異能者特務機関:TMI 第 17 話 「フローレンス・フランシス」
―日本支部
B チームと一般職員は北海道での任務にあたっている為、日本支部にはアリナ達 U チームの他には警備ロボと雑務をこなすアンドロイド、宿直の職員 1 名だけであった。
待機中のアリナ達 U チームの 3 人は自分の席に着きそれぞれ資料漁りや装備のチェック、読書などをしてくつろいでいた。
フローレンスは北海道での会話の後、それまでさほど気にしていなかった日本支部長、 A チームの事が頭から離れなくなっていた。
「哿さん」
「はい、なんでしょうフローレンスさん」
「 A チームと支部長の事で訊きたいことが事が」
「はい」
「日本支部長と A チームの 2 名は失踪となっていますが、 TMI は一度登録した異能者は世界中どこにいても追跡できるはずなのですが、行方不明扱いになっているのは何故ですか?以前長官に尋ねたことが事があるのですが答えてはくれませんでした。なので哿さん言える範囲で教えてくれませんか?」
フローレンスはタブレット端末を持って哿に言った。
「わかりました。失踪事件はミイラ取りがミイラになったといいますか……初めに二人が突然 TMI を辞めたいといいだしてそれを止める為に僕と支部長と 4 人で何度も話し合ったんです。休養が必要なら取ってもいい、前線が嫌ならバックアップか訓練施設や本部の職員になっても良いと説得したんですけど……」
「ミイラ取りがミイラになったとは?」
「辞めると言っていた二人が『合わせたい人物がいる』と支部長を呼んだんです。僕は支部長をその建物の入り口まで送りました。その後支部に戻り連絡を待っていたのですがその日はありませんでした。翌日支部長の机の上に辞表ともいえるメモが残されていました。そしてそのまま支部長と A チームの二人は姿を消してしまったのです」
「日本支部長、篁真守(たかむらまもる)テレパス。 A チームメンバー、舟木陽爻(ふなきようこう)パイロキネシス。 A チームメンバー、中平朔良(なかだいらさくら)サイコキネシス……素行に問題はなく優秀……と記されてますね」
「ええ、なのですぐに捜索が始まりましたが本部の異能者でも 3 人の行方を突き止めることはできませんでした。かろうじて手掛かりはあったのですがそれは 3 人の痕跡ではなく……一人の男の声でした」
「男の声?」
「本部のサイコメトラー数人が同じ声を聞いています。テレパスによる情報共有で確認しました。声はデータ化され各国支部に送られたのです」
「声しか痕跡が無かったというのは妙ですよね。テレポートで消えたとしても直前の光景はサイコメトラーには見えるはず」
「きれいさっぱり何も見えなかったと報告書にあります。あったはずのものを消し去ったかのような……」
「その方法は解明できていないのですね?声の男の方は何か手掛かりはあるのですか?」
「その声とは……カテゴリー 6 ですね」
それまで静かに聞いていたアリナがつぶやいた。
「え?」
フローレンスはアリナの声のトーンに驚く。
「そ、そうです……声はカテゴリー 6 ……十年程まえに突如現れ世界を混乱に陥れた念爆者(サイコボマー)のカテゴリー 6 、一度は TMI が追い詰めたのですが……今は行方知れずの人物です」
「……」
「アリナ……?」
フローレンスがアリナの顔を見ると眉間にしわを寄せ机の上で組んだ手を眺めている。
「わたしはフランスで偶然支部長のシャルルさんがその事件のことを長官と話しているの聞いたのです。 PDA の資料から聞こえた声……忘れるはずがありません。わたしの家族の命を目の前で奪ったあの男の声を……」
「日本支部長と A チームのメンバーが消えた事とアリナの探している人物が繋がるなんて……」
「わたしはその声を聞いて日本支部に来たのです。カテゴリー 6 を追って来たのです」
「アリナさんの発言を無視するわけにもいかなかったフランス支部はカテゴリー 6 と日本支部失踪事件の男の声を照合しました。結果は完全一致。そして二日後にアリナさんが日本支部に来られました。僕と B チームで迎えに行きました」
「その 3 日後にフロー、貴女が日本支部に来た」
「私は……日本支部の空きが出来たので呼ばれただけです。工作員から TMI に入り訓練所を卒業した後は本部でフリー扱いで様々な支部の応援に入ってました。私はアリナに出会ったのも偶然です」
「いいえ、違いますよフロー。わたしが貴女を選んだのです」
「え?」
「貴女を見てわたしが選び長官に申請したのです」
