全81件 (81件中 1-50件目)

突然隣の隣室から聞こえた怒鳴り声に、ガブリエルは恐怖で顔を引き攣らせた。「大丈夫よガブリエル、隣の人が喧嘩をしているだけよ。」アレクサンドラはそう言って今にも泣きだしそうになっているガブリエルの手を握った。「食事の最中に喧嘩とは、隣は一体何をしているんだ?」「さぁ・・」アレクサンドラとルドルフがそんな話をしていると、隣の個室から誰かが出て来る気配がした。「クリスティーナ、更衣室で何か嫌な事でもあったの?」「まぁね。俺が着替えようとしたら、新体操クラブの奴らが来て男子更衣室はあっちだってからかわれただけさ。まぁ、こっそりとからかってきた奴の髪にガムをくっつけてやったけど。」「言わせたい奴には言わせておけばいい。お前はお前らしくあればいいんだ、ティナ。」「有難う、お祖父様。」「おいおいティナ、わたしはまだお爺さんと呼べる年じゃないぞ?」「じゃぁ、何とお呼びすればいいですか?」「名前で呼んでくれ。“皇太子様”と今更他人行儀な呼び方はして欲しくないし、そっちの方が気楽でいい。」「じゃぁ、ルドルフ様とこれからお呼びしますね。」クリスティーナがそう言ってルドルフに笑顔を向けた時、給仕がデザートを運んできた。「こんなに沢山食べたのは久しぶり。」「そうだな。アレクサンドラ、少し飲み過ぎたんじゃないか?」「あら、そうかしら?」 レストランから出たルドルフは、アレクサンドラが覚束ない足取りで店から出て行こうとしていることに気づき、彼女を必死に抱き留めた。「すいません。お父様、子供達は?」「レナードが見てくれている。あいつは昔と少しも変わっていない。」「お父様は、レナードさんとどのように知り合われたのですか?」「子供の頃、母上に連れられてバイエルンに行って、湖で遊んでいたわたしは水中で足が攣って溺れてしまった。女官や侍従達が慌てふためく中で、真っ先に湖に飛び込んでわたしを救ってくれたのがレナードだった。」「まぁ、まるで映画のような出逢いですわね。」「そうだな。それから色々とあって、レナードとはあることが原因で袂を分かつことになってしまった。」「あること?」「些細な事で、わたしがレナードを誤解してしまった。後日わたしは自分が間違っていたことに気づいて、彼に謝罪しようとしたが・・その時既に彼はウィーンを発ってしまっていた。」「まぁ・・それから、レナードさんとは音信不通のままだったのですか?」「ああ。その出来事の後、わたしは結婚の準備に追われていたから、彼を捜そうにも時間がなかった。いや、わたしは敢えて彼と距離を置く為に、彼を捜そうとしなかったのかもしれない。」「お父様・・」「済まない、こんな話をしてしまって。さぁ、家に帰ろう。」「はい。」 アレクサンドラとルドルフがレナード達の待つ車へと向かおうとした時、突然カメラの眩いフラッシュが二人を襲った。「さっきのは一体何だったのでしょう?」「さぁ・・」 アレクサンドラはそう言って首を傾げると、そのままルドルフと共に車に乗り込んだ。「お帰りなさいませ、皇太子様。皇帝陛下がお呼びです。」「わかった。レナード、済まないが子供達を部屋へ連れて行ってくれないか?」「かしこまりました、ルドルフ様。」 車から降りたレナードがガブリエルとクリスティーナを連れて廊下を歩いていると、一人の女官が彼らの元へ駆け寄って来た。「レナード様、大変です!」「何かあったのですか?」「実は先ほど、爆破予告の電話が王宮に掛かって来たのです。」「それは、皇帝陛下もご存知なのですか?」「はい。レナード様、ガブリエル様達を連れて王宮から避難してください!」 女官に誘導されながら、レナード達は再び王宮の外へと出た。だが、自分達の他に王宮内に居る人間達が外から出て来る気配がない。「あの、本当に爆破予告の電話があったのですか?」不審に思ったレナードが自分達を誘導した女官にそう話しかけると、彼女は突然ガブリエルの腕を掴んで自分の方へとガブリエルを引き寄せた。「ガブリエル様に何をする!」「おっと、動くんじゃないよ。少しでも動いたら、この子が死ぬよ。」そう言った女官の手には、ナイフが握られていた。「お前は一体何者だ!?」「皇太子様に伝えな。可愛い我が子を死なせたくなかったら、5万ユーロ用意しろと。」女官はガブリエルの首筋にナイフを突き立て、そのまま闇の中へと消えていった。「レナード、ティナ、無事か!?」「ルドルフ様、女官がガブリエル様を攫いました!ガブリエル様を死なせたくなったら、5万ユーロを用意しろと・・一体、どういう事なのですか?」 レナードがそう言ってルドルフの方を見ると、彼は険しい表情を浮かべていた。「さっき父上から部屋へ呼ばれて、この王宮内に反政府勢力のスパイが潜んでいるという報告を受けた。胸騒ぎがしてお前達を探していたら、侍従からそのスパイにお前達が外へと連れ出されていたと聞いてやって来たが、遅かったか。」「ルドルフ様、ガブリエル様を救う為に5万ユーロを用意いたしましょう。」「解った。レナード、お前は警察に通報してくれ。」「レナード、姉様は助かる?」「ご安心ください、クリスティーナ様。ガブリエル様はわたしとルドルフ様が必ず救出致します。」 ガブリエルが誘拐されてから数分後、警察が王宮へとやって来た。「先ほど犯人から電話がありました。犯人の居場所が特定されましたので、今から向かいます。」「わたしも一緒に行こう。」(ガブリエル、どうか無事でいてくれ!)にほんブログ村
2016年05月28日
コメント(0)

期間限定のクランチバー、母が購入しました。結構濃厚な味でした。
2016年05月28日
コメント(2)
![]()
表紙とタイトルの意味が最初わからなかったのですが、読み進めていくうちに御巣鷹山の墜落事故と被害者達の接点が見えてきて、成る程と思いました。墜落事故を見物してカメラに向かってピースをするのは、子どもの悪ふざけではすまなかったんでしょうね、犯人は。それで人を殺すのは間違ってますが。真の黒幕の正体がラストに解ってびっくりしましたし、少しもやっとした読後感を抱きました。
2016年05月27日
コメント(0)

