VAMPIREEYE106 「闘技と特別製 HKF 」
「吹雪、寝てなくていいのか?」「吹雪おねえちゃん!」
駆け寄る霄と霞。吹雪の顔色は悪い。
火事にあった白峰の家に向かう準備をしているところであった。
「来海の薬とお父さんの札でなんとか。寝てるだけというのも辛いから……」
「吹雪さん……」
二郎は顔色の悪い吹雪を見て目を閉じる。
「大丈夫、見に行くだけだから。大人しくしてる」
「わかった……止めても無駄なのは知っているからな」
「吹雪お姉ちゃんはあたしが守る!」
霞は空手の正拳突きの動作をして言った。
「では行きましょう」
吉良についていく三人。
「自分たちも行きましょう」
須原についていく二郎と蓮也。
都メタルの地下駐車場から出る車二台。二郎たちの車は北西に、吹雪たちの車は北に向かう。
「兄貴、俺昨日の夜色々考えてたんだ……これまでの事」
「そうか……」
「俺だけ知らなかったんだよな。木城家の事や白峰家との関係、エクレシア(教会)との事……」
「仕方ない、親父もお袋も二郎には普通の生き方をして欲しいと考えてたからな。お前の性格的に知れば家族の誰よりも突き進むだろうからな。それが辛い道であってもだ。結果お前を巻き込んでこうなってしまったのだが。お前が成人して社会に出るまでは何事にも巻き込まれずに過ごして欲しかったがな。俺たちのせいだ」
蓮也は車の窓からまだ開店準備中の店らを眺めながら言った。
「何も知らずに平和に暮らせる事は本当に紙一重だったんだんだなって思うよ。親父たちを責める気持ちなんてないむしろ感謝してる」
これまで危険とはほぼ無縁の生活を送ってきた二郎。精々サイバネ者に絡まれかけたくらいだったことを義手を眺めながら思い出していた。
「エクレシアの大天狗・長門顕彰と陰陽師・葛野忍が作った歪みがこの街がおかしくなり始めた原因だ。 20 年ほど前、親父の時代から奴らは計画していたのだろう。白峰家を潰しエクレシアとこの街を支配し更に何か大きな何かを企んでいる」
「源藤高雅の言っていた二週間後の世界と何か関係してる……?」
「奴らが白峰家を潰す所から計画を練っていたとすると、華月さんの復活とお前の存在はイレギュラーのはずだ。消えたはずの華月さん、取るに足らないはずの高校生の二郎。奴は二人の存在を知らず計画を進めている、俺は二人の存在が奴らの計画を潰す鍵になると思っている」
「そんな大層な……兄貴と違って俺は大したことはできないよ」
「そんなことはない、お前が大したことはないと思っている行動が流れを作っている。あの時お前が義手を見つけていなければ華月さんの復活ももっと遅かったはずだ。黒谷も手段を選ばないで華月さんを復活させようとしたんじゃないか?」
「そう……なのかな……どうなんだろう」
「ちょっとしたきっかけを作ってくれたのはお前だ。その小さなきっかけが奴らの壮大な計画を崩壊させるかもしれない」
「……だったらいいけど」
「碁盤の目町の壁攻略もそうだ。お前がきっかけで奴らは慌てて封鎖することになった。今入られては困る状態にあるって事だ。二週間後の世界とやらまで封鎖を解く気はなさそうだ」
「碁盤の目町には……吹雪さんのお母さんの雪名さん。それと元白峰家の妖たち、陰陽師・葛野忍、エクレシアのエージェントが居る……」
「二週間後の計画を阻止する為にも碁盤の目町の壁攻略はなるべく急がないとな」
「それが俺が出来る今一番の行動かな……」
二郎たちの乗る車は京都中心街へと入って行く。何度かパトカーとすれ違う。
「パトカーが多いのは近藤さんの件かな?」
二郎はパトカーを目で追いながら言った。
「だろうな。警察は身内がやられると敵をとことん追い詰める。京都には無いが東京には凶悪犯罪者を取り締まる特殊部隊がいると親父から聞いた」
「そうなんだ、何で京都にはないのかな?大阪はあるのかな?」
