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25年間もわたしは同じ会社の同じビルの同じフロアに通っている。わたしには未来がない。それでも毎日同じことを繰り返す以外にわたしは何もできない。会社のエレベータの地下一階から乗り込んだ時には誰も同乗者がいなかった。早朝はそんなことが多い。でも、その日エレベータがわたしの行き先階である9階を目指して上昇していく時に、わたしは誰かがこのエレベータの中にいると思った。エレベータの一隅に彼がいた。物理的には見えないのだが、彼の意識が存在していた。彼はわたしを見ているわけではなく、いつもの私と同じように9階に着くのを待つだけの手持ちぶたさを紛らわそうと、エレベータの現在位置を示す表示パネルを眺めている。わたしは物理的には見えないにもかかわらず、彼がそのようにしていると感じた。一度彼の存在に気づくと、わたしがエレベータに一人で乗ると必ず彼がいるようになった。そして彼が彼らになった。エレベータの四隅のすべてに彼らが立っていた。わたしは努めて気にしないようにした。彼らは決してわたしに危害を加えない。ただ、わたしと見知らぬ人がたまたま乗り合わせた時のように、互いに黙り込み、エレベータの表示パネルを眺め9階までの時間を潰すのである。最初から同乗者がいると彼らは現れなかったし、また、最初はいても途中から誰かが乗り込んでくると彼らはいなくなった。とにかく、誰もいないと地下一階から9階までわたしにつきまとい、9階に到着すると彼らはいなくなった。気にしなければ大きな問題はなかったのであるが、さらに彼らの人数が増え、エレベータの4隅だけでなく彼らが立ち始めた。乗り込む時は確かに人がいないのに、わたしが乗り込んでドアが閉じるとたくさんの彼らがいる。だんだんわたしは身動きができなくなってきた。意識としての彼らはわたしに物理的に接触することはなかった。しかし、彼らは存在し、それを証明するかのようにわたしを威圧してくる。直属の上司、その上司の上司、とても偉い上司がそばにいるときのような、わたしがここで25年間勤務して感じてきたものと同じようなさまざまな威圧をわたしは感じた。そのためであろう。わたしは動けなくなった。緊張して手が、足が動かなくなった。ある日の朝、わたしはもうだめだと思った。わたしがエレベータに一人で乗り込むと、今やそこにかつてないほどたくさんの彼らがいた。ドアが閉じエレベータが上昇し始め、わたしはもう逃げられないと観念した。立ち尽くす彼らの数があまりに多い。わたしは満員電車の中のような圧力を感じ、わたしの体は締め付けられていく。冷や汗が出てきた。呼吸すらうまくできない。9階に着くまでわたしの意識があるかどうかわからないが、確かに彼らは存在する。
Aug 26, 2007
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養鶏場から男が疲れて帰ってくると日中、食べ続けさせられた餌をどろどろと吐き出しながら「今日も、まだ、首がつながっている。」と妻に語りかける。一体、いつになったら、静かな肉の塊になるのだろう。二人が横たわる闇の中で老いた彼女は眼を見開きつぶやく。
Aug 19, 2007
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最近、肉が少し足りないらしい。そんな噂が流れて、一部の若い女たちはおびえている。彼女たちの美しい肉体は加工されて、赤く染めた唇か、もしくは、うっすらと産毛の生えた胸や腿の肉が市場に流通していく。そんな様子がテレビで放映されている。インタビューに答えて、上流階級の老婆が語る。「彼女の味が、彼女の色がささやくのです、彼女は本当に美しかったと。若い時、わたしも自分の体をもてあましていました。美しいことが怖かったのです。今の若い人達の不安がよくわかります。」そう言うと、老婆は柔らかそうな肉をくにゃりと噛み切った。
Aug 12, 2007
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奥さんの方がどんと大きくて、腰痛持ちで、糖尿病で、彼女は月曜日から金曜日までスポーツクラブに通っていて、本人は78歳だというのに、土曜日も働きに出て。子供は男が2人で、長男はどこかに行ってしまったが、次男はまだ家に転がっていて、アパート住まいで、次男が家庭内暴力で暴れて、まわりにその音が漏れて、それが、いやで、いやで。彼は夢を見て、豪邸に住んでいて、次男が暴れて自分の部屋の窓ガラスを割っても、彼の書斎にはその音が届かなくて。彼は最後にそんな夢を見て。
Aug 5, 2007
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