VAMPIREEYE105 「近藤肇」
「駐車場で襲われてる人を見つけて、助けに入ったのにやられて……舞子さんがいなかったら私と壁山君はどうなっていた事か……助けるどころか邪魔してしまってすみません」
美古都は何度も須原に頭を下げる。
「いえ助かりました、あの時貴女と少年が来なければ霞お嬢様は誘拐されていたかも知れまセン」
頭を下げる須原、上着を拾いアスカロンをトランクに入れ、後部座席に寝ている霞の様子を確認する。風迅剣の傷の他は無く、寝息を立てている霞。
「霞お嬢様は無事、車もボディに多少傷はつきましたが動作に問題はありません」
「良かったぁ~……」
へたりこむ美古都。
「周防さん、あそこの壁山くんを連れて病院に戻るわよ、今度はあなたたちが治療する側。念のため今日は入院させてもらって様子を見た方がいい。私と妃羅莉、交代で病院にいるから安心しなさい」
「ありがとうございます~舞子さ~ん……こんなぽっと出の私と壁山君にまで優しくしていただいて~」
涙を流し顔をぐしゃぐしゃにしている美古都。
「はいはい……泣かない泣かない」
「うわぁぁぁ~ん……ヴァルキリーの映像コンテンツ、グッズ全部買います~」
「うんうん」
手を引いて美古都を立ち上がらせる。舞子はスイングで壁山に近寄り蜘蛛糸で担架を作って乗せるとソリのように引いて歩き出す。
「私がやります舞子さん!」
「あんた怪我してるし」
「やります!」
「あっそ、じゃあお願い」
舞子はソリの糸を渡すと須原と霞の車に近づいていく。
「須原さん……だっけ?霞が無事で良かった」
「このご恩は忘れません、土蜘蛛・奥寺舞子サン」
「多分だけど、近いうちセンジョー側からそっちの者とコンタクトを取るはず。エクレシア(教会)の事や灰色の事で、だから……」
舞子は気まずそうに頬に指を当てて視線を動かす。
「……吹雪お嬢様に伝えておきます。二郎君や恭一君にも」
「ええ、頼んだわよ。それじゃ……」
舞子は霞を乗せた須原の車が見えなくなるまで見送る。メッセージで二郎に色々情報を流すことはできたが、連合の者という立場を考えてやめておいた。須原に伝言を頼むだけに留めた。
「けほっ……」
口から黒紫の毒の塊を吐き出す。橡の呪を毒として排出を続け凌いでるが体力の消耗は避けられない。
「早くあの猿を始末しないと……萌絵と燿子の為にも……」
***
―白峰邸
見た目は純日本家屋、実際は最新設備、魔術セキュリティを施した要塞ともいえる白峰の家は炎に包まれていた。
その中心に獣が立っていた。
曲がりくねった角、灰色の鬣、鋭い目、肉食獣を思わせる牙、強靭は腕に熊のような爪、長くしなやかで先には刃のついた尾、バネのような脚部は足甲の長いつま先立ち。所謂逆関節足。
「……外れですか。まさか誰一人居ないとは」
獣は流暢な言葉を発す。
「そろそろ野次馬が消防を呼ぶ頃ですね。そして一瞬感じた気配は今は無い……こちらではなく、やはりセンジョーに行くべきでしたか」
体を大きく沈め飛び上がる獣。蝙蝠を思わせる翼を広げ飛び去った。
その様子を華月配下吸血鬼の警察署長・近藤肇は透明化気配遮断透視を使って見ていた。
「異質だ……あのような魔力の質の獣……妖でもなければ人間でもない……華月様に報告しなければ」
近藤は都メタルに向かう。路地を抜け能力を解除、大通り手前の住宅街の空地を通る。そこに灰色の狩衣を着た女性が立っていた。
「(夜中に狩衣の女性?一人で?)」
不審に思いながら近藤は警察官の名刺を出して女性に近づく。
「あのー警察です、こういう者でして……こんな時間にこんな場所で一体何を?」
次の瞬間女性の背後から何かが伸び近藤の胸を貫いた。
「ガハッ……」
近藤を貫いたのは女性から伸びた尾。しなやかで刃の付いた尾であった。
「白峰の家の外で感じた気配はお前でしたのね。何者か?と問いたいところですがお前自身に興味はありません、だから、メッセンジャーに、なりなさい!」
尾を突き刺したまま接近する女性、近藤に連続打撃を叩き込む。
「アガッ……ゲホッ……」
「さぁ解放してあげます。アジトへとお戻りなさい、私は【グレイビースト】」
見る見るうちに獣へと変化する女性。近藤が白峰邸で見た獣であった。
「グレイ……ビースト……」
「すぐには、死なないように、術を設定しました。さぁ行きなさい……アハハハハ」
倒れた近藤はグレイビーストに突き刺された傷が再生しない事に気が付いた。そして打撃を受けた箇所から徐々に熱くなっていくの感じる。
