異能者特務機関:TMI 第 1 6 話「レインボーフォリナー 9 」
下の階に降り、隔壁のロックを解除し除染室を通りぬけ保存室に入るアリナ、フローレンス、哿。
「あれがコールドスリープのポットですね」
哿はポットに近づき PDA を操作してコールドスリープの解除を始める。
「バイタルサイン正常……あと 1 分で覚醒します」
1 分後ポットが開き冷気の中から全身ボディスーツの美濃セレスティア白夜が現れた。
「美濃博士……分かりますか?」
「……ん」
美濃セレスティア白夜の呼吸器を外す哿、フローレンスが首に手を当て確認する。
「んん……あなたたちは……その服、 TMI ですか?」
ゆっくりと目を開ける。
「そうです美濃博士、バクテリアの事でブラウン博士と一緒に来ました」
「……あなたたちが無事にここまで来たという事は五所川原を退けたのですね。ああ、私のことはセレスティアもしくはティアと呼んで下さい」
「僕は哿希世美といいます、こちらは終夜アリナさんにフローレンス・フランシスさん」
「そうですかどうぞよろしく」
体を起こすとゆっくりとポットから降りるセレスティア。そのまま歩いて壁際のカーテンの付いた簡易シャワー室の横のロッカーを開けボディスーツを脱ぎ捨てた。
「どうしましたか TMI の皆さん?」
「い、いえあまりに落ち着いておられて自宅で着替えるかのような姿に驚いただけです」
セレスティアから目を反らせる哿。
「……?」
「気にせず着替えをしてください」
アリナは哿の前に立って言った。
「私が落ち着いているのは……もう安全だと確信しているからですよ。正直コールドスリープからいつ覚めるのかわからなかったので不安はありましたがね」
「まだ上の階層は安全とは言えませんが TMI で保護します」
「五所川原振之助はどうなりました?」
下着を着け、袴を思わせるパンツに深緑のシャツ、和風デザインの白衣を身に着け橙色のシュシュで髪をまとめ透明フレームの眼鏡をかけるセレスティア。
「逃がしてしまいました……バクテリア事件の詳しい事はわからないままです。セレスティア博士良ければ知っていることを教えてもらってもよろしいですか?」
アリナはこれまで得た情報をセレスティアに話す。
「そうですか……五所川原振之助はゴリラのフォッシーの実験結果を見た時から興奮していました。そして次なるステップとして人体実験を行う事に意欲的でした。他の職員は当然反対。それで諦める五所川原ではありませんでした。そこで彼は大金をちらつかせ個人的に交渉を始めた。私はフォッシーからそれを聞き五所川原に詰め寄りました」
「阻止するために五所川原と対立したのですね」
「いいえ」
いいえと意外な答えにアリナは一瞬目を見開いた。
「止めるために対立するよりも協力者を装ってコントロールすることにしました。フォッシーも理解してくれましたし五所川原を刺激したくなかったのです。戦闘スーツを用意して何かあれば対処するつもりでいました」
「それでどうなりました?」
「私は人体実験に意欲的であった彼の為に人体実験シミュレーターのソフトをフォッシーと作り上げました。実際に行う事は出来なくてもシミュレーションならできる、それで妥協させるつもりでした。彼は自分の生体組織のデータをシミュレーターで何度も実験していました」
「……」
「彼は最低限の自分の関わっている業務をこなし後は人体実験シミュレーションに夢中でしたね。施設の人間のサンプルをとりシミュレーションにかけてデータを取っていました。
この頃から少し五所川原はおかしくなってきたのかもしれませんね」
「停電のあった日、貴女はどうしていましたかセレスティア博士」
「覚えている範囲でならお話しますよ。……停電のあった日、私は五所川原にコールドスリープのポットに入るように命じられましたね」
「何故五所川原はそんなことを?」
「私は彼に好意をもたれるように勘違いさせておいたので、私を生かす為にそうさせたのかも」
「そんな簡単に好意を?」
「ああいったタイプの研究者の男性は理解者と自分の研究に協力できる人間を求めているので。身内にそういう男性がいたので知っているのです」
「停電の後に施設は五所川原の手によりバクテリアで汚染され、五所川原は覚醒して適合者となった。同時期にアメリカの施設で事故が発生バクテリアが流出しテロリストの手に渡って周辺の市街にまで被害が及んだとのことですがどう考えます?」
「そうですね……同時期に起きた事件……アメリカの施設とは頻繁にやり取りをしていたので五所川原に感銘を受けた者。逆にアメリカにいる者が五所川原に影響を与えたという可能性も考えられます。計画的犯行の可能性も」
「五所川原の背後に何者かが居る可能性も考えられますね」
「ありえなくはないでしょう」
「セレスティア博士、事件についての話は後で TMI で話してもらうとして、今は施設最奥にあるバクテリアを確保したいのですが」
