異能者特務機関: TMI 第 44 話「これから」
『君たちの迅速な行動見事だったよ。おかげで私は魚人の回収に専念できた』
モニターの向こうのジェームズは葉巻に火をつけながら言った。
「長官の資料によればもうこの魚人たちは現れないという事ですが」
『ああ、専門家たちが奔走してくれたおかげでね。君たちが被害を食い止めてくれて助かったと彼女らも言っていたよ』
「穴井さんも魚人が消えてからは元通りの生活に戻れたようですし良かったです」
「わたしたち三人が事務所の人にスカウトされた時はどうしようかと思いましたが」
『ははは、君たちは容姿が良いからね。望むのならそっち方面の道の専門家を紹介するがどうかね?』
「結構です長官」
アリナは即答した。
『そっち方面のパイプはあまり太くないからね、誰か芸能関係で活躍してくれると TMI としては助かるのだけどねぇ。哿くんとか特に』
「お断りします……」
『そうか残念だ。まぁルキナくんがアメリカでそっち方面の道で成功したいと思ってるからバックアップはするつもりだがね。モンスターパンデミック騒動が終わった後でね。話は代わるが今後の事だが……しばらくは日常を過ごしてくれたまえ。任務が無い時は普通の年頃の人として生活して欲しい。君たち U チームは過酷な任務に関わることが多すぎたからね』
「平気ですよ長官。異能のコントロールは万全ではありませんがすぐに取り戻して見せます。カテゴリー5のわたしが働かないなどありえません」
『……アリナくんは特に休んで欲しいのだ。君はもうカテゴリー 5 のエージェントではない。管理者に認められカテゴリー 7 の領域にまで達した者だ。これからは任務だけでなく日常を過ごして視野を広げてもらいたいのだ。哿くんとフローレンスくんも同意見だ』
「どうすればよいのか、わたしには分かりません」
『君は年頃の普通の人として過ごし多くを学んで欲しい。それだけだよ、幻赫を斃した後の人生を抜け殻で過ごして欲しくない』
「……そうですか」
『難しく考える必要なんてない。学校に通い同世代の人と触れ合い日常を過ごして欲しい。多くの者が経験するものを君も体験して欲しい。成人になった時君がどういう心境に至ろうとも私達は反対しないよ』
「長官……」
『異能者大戦で多くを失った。今度の幻赫との戦いでまた失った。私は常に後悔しているのだ。それでも前に進めるのは君たち次世代の者が居るからだよ』
「感謝します。わたしは TMI に、フローに、哿さんに巡り合えてよかったです」
『そう言ってもらえると嬉しいね』
通信を終えると三人は外出の準備を始める。アリナとフローレンスは夏休み明けから通う学校の制服ができたので取りに、哿は二人を送った後、穴井千種の様子を見に。
「そういえばアリナ、昨日メッセージ交換した子と予定してたりするの?」
カバンの荷物をチェックしながらフローレンスが聞いた。
「晴凛の事ですね。彼女とは夏休みに京都に行く約束をしました。フローと哿さんも一緒にどうですか?」
「任務外で京都に行くのは初めてなので是非」「僕も昔 1 度行ったきりなので」
「ではメッセージでそう伝えますね」
***
―前日
巨大魚人を斃した次の日、アリナたちは買い物に出かけていた。
アリナはすぐに買い物を済ませてしまい哿とフローレンスとの待ち合わせ時間まで間食をすることにした。
ショッピングセンターの道を挟んで向かいにある創作料理の店を見つけたアリナはそこにかかれた看板に目を奪われた。
「特盛 20 倍ミートパスタ時間内に食べ切れば無料……」
無料で食事したいと気持ちよりも、食欲をそそるミートパスタを 20 倍の量を食べても良いという事実に興奮した。
アリナは早速店のドアを開けて店員に挑戦を告げる。
「お嬢さんごめんねぇ、このメニュー 2 人前用なんだ……一人で挑戦したいならまずは二人で食べ切ってからにしてよね」
「そうですか……」
肩を落として店の外に出るアリナ。看板を見て諦めて普通のメニューを頼むか別の店に行くか迷い始めた。
「どうしたんです?何か困ってます?日本語解ります?」
声をかけてきたのはごく普通のアリナと同じくらいの少女であった。
「大丈夫です、日本語は話せますよ」
「何かあったのですか?飴がのどに詰まったとか?」
「実は……」
アリナは特盛 20 倍ミートパスタを注文したいが一人では断られてどうしようかと思案していたことを少女に話した。
「このくらいなら食べ切る自信があるのでどうか一緒に店に入ってもらえませんか?支払いはわたしがしますしあなたは座っているだけでも良いですから」
「ええ~どうしようかな……って!チョモランマ食べていた人じゃないですか!?」
