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小姑と言うと聞こえが悪いが、ニニは夫の直ぐ下の妹さんで人当たりが非常に良く、絶えず携帯電話が鳴る社交家である。彼女はスタイルが非常に良く、スポーツも得意、現在博士号取得に励む粋な女性なのだが一つ、彼女の悩みがある。「歯が悪い」事はオーストリアでは致命傷らしく、特に人目に付く前歯の並びが悪いだけで第一印象が急落すると言う。彼女が男性を選ぶ際の最重要ポイントは「歯が丈夫で綺麗」らしい。本能的、且つ意識的にその様に男性を選ぶと言うのは、私にとってとても衝撃的だった。その彼女が、前歯6本差し歯にする計画を立て、医者探しをしているのだが、健康保険が掛からない分非常に高い。Deutschkreutzはハンガリーとの国境町でもあるので、これを機にハンガリーの歯医者を訪ねた。元東欧圏であるハンガリーやチェコに、特定の手術その他を依頼するオーストリア人は少なくない。そうやって成金になった医者が国境を越えると沢山並び、ドイツ語の看板を掲げている。彼女は予定時間より早く戻って来たのだが、かなり気落ちしている様だった。彼女の訪れた歯医者も成金趣味だったらしい。結局「パノラマ・レントゲン撮影」に40ユーロ取られて終わった。この日も相変わらず風は強かったが雲は空を覆う事無く、IllmitzやSeewinkelとは異なり穏やかな丘の線が景色にアクセントを付けている。綺麗に手入れされた葡萄畑と菜の花畑がくっきりとその色を並べ、雲陰をやんわりと受けているそんな中を私達は、レンタルした自転車でのんびり走り回った。「赤ワインロード」と言うサイクリング指定ルートの名前に惹かれて漕ぎ出したのは良かったが、赤葡萄の畑が延々続のである。てっきりホイリゲが所々にあるものと思って居た私達はすっかり喉が渇いてしまった。 途中、かなり古ぼけて大きなパネルバンが通り掛り、「後ろに乗せてって上げるよ。俺んちのホイリゲで一休みしたらどうだい?」と、その土地ではワインが美味しい事で有名なホイリゲのオーナーが声を掛けて来た。しかし、幾ら喉が渇いているからと言って1時間そこらでサイクリングを中断してそのまま昼食に雪崩れ込んでしまう訳にも行かず、折角のお誘いを断った。Deutschkreutz周辺をぐるぐる自転車で回った後やっと、Neckenmarktと言う町へ到着。その入り口にあったレストランに腰を落ち着けた。その村では唯一のレストランで、Neckenmarktのワインケラー役も勤めている「Zur Traube」には宿泊施設、蒸し風呂やサウナもあるらしい。給仕のおじさんもなかなかユーモラスな人で注文するのも楽しい。女将さんは更に豪快な方で、食事の前後のやり取りに気が利いているだけで、もう一度訪れたくなるものなのだと改めて思った。時折この地方で見かけた料理「ハンガリー風キャベツ・スープ」と言うものを一つ頼んでみた。薄めたグラシュの様な感じで、キャベツの薄切りをスープと甘いパプリカ・パウダーで煮込んだ物で、サワークリームがホイップして載せられて居た。汗を掻いた後に座ったテラスには未だ日が当たらなかったので寒かった所にこれは本当に美味しかった。メインに頼んだ岩魚もかりっとバターで焼き上げられ、お値段は手頃とは言えないが、この手腕には十分な報酬と言える。食後に赤ワインのキュヴェを頼んだが、Kracher「Blend II」の印象が強過ぎた為か、美味しかったのに名前を覚える程印象的では無かった。このレストランではこの土地Neckenmarktで造られるワインを、農家販売価格で売ってくれる。時間があれば、じっくり試飲して何本か購入したかった。帰りは真っ直ぐ隣町のDeutschkreutz迄自転車を転がし、そこでニニとその仲間に別れを告げた。彼女達は「VINATRIUM」と言う街中のワイン・ケラーでこの地方のワイン試飲会に参加するのだ。午前中から夜7時迄毎日開かれていて、180ユーロ分の買い物をグループでする場合一人頭13ユーロ、一本ずつ試飲する場合は各試飲1.5ユーロ、解説付きで7本のワインだけ試飲する場合は14ユーロ…と選択出来る。私は翌日の日曜日、試験を受ける生徒に最後のトレーニングを約束していたので、夫と二人のんびり、山の立ち並ぶオーバーエーストライヒへと車を向けた。久し振りに峠を越え、谷を抜けながら、起伏のある風景と言うのもなかなか良いなと勝手な事を考えている自分が可笑しかった。
2008/05/03
