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明日とか昨日からおそろしく離れていてくるんと軽やかで臨機応変でそれでいて、硝子のようにもろい”今”。毎日が繰り返され意識をしなくなって周囲に溶け込むぐらいに透明になっていたのに一瞬の不安が”今”を粉々にした。
Dec 30, 2007
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15歳の時、19歳の女と駆け落ちして大阪に飛び出した。動物園の飼育係として働いていたが、半年ぐらいで連れ戻されたわけだ。その後、映画俳優を目指して、有名な映画でちょっとした役なんかをやったこともある。(大物俳優Sとは同期なんだと得意そうに言うじゃないか)手に職を持った方がいいと考えた時もあって調理師の資格も持っている。結局、今はサラリーマンだけれども俺は波乱の中を生きてきた。(と彼は自慢する。)そんな人生の中でも、動物園でオットセイの餌として放り投げた薄べったいイカの白さが妙に記憶に残っていてこうして飲んで酒のつまみにイカが出てくるとつい当時を思い出す。そこで彼は一息ついて、焼かれて皮の表面が赤黒くなったイカの輪切りを口に運ぶ。激動の人生は終焉したのか、現在、彼は接待費が使えるから営業が好いと言って、会社にしがみついている。
Dec 24, 2007
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国会議事堂の警備が仕事です。腕の筋肉が女性の太腿程にある屈強な肉体に女性のようなやさしい目をした頭をのせて幼い息子を楽々と抱き上げながら彼は自己紹介をした。公園の芝生に横たわる彼に熱射がほぼ垂直に射す。今、彼はうたたねをしているのだろうか。それとも、息を止めてしまったのだろうか。静止した真夏の一場面で事件が起きる。噴水での水遊びに飽きた彼の息子がとことこと歩いてきて黄色い長靴を履いたその小さな足で眼を閉じている彼の頭を蹴った。
Dec 16, 2007
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過去や未来がごちゃごちゃになってゆっくりと!プールの水の中に沈んでいく。次の瞬間のために全身の曲線が収縮して静止する。時間が封じ込められる。漂う思念は波面で消え躍動感だけが現在を支える。彼女は滑らかにプールに飛び込んだ。
Dec 9, 2007
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その女はわたしに気づいていただろう。ひたすら夜の闇の中を突き進む通勤電車の中で、座っているわたしのまん前に顔立ちの整った美しい女が立っていた。わたしはちらりちらりとその女の顔を見上げる。女はそれほど若くはないが、その美しい顔にわたしの気がひかれる。その女の顔を見続けていたいのだけれども、それを悟られてはいけないと、ときどきあらぬ方向の週刊誌の吊り広告を見る気もないのに見ている。ただ何回かその女の顔を見て、確かに美形であるが、化粧が少し濃すぎるように感じられた。化粧で皮膚の表面が塗り固められている。わたしの隣の席が空いて、その女が座った。一瞬、その女が隣にいることでわたしの気持ちが高揚したが、その顔がまったく見えなくなって落胆した。窓の外を見ようとして視線を投げると、外は闇で何も見えないのだが、社内の明るさと外の闇のために窓ガラスが鏡のようになって、その女の顔をくっきりと映し出している。白い化粧と地味な服の色のためか、女の顔だけが車窓に浮かび上がっている。それは、肌色が明るさを失い、土色の仮面のように見える。仮面は微笑んでいるようにも怒っているようにも見えた。女の顔の反射像を見るのに遠慮はいらなかったが、仮面の不気味さからわたしは見る気を失っていた。しかし、その仮面に一度引き込まれると、視線をどうしてもはずせない。まばたきすらできない。見続けざるをえない不思議な力がある。突然、仮面が大きく口を開けて、わたしを飲み込むように見えた。なすすべもなく、わたしは蛇に睨まれた蛙のように身をすくめ眼を閉じた。ふと気づくとその女が立ち上がり列車から降りていく。それ以来、わたしは女の顔が恐ろしくなった。車内のどの女の顔もわたしを見つめているように思えた。わたしはそれらの顔を見つめ返す気力はなかった。やがて、車窓に浮かんだあの仮面がいくつもいくつも宙に漂い、わたしを取り囲んだ。列車から降りて家路をとぼとぼと歩いていると、すれちがうどの女もあの仮面をかぶっている。わたしの知っている女の顔はすべてあの仮面にすり替えられ、もはやそれ以外の顔を思い出せない。今、わたしは妻の顔が思い出せなくて、自宅の前で立ち尽くしている。わたしは他にいく所も無く、やがて家の中に入っていくだろう。あの仮面をかぶった妻が出てこないことを祈りながら。
Dec 2, 2007
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