異能者特務機関: TMI 第 12 話「レインボーフォリナー 5 」
範囲を極限にまで絞り、威力を上げたヴォルテックスキャノンを放つルキナ。薔薇原の背中に命中し巨体を弾丸めいた勢いでコンクリートの壁に叩きつけた。
「があ……」
コンクリートの壁を一部粉砕し全身から緑色の体液を散らせる。
「嫌アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
全身から蔓を伸ばす薔薇原、ルキナはエアカッターを体に纏わせ回転させながら突進。弾丸種、毒花粉、棘蔓の攻撃を全て弾き肉薄する。右手には発光する空気玉。
「もうこれで終わりよ……ヴォルテックスバースト!」
ヴォルテックスバーストは秒速 30km で空気を乱回転させ気体分子を衝突させ蹴散らし励起加熱プラズマ状態になった空気玉を叩きつけるもの。右手を突き出すルキナ、 発光した空気玉は流星のような軌跡を描き薔薇原の腹部に叩き込まれる。
「嫌あああああああああああ!!」
「……」
ルキナはカレンを抱えて廊下を飛翔、ヴォルテックスバーストを仕掛けた薔薇原から離れていく。拳大のものでも鉄筋コンクリートの重構造物を倒壊させる威力がある。
大きな爆発音と共に爆風が廊下を駆け巡った。爆発の中心点に薔薇原の姿は無く、床壁天井はコンクリートが粉砕され多重構造の金属壁がむき出しになっている。研究施設は核爆発にも耐えられるシェルターにも匹敵する構造の為崩落は免れた。廊下には広範囲にわたって緑の体液と肉片が飛び散っていた。
「……初めて人に使ったわ」
「もうあれは人じゃないですよルキナちゃん」
「そうだったと思うしかないわね」
「仕方なかったのですよ……地下 6 階はこれで確保ですかね。哿さんとフローレンスさん、博士を呼びましょう」
「次の地下 7 階も殺さなきゃいけないのが出てきたら……ああダメダメ、覚悟を決めるわ。行くわよカレン、予知お願いね」
「了解」
哿に通信を入れるカレン、哿はフローレンスとブラウン博士を連れて地下 6 階にテレポートする。ルキナとカレンは地下 7 階へと進んでいく。
「次の地下 7 階は海洋生物の飼育フロアー、地下 8 階は哺乳類の飼育フロアー、地下 9 階は洗浄準備フロアー、地下 10 階にバクテリアの他ウィルス等がある実験室だ 」
「はい」
哿は PDA で地図を確認する。
「ブラウン博士、この先のフロアーに無事生き残ってる人は居ると思いますか?」
「この様子だと絶望的だ。だが入口のゲートやエレベーターの操作をした者が生き残っている可能性は高い」
話しながら地下 6 階を回る哿、フローレンス、ブラウン博士。アリナから通信が入った。
『こちらチームエンジェル……地下 7 階がおかしい。構造が地図と合わない!まるで迷路……』
ルキナの目の前にはコンクリートの壁が立ちふさがり左右に通路が伸び曲がりくねっている。コの字型のシンプルな構造であるはずのフロアーは迷路と化していた。
『長官!!』
ルキナが言った。
『落ち着きたまえ、想定してなかった事態だがブラウン博士を地下 10 階に連れていくことが君たちの任務だ』
『長官』アリナが通信に入る。『わたしが地下 10 階までの道を切り開きます。早乙女ルキナには 1 階の防衛をお願いしたいのですが』
アリナは変異熊の頭部をアンカーボルトで吹き飛ばし変異犬の尻尾を掴みハンマー代わりに使い残りの 2 匹を叩き潰して言った。
『わたしでは大勢の感染者相手に加減して鎮圧することは難しい。ですが早乙女ルキナならそれほど難しくはないはずです』
『駄目だ、そのままの配置で続行する。変更する時はこちらで指示をする』
『……わかりました』
『(まだもう少しならアリナくんを止められる……)』
***
「終夜アリナ……!交代なんかしなくてもあたしはやるわよ!できるし!!」
『貴女の能力を過小評価した発言では無かったはずですが。まあいいです長官の指示に従うだけですので』
通信を切るアリナ。
「あのパワーゴリラ~……!」
早乙女ルキナは悪態を着いた後すぐに冷静になり、目の前のコンクリートの迷路に風を這わせて進みながら探っていく。
「流石ルキナちゃん、切り替え速い優秀!」