「そうだったの」
「カテゴリー 6 を討つために選んだのではありません。一目で気に入ったのです、わたしのチームメイトは貴女だと」
「私のどこが気に入ったの?」
「合う、と感じたのです。わたしは自分の感覚を基準に判断します」
「アリナ……」
「貴女がわたしと合うかは若干不安でしたが。フランス支部で合うメンバーはいませんでした。仲間として認識はしていましたが向こうはどう思っていたかは分かりません」
「僕と合わないと感じていたらアリナさんはどうしてたのでしょう?」
哿は一瞬だけアリナを見て床見て目を伏せる。
「……任務に支障をきたすことは無い様に振舞っていたと思いますね。ただ、任務外での付き合いは無かったかと。こう言った会話も無いと思います」
「そう……ですか……」
「わたしは偉そうに言える者ではありません。好みかそうでないかそれだけです。わたしは自分自身の目的の為にフランス支部を辞め日本支部に移り自分のやり方を押し通す者です長官や皆に迷惑をかけていると思います。ですが止まりません誰にも邪魔はさせません」
「そんな迷惑だなんて……!」
哿は少し大きな声を出した。
「僕の事もアリナさんは真っすぐに見てくれます。男っぽいとか女っぽいとか言わずに関係なく接してくれます。変な気を遣うことも無いですし僕もアリナさんとは接しやすいです。仕事も優秀でさりげないサポートを良くしてくれるを僕は知ってます」
「そうですアリナ、あなたのおかげでどれだけ私は救われているか。あなたは誰かが言った『我儘な猛獣』なんかじゃない」
「アリナさんの程の力を持つ人があんな丁寧に手加減をして被害を最小にできるのは他に居ないですよ」
「過大評価ですよ」
「そんな事はない!」
フローレンスは立ち上がる。
「アリナ、あなたに出会って私は救われた」
―フローレンス・フランシスは製薬会社に勤める両親の間に生まれ比較的裕福な家庭で育った。
フランス語、ギリシャ語、イタリア語、ラテン語、哲学、数学、天文学、経済学、歴史などあらゆる教育を施される。
フローレンスはその中で一人の偉人に感銘を受け『自分もこうなりたい』と思うようになる。
その名はフローレンス・ナイチンゲール。
両親は反対しなかった。フローレンスの目標を応援するようになった。順調に目標へと進んでいたフローレンスに悲劇が訪れる。
家族旅行の最中、ハイジャック犯により飛行機が夜の山の中に墜落した。
墜落後、意識を取り戻したフローレンスは幸い大きな怪我も無く、 壊れた座席から這い出た。
両親を探すフローレンス、発見した父親は首をあらぬ方向に曲げ、母親は機体に圧迫され口から血を吐いて絶命していた。
両親にも隠していた生体コントロールの異能を使い治療しよう とするフローレンス、既に死亡した生命はコントロールできず両親の遺体を抱え泣くだけであった。
―助けて
掠れた小さい声を聞いたフローレンスは立ち上がり壊れた機内から出ると地獄が広がっていた。
飛行機は完全に破壊され機体の残骸は荷物と共に散乱、そこら中から火があがり大勢の人が倒れうめいていた。目の前に自分より年下の少年が助けを求めていた。少年の下半身は飛行機の残骸により完全に潰されていた。
フローレンスは何ができるかわからないまま少年の手を握り生体コントロールで傷を治そうとした。潰れた下半身は再生途中で止まり麻痺していた神経を繋げてしまった為少年の苦痛は爆発的に増してしまった。激痛のあまり少年は意識を失いそのまま意識は戻ることは無かった。
フローレンスは何が起きたのか分からず瓦礫を移動させようとするも動くはずもなくその場に座り込んでしまった。
―助けて
―苦しい
―痛い
周囲から声がする。フローレンスの頭にナイチンゲールの『ランプの貴婦人』のエピソードがよぎった。
「助けなきゃ……皆を助けなきゃ……」
フローレンスは燃える火の灯りを頼りにまだ生きている人々を探して生体コントロールの異能を使うも幼く未熟な彼女は適切な処置はできず出血を止めるのが精々で苦痛を和らげる術は持たなかった。
徐々に消えていくうめき声。フローレンスは力尽きて倒れるまで夜の山の中を歩き回り人々を見て回った。
病院で目を覚ましたフローレンスは夢では無かったことに絶望し生き残ったのは自分を含めたった 3 名だと聞かされどん底に突き落とされた。
「私はできなかった……ナイチンゲールになれない……こんな力があるのに」
その後、養護施設にあずけられたフローレンスは他人との接触を避け勉強と体を鍛えることに没頭した。そして 13 歳で高等部のカリキュラムを卒業後、施設の紹介で軍の敷地内で医療部隊で事務の仕事をはじめた。
