『†Princesse du sang†』 月ノ章 0-01【双子】
月ノ章 0-01【双子】
―シャルロットSIDE―
「ひわっ」
レムリアの間の抜けた悲鳴に遅れて、甲高い破砕音が店内に響く。 少年が恐々と音の発生源に視線を移すと、陳列棚の一角が弾け飛んでおり、奥の壁にひしゃげた短剣がめり込んでいた。
「い、いきなり……ナ、ナニをするんだよっ!?」
尻餅をついてへたり込んだレムリアが抗議の声をあげる。
「ワタシがおねーさん」
ぞっとするような冷たい声には反論を許さない不気味な力強さがあった。 レムリアは気圧されたようにルムファムから視線を外すと咳払いをひとつする。
「と、とりあえず……、そ、その問題は後でゆっくり話し合うとして……。 店主さん、壊れた品物はこちらで弁償させて頂きます」
レムリアはペコペコと申し訳なさそうに頭を下げる。
「い、いや、気にしなくていい。 あんな安物二束三文でくれてやっても問題ない品だ」
ゴルダは二重の意味で呆気にとられていた。 ルムファムの非常識な怪力振りもさることながら、レムリアの屍族らしかぬ低姿勢にである。
「ほら、ルムも謝って」
レムリアは非難するようにルムファムを睨みつける。 だが、少女は懲りた様子もなく、今度は見せつけるように修道服の胸元から短剣を取りだした。
「ぎゃ!!」
一瞬身構えたレムリアだったが、悲鳴は予期しない方向から聞こえてくる。
「ひぃぃぃ……」
ゴルダのぶよぶよとした脂手が、ルムファムの放った短剣によって帳場台に縫いつけられていた。 驚嘆すべきはその投擲の正確性ではなく、どのような業を用いたのか、短剣で貫かれた傷口からは一滴の血も流れ落ちてはいないことだ。
「ルム……?」
レムリアが三白眼で理由を尋ねる。
「逃げた」
ルムファムの返答は短い。 どうやら、隙をついて店奥に逃れようと画策したゴルダに対して先手を打ったらしい。 ルムファムの気配察知能力は野生の超感覚並みに優れているので、間違いはないだろう。
「品物を売って貰えないとボクも店主さんも不幸になりそうです。 ここはお互いの為に賢く行動しましょう」
「……わ、わかった。 そ、それで本日の御用向きの品は?」
ゴルダは顔中に油汗を浮かべたまま引き攣った愛想笑いを浮かべる。
「プリウスの実を三袋。 それと材質は特に問いません。 この店で最も頑丈な武器を数個、適当に見繕って貰えますか?」
ゴルダの喉がゴクリと大きな音をたてる。
「お客様……プリウスの実は公には取引をされていない希少品です。 とても個人商店で提供できる品ではございませんが?」
「あれ、可笑しいな。 ミュークさまが貧民街でなら手に入ると仰っていたのに……」
レムリアが困り顔でぶつぶつと呟く。
ゴルダは少年が度々口にする“ミューク”という名の人物に多大な興味をそそられていた。 しかし、身の安全を考慮するに、深く詮索する気にもなれない。
「きっと何かの間違いでしょう。 当店はしがない雑貨屋でございます」
「ですが、お店のほうは随分と繁盛しているみたいですね」
レムリアは店内を見渡し幾分場違いな感想を述べた。
店内の淀んだ空気、陳列棚や床に堆く積もった粉塵、どれも盛況とは評し難い光景だ。
「な、なにを根拠にそのような……。 い、いや、誠にお恥ずかしい限りですが、ここ数年は客足も遠のくばかりで閑古鳥が鳴く侘しさです」
だが、レムリアの皮肉ともとれる物言いに、当のゴルダは露骨に焦りだした。 その尋常ならざる発汗量からも、嘘が苦手な性分であることが伺える。
「確かに店頭にある商品、雑貨の類はまったく売れていないようです。 でも、だからこそ、長年間口を広げられる理由が、別にあるとお見受け致しました」
レムリアが明快に断言してのける。 その様子から隠し立ては無益と理解したのか、ゴルダは諦めたように溜息をついた。
「ふぅ……これはお人が悪い。 すべて見抜かれているようですな。 お察しの通りこの店は表立っては雑貨店などを営んでおりますが、裏では好事家相手の闇商品を扱っております」
ゴルダはそこでひとつ咳払いをすると、
「ようこそ『ダスト・ウィズ』へ。 ご希望の商品はなんなりと取り揃えますぞ」
ゴルダは表の顔を脱ぎ捨てると、改めて目前の双子を客として迎え入れる覚悟を決めたようだった。
その言葉通り店の地下には古今東西から集められた“毒薬・禁魔法薬”の類から、古種・巨人族の失われた技術“カラクリ”といった珍品、果てはロストワードの彫り込まれた石版まで、公での取引を禁止されている品物が保管されているのだ。
「それでは、先ほど所望した品は用意できますか?」
「勿論ですお客様。 ですが、プリウスの栽培や流通は、教会法のみならず、公国の法律で厳しく制限されております。 入手に危険を伴う分それなりの額になるわけですが―――」
ゴルダもその筋では名を馳せた闇商人であった。 商売の話となれば気後れはしていない。
「生憎その方面には通じて意いないので、相場は如何程なのですか?」
レムリアが至極真っ当な反応をしめす。
ゴルダはレムリアの頭の天辺からつま先までを値踏みするように観察すると、
「そうですな……ガープ金貨五百枚。 大負けに負けて金貨四百枚といったところでしょうな」
明らかにふっかけであるのだが、レムリアに気づいた様子は無い。
西大陸で最も広く流通するガープ金貨一枚は、同銀貨十枚に匹敵し、銅貨なら百枚分の価値がある。 ちなみにガープ銀貨が一枚あれば、七日間は衣食住に困らない。 これだけでもゴルダの提示した金額が如何に法外なものであるかがわかる。
屍族が人間の市場、しかもその裏側に精通しているわけもない。 そう結論付けたゴルダの詐欺まがいの奸計であったのだが、