週が明け、クリスティーナのフェンシングの試合を観戦する為、ルドルフはアレクサンドラ達とレナードを連れて試合会場である市民体育館へと車で向かっていた。「お父様、本当にご自分で運転してもよろしいのですか?最近物騒ですし、運転手の方を雇った方がよいのでは?」「そっちの方が危険だろう。最近は使用人に紛れ込む暗殺者も居るらしいからな。紹介状を持っている者でも、素性が判らない相手は宮廷には入れない方がいい。」「そうですわね。それにしても、この渋滞を抜けるまでティナの試合が始まる時間まで間に合うかしら?」「大丈夫だろう。サミットが来週開催されるから、交通規制が敷かれて渋滞しているんだろう。」ルドルフはそう言って前方を眺めていると、突然一人の警察官が運転席側の窓を叩いて来た。「何か?」「申し訳ありませんが、免許証を拝見しても宜しいでしょうか?」「解った。」ルドルフは警察官に素直に従うと、彼に免許証を見せた。「有難うございました。お時間を取らせてしまって申し訳ありませんでした。」「仕事、頑張ってくれ。」自分に向かって敬礼する警察官に笑顔を浮かべたルドルフは、渋滞を抜けた後体育館まで車を走らせた。 試合会場にある体育館には、聖マリアアカデミーの生徒達やフェンシングクラブの保護者でひしめき合っており、ルドルフ達が体育館に入って来ると、ルドルフの姿を見た母親達が一斉に黄色い悲鳴を上げた。「お父様は相変わらず国民の人気者ですわね。」「それは褒め言葉として受け取っておこう。混まない内に二階席へ行くぞ。」「はい。」アレクサンドラがユリウスを抱いて二階席へと向かおうとした時、彼女は段差に躓(つまず)いて転倒しそうになった。「大丈夫ですか、アレクサンドラ様?」「大丈夫よ、有難うレナード。」「ユリウス様はわたしが抱きましょう。」アレクサンドラからユリウスを受け取ったレナードが彼女と共にルドルフ達が待つ二階席へと向かうと、ルドルフは見知らぬ黒髪の女性と何処か親しい様子で話をしていた。「皇太子様、こちらの方は?」「あら、貴方は確かレナード様ではなくて?」レナードの姿に気づいた黒髪の女性はそう言うと、好奇心と野心に満ちた瞳を彼に向けた。「マリー、どうして貴方がここに居るの?」背後に立っていたアレクサンドラが柳眉をつり上げてかつての親友の名を呼ぶと、彼女は口端を歪めて笑った。「わたしは娘の試合を観に来たのよ、貴方と同じでね。ほら、貴方の娘の対戦相手が、わたしの娘よ。」黒髪の女性―アレクサンドラの元親友・マリー=ヴェッツェラは、そう言うと持っていた扇子でクリスティーナと対戦しようとしている少女を指した。その少女は母親と瓜二つの顔をしていて、何処か生意気そうだった。「貴方の娘さんって、貴方にちっとも似ていないわね?」「あら、クリスティーナはわたしの母に似たのよ。美人のDNAを受け継いでいるの。貴方の娘さんは、顔も性格も貴方にそっくりなのでしょうね。」アレクサンドラはクリスティーナの容姿をマリーに貶(けな)されると、すかさず彼女に嫌味を言った。 マリーとアレクサンドラが無言で睨み合っていると、試合が始まった。「ティナ、頑張れ~!」「ティナ、負けるな!」ルドルフとガブリエルの声援を受け、クリスティーナは試合で見事優勝した。「ティナ、優勝おめでとう。」「有難う、お祖父様。」「素晴らしい試合だったわよ、ティナ。」「有難う、お母様。」 家族から祝福されているクリスティーナとは対照的に、マリーの娘・レオナはマリーに怒鳴られて俯いていた。「あなたって子は、どうして本番に弱いのかしら!」「ごめんなさい、お母様・・」「あらマリー、もう帰ってしまうの?これからわたし達食事に行くのだけれど、貴方達もご一緒にいかが?」「いいえ、結構よ。急用を思い出したの。行くわよ、レオナ!」 マリーはそう言うとレオナの手を引っ張り、体育館から出て行った。「あの子ったら昔から変わっていないわね。さぁティナ、早く着替えて食事に行きましょう。」「はい、お母様。」 クリスティーナが着替えの為に女子更衣室に入ると、そこには新体操クラブに所属する三人の少女達がレオタードに着替えて出て行こうとしている所だった。「男子の更衣室はあっちよ。」少女達の一人がそう言ってクリスティーナを見ると、他の二人が彼女の言葉を聞いて笑った。クリスティーナは彼女達を無視して、自分のロッカーを開けて私服に着替えて更衣室を出るとき、擦れ違いざまに自分をからかってきた少女の髪にガムをつけた。「遅かったわね、どうしたの?」「ううん、別に。」「さぁ、道が混まない内にレストランへ行こう。」「はい、お祖父様。」 ルドルフ達が昼食の為に入ったレストランの個室で前菜を食べていると、突然隣の個室の方から男の野太い怒鳴り声が聞こえた。「こんな時期にお前は一体何を考えているんだ!」にほんブログ村
2016年05月27日
コメント(0)
![]()
16年前に出版された、ある女性の自伝です。この本を初めて読んだのは、高校生のときです。インドという国の実態について、余り良く知らなかったのですが、この本を読み、「カースト」という厳然とした身分制度と、男尊女卑が罷り通ることを知り、読み終わった後は怒りが沸いていました。プーランは伯父が父親から奪った土地を取り戻すために戦っただけだというのに、濡れ衣を着せられ、レイプされ、人間の尊厳を奪われた。こんな不条理が罷り通っていいのでしょうか?未だにインドは男尊女卑の国だといわれており、ある民法の情報番組では、インドの女性は親が決めた相手と結婚するといいます。IT大国として注目を浴びる一方で、女性への差別が激しい国・インド。16年の時が経ち、国会議員となったプーランが2001年に暗殺されましたが、もし彼女が生きていたのなら、未だ変わらぬ不条理な世を変えていたのかもしれません。
2016年05月26日
コメント(0)
![]()
実はこの作品、一度読んだことがあるんですが、また再読ということで、文庫版を購入しました。タイトル通り、作中には様々な「毒」が登場します。この作品には原田いずみという、強烈な人間が登場します。「生まれついての嘘吐き」で、自分に都合のいい嘘ばかりを並べては、他人を振り回すことに愉悦を感じる女です。そんな彼女が持っている“毒”が、強烈過ぎました。あと、ある青年も作品の終盤辺りで登場するのですが、この人の場合は、“毒”は、「何故自分だけがこんなに苦しい思いをしなければならないのか」という、“理不尽な怒り”であり、「自分が苦しんでいるんだから、他人だって苦しめばいいじゃないか」という、“身勝手さ”です。目に見えない“毒”に溢れたこの作品、二度目でも読み応えがありました。
2016年05月26日
コメント(0)
![]()
ちょっと毒舌感想入ってます。見たくない方は引き返してください。今回は、「二都物語」で登場した亜紀ちゃんが、色々と騒ぎを起こします。楡崎さんが好きな亜紀ちゃんにとって、千代菊はライバル。都をどりの稽古場で、先輩の芸妓をさしおいて三味線の稽古をしたことをねちねち言われて、口答えしたりと、なんだか波風立てているような。それに・・恋文を書いて、千代菊を陥れようとしたり・・。憧れの人にラブレター書いて、それを1人で楽しむのは良いんですが、置き忘れたりしたって、なんだか怪しい。というのも、わたし亜紀ちゃんにあまりいい感情持ってません。「二都物語」で亜紀ちゃんが千代菊を困らせたことがあったんで、この子欲しいモノのためなら、どんなことでもするな・・って思いました。今回は美希也が活躍する巻で、よかったです。千代菊になるときのスイッチの切り替えが早くていいですね。入院したお母さんの代わりに置屋の女将をしたりと・・将来が楽しみな子だなぁvもちろん、千代菊の方も応援していますが(同一人物だし)。