フローレンスの異能の力の事を知っていた軍の一人の男の目に留まり特殊工作員の隊に配属された。そこで彼女は銃器の扱いを覚え特殊工作員として前線に立つ者のサポートをすることになった。やがて敵スパイの尋問拷問をも担当させられフローレンスの精神はすり減っていき、目標としていたナイチンゲールへの思いも褪せてきていた。
テロリスト集団との戦闘が激化する中フローレンスは TMI の長官ジェームズと出会う。そして次の日には TMI の訓練施設に入り半年後本部に配属となる。 17 歳に准看護師の資格を取るための実務経験を積む為そういった現場に派遣されるようになる。そして 20 歳で正看護師になる為に。
すり減った精神はそれでも戻ることはなくフローレンスは幼少期の飛行機事故のトラウマに悩まされながら 16 歳を迎えた。
フローレンスは長官から日本支部の配属を言い渡されアリナと出会い精神力を取り戻していく。
フローレンス・ナイチンゲールの言葉、『 天使とは、美しい花をまき散らす者でなく、苦悩する者のために戦う者である』というものがある。アリナは復讐の為に我が道を進んでいるといいながら、目の前で助けを求めている善良で弱い者を無視できない、それらを助けるために迷いなくすぐ行動に移れるアリナに思い描いていた天使像を見た彼女はナイチンゲールを追うのではなく自分最高の看護師を目指すこと決めたのであった。
すぐに打ち解けあいお互いの身の上話をした二人。フローレンスはあの飛行機事故の時、アリナの異能が自分にあれば全員では無くても救える命あったと考え、アリナも大量出血で死んでいった家族を救えたのはフローレンスであったと考えた。
アリナが目標を達成したどうするのか決めていないと聞いたフローレンスは医療従事者の道を薦めた。彼女の純粋さや信念精神力の強さは戦闘マシーンとして敵を打ち倒すのに使うのではなく救うための力に使うべきだと考えた。アリナは『考えておきます』とだけ少し微笑みながら答えた。
「フロー?」
フローレンスの目が潤んでいるのを見たアリナが言った。
「なんでもないです……」
座るフローレンス。アリナは向かいの席にいるフローレンスの隣に腰を下ろした。
「本当に何もないのですか?」
「ええ、少し昔を思い出しただけ……平気」
「そうですか」
「アリナに嘘は付けないから分かるでしょう?」
「ええ」
「そ、そうだお茶淹れてきますね」
哿は小走りで給湯室に向かう。
「アリナ」
「はい」
「もしもの話ですが、カテゴリー 6 が他の国で発見されたのなら移籍するのですか?」
「分かりません……その選択肢もあり得ます」
「移籍するのであれば私も一緒に……」
「フローが付いて来てくれるのなら反対する理由などありません」
「フランス支部の人達はアリナに付いていこうとした者はいないのですか?」
「いませんでしたね。皆わたしを引き留めはしましたが日本に付いていくとは言いませんでした」
「付いてくる者がいたらアリナは了承した?」
「了承しなかったと思います。合わない者と一緒に過ごしてもお互いの為になりませんから。わたしを追いかけてきたとしてもわたしがその者と距離を置き続けるのは本人にとってよくありませんからね」
「そう……ところでアリナ、お昼ご飯は何にする?」
フローレンスは数秒目を閉じてからそう言った。
「 GOGO イチのカレーライスギガ盛り全トッピングをと考えているのですが 」
「じゃあ私も GOGO イチにする。あそこのハヤシライス気に入ってるの 」
「ハヤシライスもいいですね。ギガ盛がメニューにないのが残念です」
「じゃあ僕も GOGO イチで。シチュ―ライスにします」
哿が淹れたほうじ茶を二人の机に置く。
「 A チームの事は放置したままにしておけない事件です。何とかしたいですね」
「本部のカテゴリー 5 の力をもってしても手掛かりを掴めないとなると……」
「カテゴリー6……男の声はどうやって拾ったのですか?哿さん」
「Bチームの三人の異能力共有で何とか拾えたのです」
「異能力共有……失敗すれば脳細胞に深刻なダメージを残すあれを……!?」
「そ、そうです。長官も止めたのですが……」
「 B チームの三人と話をしたいです。時間を取って話したことはありませんから」
アリナは携帯端末を操作してカレーショップ GOGO イチの番号を呼び出しながら言った。
続く
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