「わかりました。 その金額でお願いします」
いともあっさりと返されて驚いたのはゴルダのほうであった。
「し、失礼ですがガープ金貨四百枚ですよ。 本当にわかっておいでですか?」
金貨四百枚ともなれば、持ち歩くにはかなりの重量になる。 なにより見た目にも嵩張る筈である。 銀貨や銅貨に換算すれば尚更である。 ゴルダもこの双子がそのような大金を所持していないことは一見して判断していた。 体よく追い返そうと画策していたゴルダにとって、それは想定外の事態であった。
「当店は信用貸しなどは一切おこなっておりませんが……」
「わかっています」
そういって、レムリアは帳場台の上に一枚の古ぼけた金貨を置く。
「こ、これは……セナートル金貨!?」
ゴルダの両眼が剥きだされた。
本来それが持つ貨幣価値は金の含有量に依存する。 そういった意味でセナートル金貨は西大陸で広く流通するガープ金貨やウリクス金貨より僅かに質は落ちる。 だが、セナトール金貨は一夜のうちに滅び去ったといわれる古代王国ニクネベェンの空中都市でのみ鋳造・使用されていた幻の貨幣であった。
とある国の好事家が、それ欲しさに全ての財産を投げ打ったという逸話があるほどだ。
「それでは、足りませんか?」
「な、何を馬鹿なことを!! これ一枚でガープ金貨五千枚の価値はありますぞ」
ゴルダは自由になる右手でセナートル金貨を引っ手繰ると、早々に懐へと仕舞い込んでしまった。 レムリアの気が変わらぬ内に取引を成立させたかったのであろう。 流石に闇商を営んでいるだけあって、こういった珍品・稀少品には目がないようであった。 先程までの慎重さはどこ吹く風、ほくほく顔で愛想笑いを見せている。
「どうやら、了承頂けたようですね」
満面の笑みを浮かべるレムリア。
どこまでOKなのか?(既視感x3)&推敲 2016/05/11
もうすぐ核心 2013/07/10
夜々閑話・其の弐拾陸 2013/06/10
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人物紹介
【人族世界】
アダマストル公国
聖アルジャベータ騎士団
メナディエル聖教
その他
【屍族世界】
ウィズイッド家
用語辞典
一般用語
夜ノ章【短編集】
0-00【炎神】
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| >>光ノ章 推敲完了 |
| 08/10/06(月) |
| >>光ノ章 0-01【世界】 |
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| >>光ノ章 0-09【聖船】下b |
| 08/07/15(木) |
| >>光ノ章 0-09【聖船】下a |
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| >>光ノ章 0-08【聖船】中 |
| 08/07/04(金) |
| >>光ノ章 0-07【聖船】上 |
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| >>光ノ章 0-06【妹姫】下 |
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| >>0-02【妹姫】挿絵03 |
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| >>光ノ章 0-04【霊鈴】下 |
| 08/05/25(日) |
| >>光ノ章 0-03【霊鈴】上 |
| 08/05/22(木) |
| >>0-00【籠姫】挿絵02 |
| 08/05/21(水) |
| >>光ノ章 0-02【妹姫】上 |
| 08/05/18(日) |
| >>光ノ章 0-01【籠姫】下 |
| 08/05/14(水) |
| >>光ノ章 0-00【聖女】上 |
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| >> †Curse of blood†時更新 |
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| 16/01/13(水) |
| >>月ノ章 4-11【祟神】 |
| 16/01/09(火) |
| >>月ノ章 4-10【祟神】 |
| 15/12/22(火) |
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| >>月ノ章 4-08【奈落】 |
| 13/07/22(月) |
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| 13/07/15(月) |
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| 11/04/01(金) |
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| >>月ノ章 3-09【取引】下 |
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| 11/02/14(月) |
| >>月ノ章 3-07【取引】上 |
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| 11/01/23(日) |
| >>月ノ章 3-05【語部】 |
