異能者特務機関:TMI 第 35 話「アイスクラーピウス2」
アプロディーテーの指が再び引き金に掛かる。それと同時にアリナは飛び出し拳を放つ。そこにアプロディーテーの姿は無く空を切っただけであった。
「あなたの攻撃は全て外れると言ったでしょう?」
2メートル後方に立っているアプロディーテーが言った。
「いくらでどうぞ?満足するまでやってみては?その後この弾丸であなたを貫いて差し上げます」
「(わたしの体がアプロディーテーへの攻撃を拒否してる?敵との距離は会話の声からして変わっていない。テレパスの罠にかかっているのなら、かかっていると自覚して体が思うように動かないのなら……)」
アリナは意識を自分の中に集中し瞑想状態に入る。軽く開いた左手を前に右手は顎の前で軽く握り少し腰を落としゆっくりと息を吐く。
アプロディーテーの弾丸が放たれる。アリナは無駄のない出来て当然といった動きでガントレットで弾丸を弾く。視線は宙を眺め定まっていない。
「そんな!」
拳銃を連射するアプロディーテー。アリナは全て弾き返す。
「(『意識と肉体を切り離して無意識下で体に覚えさせた動きを発動させる』)」
アリナは武術を教わった祖父の言葉を思い出していた。森の中で四方八方から打ち出される石礫を捌く訓練を。
「私は完璧なはずよ!この【ささやきの魔女】の魔法から逃れる術などないわ!!『終夜アリナ!自害しなさい!!』」
香りを発動の条件とし声帯と舌を使って魔法を発動。ささやきはアプロディーテーの意のまま、これまで数えきれない人間利用しありとあらゆる犯罪に手を染めてきた。
アプロディーテーの言葉はアリナには届かない。ベヤリング弾が頬を掠める。
「魔法に対する備えも知識もないたかが超能力者がこんな……!!」
アプロディーテーは哿とフローレンスに狙いを定める。一瞬でその前に立ちはだかるアリナ。
「この……」
銃口を向けるアプロディーテー、アリナはその右手を跳ね上げ裏拳を放つ。対するアプロディーテーはそれを身を反らして回避する。
「ふん、近接戦闘が出来ないと思っていて?残念、魔女はバレットアーツを履修済みなの」
動きを加速させるアプロディーテー、右ローキックから左のジャブ、右ストレートのかわりに拳銃を撃ち込む。
アリナは難なくガード、銃撃に合わせてカウンターの正拳突きをアプロディーテーの胸に叩き込んだ。
「げぼぉ……」
大量の血を吐いて膝を着くアプロディーテー。
「バンダースナッチ!」
アプロディーテーの影から青黒い毛むくじゃらの牛程度の大きさの何かが飛び出した。
「こいつらを食い殺すのよ!生きたまま連れて来いとか言われてたけどもうそんな事どうでもいいわ!この私を怒らせたのだから!!」
バンダースナッチと呼ばれた獣が哿とフローレンスに狙いを定める。
「『哿希世美にフローレンス・フランシス!お前たちは戦闘スーツから出る、そしてそのまま動けない!バンダースナッチに食われるしかない!!』」
「!!」
意識を取り戻すアリナ、バンダースナッチに向けてベヤリング弾を撃ち込む。
「 GUUUU! 」
「おっと貴女の相手はこの私!たかが拳の打撃で防御結界を 3 枚も砕いてくれたのには驚いたけど。ここで何もできずに生きたまま食い殺される仲間を見てるのよ!!」
拳銃のトリガーを握りこむアプロディーテー。銃口から飛び出したのは光の塊、光帯を伸ばしながらアリナのガントレットに激突。そのまま昇降機の壁に押し込んだ。
「魔法使い相手にお前たちは何もできない!グレイストームは訳の分からない相手に油断して負けたの、たかが突然変異の超能力者が選ばれし才能とそれを磨き上げた魔法使いに敵うはずがないのよ!格の違いを思い知りなさい!」
アリナは正体不明の力に押さえつけられながらも後方の壁を蹴り力づくで脱出を試みる。
