パパ、ママ、どこにいるの!?」ジュリオは広い室内に、両親の姿を探した。だが、両親はどこにもいない。ジュリオは不安になって、泣き出した。その時、背の高い黒髪の男の人が自分の頭を優しく撫でてくれた。「大丈夫だ、お前は私が守る。」「おじさん、誰?」「私はサリエル。お前を守る者だ。」「じゃあ、サリーちゃんって呼んでいい?」黒髪の男は一瞬顔をしかめたが、すぐに元の顔に戻り、自分に微笑んだ。「・・いいだろう。」「僕ジュリオ!よろしくね、サリーちゃんv」「ああ。」サリエルはジュリオの小さな手を握った。これが、運命の恋人達の出会いだった。
2007年11月17日
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「今日はジュリエッタのお母さんにピザを貰ったよ。」ユリウスがそう言ってツナのピザをジュリオに見せた。「おいしそう!」ジュリオはピザにかぶりついた。「今日はご馳走だ、沢山食べろv」「うんv」夜になり、ベッドで眠るジュリオに微笑みながら、ユリウスは寝室を出た。「・・来るな。」「はい。」ユリウスは寝室で見せた時とは違って険しい顔をして、ルドルフの言葉に頷き銃を取り出した。夜風が窓の隙間から入ってきた。と同時に、黒衣の男達がリビングに入ってきた。ユリウスは1人目の額を銃で撃った。「おのれ・・1度ならず2度までも!」怒声を上げてルシエルはユリウスに向かって斧を振り下ろした。だがユリウスはそれをかわし、ルシエルの腱を斬った。「相変わらず弱いな。」「黙れぇっ!」ルシエルの刃がユリウスの胸を直撃した。ルドルフはルシフェルと刃を交えていた。「はぁっ!」ルシフェルの攻撃をルドルフは難なくかわし、強烈な突きをルシフェルの喉に入れた。「がはっ」「そんな腕で私が倒せるとでも?この未熟者が。」ルドルフはそう言ってフッと笑った。「笑っていられるのは今の内だ、“R”。」冷たく渋い声がしてルドルフが振り向くと、そこにはジュリオを抱きかかえたサリエルが立っていた。「貴様、ジュリオをどうする気だ!」「何もせぬ。女子ども、老人を殺すほど、私は腐っていない。ただ・・」「ただ?」「お前の苦しむ顔を、見たいだけだ。」ルドルフは怒りの声を上げて剣を振り上げた。「そんなことをすれば、この子は死ぬ。」サリエルはそう言ってジュリオの首筋に剣を当てた。「武器を捨てろ。お前もだ。」ユリウスは舌打ちして床に銃を捨てた。「武器を捨てろ、“R”。この子には何もしない。」「お前の言葉は信じない。」そう言ってルドルフはサリエルを睨んだ。「約束する、この子は無事、お前の元に返す。一時的に我等が預かる。」「そうか・・ならいい。」ルドルフは剣を床に投げ捨てた。「連絡は追ってする。」サリエル達は夜の闇の中へと消えていった。
2007年11月17日
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「“G”には会えたか?」そう言ってルシフェルは、兄を見た。「ああ、会ってきた。というより、向こうが私にぶつかってきた。そのときたっぷりと脅迫してやった。」ルシエルはフッと笑ってコーヒーを飲んだ。「子どもを脅すなんて、悪い奴だな。」サリエルはそう言って弟を見た。「“G”はわれわれにとって敵以外のなにものでもない。それに、“R”はまた従者と体を重ねていた。」「さすが、殺しと諜報が得意なお前は情報が早いな。」「ああ。“R”は次は女児を望んでいるらしい。“G”の子育てに追われて少し体力を消耗しているからな。」「もうすっかり人の親か・・だが“R”には安息の日々など無用。この手でわれらがそれを潰すまで。」サリエルはそう言ってリンゴを握りつぶした。「ロードが死んだ今、私たちがあいつを倒さねば・・」「ああ。」「あいつらには、死の世界こそが似合う・・漆黒の闇こそが。」“黒薔薇”の魔の手は、確実に、そしてゆっくりとルドルフ達に迫る・・
2007年11月17日
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ジュリオは、サン・マルコ広場で元気いっぱいに友達と走り回っていた。「ジュリオ、待ってよ~!!」親友のジュリエッタが、そう言ってジュリオの後を追う。「ここまでおいで~」ジュリオがかけていると、彼は1人の男にぶつかった。「ごめんなさい・・」そう言ってジュリオが頭を下げると、そこには自分を冷たく見下ろす銀髪の男が立っていた。「気をつけろ、小僧。」ジュリオはその男を見たとき、激しい恐怖に震えた。「小僧、お前とお前の家族を殺す・・」男はジュリオを脅迫すると、満足そうに紅い瞳を光らせた。「ジュリオ~、どうしたの?顔色悪いよ?」「ジュリエッタ、この人がパパとママを・・」そう言ってジュリオが男を指差そうとすると、男の姿はすでになかった。「今日はもう帰ろう。もうすぐ暗くなるよ。」「うん・・」さっきの男が放ったあの言葉は一体なんだったのか、ジュリオは必死に考えた。けれども、それよりも男が怖かった。「パパ、ママー!」家の中に入り、ジュリオは泣きながら両親を呼んだ。「どうしたの、ジュリオ?」ガウンを着たユリウスがそう言ってジュリオを抱きしめた。「パパ、サン・マルコでぶつかった男の人に、パパとママを殺すって言われた。こわかったよぉ~!」「その人、どんなかっこうしてた?」「黒いフードみたいなやつかぶってた。」(もしかして彼らがもうすぐそこまで・・)ユリウスの脳裏に、ロンドンで自分達を襲った“黒薔薇”の姿が浮かんだ。この子を絶対に守る。「ジュリオ、怖かったねぇ。おなかが空いただろ?もうすぐご飯にしようね。」
2007年11月17日
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ヴェネチアで、ルドルフとユリウス、そしてジュリオは親子3人幸せな毎日を過ごしていた。「ママ、今日はサン・マルコ広場で遊んでいい?」「いいけど、あまり遅くなるなよ。今日の夕飯はお前の大好きなウィーン風カツレツだからね。」「うん!」ジュリオはそう言って家から飛び出していった。「それにしても、あの子は元気だな。いつも走り回ってるし、いたずらはするし・・追いかけるにも私の体力が・・」ルドルフはやれやれといった顔をして、読書を再開した。「男の子は元気が一番ですよ。それにジュリオのおかげで、私たちはかけがえのないものを見つけたんですから。」「そうだな・・なんだかあの子を見ているともう1人欲しくなった。」「なっ・・ル、ルドルフ様っ・・」ユリウスは赤面し、昼食を載せた皿を落としそうになった。「受胎期以外でも、子どもは作れるんだろう?」ルドルフはそう言ってユリウスを抱きしめた。「今度は女の子が欲しいな。」「・・あなた様という方は・・」ユリウスは苦笑し、ルドルフにキスした。