2016年05月26日
コメント(0)
![]()
新キャラ登場です。楡崎さんに会いたいがために祇園町にやってきた少女・亜紀。なんだか好きな人の前でははじらいをみせるけど、千代菊の前ではガラリと態度が違います。この子、あんまり好きじゃないな~
2016年05月26日
コメント(0)
![]()
楡崎、チョコが苦手だったんですね。意外な弱点が。でもチョコレート千代菊を見てニヤける姿は、ちょっとひいてしまった。千代菊一筋なのね、あなたは。
2016年05月26日
コメント(0)
![]()
楡崎さんの父親・ロウさんこと源一郎さんが登場です。父はダンディー、息子はセクシー。なんという魅力的な親子なんだ。楡崎さんの母親のことが出てきます。病を患いながらも、楡崎さんを産んだお母様。どんな人か、見てみたいですね。互いの誤解で、擦れ違ってしまった楡崎父子ですが、誤解が解けて仲直り。ハッピーエンドでよかったな~v
2016年05月26日
コメント(0)
![]()
バレエ団で起きた殺人事件。 今回の舞台はバレエ団とあってか、華やかな世界の裏側には、ダンサー達の無茶な減量などが描かれていて、ミステリー要素の他にドキュメンタリー要素が少し入っていて面白かったです。 そして、加賀とバレエダンサー・未緒との悲しいラブストーリーが、この物語の一番魅力的なところでした。 ラストの加賀が未緒に掛ける言葉が、胸に響きました。
2016年05月26日
コメント(0)
![]()
クラス会出席の為に20年ぶりに帰郷したジーン。連続殺人犯・梟の正体が次第に明らかになるにつれ、ジーンの恋人の死の真相なども明らかになり、最初から最後までページを捲る手が止まりませんでした。学生時代のいじめの記憶が、物語の鍵となっているのですが、加害者は記憶を忘れて人生を謳歌しても、被害者は学生時代に受けた傷を引き摺ったまま。梟の動機は解るのですが、殺人は駄目ですね。加害者に対する復讐なら、社会的抹殺のようなものにしなれば…と、読んでいる途中に思ってしまいました。ジーンが産んだ娘・メレディスことリリーとの対面のシーンは良かったし、彼女がマークと結ばれたことも嬉しかったです。読み応えのあるクラーク作品をもう読むことが出来ないのが、残念です。
2016年05月24日
コメント(0)

レナードがガブリエルの部屋からスイス宮へと向かう途中、アレクサンドラの部屋の前に人だかりが出来ている事に気づいた。「アレクサンドラ様のお部屋の鍵が誰かに壊されていたのですって・・」「まぁ、物騒ね。犯人は一体誰なのかしら?」「まさかこの宮殿内に居るのではなくて?」 女官達の噂話を聞きながら、レナードはそのままスイス宮へと向かった。「ルドルフ様、今宜しいでしょうか?」「ああ、入れ。」「失礼いたします。」 レナードがルドルフの執務室に入ると、彼は執務机の前に座って書類の決裁をしていた。「お話したいこととは、何でしょうか?」「単刀直入に言う。レナード、お前はガブリエル達の父親が誰なのか、薄々と気づいているんじゃないか?」「何をおっしゃっているのですか?」「とぼけても無駄だ、レナード。アレクサンドラの部屋の鍵を壊し、新入しようとしたのはお前だろう?」そう言って自分を見つめるルドルフの瞳が怒りに滾っている事に、レナードは気づいた。「いいえ、わたしではありません。アレクサンドラ様の部屋の事は、先程知りました。」「そうか。」ルドルフはゆっくりと椅子から立ち上がると、レナードの前に立った。「お前を疑ってしまって済まなかった。」「いいえ、わたしは気にしていません。それよりもルドルフ様、用件をお話しし下さい。」「実は、今朝こんな物がわたし宛に届いた。」ルドルフは執務机の隅に置いてあった封筒をレナードに手渡した。 封筒には差出人の名前と住所が記されていなかった。「中身は確認したのですか?」「ああ。メモリーカードが一枚入っていた。」ルドルフはメモリーカードを執務机に置かれていたノートパソコンに挿し込むと、画面に複数枚の写真が表示された。 その写真には、ユリウスに授乳しているアレクサンドラの姿や、ルドルフとアレクサンドラが仲良くベッドで寝ている姿などが写っていた。「一体誰がこのような物をルドルフ様に送りつけたのですか?」「今は判らないが、郵便局の消印を見ると中央郵便局から送られて来た事が判った。このメモリーカードの件といい、アレクサンドラの部屋の鍵の件といい、薄気味悪い事ばかりが続く。」「ルドルフ様やアレクサンドラ様の事を憎んでいる相手が、嫌がらせをしたのでしょうか?」「わたしならともかく、アレクサンドラを憎んでいる相手など見当がつかない。あいつは女官達の人気者で、ちょっとした旅行や外出の際には彼女達に土産物の菓子を自ら配っていたし、女官達もあいつの事を慕っていた。」「そうですか。わたしはまだこちらに来て日が浅いので、アレクサンドラ様付の女官達がどのような者達なのかは全く解りません。ですが女同士の付き合いというものは、些細な事が原因でトラブルが起こり易いものです。アレクサンドラ様が気づいていなくても、彼女から馬鹿にされたと感じた者が居るのではないでしょうか?」「お前の言う事も一理あるな。その点も含めて調べてみよう。」ルドルフはそう言うとノートパソコンからメモリーカードを抜き取り、それを鍵付きの引き出しの中にしまった。「レナード、お前にこの事を話しておいて良かった。今回の事は、犯人が判るまで誰にも口外しないでくれ。」「解りました。」レナードがそう言ってルドルフを見ると、彼は溜息を吐いて椅子に座った。「最初の話に戻ろう。お前は、ガブリエル達の父親が誰なのかを知っているのだろう?」「いいえ、誰なのかは全く存じ上げません。」「そうか。ここだけの話だが、あの子達の父親は、このわたしだ。」ルドルフから衝撃的な告白をされ、レナードは驚きのあまり絶句した。「では、ルドルフ様はアレクサンドラ様と男女の関係にあると・・」「ああ。この事はわたしとアレクサンドラの母親、そして亡くなった母上しか知らない。だから、わたしにあのメモリーカードを送り付けて来た犯人が、何故ガブリエル達の出生の秘密を知ったのかが解らないんだ。」「誰かが、ルドルフ様を陥れる為に仕組んだ陰謀なのかもしれません。」「だとすれば、犯人を絞っていけば誰なのかが判るな。レナード、仕事の引き継ぎで忙しい時にわざわざ来てくれて済まなかった。」