『†Princesse du sang†』 月ノ章 3-11【凶刃】
月ノ章 3-11【凶刃】
―ミュークSIDE―
「その通りだ」
ミュークの問いかけに銀髪紅眼の青年が口を開く。
「貴殿は何者じゃ? 恐らく先程の術式はインフェルノ第六圏の強化術式“炎渦呪波”じゃろう。 一端の術者に操れるシロモノではない筈じゃ」
世界広しと云えど、第五圏より深層域の屍霊術を操れる術者は数えるほどしかいない。 ミュークの知る限りでは、前ウィズイッド家当主であった母アルフォンヌと、女帝クリスティーナ・ヴァーサ。 そして、血統アルカナ“魔術師”の現継承者ルドルフ・オルカザードの三人である。
「俺はラグナウェル・オルカザード―――いや、アンタがアルフォンヌの娘なら、家名はリュズレイと名乗ったほうが理解し易いかな?」
「なにを云っておる? いや、まさか……、あの時の人族の娘がエレシアム・リュズレイだったのかや」
ミュークの裡で絡まっていた記憶の糸が解れていく。
ルドルフは正妻を亡くして以来、数百年に亘り独り身であったが、十六年前、ひとりの人族の少女を寵愛し、その間に御子を儲けていた。 ウィズイッド家とも因縁浅からぬ出来事であった為、人族の世に関心が薄かったミュークですら記憶に残っていたのだ。
「どうやら何も知らなかったらしいな」
「じゃが、その話が真実ならば、シャルロット・リュズレイは……」
聖女ではない―――そう続けようとして、ミュークは言葉を呑み込んだ。
「察しの通りさ。 先代の聖女が屍族の赤子を身篭った事実を、隠蔽する為の替玉ってわけだ」
ラグナウェルが嫌悪と侮蔑の感情を吐き出す。
「ちょっと、ちょっと、ふたりだけで盛り上がらないでくれるかな」
紅ドレスの少女屍族が不満を顕に頬を膨らませて、会話に割って入る。
「其方とは話とうない」
ミュークが身も蓋も無く拒絶する。 どうやら、この少女屍族とは旧知の間柄であるようだ。
「随分と他人行儀だなー。 知らない仲じゃないでしょう?」
「できれば忘れ去りたい過去なのじゃがな、ラールウェア嬢よ」
ミュークは何処かばつが悪そうに後頭部を掻いた。
ラールウェアはオルカザード家十七代目当主ルドルフと彼の実姉アルカの一粒種である。 所謂、近親婚であるが、人族の社会では、禁忌とされる交姦も、血の純血性を尊ぶ大屍族の間では慣例化されたものだった。 それはウィズイッド家とて例外ではない。
「えー、つれないな。 何も知らなかったアタシに手を出したのはミュークお姉さまだよ。 あんなにエッチな悪戯しておいて、今更知らん顔する気?」
ラールウェアは、首元で鈍い輝きを放つ翡翠玉と同色の瞳でミュークに微笑みかける。
流亡に身を窶す以前のミュークは、気に入った美童美少女を古城に侍らせ、怠惰且つ享楽的な日々に耽溺していた。 そんな倒錯した性癖は数百年前も同様で、子供ながらに見目麗しいラールウェアにも密かに食指を伸ばしていたのだ。
「ミュークさま……」
背中に突き刺さる双子の視線が痛い。
「な、なんじゃ、その蔑むような目は? 最初は嫌がっておっても、最終的には合意の下での睦言じゃ。 疚しいことなどこれっぽっちもないぞよ」
「いえ、言い訳はいいです。 今も昔もお変わりないと思っただけですから」
レムリアが盛大に肩を落としている。 そうあっさり諦められては、ミュークも立つ瀬が無い。
「くっ、その件については、後回しじゃ。 ところでラールウェア嬢よ、そこの青年は本当にルドルフとエレシアムの?」
「うん、そうだよ」
ラールウェアは明快に断言してのける。
「そうか」
ミュークは重く深い溜息をつく。
運命とは皮肉なものだ。 体裁を重んじた教会や王国から存在を排他された忌み子が、これまで生き永らえていたことも驚嘆に値するが、まさか、人族の世を離れ、オルカザード家に身を寄せていたとは、想像だにしなかった。 屍族が異端視されるこの西大陸で、忌憚ともされる出生を背負った苦悩は察するに余りあるものであるだろう。 彼は己が人として生きることを疎外される因となった屍族の血を受け入れたのだろうか?
