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2026.03.29
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カテゴリ: 報徳記を読む
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二宮翁夜話残篇

【16】尊徳先生がおっしゃった。
人々の紛争を解決することは道徳の一つで、世を救うことの一つであるが、
これについてはまた一つ心得なければならない事がある。
訴訟を内済(内々に解決したりすること)したり示談することである。
これはお互いに実に両全の道ではあるが、また弊害も少くない。
私が桜町にいた頃、近郷でこの扱いが盛んに行われて、訴訟は大変多かった。
法を厳しくしてその内済や示談を制限すれば、最近の訴訟はだいぶ減ずるであろう。
なぜかといえばこの辺で内済の事を扱う者を観察すると、

表を飾ってこの事を職業のようにする者がある。
この者はよく弱い者を助け、強き者を折(くじ)いて訴訟を内々に解決して、衆の難を救うように見えるけれども、ひそかにその内情を聞いて、よくよく観察する時は、この紛議の原因はこの者によって起こる事が多い。
村里に争いが起るや、ある時は激しく言い立て、争そわせ、またある時はやさしい言葉でこれを止め、始終その間をとりもって自分の利益と名誉を取る悪人がある。
それであるのに世の中はよくわからずこれを尊び、これを用いる。
かって桜町にこうした悪人がいた。
私はまずこの者を退けたところ、訴訟の事はぴったり止んで、人柄の善い者が庄屋となることができた。

およそ国家を治める者は、前に言う所のような悪人を退けて、良民を養うことを勤めとするべきだ。
人道はもともと作為の道であるために、農夫が勤めて草を抜き取るように、悪民を抜き取って良民を養わなければ、良民は立つ事ができない。

悪人はたとえば稲の間に生える雑草のようなもので、雑草を抜き取って稲を助けるのが農業である。
悪民を退けて良民を養うのが政治である。
農業を勤めるは下の職業であり、政治を勤めるのは上の職業である。
下がその職業に怠らなければ、国は豊かになる。
上がその職業を勤めるならば国の財政にゆとりが生ずる。
上下各々がその職業に勤めれば、天下は平らかとなるであろう。
だから古人も政治を行うのは農民が田を作るようなものだと言ったのだ。
農業は雑草を抜き除いて稲を育てることにある。
上の職業は悪人を退けて良民を育てることにある。
そして農民は雑草がはびこるのを憎んでこれを抜き去ることを勤めとする。
この悪民を信用しこれを重んずるのは過ちである。
彼の悪人は才力や弁舌が衆に越えており、さらによく世事に馴れ、上下に通じていて始終これをあやつって、事を起し、事をしずめ、その中間に立って利益を自分に占める。
それを人が知らないで、これを尊びこれを用いるのは過ちだ。
このような雑草を善とし、美とし、これを養うならば、国や家は衰えることであろう。