「わたしの方こそ、ご多忙なルドルフ様がわたしの為にお時間を取ってくださって感謝しております。早く犯人が判るといいですね。」「お前とは久しぶりに食事をしながらゆっくりと話をしたいな。今度の水曜日に、家族でティナのフェンシングの試合を観に行くことになっているんだ、お前も一緒に行かないか?」「喜んでご一緒させて頂きます。」 レナードがルドルフの部屋から出ると、誰かの視線を感じて彼は背後を振り向いたが、そこには誰も居なかった。(気のせいかな・・)レナードがそう思いながら廊下を歩いていると、向こうからアレクサンドラの長女であるクリスティーナ皇女が歩いてくるのが見えたので、レナードは廊下の隅に寄って皇女に会釈した。「クリスティーナ様、こんにちは。」「レナード、姉がいつも世話になっている。挨拶が遅れて済まない。」 五歳とは思えぬほどに礼儀正しい口調で話す皇女の姿に驚いたレナードは思わず彼女の顔を見つめてしまった。「どうした、わたしの顔に何かついているのか?」「いいえ。クリスティーナ様のお姿を拝見していると、昔のルドルフ様のお姿と似ていらっしゃるなと思いまして・・」「そうか。確かレナードは、皇太子様の幼馴染だったな。その話を今度聞かせて貰えないか?」「解りました。ではわたしはこれで失礼致します。」 幼いながらも威厳がある皇女の背中が見えなくなるまで、レナードは彼女に向かって頭を下げた。にほんブログ村
2016年05月24日
コメント(0)

「ガブリエル、こんな所に居たのか。」「お父様!」 レナードとガブリエルの背後から、丁度公務を終えたルドルフが王宮庭園へとやって来た。「ルドルフ様、こんにちは。」「お前達、こんな所で何をしている?今は勉強の時間じゃないのか?」「勉強ならさっき終わらせたわ。息抜きにレナードが散歩に連れて来てくれたのよ。」「そうか。ガブリエル、勉強は頑張っているか?」「はい、お父様。」「そうか、偉いな。」ルドルフはそう言ってガブリエルの頭を優しく撫でた。「レナード、後で話したいことがある。」「解りました。」「じゃぁガブリエル、また後で会おう。」「はい、お父様。」王宮庭園から去っていくルドルフに元気よく手を振るガブリエルの姿を見たレナードは、先程のガブリエルの言葉を思い出していた。“レナードが良く知っている方よ。”(まさか、ガブリエル様の父親は・・)「レナード、どうしたの?」「いいえ、何でもありません。さあガブリエル様、そろそろお部屋に戻りましょう。」「うん!」 レナードと共にガブリエルが自室に戻ると、テーブルの上にはおやつのクッキーが置かれていた。「レナード、わたし手を洗ってくるから先に食べてもいいわよ。」「わたしも手を洗いましょう。」ガブリエルと共に浴室に入ったレナードは、ガブリエルが手を洗っている隙にブラシについていたガブリエルの髪を一本抜き取った。「このクッキー、美味しいでしょう?このクッキー、お母様がわたしの為に焼いてくださっているのよ!」「そうなのですか?ガブリエル様は優しいお母様をお持ちで羨ましいですね。」「そうかしら?最近お母様、ユリウスに構ってばっかりでわたしの事を愛してくださらないみたいなの。」「そんな事はありませんよ。ユリウス様はまだ手がかかるお年頃なので、アレクサンドラ様はユリウス様のお世話をしながらも、ガブリエル様の事をいつも想っていらっしゃいますよ。」「本当?」「ええ、本当ですよ。」「あら二人とも、何を話しているの?」 レナードとガブリエルがクッキーを仲良く頬張りながらそんな話をしていると、そこへユリウスを抱いたガブリエルが部屋に入って来た。「お母様、クッキーを焼いてくださって有難う。」「貴方の喜ぶ顔が何度でも見られるのなら、毎日焼くわ。今日は、貴方が大好きなチョコレートチップスクッキーにしてみたの。ガブリエル、クッキーを食べた後はちゃんと歯を磨きなさいね。」「はい、お母様!」ガブリエルは元気よく椅子から降りて、歯を磨く為に浴室に入っていった。「レナード、あの子の様子はどう?何か我儘を言って貴方を困らせたりはしていない?」「いいえ。勉強や宿題はちゃんとしていますし、ピアノのレッスンもちゃんと受けています。」「そう。貴方が来る前は、何人もの家庭教師達があの子に匙(さじ)を投げて次々と辞めていったの。丁度その頃は、わたしがユリウスを妊娠中で入退院を繰り返していたから、精神的に不安定な状態が続いていたのよ。」「ガブリエル様はアレクサンドラ様の事を心から愛していらっしゃいます。どうかその事を忘れないでください。」「解ったわ。」アレクサンドラはそう言うと、レナードに微笑んだ。「お母様、さっき王宮庭園でお父様と会ったわ。」「もうガブリエル、その呼び方は止めなさいと言ったでしょう?」「でも、お父様はお父様だもの!」そう屈託なく言ったガブリエルの姿に、アレクサンドラは内心溜息を吐いた。この部屋にはレナードと自分しかいないからいいものの、近くで噂好きの女官達が盗み聞きしているかもしれない。「レナード、ごめんなさいね。この子ったら、皇太子様の事をお父様と呼ぶ癖が直らないのよ。」「いいえ、最近ではお互いファーストネームで呼び合ったりするお爺ちゃんや孫もいらっしゃるようですし、皇太子様はガブリエル様から見ればお祖父様というよりはお父様とお呼びになった方が相応しいかと。」「ふふ、それもそうね。皇太子様はまだ三十代ですもの、お祖父様とガブリエルから呼ばれたくないわよね。」 レナードの言葉にアレクサンドラは一瞬ヒヤリとしたが、慌てて彼にそう言うと笑顔を浮かべた。その時、眠っていたユリウスがもぞもぞと動き出したかと思うと、彼は癇癪を起こして激しく泣き始めた。「まぁユリウス、一体どうしたの?」「ユリウスはきっと、トイレに行きたいのではなくて、お母様?」「じゃぁガブリエル、またお昼に会いましょうね。」泣きじゃくるユリウスのおむつを替える為、アレクサンドラがガブリエルの部屋から出て来ると、廊下には一人の女官が控えていた。「どちらへ行かれるのですか、アレクサンドラ様?」「ユリウスのおむつを替えに部屋へ行くの。何故そんな事をいちいち聞くの?」「申し訳ございません。」その女官はアレクサンドラに頭を下げると、慌てて何処かへと行ってしまった。(変な人ね・・余り関わらないようにしよう。) アレクサンドラはユリウスを抱きながらドアの鍵穴に鍵を挿し込んで部屋の中に入ろうとした時、誰かがドアの鍵穴を壊した跡を見つけた。にほんブログ村
2016年05月24日
コメント(0)

母が買ってきてくれたじゃがりこクリームチーズ味。上品でまろやかな味でした。
2016年05月24日
コメント(2)
![]()
