異能者特務機関:TMI 第 21 話「念爆者(サイコボマー 3 )」
「さぁもう逃げられないぜ」
イグネイシャスは倒れた男を掴んで引き上げる。
「ブハアアアアアアッ!」
男の口から吐かれた紫色の煙がイグネイシャスを襲う。
「効かないぜ!熱風放出でオートガードしてるのさ!」
「キィイイイイエエエエエエエイ!!」
男のサイバネ両アームが伸びイグネイシャスの首を裂きにかかる。
「ハアアアアアアッ!」
イグネイシャスは炎のブレスを吐いて男を吹き飛ばす。壁に激突した男は火だるまになりながら転げまわる。突如包んでいた炎は消える。
「焼くも消すも自由自在って訳よ、 TMI 最強のパイロキネシスを舐めちゃあいけないぜ」
「ブラックヴァリーですね。北海道で戦った時も同じような手口で襲い掛かってきました」
「暗殺が得意って訳か」
「人が来るぞ」
土御門の背にしている壁の曲がり角から足音が聞こえる。
「まずいぞ」
「あの野郎をなんとかしないと……」
「わたしがあの男を持って離れます」
弾丸めいて突進するアリナ。サイバネアームを掴んで捻じ曲げ、男を拘束する。そして抱えて多目的トイレに飛び込んだ。
「何か大きな男が聞こえましたが?」
白衣を着た中年の医者が話しかけてきた。
「あ~携帯が壊れて爆音しかならなくて……すんませんっすマナーモードにします」
「そうでしたか……ところで何か焦げ臭くありませんか?多目的トイレから臭うような」
医者が鼻を鳴らして多目的トイレを凝視する。
「そうですかね?俺鼻炎で全然分かんないっすわ」
「……小生も風邪っぽくて」
土御門もイグネイシャスに合わせて言った。
「……」
その時わずかに医者が口角をあげて笑った。そして次の瞬間イグネイシャスと土御門の胸にメスが突き刺さる。
「ぐはっ」
「何っ……」
医者は慌てた様子で二人を見ている。
「き、君たち!一体どうしたんだ?だ、誰か来てくれ!!二人刺された!!」
医者は院内 PHS で呼びかける。
「(マズいな……俺はオートガードのおかげで傷は浅い、内臓までは届いてない。だが土御門の兄さんはまともだ、肺に刺さってなければいいが)」
廊下の奥とロビー側から医者と看護師が駆けつけてくる。
「(くそ、後で何とでも言い訳するしかねぇ!)」
イグネイシャス足の裏から炎を噴射、土御門を抱えて飛ぶ。
「(とりあえず……階段から上にいくしかないか)」
飛んだまま階段に差し掛かったところで突如イグネイシャスの頭部に強い衝撃が走った。
「ウグッ……」
ガラス製の灰皿が命中していた。
「クソ……敵はテレポーター系か?それなら……」
イグネイシャスは熱風で光の屈折を歪めて鏡を作り出して追跡者に対抗する。
「(大抵のテレポーターは座標認識をする際、目で見えるものと異次元の座標を合わせる。目で見えるものと異次元の座標が合わなければ演算に時間がかかるはずだ)」
飛んだまま2階にあがるイグネイシャス。胸にメスが刺さった土御門をゆっくりと下ろして構える。
「(傷は結構深そうだぜ……外にいるフローレンスちゃんに治してもらうのがベストか)」
「後もう少しで……術が完成する。北に運んでくれないか?人型の方は終わったようだ」
「大丈夫かよ?兄さん」
「こんなところで死にたくはないが……やり遂げずに死ぬのはもっと嫌でな」
「そっか……すぐに治せる異能者がいるから生きてさえいれば大丈夫だ」
階段で音がした、何かが転げ落ちたような。
「よし……」
土御門がつぶやいた。
「兄さんが何かやったんかい?」
「呪(しゅ)だ。紙を油に変えて階段に仕掛けてやったのだ」
「滑って落ちたのか…………ん?」
イグネイシャスは考える。
「(テレポーターならわざわざ階段を自分で登るか?距離や角度に制限があるテレポーターなのか?)」