「京都の特殊部隊事情は人口の数とあとは日本のエクレシア本部と白峰家の影響だ。大阪は世界一高いビルのある大企業の神名、そこの施設部隊が世界最高峰だと言われてる。そいつらが幅を利かせていて警察とも連携している為特殊部隊は無い」
蓮也は携帯端末から光ネットに繋ぎ神名の私設部隊の画像を二郎に見せる。
「……これってセンジョーの警備パワードスーツに似てる」
「センジョーの警備のものは恐らく神名製だろう。つまり世界最高峰の戦力を持っている企業なんだセンジョーは」
「だからセンジョーの施設はあんなに安全で安心して遊べるんだ」
「そうだな。一般人にも分かりやすく、サイバネ者らの牽制にもなるからな。実際は妖怪連合の連中を警備に置いておけばサイバネ者やアウトロー程度どうにでもなる。だがあえてしない、オープンに力を見せつけられる物を表に出し支持を得ているのさ。昔、華月さんが消えた後京都は混乱期に入ったと聞いたが、センジョーが出てきたとたん前以上の活気が京都に戻ってきたのだという。……恐ろしいやり手だぞセンジョーの社長は」
蓮也はセンジョーの HP に載っている社長・千丈隼磨(酒呑童子)の写真を二郎に見せる。
千丈隼磨の顔写真は自然な金色の髪をオールバックに、ほりの深く鋭い目つき、少し赤みを帯びた皮膚、自然でリラックスした笑顔のものであった。
「千丈隼磨はカリスマだ。華月さんとはまた違うタイプのカリスマなんだ」
「なるほど……良く調べてるね兄貴」
「二郎はまだ中立の立場だが……俺はもう白峰家華月派の者だ。エクレシアと灰色の問題がが片付いた後はセンジョーと付き合っていかなくてはならない」
「そうか……そうだよな……」
二郎はエクレシアと灰色の問題が片付いた後の事を考えたことはなかった。ただ吹雪や家族友人が無事に過ごせればとおぼろげに思っていただけであった。
「兄貴は……大学に入った後どうしようと考えてたんだ?」
「エクレシアのエージェントをやりながら京都で就職。木城家は白峰家と縁があるから繋がりのある会社に入るつもりだった。都メタル、平安新聞社、京都府警、佐久間さん所のタクシー会社とかな。でも今はもうエクレシアは信用できない、華月派の者として闇の住人として社会に紛れ込んで活動するつもりだ。おまえはどうするんだ二郎?」
「俺は……サイバネ技師になろうかと考えてたんだけど……今はよく分からないんだ」
「今はゴタゴタしてる、落ち着いてから考えるのがいいさ」
車がセンジョーの駐車場に到着する。入場ゲートには監視カメラの他にタレットのようなものが設置されているのが見えた。ゲートに近づくと先ほど携帯見てた神名製パワードスーツの警備員が二人柱の影から出てきた。
「窓を開けて会員証を見せてください」
警備員の手には合金盾、背中には電磁刺叉、アサルトライフルを装備していた。
「ハイ」
須原は自分と、二郎、蓮也の会員証を見せる。顔と会員証の ID を確認した警備員が下がるとゲートが開いた。
「いつもより厳重だな……駐車場のゲートまで武装警備員とは」
「店の出入口にはいつもの武装警備員と……あそこにもタレットか」
「オソラクあれは神名の防犯タレット。追跡弾、電撃弾、麻酔弾を状況に応じて AI が判断して撃ち分けるものデスね。白峰家にも導入するか検討していた時期がありました」
「そうなんですね須原さん……そういえば兄貴、華月さんの居たマンションのタレットは違ったような?」
二郎は蓮也に視線を向ける。
「あのマンションのは勝田さんが取りつけたものだから神名製ではないだろう『神名製はどうも好きになれなくてね』と言ってたからな」
「須原登流様、木城蓮也様、二郎様。こちらに」
車を停車させるとパワードスーツ警備員が近づいてそう言った。
「どういうことデスか?」
須原が聞くと、