少女はアリナがラーメン屋台でチョモランマを食べていた時に隣にいたと説明した。
「なるほど……確かにあなたならこのミートパスタもいけそうな気がしますね!あ、私は晴凛。本郷晴凛といいます」
「終夜アリナです、よろしくお願いします」
「アリナさんね、私の事は晴凛と呼んで。苗字はなんか強そうで苦手なんだー」
「解りました晴凛さん、では行きましょう」
アリナと晴凛は席についてミートパスタを食べながらすぐに打ち解けていった。
「……で、和美がね~チキナーで食べようとしたの!あははははっ」
「それは愉快ですね晴凛さん」
「でしょう~……ねぇ、私の事晴凛でいいよ。さん付けなしで同い年だしね。アリナって呼んでいい?」
「はい、晴凛」
二人の目の前にあった 20 人前のミートパスタはもう僅かになっている。
「もうないよパスタ!おしゃべりしながらなのにアリナ速過ぎ~!!」
「この店のミートパスタは美味しいですね。また来たいです」
「見てて気持ちいいよ、食べ方超きれいだし」
「祖父が厳しかったですから身に着いたのですよ」
「へぇ~……おっと、時間大丈夫アリナ?お店出た後はまだ時間ある?」
「確認します…………フローと哿さんは後 30 分ほどかかるとの事です大丈夫です」
「そっか、じゃあ近くの公園でお話しよ?」
「ええ」
***
―現在
学校に向かうワゴン車。アリナが空を見上げるとほうきに乗った人影が一瞬見えた。
「……?」
歩道を歩く四人組の少女たちと目が合う。自分と同じ年頃で【普通ではない者】とすぐに認識できた。
「わたしの知っていた世界はまだまだ狭かったのですね」
「どうしたのアリナ?」
「いえ、長官のおっしゃってた事が少し解った気がしたので」
「そう」
優しく微笑むフローレンス。アリナの体に少しだけ虹のオーラが見えた気がした。
***
―歩道を歩いていた四人組の少女
「……」
「どしたの舞子?」
「ちょっとね……」
「ふうん」
「妃羅莉は何も感じなかったの?」
「何が?」
「……そうよね」
ダークブラウンのセミロングにまつ毛の長い勝気な表情の舞子と呼ばれた少女と、大柄で丸顔ツインテールの少女妃羅莉。
その後ろには、金髪ポニーテールで切れ長の目のスレンダー女性と、黒髪ロングで三白眼で胸の大きな女性が歩いている。
「燿子と萌絵は?」
「ビビっときましたね」「なんかぁ~ザワ付く感じ?」
金髪切れ長目の燿子、黒髪三白眼の萌絵が答えた。
「さっきのが【魔女】だと思う?」
舞子の問いに三人は首をかしげる。
「ネズミちゃんたちが何も感じなかったし違うんじゃない?」
「魔女というものに会うたことないしなぁ……まぁでもアレはちゃうと思いますよ」
「殺気とか感じなかったし~魔力と言うか別な力?的な?雰囲気だったからねぇ」
「うん~……でも隙はなかったでしょ?あれ普通じゃないって」
四人はワゴン車の通り過ぎた方向を眺めている。
「舞子ちゃん敏感すぎぃ~!あんまりピリピリしてたらもたないゾ☆」
「萌絵はスイッチ入る前はそんなんだから羨ましい。妃羅莉は油断しすぎだし燿子は絶対関係ない事考えてるでしょ」
「オンオフの切り替えがうまいんだゾ」「(いや、極端すぎるでしょ萌絵は)」
「ショッピングセンターでサッカー用品見たいんだけど」「(だから緊張感!妃羅莉!!)」
「魔女……魔男……間男……間女……」「(しっかりしてリーダー!燿子!!)」
心の中で叫ぶ舞子の顔を見つめる三人。
「どうしたの?」「トイレ行きたいの?」「あほ毛今日は多めですなぁ」
「ツッコマないわ……ツッコミキャラじゃないんだから!」
フン!と回れ右をして歩き出す舞子。後ろの三人はニヤニヤと笑顔を浮かべている。
「かわいい!」「よくわかんないけど楽しいね」「綺麗なターンでしたねぇ」
その時四人の携帯端末に一斉にメッセージが入った。
「マネージャーからね……そろそろ現場に戻れ、かぁ」
「え~……もう?」
「自由時間短すぎ~」
「歩いて戻るんも面倒やさかいタクシー拾いましょ」
***
― TMI 日本支部
ジェームズは甥のミカエル・パウマンに手紙を渡した。
「叔父上、これを魔女レヴィに届けるのは良いのですが G.D. Ⅲにも内密とはこれいかに?」
「姉に頼むわけにもいかないからね。あと魔女と言うのは中々アポを取れないんだよ。向こうからは突然来るくせにね。魔女レヴィはそんな事は無いんだが居場所がハッキリしない。異能者では彼女を追うのは難しいからね」
「はぁ……しかしそれとこれとは」
「魔女レヴィは私の姉なんかとは絶対に会わないって事だよ。過去にあの二人の間で何がったのか知らないがね。まぁそういう訳だ、私は魔女レヴィと一緒に仕事をしたことがあるから面識はあるんだ。ミカエル、頼む」
