異能者特務機関:TMI 第 22 話「念爆者(サイコボマー4)」
イグネイシャスはこれまで何度もこのような場面に遭遇した事があった。武器を持った相手との一瞬即発の状態。溜めを行わずに炎を放つ訓練を続けた結果ついにノーモーションでの炎弾を撃てるようになった。銃のようにかさばらず重量も無く、装填の手間も無く、狙って構えて撃つといった 3 動作も必要ない。ノーモーションを身につけてからこの状態で後れを取った事は無かった。
「終わりだ」
少年のその言葉の直後、床に倒れるイグネイシャス。喉に 1 発、心臓に 1 発弾丸を撃ち込まれていた。炎弾を発射することも無く、オートガードを発動することも無く一方的に撃たれて倒れた。
「(馬鹿な……テレポート系の能力者……か?)」
薄れゆく意識の中でイグネイシャスは考える。
「(不意打ちならまだしも……正面で異能を使われるのを見逃すなんて……テレポーターでも異能発動の機はある…… 0.1 秒あれば火の玉を発射できる……が)」
倒れているイグネイシャスを踏みつける少年、手負いの土御門は顔をしかめてその様子を見ている。
「ハッハッハー!俺様は最強なんだよ!さて……もう一人の術師のお前も同じ殺し方をすると宣言するぜ!」
「ちっ……」
懐に手を入れ持ちの紙の人型を取り出そうとするがその刹那、弾丸が心臓と喉に突き刺さった。
「な……に……」
リボルバーの発射音だけが聞こえた。
「終わりだ」
土御門が崩れ落ちるのを見た少年は携帯電話を取り出す。
「ジイさん、五月蠅いのを始末したぜ。他の奴らはどうする?………そうかい、じゃあ戻る」
「ま……て……」
傷を焼き、弾丸を取り出したイグネイシャスが立ち上がる。全身が炎に包まれている。
「ああん?まだくたばってなかったか。ち、これだから異能者はよ……頭に撃ち込んで脳みそぶちまけてえ所だがそうもいかなくてな!」
「……」
炎の塊となったイグネイシャス、炎を広げて火災検知センサーに触れる。即座にスプリンクラーは反応、火災ベルが鳴り響く。
「クソが!面倒な事しやがって!!」
「(これなら……テレポート系の能力ならこの降り注ぐ水の中で演算は困難……)」
炎を投げつけて後方の2 F 非常扉を吹き飛ばす。
「土御門の兄さん、今のうちにそこから逃げてくれ!」
「……よ、よし呪(しゅ)!」
傷口を紙で押さえていた土御門、新たな紙を取り出すと巨大な虎に変化する。虎の背にしがみつき非常扉から1 F に飛び降りる。
「一人逃がしたか……まぁいいか、さてさて……残った異能炎人間に弾丸は通じるかな?」
「(今コイツと戦うのは危険だ……思ったより傷のダメージもデカい)」
スプリンクラーの水がイグネイシャスに触れ蒸気となり辺りを覆っていく。イグネイシャスは蒸気の中でゆっくりと下がりながら炎の格子を作り罠を仕掛ける。
「(水や蒸気や炎はテレポーターにとってやりにくいもののはずだ。迂闊に飛び込めば再テレポートできずに溺れたり、火傷を負う……)」
「クックックー!やってくれるじゃねえか!!ただの雑魚じゃあねえようだな?いいぜ今回は逃がしてやる!!コイツは土産だ取っときな!!」
声と同時にリボルバーの弾丸が飛んでくる。イグネイシャスのオートガードが発動し弾丸は炎で逸れ壁に突き刺さった。
「(今度は普通に撃ってきた……能力に範囲の制限があるのか?)」
非常扉から外に飛び出るイグネイシャス、宙返り飛行の後ゆっくりと着地する。すぐそばに傷を負った土御門、それを見て駆けつけるフローレンスと哿の姿が見えた。
「イグネイシャスさん土御門さん!その怪我……!」
「なんとか作戦は成功っすよ……危ない所だったがね……土御門の兄さんの治療を先に頼む、それと俺の着るものを持ってきてくれると嬉しいっすね。あとは通信機がダメになった、ナターシャちゃんに連絡して欲しい」
「アリナは!?」
「先に戻ってると思ってたけど?いねーんですか?」
「ここに居ますよ」
毛布を持ったアリナが現れた。
「アリナ良かった無事で……」
「ブラックヴァリーの一人でも捕まえてきたかったのですが逃げられてしまいました」
イグネイシャスに毛布を渡すアリナ。そこでようやく炎姿から元に戻る。
「ぐうう……能力発動してないと傷が辛えっすわ……」
***
院長室でカルテを眺めている男。見た目は 30 代前半だが実年齢は 70 を超えている。
「否認の術が解かれたか……まぁいい。今更 TMI ごときに見つかろうと些細な事」
「 TMI の連中がウジャウジャ押しかけてくるか?全員ぶっ殺してやるがな!」
二丁リボルバーの少年が言った。
「計画は最終段階に入った、もはやこの病院にも用はない」
「どこに行くんだ?」
「空だ」
「空?」
「『アイスクラーピウス』が完成した」