2007年11月17日
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1933年5月20日、イタリア・ヴェネチア。この日、1人の男児の誕生パーティーが盛大に行われていた。「Buon Compleanno,Giulio(誕生日おめでとう、ジュリオ)!!」そう言ってルドルフは花を飾ったバースデーケーキを息子の前に置いた。「うわぁ、大きい!僕1人で食べられるかな?」「1人で食べるつもりか?」ルドルフは我が子に微笑んでその頭を撫でた。「願い事をしてね。」ジュリオは願い事をして、ろうそくを吹き消した。「良くできたね。さぁ、今からケーキをあげるからね。」ユリウスはそう言ってケーキを切り、ジュリオに大きいものを皿に載せた。「ありがとう、パパ。」「ママからは前からお前が欲しかったものをプレゼントするよ。窓を見て。」ジュリオが窓を見ると、そこには赤い自転車が家の前に置いてあった。「Grazie mamma(ありがとう、ママ)!」ジュリオはルドルフに抱きついた。「Prego, Di me Un bel figlio(どういたしまして、私の可愛い坊や)。」「パパからはこれ。」ユリウスはそう言ってジュリオに前から彼が欲しがっていたシェークスピアの衣装を着たテディベアをジュリオに渡した。「今日のパーティーは盛況ですね。」ソロモンはシャンパンを飲んでジュリオを見た。「ああ。あの子が可愛くて仕方がない。」ルドルフはそう言って息子を慈愛に満ちた目で見た。「あなたは変わりましたね。」ソロモンはフッと笑って闇の中へと消えた。「もう、寝たみたいですね。」そう言ってユリウスはジュリオの髪を撫でた。「ああ。この4年間、色々あったけれど・・この子のお陰で耐えられた。」「そうですね・・」初めて出来た、家族。ロシアでの悲しみを乗り越え、ルドルフは幸せを感じていた。-第6章・完-イギリス編終了。っていうかイタリア既に入ってますけど(笑)。
2007年11月13日
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ヴェネチアでルドルフがユリウスと我が子と3人で穏やかな毎日を送っている頃、ヴァチカン市国にある法王庁では、ある事について会議が行われれていた。「・・して、“彼”―ルドルフ皇太子はどこにおる?」そう言って白い法衣を着た男が、黒の法衣を着た部下達を見た。「現在、“従者”―ユリウスとともにヴェネチアにおります。数日前ルドルフ皇太子は、男児を出産いたしました。」―なんと・・―男が子を産むなどありえぬ・・―もしやと思ったが、ルドルフ皇太子はやはり・・周りの枢機卿達がざわめいた。白い法衣の男が咳払いをした。「“黒薔薇”はどうしている?」「彼らは現在ロンドンにおります。」「・・そうか。標的の居場所が分かったのだ、始末するよう彼らに電報を。」「ですが・・ルドルフ皇太子は・・」「彼はもう死んだ人間で、今は神に背いた者だ。」「・・何事も、猊下の仰せのままに。」部下はそう言って部屋を出ていった。「ローマから電報が届いた。」「・・そうか。」サリエルは電報を読むと、すぐに立ち上がった。「ロードの仇、この手で討ってくれるわ。」
2007年11月13日
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1929年5月20日、イタリア・ヴェネチア。悠久の水の都で、ルドルフは新しい命を産み出そうとしていた。ロシアでの出産とは違い、ルドルフは4日間も陣痛に苦しんだ。「この状態がこのまま続くと母体も胎児も危ない・・帝王切開するしかないでしょう。」「ルドルフ様、どういたしますか?」「切ってもいい・・この子と私が・・助かるなら・・」ソロモンはルドルフの腹をゆっくりとメスで切り開いた。そしてへその緒がついた胎児をルドルフの胎内から出した。新しい命の産声が、部屋に響いた。「元気な男の子ですよ。」意識が朦朧としながら、ルドルフは我が子を抱いた。やっと授かった、ユリウスとの命。「はじめまして。」ルドルフはそう言って、喜びの涙を流した。「受胎期のリスクはどうなる?ルドルフ様が出産した後は・・」「今回は大丈夫です。今回の出産は受胎期から外れてますし、病を治すための治療でもあります。」「では、ルドルフ様とあの子は大丈夫なんだな?」「ええ。ですが、“黒薔薇”があの方に残した毒がまだ残っていたら、少し赤ん坊に影響があるかもしれません。」「そうか・・」ユリウスは突きつけられた厳しい現実に、ため息をつくしかなかった。
2007年11月13日
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「どうやらあの方のご病状はよろしいようですね。」ソロモンはそう言ってルドルフの脈を計った。「ああ。胎児の方は?」「順調です。ただしロンドンで産むのは危険です。これから厳しい冬がやって来ますし、敵がいつあの方を襲うかわかりませんし。」「そうか・・じゃあ南欧あたりに住むか。」「そうですね・・マドリードではあんな騒ぎを起こしたからもういられませんし、イタリアなら気候も人も食べ物もいいですし。それに、あそこは私達にとって始まりの地でもあります。」「始まりの地?それはどういう意味だ?」「行ってみれば、わかります。」ルドルフが全快するのを待って、ユリウスは旅支度をした。「ここを離れて、次はどこへ行くんだ?」「イタリアです。ソロモンによると、あそこは始まりの地だとか。」「そうか・・」その夜、ルドルフとユリウスはロンドンを離れ、海峡を渡ってイタリアへと向かった。「ユリウス、私はいつになったらウィーンへ帰れるのかな?」車窓に遠くから映るウィーンの街並みを見ながら、ルドルフは呟いてため息を付いた。「全てが終わったら、帰れますよ。」「そうか・・その時は、この子も一緒だな。」ルドルフはそう言って少し膨らんだ下腹を軽くさすった。2人を乗せた汽車はやがて、ローマに着こうとしていた。
