異能者特務機関:TMI 第 19 話「念爆者(サイコボマー)」
ジェームズらが去った後、アリナ、フローレンス、哿はしばらく黙っていた。
「アリナ……」
フローレンスが口を開いた。
「わたしは念爆者捜索チームに入るつもりですが日本支部を抜けるつもりはありませんよ。フローと哿さんを念爆者捜索チームに入れるように長官に頼みます。断られても支援チームに入れるようにします」
「アリナさん……」
「二人が一緒なら念爆者を目の前にしても自分を抑えられる気がします」
「 B チームの三人にも長官から聞いた話を伝えるべきですよね?」
哿は長官の話を端末に保存していた。
「そうですね……普段あまり顔を合わせないからこそ情報共有はしておいた方がいいです。それに行方不明の A チームの事も……」
フローレンスはアリナの髪を三つ編みにしながら言った。
***
―北海道 TMI 研究施設
「今日はここまでにしましょう」
白を基調としたアーマー前部半分が開き、修復作業の指揮にあたっていた美濃セレスティア白夜は言った。
「了解」「はい」「わかりました」
10 人の作業員が一斉に返事を返す。彼らもセレスティア製のアーマーを外す。日本の B チームのメンバー 3 人もそこ中に居た。
「 Adele (アデル)システムチェックメンテナンスを」
『イエスマスター』
セレスティアは眼鏡に表示された AI ・ Adele に命令する。作業員全員のアーマーが閉じ自立歩行でメンテナンスに向かう。
「 Adele 作業員の皆さん全員のバイタルデータを」
『送信します』
眼鏡に表示されたデータを見てほんの少し口角を上げるセレスティア。
「問題無いようですね」セレスティアは後片付けをしている作業員に視線を向ける。「片付けが終わったら皆さんは帰ってもらって結構です。最終チェックおよび明日の準備は私が行いますので」
「了解」「はい」「わかりました」
全員が施設から出たのを確認するとセレスティアは元々倉庫に使っていた実験室に向かう。厚さ 3m のコンクリートと鋼板に囲まれたこの部屋は爆破物を管理していたものであった。今は戦闘用の人型の警備ロボが置かれている。
「 Adele 、始めましょう 10 億ボルトから」
『イエスマスター』
警部ロボの両腕がセレスティアに向けられる。そこから電撃が迸った。電撃はセレスティアに命中することなく逸れ八方に散る。
「 Adele 、出力を 200 %上げて」
『イエスマスター』
青白い閃光がセレスティアに放たれる。電撃は見えない壁に衝突したかのように散り天井と壁に激突する。
「 Adele 、次の準備を」
『イエスマスター』
人型警備ロボは壁の収納スペースに収まる。次に現れたのは 30 体の戦闘用ドローン。
「始めましょう」
『イエスマスター』
戦闘用ドローンがセレスティアを取り囲む。そして搭載された 9 ㎜弾を一斉に放つ。弾丸はセレスティアに命中する前に緑光の光を放ちながら弾かれる。
セレスティアが左手を前に突き出す。五指が緑光に輝き閃光を放った。戦闘用ドローンを一気に 10 体撃墜する。振り返りながら今度は右の指から閃光を放ち 7 体のドローンを撃ち落とす。
「はっ」
飛び上がったセレスティアは回転し両指から閃光を放ち残り全てのドローンを撃ち落とした。
「次を」
『イエスマスター』
床からせり上がってきたのは 3m 程の重機を思わせる軍用パワーフレームローダー。
ワイヤーの付いた直径 50cm のロケットパンチが放たれる。セレスティアは飛び上がって回避、手のひらから光弾を打ち出してロケットパンチのワイヤーを切断する。着地同時にセレスティアの足元から緑光が水の様に伸び、パワーローダーの脚部に触れると火花をあげる。脚部を破壊されたパワーローダーはうつ伏せに転倒した。
セレスティアの前にソフトボール大の緑光の球体が二つ浮かびそこから強烈な閃光が放たれる。パワーローダーを貫通しそのまま軌道変え切断していく。
「こんなところね、終了よ」
切断面がまだ赤く溶解している鉄塊と化したパワーローダーを眺めて言った。
『イエスマスター。お疲れ様です』
ドローンと作業ロボが現れ消火、回収していく。
「 Adele 戦闘データを送って」
『承知致しました』
眼鏡に表示されたデータに目を通していくセレスティア。
「電気信号を操作して身体能力のリミッターを外しての動きはこの辺りが限界か。これ以上はスーツ無しでは耐えられない」
『マスターの異能者強度は現在カテゴリー 5 に属されます』