| 11/01/18(火) |
| >>月ノ章 3-04【天敵】 |
| 11/01/12(水) |
| >>月ノ章 3-03【水都】 |
| 10/01/07(金) |
| >>月ノ章 3-02【思惑】 |
| 10/12/22(水) |
| >>月ノ章 3-01【月兎】 |
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| >>月ノ章 3-00【金策】 |
| 10/02/23(火) |
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| 10/02/16(火) |
| >>月ノ章 2-07【血渇】 |
| 10/02/07(日) |
| >>月ノ章 2-06【幻影】 |
| 10/01/27(水) |
| >>月ノ章 2-05【女難】 |
| 10/01/21(木) |
| >>月ノ章 2-04【国境】 |
| 09/11/16(日) |
| >>月ノ章 2-03【灯台】c+ |
| 09/11/10(火) |
| >>月ノ章 2-03【灯台】下c |
| 09/11/09(月) |
| >>月ノ章 2-03【灯台】下b |
| 09/11/03(月) |
| >>月ノ章 2-03【灯台】下a |
| 09/10/22(木) |
| >>月ノ章 2-02【灯台】中ab |
| 09/10/01(木) |
| >>月ノ章 2-01【灯台】上 |
| 09/09/27(日) |
| >>月ノ章 2-00【呪地】 |
| 09/09/15(火) |
| >>月ノ章 1-06【余談】 |
| 09/08/31(月) |
| >>月ノ章 1-05【脱出】ab |
| 09/08/24(月) |
| >>月ノ章 1-04【取引】 |
| 09/08/07(金) |
| >>月ノ章 1-03【聖船】b |
| 09/08/04(火) |
| >>月ノ章 1-03【聖船】a |
| 09/08/02(日) |
| >>月ノ章 1-02【聖船】a |
| 09/07/14(火) |
| >>月ノ章 1-01【慧眼】 |
| 09/07/09(木) |
| >>月ノ章 1-00【日常】 |
| 09/06/21(日) |
| >>月ノ章 0-03【双子】 |
| 09/05/12(火) |
| >>月ノ章 0-02【双子】ab |
| 09/05/01(金) |
| >>月ノ章 0-01【双子】ab |
| 09/04/26(日) |
| >>月ノ章 0-00【屍族】b |
| 09/04/26(日) |
| >>月ノ章 0-00【屍族】a |
| 08/10/01(水) |
| >>月ノ章 1-00【兎姫】 |
| 08/09/26 (金) |
| >>月ノ章 0-09【潜入】 |
| 08/09/20(土) |
| >>月ノ章 0-08【死海】 |
| 08/09/12(金) |
| >>月ノ章 0-07【灯台】 |
| 08/09/07(日) |
| >>月ノ章 0-06【凶兆】 |
| 08/08/27(水) |
| >>月ノ章 0-05【翼竜】 |
| 08/08/10 (日) |
| >>月ノ章 0-04【双子】下b |
| 08/08/07 (木) |
| >>月ノ章 0-04【双子】下a |
| 08/08/04 (月) |
| >>月ノ章 0-03【双子】上 |
| 08/06/13(金) |
| >>月ノ章 0-00【屍族】 |
| 08/06/07(土) |
| >>月ノ章 0-02【闇商】下 |
| 08/06/05(木) |
| >>月ノ章 0-01【闇商】上 |
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| >> †Curse of blood†時更新 |
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| 16/03/08(火) |
| >>血ノ章 4-08【姫妹】 |
| 16/02/21(日) |
| >>血ノ章 4-07【姫妹】 |
| 16/02/06(土) |
| >>血ノ章 4-06【屍妹】 |
| 15/10/25(日) |
| >>血ノ章 4-05【屍妹】 |
| 13/04/30(火) |
| >>血ノ章 4-04【接触】 |
| 13/04/16(火) |
| >>血ノ章 4-03【煙街】 |
| 13/04/06(土) |
| >>血ノ章 4-02【目的】 |
| 13/03/29(金) |
| >>血ノ章 4-01【恋敵】 |
| 11/04/11(月) |
| >>血ノ章 0-01【血契】 |
| 11/04/03(日) |
| >>血ノ章 4-00【囚姫】 |
| 11/04/02(土) |
| >>血ノ章 0-00【夜娘】 |
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| 血ノ章【ラグナウェル編】 |
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| 0-00【夜娘】 |
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| 4-01【変節】 |
| 4-02【目的】 |
| 4-03【煙街】 |
| 4-04【接触】 |
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