2007年11月13日
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それから数週間、ユリウスはルドルフの看病をした。 ルドルフの病状は一進一退し、今日病状が良くなると翌日は悪くなるといった状態で、回復の兆しは全く見られなかった。(一体どうして・・血を与えたはずなのに・・)ユリウスは焦りながらも、オイゲンのノートを読み返した。治療法は合っているはずなのに、どうして・・?「お困りのようですね。」背後で声がして振り向くと、そこにはソロモンが立っていた。「何時の間にっ!」ユリウスはそう言って銃を向けた。「“あの方”を助けたいのでしょう?それならいい方法がありますよ。」「それは、何だ?」「それは、あなたの体液を直接あの方の体内に入れるのです。まぁ、簡単に言えばセックスすればあの人は助かるんです。」「血を与えたのに・・」「それはあまり効き目がありませんね。セックスするとあの方の胎内に新しい命が宿り、身体がそれを受け入れて毒を中和するのです。これは僕には出来ません。悔しいですが、従者のあなただけに出来ることです。」「・・そうか。」ユリウスはロシアでルドルフが悲しい思いをしたことを思い出した。もう二度と悲しい思いはさせたくない。けれども・・「ユリウス?」熱で潤んだ瞳で、ルドルフはユリウスを見た。「ルドルフ様、あなたを抱いてもいいですか?」ルドルフの瞳が一瞬、戸惑うように揺らいだ。「・・それしか、私が助かる方法はないんだな?」「ええ。」ルドルフはユリウスの背中に腕を回した。月が仄かに愛し合う2人の姿を照らした。「ユリウス・・」優しく恋人の名を呼び、恋人の背中に静かに爪を立てる。もしこれで助からなくてもいい。恋人にしるしをつけて、彼と愛した時間を忘れずに死のう。翌朝、病はルドルフの元を去った。そして彼の胎内には、愛のしるしが再び宿った。
2007年11月13日
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ルドルフは、断続的に襲う寒気と激痛に襲われてベッドの上で呻いた。「ユリウス、ユリウス・・」母を求める幼子のように、ルドルフはユリウスを目で探した。「ここにおりますよ。」ユリウスは空を彷徨う手を、しっかりと握った。温もりを感じて、ルドルフは心が安らいだ。ユリウスは汗ばんだ額に濡れたタオルを当てた。「私はどこかへ行ったりしませんから、安心してお眠り下さい。」「ありがとう・・」幼い頃、与えられなかった母の温もり。今はユリウスがそれを与えてくれる。ルドルフは安心して、ユリウスの手を握りながら眠った。
2007年11月13日
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「ルドルフ様?」ユリウスは壁に座り込んでいるルドルフの肩を揺さぶった。パキッ・・変な音がして、ユリウスはルドルフの腹部から血が出ているのに気がついた。「こいつに・・刺された・・剣には・・毒が・・」そう言ってルドルフは苦しそうに喘いだ。「ルドルフ様、しっかりなさってくださいっ!」「私は・・こいつみたいに・・死んで・・しまう・・」ユリウスはオイゲンのノートを開いた。(何か、何か助かる方法が載ってあるはずだ!)目的のものは、最後のページにあった。「“始祖魔族しか効かぬ毒には、従者の体液か血液、または狼の血が解毒剤となる。」「ユリウス・・死にたくない・・」ルドルフがそう言ってユリウスのシャツの袖を掴んだ。「大丈夫です、あなた様を死なせはしません!」ユリウスはサーベルで掌を傷つけ、その血をルドルフに飲ませた。ゴクリ、とルドルフの白い喉がユリウスの血を嚥下する音が聞こえた。腹部に走っていた亀裂が、跡形もなくなった。「よかった・・」ユリウスがそう言ってホッと胸をなで下ろした時、ルドルフが大量の血を吐いた。「寒い・・ユリウス・・寒い・・」「ルドルフ様、ルドルフ様!?」ガチガチと歯を鳴らして小刻みに震わせるルドルフを、ユリウスは抱き締めた。
2007年11月13日
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ロードはルドルフに突進し、彼の腹を突いた。「う・・」ルドルフは壁に激突し、呻いた。銃を撃とうとしたが、身体が痺れて動けない。「刃先に毒を塗っておいた。古の世から我等に伝わる、お前にしか効かない毒だ。」ロードはそう言ってニヤリと笑った。「これでお前を殺せる・・やっと・・」ルドルフはユリウスを見た。ユリウスは寝息を立てて寝返りを打っている。どうして起きないのだろう?いつも自分が危ないときは、敵に向かっていくのに。「奴にはハルシオンを嗅がせた。しばらくは起きぬだろう。」まるでルドルフの心を読んだかのようにロードはそう言って笑った。「死ね、“R”!」剣を振り上げ、ロードはルドルフに突進した。ルドルフは壁に掛けてあったサーベルを抜いた。ロードの刃がルドルフの胸に突き刺さるのと、ルドルフの刃がロードの胸に突き刺さるのとほぼ同時だった。2人の鮮血がベージュの壁を紅く塗らした。「う・・」ロードは剣を壁に突き刺した。ルドルフは呻いて傷口を押さえた。パキパキッロードの手が突然、音を立てて亀裂が走り始めた。亀裂は腕、肩、胸、そして顔へと広がっていく。「お・・の・・れ・・」目の前で起きていることが信じられずに驚きで目を見開かせるルドルフを、ロードは睨んだ。ロードは、左手を伸ばして甲冑の下から妻のハンカチを取り出した。テレーズ、私の愛しい人。“あなた”耳元で、優しい声がする。目を開けると目の前に、昔無惨な死に方をした妻が自分に向かって微笑んでいた。「テレーズ・・迎えに来てくれたんだね・・」ロードはそっと、妻の手を握った。“逝きましょう、あなた。”「ああ・・」ロードは目を閉じた。その目から、涙がキラリと光ってルドルフの手にこぼれ落ちた。ロードの頭が派手な音を立てて砕け、その残骸がルドルフに降りかかった。ルドルフの手を、かろうじて残ったロードの左手が握っていた。「・・ルドルフ様?」ユリウスが痛む頭をさすりながらベッドから身を起こすと、そこには呆然とした様子で壁に座り込んでいるルドルフを見た。「・・ロードが、お亡くなりになった。」ルシフェルはそう言ってうつむいた。「そうか・・では我等で“R”を仕留めよう。」「ああ・・」「これからは、お前がボスだ、サリエル。」闇の兄弟達は、真紅の液体を掲げ、ロード追悼の意を込めてグラスを鳴らした。