それを聞いたアリナは哿を見て頷いた。
「そうですね、哿さんの言う通りです。今はバクテリアを入手してブラウン博士に抗バクテリアを作ってもらわなければ。セレスティア博士協力をお願いします」
「もちろんです。あのバクテリアの抗菌性抗生物質を造るのですね。取り扱う以上同時に研究もしてましたのでデータはあります。私が眠っている間に設備が破壊されていなければすぐにでもかかれるでしょう」
***
―施設一階
「ハァハァハァ……これで全部よ!」
ルキナ、カレン、マイケルはゾンビ化した感染者を全て破壊。ゾンビを操っていた菓谷彪介(かたにひょうすけ)に迫る。
「クソクソクソクソクソがああああああああああっ!!」
背を向けて走り出す菓谷。ルキナは空気圧縮ブレードを飛ばして足に命中させる。
「ごおええっ」
顔から転倒する菓谷。カレンとマイケルはアサルトライフルを構えて距離を詰める。
「やめっ……やめてくれぇええ!!」
「動くな!」
「お前は放っておいていい存在じゃない怪物だ!」
「バクテリアに支配されてるだけなんだ!助けてくれ治療してくれ!!」
「……隠し持っていた銃を撃つつもりネ?」
カレンは予知で見た光景を口にする。
「黙れ死ね!!」
懐に手を入れた瞬間、マイケルのアサルトライフルが火を噴き菓谷に弾丸を浴びせた。
「動くなといったはずだぜ?」
カレンが予知で死亡を確認。そのタイミングで通信が入った。
『施設の制圧を完了。これより生存者の美濃セレスティア白夜博士と共に戻ります。アポートは無しでお願いします』
U チームのリーダーである哿の声を聞きルキナらは小さくため息をついて安堵の表情を浮かべた。
***
研究施設の事件は事故として処理されることになり、アリナ達 U チーム、ルキナ達チームエンジェルは他のチームに引継ぎをし任務から外れる事となった。
―翌日
終夜アリナの U チームと早乙女ルキナらのエンジェルチームはジンギスカンで評判の店で食事を終えワゴン車に乗り込んでいた。
「とても満足しました」
「良い店でしたねアリナ。客層も店の雰囲気も」
「ルキナさんたちも美味しそうに食べてましたね」
ハンドルを握る哿、ワゴン車を発進させる。少し遅れてエンジェルチームのワゴン車は反対車線に出ていくのが見えた。
「箸を持てなかったマイケル・カルーヤには少し悪い事をしましたね」
「フォークで納豆サラダばっかり食べてましたね」
「デザートのアイスクリームも美味しかったですね」
他愛もない話で盛り上がる三人。
「エンジェルチームはブラウン博士とセレスティア博士の護衛があるのでしばらく北海道にいますしもう一回くらい一緒に食事できそうですね。今度はどんな店がいいですかね?」
「哿さん、蟹料理が食べたいです」
「私はアリナの希望で良いです」
「ではエンジェルチームにも伝えておきましょうね。今度は B チームも呼びたいですね、いつも僕たち U チームのバックアップをしてもらってるので」
「あまり顔を合わすことはありませんが B チームには感謝しています。是非とも一緒に」
アリナは窓の外、研究施設の方角を見ながら言った。
「 B チームは昔から哿さんと組んでいるメンバーなのですよね?」
フローレンスは PDA に表示されている B チームのメンバーを見て言った。
「そうですね、 B チームの三人との付き合いはもう 3 年になります。彼女たちは後方支援や調査、追跡を得意としていて前の僕の A チームもとても助けてもらってました」
「 A チーム……わたしとフローが日本に来る前に居たメンバーですね」
アリナは横目で PDA を見て言うとすぐに窓の外に再び目を向けた。
エンジェルチームのワゴン車はアメリカ支部長のハリー・ハーマンと通信していた。
『これから本部の会議に参加する……君たちはそのまましばらくこっちには戻ってこない方がいいかもしれんそっちで任務を受けてもらう』
「なぜですか支部長?」
鏡でメイクをチェックしながらルキナが言った。
『詳しい事は会議が終わってから話す。この通信は本部のテレパシー異能者の力を借りたもので例のゴショガワラには傍受される心配はない、今後もこの方式で君たちと連絡を取ることにする』
***
上空 1 万メートルに浮かぶ白い塔。 TMI の本部。
「……」
長官のジェームズ・スチュワートは椅子に体重を預けコーヒーを飲んだ後にため息をついた。
「コーヒー、お気に召さなかった?」
アーニャ・アイゼンハートは落ち着いた声で少し口角を上げてそう言った。
「アーニャ、君は何も思わないのかね今回の事件」
「変わった事件だとは思いますけどこれまでに例が無いというほどでは。なのでいつも通りに処理して良いと思ってますよ」
「電子世界を自由に行き来できる犯罪異能者がバクテリアのデータを持って逃げたのだぞ?世界的危機に発展しうる大事件だと私は考えているんだがね?」