「そいつはめでたい」
「後は『プラチナキー』を発動できれば世界は変わる」
「そうすれば退屈せずにすむんだよな?」
「ああ、もちろんだとも。不動了痲(ふどうりょうま)、君の様に能力の高い者は特にな」
「俺は最強だが世界を変える力は持ってねぇ。幻赫さん、俺がアンタに付いてるのはそういう敵わねぇ所があるからだ」
「君とは良き友人でありたいね」
杉田幻赫は半笑いでそう言った。
「あんたに否認の術をかけていた何とかって奴はどうした?」
「儂の孫の一人、【道摩法師】神名 Leandra 咲夜(かみなれあんどらさくや)か」
「あーそいつそいつ!自慢の術が破られてどういうツラしてるか拝みたかったんだがよ」
「今は愛知の地で重要な任務に就いておる。終わり次第『アイスクラーピウス』で合流する予定だ」
「アイスクラーピウスってのは巨大な船なんだろ?発見されずに飛ばすのは術を使ってやるのか?」
「そうだ、対地対空対異能兵器光化学迷彩も搭載している。空飛ぶ医療施設であり要塞だ」
「んなもん良く知られずに作れたな?」
「この国のおさえるべき人間を全ておさえてあるのでな」
「ハ……流石だな。俺にはできねぇわ」
「儂はすぐに出るが君はどうするかね?」
「地上でアンタの指示を待ちながら適当に邪魔者をぶっ殺しておくさ。それにブラックヴァリーは一枚岩じゃないからな目を光らせておく」
「たのんだよ不動了痲君」
部屋を出る杉田幻赫。
入れ替わりに白衣の長身男、アリナに襲い掛かった医者の一人が入って来る。
「ああん?なんだ百地か……」
「 TMI の異能者を逃がした……アレは札幌のブラックヴァリーを追い詰めた終夜アリナだった」
百地と呼ばれた男は顔をしかめて言った。
「逃がした、じゃねえだろう?向こうが退いてくれたんだろうが」
不動了痲はリボルバーを弄びながら言い放った。
「……」
「軍事用パワーローダーを難なく破壊できる異能者相手だぞ?まだまだ舐めてんだよお前らはあの終夜アリナをなぁ!」
「そんなつもりは無かった、ただ……」
「予想以上だったとか言うんじゃねえよな?奴の資料を見なかったのか?あれは強化していく異能者だ。札幌での戦闘、施設内での化物共との戦闘でアイツは更に強くなっていってるんだ。念爆者・杉田幻赫を斃す為にどこまでも強さを求め続けているんだぞ?なまっちょろい殺りかたは通用しねぇんだよ!」
「分かってる……突如この病院に現れるなど準備が……」
「もういい、お前たちには無理だ、俺様が終夜アリナを始末してやる。無駄に仕掛けるんじゃねえぞ分かったな?」
「ああ……」
「こっちには TMI から連れてきた連中という切り札があるんだ。奴らをうまく使えば近づく事すらできねぇ TMI の本部をぶっ潰すことも不可能じゃあ無い」
「ああ、そうだな」
「しっかりしろよ百地よぉ……東京周辺のブラックヴァリーのまとめ役はお前だろうが」
「杉田幻赫殿の存在が TMI に知られた今、我らのやることは……」
百地は頭をかいて顔をしかめる。
「わからねえのか?備えるんだよ!全国のブラックヴァリーにも通達しろ!!備えながら餌を撒くんだ、 TMI の奴らが飛びつきそうな餌をな!!」
「具体的には……?」
「有名な奴らの首を刎ねていけ。大物政治家や資産家、芸能人……あとは TMI の関連施設の襲撃だ」
「分からない……無差別にそんなことをする必要がどうしてある?」
「無差別じゃねえよ、叩けば埃の出そうな連中を選んで殺れ。天誅こそがブラックヴァリーの望む活動だろう?」
「しかしそれでは世間に広く暗殺が知られてしまう」
「いいんだよそれで!世間が騒げば騒ぐほどな!!他の事に関心を抱かなくなる。それに大物の首は幻赫の爺さんは高く買い取ってくれる。稼げるときに稼いでおくんだ!……だが一つだけ注意だ、京都での活動はやめておけ。あそこは日本で一番めんどくせぇ場所になってる」
「そ、そうか分かった……しかし世間が騒げば貴方の仕事もやりづらいのでは?」
「関係ねぇよ、俺様の能力は生放送中でも気付かれずに目の前の首相をぶっ殺せる程度の事はできるモノだからよ。で、餌をばら撒けば必ず終夜アリナは現れる」
「大丈夫だろうか?終夜アリナ以上の TMI 異能者が現れたりしたら……」
「心配すんな!俺様は最強無敵だ!!」
***
自らが操縦するものを自在に操れる異能者のナターシャ。彼女はヘリコプターを操りアリナらを回収し北海道に向かっていた。
「土御門さんも連れて行くのですか?」
哿が問う。
「ええ、フローレンスさんの能力で土御門氏、イグネイシャスの傷は癒えてます。体力さえ回復すれば問題ありません。本部からも北海道の電人 G の鎮圧に向かってます」
土御門とイグネイシャスはフローレンスの治療を受け安静にしている。