2007年11月13日
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ルドルフは、どこかの街にいた。ウィーンとは違う、どこか風情のある街。狭い路地から、紅蓮の月が顔を出している。歩いていると、急に誰かに目隠しをされた。「・・・」誰かの声がする。あれは、誰?あそこは、一体・・?ルドルフは目を覚ました。隣では、ユリウスが安らかな寝息を立てている。さっきの悪夢といい、あの夢といい、一体なんなんだろう?そう思いながらルドルフがベッドから降りると、ふと影が動いたような気がした。気のせいだろうと思ったとき、また影が動いた。ルドルフはサイドテーブルに置いてある拳銃を取った。「そんなものでは倒せんよ。」渋い声が背後からして、振り向くと左頬に火傷がある禿げた男が自分を睨んでいた。「やっと会えたな、“R”。」そう言って男はニヤリと笑った。「お前は・・?」「私はロード。お前に殺された妻の夫だ!」ロードはそう叫んでルドルフに突進した。
2007年11月13日
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「う・・」ルドルフが目を開けると、周りがジャングルに囲まれた、どこかの村に彼はいた。(一体、ここは・・)生ぬるい湿気を含んだ熱風が、自分の頬を撫でる。手には血にまみれたサーベルが握られていた。「いたぞぉ、こっちだー!」遠くから野太い声と、いくつもの松明が見えた。そしてそれは、あっという間に自分を取り囲んだ。「やっと追いつめたぞ、悪魔め!」悪魔・・私が・・?「一体何のこと・・」「とぼけるな!お前がやったのはわかってるんだ!」そう言って男の1人がルドルフに石を投げた。石はルドルフの額を切り、額から一筋の血が流れた。だがその傷はあっという間に再生した。「悪魔だ・・こいつは悪魔だ!」「魔物だ!神に背き、人を殺して喰らう魔物だ!」「焼き殺しちまえ!」村人達が一斉にルドルフに向かって罵る。「違う・・私は・・」悪魔なんかじゃない。「とっとと消え失せろ、悪魔!」「この汚らわしい魔物が!」魔物なんかじゃない。「違う!」ルドルフはそう叫び、サーベルを振った。蒼い瞳が見る見ると紅に染まり、彼は村人達を殺した。「悪魔なんかじゃない・・魔物なんかじゃない・・」そう言って泣く彼の周りには、惨殺された村人達の死体が・・「あーっ!」「ルドルフ様っ!?」腕の中でガタガタと震えだしたルドルフを、ユリウスが抱き締めた。「私は・・たくさんの・・人を・・殺し・・」蒼い瞳は焦点が定まらず、額には汗が浮かんでいる。「違う・・そんな・・こと・・私は・・」「ルドルフ様、しっかりしてください!あなたは誰も殺していません!大丈夫ですから!」「ユ・・リ・・ウ・・ス・・?」やっと蒼い瞳が、ユリウスを見つめた。「もう、大丈夫ですよ。」「悪夢を・・見ていた・・私が・・人間を・・」「もう忘れてください。」ルドルフはユリウスの胸でようやく静かに寝息を立てた。あとがきルド様が夢の中にいたところは、東南アジアのどこかです。少し伏線を張ってみました。大したものじゃありませんが。
2007年11月13日
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「ルドルフ様、必ず私があなたにかけられた呪いを解いてみせます。それまではご辛抱下さい。」ユリウスはそう言って恋人を抱き締めた。「嫌だ、もう待てない!私は昔からお前と結ばれるその日を待っていた!なのにどうして私だけ・・」ルドルフは苛立ちをぶつけるように、ノートを壁へと投げた。「私の血が、私を苦しめる!もうこれ以上苦しむのは嫌だ!!」「ルドルフ様、落ち着いて・・」ルドルフは部屋の物をひっくり返して暴れた。「どうして、どうして私だけ!」どうして自分だけ幸せになれない?どうして・・「ルドルフ様・・」背中に温かい感触がして、胸に腕が回される。「あなたのお辛い気持ちはよくわかります・・私も、昔からあなたの孤独と苦しみを見てきました・・」「ユリウス・・」ルドルフは子どものようにユリウスの胸の中で泣いた。ユリウスは子どもをあやす母親のように、優しくルドルフの髪を撫でた。「私はあなた様の半身。あなた様の苦しみや悲しみ、怒りは全て私が受けとめます。」「ありがとう・・ユリウス。」そう言ってルドルフは安心して目を閉じて、眠りに就いた。
2007年11月13日
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ルシエル、ルシフェル、サリエルが“R”抹殺する作戦を練っている頃、彼らの主である“ロード”は、1人奥の自室で何かを考えていた。やがて彼は机の引き出しから黄ばんだレースのハンカチを取り出した。これは彼の妻が、結婚前に初めて自分にプレゼントしてくれた物だ。優しくて、愛らしい女性だった。だがその妻は、“R”によって殺された。“R”はブタペスト近郊の村で暴走し、1人の少女を殺した。それが、彼の妻だった。結婚して幸せな生活を送っていた矢先の出来事だった。妻の死は彼を打ちのめし、やがてそれは“R”への強い憎しみへと変わっていった。「私はお前を殺めた“R”を必ず倒す・・だからそれまで、辛抱してくれ・・」ハンカチの端にうっすらと妻の血が滲んだ部分を、彼はそっと撫でた。(このまま3人に任せたら埒があかない・・私自らが“R”の首を討ち取り、その首に死の接吻をくれてやるまでだ。)彼は静かに立ち上がり、レースのハンカチを内ポケットに入れた。「待っていろ、“R”・・お前は私が必ず倒す・・その時、私はやっと最愛の妻の所へ逝けるのだ・・」そう言った彼の瞳には、復讐の炎が揺らめいていた。その頃、ルドルフはスコッチを飲みながら、オイゲンのノートを読み返していた。受胎期におけるリスクを回避する方法はないと知って、ルドルフは落胆した。「もし私がロシアでお前の子を産んでいたら、私は死ぬ運命にあったのかな・・」「ルドルフ様・・」「でも結局奴らに堕ろされて、私の命は助かった・・皮肉なものだな、私達は昔も今も結ばれない・・」ユリウスはそう言って寂しく笑うルドルフを、抱き締める事しかできなかった。