2014年に読み終えた本は、話題沸騰のミステリー小説です。パリの路上で何者かに拉致され、檻に監禁されたアレックス。それと同時に起こる連続惨殺事件。その真相が第三部でわかり、唖然としてしまいました。
2016年05月23日
コメント(0)
![]()
スカーペッターシリーズ21作目。今回はスリリングで面白い作品でした。序盤から複数の伏線が張られていて、それが全てラストで明らかになるというところが、この作品の魅力かもしれませんね。まぁ、初期の頃の作品の方が、面白いのですけれどね・・(←コラ)
2016年05月23日
コメント(0)
![]()
パラノーマル・ロマンスは余り多く読んだことはないのですが、この作品は最初から最後まで面白く、ページを捲る手が止まりませんでした。魔力を使える一族が富を占有している社会。現実世界の格差社会と似たような社会構造ですが、ヒーローのマッドは、紳士的ではないですがとても魅力的な男。ただ、ヒロインのネバダが可哀想な事になっていて途中で読むのが少し辛かったです。三部作の第一作目ということで、続きがいつ出るのかは解りませんが、楽しみです。
2016年05月23日
コメント(0)
![]()
三月十三日十三時十三分十三秒―全ての人間が消えた東京で、唯一消えていなかった13人の男女。彼らは何故選ばれたのか―その真相が終盤近くになって明らかになった時、思わず叫びそうになりました。並行宇宙(パラレルワールド)というのはよく小説の題材になったりしますが、東野さんがその世界を描くとリアルに感じられました。読み終わった後、ラストが希望に満ちた終わり方でよかったと思いました。
2016年05月23日
コメント(0)
![]()
何だか不思議な小説でした。多重人格を扱ったミステリーは色々とありますが、この小説は悲恋物語かな。前に読んだミステリー小説よりも、面白かったし、これぞ百田さんってカンジでした。
2016年05月23日
コメント(0)
![]()
千代菊シリーズ最新作。何だかシリアスな展開が続くなぁ。過去に千代菊と会ったセラが、美青年となって千代菊の前に現れるとは思いもしなかった。それに、ラストシーンがまた切ない!
2016年05月23日
コメント(0)
![]()
イオンの本屋で平積みされているのを見て、思わず手に取った本です。時代小説はめったに読まないのですが、ヒロイン・七緒の性格がサバサバしていて、自分で行動を起こすタイプで好感が持てました。結構好きです、このシリーズ。一作目「歯のない男」も、機会があったら読んでみようと思います。
2016年05月23日
コメント(0)
![]()
新聞の広告に載っていたので、興味を持って購入しました。謎のウィルスが、北海道を襲うというストーリーなのですが、その正体は・・何だか、「ヴァイオ・ハザード」のようなスリリングな展開が続き、驚愕のラストを読んだ後は暫く放心してしまいました。帯に書いてあった「徹夜して読んだ」的な感想は、嘘ではなかったと・・とても面白い本でした。
2016年05月23日
コメント(0)
![]()
加賀恭一郎シリーズ第一弾。友人の死の真相を追う加賀達・・何だか少し後味の悪いラストになってしまいましたね。最後の加賀と紗都子さんの会話が切ないです。
2016年05月23日
コメント(0)
![]()
ある事件の背景には、被害者と加害者の暗い過去があった。いじめは一人の人生を狂わせるっていうのは、本当ですね。タイトルどおり、ある人物の悪意に震えた作品でした。
2016年05月23日
コメント(0)
![]()
明治維新後、武士の身分を失い、廓で働く定九郎。凛とした佇まいを崩さぬ花魁・小野菊。根津遊郭の中で繰り広げられる様々な人間模様、そして明治維新となっても庶民の暮らしは何ら変わりはしないということを読んでいて感じた作品でした。その中で、小野菊花魁の花魁道中が華やかで、籠の鳥でありながらも花魁としての誇りを見せる彼女の生き様に同じ女として惚れてしまいました。
2016年05月23日
コメント(0)
![]()
姉・スーザンがハリケーンの日に殺害された事件を題材に小説を書いたヒロインに、次々と襲い掛かる不可解な出来事・・スーザンの本性がなぁ・・しかも、彼女を殺した犯人がヒロインの身近に居たなんて・・ラスト30ページには予想外の展開に目を丸くしてしまいました。
2016年05月23日
コメント(0)
![]()
これもドラマ化された作品ですが、ドラマは観ておりません。二つの事件が同時進行し、驚愕の真実が明らかになり・・それまで、手に汗握るシーンばかりが続きます。ある製薬会社がらみの陰謀は、まるで現実に起きた某製薬会社の「薬害エイズ」事件を連想させます。医療の発展の為に貢献する製薬会社・・その裏には様々な人間の欲望が渦巻いているんでしょうね。
2016年05月23日
コメント(0)
![]()
何年か前に、谷口章介さん主演でドラマ化された小説です。息子と妻の死に絶望し、医師を辞めてホームレスとなった主人公・日高。彼がかつて救った少年・真人が連続殺人犯ではないかと疑った彼は・・というストーリーです。連続殺人事件を日高が調べているうちに、犯人が途中で判ったりして、ちょっと拍子抜けしてしまいましたが、時間を忘れて読みふけってしまいました。ラストは、救いのあるシーンでよかったです。
2016年05月23日
コメント(0)
![]()
「半沢直樹」シリーズでおなじみ、池井戸潤さんの金融サスペンス。友人の死をきっかけに、その真相を解明するうちに闇に蠢く陰謀の存在を知る・・というストーリー。物語がテンポ良く進み、犯人が判った時はびっくりしてしまいました。
2016年05月23日
コメント(0)
![]()
スカーペッターシリーズの最新作。今回はかなりスリリングな作品でした。最初から最後まで犯人が誰なのか分かりませんでした。「黒蠅」から失速しつつあったこのシリーズ、これから初期の頃のような面白さを取り戻してほしいと期待しています。
2016年05月23日
コメント(0)
![]()
タイトルが少し不気味で、最初のページがヒロインが生き埋めにされてしまうシーンでびっくりしました。ヒロイン・マギーのかつての継母・ヌアラが何者かに殺害され、彼女が入居を希望していた高齢者専用マンションで相次ぐ入居者の不審死・・中盤辺りから看護師と医師夫妻、そして葬儀屋一家が怪しいなと思ったんですが、黒幕が意外な人物でびっくりしました。欲に目が眩んだ人間は、何もしても感じないのでしょうね。クラーク作品は、何といっても悪人に裁きが下され、ハッピーエンドになるところでしょうか。後味の悪い結末を迎える作品は、読んだ後モヤッとしてしまうことがありますので、ハッピーエンドを迎える作品が好きです。
2016年05月23日
コメント(0)