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癖になるワイン。その条件の内でも結構重要なのが、飲んだ翌日の体調だったりする。「Kracher」の「BlendII」はその期待を裏切らず、私達は早々に起きてしっかり豊富な朝食を済ませた。レセプションの女性は相変わらずにこやかで落ち着きがあり、自転車貸し出しの際の選択にも丁寧に応対して下さった。Burgenlandの強風とは耳にしていたが、自転車を漕いで初めて実感するに至る。たった20kmそこらのサイクリングで私はもうへとへとになっている。平地を漕ぎながら全く前に進まないと言うのは、かなり気が滅入るものだ。だが、Seewinkelと言う国際自然保護連合で国立公園に指定された地域では足腰の痛みも忘れ、珍しい鳥達の戯れる様子にほうっと見入った。道路にも時折、「灰色雁の家族が通るので注意!」の立て札がある。なんとこの湖と湿地帯には300もの鳥の種類があり、その内150種は渡り鳥に属さず、その種の数はオーストリアに生息する種の80%に、更に西欧中でも40%に相当すると言う。道理で、背の丈程もある巨大な望遠鏡を担いで歩く人が少なくない訳だ。植物、昆虫、動物、爬虫類、魚…と、世界中から専門家が研究に訪れるのも無理は無い。もっと生物学に詳しければ、楽しみも断然増えただろうにと残念だった。実は国境を越えてハンガリー迄サイクリングを目論んで居たのだがとんでもない。オーストリアにしては珍しく、鰻をステーキにして出す店もあって迷ったのだが、日向に小粋なテラスのあるホイリゲ「Holzhammer」で昼食する事に決めた。 「ハンガリー・灰色牛のカルパッチョサラダ」と言うものを夫が注文したのだが、これが一寸羨ましくなる程美味しかった。絶滅寸前だそうだが、ドイツに飼育プロジェクトを依頼して食い止めたとか…食べて良いのだろうか?午後、昨夜からずっと気になっていた「Kracher」を訪ねてみる。町の真ん中を貫く通りに大きな門構え、「Kracher」とあるのだが、呼び鈴が無く、門はしっかり閉まっている。裏から回ると門は開け放しで、恐る恐る中庭に入って行ったのだが誰も居ない。部屋のドアも開けっ放しなのに、呼び鈴が一つも無い。夫は諦めずに閉じているドアを叩き続けると、「Senior」と書かれた扉から上品な老女が出て来た。「反対側が事務所だから、そこ等辺から声を掛けてみると良いよ」と教えて下さったので、事務所の辺りでどうしようかと立っていると偶然中から人が出て来た。嫌な顔一つせず「ワインを買いたいの?じゃ、今同僚をここに呼ぶから」と電話して下さった。暫くするとその同僚の方も気楽に私達の無礼な訪問に腹を立てるでも無く、「君達、ついてたね」と注文に応じて下さった。私達の飲んだ「Blend II」はもう売れ切れてしまって、2005年物しか無かったのだが7本購入。醸造者元で購入しても1本11.5ユーロする。試しにチーズ「Kracher Grand Cru」に就いて尋ねると、そのチーズも彼等と有名なソムリエの共同制作で生まれたものだと言う。Schärdingerで購入出来ると言い、そのチーズを入手したら是非このワインで飲んでねと貴腐ワインを一本おまけにつけて下さった。意気揚々と門を出、湖を北に車で遡り、途中の町で夫が床屋に入った。そこの女将さんが「何!アンタ達、Kracherの屋敷に入って行っちゃったの!?」と仰天したらしい。話に聞けば、Kracherはオーストリアで「ワイン醸造の教皇」と言われ、1985年に発覚して問題となったワインスキャンダル(ジエチレングリコールを公的検査を必要とする「品質ワイン(Qualitätswein)」に混入し、糖質検査に影響を与えずに甘く味を濃くした)以来、完全に名声を失ってしまったオーストリア・ワインの汚名奪回に全生命を尽くした人で、去年の12月48歳と言う若さで急逝(膵癌)、彼を惜しんでスウェーデン王家からも喪に訪れたと言う。「Wine Magazine」に於いて6度も「Winemaker of the Yearに選ばれ、どのレストランにもオーストリア・ワインを見掛けなかった頃でも日本人が競って購入した「貴腐ワイン」は、彼の得意分野であった。亡くなったアロイスの生前から酒造蔵の責任者だった息子がその跡を継いでいると言う。後にHPを見れば、最初に事務所から出て来た男性がその息子さんだった。私達は決してワイン通では無い。夫も私も重たいワインが好きで、好みの合う事を幸いに好んで様々なワインを試してみる。その無知さが功を為し、教皇自宅にずかずかと入り込んだ事は恥ずかしくもあり、又、その名声にも拘らず分け隔てせずに接して下さったKracher家の人々に一層、心から感謝した。