青空のように

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2009年01月20日
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今日は書評であります。
F.W.クロフツ「クロイドン発12時30分」。
35年ぶりの再読でありまして、どうして今更こういうものを再読したかというと、「図書館で見つけたから」であります。
クロフツの作品というと、創元推理文庫からドカドカ出てたけど、図書館には、これと「樽」しかなかった。フーンと思って調べたら、創元でももう、「樽」、「クロイドン」、その他2作くらいしか手に入らないんですね。クリスティはハヤカワから全部出てるのに。

クロフツというと、まず地味なアリバイトリックってすぐ思われるけど、実はストーリーも面白かったりする。
僕は熱心なファンではないけど、出張に出かけるフレンチ警部(後に警視)の描写が好きで、たま~にトラヴェローグとして読みたくなります。
この、捜査のためにいろんな場所に出かける、というのを、西村京太郎とかが直接的に受け継いだんでしょうね(「ミステリー列車が消えた」とかの、初期のもの以外、ほとんど読んでないけど)。

で、「クロイドン」ですが、これずっと再読してなかったのは、高校生の頃読んでサッパリ面白くなかった、という記憶のせい。
ご存知の方も多いと思いますが、この小説はいわゆる「倒叙型」というやつで、まず殺人が起こり、そこからさかのぼって犯人がどういう動機で、どういうトリックを使って犯行を決行し、後半現れたフレンチがそれをどう暴くのか・・・という形式になっている。

ところがです。
今回僕は、手に汗握って読み終えました。
「他人ごとじゃない」って感じ。読みながら、息が詰まるようでした。
読み手の立場により、リアリティーというのは大きく変わるんだなあ、とため息をつきつつ、イノセントな高校生(わしのこと)に、わかるわけないよなあ・・・と、納得もしたのでした。

犯人・チャールズは、中小企業の経営者。業績は悪化していて、今回大事な受注をとり損ねた。業界や銀行関係者の間では、どうやら「あそこは危ない」という噂が流れているらしい。
チャールズは人員削減で乗り切ろうとするが、側近から、新しい工作機械(それほど高くない)を入れればもっと安く受注できると聞き、その気になる。
銀行に融資を持ちかけるが断られ、遺産の一部をもらえることが決まっている叔父に相談すると、逆に叱責される。もう、にっちもさっちもである。身につまされるなあ。
チャールズは、金持ちの女に恋していて(片思い)、この女を手に入れるためには、絶対に破産など出来ないと考えている。
この、自己中チャールズは、「もらえることが決まってるものを、先にもらってなにが悪い」と、叱られたこともあって、叔父の殺害を決意する。

僕の現在と異なるのは、1、遺産を残してくれる叔父などいないこと、2、恋焦がれる女性も残念ながらいないこと。あ、もちろん殺人も計画していません。僕は無実だっ。


中盤以降、フレンチが顔を出すようになりますが、ロンドン警視庁の警部が捜査に乗り出したときいて、身構えていたチャールズは、やってきた警部が平凡な質問しかしないのでやや安心する。
おお、この作品から「刑事コロンボ」に直接繋がるわけね。

クロフツは、この地味な殺人ひとつではもたないと思ったのか、犯人確定の決定的な場面を目撃した男に恐喝されたため、チャールズにもうひとつ殺人を行わせています。
個人的には、この恐喝シーンがもっとも面白かった。
金は払うと約束したチャールズだが、もし何度も金をせびりにくるようなら自分は自殺する、警察に駆け込むなら自分は自殺する、と開き直るのです。

このあと、完全犯罪ウッシッシと思っていたチャールズが、死体を沈めた湖底をさらえと指示したのが、忘れかけていたフレンチだと聞いて不気味に思うのも、まさしくコロンボですね。
結末は型どおりとはいえ、ガッチリと構築されたミステリが読めて、余は満足であります。

小説を面白がれるかどうかは、かなりその時の環境や立場に影響されます。
きっと、なんだこれ、と途中で放り出した小説の中にも、今読むと滂沱の涙が怒涛の如くあふれ落ちるものが、いっぱいあるんでしょうねえ。





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最終更新日  2009年01月20日 17時51分35秒
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