「それと、ラグナウェルお義兄さまは、アタシのモノなんだから、勝手に話さないでね♪」
そう言ってラールウェアは、飼い主に甘える子猫のようにラグナウェルの胸元に頭を擦りつける。
「これは奇異なことを、その青年が件の御子であるならば、其方の方が随分と年上―――」
「うるさーい!! 人族の外見年齢的な見地からアタシが妹って設定なの!」
ラールウェアの怒気と共に、高速構成された術式が発動して、紅い波濤が扇状に拡散する。
「くっ」
ミュークは両腕で顔を覆うようにして、インフェルノ第二圏の下級術式“赤熱衝扇”の放射熱をやり過ごす。 前髪と衣服の焼け焦げた臭いが鼻を突く。 術者の精神集中が十分でなかったことが幸いして、本来の威力の半分も発現していなかったようだ。
「相変わらずも癇癪持ちじゃな。 じゃが、なぜオルカザード家の血族が、このような場所におる?」
もはや件の襲撃がオルカザード家の犯行である事は十中八九間違いなかった。 そして、この遭遇は同家の総意を確かめる絶好の機会であると、ミュークも考えた上での問い掛けだろう。
「とんでもなく厄介な奴に命を狙われていてね。 そいつを斃す為には、特別なチカラが必要なのさ」
口を開いたのはラグナウェルだった。 端麗な唇から漏れた言葉は自嘲気に歪んでいた。
「なるほど、その“チカラ”とやらがこの遺跡に眠っておるというわけじゃな」
「そんなところだ。 だが、この玄室の封印は俺たちの手に余るシロモノだったらしい。 そこで、こうして待っていたのさ、この封印を解ける存在をな」
ラグナウェルは背後を振り返ると、黒色の直方体を忌々しげに見上げる。
「ならば、待ち人を害するような持て成しでは、元も子もないじゃろう」
ミュークがラグナウェルの不条理な行いを指摘する。 現に彼の出会い頭の焔術で数人の兵士がこの世の人ではなくなっているのだ。
「単なるふるい分けさ。 言っただろう、この封印は人族には勿論、屍族の手にすら余るシロモノだと」
「それ程の封印を解呪できる者が、このアルル=モアに居るというのかえ?」
ミュークは半信半疑で言葉を返す。
そのような存在は、西大陸中を探し回っても、見つけ出すのは至難の業だろう。 知的種族に限定するならば、既に滅び去ったとされる巨人族か、世界から隔絶された楽園に住まう妖精族の二種族しか該当しないのだから。
「居るはずさ。 この遺跡の外壁に施されていた封を破った者が存在するのだからな。 そして、アルル=モアの調査団が、玄室の扉を開こうとするならば、必ずそいつのチカラを再び頼ることに―――ん?」
不意に口を閉ざしたラグナウェルの視線が、警戒するように石室の西這入口に向けられる。
リュズレイの三姫記 -光と月ノ章- 5-00【… 2016/05/01
リュズレイの三姫記 -血ノ章- 4-08【姫妹… 2016/03/08
リュズレイの三姫記 -血ノ章- 4-07【姫妹… 2016/02/21
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人物紹介
【人族世界】
アダマストル公国
聖アルジャベータ騎士団
メナディエル聖教
その他
【屍族世界】
ウィズイッド家
用語辞典
一般用語
夜ノ章【短編集】
0-00【炎神】
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| 08/05/18(日) |
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| >> †Curse of blood†時更新 |
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| 10/01/27(水) |
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| 09/11/16(日) |
| >>月ノ章 2-03【灯台】c+ |
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| >>月ノ章 2-03【灯台】下c |
| 09/11/09(月) |
| >>月ノ章 2-03【灯台】下b |
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| >>月ノ章 2-03【灯台】下a |
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| >>月ノ章 2-02【灯台】中ab |
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| >>月ノ章 2-01【灯台】上 |
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| >>月ノ章 2-00【呪地】 |
| 09/09/15(火) |
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| >>月ノ章 1-05【脱出】ab |
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| >>月ノ章 1-04【取引】 |
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| >>月ノ章 1-02【聖船】a |
| 09/07/14(火) |
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| 09/07/09(木) |
| >>月ノ章 1-00【日常】 |
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| 09/05/12(火) |
| >>月ノ章 0-02【双子】ab |
| 09/05/01(金) |
| >>月ノ章 0-01【双子】ab |
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| >>月ノ章 0-00【屍族】b |
| 09/04/26(日) |
| >>月ノ章 0-00【屍族】a |
| 08/10/01(水) |
| >>月ノ章 1-00【兎姫】 |
| 08/09/26 (金) |
| >>月ノ章 0-09【潜入】 |
| 08/09/20(土) |
| >>月ノ章 0-08【死海】 |
| 08/09/12(金) |
| >>月ノ章 0-07【灯台】 |
| 08/09/07(日) |
| >>月ノ章 0-06【凶兆】 |
| 08/08/27(水) |
| >>月ノ章 0-05【翼竜】 |
| 08/08/10 (日) |
| >>月ノ章 0-04【双子】下b |
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| 08/08/04 (月) |
| >>月ノ章 0-03【双子】上 |
| 08/06/13(金) |
| >>月ノ章 0-00【屍族】 |
| 08/06/07(土) |
| >>月ノ章 0-02【闇商】下 |
| 08/06/05(木) |
| >>月ノ章 0-01【闇商】上 |
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| 16/03/08(火) |
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| 16/02/21(日) |
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| 16/02/06(土) |
| >>血ノ章 4-06【屍妹】 |
| 15/10/25(日) |
| >>血ノ章 4-05【屍妹】 |
| 13/04/30(火) |
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| 13/04/16(火) |
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| >>血ノ章 4-02【目的】 |
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| >>血ノ章 4-01【恋敵】 |
| 11/04/11(月) |
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| 11/04/03(日) |
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| 11/04/02(土) |
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| 4-00【囚姫】 |
| 4-01【変節】 |
| 4-02【目的】 |
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