2007年11月13日
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「なあルシエル、ロードは一体なにをお考えなのだろう?」黒いフードを脱ぎ、月光の元にプラチナブロンドの髪とアメジストの瞳を晒した若い男が言った。「それはわからない・・あの方は俺達にとっては全てが謎だ・・」ユリウスに刺された頚動脈を指でなぞりながら長い銀髪を夜風になびかせ、赤銅色の瞳をユリウスへの怒りで燃やしながらルシエルは言った。「それよりもルシフェル、俺を刺したあの従者は元司祭だと言ったな?」「ああ、間違いない。調べるのに苦労したが、アウグスティーナで司祭をしていた。“R”はハプスブルクの皇太子だ。当時勤めていた女官達の噂によると、この2人は恋人同士だったという。」「そうか・・それで謎は解けたな。」プラチナブロンドの男―ルシフェルはそう言って笑った。「サリエル、お前はなにを調べた?」「“R”の忌むべき存在について調べた。」長い黒髪をなびかせ、黒絹の眼帯で左目を覆った中年の男がそう言ってルシフェルとルシエルを見た。「“R”はロシアで“S”の子を産んでいる。その子ども、“M”はここロンドンにいる。目的はわれわれと同じだ。」「そうか・・ではわれわれと“M”が手を組めば・・」「そうだな、“R”を簡単に始末できる。」「なにを言う、兄弟。忘れたのか、“R”に強力な従者がいることを?」サリエルは兄弟達の意見を鼻で笑った。「そうだったな・・奴の存在を忘れていた。」「食事は済んだことだし、これから作戦会議でも開くか。」「ああ。」黒いフードの裾を夜風になびかせながら、闇の兄弟達はまた、闇に溶け込んでいった。
2007年11月13日
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「なに、“R”を仕損じただとっ!」ルドルフ抹殺に失敗し、うなだれるルシエル達を、1人の男が睨んでいた。「申し訳ありません、マイ・ロード。」『ロード』と呼ばれた男は、尖った鼻を不快そうに鳴らしながら、テーブルにあったチキンを取った。「まぁ、よい。われわれにはまだチャンスはある。つかれたであろう。」ルシエル達は、遅めの夕食を取った。「“R”の従者についてわかりました。元ウィーン宮廷付司祭であったとか。」「そうか・・ハプスブルクの宮廷にいた司祭が、何故“R”の従者となったのか・・それは間諜達がやってくれるであろう。ルシエル、サリエル、ルシフェル、お前たちは“R”の息の根を止めることだけ考えるのだ。」「はい、マイ・ロード。」狩人達はそう言って熱々のキチンにかぶりついた。
2007年11月13日
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黒衣の男達は、静かに“R”がいる部屋へと入っていった。「“R”は?」「寝室にいる。」「では、殺るぞ。」彼らは忍び足で寝室へと向かった。ベッドの中で“R”は寝息を立てていた。男達は腰に帯びていたサーベルを抜き、ベッドに突き刺した。その時―キィンッ!!暗闇の中から1人の男が躍り出て、男の1人の腹を薙ぎ払った。「ルシエル!」雲に隠れていた月が、男の美しい顔を照らした。「お前達は何者だ?」「我等は“黒薔薇”、お前達の血を戴く!」腹を薙ぎ払われた男の1人―ルシエルがそう叫んで斧をユリウスに向かって振り下ろした。ユリウスはルシエルの攻撃をかわし、彼の頸動脈を突き刺して窓から放り投げた。「おのれ!」ルシエルの仲間が怒号を上げてユリウスに斬りかかってきた。ユリウスは冷たく男を睨むと、彼の胴をなぎ払った。「貴様、よくもぉぉっ!」残された1人は、半狂乱になりながらユリウスに斬りかかった。足の腱を斬られたユリウスは床に蹲った。「もらったぁっ!」そう言って男はニヤリと笑ってユリウスに剣を振り下ろそうとした時―パァンッ!!1発の銃声がして、男の眉間を銃弾が貫通した。だが、貫通した眉間はみるみる再生し、男は傷ついた仲間を連れて窓から逃走した。「待て!」ユリウスはそう言って男を追ったが、既に男は夜の闇に消えていた。「逃げられたようだな・・」ルドルフは舌打ちしながら、銃をナイトテーブルに置いた。「ええ。彼らは一体何者なのでしょう?」「さぁな。でもこれを見ればわかるだろう。」ルドルフはそう言ってオイゲンの研究ノートを掲げた。「これは、誰から渡された?」「カエサルという、オイゲンの助手からです。」「そうか・・今夜は眠れそうにもないから、読書にとってはいい夜になりそうだな。」ルドルフは笑って、ノートを開いた。自分達を襲った黒衣の刺客達の正体は、すぐにわかった。「『“黒薔薇”・・始祖魔族を狩るために結成された組織・・常に始祖魔族の命とその従者の命を狙う。』か・・黒い薔薇か・・死の象徴だな。」「彼らはおそらく、あなたとアフロディーテを狙っているんです。サンクトペデルブルクで戦った死霊達も、彼らが・・」「そうだろうな。」ルドルフはノートを閉じた。「ただでさえ厄介な奴が敵側にいるというのに、また厄介な連中に目をつけられたものだな。」「ご安心ください、私があなた様をお守りいたします。」「随分とたくましくなったな、お前。ウィーンにいたときは少し涙もろかったのに。」「あなたのためなら、この命は捨てる覚悟でいますから。」ユリウスの言葉に、ルドルフは微笑んだ。「全てお前のおかげだ、ここまで来れたのは。」「それはお互い様ですよ。」
2007年11月13日