イグネイシャスは土御門の肩を支えて再び飛翔する。後方に鏡を作りながら2階の廊下を北に進む。
「あそこの給水機の所だ」
土御門の声に従い、廊下の端にある給水機のそばに降りる。土御門は桃の種に息を吹きかけると給水機の裏に投げ込んだ。
「それで OK なんだな?兄さん!」
「ああ!……朱雀・玄武・白虎・勾陣・帝久・文王・三台・玉女・青龍!!」
左手人差し指中指を口の前に、右手の人差し指中指で 9 画の格子に切る土御門。
「うぐっ……」
イグネイシャスの目の前の景色が一瞬反転した色に変わり次の瞬間頭痛が走った。
「彼奴の『否認の呪(しゅ)』はこれで解いた……どうだ?名前が分かるようになったか?」
「お、おう……」
***
両腕サイバネの男を気絶させ多目的トイレを飛び出したアリナ。目の前に医者と看護師が立っている。
「どうしましたか?」
「何かありましたか?」
ゆっくりと近づく医者と看護師。
「何でもありませんよ」
そう言って弾丸めいたダッシュで階段に向かう。
「……」
「ち……」
階段から転げ落ちてくる来た者が居た。最初に声をかけてきた医者であった。
「!?」
後方にいたはずの医者と看護師、階段から転げ落ちてきた医者に囲まれるアリナ。何の呼び動作も気配も無く突如 3 人に囲まれていた。
「(これは……)」
看護師は注射器を取り出し、一人の医者は指示棒に見せかけた刺突剣、もう一人はメスを両手に持ちアリナを睨みつける。
「!?」
アリナの首に注射器、目の前にメス、胸に刺突剣が出現。全て命中するも強化で受けきった。
「まさかまさか刺さらないなんて」
「瞼まで強化とは」
「厚さ 10 ㎜の鉄板をぶち抜く刺突剣で無傷か」
アリナの額から汗が流れ落ちる。これが自分でなければ、イグネイシャスやフローレンス、哿、土御門であったのならと想像する。
「くくく……」
「次も防げるかな?」
暴徒制圧用電磁ロッド、特殊合金加工用超振動ナイフ、岩盤用プラズマドリル取り出す三人。
「テレポートじゃあないよ?出現位置を予測して指弾や剛拳を撃っても僕らには当たらないぞ、そもそも物体干渉できるような高レベルテレポート能力持ってたら心臓一突きしてるな!」
偽医者がそういった次の瞬間、暴徒制圧用電磁ロッド、特殊合金加工用超振動ナイフ、岩盤用プラズマドリルが何の前触れも無くアリナに襲い掛かる。触れた瞬間に飛びのくアリナ、髪先と制服の一部が焦げている。
「ほう?巨大熊も一撃で昏倒させる電磁ロッドをくらってまだ動けるのか」
「次の攻撃で仕留めるぞ」
「長引かせている余裕はない」
アリナは知覚をさらに強化して3人を観察する。弾丸がスローモーションに感じる程の強化で観察する。
偽医者が片手を上げる、すると突然目の前に3人は出現した。
「(弾丸を遥かに超える速度?それともテレポート系の能力?テレポーターの場合存在が薄くなっていく様子が一瞬見える。けどこの3人にはそれがない)」
アリナは標的を一人に絞りカウンターでベヤリング弾を撃ち込んだ。電磁ロッドを持った偽医者の腕が関節の無い場所で折れ曲がる。
「!?」
アリナは超振動ナイフとプラズマドリルを最小限の動きでずらし、受けるダメージを大幅に軽減させた。
「うがあああああああああああああああ……」
遅れて痛みが伝わった偽医者は膝を落としてその場にうずくまる。
「何……」
「噂以上のバケモノだな」
「どうする?」
「陰陽師が優先だ奴を始末する」
アリナがベヤリング弾を握りしめた時には3人の姿は消えていた。アリナは外にいるフローレンスと哿に通信を試みようとする。
「……」
突如鋭い頭痛が襲い掛かる。目の前の世界が反転したかのような色を一瞬感じた。その後アリナの頭に念爆者の名前が浮かんでくる。
「これは……否認の術が解けた……?」