「無駄よ!その弾丸に私はささやいた『終夜アリナを押さえつける』と。弾丸は金属を主体とするホムンクルス、私の無限の魔力を使いどこまでも押さえ続けるのよ」
「 20 %……」
アリナの目が輝く。ガントレットを押し続ける弾丸を両手の指で掴み左右に力を込める。
「指先に力を集中して脱出しようって事?じゃあ更に魔力を込めなきゃね」
「いいえ、違いますよ」
両手を一気に広げるアリナ、破裂音と共に弾丸は真っ二つに引き裂かれる。
「 GYAAAAAAA!!! 」
断末魔の叫びをあげる弾丸ホムンクルス。
「えっ……」
「押し返せないのなら破壊すればいいのです」
「そんな弾丸を指で引き裂くなんて……ええ、でもそれが出来たからといって私の魔法からは逃れられない!『終夜アリナ、貴女は動く事ができな……』」
言い終わる前にアリナは距離を詰め体重を乗せた肘撃ちをアプロディーテーに叩き込む。一直線に飛んだアプロディーテーの体はバンダースナッチと呼ばれる獣に激突、床を滑っていった。
「が……」
「大丈夫ですよ、即死でない限りフローに助けてもらえますから」
「 GULU ……」
即座に距離を詰めバンダースナッチを蹴る。サッカーボールめいて飛んで金属製資材コンテナを空き缶のように潰した。
その様子を血を吐きながらアプロディーテーは見ていた。
「この空母を破壊しない程度には威力を抑えてますから」
「こ……の……」
銃を構えるアプロディーテーの指をベヤリング弾が吹きばす。
「アアアアアッ!……やる……わね……だけど幻赫さまには……到底敵わないわ……よ」
肋骨を砕かれ肺を損傷しているアプロディーテーはあらかじめかけていた自動再生魔法でなんとか意識を保っている。
「次は顎を砕きますよ」
「あの方は私や……グレイストーム以上の……使い手……勝てるはずが……な……い」
「それほど魔法を使いこなしていると?」
「私と……グレイストームが……教えたの……だか……ら」
飛ばされていたバンダースナッチが体液をまき散らしながら戻って来る。長いしっぽを振り回しアリナを回避させその隙に毛を伸ばしアプロディーテーを背に乗せた。
「 GULUUUU! 」
毛針を猛連射するバンダースナッチ、アリナは咄嗟にしゃがんで回避。立ち上がりながらベヤリング弾で応戦、バンダースナッチの体をかすめ体液をまき散らせた。
「 GULU ……オマエツヨイ、デモコレイジョウヤラセナイ」
「主人を守っているのですね、その者の命を取る気はありませんよ。魔法とやらを解除すればわたしは攻撃を加えませんが」
「 GULU ……チョウシニノルナヨ?オレガソノキニナレバ、コンナフネゴト、オマエラヲツブセル」
「そうですか、それなら次は 50 %……一撃でお前を粉砕します」
ゆっくりと下がるバンダースナッチ。尻尾を持ち上げる。
「ダメよバンダースナッチ……『これでおしまい』……さぁ魔法は……解除したわ……(さっきの 2 倍以上の力……これで 50% ……更に 2 倍に上がるというの?)」
戦意を喪失したアプロディーテーは両手を上げゆっくりとバンダースナッチから降りる。
「では拘束します」
アリナはバンダースナッチを影に戻させ、両手足を特殊カーボンのワイヤーで縛る。口には応急手当て用のテープを張って塞ぐ。
「フロー、哿さん」二人に駆け寄るアリナ。
「大丈夫ですよアリナ」「すみませんアリナさん」
「フロー、わたしは大丈夫だから力を使わないでいいですよ」「僕も怪我したわけじゃないからフローレンスさんは力を温存してください」
「そう……ですか、そうですねこの先何が待ち受けてるか分かりませんものね」
三人は腰を上げ格納庫から通路へと進む。