出会い系サイトで会った女・リカにつきまとわれる主人公。妻子がありながら、興味本位で出会い系サイトに手を出したら駄目ですね。主人公の親友・原田の言葉が胸に重く響きました。
2016年05月18日
コメント(0)
『変死体』から、初期の頃と同じように面白くなってきたスカーペッターシリーズ。新作の『標的』は、まさかのあの人物が再登場。しかも緊迫した展開で終わるなんて・・何だか続きが気になります。
2016年05月18日
コメント(0)
![]()
亡くなった家族が、ある日蘇るー南部の田舎町で繰り広げられる家族と死を巡るドラマ。亡くなった人に会いたい、それは決して叶わない願いだけれど、その願いが叶ったら嬉しいだろうな。亡くなった人(帰還者)に対する排斥運動が世界中で広がっているシーンは、移民・難民排斥運動と被って恐怖を覚えました。亡くなった人が生き返っても、家族が受け入れるかどうかー後悔の念がなくなるのかどうかを、作者は作品を通してわたし達に伝えたかったように思えました。
2016年05月18日
コメント(0)
![]()
黄色い朝顔を巡る謎と、2つの殺人事件の真相ーそれらが明らかになるまでの過程が面白く、中盤辺りから一気に読了しました。東野作品は、登場人物が魅力的なのがいいですが、今回の作品の主人公である梨乃と蒼太のコンビネーションの良さといい、2人がそれぞれ抱えている悩みが描かれていて、彼らがどう答えを出すのかが最後まで気になりましたが、ハッピーエンドになってよかったです。東野圭吾さんの作品は、面白いの一言に尽きます。
2016年05月18日
コメント(0)
![]()
大学の卒業制作の為に、彼女の夏美と共に田舎町に訪れた相羽慎吾。雑貨屋「たけ屋」を営むヤスばあちゃんと、その息子・地蔵さんこと恵三と親交を深めてゆくうちに、地蔵さんの悲しい過去を二人は知り・・というストーリー。森沢さんの作品は、「虹の岬の喫茶店」を読んでファンになったので、この作品に期待しながら読み始めました。自然の豊かさと人の温かさがページの隅々にまで伝わってきて、ページを捲る度に心が温まりました。
2016年05月18日
コメント(0)
![]()
亡き母の跡を継ぐ為、女王として即位することになったケルシー。 自分が治める王国が抱えている問題と厳しい現実を目の当たりにするケルシー。 戦時下による女性や子供に対する犯罪(性被害)の悲惨さには絶句しました。 ケルシーの秘められた力の謎はまだ明らかになっていませんが、これから明らかになるかもしれません。 それよりもケルシーの養父母の死にはショックでした。 三部作ということで、まだ完結には時間がかかりそうですが、首を長くして待つことにします。
2016年05月18日
コメント(0)
![]()
女用心棒・バルサがとにかく格好いい。チャグムとの交流が、まるで実の親子のようでほほえましかったです。今回は、バルサの過去について。そして、養父であるジグロとバルサの父親との関係も明らかに。色々と陰謀が動き出していますね。「夢の実」に取り込まれた人間達のお話。チャグムの兄であった皇太子妃の母・一ノ妃が出てきましたが、子供を失った悲しみのあまり、気が狂ってしまったのでしょうね。ちょっと切ないお話でした。一巻と比べて、少し大人びたチャグム。南の国で出会った少女を救うべく奔走する彼のたくましい姿に、少し惚れました。彼なら立派な帝なるでしょうね。今回は奴隷として売られたある兄妹の話なのですが、背景には民族・人種差別という重い社会問題を取り上げていて、ファンタジーらしくない、非常にシリアスな展開になっていました。ファンタジーを通して現実世界の問題を提起するというのは素晴らしいと思うし、この本を読み終わった後人種差別・民族差別をなくすにはどうしたらいいのかを考えさせられました。どの国にも陰謀や秘密といったものがあり、根強い差別が存在する―長年アボリジニーを研究されて来た上橋さんならではのメッセージを受け取ったような気がしました。チャグムと帝の対立はますます深まるばかりですね。帝は一度チャグムを殺そうとしたので、無理はないと思いますが。自分の国のために大きな決断を下したチャグムの成長ぶりに目が離せなくなりました。いよいよ最終章突入です。何だか血腥い展開が続いていますね。チャグムとバルサが再会できて良かったですが、彼のこれからの事を考えると、手放しで喜んでいられませんね。戦の気配が徐々に近づいてきていますね。そしてチャグムは、母国へ・・彼を待ち受ける運命がどんなに過酷なものでも、チャグムがどのような道を選ぶのかを最後まで見届けたいです。血腥い戦場の描写と並行して、バルサとタンダ、そしてチャグムとシュガ達の絆を描いた最終巻。一巻目から読み進めていただけに、チャグムがバルサと旅をして精神的に成長し、帝となるまで、彼は様々な思いを抱いてきたんだなと思いました。実の父親に殺されかけ、その父と和解する事はなかったチャグム。ですが戦場を知り、人の温かさや絆といったものを知った彼が、国を良い方向で変えていくのではないのかと期待しながら読み終えました。本を閉じた後、もうバルサ達が活躍する姿が読めないのかと思うと、寂しくなりました。
2016年05月18日
コメント(2)

「ルドルフ様・・」「こんなめでたい席で辛気臭い話は止そう。それよりもお前、ガブリエルに相当気に入られたようだな?」「ええ。」レナードはそう言うと、ガブリエルの隣に立っている軍服姿の少女を見た。「あの方はどなたです?」「ああ、あれはわたしの孫娘の、クリスティーナだ。」「まぁ、姫君様でいらしたのですか。髪を短くしていらっしゃるので、てっきり男の子かと思いました。」「周囲は、あの子の事を男の子とよく間違えるが、本人はその事を余り気にしていない。それに、ガブリエルの事を姉だと思っている。」「そうですか。今は男女の境目がなくなりつつありますから、性別で外見を決めつける事はもう古い考えなのかもしれません。」「そうだな。新しい時代が来たような気がする。」ルドルフがそう言ってレナードと笑い合っていると、そこへヴァレリーがやって来た。「まぁレナード、お久しぶりね。貴方がマイヤー司祭様の後任に?」「ええ。これから宜しくお願いします、ヴァレリー様。」「こちらこそ。貴方と毎日会えるなんて、嬉しいわ。」ヴァレリーがそう言ってレナードに微笑むと、クリスティーナとガブリエルが彼らの元へとやって来た。「ねぇレナード、わたしと一緒に遊びましょう!」「お姉ちゃん、レナード様は長旅で疲れていらっしゃるんだ。遊ぶのは明日にしようよ。」「嫌よ、今遊ぶの!」ガブリエルはそう言うと、唇を激しく震わせた。それを見たルドルフはガブリエルが癇癪(かんしゃく)を起こしそうだと解り、すかさずガブリエルの手を握ってガブリエルを優しく宥(なだ)めた。