「しくじった……だが、このまま終わる訳には……」
力を振り絞り携帯のカメラで去っていく灰色狩衣の女性を撮影する。
「(奴はアジトに戻れと言った……メッセンジャーだと……つまり私を時限爆弾のような状態でアジトに帰らせて仕掛けた術を発動するつもりだろう)」
近藤は出来る限り知りえた情報を携帯に入力し、同僚の警察官であり華月配下の斎藤に送った。そして携帯を空地の地面に埋めゆっくりと立ち上がった。
「この体どのくらい持つのか……時限爆弾だとすればできるだけ人気のない場所に移動しなければ……川がいいか一番近い川は……」
地理に明るい近藤は一番近い川、天神川を思い浮かべる。
「あの場所なら爆裂しても……支障は無いはず……」
気配遮断透明化の能力を使い通行人に気付かれずに天神川に飛び込む近藤。
「短い間でも……白峰家に華月様に仕えられて良かった……」
爆発する近藤の肉体。赤い光に包まれた心臓の形をした光が空高く上がっていく。
***
シャワー室から出てきた神名 L 咲夜はベッドに腰を下ろして携帯端末を手に取りニュースをチェックしていた。
「アハハハハハハハッ!!あ~はっははははははははははっ!!」
日本列島に迫っていた史上最大最高風速の台風は太平洋上で突如消滅した事を確認し大笑いをした。
「幻赫敗北!!あははははははははは!!」
咲夜は携帯端末をベッドの上に投げる。
「二週間後の世界で一番の障害になるはずだった幻赫が消えた!! TMI (異能者特務機関 Talent's secret military institutions )の他に敵を作りすぎたな……十数年前に TMI に敗北したにも関わらず、ナメてかかり、異能者を利用しようとした結果だ!!幻赫が消えたという事はグレイストームも退場という事。白魔団に敗北したグレイマンの恥さらしが」
「咲夜さま、京都にも白魔団が来ているのでしょうか?」
お付きの式神アンドロイド梨花が言った。
「グレイマンのある所、白魔団の姿あり。今はまだこの地に居なくとも、この私グレイビーストに対抗する白魔団の者が、必ず現れる」
「梨花はグレイマンの勝利を切に願っております。今の世界はあまりにも人類に傾きすぎています。白(人)にも黒(魔)にも染まり切ってはいけない、灰色こそが世界の調和」
「そうだ梨花、グレイマンこそが世界の調和。この星を統治しなければならない、二週間後の世界を先導するのはグレイマンなのだ!!」
「咲夜さま、梨花は幻赫を倒した存在が気になります。咲夜さまの最大の障害であった幻赫を倒した存在は咲夜さまの新たな障害になるのではと」
「案ずるな梨花、 TMI とその他の勢力は幻赫の残党狩りに追われる。日本の、一都市に過ぎないこの街の出来事に関わって来る事など無い。気付いた時には時すでに遅し、二週間後には TMI などには止められぬ世界に変わっている」
「なるほど、楽しみです」
「先ほども吸血の鬼を一人狩ってやった。三獣はまだ成果を上げてはおらんようだが」
「早速敵を仕留めるとは流石です咲夜さま。三獣の方々ですが、橡さまは怪我をされましたが順調に呪(しゅ)をばら撒かれ、皀さまは撃退されたものの、その後連合所属の妖の狩りを続け、青鈍さまは妖の拠点である学校を一つ崩壊させました。そして源藤さまは生死行方不明です」
「がっかりさせてくれますね、あの三獣は。まぁでも、名古屋と違い京都は妖たちの数が違う、なまじ今まで勝ち続けたせいか驕りと油断があったのでしょう、仕置きは止めておきますか。後六日で結果が出せなければ三獣は解散させます」
「咲夜さま、その旨、三獣の皆様にメッセージで送っておきますね」
「ええ、お願い。今会って話すと、どうしても感情が高ぶって、グレイビーストの力であの獣たちに何するかわからないので」
「承知致しました、咲夜さま明日のご予定は?」
「センジョーに行きます。そして酒呑童子配下の鬼を一人でも殺せればいいですかね」
「分かりました」
その時咲夜のカバンが振るえ出した。二本指をかざす咲夜、カバンから飛び出したのは紙の人型であった。
『神名 L 咲夜……白峰邸襲撃はどういうことなのかな?』
落ち着いた低い声。人を惑わす色気を含んでいた。
「葛野忍……レディの部屋に突然何の用かと思えばそんな事」
『弟子の動きを気にするのは当然の事でしょう?』
葛野忍。日本のエクレシア(教会)のトップにして最強の陰陽師団を束ねる存在。
