VAMPIREEYE103 「仮面の襲撃者」
「二郎どうした?顔色が悪いぞ?」
蓮也は二郎の顔を覗き込む。
「いや、なんでもないよ兄貴。吹雪さんの家が火事だって聞いて驚いたんだ」
少し離れた席にいる霄がシェルターから飛び出して白峰邸に行こうとするのを吉良と冬華か止めに入っていた。
「霄お嬢様お待ちを」「霄、一旦落ち着いて」
「家には!皆との思い出が!!お父さん、お母さん、吹雪、霞との大切な思い出の品が!!」
吉良と冬華を振り切る霄、その様子を見た華月が霄の前に立つ。
「行くな霄、何が待ち受けてるか分からんのだぞ」
「先代!このままじっとなんてしてられません!!」
「今は近藤に任せよ。奴は気配遮断に透視、探知、透明化の能力がある。家には消火活動が終わってから行けばよい、我も一緒について行く。それでいいな?」
霄は数秒間華月を見つめた後諦めたように頷いた。
「……わかりました」
「白峰家の結界を破れる者などそうは居ない。考えられるのは教会最強の陰陽師・葛野忍もしくはそれに近しい術師だな……」
「華月様、灰色の軍勢の仕業では?葛野忍は追い詰められない限り表立って直接白峰家と対立する形は取らないでしょう」
黒谷が言った。
「……追い詰められたのではなく、時期が来たのかもしれん。霄の話では源藤高雅と灰色の軍勢は繋がっていた。そして灰色の軍勢は一週間で京都を滅ぼし二週間で世界の崩壊を企てているらしい。教会と灰色の軍勢の目的は繋がっていると考える」
「それはつまり……封鎖中の碁盤の目町に捕らえられている雪名様も危ういという事」
「そんな……お母さんが!!」
叫ぶ霄。フロアーの全員に動揺が走る。
「皆さん!敵は華月様復活を知らない!!だからこそこのような大胆な行動に出てきたでのです!!華月様が完全に力を取り戻せば従者である我々も更なる力を得ることが出来る、それは敵にとって予想外でしょう!!今日から一週間、華月様に力を取り戻していただく為の期間と私はします!!」
黒谷は両手を広げ大きな声で言い放った。
「策はあるのか?黒谷」
華月が言う。
「ええ、勿論ですとも。沖田さんと二郎くんの行っていた華月様への力らの譲渡。それを参考により大規模な術式を準備しています。術式の準備は妖怪連合とも揉めることなく進んで順調です。彼らの縄張りギリギリの所に設置していますので。特に五月蠅い鬼の結界術師も灰色の軍勢の事があってか衝突することはありませんでした」
「解った」
「……」
二郎はそれを聞き頭の中に大熊我們(熊童子)の顔が浮かんだ。
「(あの時行動して良かったんだ……そうじゃなかったら華月派と連合は揉めていた可能性が高い……)」
「それと源藤高雅の口を割らせます。意識不明の重体ですが直接脳に働き掛けます。灰色の軍勢と葛野忍らは何を企てているのかを。これらを一週間でやり遂げて見せますとも!!」
黒谷が言い放った後、メンバーはそれぞれ気の合う者同士、一週間の行動について話しを始める。二郎はノート PC の前で虚ろな表情で天井辺りを見ている勝田に声をかける。
「勝田さん?」
「……おお、二郎君。どうしたのかね?」
「今のはどうしたんですか?」
「ああ、ビックリしただろう?ジーニアスレイジの集会所にログインしてたんだ。前に話した魔女レヴィもしくはその弟子が居ないかって見に行ってたんだよ。集会所にログインするのは精神体だからね傍から見ると気絶しているみたいになるのさ」
「そうだったんですか、それで何か手掛かりは?」
「あったね。近いうちに京都に行くとメッセージが。でもそれだけさ、あの魔女レヴィは会うだけでも大変だ。でも君なら見つけられるかもしれないよ?」
「それはどうしてですか?」
「その前に……君の義手の解析が進んでいくつか解った事があってね。谷川さんと茉白ちゃんがここにきてすぐ手伝ってくれて捗ったんだ」
「解った事とはなんです?勝田さん」
「この義手は V エネジーを発生させるだけでなくて、バックルと連動してデータの記録をしているんだよ。そして V エナジーを使い再現させることができるんだ」
「つまり?」
「対象の能力を記録して再現できる、劣化コピーになるだろうけどそういうことが出来る。それを利用して僕の魔女レヴィの記憶を義手&バックルに書き込む。そして探知に優れた近藤さんの能力をコピーすれば魔女レヴィの魔力を感じるくらいの事はできる」
「なるほど……」