カレン・ユンは 2 秒先の予知をしながらルキナについていく。
「ん?……変よカレン、 20 メートル程先の壁が動いたわ 」
「壁が?」
「ええ、それに後ろの通路も……これは異能者の仕業よ」
「シアアアアアアアアアアッ!」
突如ルキナとカレンの頭上から巨大な鮫が現れた。風のバリアーで弾かれた鮫は地面を跳ねる。
「鮫!?なんで??」
「このフロアーは海洋生物を扱っているみたいですが……」
ルキナとカレンは四方の壁から水が噴き出している事に気が付いた。
「無駄よ!風のバリアーで隙間なく包めば平気だし!」
ルキナは球状にバリアーを展開しカレンも浮かせる。水位は上がっていき 1m までの深さとなった。床で跳ねていた巨大鮫は背びれだけを水面上に出してルキナ達の周りを泳ぎ出した。
「水位がまだ上がってる……ルキナちゃん、このままだと天井まで水があがるヨ」
「無駄なのに 溺死でもさせようって訳?それともあのサメに襲わせようっての? 」
「ここままじゃブラウン博士も移動できない、壁を壊す?」
「……とりあえずサメを始末するし!」
バリアーを纏ったまま掌にヴォルテックスバーストを準備するルキナ。周囲の水から空気を抽出しながらの圧縮に時間がかかることに苛立つ。水位は 2m まで達している。
「水の中でも別に溺死とかしないし水の中から空気取り出すし平気とか考えてたけど……この状況って」
水場での任務を想定しての訓練も受けてきたが実戦では初めてだった。
「苦手だわ」
泡で包み込んだプラズマ弾ヴォルテックスバーストを発射するルキナ。鮫に炸裂し爆発四散、廊下を埋め尽くした水が爆発でうねりルキナとカレンを廊下の端まで押し付ける。
「壁はエアドリルで掘り進むしか無さそうね」
「ルキナちゃん気をつけて!両側の壁が襲って来るヨ!」
「え!?」
左右の壁の一部が少しズレた状態でせり出し二人を切断しようとしてくる。ルキナはカレンを引いて前方に加速する。
「コンクリートを操る異能者……?」
それならば相性は良くないとルキナは考える。
「上にいくわ!」
ルキナは空気を固め回転させるエアドリルを天井に向ける。
「どうしたのルキナちゃん?」
「この状態では現在地が分からないし!それなら上のフロアーに戻って階段まで行けばいい!」
「おお!スゴイよルキナちゃん!!」
「電源ケーブルとか傷つけたくないしカレン予知で見て」
「了解ネ!」
配管とケーブル鉄骨を避けて掘り進み地下 6 階に戻るルキナとカレン。
「脱出したのはいいけど……どうするか……だよね」
「クレアボヤンス(透視能力者)はエンジェルにも U チームにもいないヨ」
「敵の居場所さえ分かれば……」
「敵はどうやってワタシたちを見ていたのですかね?」
「そういえばそうね……」
ルキナはカレンの持つ PDA を見る。
「………………施設内を監視するカメラを見る所があるはず!きっとそこよ!」
「ちょっと待ってルキナちゃん。一人とは限らないヨ?監視カメラを見て指示出してるのかもしれない」
「……そっか、その可能性もあるわね。それにしても何なのかしら、準備万端で迎え撃ってる感じが凄く不愉快なんだけど」
「ルキナちゃん……下から何か上がって来るヨ!」
ルキナが空けた穴から飛び出したのは全身をコンクリートの人型であった。
「待っていられなくて飛び出したって訳?」
ルキナは瞬時に風のバリアーを張って言い放つ。
「困るなぁ~別のフロアーに行かれちゃあ。お楽しみはこれからだっていうのに」
「バクテリアに感染して頭おかしくなった異能者の一人なんでしょ?」
「俺は砂川里刺(すながわさとし) 38 歳独身好きなものはハンバーグ。君の様に小生意気な少女が大好きなんだ」
「キモ……とっとと倒して先に進むわ」
「無理だね!君は俺には勝てない!風属性は土属性には勝てないんだ!!」
「は?意味わかんないんだけど」
「風は水に強く、水は火に強く、火は土に強く、土は風に強いんだ!常識だろ!!」
「なにそれ?オカルトやファンタジーじゃあるまいし……ホントキモい」
ヴォルテックスキャノンを放つルキナ。吹き飛ばされる砂川、壁に叩きつけられるとそのまま壁と同化して姿を消す。
「は!?」
「ルキナちゃん下ヨ!」