「 TV でも大騒ぎになっていますね……『所属不明のテロリストによる犯行か?』って」
フローレンスが言った。
「何が目的なのでしょう?」
「分かりませんね……電人 G の目的はバクテリアの研究だと言われていましたから」
「電人 G の対策チームが北海道に集まったのを見計らったかのように襲撃してきたと聞いています」
「 TMI の動きが読まれている?」
「電人 G が襲撃に使用した兵器がブラックヴァリーの物ならばブラックヴァリーにも TMI の動きを知られている可能性はありますね」
「動きを知られたかどうか分かりませんが電人 G の所為で TMI は 6 名の死傷者を出してしまいました。フローレンスさんの力が必要です」
ナターシャは通信を聞いた時に取ったメモを渡して言った。
「ええ、もちろん全力で治療させてもらいます。残念ながら死亡されてしまったイワンさん、アントンさん、長神さんは戻ってきませんが……」
「ロシア支部長フョードルさんは意識不明の重体、セレスティア博士と研究員の枩島さんは全治 1 か月程度の傷を負っています」
「 TMI 最強のエレクトロキネシスの雷帝フョードルさんが……何があったのでしょう。私もイグネイシャスも雷帝の事は良く知っています。テロ組織や反社会的組織の軍を相手にかすり傷一つ負わず圧倒的でした。それが……」
「電人 G とは相性悪くないはずですよね」
「負ける要素など無かったはずです。最強エレクトロキネシス雷帝に電人 G の思い人であるセレスティア博士、サポートに優れた異能者イワンさんにアントンさん 2 名に研究者長神さんに枩島さんの 2 名。万全の体勢だったはずです」
「ブラックヴァリーが相手なら何が起こっても不思議じゃないと考えないといけないかもな……」
イグネイシャスが体を起こして言った。
「あの二丁拳銃の男……得体のしれない力を持っていた。テレポートのようで少し違うものだった。テレポーターの一種だと仮定すればテレパスなら対抗できる。演算を妨害すればテレポートは発動できない。昔起こった異能者大戦の時、長官はその方法で恐るべきテレポーターに対抗したと言っていたっすね」
イグネイシャスはタブレットから資料をダウンロードして見せる。
「これっす。置換型テレポーター・カテゴリー 5 のバージル。こいつは触れた物を任意の座標と入れ替える異能者だ。例えば石ころを脳と入れ替えて簡単に人を殺害できる凶悪な奴。射程範囲も半径 25 メートルと長く狙撃も弾丸と空気のオート置換で無効だったって話です」
「この資料は見たことがあります」哿が言った。
「流石はカテゴリー 4 最優のテレポーター哿希世美くんっすね!」
大きく頷くイグネイシャス。
「僕は移動できるものは自分だったり物だったりしますが異能発動時に移動可能かどうか瞬間的に判断します。僕の場合押しのけられるものだとそこに移動することが出来ます。硬いコンクリートの中は無理ですが、水の中には行けるといった感じです。もしその判断を誤ってしまうと自分の体を潰してしまったり移動先のものを破壊してしまったりといった事になるので本能的にブレーキがかかります」
「例えば紙切れを持ってテレポートさせて鉄骨を切断とかはできたりするんすか?」
「僕は無理ですね。紙の方が弱いので指定した移動方向から破れるか触れた所でストップします……粘土の塊に釘を刺すといった事可能です……というかイグネイシャスさんそのくらいのことは知っておられるのでは?」
「まぁそうっすね、一応作戦前にメンバーの異能は調べてるっすから……これは皆と情報共有して確認の為のものです。じゃあ次の質問、土砂降りの雨の中、炎の壁を抜けて移動することは可能っすかね?」
「ほんの少し演算に時間はかかりますが可能です。僕の場合ですが……移動先は目で見ているわけではないので……」
「うんうん……哿くんにはできる。二丁拳銃の男は恐らくできなかった。だから離れた所から撃ってきたんだ」
「物質を通り抜け出来ないタイプのテレポーターですかね?」フローレンスが言った。
「その可能性はあるね。弾丸も直接体内に飛ばしたわけじゃない撃ったところが分からなかった、そんな感じだ」
「連続使用がどのくらいの時間で可能か気になります」アリナが言った。
「そこもかなり大事だ……あの状況から考えると、一呼吸は置かないといけねーんじゃないかと思うんすよ。俺を撃った後すぐに土御門の兄さんを撃たなかった」
「付け入る隙はありそうですね」
「だねぇ、でもそれは本人も分かってるだろーし舐めてなきゃ何か対策してるでしょう」
続く
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