「そうでしょうね、でもそれを表立って示すことはしない。 TMI に知られれば利用される。犬に成り下がるつもりは無い。 TMI にとって私は【弱異能の科学者】でいいの。スーツを着ていればスーツの力のみであると認識する」
『マスター、メッセージを受信しました。 TMI 本部からです』
「表示させて」
眼鏡に表示させる Adele 。
「……明日の朝 7 : 00 に電人 G 対策チームの作戦会議。まぁ随分とのんびりしてる事」
『 TMI の動きは想定より 14 時間 36 分遅れています』
「メンバーの変更は無いようね。終夜アリナが入ることも想定していたのだけど」
電人 G 対策チームメンバー
▽チームリーダー
フョードル・ヴァシリエヴィチ(ロシア支部長)
▽メンバー
イワン・チェーホフ(ロシア支部)
アントン・マカロフ(ロシア支部)
美濃・セレスティア・白夜( TMI 関連施設職員)
枩島大弼( TMI 関連施設職員)
長神一露子( TMI 関連施設職員)
「こちらの準備は全て整っているわ。 Adele 、ゴリラ・フォッシーの容体はどうかしら?」
『オートドクターに接続……バイタルサイン全て正常。意識は戻っていません』
「そう、それじゃプラン B を進めましょう」
『承知致しました。プランBを進めます』
ホテルを使わず施設で生活をしているセレスティアは白衣を纏い自室に向かった。
***
―数時間後、日本支部
TMI 専用回線を使い、アリナ達は日本 B チームとテレビ電話で通話を始めていた。
「……という訳です」
アリナ達は念爆者捜索チーム、電人 G 対策チームの話をした。
『そう……ありがと』
「顔色があまり良くないですね」
フローレンスが言った。
『……とにかく疲れているのよ。分からない、どうしてなのか。セレスティア博士のアーマーを着ての作業に慣れていないからかも』
B チームの樋野映子は目をこすりながら言った。
『そのせいか分からないけど、ロシアの雷帝【様】は電人 G 対策メンバーに日本 B チームは一人も入れないって言ったのさ。自分の部下二人を連れてきてさ』
ショートカットの頭を掻きながら小さくため息をする樋野映子。
『愚痴はこの辺にしておいて……何が聞きたいんだったっけ? A チームの事??』
「そうです」
アリナはモニター越しに真っすぐ目を見て言った。
『价子も万緒もダウンしてもう寝てるし私だけの話になるけど?』
「構いません」
『そう』
樋野映子はグラスに入ったウィスキーを口にする。
『……行方不明になった A チームの一人、舟木陽爻と私は付き合っていたんだ。結婚も考えてたよ。短気で馬鹿だけど正義感があって曲がったことが嫌いな奴でね、裏表がないというか気持ちのいい性格で一緒に居て楽しかったんだよ。私はサイコメトラーでこの力を制御できるようになるまでは他人の見たくないことまで見てしまって嫌になって、上っ面だけの距離を置いた人付き合いをしていた』
机に肘をついて顎を乗せる樋野映子、グラスを眺めている。
『制御できるようになってからも深い付き合いは誰ともしなかった。日本支部に入ることになって舟木陽爻と出会うまではね。やる気はあって真面目だけど要領が悪くて短気な舟木はいつも支部長に怒られていたよ。書類のミスも多かったし書き方もなってなかったから私がよく手伝う事になって遅くなった日は出前取って二人で食べたり……それである日バーで顔を真っ赤にして大声で「好きだ付き合ってくれ!」って言われてさ物凄く恥ずかしかったけど私も同じ気持ちだったから OK したよ』
アリナは集中して聞いている。
『のろけはこのくらいにして……それからしばらくして舟木の様子が少しおかしくなりだしたんだ。色んな事件の現場に行って色んな調査もしてきた経験豊富な警官上がりの舟木が急にね。何かあったの?と聞いても「そのうち話すよ」とだけ。携帯で誰かと正義がどうとか話してるのを立ち聞きしてしまった事があった。私は舟木が自分で言いだすまで待つことにした……同じころウチの B チームの万緒が親友の様子がおかしいって言いだした』
「万緒……藤根万緒さんですね。その親友というのは A チームの中平朔良さん」
哿が言った。
『舟木が携帯で話していたのは同僚の中平朔良だった。だから私は中平に話を聞きに行ったのさ。そしたら「何もやましい事はしてないない。でも何も舟木さんが言ってないのなら私から言えることは…… TMI を抜けるつもりでいる」とね』
「……その後支部長と哿さんが舟木さん、中平さんを何度も説得した」
