マジック・ザ・メイカー 16 話「魔女と昔話2」
冥珂は目の前にいる少年の話を聞きながら昔を思い出していた。
あどけない少女の面影を残し、目立った活躍は無く細々と魔女をしていた頃、レヴィと名乗っていた。イギリスのロンドンに居たレヴィは魔術を学びに来た神学者の男アルフォンスと恋に落ちた。レヴィは覚えたての大規模な降霊実験を男と共に行い成功させる。アルフォンスはこれをきっかけに魔術にのめりこんでいった。レヴィは魔女の間でも有名になり、魔女同士の抗争に巻き込まれていく。そしてすれ違いからアルフォンスと別れることになった。レヴィは自分を取り巻く環境から離れるため東へ東へと旅を続け海を渡り、遠い極東の島国へとたどり着いた。
レヴィが難破同然でたどり着いたのは言葉の通じない国の小さな漁村。たまたま通りがかった 20 代後半から 30 代の男に保護され回復していった。
男の家には大量の本、オランダ製の空気銃、反射望遠鏡、玉燈、御懐中筆、鋼弩、神鏡(銅製魔鏡)などの道具が大量に置かれていた。男は村人から『先生』と呼ばれ慕われていた。
黒いローブを纏ったレヴィの姿に村人は戸惑ったが先生が置いてる人ならばと少しずつ慣れていった。レヴィは毎日先生のため込んだ本を読みふけりそれ以外の時間は外の様子を眺めていた。
「ここにきて 1 週間、しかしおまえさん何も話さへんなぁ……しゃべれへんのとは違うんやろ?」
「…………」
レヴィは小さく頷きすぐに本に視線を戻した。
「元気になって良かったわ、詮索はせん。好きなだけここにおったらええ、せやけどおるんやったら何か仕事してもらうで?」
「……」
レヴィは小さく頷き指を空中で動かしルーン文字を描く、すると指先に炎が出現した。
「むむっ?」
次は指先に電を走らせる。
「おおっ?そりゃあどういう仕掛けや?」
「 Magic 」
「まじっく?……術か。俺は使えへんけど見たことはあるで不思議なもんやなぁ」
「 Name ……なま、え。おしえ……て?」
「お??」
「なまえ……おしえて?」
「お、おお。俺の名前は立花藤一や。おまえさんの名前は?」
「……」
首を振るレヴィ。
「好きじゃ……ない……」
「言いたくないんか……それでも呼ぶのにいつまでもおまえさんじゃあなぁ~……あだ名とか無かったんか?」
「あだ……な?」
「名前の他にも呼ばれとったやつや。なんか無かったか?」
藤一の言葉にレヴィは首を傾げやがて一言……
「 Maker めいかー……」
「めいかぁ……か。ほなら『めい』もしくは『めいか』やな」
「メイ……めいか……分かっ…た」
レヴィはめいかとして村にしばらく居ることにした。少しずつ言葉を覚え村人の為に薬や道具を作り馴染んでいった。
居心地は良かったが魔女と人間は住んでいる世界が違う。藤一は長生きしても 80 歳そこそこ、それに対し魔女は 1000 歳を超えるものもいる。藤一と長くいればいるほど別れがつらくなるのをめいかは感じながら過ごし気が付けば 1 年が経っていた。
「あるふぉんす?」
「うん、それが別れた男の名前や」
「そうか、ほならめいかは今空いとるんやな?」
「え?……まぁそうやけどあたしが言いたいのは……」
「分かっとる、魔女なんやろ?ちょいと人間と違うっちゅうだけやん、俺はなんも気にせえへんで」
「それはつまり……」
「俺の嫁になってくれめいか!お前こそが俺の求めとった最高の相棒や!!」
「え!?本気……なんやね?……嬉しいけどちょっとだけ考えさせて」
「ああ、分かった」
めいかは藤一の家の裏道から山に入り太い枝の木に登り夕日に染まった海を眺める。
「はぁ~……魔女の森にいた頃よくこうやってたなぁ……」
めいかは日が沈み切るまで眺める。そろそろ戻って藤一に返事しようと決め村の方を見ると煙が上がっていた。
「火事!?」
急いで飛び降りるめいか、降りた瞬間足の裏に激痛が走った。
「あああっ!?何かが……」