二宮翁夜話残篇

【16】翁曰く、
夫(そ)れ人の紛議(ふんぎ)を解くは道徳の一つにて、世を救ふの一つなれど、
又(また)一つ心得べき事あり、訴訟(そしよう)の内済(ないさい)示談(じだん)なり。
是(こ)れ実に両全の道なれども、又(また)弊害も少(すくな)からず。
予(よ)桜町にあり、近郷(きんがう)この扱(あつか)ひといふ事盛んに行はれて、訴訟甚(はなは)だ繁(しげ)し。
習(なら)つて察(さつ)せず。
法を厳(げん)にして之(これ)を制(せい)すれば、方今(ほうこん)の訴訟その幾分(いくぶん)を減ずべし。
如何(いかに)となれば此(こ)の辺にて内済(ないさい)の事を扱(あつか)ふものを見るに、必ず智力(ちりよく)もあり、弁才(べんさい)もあつて、白を黒にし、黒を白になすの奸人(かんじん)、表(おもて)を飾りて此(こ)の事を業(げふ)の如(ごと)くする者あり。
この者よく弱きを助け、強きを折(くじ)き訴訟(そしよう)を内済(ないさい)して、衆(しゆう)の難(なん)を救ふが如(ごと)く見ゆれども、竊(ひそか)にその内情を聞き、能(よ)く能(よ)く観察する時は、この紛議(ふんぎ)の因(いん)は此(こ)の者に因(よ)つて発(はつ)する事多し。
それ村里(むらさと)に一紛議(ふんぎ)の起るや、或(あるひ)は激言(げきげん)して之(これ)を争はしめ、また和言(わげん)を以(もつ)て之(これ)を止め、始終(しじゆう)その間(あひだ)に周旋(しうせん)して利(り)と誉(ほまれ)とを己(おのれ)に取る奸人(かんじん)あり。
然るに世の中不明(ふめい)にして是を尊(とほと)み、是(これ)を用ふ。
往時(わうじ)桜町に奸人(かんじん)あり、
予先(ま)づ此の者を退けぬれば、訴訟の事断然(だんぜん)止み、柔善の者里正たることを得たり。
某(ぼう)の如き好(よ)き人里正に居(ゐ)て、従来(じゆうらい)の細民(さいみん)鰥寡(くわんか)孤独(こどく)に至るまで、皆其(そ)の利を利とすることを得るなり。
凡(およ)そ国家を治むる者、前に言ふ所の如き奸民(かんみん)を退けて良民を撫(ぶ)するを以(もつ)て勤(つと)めとすべし。
人道は元(もと)作為(さくゐ)の道なるが故に、農夫の勤めて草を去るが如く、悪民を去つて良民を養はざれば、良民立つ事あたはず、
良民立つ事能(あた)はざれば邦家(ほうか)の衰廃見るべきなり。
夫(そ)れ奸民(かんみん)は譬(たと)へば莠草(はぐさ)の如し、茂生(もせい)すれば田園(でんゑん)蕪廃(ぶはい)す。
故(ゆゑ)に奸民(かんみん)志(こころざし)を得れば村里(むらさと)衰廃(すいはい)す。
良民は譬(たと)へば稲(いね)の如し、莠草(はぐさ)を去りて稲を助くるは農業なり、
奸民(かんみん)を退けて良民を撫(ぶ)するは政事(せいじ)なり。
夫(そ)れ農業を勤(つと)むるは下(しも)の職なり、政事(せいじ)を勤むるは上の職なり。
下(しも)其(そ)の職業に怠らざれば、国豊饒(ほうぜう)す。
上(かみ)其(そ)の職を勤むれば国用(こくよう)余(あま)りあり。
上下各々(おのおの)其(そ)の職分を尽(つく)さば、天下平(たひ)らかなるべし、
故(ゆゑ)に古人(こじん)も政事(せいじ)をなすは農の田を作るが如しと云(い)へり。
夫(そ)れ農の業(げふ)は莠草(はぐさ)を抜除(ばつぢよ)して稲(いね)を肥(こや)すにあり、
上(かみ)の職は奸民(かんみん)を退けて良民を育するにあり、
而(しか)して農は莠草(はぐさ)の憎むべきを知りて是を去るを勤めとす、
その上この奸民(かんみん)を愛して是を重んずるは過(あやま)れり。
彼(か)の奸民(かんみん)は才力弁舌衆に越え、是に加ふるに能(よ)く世事(せじ)に馴(な)れ上下に通じて始終之をあやつりて、事を起し、事を鎮(しづ)め、その中間に立ちて利を己に占むる物なり。
然るを人之(これ)を知らず、是を尊(とほと)み之を用ふ、過(あやま)てり。
夫(そ)れ此(こ)の如きは莠草(はぐさ)を以て善とし、美とし、之(これ)を糞培(ふんばい)せば、邦家(ほうか)の衰へざることを得んや。







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最終更新日  2026.03.29 00:00:11


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