「解りましたアメリカを、世界を救うためですから協力しましょう。母上に知られても私は責任を負いませんからね叔父上」
「なんとかならんのかね?副総統だろ君は」
「なりませんね恐らく。その時の事を考えておいた方が良いかと」
「頭が痛いね……それにしても君たち G.D. Ⅲが日本に集結してるとはどうしてかね?」
「詳細は言えませんが、この国の独特な気質と言いますか取り入れる精神といいますかとにかく動きやすいのです。それに……」
「それに?」
直立で手を後ろに回しているミカエル、ジェームズはゆっくりと椅子に腰かけた。
「幻赫が消えたことで勢力のバランスが崩れ始めました。灰色達(グレイマンズ)の活動が活発化し始めています。この国は潜伏に適していましたからね」
「こうなることはある程度予想していたのだがね。幻赫が異能者だけでなく様々な分野の者たちを取り込んでいたからな。 TMI で対処できる所は全力でやっているんだよ、手紙もそうだ」
「 G.D. Ⅲの見解としてはあそこで終夜アリナに幻赫を討たせるべきでは無かった。静かに詰めていくべきでしたよ。 TMI は何事においても性急に過ぎる。管理者の演算能力が関係しているのでしょうが」
「そうか、 TMI は逆だね。あの場面で幻赫を討てからこそ犠牲は少なくて済んだ。膨大な処理すべき事柄が残ったのは確かだが大勢の命を救えたことは皆満足している」
「仕方ありませんね。 G.D. Ⅲと TMI では活動理念が違う」
「 TMI は他所の組織の方針に口出しするつもりは無いよ。だからどうか君たちも TMI の人間にちょっかいはかけないでくれよ」
「叔父上、ちょっかいと言い方はいささか適切ではありませんね。 G.D. Ⅲが動くべきと判断した時は動きますそれだけです」
「グレイストームの存在を知っていたから G.D. Ⅲの君は幻赫討伐作戦に協力してくれたのかね?彼も灰色達(グレイマンズ)だろう?」
「半分正解です。そうでなければ叔父上に協力はできませんでした。この体は G.D. Ⅲの物。私の本体は既に無く魂はデータ化し G.D. Ⅲに記録されてますので」
「そうだったね……すまない。君が来てくれて本当に助かった、 TMI の皆も同じ気持ちだ」
「いえ、私こそ TMI のやり方に意を唱えてすみませんでした。話はかわりますが私の活動期間はあと二日で終わります。その後は別の Magus (メイガス)が担当となりますので何かあればその者にご連絡ください。いつも通りエメラルドタブレットで」
「そうか解ったその者の名前は?」
「 G.D. Ⅲの S.M メイガス、『ミレーヌ・ジンデル』です」
***
制服を受け取ったアリナとフローレンス。校門を出ると両手両足を改造したサイバネの男性に絡まれた。所謂『サイバネもの』と忌み嫌われている反社会的存在である。
「ちょっと一緒に来いよ。楽しくさせてやるぜ一生忘れられない体験できるぞ?」
「カネならいっぱい持ってるゼ!」
「来ないとは言わねえよな?俺たちは悪性腫瘍を患って仕方なくサイバネ化したかわいそうな存在なんだサベツしねぇよな?あ?」
つかみかかるサイバネ者、だが目標を誤り何もない空を掴んで派手に転げた。
「ギャハハハだせぇ!なにやってんだよポコリン!!」
「……」
ポコリンと呼ばれたサイバネ者は意識を失っていた。
「てめぇこのアバズレなにやっ……」
モヒカンのサイバネ者が倒れる。
サイバネ者たちが見えない速度でアリナの拳が顎を掠めていた。
「アリナ、警察に連絡しておきましょうか?それとも救急?」
「救急で良いのでは?それよりもフロー、この前晴凛と行った創作料理のお店に行きたいのです、今週はデカ盛りパエリアやっているので。あ、前回で挑戦権は得たのでフローは普通に何か食べたいものを注文してください」
「良い店を見つけましたねアリナ。あなたが遠慮なく食べれる店は中々ないですし」
その後毎週通う事になるアリナ。創作料理店は打倒アリナに燃え様々なメニューで挑むことになり、これをきっかけに大繁盛店になっていく。
「フードファイターという職業があると最近知りました」
「……適職ではあると思いますが」
「冗談ですフロー、言ってみただけです」
「そんな冗談を言うなんて珍しい。でもうれしいですよ」
ほんの少しだけ柔らかくなったアリナを見てフローレンスは笑顔になった。
終
異能者特務機関:TMI 第43話「新たな… Jul 27, 2020
異能者特務機関:TMI 第42話「日常」 Jul 21, 2020
異能者特務機関:TMI 第41話「決着2」 Jul 8, 2020
PR
Free Space
Freepage List
Calendar
Category
Comments
Keyword Search