念爆者の名前、今まで目にしながら認識はできず言葉に発することもできず会う事も出来なかった存在。
「名前は……杉田幻赫(げんかく)!!」
アリナの体中にマグマの如く熱いものが巡っていく。この病院に家族の敵がいる、すぐ傍にいる。異能を体を感覚を鍛え続けたのは杉田幻赫を斃す為。
「(我慢……出来ない……!!抑えなければいけないと頭では解っていても強化を止められない。これまで何度か出したことのある全力を超える程の強化。今なら核爆発にも耐え、衛星軌道上に浮かぶ物体も認識できる)」
アリナの周囲の空気が揺らぎ塵が舞い上がる。髪は逆立ち目は輝いている。
「(ここで杉田幻赫を斃せればもうどうでもいい……次の瞬間命尽きても……奴を斃せればそれでいい……いっそこのまま衝動に任せて暴走してしまえば……)」
通信が入っているがアリナには聞こえない。耳で聞こえていても頭が認識していない。
「(失うものなんてない……わたしにはもう何も……)」
アリナの頭に父、母、妹アリス、祖父の顔が浮かぶ。同時に死亡時の姿がフラッシュバックする。
「(許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない)」
怒りの感情がアリナを支配していく。
「(見つけ次第粉砕……)」
その光景は何度も何度も頭の中で思い浮かべた。
「(どうして父は母はアリスは死ななければならなかったのか。祖父もそれは知りたがっていた……それを聞かずに即粉砕では……いけない)」
ゆっくりと呼吸をし、強化を抑えていくアリナ。
「(怒りは抑えられない、でも体の暴走は能力の暴走は抑えられる)」
フローレンス、哿の姿が思い浮かぶ。
「(フロー……哿さん……そうだ約束した……わたしにはまだ大切な人が残っている)」
アリナの周囲の空気の揺らぎは消え、髪と目は元に戻っていく。
『アリナ!!アリナ!!大丈夫なの!?アリナ!!』
フローレンスの通信がようやくアリナに聞こえる。
「どうしましたかフロー」
『良かった……返事をしてくれて』
「わたしはどのくらいの時間、貴女の呼びかけに答えませんでしたか?」
『10秒も経ってないと思うけど?』
「そうですか」
『作戦は成功のようですね、撤退してください』
哿がチーム全員に言った。
「院内にブラックヴァリーが居ます。正体不明の能力を使ってきます気を付けて」
***
―病院2階。不自然に人のいない廊下の突き当りでイグネイシャス、土御門と咥え電子タバコの少年が対峙していた。
「病院って煙草禁止っすよねぇ?」イグネイシャスが言った。
「だからどうしたよ?」
「マナーだよマナー、どうしてもやめないってんなら勝手にすればいいけど、そこをどいてくんねぇっすかね?」
「嫌だね。俺様の自由だ。何をしようとどこに行こうと。欲しいものは必ず手に入れるし、気に入らない奴はぶっ殺す。金づると居心地のよさで杉田のクソ爺とアホのブラックヴァリーと組んでるが利用しているだけだ」
「ぶっ飛んだ思考を持ってるんすねぇおたく。色々物騒な名前が聞こえたからにはただで帰れないなぁ」
「笑わせる。お前如きに何ができる?」
ゆっくりと背中に両手を回す少年。イグネイシャスは警戒しいつでも炎弾を撃てる体勢を取る。少年の背中から出てきたのは白と黒にそれぞれ塗装されたリボルバーであった。
「やめておきな、その銃を構えるよりも早く火の玉をくらう事になるぜ?」
「俺様がドンと撃つ、お前はドサと倒れる。それだけ、終わりだ」
「早撃ち自慢か?」
「そんなレベルの話じゃねえんだよ。お前は死ぬ、愛銃デビル&エンジェルの弾丸で心臓ぶち抜かれてな、確定だ」
続く
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