「社長の指示により VIP ゾーンへ案内いたします。付いてきてください」と答えた。
三人は警備員に付いていく。駐車場の端にある一見壁にしか見えない一角が開き扉が現れる。扉を開け細い通路を進んでいくと電子ロックの先にある 2 重扉の大層な扉を抜けると空港さながらの検査ゲートが待っていた。壁際には戦闘機に搭載されてるような機関銃のタレットが見える。持ち物検査を受けてからゲートをくぐり生体 ID を登録するそこからエレベーターに乗り込む。
「 VIP ゾーンとは……」
「見れば分かります」
耳に感じる気圧からかなり深い地下まで降りた事を感じた二郎たち。エレベーターを出ると大柄長髪のタンクトップの男が腕を組んで立っていた。
「来たか!俺様は星熊童子!!地下闘技場のチャンピオンだ!!」
「地下闘技場!?」
二郎は思わず声が裏返りそうになって叫んだ。
「説明するより見る方が早え、ついてこい」
二郎は蓮也と顔を見合わせた後、後ろのエレベーターを見る。警備員の姿は無くエレベーターのボタンは消えている。進むしかないと思わせた。
「ついていくしかないデスね」
須原が先頭を歩き星熊童子についていく。案内されたのは絨毯の敷かれた落ち着いた部屋。正面の壁はすべてガラス張りに見える。
「見てみな」
三人はガラスに寄る。そこに広がっていた景色は……円形すり鉢状に配置された観客席。中央には水が張ってあり、そこに木製の舞台が設置されてあった。
舞台には筋骨隆々の爪と牙を生やした人外男と両手両腕をサイバネ改造した痩せた男が向かい合っていた。
「ルールは基本的に何でもあり。勝敗は意識を失うか堀に落ちるか降参するかだ。後は戦闘続行不可能と判断した場合だな」
「これは……賭けているのか」
蓮也が言った。
「ああ、完全会員制のな。今戦っているのはワーベアの熊田泰示、試合中に 7 人殺してる。それと超新星のサイバネ男、八瀬童子。 7 連勝中だ」
「どっちが勝つと思う?俺は八瀬童子だ」
星熊童子は鋭い犬歯が見える刃を剥き出しにして言った。
「……あのワーベアは体格もスピードもあって手足の鋭い爪も持ってる。対して八瀬童子はただのサイバネ……試合になるのかと思うほどの差があるように見えるが?」
蓮也は闘技場の二人を見て言った。
「始まるぞ……」
ブザーが鳴り試合が開始。ワーベアの熊田は猛然と突進。丸太のような腕を振り回し鋭い爪で八瀬童子を引き裂かんとする。涼しい顔で回避する八瀬童子。 3 回目の爪攻撃を行った直後、熊田の動きが止まった。
「ふふ……やるな!」
熊田は顔面と股間を押さえてダウン。ゆっくりと迫る八瀬童子。
熊田は八瀬童子の接近を察して左手の爪攻撃を繰り出す、だが瞬時に捕らえられ肘、肩、手首を極められて地面に叩きつけられ、あらぬ方向に肩、肘、手首を折り曲げる。そしてサッカーボールを蹴るように熊田の頭部を蹴り上げ無理やり膝立ちの状態に持っていく。
「強い……」
八瀬童子の弾丸のような貫手は熊田の目鼻喉を砕き顔面を崩壊させる。そしてもはや抵抗すらできなくなった熊田に回し蹴りを入れ堀に叩き落した。
試合終了のブザーが鳴り、歓声が上がる。八瀬童子は右手を上げて観客に応えた。
「予想通り八瀬童子が勝ったな。これで奴は 8 連勝、近いうちに俺様とやりあう事になるだろうな」
「八瀬童子のアレは……空手か」
蓮也が呟いた。
「ほう、分かるのか。少しは齧っているようだな。奴は空手をベースした闘技を使う。格闘技と言うにはあまりにも苛烈、暗殺拳と言うべきものだ。過激な闘技を期待する客に人気がある。瞬殺すぎて盛り上がりには欠けるがな」
「八瀬童子は人間ですよね?」
二郎は余りにも人間離れした動きの八瀬童子を見て尚そう言った。
「ああそうだ、例の腫瘍病によって両手足を失いサイバネ化しただけの人間だ。闘技ネームは社長が付けた、鬼っぽい名前の方が売れるってな」