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ノートには、こう書かれていた。“始祖魔族の受胎期におけるリスクー一方が死に、もう一方が40年の眠りに就くーは回避できず、それはいにしえから続く呪いでもある。”その部分に挟んであったメモには、こう書かれてあった。「呪われた至高の生物」(一体どういう意味だろう?ルドルフ様とアフロディーテは、呪われた生物って・・)「ユリウス?」寝室から物音がして、夜着を羽織ったルドルフがリビングに入ってきた。「どうした?顔色が悪いぞ?」ユリウスはノートを旅行鞄の中にしまった。「ええ、少し眠れなくて・・」「そうか、あまり無理はするなよ。」ルドルフに抱き締められながらも、ユリウスの脳裏にはオイゲンのノートにあった「呪われた至高の生物」という文字が頭から離れなかった。(呪いを解く方法はあるんだろうか?もしあるとしたら・・)「ユリウス?」ルドルフが怪訝そうな顔をしてユリウスを見た。(私は、この方を守ってみせる・・)ユリウスとルドルフが泊まっているホテルから8ブロック離れたパブで、黒衣を纏った男達が何やら話をしていた。「“R”はここにいるのだな?」「ええ。」「では早速、『仕事』に取りかかろう。」男達は闇の中へと溶けていった。その頃、ユリウスは自分の腕を掴んだまま安らかな寝息を立てて眠るルドルフの寝顔を慈愛に満ちた表情で見ていた。その時ユリウスは、凄まじいほどの殺気を感じ、サーベルに手を伸ばした。
2007年11月13日
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「おやすみなさい、ルドルフ様。」「おやすみ、ユリウス。いい夢を。」そう言ってルドルフはユリウスの額にキスをして、ベッドに横になった。短い昏睡期を終えて、最近ルドルフは昼間で眠るようになった。それは冬眠前の動物のように、たくさん食べているからなのだが。ルドルフが安らかな寝息を立てていることを確認して、ユリウスはリビングルームに入った。「お待たせしました。」「いいえ、今きたところですので、お構いなく。」そう言って薄茶色の前髪を掻き上げ、ずり落ちた眼鏡を押さえながらカエサルはユリウスを見た。「これを、あなたに。」カエサルは黒い鞄から1冊の本をユリウスに渡した。ユリウスはそれを開いてページを捲った。「これは・・」「オイゲンが遺した2人についての研究ノートです。彼にとってアフロディーテと皇太子様は、研究しがいがあった貴重なサンプルだったようです。」カエサルはそう言ってフッと笑った。「あの男は自己満足の中で死にましたから、もうこのノートは彼とは無関係のものですがね・・あなたにとってこのノートは役に立つだろうと思って持ってきたまでです。」「何故・・何故私たちを・・」「決まっているでしょう。」カエサルは眼鏡の奥からコバルトブルーの瞳を鋭く光らせながら、ユリウスを見た。「私はアフロディーテにも、皇太子様にも生き延びて欲しいんです。それだけです。」(あなたの本当の望みは違うように思える・・私はあなたがわからない・・)去っていくカエサルの姿を、ユリウスは見えなくなるまで目で追った。そして彼から手渡された研究ノートを開いた。そこにはオイゲンが事細かにアフロディーテとルドルフの生態を書いていて、受胎期と昏睡期における2人の状態も詳しく記していた。そしてノートのところどころに、メモが挟まれてあった。(このノートを読めば、ルドルフ様は助かるかもしれない・・)一方が子を産むと死に、永い眠りに就く―20年に一度、始祖魔族に起こる受胎期のリスクをなくす方法が、このノートに記されているかもしれない・・そう思ってユリウスはノートを読み始めた。「まさか、そんな・・」一晩かけてノートを読んだユリウスは、衝撃の事実に愕然とした。
2007年11月13日
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「ただいま。」「お帰りなさいませ。」ホテルの部屋に着くと、ユリウスがそう言って自分を見た。「どうした?そんな顔をして?」「ソロモン様とは随分、仲がよろしいんですね?」嫌味ったらしく、ネチネチとした口調で言う。「まさかお前、妬いているのか?」そう言ってユリウスを抱きしめると、ユリウスは不機嫌な顔をした。「あなた様は変わりましたね。私といるときはいつも厳しい顔ばかりしてらしたのに・・ソロモン様といるときは笑顔を・・」「可愛い奴だな。」「か、からかわないでくださいっ!」嫉妬で潤んだ翠の瞳が、堪らなく愛しい。ユリウスの唇を塞いだ。「私が愛しているのは、お前だけだ・・」「ルドルフ様・・」ユリウスはその言葉を聞いて、クスリと笑った。「あなた様のお世話ができるのは、私だけですし。」「お前・・」ユリウスとこうして話しているときでも、胸の中で激しく恋の炎が燃え上がっているのを、私は感じていた。
2007年11月13日
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「こちらです。」ホテルに入ったソロモンは、そう言って最上階のスイートルームにルドルフを案内した。「久しぶりね、兄様v」そこにはブロンドの巻き毛を揺らして自分のほうへと走ってくるアフロディーテの姿があった。「どうして・・ロンドンに?」「ソロモンと一緒に来たのよv兄様に会わせてくれるっていうからv」「同じ魔族同士、憎みあうより分かり合うことの方が大事だと思いませんか?」「そんな戯言を聞くためなら、ここを出て行く。」ルドルフはそう言ってソロモンに背を向けた。「兄様って頑固なのね。1度決めたことは曲げないのよね・・それが兄様の悪いところだわ。」アフロディーテはそう言ってため息をついた。「もっとユリウスのことで兄様とお話したかったのに・・」「そんなにあせることはありません。まだ彼とは話し合う機会はあるんですから。」「そうね。」アフロディーテはそう言ってベッドに横になった。「私ね、兄様ははじめ嫌いだったけれど、考えてみれば兄様と私は血の繋がった唯一の家族で、似た者同士。今は喧嘩してるけど、そのうち仲良くなれるわ。だって、家族なんだものv」(兄様はいつか私のことをわかってくれるわ・・)アフロディーテはその夜、兄とユリウスと3人で暮らす幸せな夢を見た。だが現実はそうならないことを、アフロディーテは知っていた。
2007年11月13日