「だから一週間、二郎君には碁盤の目町突破の訓練と魔女レヴィ探しをお願いする」
「吹雪さんと恭一の容体は……」
「水元が診てるから心配ないよ。君の義手が敵の呪を吸収してデータを取ってくれたおかげで水元は症状を緩和させる薬を新しく調合する事が出来た。取り除くことは出来なかったけど状態は安定している、しばらくは大丈夫だよ」
「良かった……」
「呪いを解く方法は……呪い返しか術師に解除させるもしくは始末するかだ。元を断つしかない」
「じゃあ早く見つけて解除させないと!」
「無茶はいけないよ二郎君。少なくとも一週間は与えられた仕事をこなしてくれ」
「はい……」
―京都市北区
霞、須原、斎藤の三人は霞の友人の住むマンションの前に着いた。既に警察関係者の車両が停止している。
「マンション住民の集団昏倒……と報告が入っている」
斎藤はそう言って車から出る。
「一般人には見えぬだろうがマンション全体に黒い蛇のように蠢くススのようなものが覆い尽くしている」
「アレは……呪ですネ」
「妃羅莉ちゃんたちどうなってしまったの……」
須原と霞も車から降りる。
「発生源を辿る必要がある……誰か運ばれて来たな」
担架で運ばれてきたのは全身を真っ黒な黒い蛇状の呪に覆い尽くされた緋川燿子、野村萌絵であった。その後ろから弱った様子の奥寺舞子と山根妃羅莉の姿が見えた。
「あの者達は……連合所属のアイドルグループ・ヴァルキリーのメンバーか」
斎藤は携帯端末の画像と照らし合わせながら言った。
「鉄鼠、牛鬼、土蜘蛛、妖狐と強力な妖たちデス。あのような者に呪をかければ普通呪い返しを受けるもの……相当強力な呪デスヨ」
「舞子ちゃん、妃羅莉ちゃん!なにがあったの!?」
駆け寄る霞。
「……かすみ、三日後のリハーサル中止になるかも。灰色の連中だけじゃなかった……あんたらも気を着けなさいよ」
いつもクールな舞子の目には怒りの表情が浮かんでいる。
「いきなり来たんだよお面被った連中が……撃退したけどまともに黒いの浴びた燿子さんと萌絵ちゃんが倒れて……」
いつもニコニコしている妃羅莉から笑顔が消えていた。
「また連絡するわ、かすみ」
「気を付けてね霞ちゃん」
救急車に乗り込む舞子と妃羅莉。四人を乗せた二台の救急車は去って行った。
「表向きの捜査に警察官として参加する必要があるから私はここで。皆の所には後で行く」
斎藤は近くにいた警察官に手で合図しながら言った。
「斎藤さん……一人になるのは危険デス」
「大丈夫だ、ここまで騒ぎになれば敵はもう移動しているだろう。それに須原さん、貴方は霞さんと無事、都メタルに行って欲しい」
「……分かりました」
「斎藤さん、このマンションに友達がいたんだけど確認してくれる?」
霞は携帯のメッセージに返事が無いのを何度も確認しながら言った。
***
―病院
奥寺舞子と山根妃羅莉は野村萌絵と緋川燿子が ICU (集中治療室)に運び込まれたのをただ見ているだけしか出来なかった。
「この病院は闇の住人に対応しているって聞いてるけど……」
「社長さん(千丈隼磨=酒呑童子)がここなら大丈夫だって言ってたよね」
「妃羅莉は平気なの?」
「ちょっと危なかったよ?ネズミボールを身代わりにして何とか。舞子は?」
「呪の毒は体の外に出せるからこのまま保てるわ。毒に強い体で良かったけど呪を解除しない限りずっと毒を排出し続けなければならないし結構しんどいかな」
奥寺舞子は口から黒紫の粘液を吐いて小蜘蛛に渡して言った。
「舞子ちゃん、仕返しに行くんでしょ?社長とかマネージャーの指示関係なしに」
妃羅莉は魔力鼠ボールを指で回して言った。
「ええ、燿子と萌絵をこんな目にあわされて黙ってる訳ないし」
舞子の目に殺気が宿る。
「マジ、なんだねーあたしもちょっとムカついてるし邪魔じゃなかったら手伝うケド」
「妃羅莉は燿子と萌絵と様子を見てて。万が一私に何かあった時、妃羅莉が最後の頼みの綱だから。ヴァルキリーの事、頼んだわよ」
「わかった、なんかあったらすぐに言って、ネズミちゃんたちをついていかせるから」
「うん」
立ち上がる舞子、廊下を挟んで隣の椅子に東邪馬高校の生徒男女二人居るのが見えた。
「あ、あの……」
声をかけたのは女生徒の方だった。
「ヴァルキリーの MAIKO さんでは?」
「そうだけどあなたは?」
「私、周防美古都といいます。あの、悪いとは思ったんですけど話聞こえちゃって……」