カレンの声を聞いてルキナはとっさに飛び上がり空中で停止する。その直後砂川が床から現れ掴みかかった。
「ち、惜しい!……君ルキナちゃんっていうんだ。いいパンツ履いてるね」
「ちょっ……キモさが極まってるんだけど!!」
砂川は床のコンクリートから立ち上がり体に纏ったコンクリートを変化させ光沢のある西洋風の鎧に変えていく。
「どうだい?これで気持ち悪くないだろ?ルキナちゃんも悪いんだよそんなミニスカートひらひらさせて挑発するから」
「はあっ!?挑発とか関係ないし!これはファッションだし!!」
「死なない程度に可愛がってあげるからね」
「だまれ死ね!」
ヴォルテックスキャノンを放つルキナ。砂川はドーム状の盾を構えて耐える。
「なっ……!」
「チッチッチ!その必殺技はもう俺には通じないよ。滑らかな曲線を描いたこのガイアシールドはありとあらゆる風を逃がす角度を計算して作ってある。まぁ俺が計算したんじゃないけど」
「それならこうよ!」
エアドリルを形成して突進するルキナ。砂川は床のコンクリートから粘土状の壁を出現させる。粘土の壁を突くルキナの突進は途中で止まり弾き飛ばされる。
「な、なんでよ!!」
「粘度の高いのと硬いのを混ぜた特殊粘土壁ガイアウォール。削岩機並のドリルでも掘り進んだ粘土が千切れずに伸びてルキナちゃんのドリルに絡まれば切れ味は落ちる。その状態で弾力のある硬い粘土に当たれば弾き返されるって訳さ。俺が考えたんじゃないけど」
「さっきから何を言ってるのよ……」
「バクテリアさ!バクテリアが教えてくれるんだ、俺を導いてくれる!!フィギュアを作るくらいしか生かしようが無かったこの異能もパワーアップしてくれた!!そのバクテリアが言うんだ! TMI のエージェントを倒せってね!!」
「そのバクテリアがアメリカでどんな事件を起こしたか知らないの!?」
「知ってるとも!適合できなかった負け組がゾンビ化して駆除されただけさ!!この施設も連中の殆どは適合できない負け組だらけだったけどね?あ、言っとくけどバクテリアを拡散させたのは俺じゃないから、全員気付いたら感染してたのさ」
「じゃあこの施設はもう……」
「終わってるのさ! TMI が来るのを待ってたんだよ。バクテリアの目的は人間社会へ溶け込み繁栄すること。適合者が増えればあっという間に広がるぞ?止めることは不可能だ……と、余計な事話すなってバクテリアが言うからこの辺でやめてルキナちゃん可愛がってあげるよ!」
砂川が地面を踏み込むとコンクリートは棘状の波となって走りルキナに襲い掛かる。ルキナは空中旋回で回避、カレンは施設の部屋に隠れ様子をうかがっている。
「バクテリアに意志があって教えてくれる?そんなの……あり得ないわ!」
「そうかい?ルキナちゃん馬鹿なのかな?虹の光事件を知らないとか?」
「そのくらい知ってるわよ!それでもバクテリアが高度な知能を持つなんて……」
「変異したバクテリアと思ってる?違うんだなぁ~そこが間違ってる。このバクテリアは変異して新たな生物へと進化したんだ。これでも俺はこの施設のメンテナンス係だからずっと実験を見てきたんだ」
「実験?」
「そうさ、バクテリアを使った実験さ。さまざまな動物実験を行いバクテリアの特性に気づいたんだ彼らには意思があるとね。それで学習させる実験も行われた。適合したゴリラはあっという間に言葉を理解し一か月後には 10 歳児程度の知能を持つようにまで、そして今ではここの研究員と同等かそれ以上の知能になったのさ」
「そんな事……やっぱりおかしいわ!バクテリアに感染して拒絶反応起こした人がゾンビみたいになって知能退化してるのよ!矛盾してる!」
ルキナは密かに通信機をオンにして砂川の会話を拾う。
「段階を知らないからそう言えるんだ。感染した直後は異能に目覚めたり身体変化が起こる、その後適合しない者は意識レベルが下がった半死状態になって次の感染先を探して彷徨う、これがゾンビ化だ。これも感染先が見つからなければやがてバクテリアも死ぬ。つまり適合しなければ学習する前に死ぬんだ。俺は適合した、だから共生しているバクテリアも学習し俺を助けてくれる!エリート級の知能でね!」
続く
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