めいかの足の裏には 4 方向に突き出した木製の錐(木製撒菱)が突き刺さっていた。
「お命頂戴!」
紺色の布を顔に巻いた男が二人めいかの前に現れ黒く塗られた刃物を抜いた。
「誰!?」
「答える必要は無し」
男が手裏剣を投げる。めいかは転がって避ける。
「逃がさぬ!」
もう一人の男が刃物を振り上げる。
丸腰のめいかはとっさに木の枝を拾い男の手を打って凌いだ。
「(一体何が?藤一は、村の人たちは?)」
「ぐああああっ!」
「ぎゃあああっ!!」
男たちが倒れる。倒れた後には銀色の山猫が浮かんでいた。
「チャーリー!!」
後にスフィンクスと名付けられる使い魔。
『へっ……俺様がいなければお前は本当にダメだな!この 1 年見守らせてもらってたがよ……魔女としてお前は全然なっちゃいねぇ』
「だったら何?魔女としての契約を切る?」
『今更それはできねぇ。ここで切ればお前の肉体はあっという間に骨になるぜ?普通ならとっくに死んでいる時間を過ごしているからな。俺様もお役御免でこの世界からサヨナラだ。主もそれは望んではいないだろうよ俺様を通じてこの世界を見ているからな』
「説教をしにきたん?」
『いいや?魔女にとって 1 年なんて短い時間何をしようと勝手だが魔女は魔女でしかない。それを忘れてないかとな』
「……忘れてへんよ。ちょっと疲れたし休んでただけや」
『新しく覚えた言葉気に入ったのか?まぁいい、お前がすべきことは何だ?』
「あたしがやるべきこと……」
『お前が魔女になったのは』
「小さな鍵と指輪、平和の為……」
『平和?違うだろレヴィ正義だ!人類の滅亡を防ぐ為のな!主との契約だぞ、主は人間好きだからな!!』
「正義……は何か恥ずかしいやん。それにあたしは今はめいかや!」
『なんでもいい、行動しろ。休暇はおわりだぜメイカ!』
銀色のほうきに変形するチャーリー。めいかは跨ってしがみつく。
『急ぐぞメイカ!トウイチの家の方からダークパワーが集まってるのを感じるぜ』
村は火の海になっていた。顔を布で覆った集団が火をつけて回っている。
「やめろー!」
ほうきで滑空するめいか。火をつけている男らに突進していく。
『敵の数が多いな。何の道具も持ってねぇお前と俺様じゃあちと骨が折れるな』
「急いでチャーリー!早く藤一の所へ!!」
藤一の家にたどり着くめいか。家は炎につつまれ藤一の姿は見えない。
「藤一!!藤一!!」
『めいか後ろだ!』
振り向くと甲冑をつけた武者と煌びやかな着物を身に着けた鬼面の男が立っている。
「立花藤一の家の者か?奴はどこへ行った?隠すと為にならぬぞ?」
「あんた誰や!」
「黒谷幽遊斎」
「なんでこんな事すんのや!何が目的や!!」
「言う必要はないが冥土の土産とやらに聞かせて進ぜよう。どの道、立花藤一の他は皆殺しにする予定なのでな」
黒谷幽遊斎は通る声でゆっくりと言った。
「奴の才能に嫉妬し疎ましく思う者が居る。奴の居場所を無くし目の届く所に置きたいのだ浅ましいことよ。だが、拙には関係の無い事」
『どこの国も同じだな……』
黒谷幽遊斎が指を向けると甲冑武者がゆっくりと太刀を抜く。
『来るぞメイカ!』
上段からの斬撃をチャーリーのほうきで受けるめいか。吹き飛ばされ藤一の蔵の扉に衝突する。
『メイカ、そこはまだ火の手が回ってねぇ。その中に使えるものがあるはずだ』
蔵に飛び込むめいか、目の前にあったのは先日藤一が完成させたばかりの 20 連発早打気砲であった。オランダ製の空気銃を改良したものである。
『それだ!使い方は分かるな?』
「ええ!」
チャーリーが包み込んだ早打気砲を構えダークパワーを集中させる。
「……!」
甲冑武者が蔵に入ってきたのを見計らってめいかはダークパワーで強化した早打気砲を撃つ。
「……!?」
連続発射される弾丸は甲冑武者の鎧を粉砕、ゆっくりと仰向けに倒れる。
『やったか……?いや、おかしいぞ。あれは人間じゃねぇ』
粉砕された甲冑の中から見えるのは針金と木製の歯車。