「だからこそ、ですわジェームズ。世界的危機を何度も救ってきたTMIは今度もいつも通り世界を救います。既に対策チームを立ち上げています。作戦会議の資料の準備が出来たのであなたに書類のデータとコーヒーをお持ちしたのですよ」
「……そうだったのか、いや流石だよアーニャ。君は昔から優秀だが年を経てますます磨きがかかっているように感じるな。それに比べ私は……」
「日本の支部長までやってるのでは疲れが溜まって当然、十分なスペックを発揮できなくて当然です。今日にでも代理を任命すべきです」
「ああ……日本支部は哿くんに任せたい。だがあのチームはテレポーターもしくはアポーターが必要なんだ。哿くんやマイケルくんほどの異能者とは言わないが適任者が見つからなくてね」
ジェームズはTMIの名簿を見て頭をかく。
「 4 名ほどいるはずでは?」
「…… 3 名が断っている。無理強いしてもいい結果にならないのは目に見えている」
「なにが原因ですか?」
「アリナくんの足を引っ張ってしまうのが怖いという声と、日本より自分の国で活躍したいという声があるのだよ……後 1 名はフランスにアリナくんを戻すのが条件という……」
「終夜アリナを戻すようにストライキを起こすと言っているジョリス・シモン。彼もテレポーターですね」
「彼だけは絶対に無い」
「ジョリスは終夜アリナをジャンヌ・ダルクか何かだと思っているのでは?」
「……否定はできないね。フランス支部のシャルルくんからアリナくんの活躍っぷりを聞かされていたからね。彼はアリナくんを制御しきれてなかったし実質フランス支部を引っ張っていたのはアリナだったと聞いている。彼女を使いつぶす為に彼は過酷な任務を与えつ続けていた節があったね」
「結果フランス最大の犯罪組織を壊滅、その混乱に乗じて台頭してくる組織も全て潰したって訳ですね」
「警察も優秀でうまい具合にTMIと連携が取れてたから混乱も起きずに解決できた。アリナくんの亡くなった父親が警察官であったのも関係あったのかもしれないね」
「彼女一人の力では無かったにせよ、ジョリス・シモンにとって終夜アリナは英雄であったという事ですね。突如現れた救世主に見えたのでしょう」
「ジョリスくんは哿くんと同等かそれ以上のテレポーターなんだが……アリナくんに心酔するあまり視野が狭くなってしまう可能性がある」
「能力に問題は無い、のであれば期間限定で彼を日本支部に入れてみてはいかが?問題があればすぐにフランスに戻すという条件で監視すればストライキも防げるのでは?」
「そうだな検討しよう……だが今じゃない」
「そうですね、これは急ぐ必要はありませんね」
「……では行こうか、会議へ。五所川原振之助の対策が先だ」
コーヒーを飲み終えるとジェームズは立ち上がり、タブレット端末を手に取る。それを見届けたアーニャは扉を開けた。
会議室には既に 4 名が席についており残りの席にはモニターが置かれている。各国の支部長、カテゴリー 5 の面々が集められていた。
「皆揃っているな……では早速始めようか。五所川原振之助、仮称【電人 G 】の対策会議を始める」
***
事故の起きた研究施設は徹底的に浄化が行われていた。美濃セレスティア白夜の用意していたアーマード戦闘スーツを着た職員数十名。バクテリアを視認できるように調整されたカメラ、バクテリアを掴むことのできるマニュピュレーターを装備して作業に当たっている。全員が抗菌性抗生物質を投与されバクテリアの対策はされていた。
「施設の外に流出した可能性は低いが念のため調査は行った方が良いだろう」
戦闘スーツを着ながら作業するブラウン博士が言った。
「そうですね。アメリカは既にかなり広範囲に広がっているとの事ですからせめてこちらは防ぎたいところです」
自分専用女性型戦闘スーツを着ているセレスティア。白を基調とし部分部分に鮮やかなグリーンとオレンジのパーツをあしらえてある。
「しかしこんな高性能戦闘スーツ良く残っていたね?セレスティア博士」
「五所川原は全て破壊したつもりでいたようですが、それは組み上げた旧式の物だけです。新型は組み上げる前の状態で AI もまだ組み込んでいなかったので無事でした」
「そうだったのか、備えていたのだね。ところでセレスティア博士、抗菌性抗生物質は投与されてない様子ですが?」
「感染の危険はありません。私は強い異能者ではありませんが自分自身の異能の扱いを熟知していましてそれを使い体内のバクテリアは全て駆除しました。スーツのカメラでスキャンして確認していただいて結構ですよ?」
「……確かにバクテリアは微塵も見当たらない」
「安心しましたか?では作業を続けましょう」
続く
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