「ガブリエル、もう今夜は遅いのだから、遊ぶのは明日にしよう。」「嫌、今遊ぶの!」「ガブリエル、駄目でしょう、そんな大声で騒いだりしたら!」 ユリウスの授乳を終え、大広間に戻ったアレクサンドラは、そう言うとガブリエルを睨んだ。「さぁ早くベッドに入りなさい!」「嫌、嫌~!」「もう、聞き分けが悪い子ね!」アレクサンドラはガブリエルの手を引っ張り、大広間から連れ出そうとすると、ガブリエルは激しく癇癪を起こし、大理石の床に座り込んだまま動かなくなった。「早くしなさい、そんな事をしても駄目よ!」「アレクサンドラ様、ここはわたしにお任せください。」 レナードはそう言うと、ガブリエルの前に屈み込んだ。「ガブリエル様、今日は貴方様のお誕生日パーティーでしょう?パーティーの主役がそんな顔をされてはいけませんよ?」「だって、お母様が意地悪を言うから・・」「お母様は決してガブリエル様に意地悪をおっしゃっておりませんよ。ガブリエル様を心配為さっておられるから、つい厳しく叱ってしまうのです。」「そうなの?」「ええ、そうですよ。ですからガブリエル様、今夜はお部屋でゆっくりとお休みくださいませ。」「解ったわ。」ガブリエルはそう言って泣き止むと、レナードの手を繋いで立ち上がった。「レナード、わたしのお部屋に行きましょう。」「はい、ガブリエル様。」 ガブリエルは寝室のベッドで、レナードに絵本を読み聞かせて貰いながら眠った。 ガブリエルがベッドで寝息を立てていることを確認したレナードは、そっとガブリエルの寝室から出て行き、翌朝のミサの準備をする為に、自室へと戻った。 翌朝、レナードが小鳥の囀(さえず)りを聞きながらベッドから起き上がり、身支度をしていると、ドアから控えめなノックの音が聞こえた。「レナード様、アレクサンドラ皇女様がお呼びです。」「解りました、すぐに参ります。」 レナードは自室から出て、アレクサンドラの部屋へと向かった。「昨夜はガブリエルが貴方を困らせてしまって御免なさいね。」「いいえ。アレクサンドラ様、朝食の席にご招待頂き有難うございます。」「この店のサンドイッチは絶品よ。貴方と一緒に食べたくて朝食に誘ったの。さぁ、頂きましょう。」「はい。」「貴方は、お父様とは古いお知り合いだそうね?」「皇太子様とは、幼少の頃から交流があります。それが何か?」「いいえ、ただ聞いてみただけ。それよりも、ガブリエルはよく貴方に懐いているようだから、貴方にガブリエルの養育係を頼みたいの。」「それで、わたしを朝食にご招待したのですね。」「引き受けてくださらない?わたし一人だと、あの子の面倒を見るのは大変なの。いつも些細な事で癇癪を起こすし、困らせるような事ばかりするのよ。わたしの言う事を聞かないのに、お父様やヴァレリー様の言う事はちゃんと聞くから、何だかあの子が憎らしく思えて仕方がないの。」アレクサンドラの愚痴をレナードは静かに聴いた。「アレクサンドラ様、暫くガブリエル様と距離を置かれた方がよいのかもしれませんね。」「では、あの子の養育係を引き受けてくださるの?」「はい。それがアレクサンドラ様とガブリエル様の為になるのならば、快く引き受けましょう。」「有難う。仕事が忙しいのに、無理を言って済まないわね。」「いいえ、お気になさらず。」レナードはそう言うと、アレクサンドラの手を握った。 その日から、レナードはマイヤー司祭から仕事の引き継ぎをしながら、ガブリエルの養育係を務めることになった。 子沢山の家庭に育ち、よく下の兄妹達の面倒を見ていたレナードにとって、子供の相手をするのは苦痛ではなかったし、レナードはガブリエルの事が好きだったし、ガブリエルの方もレナードが気に入っていた。「ねぇ、レナードは結婚しないの?」「はい。ガブリエル様は、将来どのような方と結婚したいですか?」「お父様のような素敵な方と結婚したいわ。」「お父様のような方、ですか?それは一体どなたの事でしょうか?」「レナードが良く知っている方よ。」にほんブログ村
2016年05月18日
コメント(0)
![]()
踏切事故で幼い息子を亡くし、PTSDを患ったメンリーは、夫と幼い娘を連れ、夫の故郷であるケープ・コッドの由緒ある「リメンバー・ハウス」で夏の休暇を過ごすことにした・・というのが、おおまかなあらすじです。メンリーたちが休暇を過ごす「リメンバー・ハウス」では、無実の罪を着せられ、娘を抱く事も出来ずに死んだ女性・メヒタビルの霊が彷徨っているという噂が流れています。その「幽霊話」と、ヴィヴィアンの溺死事件の真相が終盤近くで判り、驚きのあまり絶句しました。そして主人公・メンリーの本当の名前が、「リメンバー」である事も判り・・この作品は家族愛をメインに描きながらも、過去と現在の事件の解明というサスペンス要素があり、最初から最後までページを捲る手が止まりませんでした。メアリ・H・クラークの作品は全て絶版になっているので、図書館かブックオフで彼女の他の作品を機会があったら探して読もうと思います。
2016年05月16日
コメント(0)
![]()
この本は元少年兵としてシエラレオネの内戦を戦った著者の自伝です。戦闘シーンや、内戦の様子などがこと細かく書かれていて、想像するだけで彼が置かれた状況の過酷さが窺えました。それと、社会復帰に至るまでの悪夢と薬物による禁断症状のくだりなど、読んでいて辛かったです。わたしがシエラレオネという国を知ったのは、大学二年の時のある授業のことでした。内戦の影響によって平均寿命がもっとも短い国であるシエラレオネ。その原因は内戦時にRUF(革命統一戦線:反乱兵)によって手足を切断され、農作業ができなくなったからなんだそうです。戦争によって日本にいるわたしたちが送っている当たり前の生活が送ることができなかった子ども達が、まだシエラレオネには大勢いるという現実を、TVを通して知りました。内戦は終わりましたが、人々の心には未だに深い傷が刻まれています。平和ボケして今の生活が当たり前だと思っているわたしは、この本を読み終わって衝撃を受けました。銃声が聞こえない、略奪・レイプ・虐殺などが起きない日常を当たり前に送っているわたしたち。六十数年前の日本では、考えられなかったことです。この本で平和の大切さを教えられたような気がします。
2016年05月16日
コメント(0)
![]()
この「ヘルプ」っていう小説は、アメリカ南部の白人上流社会家庭で働く家政婦さんのことを指してるんですねそのメイドさん2人の視点と、ヒロイン・スキーターの視点で物語が進むんですけれど・・人種差別と公民権運動をテーマにした小説だけあって、ところどころに暗い部分があるんですが、最後は笑えるラストでした。街の婦人会のリーダーの女が最後まで嫌味でムカついたなぁ。まぁああいうタイプって、何処にでも居そうですよね。