「弟子ね……元です。道摩法師を名乗った時から私と貴方は師弟関係ではない」
『おやおや、グレイマンになってから貴女は傲慢に磨きをかけたようだ。だが不毛な言い争いをしに来たわけではありません』
「報告でしょう?白峰邸の襲撃は 1 週間予定をずらしただけです。先に白峰サイドを叩いておいた方がいい予感がしたのです。何か、ほころびを生みかねない存在を潰す為に」
『……なるほど』
「成果は殆どなかった。偵察に来ていた吸血の鬼を一人始末してやった。上手くいけばアジトが分かると思ったけど馬鹿ではなかった、警察官の吸血の鬼でしたよ」
『ほう……エクレシア(教会)のデータにそんな者は居ない、最近現れた者ですね。こちらは碁盤の目町に閉じこもっているので外の妖の情報など集めてませんでした。計画通り進めば地上の妖など小生と長門顕彰、貴女が居れば全て駆逐できるのでね』
「ああ、そうそう。杉田幻赫が消えたわ」
『それはそれは……杉田幻赫は小生にとって最大の障害に成り得る存在でしたからね。と、いう事はあちらのグレイマン・グレイストームも?』
「消えました」
『【あの存在】の先兵であるグレイマンの数が減るのは構わないのですか?』
「世界が変わった後、統治を任される人数が減るだけの事。それにグレイストームは気に入らなかったので消えてくれて清々したほどですよ」
『いい報告をありがとう元・弟子。こちらの準備も捗りそうだ。最近虫がうるさくてストレスを溜めていたのだが解消された』
「虫?」
『取るに足らない虫。碁盤の目町に侵入しようとする虫ですよ』
「どうしてもと言うのなら、私が、虫を駆除しても、いいのですが?」
『心配無用、既に陰陽師団と大天狗には指示を出してあります。貴女はセンジョーを』
「分かっています、じゃあまた」
人型はただの紙切れとなり床に落ちる。
「はぁ……いつも嫌なタイミングであの男は連絡を取って来る。梨花、三獣にセンジョー連合の奴らを集中的に狙えと、伝えておいて」
「承知しました」
***
―都メタル・シェルター
「近藤さんが逝きました……」
黒谷が呟いた。それを聞いた華月は目を閉じる。
黒谷は目の前に発生させた黒い渦から心臓の形のエネルギー体を取り出す。
「華月様、近藤さんの遺した魔力です。お受け取り下さい」
「ああ」
近藤のエネルギー体を受け取る華月。
「灰色狩衣の女……奴が灰色共の頭グレイビーストか」
近藤のエネルギー体を吸収し最後の記憶を読み取る華月。
「斎藤さんは近藤さんの携帯端末を回収に行きました」
「黒谷、近藤の事は夜が明けてから皆に知らせよ」
「はい、昨日今日で色々ありすぎましたからね」
「ああ」
近藤のエネルギーを吸収する華月、更に少し大人に近づいた。
「大天狗、陰陽師団、ついに動き出しました。どうされますか?」
「教会勢は警察との繋がりもある、表立っての抗争は仕掛けてこない。それを利用するのだ、警察の捜査力を使い斎藤に奴らを追わせる」
「そして見つけ次第始末……ですね。野盗を装って闇討ちを仕掛けてくるのならこちらもそうしましょう。容赦無く」
「徹底的にやれ黒谷。そして大天狗を炙りだすのだ。我が奴を始末してやる」
「この話は私たち華月派だけの耳に入れます。霄様たちや蓮也君たちには時期を見て話を」
「ああ、人間との抗争はまだあの子らにはできまい。陰陽師団は人間が殆どだからな」
「霄様らには灰色の方に集中してもらいましょう」
「そうだな……だが黒谷、あのグレイビースト……強いぞ、なめて良い相手ではない」
「華月様が強いと言われるとは……近藤さんの記憶からでもそう感じられましたか」
「異質なものを感じた。妖とはまた違う奇妙な何かがある」
「十分警戒しましょう」
黒谷は腕を組んで頷いた。
「連合の動きにも注意しておけ。今は敵を増やしている場合では無いからな」
「はい」
―翌朝
黒谷の口から近藤の死亡が全員に伝えられた。
その後それぞれのチームに分かれ動き出す。二郎は蓮也とセンジョーに行くことに。
「 HKF の練習と……明珠香と TOYA の協力を説得」
確認するように二郎が呟く。
「自分が送りマス。車の修理は昨晩終わらせましたので」
アスカロンを担いだ須原が声をかけてきた。
「私と霄様、霞様は火事にあった白峰の家に向かいます」
吉良は車のキーを見せて言った。
「……わたしも連れて行って」
そこに顔色の悪い吹雪が現れた。
続く
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