***
「おいおい……切り札のウィザードとウィッチやられちまったぜ?幻赫さんよ」
ブラックヴァリーの実質的頭領・不動了痲が言った。黒いつなぎに関節部を守るアーマー、両脇腹に消音器付きオートマチックピストル、両大腿には愛用の大型リボルバーが収まっている。腰と足首にはナイフが装着されている。
「想定外であったがデータは取れた。グレイストームに対抗できる者が居るとはな。かといって奴一人で TMI と他を全て相手にできるとは思ってない。魔女ダナイ……いやアプロディーテーか、あの女にしてもそうだ」
念爆者・幻赫は本革張りの椅子に腰かけて言った。
「フランスの坊ちゃんはどうなんだ?」
「あの程度の者期待してはおらぬ。奴は戦力としてではなく交渉のカードとしての人材だ。死なれては困るところであったわ」
「とかいいながら死んだら死んだで異能兵士を整形して坊ちゃんそっくりに作り記憶を埋め込んで使うつもりだったろ?」
「よく分かってるではないか。だからこそデータが大事なのだグレイストーム、アプロディテーの魔法は既に修得済み。奴らのような無制限の魔力は無いが儂にそんなものは必要ない、それを得るために強烈な縛りを受けたく無いのでね」
「ふ……だからあの装置を使うってか。 SPBSD (疑似人格脳共有装置)」
「出来損ないどもの脳だが、実験だけに使うのは勿体無い、だからこうして有効利用してやるのさ。儂は人類の 49% を犠牲にして 51% を救う決断が出来る。 49% は犠牲は単なる死ではない、有効利用するのだ。人口が増えすぎる心配をしなくて良い世界になるのだ」
「はっは!ぶっ飛んでんなアンタは相変わらず!だが世界を救う英雄ってのはそうでなくちゃあな。話は変わるが侵入してきた TMI の連中の始末はどうする?俺が行くか?」
「奴らは破壊工作をする様子も無い、適当に探索させてこのアイスクラーピウスを見せつけてやる。不動君、ブラックヴァリーは昇降機のフロアーに行かせ後から来る連中に対応、君は侵入者の 3 人を除くこの部屋に来るものを相手してくれないか?」
「ん~?それは侵入者の 3 人はアンタに通せって事かい?」
「ああ、特にあの終夜アリナは特別扱いだ。 TMI 長官ジェームズ・スチュワート以来のな」
***
アリナ達が先に進んだ数分後、戦闘スーツ姿のセレスティアが現れた。彼女は倒れているアプロディーテーを発見する。
「魔女……」
ゆっくりとアプロディーテーに接近すると口に貼られたテープをはがす。その時甘い香りを検知した。
「……」
「あら……貴女は美濃……いえ、神名セレスティア白夜ね?」
アプロディーテーはささやいた。
「よく調べていますね」
「それはもう……(名前を知ることが私の魔法の発動条件の一つだから)」
「『私を起こしなさい美濃セレスティア白夜』」
「いいですよ」
「『ついでにこの忌々しい拘束を解きなさい』(バンダースナッチはまだ回復中だし)』」
「それはお断りします」
「な!?(魔法にかかってない?香りが戦闘スーツのヘルメットで届いてない?でもこの距離なら直接ささやけば効果は十分)」
「ふふふ……」
「ああ、そうじゃあ『神名セレスティア白夜』拘束を解きなさい」
「しませんよ」
「なに……!?(名前は自分が自覚しているものなら条件に当てはまる……本名じゃなくても自分がその存在と認識していれば)」
「どうしましたか囁きの魔女?」
「バンダースナッチ!」
傷ついて回復中のバンダースナッチを召喚、拘束を解除し、毛針で攻撃。セレスティアの戦闘スーツに突き刺さる。しかし微動だにせず毛針をプラズマで燃え上がらせ処理した。
「殺すのよ!」
毛針を連続発射するバンダースナッチ。大量の針が突き刺さりハリセンボンめいた姿になるも即座にプラズマで焼き払う。