美古都は折りたたんだ十字槍を抱えてもじもじと体をゆすっている。
「なに?手短に話してくれる?」
普段ならクールながらも笑顔でファン対応をする舞子だったがこの時は笑顔はなかった。
「似ているんです……私たちの学校を襲った者と MAIKO さんらが話していた敵と」
「その話……そこの男子も一緒に来て……妃羅莉、ちょっと向こうで話するわよ」
舞子、妃羅莉、美古都、壁山の四名は自動販売機のあるフロアーに移動する。
「東邪馬高校も灰色の連中の襲撃を受けたのね……」
舞子は炭酸水を飲みながら言った。
「そうなんです。東邪馬高校を脱出した後、都メタルでしばらく休んで、蒼炎さん、日除さん、吹田さんの様子を見に病院に来たんです」
「怪我は対した事ないんだけど何か精神的にやられちまった感じっすわ……皆、魂が抜けたようにボーっとしちまうようになって……」
美古都と壁山はリンゴジュースとコーヒーを飲みながら言った。
「撃退出来てよかったね……ニュースではテロリストの仕業になってるねぇ」
妃羅莉は抹茶黒蜜レモンジュースを飲みながら言った。
「他のニュースは……超大型台風消えたんだって……上陸してたら日本ヤバかったんだってさ。東京都と大阪でもテロリスト事件起きてるね……このところ世界中でこういうの起きてるし日本もいよいよ危ないのかなぁ……はぁ、サッカーの全国大会開催できるのかなぁ」
妃羅莉は鼠ボールを頭でリフティングしながら言った。
「俺のハンドボールの大会も危ういかもだぜ」
「壁山君はハンドボールやってんだ、ポジションは?」
「キーパーだ!小中学校の時はサッカーでキーパーやってたんだけど蹴るのが下手すぎてなー防ぐのと投げるのは得意だったから東邪馬に入ってからはハンドボール始めたんだ」
「あたしは FW なんだー本当は司令塔として皆を引っ張りたいんだけど前でバチバチ点取りやる方が向いてるみたいでさ……あはは」
妃羅莉は鼠ボールを壁山にパスして言った。
「色々話聞かせてくれてありがと。メッセージグループ作ったからそれで連絡とりあいましょ。あなたたちが連合に所属してなくても私は気にしないから」
「い、いいのですか!ヴァルキリーの人とメッセージ交換できるなんて!!」
「今は気にしてる状況じゃないから。灰色と関わったんだから」
舞子は素早くグループを作り二人に招待を送る。
「で、二人はこの後どうするの?私と妃羅莉は近くのセンジョーのホテルに泊まるけど」
「私と壁山君は寮に帰ります。明日から学校どうなるかも分からないですけど……」
「もうすぐ夏休みだしそのまま休校もありえるかもね。じゃあ周防さん壁山くん、今日はこのへんで解散しましょ」
「あ、はいおやすみなさい」「じゃあな奥寺さんに山根さん」
去っていく美古都と壁山。その姿を見つめる舞子と妃羅莉。
***
斎藤と警察に呪に覆われたマンションの調査を任せて須原と霞は病院に向かっていた。
「舞子ちゃんからメッセージだ。ヴァルキリーの二人は助かったって」
「そうですか」
「でも呪って根本的な解決をしないと治療できないんでしょ?」
「ハイ……そのように聞いておりマス」
病院の裏にある駐車場に車を止める。降りたところで物陰から黒い嘴の面をかぶった男ら五人に囲まれた。
「ム、人間ではないですネ」
「魔力を感じるね」
男らの手にはかぎ爪、クナイ、鎖鎌、直刀、刺叉。
「白峰霞、大人しく拘束されるなら危害は加えない。だが抵抗するなら仲間を殺す。病院に運ばれた奴らの止めもさしてやろうぞ」
直刀を構えた男が言った。
「誰なの?どこの誰かも分かんない人にいきなりそんなこと言われて聞けないよ」
「ついてくれば分かる」
「武器で脅して素性も明かさない人についていく訳ないよ」
「これでも穏便に済ませようと譲歩しているのだが?いきなり襲い掛かって半殺しにしても良かったのだ」
「へぇ……でもここで大声出せば誰かが警察呼ぶかもね?」
「妨害電波を発している、この周囲の携帯は使えん。固定電話で通報しても 5 分の猶予があるそれまでにお前を拉致すればいい事だ」
五人の黒嘴仮面が間合いを詰めてくる。
「ちょっとちょっと!!なにやってんですかー!!」「犯罪の匂いがするなぁ!!」
後ろから声をかけたのは周防美古都と壁山颯真。
続く
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