「そうでしたか」
「ただの人間であの動きか……」
蓮也は小さくため息をついた。
「……」
「須原さん……?」
黙ったままの須原に声をかける二郎。
「イエ、なんでもありません。昔見た、吉良のお父上の客人に動きが似ていたものですから……それだけです。その客人も病気で少し前に亡くなられたと聞きました」
「そうですか……」
「関係者かと思いますが、それほど気にすることでもありまセン」
「さて、何故お前たちをここを連れてきたかと言うとだな……こっちに来い」
星熊童子は隣の部屋に案内する。そこには二郎が良く知った筐体が置かれていた。
「 HKF ……!」
「そうだ、センジョーにも置いてある世界的にヒットしている体感型戦闘シミュレーションゲーム HKF だ。だがこれはただの HKF じゃあない、軍事用に開発されたものだ」
「軍事用?何が違うって言うのです?」
一見普通の HKF の筐体に見える。違うといえばプレイヤーの乗るステージが金属製になっている所だけであった。
「軍事用はマジでキツイ体感が出来るんだよ。殴られたらリアルに近い衝撃を受ける。動きもリアルだ、一般用の HKF のように補正された派手な動きは出来ない本人が可能な範囲でしか動けない」
「……なるほど、戦闘訓練用の HKF か。これを使うことにより場所と時間に融通が利き実戦経験を積めると」
蓮也が言った。
「そうだ、これで闘技場の戦士たちは訓練をしている。おまえたちにはこの HKF で戦士たちの訓練に付き合ってもらいたい。それが社長の指示だ」
「なんだって!?」
「話が見えてこない」
「もう少し説明をお願いシマス」
三人の言葉を受け、星熊童子は面倒くさそうに頭を搔いてソファに腰を下ろす。
「フゥ~……社長はな、お前たちの事を大体は知ってるんだ。灰色の連中とドンパチしたりエクレシアと協力関係なはずの白峰家とその関係各者が動いてるって事をな。そこに黒谷って胡散臭い男から話し合いの場を設けようって接触があった。黒谷と繋がりがありそうでセンジョーで HKF をプレイしているそこの小僧に目を付けたって訳だ。要するに、見極められようとしてんだ。この地下に来た時からの動き言動、この申し出にどう答え何を話すかをな」
「えっと……」
「そりゃそうか、連合側からすれば俺たちが何をしているのか知りたいところだろうよ」
「そういう事でしたカ」
「社長や茨木みたいに俺は口がうまくねえからよ、まぁあれだとりあえずその軍事用 HKF でちょっくら見せてみろやって事。戦い方や動きを見ればおれば何となくソイツが理解できる。お前らのメリットは一流の戦士たちとただで軍用 HKF がプレイできるって事」
「いや……色々もっと聞かないんですか?社長さんが知りたいような事」
二郎は軍事用 HKF に視線を向けた後言った。
「まずは HKF だ。話はそれからにしようじゃないか。断ればもう二度とこんなチャンスはないからな?」
「分かりました……兄貴、須原さんは?」
「やるしかないだろうよ」
「やりまショウ」
「よし!じゃあ順番を決めろ、一人ずつだ」
先鋒は二郎、次に須原、最後に蓮也の順に決まる。
「最初は小僧か、相手はぬうりひょん」
「!?」
「自称最強・妖の総大将らしい。だが、ただのビッグマウスじゃあ無い。八瀬童子に次ぐ連勝記録保持者で 6 連勝中の強者だ」
二郎は HKF の準備をしてステージに上がる。シミュレーション空間は先ほど見た闘技場の舞台と同じ。正面には白のバギーパンツを履いたガリガリの男が立っていた。
「あれが……ぬうりひょん」
そう二郎が考えた瞬間。頭部に強烈な衝撃を受けて地面に叩きつけられた。
続く。
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