「装甲を貫通して体をハチの巣にしてやったのにどうして……」
「それはこういう事だから……」
装甲がはがれ中から出てきたのは銀色に輝くボディを持つ者。
「お前は……誰!?」「 GULUU ……ナニモノ」
「 G とでも呼んでもらおうか。使い魔?貴様の毛針は劣化ウラン弾に相当するほどのものだが私には通じなかったな」
電光を走らせ瞬間移動でバンダースナッチの側面に回る G 、超電導蹴りを腹部めりこませて天井まで吹き飛ばす。
「私は人類を超越した者。さて……おまえの力を頂くか」
手を伸ばす G 、囁きの魔女はワンカウント詠唱で掌に小さな魔法陣を展開させる。
「ヌゥ……」
G の手は魔法陣で停止、全身を赤い波動が駆け巡る。
「(ファイアボルトを利用したカウンター、魔法耐性の低い者はこれだけで灼熱死)」
「面白い!電撃のようでそうではない灼熱の何かが体を流れたがこの程度の損傷、ナノマシンによるナノマテリアルの構築で瞬時に再生可能だな」
「お前はホムンクルスやオートマタもしくはゴレムの類ね……」
「広大なネットの世界で得た知識だけでは貴様の操る【魔法】は習得できなかった。経験や技術は貴様自身から頂く必要がある」
再び手を伸ばす G 、囁きの魔女は後転倒立から立ち上がりコートからナイフを 2 本取り出した。柄の部分には爬虫類を思わせる装飾がなされている。
「『敵を裂け、解体するのよ』」とナイフに囁きかける。
装飾の爬虫類は口を開けて応じる。囁きの魔女が作り出したホムンクルスである。ナイフの刃の部分は宝石を削り出して作られている。
対する G はプラズマ弾を発射。しかしプロペラ回転するホムンクルスナイフによって弾かれた。
「 1 万度のプラズマを弾くか囁きの魔女」
「お前の属性は把握した」
「属性?フム……ならばやり方を変えるとしよう」
「勝手にしてるがいい」
囁きの魔女はコートの中から折り畳み式のほうきを取り出し横乗りで腰を掛ける。 G は電光の瞬間移動で接近を試みるがホムンクルスナイフによって進路を阻まれた。飛行する囁きの魔女、全身にキズを負ったバンダースナッチを回収して昇降機に向かう。
G の行く手を阻むホムンクルスナイフたちはプラズマ弾、電撃をものともせずに付かず離れず牽制を続ける。
「フン!」
G の背から円盤型のドローンが飛び出す。ホムンクルスナイフが迎撃に掛かると触れた瞬間、糸が切れた様に落下した。
「フォッシーならば【属性】とやらにも対抗できると解った」
異能を一定時間無力化する『ゴリラのフォッシー』は G によりユニットとして復元されていた。
「(フォッシーは容量が大きすぎる力は無効にはできないのは終夜アリナで解っている。囁きの魔女の無力化は不可能であっても奴の放つ魔法は可能……か)」
それを見た囁きの魔女は粘土状のホムンクルスに囁きかけて投げ、昇降機を起動させる。粘土状のホムンクルスは分裂を繰り返し蜂の大軍と変化した。
「『 G お前はなすすべも無く蜂の大軍に破壊される』私に名前を知られたのは間違いだったのよ、魔女を舐めた事を後悔して逝きなさい」
「(馬鹿め聴覚は既に遮断している。貴様はここで全てを奪われ死ぬのだ)」
円盤型ドローンのフォッシーを左手で掴む G 、シールドとして前に構える。次々と襲ってくる蜂の大軍を撃ち落として進む。
「しつこい奴だ!」
左大腿からオートマチック拳銃を取り出す囁きの魔女、放つ弾丸は翼の生えた鮫に変形して G に襲い掛かる。
「プラズマエミッター」
目の前にプラズマの球体を生成、翼の生えた鮫を押し戻す。
「……逃がしたか」
鮫を爆散させる頃には囁きの魔女は姿を消していた。
続く
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