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「今夜は抵抗しないんですね。」ソロモンはそう言って煙草に火をつけた。漆黒の闇の中に、小さな火が灯る。「まぁな・・それに行きずりで男と寝たし。」ルドルフは気怠そうに言った。「それじゃあ、あの司祭とは別れたんですね?」「さぁ?」ルドルフはそう言って妖艶な笑みを浮かべた。(少し、言い過ぎたかな・・)ユリウスはルドルフにあんな言葉を投げつけるんじゃなかったと思いながら、パブで酒を飲んでいた。ルドルフはソロモンにレイプされてあの子を産んだ。育てたくなかったから捨てた。でもそんなことで簡単に割り切れるほど、子どもは物ではない。ミハエルはルドルフと自分に捨てられたことで、この世を恨み、憎んでもいる。だから力を暴走させて人を殺していく。マドリードでの生活はどうだったかは知る由もないが、相当ひどいものだったのだろう。ミハエルは孤児院を自分の手で焼いたのだから。ホテルへ戻る道すがら、ユリウスはルドルフの姿を見かけた。声をかけようとした時、隣にソロモンがいるのに気が付いて、躊躇った。ルドルフとソロモンは、ユリウスに全く気づかずに楽しくおしゃべりをしながら歩いていた。ソロモンがルドルフの耳元で何か言った。ルドルフはそれを聞いて、長い戦いが始まって以来自分にいままで一度も見せたことがない花のような笑顔をソロモンに見せた。その時、ユリウスは自分の中で何かが崩れていくような感覚がした。(ルドルフ様・・どうして・・どうして、彼にはそんな顔をお見せになるんですか・・)
2007年11月13日
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ルドルフは、あてもなく夜のロンドンを歩いていた。ユリウスと別れてから数週間がたち、行きずりの男と寝てはその血を奪う日々を送っていた。ユリウスに会いたい。けれども、自分にひどいことを言った彼を許せない。(どうすればいいんだ、私は・・)ルドルフはため息をついて路地にうずくまった。「また、会えましたね。」顔を上げると、そこにはソロモンが立っていた。内ポケットに入れてあった銃を取り出し、ソロモンに向けて撃った。「そんなもの、僕には効きませんよ。もちろん、あなたにもね。」「何しに来た?」「その様子だと、あの人と喧嘩したんですね。やっと僕にもチャンスが巡ってきたようですね。」「・・私は、お前など求めていない。」「やはり、あなたは嘘吐きだ。」ソロモンはそう言ってルドルフの唇を塞いだ。「あなたを、また抱きたくなりましたよ。」その夜、ルドルフはまたソロモンに抱かれた。ユリウスに対する想いを抱えながら。
2007年11月13日
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ミハエルは、ルドルフに拒絶されたことにショックを受けながら、ロンドン下町の路地裏に蹲っていた。「みんな・・みんな大嫌いだ・・ママも、人間もみんな・・」ミハエルはそう言って顔を膝に埋めてないた。「どうしたの、坊や?」顔を上げると、1人の老婆が自分を心配そうな顔で見ていた。「おなかが空いたのかい?」「うん・・」「じゃああたしのうちへおいで。」老婆に連れられミハエルが着いたのは、男色専門の売春宿だった。「おばあさん、こんなの聞いてないよ。」「何を言ってんだ、のこのことついてきたお前が悪いんだよ。」ミハエルはその夜から、何人もの男に抱かれた。人間は僕のことを嫌ってるんだ。だから僕をひどい目に遭わせるんだ。違う、人間だけじゃない。ママだって、あの人だって僕を捨てた。僕は、要らない子なんだ。許さない。この世の全てを、僕は許さないー内側からこみ上げる激しい怒りとうらみは、炎となって売春宿を焼き尽くした。ミハエルは悪魔のように微笑んで、その場を後にした。
2007年11月13日
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「出かけるぞ、ソロモン。」「はい、兄さん。」オルフェレウスとソロモンが向かったのは、ロンドン下町にある会員制のクラブだった。そこでは大勢の魔族達の社交場として使われていた。「これこれはオルフェ様、ようこそおこしくださいました。」支配人はそう言って2人に頭を下げた。「“あの方”は来ているな?」「はい、奥の部屋でお楽しみの真っ最中でございます。」「そうか。」2人が奥の部屋へと向かうと、そこには男達と乱交するアフロディーテの姿があった。「随分とお楽しみ中のようですな、わが君?」「ふふふ、だって気持ちいいんだもんv」アフロディーテはそう言ってオルフェレウスに微笑んだ。「ねぇ、兄様とユリウス喧嘩したみたい。やっと私にチャンスが巡ってきたのね?」「そうですよ。」「そう・・じゃあ、今度こそどんな手を使ってもユリウスをモノにするわv」そう言って犬歯を覗かせて笑うその姿は、悪の華そのものだった。
2007年11月13日
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「ソロモン、いままでどこに行っていた?」ロンドン市内にある豪邸の一室で、そう言ってオルフェレウスは弟を睨んだ。「少し足を伸ばしてマドリードへ行ってきました。愛する従妹殿の幸せをぶち壊しにね。」そう言ってソロモンは笑った。「さっきトラファルガーを通っていたら、原因不明の火災で60人が亡くなったことを警察の方から聞きましたよ。なんでも目撃者の話によれば、子どもがいきなり手品のように火を掌からはなったとか・・」「ほう、それは興味深い話だな。」オルフェレウスはそう言ってソファに腰掛けた。「賭けをしませんか、兄さん?」「賭け、だと?」「ええ、そうです。兄さんと僕、どちらがあの子を先に見つけるか。」「面白い。」ソロモンは花瓶に活けてある翠の薔薇を手に取った。「あの子・・ミハエルはいずれ僕達の戦力として使えますね、炎を操り、何もかも燃えつくす怒りの戦士として。」「“あの方”はすでにあの子と接触した。これから面白くなろうな。」「ええv」ソロモンはそう言って笑った。
2007年11月13日
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ユリウスと別れた後、ルドルフはパブでフィッシュ&チップスをつまみに強い酒を飲んでいた。(全く、なんだあいつは・・あの子どもは敵なのに、情けなんてかけて・・)“あなたがお産みになったんでしょう!”好きで産んだわけじゃない。ソロモンにレイプされて、堕胎しようと思ったら間に合わなかった。ただそれだけのことだ。それなのに、お前は私を責めるのか?一度過ちを犯した私を・・「姐さん、暇かい?」そう思いながらルドルフが飲んでいると、酔っ払いがそう言ってルドルフの腰に手を回した。「俺と一発、楽しもうぜ。」あんまり乗り気はしないが・・鬱憤晴らしにはいいだろう。ルドルフは返事をする代わりに、妖艶な笑みを彼に浮かべた。「男だったのか・・まぁ、出しちまっても妊娠しねぇからいいや。」ルドルフは男を壁際に押し付け、服を脱ぎ始めた。「な、なんだ、随分と積極的じゃねぇか。」そういう酔っ払いの顔はひきつっていた。「最悪だ・・」行きずりの夜を楽しんだ後、ルドルフはそう言ってため息をついた。