ローマ時代別荘跡を見にBruck an der Leitha迄湖畔を北上したのだが、これは全く大した事が無かった。勿論、去年の夏に訪れたチュニジアのローマ遺跡と比べるべきでは無いのだが、それにしても整備され過ぎてちっとも遺跡の匂いがしない。がっかりして再び南下、小姑ニニとその仲間の待つDeutschkreutzに向かった。そのペンション「Hotel Schreiner」にはサウナやプールもあると言う触れ込みに釣られて宿泊を決めたらしいのだが、部屋は狭いだけでなく床がじめじめと冷たく湿っており、暫く立っていると靴下が濡れて来る程だった。三星の割りには石鹸一つも置いて無いが取り敢えずドライヤーは付いていて、朝食のビュッフェはまずまず。オーナーの対応も親切とは言い切れず、Deutschkreutzの中心地から徒歩で片道25分は優に掛かる。にも拘らず私達は市内迄歩き通し(タクシー乗り場を一度も見掛けなかった所為もあるが)、やっと入ったホイリゲの店内は狭く天井が低く、声の大きい大人が所狭しと座り笑い食べ喫煙している所に長時間身を置くのは結構辛かった。料理はとても美味しく量も非常に多く、更に安価ではあったが、ワインは赤も白も押し並べて軽く、強風に逆らって自転車を漕いだ疲れも襲って早々に夫と二人で引き上げた。
2008/05/02
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「ほんのり」と言う言葉をなかなか使えないのがこの国の弱点だと、私は勝手に思っている。長く、重く、限りなく灰色の冬に、冷たい雨や風が混じって居たかなと思うといきなり、かーんと晴れて夏日になる。この日メーデーが丁度そんな感じだった。至る所、林檎と桜がたわわな花で競い合う。くっきりと脈を顕に氷河を誇り、明るい青でべた塗りした様な空に覆い被さるが如くアルプス山脈が聳える。そんな狭間に居ると、日没は限りなく高い天空で行われてしまう。氷河の頂が最後に真っ赤に燃えるのがせめてものご愛嬌だが、「夕日」とか「夕暮れ」には程遠い。やっぱり地平線に沈んで欲しいものだ…と、長い週末を利用してノイジードラー湖へと出発した。Illmitzと言う小さな町がある。昔、友人のホルン吹きの招待で訪れた事があったのだが真夏だった所為か、非常に貪欲な蚊の集中攻撃を受け、その年一年間はずっと両足から腰に掛けて化膿してしまい、 もう二度とIllmitzへ行くまいと心に決めて居たのだった。だが喉元過ぎた今、ヨシ葺き屋根やコウノトリの巣をもう一度見てみたい衝動を抑え切れなかった。丁度その週末、Podersdorfでサーフィン・ワールドカップが開かれていた。Illmitzの宿探しは思ったより難航したが、自転車を貸すホテル「Johannes-Zeche」に一晩だけ予約を入れ早速出発。オーバーエーストライヒから2時間半と掛からずに到着すると、ホテルの客室は非常に綺麗で、プロジェクタ付きの会議室もあり、中庭を囲む屋根はヨシで葺かれ、レストランもかなり賑わっていた。ハンガリー人のウエイターは注文の受け取りも迅速だが、動きも相当迅速で、何かをじっくり尋ねるのが一寸億劫になる。待たされる事は絶対に無いが、注文にゆったりと言葉を交わせないのは落ち着かない。そこに、レセプションの女性が通り掛ったので、ワインに就いて尋ねてみる。食事自体は美味だったが、Burgenlandにしては少量高額だったので、地元のワインに希望を繋げたのだ。ワイン・カルテを一通り読んでいると、「Kracher」と言う葡萄酒醸造者が目に留まった。基本的に重いワインが多い。その内の「BlendII」と言う赤ワインのキュヴェ(2003)を1本頼んでみた。忙しないウエイターも、「その選択は良いね!」と食卓をコンと叩いたので楽しみにしていると、本当にこのワインには裏切られずに済んだ。ボトルを見てみると、住所も電話番号も記載されていない。おつまみに頼んだ青黴チーズにも何故か「Kracher Grand Cru」とKracherの名が付いていて、これが又繊細で優美な味。ますます「Kracher」が気になる。レストランのお勧めとしては、Kracherの貴腐ワインと合わせて飲む様に書かれているが、「BlendII」との相性も非常に良かった。余りに喉越しが柔らかいのですいすいと飲んでしまい、夫と二人早々部屋に引き上げた。
2008/05/01
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