「ほう、拙のからくり武者を破壊するとは。早打気砲と妖術の合わせ技か」
黒谷幽遊斎は腰に下げた刀を抜く。
『早打気砲は弾切れか……メイカ、ダークパワーで弾丸は作れるか?』
「急には無理や……」
『なら、突貫して切り抜けるしかないな!』
チャーリーは変形し早打気砲を銃剣へと変える。
「やあああっ!」
距離を詰めるめいか、刺突で迎え撃つ黒谷幽遊斎。めいかの肩を刃がかすめる。そのまま走り抜け蔵から出た。
めいかは地面にルーンを刻み後方へと飛びのく。撒菱で受けた傷が痛んだ。
「道具が無かったらこんなに何もできないなんて……ルーンを書く暇もないし」
『発動の時に痛みは感じるが体にルーンを刻む方法もあるのにお前はしなかった』
「こんな状況になるなんて考えてへんかってん!」
『来るぞ!』
地面のルーンを発動させて土の壁を黒谷幽遊斎を狙って伸ばす。黒谷幽遊斎は足を掛けて軽く跳躍、めいかの前に着地し切りつけてくる。
「チャーリー、セフィロトの樹を召喚する!剣、それからビナー、ケブラー、ホド、マルクトを繋ぐからそれを早打気砲に刻んで!」
銃剣で斬撃を受けながらめいかはチャーリーに言った。
『ルーンの位置は?色は?図形は?最終的な形は?』
「位置と色と図形は組みながら言う!最終的な形は剣…… 10 本の剣で!!」
『一つ組み合わせを間違うと発動しないぞこんなもの。カードにでもして持ち歩いとけよ』
「それは考えてんの!何回も使えて複雑なルーン、図形、色を組み合わせたカードを」
『ああ是非とも完成させてほしいね!斬撃を耐えながらこんなことするのは二度とゴメンだ!』
黒谷幽遊斎の斬撃がめいかの右大腿をかすめる。
「あぐっ……」
『もう少しだメイカ、仕上げの組み合わせを送れ……よし、行けるぞ!!』
「はあああああっ!!」
銃剣から青白い 10 本の剣が現れ黒谷幽遊斎の周りに突き刺さる。そして稲妻が発生し閉じ込めた。
「ぬう!?この妖術は……」
「一歩でも動いたら黒焦げにする!チャーリー、藤一を探しに行くで!」
銃剣型のほうきにのるめいか、低空飛行で村を飛び藤一を探す。
「藤一!とういちー!!」
『人影は無いな』
「……村の皆が……」
『逃げる暇もなくやられてるな。黒谷幽遊斎とやらの話を信じるなら藤一は殺されていないはずだ。北に神を祀っている建物があったな、そこはまだ行ってねぇ』
「うん」
神社に向かうめいか。そこには覆面の男数人と倒れている藤一、幼い子供がいた。
「とういちぃ!」
急降下で突進、覆面の男たちを吹き飛ばす。
「藤一!ああ……ひどい火傷……」
「めいか……無事やったんやな……俺はこの子も助けることが出来んかった……皆は……?」
「……あかん」
「そんな……」
息が荒くなっていく藤一。
「水、水で冷やさないと……!井戸は確かあっちに」
「待ってくれめいか……さっきの返事聞かせてくれるか?」
「何言うてるの!すぐに冷やさんと死んでしまう!!」
「……その前に聞かせて欲しいねん、意識途切れそうでな……」
「嫁になる!あたしはあんたの嫁や!!立花めいか!!」
「はは……良かった……せや、今日の晩飯はおまえの作るあの味の変化する粥がええな」
「分かった分かった!なんぼでも作ったる!だから無理にしゃべらんでええ、すぐに水持って来る!!」
めいかは井戸まで全速力で飛び水を汲んで藤一の浴びせた。
「藤一!!」
藤一は答えない。
「藤一!!あかんて!!絶対あかん!!目開けて!!嫌やって!!」
チャーリーが藤一の手首に触れ鼻に近づく。
『藤一はもう……』
「うるさいっ!!……水や!水で冷やしたらな!!薬も塗ってあげんと……」
『メイカ……』
「こんなん嫌やって……なんでこんなことになったん……うああああああああ」
めいかは藤一にしがみつき大声を上げて泣いた。
続く
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