2007年11月13日
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「一体どうして・・ミハエルが・・」「あいつはもう過去だ、忘れろ。」ルドルフはそう言って歩いた。「忘れろなんて、そんな・・あの子はあなたの・・」「あいつは、私の息子じゃない。」(ルドルフ様・・あなたはいつもそうやって、冷たく切り捨ててきた・・自分より弱い者を)「私は・・あの子のことが気になるのです。私があの時手元で育てていれば・・」「奴は私たちの敵だ。かまうな。」「ですが・・」「お前、私に口答えするのか?」ルドルフはそう言ってユリウスのあごを掴んだ。「私は、あの子が心配なんです・・むやみに力を使って・・」「敵なんだぞ、あいつは!」「あなたがお産みになったんでしょう!」ルドルフの蒼い瞳が、怒りに燃えた。「それがどうした!私が悪いというのかっ!」「そんなことは・・」「もういい!」ルドルフはそう言ってユリウスを置いてさっさと歩いていった。
2007年11月13日
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「どうして・・君はあの時、マドリードの孤児院に預けたはず・・」「ああ、あそこなら燃やしちゃったv」そう言ってミハエルは笑った。「だってあそこ、大嫌いだったから燃やしたのv」「ひどいことを・・」ユリウスはそう言って吐き気を堪えた。「あんたたちが悪いんだよ?僕を捨てたから。」ミハエルの顔から笑みが消え、冷たい表情を浮かばせながら言った。「あんたたちが・・僕を捨てたから・・僕は・・狂ったんだぁっ!」どこからともなく強風が吹き荒れ、炎が風に舞って次々と建物を燃やす。「みんな燃やしてやる!あんたたちが大事にしている人間達を、燃やしてやるんだぁっ!」ミハエルは炎を自在に操りながら、狂ったように笑いながら消えていった。「ルドルフ様、早く火を消さないと!」「・・もう手遅れだ・・」ルドルフはそう言ってユリウスの手を引っ張って、トラファルガーをあとにした。2人が去ったトラファルガーは、瓦礫と灰が舞う、惨劇の場と化していた。
2007年11月13日
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「なんだ、お前は?」フレンチフライを頬張りながら、ルドルフは目の前にいる少年を睨んだ。「忘れたの、自分が産んだ子を?」「何のことだ?」「とぼけないでよ!僕を産んですぐに捨てたくせに!」少年は手から熱風を発し、その衝撃で窓ガラスが粉々に砕け散った。「僕待ってたんだよ、ママがずっと迎えに来てくれるのを・・でもママは僕をほったらかしにして、あいつとセックスばかりして・・許せない!」少年の怒りを表すかのように、掌の中の炎が徐々に大きくなってゆく。その尋常ではない様子を見たほかの客達は、慌てて逃げ出した。「お前は一体何を言っているんだ?私はお前なんか知らない。」ルドルフはそう言って少年にそっぽを向いた。「ユリウス、もう出よう。会計はお前に任せる。」「ええ、そんなぁっ!」ユリウスは財布を取り出し、9人分のフィッシュ&チップスの代金を払ってパブを出て行った。「・・さない。」少年の体が炎に包まれ、真っ赤に燃えた。「僕を無視するなんて、許さない!」怒りの叫びを少年が上げたのと同時に、パブは派手に爆発した。「な・・」ルドルフは爆発したパブを見て唖然とした。「一体、これは・・」隣にいるユリウスも、突然起こった出来事にあっけに取られている。そんな2人に向かって火の玉が飛んできた。ルドルフとユリウスはかろうじて火の玉をよけた。「ママ・・どうして僕を捨てたの、ママ?」パブから出てきたのは、先ほどの少年だった。その姿を見たユリウスは、昔捨てた赤ん坊のことを思い出した。「君は・・もしかして・・ミハエル?」「思い出してくれたんだ、うれしいなぁv」ミハエルはそう言って笑った。
2007年11月13日
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「やっと着いた・・ここならママに会える・・」長旅を終え、ロンドンの地に降り立ったミハエルは、そう言って大英帝国の帝都を見渡した。ミハエルは目を閉じ、“ママ”を探した。“ママ”はトラファルガー広場にあるパブの中にいる。「ママ・・今いくからね、待っててねv」ミハエルはニヤリと笑って歩き出した。その頃、トラファルガー広場にあるパブの中ではー「・・ルドルフ様、もうお食べにならないでください。」「何故だ?結構うまいぞ、これ。」「・・いくらなんでも、1人で8人前のフィッシュ&チップスを食べるのは限度が超えてますっ!」そう言ってユリウスが指差した方向には、空になった大盛りのイギリス名物・フィッシュ&チップスの容器がルドルフの横に積み重ねられていた。「イギリスの料理は不味いと聞いたが、そうでもないな。フィッシュ&チップスだけは別だな。」「・・ルドルフ様、まだ食べる気でいらっしゃるんですか?ここに来る前もパエリア10人前1人で平らげたというのに、まだ足りないのですか?」ユリウスはそう言ってためいきをつき、頭を抱えた。そのとき、1人の少年がパブに入ってきた。癖のあるブロンドに、トルマリンとサファイアのオッドアイをした少年は、誰かを探している。その少年を包む激しい憎悪と恨みを感じて、ユリウスは倒れそうだった。やがて少年の目が、さらにフィッシュ&チップスを頼もうとするルドルフを見つけ、ゆっくりとこっちに向かって歩いていく。「やっと会えたね“ママ”。」そう言って少年はニヤリと薄気味悪い笑みをルドルフに浮かべた。
2007年11月13日
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