2016年05月16日
コメント(0)
![]()
殺人の描写は少しグロかったです。犯人がわかってやっと一安心だと思ったら、黒幕、真犯人は以外にも・・。エリカ・スピンドラーの『ショッキング・ピンク』も読みましたが、黒幕が意外な人物(被害者の家族であったり、親友であったり、主人公と親しい人だったり)であることが毎回驚かされます。この人の作品を読んでいると、まるでジェットコースターに乗ったような気分です。
2016年05月16日
コメント(0)
![]()
この作品の続編『あなただけ知らない』を先に読んでしまい、この作品を読んだ後から読めばよかったかも?と後悔してしまいました。主人公・ジェーンは辛い過去を乗り越え、幸せな生活を手に入れました。スクリューで顔を切り裂かれ、生き地獄を味わってきた彼女。この作品には、美容整形のことが大きく取り上げられているのが印象に残りました。見た目が重要視される美の基準に振り回されるモデルをテーマにしたジェーンも、過去に辛い思いをしたから、彼女たちの苦しみがわかる。黒幕は意外な人物で驚きました。この作品を読みおえて、本当の「美」とは外見ではなく、中身だと思いました。でもそんな大切なことを、みんな忘れているかも知れないですね・・悲しいことです。
2016年05月16日
コメント(0)
![]()
時は16世紀イングランド。新興貴族・ブーリン家の美しい姉妹、アンとメアリーは、国王の寵を奪い合う壮絶な愛憎劇を繰り広げる・・。面白そうだと思い、読んでみた。内容は結構濃かったです。この作品の中で光っていたのは、野心家で権謀術数にたけている姉・アンと、姉とは対照的に家庭的で優しい妹・メアリーと、気さくな彼女たちの兄・ジョージでした。結局アンとメアリーは一族のために人身御供となったといっても過言ではないのですが、メアリーが宮廷を離れ“ただの人”として生きたのはよかったです。アンの最期は悲しすぎました。ただ、アンが産んだエリザベスは、ブーリン家とチューダーの血をひき、絶対王政をしいて英国に黄金期を築いた女帝として君臨したことを、もしアンが知ったら手を叩いて喜ぶだろうな。臨場感がたっぷりと出ていて、単なる愛憎ドラマとして一括りにできない、すばらしい作品でした。
2016年05月16日
コメント(0)
![]()
突然失踪した息子の消息を追う主人公。そして、ある殺人事件の真相に辿り着く。これもラストで鳥肌が立った小説です。ホラーサスペンスだから、ホラー的なところがたっぷりとありました。ラストが少し腑に落ちなかったなぁ。主人公の夫がひたすら気持ち悪いし、一体何がしたかったんだと思いました。この人の作品とは相性が合わないと正直思いました。
2016年05月16日
コメント(0)
![]()
「隣の家の少女」で、ジャック・ケッチャムという作家を知ってからもう3年余り。たまたま大型書店で、彼のデビュー作である「オフシーズン」を手に取り、読んでみました。都会からやってきた男女が、人肉を食らう集団とバトルを展開させるというもので、色々とスプラッターな展開が多かったものの、最後に警官たちが「食人族」が住まう洞窟へと突入するシーンが怖かったな。黒こげ死体とか見たら、確実にトラウマになるレベル。これ、アメリカでは残虐なシーン(死体を解体するシーン)とか大幅に削除されたとか。余り想像しないように読んだけど、食事前だったら一気に食欲なくすわ。まぁ、後味の悪さが目立った「隣の家の少女」よりはいいかもしれない。「オフシーズン」の続編です。前作から11年後という設定で、前作に登場していたピーターズは警察を辞めてます。主人公が二組の親子になるんですが、男性陣は食人族にあっさりと殺されてしまいました。まぁ、登場人物の一人・クレアの離婚した元夫・スティーヴンに少しムカついていたので、彼があっさりと殺されてしまったことには何も感じなかったなぁ。結局二組の親子とピーターズが助かった。実はこの作品、「ザ・ウーマン」という続編があるようで。あらすじを読む限り、面白そうな作品だなぁと思ったんですが・・本屋に置いてなかった。
2016年05月16日
コメント(0)
![]()
教師一家惨殺事件―その真相が徐々に明らかになる中、刑法三十九条というものが必要なのかどうかという問題を読者に投げかけているように思えた作品だった。主人公・為頼は、患者を「見る」だけでその病状がわかるという特殊能力を持った医者である。ひょんなことから為頼は、菜見子という女性と知り合い、彼女の職場である精神障害児施設に居る少女の存在を知る・・というストーリーである。本書には、精神障碍をよそおった犯罪者の描写や、人体解剖の描写などが生々しく描かれており、それらの描写が苦手な人には受け付けられないのではないかと思うほど気持ちが悪いし、菜見子の再婚相手であった佐田という男の執念深さと薄気味悪さが恐ろしく、まるで彼に自分がつきまとわれているような錯覚に陥った。事件の真相はネタバレになるので書けないが、一見して理想の家族や家庭である人達の裏では、彼らに恨みを抱いたり、彼らの裏の顔を知っている人間も居るという事実が存在するーそう思いながら本を閉じた。
2016年05月16日
コメント(0)
![]()
MIRA文庫のHPで大々的に宣伝していたので、気になって読んでみました。設定に最初「?」でしたが、読み進める内にヒーローのマドックスが格好いい!ヒロインのアシュリンは超能力者なんですが、マドックスと出逢って惹かれあうようになるうちに、彼女の力が弱まるんですね。愛の力なのだろうかと思ってしまったよ。ラスト近くの彼女が取った行動に唖然としてしまいました。それにしても、パンドラの箱は何処にあるんだろうか?3ヶ月連続刊行ということで、2巻目も買おうかと検討中です。ボーナスコミックも読みましたが、不死の戦士達がイケメンすぎる(そこか)それよりも彼らに呪いをかけた神の顔が何気にカメラ目線で笑ってしまいそうになりました。昨日読み終えたので、早速感想を。1巻の時と同様、相変わらず世界観がようわからん。けどルシアンとアニヤのロマンスは、全巻より少しエロティックで萌えました。アシュリンの妊娠には驚きました・・まぁ、マドックスとラブラブだからね。パンドラの箱は一体どこにあるのか?ハンターの正体はなんなのか?伏線が少しずつ明らかになってゆくのが、楽しみです。※実はこのシリーズ、2巻目を読了した時、あんまり読む気がなくなってしまったので読むのを止めました。値段が高いことが、購入を断念した理由です。
2016年05月16日
コメント(0)
全81件 (81件中 1-50件目)