『ええそうよ。舟木は「君に迷惑はかけたくないけど正義の為には仕方ないんだ」と泣きそうな顔で言ってた。私はどうする事も出来ず舟木の力になってあげることもできず悔しかったさ。私も付いて行くと言ったけど「待っててほしい」と言われたらね……』
「それからは?」
『突然支部長を呼び出して一緒に消えた。价子の義理の兄である支部長、万緒の親友中平、私の恋人舟木。 B チームにとって大事な人間が行方不明になった。だから異能者共有で探そうとしたのさ』
「異能者共有の危険性は知っていたのに実行したのは何故ですか?記憶喪失だけならまだしも最悪の場合精神が破壊され廃人になる可能性がある危険な行為です」
『その通り、もちろん知っていたさ終夜。本部のサイコメトラーですら手掛かりがつかめなかったのに自分たちが何か得られるとは本気で思ってなかったよ。でもね、やりもしないで諦めるなんて嫌だったのさ三人とも。異能者共有は怖かったさ、でも少しは自信があった。 B チームはとても強い絆で結ばれてるんだって三人とも感じていたから』
『それで声を拾った』
『そうよ。感じられたものはそれだけじゃなかったけど、ちゃんとデータに取れて意味のありそうな情報は声だけだったの。感じた匂いや目に映ったものは再現しても意味がないようなものだった』
「どのようなものだったのですか?」
『説明するより本部のデータを見れば早いんだけど……まぁ見れないか。見えた者はどう説明していいか……万華鏡をもっとぐちゃぐちゃにして立体感も速度も色もでたらめで……匂いは嗅いだことがあるようなないような頭を混乱させるものだった。本部のテレポーター曰く「テレポートの際の異次元に繋がる感覚に似ている」と』
「そうですか。……哿さん、どう思いますか?」
突然話をふられた哿は慌てた様子で、
「そ、そうですね……僕はちょっと違うんですけど、移動先の座標を見る時の感覚と似ているのかなーと。今見えている光景とテレポート発動の時見える光景は違いますから……異次元の感覚は人それぞれ変わるので……ごめんなさい」
そう言った哿は申し訳なさそうに頭を下げた。
「テレポーターといっても系統がありますからね。しかしこれで分かったこともありますね。 A チームのメンバーは異次元の干渉を受けて消えたのだと言えるのでは?」
『そうだね……まぁ本部も当然そこに行きついただろうさ。でも手掛かりがそこで消えてしまった訳だし声だけではその時はそれ以上追えなかったのさ』
「…… A チーム失踪の異次元の干渉は術師由来の可能性もあるのではないでしょうか?長官は念爆者を追えないのは確か『否認の呪い』と。関係あるかもしれません」
『呪いねぇ……そんなもので A チームの三人が消えたって信じがたいよ。本部に頼るのも嫌だったんでもう一度異能者共有をいつかやろうって B チームみんなで言ってたんだけどね……』
「危険です、異能者共有はしないでください。念爆者を捕らえ A チームの事を吐かせれば良いのですから」
『そう……まぁ期待してるわ』
「??」
うつむいて表情を暗くする樋野映子。アリナは気になって、
「何か……言ってないことがあるのでは?」
モニターに顔を近づけて言った。
『そんな事はないわ……疲れてるだけよ』
「モニター越しでは言えないことですか?」
『……そんなものは……』
樋野映子はアリナに目を合わせで 2 回瞬きをした。そして確信した。
『ないわ』
「そうですか。樋野映子さん、それにしても体調がすぐれないように見えます、一度フローに診てもらっては? B チームの他の皆さんも一緒に」
それを聞いたフローレンスは頷く。
『そ、そうね……この疲れ方はちょっと診てもらった方がいいかも』
「明日の午前中にはそちらに着くはずです。電人 G チームから外れて良かったですね」
フローレンスはアリナと見つめあった後、モニターの樋野映子に 2 度瞬きをして見せた。
「長官もメンバーの体調管理の為に動くのは反対しないでしょう」
「ちょっと待って……それじゃあ私と哿さんはアリナに同行できないのでは?」
「……大丈夫だと思います。僕が全力でテレポートを繰り返せば飛行機よりも速く到着できますので。北海道からすぐに戻って合流できます」
「哿さんそんな距離を往復なんて大丈夫ですか?しかも私を抱えて……」
「大丈夫ですよフローレンスさん、僕は前に A チーム全員を東京沖縄間往復移動したこともありますので」
続く
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